はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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後日、章管理で編集しておきますが。
もうこの辺くらいから、空白期扱いで話をごりごりやっていきます。


空白期 追い回され編
41右腕無しの振りヤクモ


 軽く脱出ゲーム感覚を味わえそうな鬼ごっこから、ようやく逃げきることができた。

 なんだよあいつら。

 もう、途中から目が患者を取り押さえるそれじゃなかったよ?

 どう見ても、ホラー展開っぽいなにかが滲みだしてたもの!

 

「そういうのは夏場にやれよな。真冬にやるなよ……」

 

 ホント、あの病院はホラーハウスでも開いたら儲かるんじゃないかな。

 まあ、愚痴ってても仕方ないんだけど。

 とりあえず、八神家に行かないと。俺のデバイスなんかも、たぶんはやてが持っているはずだ。

 病院着のまま出てきちゃったし、服の方もなんとかしたい。

 

「にしても寒いな。丸1年寝てました、なんてオチじゃないといいけど」

 

 記憶が正しければ、闇の書の相手をしたのが11月の下旬のはずだ。

 魔力炉の仕上げに時間を取られ、ずるずると予定が伸びてしまったのは記憶に新しい。

 まあ、俺が新しいと思ってるだけで古い可能性も微レ存だけども。

 当時、クリスマスに向けてはやてとヴィータのテンションが上がり、同時に外の気温はかなり下がっていた。

 今の正確な日にちは不明にしろ、雪が降りそうな寒さはあの時と同じ。

 果たして一周して冬なのか、あるいはそれほど時間が経っていないのか。

 うーん……たぶん後者かな?

 なんせ目が覚めて、俺の体が動くようになるまでが早すぎる。

 鬼ごっこも普通にできたし、この鈍り方ならラグも1か月がいいところだろう。

 

「あとは、右腕がなくてバランス悪いってことくらいかな」

 

 むしろ、問題はこっちかもしれない。

 逃げ回るときに、何度となくこけそうになってホントに焦った。

 やっぱり、腕1本は代償がでかかった気がするよね。

 俺の不注意だから、誰にも文句とか言えないんだけどさ。

 こんなの守銭奴にバレたら、冷やかな目で見下されながら「またか」とか言われそうな希ガス。

 そんな趣味はないはずなんけど、昔から俺に厳しく当たるやつはなぜか多い。

 なんなの? 目覚めさせたいの?

 

「この格好で大通りは、流石に自殺行為だよな」

 

 どう見ても、通報待ったなし。

 寒空をこんな薄着で歩いてたら、誰だって不審者か浮浪者だと思うよね。

 あっ、でも今は病院着だから脱走者って思われるのかも?

 ……よし、凄いどっちでもいいのはよくわかった。

 とりあえず、見付からないようにしないと。

 なにより、今は防御魔法で冷気遮断してるから職質されると洒落にならない。

 魔導師が捕まった。なんて見出しで、黒服に両手を引かれながら新聞に載るのは嫌すぎる。

 

「かと言って、短距離転移をデバイス無しでやるのは不安がいっぱいすぎる」

 

 座標を間違えて、壁の中にいるとか笑い話で済まないレベルだ。

 というか、あれリアルでやるとどうなるんだろうね。

 もともとそこにあった壁を、切り裂いて俺登場! ってことになるんだろうか。

 

「違う違う、そういう話じゃなくてだ」

 

 とりあえず、デバイス無しの状況で展開できる魔法には限度がある。

 今だって寒さ対策はしているが、ヘイト系の魔法は負担が大きくて発動できそうもない。

 となると、空を行くのも危ないか。

 誰かに目撃されて、ニュースでUMAの報道まで想像余裕でした。

 あんまり騒ぎを起こすと、管理局のブラックリストも怖いしなあ。

 ……て、手遅れじゃねぇし!!

 

「大丈夫。きっと大丈夫、おそらく大丈夫、そこはかとなく大丈夫。ちょっと次元断層を発生させたバカの共犯やって、変態の研究手伝ってるだけだし」

 

 密輸とかの余罪は、こうなったら四捨五入で切り捨てですよ先生!

 まあ知ってたけど、俺の人生終わってんなあ。

 とりあえず、無難に人目を避けて歩こう。

 曲がり角にさえ注意すれば、高速移動もできるよね。なんて考えながら踏み出した瞬間、不意に後ろから声がきた。

 聞いたことない女の声だ。

 

「ちょっと、あなた。その格好って病院の服よね? まさか、脱走してきたの?」

「そんな急にアナタだなんて、先ずはお友達からお願いします」

「事故ったとは聞いたが、頭の治療にはならなかったらしいな」

 

 ファッ!?

 女の声が、急に聞いたことある男の声に変わって脳みそ大混乱。

 実は気付かなかっただけで、俺はこんなにも恭也君を愛してたんだろうか。

 ハハッ、言っといてなんだけどきめぇ!

 

「そして、振り向いた先には恭也君でファイナリティアトミック!」

「……ファイナルアンサーって言いたかったのか?」

 

 すげぇ!

 なに、なんで今の拾えたの? 愛なの? 流石にちょっと引くわ。

 そのうち、ウホッとか言い出したら要注意だな。

 

「なんとなく、殴らなくてはいけない気がしてきたんだが」

「怪我人を殴ろうだなんて、戦闘民族は野蛮だなあ」

「なんで俺は煽られてるんだ」

 

 そんなの、怒らせると面白いかごぶっ……

 

「ちょっと恭也、凄い音したわよ?」

「大丈夫だ忍。これくらいで駆除できるなら、こんなに苦労していない」

 

 仕返しのつもりか、人のことをゴキブリ扱いとは。

 こやつ煽りおる。

 というか寒い。

 急に殴りかかってくるから、防御魔法解除するので精一杯だったよパトラッシュ。

 

「それで、入院して意識不明だったと聞いていたが。なんでこんなところにいる」

「意識不明で入院してたらしい人物の顔面を、容赦なく殴る恭也君のスタイルとかマジパナい」

 

 次は踏みつぶすとか聞こえた気がしたので、慌てて立ち上がった。

 ホント容赦って言葉を覚えようよ!

 久しぶりに見た気がする顔は、対して変わってないように見える。

 やっぱり、1年も2年も経ってないっぽい。意識不明だったのは1ヶ月前後ってところかな。

 隣の忍さんって人は、どことなくすずかに似ている気が。まさか親族だったりして。

 そういえば、アリサの家は豪邸だったけどすずかの家は見たことないな。

 同じくらい金持ちだったりするんだろうか。

 

「どうも、私が村長です」

「え? ど、どうも月村忍です……村長?」

「真面目に取り合わなくていいぞ、忍。こいつは基本的に適当なことしか言わないんだ」

「改めまして、信用の欠片もない七海八雲です。名字が同じだし、すずかの血縁かな?」

「七海八雲……ああっ、機械に詳しい変な人ってあなたのことね」

 

 変な人。変な人かあ。

 そうです、私がってやったらどうなるだろうなあ。

 

「まあ、変な人は否定できないからいいや。ところで、実は月村家ってお金持ちだったりする?」

「えっと……まあ、それなりにってところかしら」

「なるほど。ちなみに、絶えず護衛を連れてたりとかする?」

 

 俺の問いに、忍さんは首を振る。

 アリサとすずかの方だけ護衛が付いてるのは、前に誘拐未遂があったかららしい。

 世の中は物騒だね。

 

「まあ、よく考えたら恭也君いる時点で護衛とか必要ない事実に気付いてしまった。あっ、ちなみに御2人さん、不審者が後ろからついて来てるよ」

「なっ、不審者に挟まれただと!?」

「テメェ、人が親切で教えてやったのに」

 

 病院着で怪しいのは否定しないけど、それはないだろ。

 涙が出ちゃう。だってだってなんだもん。

 さっそく恭也君が、振り返って辺りを警戒している。

 右から左まで舐め回すように見ているが、残念そこじゃないんだなあ。

 どうせデバイスないから、今はそれほど威力でないかな。こっそり手伝ってしんぜよう。

 

「アクティブソナー、ソニック」

 

 小さく呟くと同時に、音源を頭上に展開した。

 アクティブソナーは反響即位で索敵をする魔法だが、裏返せば強い超音波を発射することもできる。

 三半規管を狂わせる程度から、鼓膜をパーンするレベルまで威力は自在だ。

 ただ、正直なところデメリットが多くて普段はあんまり使っていない。

 対象の設定はできないし、指向性を持たせなければ自分の鼓膜もパーンする。

 敵も味方も巻き込む系のMAP兵器みたいな感覚が近いかな。

 

「ほれ、上から来るぞ気をつけろ」

「は?」

 

 困惑で振り返ろうとした恭也の前に、上からおっさんが降り注いだ。

 親方、空から親方が! おっ、親方……死んで……

 そんな感じが近い。いや、死んでないけど。

 

「い、今あなた、いったいなにをしたの!」

「そんなのナニに決まって……おっと、これ以上はいけない。まあ、冗談はさておき。おっさんが降るなんて、今日の天気はアグレッシブだなあ」

 

 せめて雪を降らせろよ、とか文句を言ってたらホントに降ってきたでござるの巻。

 とりあえず、防御魔法を張り直して寒さをしのぐ。ついでに雪が俺の頭上で消えるのを指さしてやれば、忍さんはなにかを察したらしい。

 運よく、恭也君は落下したおっさんにかかりきりだ。

 落ち方的に、ちょっと死んでても不思議じゃなかったから当然か。

 見られてないのはこれ幸い。

 あとのことは任せて、俺は静かに八神家へ向けて走り出した。

 




少年「親方ぁ! 空から親方がぁ!! って、えっ、なんで親方が2人!?」
親方「ふっ、それは残像sゲボォッ!!」
少年「流石に受け止めるのは無理ゲー……」

たぶん、こんな感じ

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