寒空を裸足で駆け抜け、八神家の邸宅へと帰ってくる。
すっかり日も落ちてしまったが、今ごろ石田先生とかブチ切れてそうだなあ。
大丈夫かな……うん、大丈夫だな!
そういえば、俺の信用とか元から底辺だったもんね泣きそう!!
ともかく、早めにまともな服が欲しいのです。
え、玄関なにそれ美味しいの? ベランダからこんにちはに決まってるじゃないですかやだー。
「まあ、玄関開いてなかったし。仕方ないね」
ついでに言うと、部屋の中も真っ暗だ。どうも、みんな揃ってお出かけ中らしい。
いつもなら、誰か1人はいるはずなんだけど。おかしいな?
まあ、留守なんだからどうしようもない。別にザフィーラ連れてくればよかったなんて思ってないんだからね!
「まほうのことばで、おうち~のまどが、ポポポポ~ン!」
いや、吹っ飛んだりはしないけど。
基礎魔法の応用で、内鍵をマッガーレ! するだけですよ。
魔法文化がないおかげで、こういうセキュリティが甘くて余裕ですねぐへへ。
なんか最近、傭兵ってかコソ泥みたいなことばっかりしてる気がするなあ……
「ホントに誰もいない。あれ、晩飯の時間じゃねえの?」
『なぜ入院しているはずのお前がここに』
飯を食った痕跡すらないと思ったら、不意に横から声が割り込んできた。
まさかのホラー展開に草不可避! 大草原で怖さを緩和しなくては、使命感。
いやまあ、なんのことはない漱石さんなんだけど。
八神家の居間には、共同のデスクトップパソコンが設置されている。
俺が来てからは、空間モニターばかり使って埃をかぶっていたんだが。確認してみたところ、1人暮らしの小学生が持っているとは思えないほどハイスペックなゲームパソコンだった。
うん、ゲームパソコン、ここ重要。
これどうしたの? と前に聞いたときは、財産管理をしてくれてるおじさんが送ってくれたとか言ってたっけ。
あのおっさんは、いったいなにをしてるんだろう。
「小学生にゲーム用パソコンを渡すとか、ある意味自殺行為だよね」
『頼むから、会話のキャッチボールをして欲しい』
画面の中で、銀髪赤目の女が眉を下げ困ったような表情をしている。
いつもみたいな激しいツッコミがないって、こんなに安心できることだったのか。
ちょっと感動しそう。
「パソコンの中は快適ですか?」
『多少の違和感はあるが、概ね問題ない。ネットという環境が面白くもあるな』
うん、とりあえず大丈夫そう。ただ、そこでなぜソシャゲの画面を引っ張り出して来たんだろうこの人。
え、事前登録してたのに着工できない? 知らんがな。
「俺がいなくても、問題なくインストールできたみたいで一安心ですわ」
『あのヘッドギア頼りになってしまったが。あれがなかったら、いったいどうするつもりだったんだ』
「うーん……脳みそに直接電極をブッ刺すとか?」
『なんというか、安いスプラッタ映画が始まりそうだ』
「きっと羊も黙るだろうな」
『個人的にはオリーブオイルがいいのではないかと思う。材料はお前が提供してくれ』
うーん、食への冒涜とかではやてにギルティされる未来が見える。
って言うか、なんで元ネタ知ってんだよおい……
闇の書を封印するに当たって、管制人格の仮設住居はパソコンにと最初から決めていた。これは、守護騎士たちと話し合って納得させたことでもある。
理由は単純に2つ。
闇の書から引き剥がす際、人格と記憶を優先したせいで管制機能を捨ててしまったことと。
あとは手近に大容量の記憶スペースを用意する場合、ここが一番楽だったからだ。
「体の用意が間に合わなくて、ちょっと心配だったんだよね。ガイノイド技術とか専門外だし、ここじゃ生産施設もないからなあ」
『これでも十分すぎる。私が入れるよう、増設作業をしてくれていたそうじゃないか』
そりゃそのままぶち込んだら、間違いなくパンクするし。多少オーパーツ化しちゃうけど、これくらいなら管理局にもそうそうバレないって自信があったからなあ。
逆にはやてと喧嘩してたおかげで、作業を見られないまま進められたのは幸運だったか。
もしバレても、知らなかったら罪にはならないしね。
ハードの増設には、この前スカリエッティのところで回収したものが役に立っただけだ。まさか、こんなところで使えるとは思ってなかったけど。
中身はゴミデータだったくせに、流石は研究者ただの変態じゃないね。
適当に取り外した記憶装置が、思ったよりも高スペックで助かった。
CPUだけは、こっちで新造しなくちゃいけなかったけども。
「あれだけはやて怒らせたんだし、これくらいの成果はないとな。あっ、ちょっと着替えてくる」
ああと見送ってくれる漱石さんに手を振りつつ、とりあえず服を取りに二階へあがる。
部屋はシグナムとシャマルさんに明け渡したが、俺の衣類は未だにあそこだ。いい加減、こっちもなにか考えないとダメじゃないかな。
案の定、部屋の中は真っ暗だ。皆どこ行ったんだろうね。
とりあえず、電気を点けてさっさと着替えてしまう。
途中で無くなった右腕も見てしまったが、あんまりショックじゃなかったのは意外だった。
思ったよりも未練とかなかったんだな、俺。
「ほい、ただいま。そういえば皆は?」
『お前の見舞いに行ったんだが。今ごろ大騒ぎだろうな』
「あー。それはやっちまったな」
石田先生どころか、八神家がそろって敵にまわりそうだ。
どうしよう。いったん逃げるか?
「ま、なるようになるだろ。ちょっと出かけて漱石さんの体も作ってくるつもりだし、逃げ道は完璧だぜ」
『声が震えていないか?』
気のせいじゃないかな……
「あのヘッドギア、まだ使うから大事に保管しといてくれ。癇癪で壊されると、作り直す手間がだな」
『そもそも逃げないという選択肢は……まあいい。お前には助けられた。今回くらいは大目に見よう』
まあ、あいつらも怒ったからって物には当たらないと思うけど。
せいぜい、俺が帰ってきたらフルスイングと兜割りと犬パンチが飛んでくるくらいか。やべぇな、死ぬかもしれん。
『それから、私も新しい名を主から頂いた。リインフォース。祝福の風という意味だ、いい名だろう?』
「おお、可愛らしい名前つけてもらったじゃないか。俺もはりきって体を用意しないとな。はやての足も回復していくだろうし、リハビリが終わる頃までにはなんとかしたいなあ」
ホントはミッドのデバイスとかで代用する方が早いんだろうけど。そもそも古代ベルカ技術の粋を結集した人格が、ミッドのデバイスに馴染むとも思えないしなあ。
融合機としての機能が吸いだせなかった以上、そっちで組んでも意味はないだろうし。
やっぱりガイノイドが、現実的な選択肢な気はする。
まあ、これならスカリエッティの技術を応用してなんとかなるだろう。
あの兵器を調整する仕事も、放り出したままにはできない。
「俺のデバイスは?」
『ソファの後ろにあるはずだ。停止させた魔力炉も一緒に置いてある』
覗きこんでみれば、確かに俺のデバイスが魔力炉の上に置かれてあった。
そういえば、そっちもだったか。アウディに乗せ直して運転……右腕ないと不便だな。
「結局、俺ってあんまり家にいたことなかった気がするなあ」
『大丈夫だ。その内、主がお前に首輪をかけるようになる』
「飼い殺しとか怖すぎるんですがそれは」
自業自得だろう? そーですね!
なんて言いながら、デバイスを起動して魔力炉を持ち上げる。
よし、浮遊魔法も良好。デバイスがぶっ壊れてなくて一安心だ。
「そんじゃ、行ってきます」
『ああ。次に帰ってくるときは、人生の覚悟を決めておけ』
帰宅1つで大事だなあ。
そんな風に笑いながら、夜空に向かって飛びあがる。
いつかと違って、抱えてるのは無機質な魔力炉だけど。
最近、青の六号のOVAを見直して思ったこと。
ミューティオが可愛くて生きるのがつらい…