はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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遅くなりました。
ロッテとアリアじゃないですが、我が家に2匹の猫がやってきて、もうてんやわんやです。


32売りはやてに買いヤクモ・後

 さて、脛の痛みも適度に引いた辺りで八神家家族会議と相成った。

 つっても、主に俺の報告作業なんだけど。

 あの不思議な食い物も、ちゃんと消費しましたよ?

 まあ、後ほどスタッフが頑張っていただきましたと言ったところか。

 見た目はともかく、いつも通り頑張れば食える味だったのが怖いな。

 どういう調理法ならあんなことになるのか、ちょっと気にならなくもない。

 

「えー……それでは第26回、キノコの山、たけのこの里戦争の開幕を」

「ぶっ飛ばされたくなかったら、さっさと本題に入りや」

 

 はい、すいませんでした。

 いやだって、それ以前に気になることがあるんだもんカルダモン。

 

『おい、誰か答えろ。この猫どこで拾ってきた』

『『『『…………』』』』

 

 念話では全員黙秘と。ついでに目まで逸らしやがった。

 ってことは、はやてだな。

 

「はやてさん。その猫だけど、どこで拾ってきたの?」

「ん? かわええやろ?」

 

 まあそうかもしれないけど、そういう話じゃなくてね?

 現在、俺とはやてと守護騎士4人。あと猫が2匹。計6人と2匹が居間のテーブルを囲んでいる。

 俺の知る限り、八神家は6人で勢ぞろいだったはずだ。

 しかし、なぜか今はやての膝の上には猫がいて。あまつさえ、俺のことを全力で威嚇していたりなんかしてくれちゃったりなんかしやがる。

 うん、なんだこれ。

 

『おい、なんで誰も止めなかったの?』

『我々が主の意向に文句を言えるとでも思っているのか』

 

 威張るな。そこは止めろよ。

 王様の愚行を戒めるのも騎士の仕事だろうに。

 いやまあ、別に猫を飼うのがダメだって言ってるんじゃないんですよ?

 ただ、この圧倒的魔力反応を前になんでスルーしたのか、小1時間ほど問い詰めたい。

 

「はやて、その猫は化け猫だからこっちへ渡しなさい」

「なんにもおらへんで。なんにもおらへんったら!」

「渡しなさい、ナウシ――いや冗談とかじゃなくて!?」

 

 なんで今、ちょっと腐界に呑まれる感じになっちゃったのかな?

 あと、この流れでいいったら俺そのうちベッド生活アンド討ち死にが待ってるんだけど。

 本編開始前に死んでたり、討ち死にしたり。福祉公社のときといい、俺はそんなキャラばっかか!

 

「えー……別にええやん、猫飼うくらい」

「猫が飼いたいなら、俺が別のやつ用意するから。とりあえず、それはこっちに渡してくれない?」

「絶対に嫌や。この子らは私が飼うって決めたんやから」

 

 2匹の猫を抱き寄せながら、不機嫌全開のはやてが俺を睨む。

 なにやら潰れたような声も聞こえたが、きっと気のせいだろう。

 それにしても弱ったな。

 この猫はどう考えても黒だ。

 ギル・グレアムの使い魔は2人。そして、ここに魔力を持った猫が2匹。

 うん、完璧にこいつらのことです本当にありがとうございました。

 

「はやて、そいつらはこっち側の生き物だ。普通の猫を連れてきてやるから、それで手を打たない?」

「…………」

「うーん、よしそうだなあ。お兄さん気前いいから、翠屋のケーキとシュークリームも付けちゃおう」

 

 ヴィータ、シグナム。お前らは座れ。

 あと、ザフィーラは腕組んでないで逆に何か喋ってくれませんか。

 

「約束するから。な? はやて」

「……約束なんて、守ってくれたことあらへんやん」

 

 不機嫌そうな目を、更にぐぐりと吊り上げてはやては言う。

 あれ?

 猫の声がさっきから聞こえないが、きっと気のせいだ。

 いや、そうじゃなくて。

 う、ん?

 

「はやてさん?」

「ヤクモさんが、一回でもちゃんと約束守ってくれたことあったかいな? 空の散歩は忘れとったし、誕生日プレゼントも当日には貰えへんかった。相変わらずなんも言わんとおらんくなる上に……なあ、覚えとる? 言ってる間に、夏休み終わってまうんやで?」

 

 なんの話を、とか言うつもりはない。

 わかっている。たぶん、いつかの帰り道で喋っていた旅行の話だ。

 確かに行ってない。

 その直後から家を空けていたというのもあるが。

 

「いや待て、わかってる。旅行のことは覚えてる。けど、その前に足のことをなんとかしよう。動くようになれば、いける場所も増えるだろ?」

 

 ああ、いいわけをしてるなあという自覚はある。

 もちろん、旅行の話を忘れていたわけじゃないけど。俺の中で、優先順位が低くなっていたのは否定できない。

 

「ヤクモさんが、私のこと考えてくれてるんはわかっとる。さっき足が治るかもしれんって聞いて、嬉しかったんもホンマや」

 

 けどな、と続けるはやての声は低い。

 怒ってるのか泣いてるのかわからない表情に、思わず息が詰まってしまう。

 約束を守らなかったからか?

 いや、違うな。きっと、そうじゃない別のなにかだ。

 

「私には私のやりたいことがあるんや。なんでもかんでも、ヤクモさんの言うこと聞くロボットと違うんやで?」

「いや別に、俺はお前をロボットだなんて――」

「せやったらわかるはずや。1つも約束守ってくれへんのに、なんで今回も私が信じて猫を渡さなあかんのや?」

 

 はやての眼差しが、まっすぐ俺を射すくめている。

 その複雑な感情が浮かぶ瞳を見下ろしていて、不意に自分が立ち上がっていることに気付いた。

 椅子の背もたれを掴み、重心はやや後ろか。

 どう考えても、体が逃げている。

 

「ヤクモさん、私の足のこと話してくれへん? それ聞いたら部屋に戻るわ」

「……ああ、わかった」

 

 そこからなにを話しただろう。

 今のはやての病状を聞いた上で、その原因が闇の書にあること。

 過去の闇の書の事例と、守護騎士たちの記憶がないことに対する推論。

 用意した打開策に伴う危険性に、その準備で忙しくなる旨。

 必要なものが揃い次第、作業を始めようという提案。

 たぶん、回らない頭でもこれくらいは喋ったはずだ。

 わかった、とだけ言って出て行ったはやての声が頭の中で反響しているようだ。

 

「おい、ヤクモ。いつまでそうしている」

 

 肩を掴まれて我に返る。

 当然だがはやてはいない。

 ヴィータとシャマルも見当たらないから、たぶんついて行ったのだろう。

 

「シグナム、ちょっと一発殴ってぐがっ!?」

 

 貫通力満天の拳が、頬に刺さる。

 ホント、そのノータイムなのやめてくれないかな。

 ここはちょっとくらい躊躇するところだろ。

 

「お前はやるべきことをやって来い。話を聞いていた限り、あまり猶予もないのだろう?」

「そうね、そうなんだけどね。首がもげるかと思った」

「首を落としたいなら、全部終わった後に斬首でもなんでもやってやろう」

 

 お前が言うと冗談に聞こえないんですがそれは。

 にしても痛ぇなあ。ちょっと涙出ちゃったかもしんない。

 

「あー、なんだろうなあ。浮かれてたかなあ、俺」

「気持ちはわからなくもない。我らとて、主はやてに巡りあえたことに少なからず浮かれたからな」

「たぶん、俺のはそういうのと少し違うんだけどね。まあいいや。いろいろ発注してくるから、あとはよろしく」

 

 頷き返してくるシグナムと、依然として腕を組んだままのザフィーラ。

 おい、あのバカ犬寝てないよな?

 

「ちゃんと聞いている」

「寝てたら額に犬って書いてやったものを」

 

 いいから早く行けとシグナムに家を蹴り出される。

 グダグダやってる時間くらいくださいよマジで。

 俺にも思うところくらいあるんだからね!

 

 

 そいつはふらりと店にやってきて、コーヒー1杯とシュークリーム1個でずいぶん粘っている。

 いや、まあそれはいい。

 どれだけ嫌なやつでも客は客だ。

 ただそいつの雰囲気は、いつものそれと違うような気がする。

 第一印象としては、人を食ったような性格だと思っていた。

 それが今はどうだろう。まるで場末の飲み屋で酒を煽る中年のようだ。

 

「おい、その陰気なのやめてくれないか。他のお客様の迷惑になる」

「よう恭也君。やっぱり陰気に見える? いやあ、もうどこら辺で失敗したかなあと思ってさ。確かに押し付けがましかったとは思うんだけど、やっぱ浮かれてたのかなあ」

 

 約束守ってればなあ、とか意味のわからないぼやきを呟いて七海八雲は机に崩れ落ちた。

 めんどくさい。

 

「なんだ、押し付けがましいってのは。まかさ、八神さんと喧嘩でもしたのか」

 

 突っ伏したままの八雲が、ぴくりと体を揺らす。

 どうやら図星らしい。

 それにしても、この2人はそれなりに上手くやっていると思っていたが。

 まさか喧嘩1つで、ここまでこの男が弱るとは思っていなかった。

 

「さっさと謝って来い。それが一番手っ取り早い」

「謝る内容で迷ってるからこうしてんだよ」

 

 姿勢はそのままに、顔だけがこちらを向く。

 困ったように笑っているが、誰だこいつ。

 俺の知っている七海八雲という人物は、こんな弱々しい顔をするやつだったろうか。

 

「実はちゃんとした喧嘩とか、したことないんだよね。参考までに、なのはと喧嘩したらどうしてる?」

「お互いに話し合って謝るだけだが」

 

 それが難しいんだよなあ、と八雲は再び顔を伏せる。

 ホントに誰だこいつは。

 最初からこんな風だったなら、もしかすると犬猿の仲にならなかったかもしれない。

 あくまで可能性の話だが。

 

「めんどくさいやつだな。体を動かして気を紛らわせてきたらどうだ」

「恭也君と殴り合ったら俺の顔面が凹むじゃないですかやだー」

「誰が付き合うといった」

 

 それもそうかとあっさり引き下がって、コーヒーを1口。

 更にふぅと息を吐いて、八雲は頬杖をついた。

 どこかぼぅっとした風に空中を見つめて停止し、これはもう相当な重症らしい。

 ため息を吐きたいのはこちらのほうだ。

 

「……もういい、わかった。話を聞いてやるから言ってみろ」

 

 そうして俺は対面の席へ。

 眉根を寄せて困惑するくらいなら、初めからそういう態度をとらないでくれ。

 

「今回だけだ」

「ははっ、ツンデレ乙」

 

 とりあえず、問答無用で一発殴っておく。

 右の頬に痣があるから、俺は左側へだ。

 これでバランスもよくなっただろう。

 




なんか、微妙に納得いかない。泣きそう。


そういえば、今さらですけどいくつか評価コメントいただいてありがとうございます。
ただ、大量にきてるわけでもないのでどこで返信しようか迷ってるんですよね。
間違いなく読んではいるので、ご安心ください。
 って、内容を書こうと思って2ヶ月ほど経ちました。
 はい、今さらです……

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