はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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4前門のポチ、後門のはやて

 さて、俺がはやてに拾われて一カ月くらいたったような気がする。

 四月も後半にさしかかり、よくわからない共同生活にも慣れてきた。

 目を閉じてこれまでを思い返してみれば、はやてと過ごしたひと月ちょっとの情景が瞼の裏に浮かんで……

 

「……あれ、遊んでた記憶しかないんだけど。これ大丈夫なの?」

「むしろ今さら言われても困るんやけど」

 

 地球って教育機関ないのかと聞いたところ、足のこともあるから休学中やとやはては言う。

 なるほど、バリアフリーってのも大変なんだなあ。

 

「不便なんだったら、ガ○タンクみたいな車椅子つくってあげようか?」

「なんやそれ、カッコよすぎやろ! それで登校したら一日で人気者になれそうやなあ」

 

 興味はあり気だったが、根本的に石田先生が登校を止めてるらしい。

 まあ、確かに原因不明の身体障害らしいし。主治医の言うことは聞いとくべきだろう。

 それが例え、魔法関係のせいっぽかったとしてもだ。

 上手く説明できる自信がない上に、実質的な原因はわかっていないのだからどうしろというのか。

 きっと、魔法関係の何かが原因なんです! なんて言ったら、石田先生は迷いなく腕のいい精神科医を紹介してくるだろう自信がある。

 まったく、俺がいったい何をしたっていうんだ。

 

「ほら、アホなこと言うとらんと食器並べてくれへん? 今日はカレーやから」

「わあい! 俺、はやてカレー大好きー」

 

 すごく嫌そうな顔をされてしまった。アルェ?

 とりあえず、今ははやての足に触れない方がいいだろう。

 素人知識でいじくりまわしてなんとかできるはずもない。最悪、悪化なんてしたら笑い話で済まなくなる。

 触らぬ神になんとやらだ。

 

「さて、はやてはご飯どれくら……ん?」

「どうしたん?」

「いや、なんかこれ……あー、まずいかもしれん」

 

 空気がぴりぴりする。

 いや、ついにはやてが怒ったとかではなく。魔力関係の現象として何か起こったという意味でだ。

 どうも、俺がこの世界へ逃げ込んだ直後くらいからよくわからない反応がちらほらしていたのだが。今回のこれはずいぶんとガチのやつだ。

 どれくらいガチかというと、これ管理局に嗅ぎつけられるんじゃないかなというレベルである。

 まずい。非常にまずい……

 

「ちょ、ちょっとはやてさん、いいですかね? どこぞの馬鹿が魔力ドーン! で大喧嘩はじめたみたいだから、ご近所迷惑にならないよう注意してくるわ」

「途中のドーン! が凄い気になるけど、えらい慌ててんなぁ」

「あぁー……まあ実は、これまで何回か結界魔法が近場で発動しててだな。ぶっちゃけ今はあんまり関わりたくなかったってのと、一応は隠蔽するつもりはあるんだなって思って放置してたんだけど……」

 

 けど? と先を促されて、思わずどう答えようか迷ってしまう。

 距離的にはそこそこ遠い。だが、この遠さで観測できる異変というのが洒落にならない。

 つまり、どう考えても今回は隠蔽前にとんでもないことをやったということだ。

 そしてこの場合、いったいなにをやっているのかが問題となる。

 飛び火しないとは言い切れないしなあ……

 

「とりあえず、ぱぱっと偵察してくる。1時間くらいで戻るから、先に食っててくれ」

「んー……まあ、ええけど。それ行かなあかんもんなん?」

「すまん。無視するってのも考えたけど、ここ本来は魔法がない世界だろ? いくら管理外世界だからって、ここまで派手にやったら管理局が放っとくとも思えん。最終的に芋づるで見つかりたくないし、目的だけでも確認してくる」

 

 まあ、それやったらしゃーないかもなと呟くはやてに、もう一度すまんと謝って玄関へ走る。

 靴に足を無理やりねじ込んで、同時に最近使ってなかったデバイスを起動。並行してハイド系の魔法も発動していく。

 ドアを押しあけて外に出る瞬間、後ろから「気ぃつけてな」という声が追いかけてくる。

 どうする、ア○フル?

 そんな幻聴に後ろ髪を引かれながら、俺は未練たっぷりで真っ暗な空へと文字通り跳び出した。

 

 

 

 

 突然だが、空間の一部を切り取って特殊な性質を付与する魔法を結界魔法という。これらにはいくつもの種類があり、多種多様な効果を発揮する便利な魔法だ。

 空戦のできない俺が足場に使っているのも、厳密にはフローターフィールドという結界魔法の一種である。

 

「うわあ、暴走したロストロギア素手で握りやがった。金髪△。というか、さっきのやっぱり次元震だよなあ……」

 

 流石にこれは管理局も無視しないだろうな、とため息が漏れてしまった。思わず遠い目をしてしまったが、これくらいは許して欲しい。

 ということで、はりきって話の続きをしよう。

 結界魔法のバリエーションにはエリアタイプというものがあり。現在、街のど真ん中に展開されているものがそれである。

 はっきり言って、エリアタイプは上位の魔法だ。

 その中でも通常空間から特定の空間を切り取り、時間信号をズラすことで認識できなくする結界魔法。封時結界というやつだろう。

 術者が許可した者か、視認もしくは進入する魔法を持っていなければ認識することもできないような代物である。

 ここまでであえて一言添えるなら、舐めてました土下座するんで許してくださいと言ったところか。

 俺は結界魔法なんて使えないし、進入はできるが一発で術者にばれる自信がある!

 なんとなく、胸張って言うことちゃうなと呆れ混じりの幻聴が聞こえた気がした。泣きたい。

 

「もうやだこの世界。なんで管理外世界に、こんな高ランク魔導師がいんの? ドンパチやるなら余所でやってくれよ……あ、金髪が犬耳に抱えられて逃げた」

 

 そこで愛杖であるM1903のスコープから目を放し、深い深いため息を再び吐き出す。

 やったことは簡単だ。

 封印結界は、特定の通常空間をズレた時間信号の幕で覆っているにすぎない。だから、その信号を解析し、スコープにフィルターを掛けて覗き見していただけである。

 だから、ここは結界からかなり離れた高層マンションの屋上だ。わざわざ近付いて、見付かる可能性を増やす必要もないだろう。

 そう思っての位置取りだったのだが……

 

「これもう間違いなく管理局にバレてるよね。しばらくは大人しくしてるしかないかなあ」

 

 ふうむと首を捻っていると、上空から犬耳しっぽのお姉さんが降りてくる。

 着地と同時に目が合ってしまい、お互いに固まってしまう。

 

「なっ!? おおおおおおお前誰だ!!」

「ファッ!? なんで居場所がバレたんですかね」

 

 ついつい震え声になってしまったが、俺の尻は無事だ。安心して欲しい。

 

「待ち伏せしといてしらばっくれる気かい!!」

「え、何それおいしいの? 濡れ衣! それすっごい濡れ衣だから!!」

 

 ぐるぐる唸っている犬をどうしようかで迷う。

 ご主人様は抱えられたまま伸びているようだし、残念ながらほねっこの持ち合わせもない。

 いよいよ詰んだか。というか、待ち伏せ? もしかしてこのビルが拠点だったりして。

 そんな馬鹿な、ハッハッハッ……

 わ、笑えない!!

 

「よしポチ、ちょっと落ち着け。俺は敵じゃないから。ほら怖くない、怖くない。ね? 怖くない」

「誰がポチだ! ぶっ飛ばされたいかこの野郎!!」

 

 何故だか火に油を注いでしまった気がする。

 おかしい、動物はこうやれば落ち着くと聞いたのに。

 ああ、指を噛ませなかったのが悪かったのだろうか。でもちょっと食いちぎられそうで怖いなあ。

 他に知ってる宥め方と言えば、撫でまわしながら舐めまわすというちょっと絵面的に犯罪臭ががが。

 

「ダメだ、倫理的にこれはダメだ」

「おいこら、そこの変な奴! 結局お前は何なんなのよ!!」

「そうです、私が変なおじさ……お兄さんです!」

 

 もうこうなったら三十六計逃げるにしかずだ。

 今ならポチも困惑している。恐れ入ったか俺の話術!!

 全力で振返って力の限り走り、屋上の淵までたどり着ければこちらの勝ち。

 人を抱えている以上、深追いまではしてこないだろう。

 やったか!?

 

「まてこら、誰が逃がすか!!」

「わあ! ノータイムでバインドとかお前とんでもないね!!」

 

 いかん、やったか!? はやってないフラグだった。

 対象を拘束、捕縛する魔法。その最たる鎖が、ポチの展開した魔法陣から躍り出る。

 なにこれ、新しい性癖に目覚めちゃいそう。

 

「フゥーハッハッ! やらせはせん、やらせはせんぞ!! 逃げることに関しては一家言ある俺を舐めるなよ!!」

 

 鎖が届くよりも早く、こちらも魔法を展開する。

 ハイド系の魔法は既に発動中なので、ここは物理方面で視覚を誤魔化すものが必要だろう。

 が、その前にバインドの方が早いので時間稼ぎが必要だ。

 振り向きざまにM1903を引きぬき、追いかけてくる鎖へ向ける。

 このまま牽制に撃ってもいいが、如何せん今のライフル状態ではボルトアクションがめんどくさい。

 ならどうするか。伊達や酔狂で機械的な数字の羅列を名前にしたわけではないところを見せるときだろう。

 

「俺のデバイスは、まだ一回分の変身を残しているのだよ!!」

「なっ!?」

 

 驚くポチの目に写ったのは、俺のデバイスが部品をパージした姿だろう。

 いや、変身も何も。ただ追加装甲を格納空間に戻しただけなのだが、思いのほかいい反応で嬉しくなる。

 銃身に対してへの字だったグリップが、直角にスライドしアジャストした。それでパージ工程が終了する。

 32オートモード。コンパクトな拳銃型へ姿を変えたM1903の名前だ。

 

「バックショット・ファイア!!」

 

 M1903の先端に集まった魔力が、放射状に猛威をふるう。

 狙いはてきとうだが、これだけ弾をばら撒けば鎖にもあたる。破壊まではいかなくとも、軌道がわずかに逸れれば十分だ。

 

「アルターデコイ・ランダムバースト」

 

 少しの隙間と、一瞬の時間。逃げるだけなら、これでなんとかなる。

 体がぶれるような感覚に襲われ、続いて十数の俺が四方八方へ飛び出していく。

 ポチの表情は焦りに染まっているが、反応が遅れるのはありがたい話だ。

 構わず全方位に突っ走って、ビルの淵から全部の俺が飛び降りた。わぁと叫びつつ両手を上げたスタイルで。

 

「な、なんだっていうんだい!?」

 

 慌てて一番近い場所から下をポチが下を見下ろす。だが、もう遅い。

 そこにデコイたちの痕跡は欠片も残っていないだろう。

 小さく舌打ちして、追うか迷った末に建物の中へ戻ることにしたらしい。

 手の中でぐったりしている主を気遣っての行動か。いい使い魔じゃないかポチ。

 

「いやあ、あっぶねえ。これ、毎回どっきどきするわ」

 

 名付けて逃げたと思ったらわりと近くにいました作戦。

 わりと成功率は高いけど、スリリング過ぎて心臓に悪いんだよなあと給水塔の裏でひとりごちった。

 幻術系の魔法を好き好んで覚える物好きは少ない。希少価値は、そのままステータスに直結する。

 この調子で管理局もやり過ごせればいいが。どうなるかは、神のみぞ知るといったところだろう。

 

「さて、もうそろそろいいかな。慎重に急いで撤収するとしよう」

 

 変な接触もあったので、帰りがやや遅れている。

 はやて、飯はどうしたかなあ。

 

 このあと、帰ってみればはやてはご飯を食べずに待っていた。

 聞いていた時間よりも遅いとしこたま怒られたが、これくらいは教えてくれてもよかったんじゃないかな神よ……

 

 

 




 ちょっと見ない間にUAが1000超えてた。
 嘘、だろ? 前のABのときより話数少ないのにUAだけなら超えちゃったよ……?
 やっぱ人気タイトルだと人の入りがいいなあ

(12/21 サブタイが数字だけだとどれがどれだったかわからなくなってきたので、整理しやすくするために更新しました)

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