はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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私にシリアスが向いてないのか、それとも作風的にシリアスが向いてないのか。
果たしてどっちだろう、と考えたとき気付いちゃいましたよね。

どっちもだこれ……


34隠してなかったけど見るるはなし・上

 リンカーコアというのは、魔道師にとって生命線というか第二の心臓というか。

 まあ、有体に言ってしまえば『とっても大事なもの』ということになる。

 これを失うということは、つまり魔法が使えなくなるということを意味する。

 体は重くなり、今まで当たり前にできていたことができなくなる恐怖は計り知れない。

 そして、闇の書が有する『収集』という機能はこれを実行するためのものだ。

 魔道師がこれまで積み重ねてきたものを、容易く蹴り崩す悪魔の象徴。そんなイメージがしっくりきてしまう。

 

「あー、やっべー。なにもしたくねぇ。これきっと五月病だわー。マジで、っべーなぁ」

 

 無言でザフィーラに頭を齧られた。

 すいません、反省するんでオレオマエマルカジリスタイルはやめてもら痛い痛い痛い!

 テメェ、俺のエクセレントな脳みそ噛み砕くつもりか!!

 

「エクセレント? エキセントリックの間違いじゃないか?」

「最近、ペットからの当たりがきつくて辛い……」

 

 誰がペットだ、と言って再び顔面に食いつかれた。

 すいませんすいませんもう言いませんから米神はらめぇええええええええ!?

 

「お前らが、俺ならなにしてもいいと思ってる気がしてきた」

「お前は殺しても死なんから大丈夫だ」

 

 いつから俺は不死身の男になったんだろう。

 奥さんの愚痴言ったり、司令官に猛アタックかけながら敵に突っ込めばいいのかな。

 ああ、でもどっちもテロに巻き込まれるじゃないですかやだー。

 

「むしろ、テロリストはお前じゃないのか」

「おいこら、傭兵とテロリスト一緒にするんじゃねえ」

 

 世の中には、ダンボール1つで全部解決する伝説の傭兵だっているんだぞ。

 えっと……ほら、あのちょっと名前思い出せないけど。

 

「ああ、あれか」

「知っているのかザフィーラ」

「その発言も、伝説の傭兵も、激しくなにか違う気がするぞ」

 

 こいつ。なんでゲーム内容はもちろん、とんでも塾の話まで知ってるんだろう。

 そりゃ俺だってはやての話題についていけるよう、この世界のネットワーク総ざらいしたけどさ。

 よくわからん掲示板の、変なところで優しい不特定多数の手も借りたけどさ。

 あれ、こいつはいったいどこでこんな知識を?

 

「それより、用事があるから起こせと言ったのはお前だ。作業があるのだろう?」

「ごもっともだけど、こちとらリンカーコアなくてダルいんだ。もうちょい優しくしてくれても、罰は当たらないと思うよ?」

「そういうのはシャマルにでも頼め」

 

 俺の安らぎはどこだ。

 いや、シャマルさんもご飯さえ作らなければ十分安置なんだけどなあ。

 流石に、あんなの毎日胃に流し込まれたら穴が開くと思う。

 あくまで、無理すれば食べられるレベルだからね!

 

「というか、そのシャマルさん待ちなんだけど。ちょっと今日は魔力炉の辺りとか触りたいし。管理外世界のやつらが見てわかるもんでもないと思うけど、念のために封時結界をだな」

「シャマルなら、どこかの馬鹿が原因で部屋に籠もりがちな主の様子を見に行っている。あとで現地へ行くように伝えておこう」

「言葉の端々に棘しか感じないんですがそれは……」

 

 いいから行けと言われたので、今日は蹴り出される前に家を出る。

 8月も終盤だが、夏の暑さはまだまだ続きそうだ。

 それにしても、リンカーコアなくてダルいのは本当なんだけどなあ。

 太陽の暑さと体の不調で、溶けるんじゃないかと思えてくる。

 

「こんにちワン」

「は? ああ、うん。こんにちは? 車の修理で来たのよね。勝手に裏へ回ってちょうだい」

「ありがとウサギ」

「……なに、アンタ。暑さで脳みそが溶けたの?」

「魔法の言葉で楽しい仲間が増えると聞いてたけど、どうやらがガセだったらしいな」

「ちょっと、本気で沸騰してるんじゃないの?」

 

 誰の頭がポポポポ~ンだ。喧嘩売ってんのかツンデレ!

 

「おかしいわね。どう聞いても喧嘩を売られたのってアタシじゃない?」

「すまん、ちょこっと八つ当たり気味だった」

「アンタが素直なのって、びっくりするくらい気持ち悪いわね」

 

 アリサ・ツンデレの中で、俺の評価はどうなっているのか。

 いや、深くは考えまい。

 しっしと手で追い払われつつ、さっさと行きなさいと言われたので一応礼だけは言っておく。

 ぐるりと巨大な屋敷を迂回すれば、これまた広大な庭がこんにちはだ。

 アウディR8から少し離れたところでは、複数の犬が自由に駆け回っている。

 

「ホント、お金持ちの家って想像を絶するものがあるよね」

 

 だってお前、森まで付いてるんだぜこの家。

 いや、森が付いているって意味が既に俺の理解を軽く超えてるからわけわかんないんだけどさ。

 

「一瞬、座標ってここであってるのか不安になりましたよ?」

「合ってるから困るんだよなあ。あっ、シャマルさん来てたんだ」

 

 え、気付いてたから話しかけてきたんじゃ!? と軽く驚愕されてしまった。

 ただの独り言ですけどなにか?

 おい、その寂しいやつって表情やめろ。

 

「とりあえず、封時結界を頼みます。維持ができるなら、そのまま帰ってくれてもおっけーだから」

「それはかまいませんけど、絶対に必要なんですか? 確か、近くに他の魔道師もいましたよね?」

 

 ん? ああ、なのはのことかな?

 小規模なら気付かれないと思うし、なにより犯人は俺だと思うんじゃないかな。

 乗り込んできても、今は敵対してないから見逃してくれそう?

 ただ壊れたものの修理してるだけだし。

 

「まあ、それならいいんですけど。くれぐれも、闇の書とはやてちゃんのことは黙ってるんですよ?」

「あれれ~おかしいぞ~。既に俺が捕まる前提で話しが進んでるのは気のせいかな?」

 

 にっこり笑顔で誤魔化して、シャマルさんはさっさと結界を張ってしまう。

 俺を内部に取り込み、自分は外へ退避したのだろう。

 目の前から彼女は消えうせ、世界は通常時空からちょっとズレた場所に移動した。

 ははは、やりおる。

 

「逃げ方の手口が鮮やかになってませんかね?」

 

 まったく、誰の影響だろうね。

 そんな愚痴をこぼしながら、ルービックキューブみたいなビーコンを起動する。

 これで守銭奴を通じ、スカリエッティに頼んでいたものが届けられるだろう。

 足元に展開される特殊な魔法陣。

 次々に転送されてくる、構造解析やら大型工具やらの機材たち。

 背後から2人分の悲鳴も付いてきて、これで準備は完了……完了?

 

「この流れで、聞こえるはずもない女の子の悲鳴……なるほど、ホラーだな!」

「そんなわけあるか!!」

 

 不意に襲い来るドロップキック。

 背骨から凄い音がしたような気もするけど、これもご愛嬌か。

 襲撃者の正体なんて、わざわざ振り返るまでもない。

 こんな華麗に俺を痛めつけられる人間なんて……いかん、ごまんといるわ。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「よお、久しぶりすずかちゃん。今日も可愛いねぺろぺろし痛い痛いその四の字ダメな入り方してるから待ってえええええ!!」

 

 タップ! タップするから!!

 

「反省の色が見えない、続行ね」

「あ、アリサちゃん……」

 

 そこからしばらく極められ続け、すずかの説得でようやく解放してもらえる運びとなった。

 足が、膝が、腰骨が……

 

「この状況の説明をしなさい。そうすれば許してあげるわ」

「……数分前まではお前らのように歩けていたのだが、膝に四の字を食らってしまってな」

「立てないなら素直にそう言いましょうよ……」

 

 微妙な顔のすずかに代わり、アリサの乱暴なローキックで強制的に立ち上がらされる。

 この幼女怖いお……

 

「ここはなんなの? 光ってるところから色々出てきたのはなんで! さあ、答えなさい!!」

「うーん、どうやって誤魔化そうかな」

 

 黙って拳が握られたので、音速の土下座というものを披露しておく。

 頭を踏まれた。あれ? デジャブ?

 

「よし落ち着け、まずは深呼吸だ。ほらひっひっふー」

「……仏の顔も3度までって言葉、知ってるわよね?」

 

 うっす。正直に話すんで、頭に全体重のっけるのやめてもらっていいですかね?

 これまたすずかの説得によって解放された俺は、2人を正面に座らせて考える。

 どこまで話して大丈夫かなあ。

 

「宇宙世紀0079年……ごめんなさい冗談です。実は俺、魔法使いなんだよね! あと10年もすれば賢者にジョブチェンジするけど」

「いい加減、本気で殴るわよ」

「ホントだもん! 本当に魔法使いなんだもん! ウソじゃないもん!」

 

 問答無用で顔面に拳が突き刺さる。超痛い。

 意識の遠いところで、誰かが「ヤークモちゃーん!」と呼んでいる気がした。誰だお前!?

 

「いろいろ容赦ねえなあ。万が一にも、マジカルヤクモンって可能性を考えようぜ」

「えっ、でも今自分で万が一って……」

 

 すずかがいいところに気付いてしまったことで、追撃のエルボーが炸裂した。

 将来、アリサの彼氏になるやつは真性のドMに違いない。

 少なくとも、俺より頑丈なのは確実だろう。

 それにしても、どうしたもんか。

 

「一応、嘘とか冗談抜きで魔法使いなんだけど。悪い、今ちょっと証明ができないから凄めの手品師だと思ってくれない?」

「詐欺師なら一発で納得してあげるわよ」

「マジで? 俺、詐欺師になれそう!?」

「なんでそこに喜んでるんですか……」

 

 いや、傭兵なんて危険な職業辞められるかなって。

 ホイホイ辞められるものでもないから、無理なのはわかってるけどさ。

 あーぁ、できるもんなら俺も神殿でお手軽に転職してぇなあ。

 

「あの、魔法使いって言ってましたけど。本当なんですか?」

「嘘は言ってない。現に周りの風景がおかしいだろ? 俺としては、なんでお前らが結界の中に入れたのかが疑問だな」

 

 可能性としては、こいつらも実は魔法適正があるとかだろうか。

 なのはがあれなんだ。

 ねーよ、とは一概に言えないから困る。

 個人的には、もうこれ以上の面倒は御免だが。

 

「そうだなあ。あと証拠になりそうなのは……魔力炉? 聞いて驚け見て笑え! これがたまたま拾った俺の秘密兵器!」

「動いてないわね」

「動いてませんね」

 

 そーですね。

 ツーシートのアウディR8は、座席の後ろが丸々魔力炉の設置場所になっている。

 せっかくそこを開いてやったのに、こいつらの反応ときたら。

 いや、見てわかったらこいつら天才なんだけどさ。

 

「ところで、俺はお前らに魔法使いがバレないようにと結界を張ったわけだが」

「自分からバラしてりゃ世話ないわね」

「あ、あはは……」

 

 あれれ~、おかしいぞ~……

 




明日も更新、あるんじゃよ!

[追記]
違うんだよフェイトさん別にすずかちゃんに浮気したとかそんなんじゃなくて、なんというかあの暗黒微笑で見下ろされるとちょっとテンション上がるよねってだけで……あ、お巡りさんいつもお世話になってます……

ついでに、投稿日時の設定が1日早まっていたようです(反省
でも明日更新します!

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