はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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違うんです!いや、何も違わないけど違うって言うかそのとにかく違うんです!
まあ、ホントに違うのかって言われたら全然違わないって言うか違うんですけど、そういう意味の違うってのとは違うって言うか違うくて!!
ええ、もうなんていうか違うんですけど違うこともないんで大体私の落ち度と言うかなんというか。
ごめんねごめんね~!!


30踏んだり蹴られたり

 ギル・グレアム。

 時空管理局歴戦の勇士という通り名を持ち、これまで多くの偉業を成し得た彼は、苦い表情で通路を歩いていた。

 こつこつと床を叩く靴が、まるで心情を表わすかのように神経質な音を響かせている。

 

(どうすれば……)

 

 目下、グレアムを悩ませている案件は闇の書と呼ばれるロストロギアについてだ。

 思い出されるのは、十数年前の失態。クライド・ハラオウンという、大切な部下を失ってしまった事件のこと。

 私の失態で……

 そう悔やみ続けて、個人的に闇の書を追い始めたのだが。

 どうにも、気付いてみればあまりよくない状況に陥っている。

 苦悩と共に思いやられるのは、娘のように可愛がってきた自信の使い魔たちだ。

 

(ロッテとアリアは無事だろうか)

 

 数年前、彼は八神はやてという少女を見付ける。

 両親を早くに亡くして天涯孤独だった彼女こそ、今回の生贄に選ばれた人物だった。

 消滅と同時に無限転移を繰り返す闇の書。それをようやく見付けられた喜びと、こんな幼い子がという困惑がグレアムを襲う。

 闇の書を封印するには、どうしてもこの子まで巻き込んでしまうのだと。

 しかし、そこで思い出されるのは良き友人であり大切な部下であったクライドの死だ。

 これは必要な悪。そう信じて彼は動き出す。

 先ず、手始めに頼るあてのなかったはやての後継人として名乗り出る。財産管理や資金援助を行ったのは、おそらく良心の呵責だったのかもしれない。

 偽名を使わず、グレアムと名乗ったのもその一環。少なくとも時が来るまでは自由に生活できるよう、よき『おじさん』として彼は振る舞っていた。

 

「あの断層さえなければ」

 

 計画は順調に進んでいるはずだった。

 数か月前には闇の書の起動も確認している。

 監視用の魔法が不調だったため、使い魔であるリーゼロッテとリーゼアリアを送り込みもした。

 そして、身元不明の男が同居しているという報告を聞いて。

 プレシア・テスタロッサが事件を起こしたのは、その直後である。

 

(どうすれば……)

 

 と最初の苦悩に帰って、グレアムは短く吐息した。

 いつの間にか辿り着いていた執務室の扉を開け、その中に踏み込んでいく。

 現状、第97管理外世界と連絡をとる手段はない。

 向こうまで行くにしても、時間がかかり過ぎる。

 現場の判断に任せようにも、闇の書をはやてごと封印する切り札はグレアムの手の中だ。

 本当に、どうしてこうなったのか。

 

「あれ、帰ってきちゃった。どうしよっかな」

「無計画という言葉が滲み出ていますね」

「仕方ないだろ。急だったから、個人のタイムスケジュールとか調べられなかったんだし」

 

 不意に背後から声が来て、グレアムは慌てて振り返った。

 入口のすぐ横、そこに帽子を目深にかぶった清掃員風の男が立っている。

 反射的に叫ばなかったのは声が出なかったからではない。彼の手に銃があり、グレアムの方を向いていたからだ。

 

「君は誰だ」

「ただの不法侵入者かな? まあいいや。ちょっと聞きたいこともあったし」

 

 肩を竦めて見せる男の横に、同じく清掃員の格好をした少女もいる。

 彼女は小さく首を振って、手元には空間モニターをいくつか呼び出しているようだった。

 

「立ち話もなんだから座ろうぜ。せっかくの立派なソファがもったいない」

「自分がなにをしているのか、わかっているのか?」

「そりゃもちろん。あれだったら、可愛らしく悲鳴でも上げればいいんじゃない? ヒーローが助けに来てくれるかもよ」

 

 顎で促され、グレアムは大人しくソファに腰掛ける。

 対面には清掃員の男が、少女は動かずモニターの操作を続けたままだ。

 本来、来客用に使われるソファに座り、お茶もないテーブルを挟む。

 喉を潤すものはなくとも、突きつけられた銃が彼の喉から水分を奪っていくようだ。

 

「さて、こっちも時間がないからサクサク行こうか。八神はやては知ってるよな? あの子から手を引いてもらおう」

「……どういうことだ」

 

 そのままの意味だけど? と肩を竦める男をグレアムは注意深く観察する。

 銃口はこちらを向いているが、引き金に男の指はかかっていない。敵意はあっても殺意はない証拠なのだろう。

 また、壁の花に徹している少女も動く気配はない。

 展開しているモニターの内容も気になるが、直接的な害になるような相手ではなさそうだ。

 そして、相手の口から出た『八神はやて』の言葉。わざわざ使い魔を送り出した理由を思い出せば、なんとなく想像はつく。

 

「言葉通りの意味だけど。うーん……今はあんまり腹の探りあいとかしたくないんだよね。だからズバリ聞くけどさ。あんたは使い魔を2体ほど持ってるらしいじゃないか。今、どこにいるの?」

「…………」

 

 黙秘を貫いたグレアムに対して、特に気にした様子もなく男は銃を揺らしてみせる。

 暗に喋れという意思表示だが、大人しく従う意味もないだろう。じっと睨み返していると、程なくして彼は僅かに肩を竦めてみせた。

 そのまま壁の少女に視線をやり。

 

「どうだようっちゃん?」

「少し前に他次元世界への渡航記録がありますね。行き先は不明ですが……うっちゃんはやめませんか?」

「あー、なるほど。向こうに戻ったら掃除もしないとだめか」

 

 面倒だなと男が息を吐き、同時にグレアムは息を呑む。

 少女が言ったことは、おそらくリーゼロッテとリーゼアリアのことだろう。

 しかし、彼女たちの渡航はできうる限り隠蔽してある。それこそ普段は使わない権限まで使ったにも関わらず、こうもやすやすと判明した理由がわからない。

 グレアムの表情から驚愕の色を見て取った男が、苦笑いを返しながら。

 

「事後報告になるが、机の端末からID情報を引っこ抜いて使わせてもらった。クレジットカードの番号も含めて、次からは逐次消していくことをお勧めする」

「……君が八神家に転がりこんだ男だな。あれがどれほど危険かわかっているのか? いや……その前に、どうやってここへ」

「こっちのアドバンテージを、そんな簡単に教えるわけないじゃないですかやだー」

 

 プレシア・テスタロッサの起こした事件に関しては本局にも伝わっている。

 というのも、最寄りの管理世界でアースラが補給を受けた際に報告を飛ばしてきたからだ。

 今回の次元震で発生した断層が、小規模だったのも幸いしただろう。いくつかの管理世界で通信の中継をすれば、メッセージの送受信くらいは可能だったのだ。

 資料のない状況報告に管理局は揺れ、とりあえず安全の報を聞いてアースラの帰還を待つという結論がでた。

 第97管理外世界と管理局本部のあるミッドチルダの間は、今そういう状況である。

 文章のやり取りすら中継機のある特定の場所でしかできないのに、この短時間で人の行き来などできるはずもない。

 もしくは、彼もミッドチルダへ来た直後に次元断層に巻き込まれて立ち往生を? という可能性を考えたところで、グレアムは即座にそれを否定した。

 どう見ても、男の顔に焦りはない。

 だいたい、アドバンテージとまで言っていたのだ。どれほどのものかは知らないが、それだけの自信がある代物なのだろう。

 内心で舌打ちをするグレアムの背中を、嫌な汗が伝っていく。

 

「まあでも、あんたの発言でわかったこともある。御礼にヒントってのも変だが、あの艦長さんも食えねぇなって言っとこうか」

「……知っているかね。自己完結の言葉は、それらしく聞こえてもヒントにはならないんだよ」

 

 苦悩に眉間の皺を深くするグレアムを見て笑っている辺り、男はわかっていてやっているのだろう。

 ついでに、このタイミングで銃をちらつかせることも忘れない。

 質の悪い話だ、とはグレアムの率直な感想である。

 頭から抜け落ちかけていたこともあって、苦い表情が更に濃くなるというものだ。

 苦笑い気味の男は肩を竦め、仕方ないなあと膝に肘を付きつつ口を開く。

 

「んー、じゃあそうだな……話をしよう。あれは今から36万……いや、1万2000年前から愛してるだったか。まあいい。私にとってはつい昨日のことで、君たちにとっては多分明日のできごとだ」

 

 ここまで話の主導権を持って行かれたまま、男は更に話をしようと言う。

 はっきり言って、グレアムにとっては不利な状況ばかりだ。

 早く終わってくれと思いはすれども、この状態を続けたいだなんて願うはずもない。

 いったいなにを聞かれるのかと身構え。そして、そこでようやく彼の口から間抜けな疑問が飛び出した。

 今、なんか凄い変なこと言わなかったか? と。

 慌てて正面に視線を投げれば、人を食ったような笑みで男は肩を揺らしている。

 

(なんだ、どういうことだ。まさか……なにかの暗号だったのか!?)

 

 この場で暗号を使ったとして、伝える対象は1人しかいない。

 壁の花に徹していた少女だ。

 そうなると、彼女が端末を操作しっぱなしだったのも気になってくる。

 あるいは、今の暗号で新たな動きがあるのでは。そう思い、微かな動作も見逃すものかと顔を振り向け。

 なんのことはない、ため息混じりに頭を振る姿が目に飛び込んできた。

 

「……は?」

 

 まさか呆れろという暗号でもあるまい。

 もしくは、上手く伝わらなかったの可能性もあるが。

 正面でニヤニヤ笑う男に、呆れを通り越して白い目を向ける少女。

 グレアムにとって、これ以上に困惑を生み出す状況もないだろう。

 同時に、言葉を失った彼の姿を笑顔で見ていた男はとても愉快気だ。

 楽しそうな雰囲気を隠そうともせず、再び口を開きかけ。

 

「いい加減にしてください」

 

 不意に、その姿が視界の外へと吹っ飛んでいった。

 後日、グレアムは語る。

 幼い少女の身で、あれは見事なドロップキックだったと。

 




おう。テメェなにやってたと聞かれたら、思わず興がのってかなり昔に書いた作品手直ししてました。
一部、うpしたのでどうぞよろしく(宣伝

全力で反省しています。

も、もうしわけ
   ございません…

  / ̄ ̄ ̄ ̄~\
 <       Y三ヽ
 /\___  / |へミ|
(へ___ ヽ/  ノ~zノ
/ /|   | <_
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\_ノミ)

20:15 追記
知ってたけど段落でAA崩れてしもうたん……

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