壁|=゜ω゜)ノ 壁|彡サッ!
ずびばぜんでじだ!!
残暑お見舞い申し上げます。
立秋とはいえ、連日の猛暑にいささか参っておりますが、リンカーコアさんはいかがお過ごしでしょうか。
本物の秋が待ち遠しい今日この頃、私どもの準備は着々と進行しております。完成の暁には、計画を最終段階へ移せることを今から楽しみにしております。
そろそろリンカーコアさんにもご協力いただけると助かりますね。
残暑厳しき折、どうぞご自愛くださりますようお願い申し上げます。
「なにやってんだテメェは」
「9月に入っても、はやてが相手してくれないから悲しくって」
形容しづらい表情のヴィータに、うぜぇの一言で切って捨てられた。
心が折れそうだ……
八神家において、朝と晩は出来るだけみんなで食べるというハウスルールがある。
もちろん、俺がいるからってはやてがその決まりを破るわけがない。
見た目は楽しげにシグナムやシャマルやヴィータとお喋りしつつ、欠片もこっちを向いてくれないだけだ。
「意外と心因性の攻撃によわかったんだな、俺」
「なんだよ、捨てられた犬みてぇな顔しやがって。ザフィーラで間に合ってんぞ」
とても腑に落ちていない表情のザフィーラが、こっちをガン見している。
ヴィータさん、発言に気をつけよう?
これ、なんも関係ないけど俺が噛まれるフラグだよ?
「はやての前で土下座でもして来い。そういうの得意だろ」
「まるで、俺がいつでも土下座してるみたいに言いやがって」
「実際、いっつもやってんだろ」
まあ、否定はしないけどね。
命乞いは大事だぞ。いきなりやったら、だいたいの相手は戸惑うからな。
あとは、その隙に逃げるだけで生存率が段違いだ。
卑怯? なにそれ美味しいの。
「テメェがうじうじしてっと、こっちの調子が狂うだろ」
「たまに、実はヴィータってすげぇいいやつに見えるから不思議だよな」
あれ、褒めたのになんでグラーフアイゼン?
そのまま、文字通り尻を叩かれるようにして2階へ追いやられる。
いざ行かん、はやての部屋。
とか言って来てみたものの、さてどうしよう。
別にドアの前でヘタレてるとかじゃなくて、リアルに入れてくれるかなという心配の方だ。
今日までのガン無視っぷりは、びっくりするくらい徹底されてたからなあ。
自分が透明人間になって薄い本まで想像余裕でした。
「まあ、なんにしてもノックからだよな」
掴みは大切だ。出来るだけリズミカルにやろう。
コンコッココッコン!
「雪だるまつくぶっ」
せめて最後までは言わせて欲しいなと思いつつ、急に開いたドアから顔を引き剥がす。
心の前に鼻が折れそうだな。
いや、ここはそうじゃないか。
少しも痛くないわ、よしこれだ。
「一応言っておくが、主の許可を得てやっている」
「ああ、シグナムもいたのか。そういえば、下にいなかったね」
シャマルはザフィーラ連れて買い物だっけ。さっき傷薬頼んどけばよかった。
どこに行ったかわからない猫共も、あとで探して釘だけは刺しとこう。
俺はどつき芸のボケ担当じゃないんだぞ? 大丈夫だ、知っている。ああなるほど、知っててやってんのか!
そんな感じのやり取りを手短に済ませ、入れ替わりではやての部屋へ。
中ではベッドに座り、闇の書を抱えながらこちらを剣呑な目で睨む幼女が1人。倍くらい俺の方が年上なのに超怖ぇ。
「ハローはやて」
「ファッキンヤクモさん」
女の子がとんでもないこと言ってる!?
「流石にそれはどうかと思うよ俺」
「せやったら、今すぐ出てってくれへん? それで平和になるさかい」
取り付く島もないんですけど。
やばいよばやいよ! いや、言ってる場合じゃないな。
「今からちょっぴり真面目な話をする。はやての足に関する話な」
「…………」
「ノーリアクションだけど、話は聞いてくれそうで安心したよ」
ぶっちゃけ、まったく聞いてくれない可能性も視野に入れたからね。
それに比べたら、多少はマシな反応ってところか。
「あと1カ月ちょっとで準備が終わる。たぶん11月前後くらい。はやての足が動かない原因は、闇の書からの過剰負荷が原因だ。だから、それを取り除くためにいろいろやることになる」
「……いっつも『いろいろ』で誤魔化し取るけど、具体的になにをするんか教えてくれへん」
「んー、詳しく説明するとややこしんだけど……はやてと闇の書のリンクを切り離して、仮想人格を形成する。闇の書には、そいつが主だと誤認させるんだ。そんで、そのまま封印。闇の書の管制人格とこれから話し合うけど、守護騎士たちもたぶん切り離せるだろ。ただし、その場合はやての使い魔としてリンクを作るから負担は減らないんだけど。少なくとも身体に障害が出るほどじゃないから頑張れとしか?」
てきとうやなぁ。そーですね! と返したら、いいともー! という掛け声つきで闇の書が顔面を強襲した。
投擲武器にされて、心なしか闇の書も不服そうだ。
あと、俺の鼻もそろそろギプスが必要かもしれない。
「名目は仲直り、実際の目的は闇の書ってところやろ?」
「最近、はやての慧眼っぷりに戦慄を覚えるんだけど。もうちょっと小学生やってくれない?」
「いたいけな子供になに言うてんのや。ヤクモさんこそ、もうちょい子供心とか考えたらどうや?」
もう発言からして、いたいけとは程遠い気がしてくるのはどうしてだろう。
ついでに、いろいろ見透かされてるような気がしないでもない。
いや、まあバレてるからってはやてに止める手段はないだろうけどね。
守護騎士たちも、今回のことに関しては一時的に俺の味方だ。
目の前にぶら下がっている『はやてを助ける方法』に、あいつらが食いつかないわけもない。
「前に言ったかもしれんけど、ヤクモさんは勝手すぎやわ。私のことは考えてくれても、私の都合までは考えてへんやろ」
「んー……まあ、否定はしないな。俺はそもそも小悪党で、人の正しい助け方なんてしらないから」
俺の手にある闇の書へ視線を落としてから、睨むような熱視線をはやてが向けてくる。
もしかすると、冗談だと取られたのだろうか。しかし、これはまぎれもない事実というやつだ。
根本的に、救おうと思ったことが稀である。
利害の一致か利益の天秤か、そうしたもので判断した人助けが数回程度だ。
これで漫画やアニメのように、格好よく救済とかできるわけもない。
「はやて、そもそも俺を誤解してないか? 身分の偽造もするし、広域指名手配だってされてる。嘘だらけでどうしようもない屑ってのが、俺の正しい認識なんだが。その辺わかってる?」
「もちろんわかっとるよ。ついでに、たまたま道端で会った小学生の家に居候してまう変態さんやろ」
酷い言われようだが、いまいち否定できなくて困る。
あれ、俺ってロリコンだっけ? 違うよね? 違うよね!?
そう言えば、すずかの辺りでも変な感覚に捕われてた気がするけど……気のせい。きっとおそらくもしかするとたぶんだけど気のせいだと思う。
うん、大丈夫。俺はまだ大丈夫。あと10年は戦える。
「なにを言ったところで、ヤクモさんは今回のことを勝手に推し進めてまうんやろうなと思う。やから、私も1つ決めたことがあるんや」
「もう既にいい予感がしないなあ。で、なにを決めたの?」
不意に、はやてが人差し指を俺に付きつけてきた。
ゆっくりな動きではあったが、その指先に気圧されて体が逃げてしまう。
体の重心が後ろに偏っている事実に、内心では驚きを隠せない。
いつの間に、小学生の脅しでびびるくらい鈍っていたのだろうか。
そんなアホな。
「もし、今回のことが無事に済んだとして。将来的に、私はその管理局ってとこに就職しようかと思うわ」
「……その心は?」
「どうせ悪党や言うんなら、私が捕まえたるって話や。自分の手で天罰を与えたいってのもあるしなあ?」
あうあうあ、あうあうあ、それが俺の口癖。
あうあうあ、あうあうあ、ぶっちゃけ言葉にならないけど。
いざとなったら、やられるときゃやられるのー。
天罰!? 嘘!? マジ!? マジで!?
「それはまた……ご立派な志で?」
「手加減はせえへん。足さえ動くようになったら、地の果てまでも追い回したる。だってそれって私の愛やからな」
「おい、なんか撲殺が前提になってんの気のせいかな!」
せめて、生きた状態で確保してくれませんかね。
というか、はやての加入で管理局が過激派になる気がしてくる。
確かに無茶するときはするけど、仮にも魔法に非殺傷設定を採用してる組織だ。
だから、もしあそこに就職するならはやても穏便に行こうぜ。
「……就職先に文句はいわんのやな」
「まあ、はやてなら入るのは余裕だろ。それに、今は命に関わるから俺も強行してるだけだ。お前の進路とか、足が治った後にまで口を出すつもりはない」
それじゃあ、ただの束縛系メンヘラ彼氏じゃないですかやだー。
流石に、そんな将来の芽を摘み取るようなアホらしいことはしないよ。
「ただまあ、もしそういう構図になったとしてだ。はやてに追いつめられちゃった。くやしい! でも捕まっちゃう! ビクンビクン、とはならないからよろしく」
まあ、どう考えても大人しく捕まってやる理由なんてない。
せいぜい、どっかで「あばよ、とっつぁん」とでも言ってやろう。
「そんな余裕なくしたるわ」
「出来るもんならやってみろ」
はっはっはっ、とお互いに不敵で好戦的な笑みをぶつけ合う。
なんか方向性はおかしいが、元気になってくれたのなら結果オーライってことでいいのかな?
あと、結論から言うとはやてがガチで魔法覚えて守護騎士と一緒に追いかけてきたら、俺は間違いなく秒殺なんですがそれは……
いや、大丈夫だ。なんとかする。
そのときまでに、なんとか対策とか考えとく。
え、先延ばし?
だからなんだっていうんですか!!
毎回、急にシリアスをぶっこむから悪いと言うのは重々承知の助。
なんと、お気に入り数が1000を超える怪奇現象が発生。
作者は興奮のあまり、ちょっと夜中の街を叫びながら全力疾走してしまいましたので、来週も檻の向こうからお届けいたします まる