はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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私の申し訳程度のシリアスがつまんないのは知ってるんです。
けど、私はギャグだけで構成ができるほど力量がないので、ストーリ進行のために数話ほど付き合ってね?(懇願


37一はや二なの三フェイト

 なんてことない、いつも通りの昼下がり。

 本日の授業は体育で、みんな大好きドッジボールの時間だ。

 現在ボールを持っているのは、敵チームのはやて。こちらは最終兵器月村を除けば、残っているのは俺だけだ。

 あっちには、まだバニングスもテスタロッサも残っている。

 なんとか動揺を誘いたいところだ。

 

「ピッチャーびびってる、ヘイヘイヘイ!」

「うるっさいわ!!」

 

 渾身の勢いで放たれたボールが、綺麗に俺の顔面へと吸い込まれてくる。

 ちょっと競技を間違えたくらいでこの仕打ち!

 驚きの吸引力にダイソンも裸足で逃げ出しそうだ。

 

「顔面はセーフだけど、ちょっとすっきりしたわね。ナイスよはやて!」

「おい、あそこのツンデレとんでもないこと言ってんぞ!!」

 

 相手に暴言とか、レッドカードで退場させろ!

 え、レッドカードの前に俺が退場?

 なんで……って、うわあっ、鼻血でてんじゃん!?

 レッドはレッドでも、まさかの流血とか勘弁してくだしあ。

 

「誰か交代を選んで、お前はさっさと保健室へ行ってこい」

「シグナム先生、加害者がはやてだからって揉み消そうとしてない?」

 

 いや、そんなことはないって言うならこっち向いてくれませんかね。

 どこ見てんの? 空が青い? 今日は曇ってますけど!

 

「いいから、さっさと交代選手を選べ」

「えー……じゃあ高町さんで」

「ど、どうしてここで私の名前がでるの!?」

 

 そりゃお前、盾にすればテスタロッサが混乱するからだろ常考。

 卑怯だなんてご冗談を、これも兵法ですよヘイヘイホー。

 飛んでくる「サイッテー!」とか「外道!」とかの黄色い声に手を振りつつ、保健室へ凱旋する。

 これで鼻血さえ出してなかったら、もっと決まっていただろうに。残念だなあ。

 とりあえず、上を向いて首の後ろをトントンしながら保健室へ向かう。

 ドアを開けて「たのもー!」と踏み込めば、思ったよりも驚いたらしいシャマル先生に迎え入れられた。

 次からは、もう少し静かに入って来なさいと釘まで刺される始末。

 俺のアイデンティティを奪おうとするなんて。それなら、次はダンボールをかぶることにしよう。

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、もしくはドパドパ出てる鼻血を気にしてかシャマル先生が治療魔法を鼻先にあててくれる。

 あの、あたってるんですが。え……ああ、あててんのよ? と呆れ気味に返してくれる辺り、やっぱりこの人はやての家族だなあ。

 ついでだから、この暇な治療途中の雑談にグラウンドでの勇姿とか語ってみよう。

 

「相変わらず、ヤクモくんのメンタルって凄いわね」

「いやあ、まだ料理を諦めてない先生ほどじゃないです」

 

 あははは、とお互いに笑顔が浮かんだところでこの話題は打ち切りだ。

 どことなく、シャマル先生の目からハイライトが消えた気がする。

 これ以上はやばい。主に俺の生命的な意味で。

 

「えっと、新しい話題……話題……ご趣味は?」

「またヤクモが、脊髄反射でわけのわからないことを言ってる」

「あれ、テスタロッサ? ドッヂボールは?」

 

 振り向いた先で、ドアから金髪ツインテが顔だけ覗かせている。

 どこか呆れの混じったジト目だが、概ねいつも通りなので大丈夫だろう。

 グラウンドでは、参戦と同時に速攻で高町がアウトになった後、月村による無双が始まったらしい。

 あえなく最初の犠牲者となったテスタロッサが、保健係ということもあって俺の様子を見に来たようだ。

 

「例え今の高町を倒したとしても、いずれ第二、第三の高町が」

「なのはが凄いことになってるんだけど……」

「まあ、魔王的には間違ってないんじゃないかなって」

「な、なのはは魔王じゃないよぉ」

「血は止まったから、そんなに元気なら2人とも授業に戻りなさい」

「あっ、ごめんなさいシャマル先生」

「だが断る。だが断る!!」

「この人、なんで2回も言ったんだろう……」

 

 重要なことだからさ! とサムズアップしたら、真顔のテスタロッサに親指を掴まれてあらぬ方向へ折り曲げられてしまった。

 痛い。

 転校当初の遠慮がなくなったのはいいことだけど、ちょっとバイオレンスに走りすぎてないかな。

 バニングスのプロレスとはやてのツッコミに加えて、フェイトのテロが恐ろしすぎる。

 もう俺の体はボロボロよ!

 

「フェイトちゃん。痛めつけるんやったら、もうちょい見えへんとこ選んでやらなあかんで? 例えばボディとかな」

「はやてが今流行りの苛めっ子に! これは学級崩壊の危機だな」

「ザフィーラが担任やし、ヤクモさえ生贄になれば平和なままやろ」

「とんでもない計画を聞いた気がするんですがそれは……」

 

 冗談や冗談と流されたが、あんまり安心できないのはなぜだ。

 あっ。でも肉体的に苛められてるのはいつも通り、なのか?

 まあ、深く考えると引きこもりになりそうだからやめとこう。

 どうせ引きこもっても、部屋のドアを蹴破られて学校へ連行されそうな気もするけど。

 

「はやてまでこっちに来たってことは、月村の快進撃がとんでもないことになってそうだな」

「とんでもないどころか、1人に完封されてもうたよ。投げたはずのボールが、太極拳みたいな動きで投げ返されてくるんやで? あれは悪夢やわ」

 

 なにそれ怖い。

 みんな人間の範疇で行動してほしいよね。

 ただでさえ、このクラスは超人が多くてからかい甲斐があるっていうのに。

 月村までネタを提供し始めたら、俺1人で捌ききれなくなりそうだ。

 

「あんまり余計なこと考えとったら、頭スコーンと割ってストローで脳みそちゅーちゅーしたるからな」

「鼻の穴から割り箸突っ込まれて、下からカッコンされないだけマシかなと思う」

「え、それどっちもどっちなんじゃ……」

 

 フェイトが頭と鼻を押さえ、いやいやと顔を振っている。

 次のネタは鼻フックで決定か。付けるのは俺だろうけど。

 

「またよくないこと考えてるやろ」

「もう少し俺を信用してくれても、罰は当たらないと思うんだ」

「アホなこと言わんといてくれる? そんなんやから、死んでしまうんやで」

「そうそう死んで…………は?」

 

 不意に辺りが暗転した。

 保健室もシャマルもフェイトも、なにもかもが闇に飲み込まれて消えていく。

 そして、顔のパーツが全て欠落し、のっぺらぼうと化したはやてだけ目の前に立っている。

 まるで笑っているかのように、そいつは俺を指さした。

 頭の中で誰かが叫ぶ。

 危機を知らせるため、警鐘を鳴らす。

 見下ろせば、腹から刃物が生えていた。

 赤く滲んだ色に沈む、鉄の塊がずしりと重い。

 視線を戻せば、のっぺらぼうがくつくつ笑っていた。

 ほら見ろと。お似合いじゃないかと。目の前でのっぺらぼうがあざ笑っている。

 おもむろに伸ばした手が届くはずもなく。そのまま目の前は真っ暗になり。

 それでも誰かが、俺の手を掴んだ気がした。

 

 

「……ブハァッ!? ハァ……ハァ……何回目だこれ」

「今ので43回目だな」

 

 動悸が激しい。

 呼吸も荒く、肩が大きく上下している。

 意識が朦朧として、しかし右手の感触だけは確かなものだ。

 ひんやりとした誰かの手が心地いい。

 

「大丈夫か? 少し休め」

「いやあ、それがそうもいかないんだよなあ。予定よりも遅れてるから、むしろもう1回行ってくるわ」

 

 それにしても、もうそんなに周回してるのか。

 ご丁寧に、毎回違う風景を見せられている気がする。

 闇の書の睡眠プログラムが優秀すぎるだろ。

 

「お前は、思ったよりも普通のことを願っているんだな」

「人の願望なんてそんなもんだ。自分が体験できなかったもしもは、いつだって眩しい気がするんだよ。まあ、俺の場合は庭がドドメ色で隣が青く見えすぎるってのもあるけど」

 

 俺の話に、女が微妙な表情を浮かべる。

 長い銀髪が栄える、赤目の女だ。

 名前を聞いたら闇の書の管制人格とか言われたので、仮称漱石さんということにしておく。

 吾輩は魔導書である。名前はまだない。

 

「あまり何度も繰り返すのはよくない。それに、復帰方法はあれでないとダメなのか?」

「別に、夢だって気付けるトリガーならなんでもいいけど。ここ最近見た中で、一番きっついやつを再現してみた」

 

 普段からどんな夢を見ているんだ。仮にも血と硝煙が似合う傭兵さんなんで、キリッ。

 漱石ちゃんの視線が、少し冷たくなった希ガス。

 いや、考えまい。

 

「そっちも、守護騎士プログラムの切り離しは順調?」

「現状、闇の書が吸収したのはお前のリンカーコアだけだ。稼働率が低すぎて手のつけられない領域も多いが、なんとかなるだろう。お前に夢を見せている間は、防御プログラムも少ない領域をそちらに割り当てているからな」

 

 なんとか目は掻い潜れそうだ、と付け加える漱石さんはどこか安堵に包まれている。

 はやてと守護騎士たち。とりあえず、その両方は救えそうで嬉しいのだろう。

 

「当初の予定通り、俺は夢を周回しつつプログラムを打ち込んではやてのダミーを作る。お前も一緒に切り離せそうだけど、代わりに融合機としては終わったと思ってくれ。人格AIだけ抜き出すので精いっぱいだから、記憶も欠落も多少は覚悟しといてくれ」

「……守護騎士たちのことと、主はやてのことさえ覚えていれば十分だ。この先、私が力になれないのは心苦しいがな」

 

 欠落と言っても、サルベージできないほど古いベルカや転生時の記憶だけで済むはずだ。

 まっさらになることはないし、少なくともはやてに関する記憶領域は新しいから心配ない。

 むしろ、問題はどこに漱石さんを置くかだよね。

 凄く嫌だけど、またスカリエッティを頼るか?

 はやての精巧なダミーデータ作ったのもあいつだし、サイボーグくらい作れるだろ。たぶん。

 

「とりあえず、お前の人格は八神家のパソコンを増設して流し込むことにしよう。体はそのうちなんとかします」

「なにからなにまで済まないな」

「おいおい、それは言わない約束だろ?」

 

 ぐっとサムズアップしてみせると、おもむろに漱石さんが親指を掴んであらぬ方向へと折り曲げた。

 仮想世界だから痛くないけど、見た目があまりにショッキングすぎて思わず悲鳴を上げてしまう。

 ちょ、ぎゃあああああああ!!

 

「こういうのを願っているのかと思ったんだが」

「誰も指折り曲げてくださいとか言ってませんけど!!」

 

 憧れてるのは日常なの! と叫んでみるが、漱石さんは首を傾げている。

 おかしいな。俺が変なキャラ付けになってない?

 




芋は糖度をためている!
 (意訳/再来週にまとめて何話か更新します)


「芋は力をためている」って書こうと思ったけど「芋は糖度をためている」の方がしっくりきてしまったのよ……

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