はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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3働かざる者遊び倒す

 作業の手を止めて体を伸ばし、座りっぱなしで固まっていた体を解していく。あっちこっちから骨の鳴る音が聞こえてくるが、努力の結果と受け入れよう。

 傍らに置いていたコーヒーを取り、口を付けながら画面を流し見る。

 試験運転でプログラムを走らせてみるが、特に問題もないので完成か。そのままデータを圧縮して、依頼主のところへ投げつけておく。

 そんな一連の動作を終え、短く息を吐きながら天井を見て。

 

「うわぁ、すげぇ働いてる感あるわあ」

「在宅勤務でなに偉そうに言うてんの」

 

 居間で作業していたのがよくなかった。

 せっかくの達成感に水を流し込まれるとは。

 

「で、なにやってたん? というか、その半透明のって」

「空間投影式のキーボードとモニターだけど。ああ、そうか。こっちじゃこういうのは無いのか」

 

 魔力のある側とない側の発想だから、それぞれ違う発展をして当然だろう。

 どちらも軽量・小型化を目指すところや、無暗にマシンパワーを追求する辺りの考えは似たようなものだ。

 地球が特別劣っているわけではなく、純粋に時代が遅れているだけ。こっちも数百年後には似たようなのが出来てると思うから気にするな。

 ってはやてに言おうと振り返ったら姿がなかった。あれ?

 

「うわぁ、これ凄いなあ。どうなっとんのやろ。わっ、端っこに指置いたらドラッグもできるんやなあ!!」

 

 テンション高めのはやてさんは、気付いたら回り込んでモニターをグリグリいじっていた。

 思っていたより早く動けることが発覚して、驚愕を禁じ得ない。

 介護、ホントに必要だったんだろうか……

 

「よーし、ちょっと待てはやて。ってお前、油断も隙もないな! 仕事のメール見るな!! どうせ読めないんだから諦めろってほら!!」

 

 目ざとく送信途中の画面を引き寄せようとしたはやてに、ガッとアイアンクローをくらわせる。

 締め付けるのではなく目を覆うのが目的だが、なにやらはやては「ぬるぽ! ぬるぽ!」と連呼しはじめた。

 ガッの種類が違うと思うんだがいいんだろうか。

 とりあえず乗り出し気味の体を車椅子に押し戻しつつ、送信が終わるまでそのままにしておく。

 

「はい終了っと。結局、何がしたかったの?」

「いやな、ヤクモさんがどんな仕事してんのか気になってん。あとは興味に負けて」

 

 てへっと舌を出して反省してるんだかしてなんだかわからないポーズのはやて。

 何この可愛らしい生き物とか思ってない。思ってなんかいないだからね!!

 

「んで、何の仕事やの?」

「自称テロリスト集団が管理局の施設に入りたいらしくて。ロック解除のウィルスデータをちょっとな。テロリスト集団の後ろにかっこ笑が付きそうなチンピラどもだけど」

「通報しました」

「大丈夫だいじょうぶ。あんなのにやられるほど管理局もやわじゃないって。むしろ、検挙率あがるんだから金一封とか欲しいところだなあ」

 

 でも、そういうお仕事はどうかと思うんよ。と説教されたので、今度からはこっそりやろうと心に決める。

 はやてもいるから、流石にガチでやばいところからの仕事は受けないけどね。

 カモフラージュの仕事も探しとかないとなあ。

 

「まあ、それは置いといてや。その画面使ってゲームとかでけへんやろか!!」

「んー……どうかな、やったことないからなあ。あ、先に言っとくけど。カードセットしてモンスター召還的なのは、もっと大規模な装置が必要になるから諦めとけよ?」

 

 はやての目から光が消えた。

 これが噂の……いや、倫理的にやめとこう。最近、テレビで偉そうなおっさんが非現実うんたらとか言ってたし。変なのが突入してきたら困る。

 

「とりあえず、出来そうなところからやってみよう。はやて、そこ動くなよ?」

 

 車椅子のブレーキまで入れて準備万端のところに、フライトスティックコントローラーを持たせる。

 空間投影ディスプレイを前後左右と頭上の五面に展開して、あとはこっちで設定してやるだけだ。

 ゲームソフトをデバイスにスキャンさせてROMを引っこ抜き、全五面のディスプレイに対応した映像を呼び出す。

 もともと、ゲーム内でもパイロットが肉眼で後方確認を出来るようなシステムになっていたのは幸運だった。映像の処理方法をいじってやるだけで、なんとか対応できそうな気がする。

 

「たぶん、これでいける? なんか、こっちの方が犯罪に手を染めてる気がしてならない件」

「個人的に楽しむ分にはおっけーやろ。それよか、何がはじまるんか知らんけどはよ!」

「目に光が戻ってなによりだよ。そんじゃあ、はじめまーす」

 

 スタート画面をすっ飛ばしてニューゲームで始める。

 最初のムービーはカット。内容も操作方法も熟知しているので、もろもろの部分をすっとばして戦闘画面を立ち上げた。

 中からみれば、さながら戦闘機の中にいるような風景となるはず。と思ったが、画面の透過率が高すぎる。

 その辺りの数値もいじり、これで完璧……かもしれない。

 

「はやて、どんな感じだ?」

「おー、これは凄い。あとは音やな。なんか、のっぺりしとる気がする」

「そういえば音響系は触ってなかったな。スピーカーを置いてもいいが、流石に台数買うのは出費が酷いし」

 

 何か代用になりそうなのは、といくつか考えてみてみる。

 モニターからも音は出せるが、ステレオで出力すると音響が混乱しそうだ。どうせやるならリアルにサラウンド方式でやってみたい。

 だが、そうなるとやはりスピーカーを大量に置くしかないわけだが。

 

「いや、まあでも音が出るなら念話でも……いやいや、今のはやてが使えないと意味ないな。ここはサーチャーの録音機能を逆利用してバイノーラル設定が妥当かもしれん」

「日本語でおk」

 

 遠まわしによくわからないと言われたので、とりあえず実践する。

 本来は索敵なんかに使うサーチャーだが、録音の機能を逆出力に設定してスピーカーに変える。

 パソコンにイヤホンを差してマイクの代わりにするのと似たような発想だ。機能的には集音も発音も出来るはずなので問題ないだろう。

 このサーチャーをはやての両耳付近に固定して、首を動かした際に連動して移動するよう設定しておけば完了だ。

 

「これならヘッドフォンでもよかったかなとは思う」

「でも、これやったら外の音も聞こえてええと思うよ。配線とかも気にならへんし、ヘッドフォンは長時間つけてたら耳が痛くなるしな」

 

 るんるん気分の声に合わせて、敵機が次々と撃墜されていく。

 楽しんでくれているようでなによりだ。このままさっきのことを忘れてくれるとありがたい。

 

「まあ、流石に毎回こんなに準備してゲームするのも面倒だけどな。室内限定なら範囲も知れてるし、小型の空間シミュレータとか作った方が手っ取り早い気がしてきた」

 

 そのためには先立つものが必要だが、その辺りも仕事をいくつかこなせば何とかなりそうだ。

 むしろ、問題は管理世界からどうやって部品を密輸するかになりそうで恐ろしい。

 昔の伝手とか、まだ生きてただろうか。あとで確認しとこう。

 

「なんやわからんけど、あんま悪いことしたらあかんで?」

「ときどき、はやては人の心が読めるんじゃないかと思う件について……」

 

 はやてが読心術を覚えてしまったら大変だ。

 なんでも某掲示板の住民曰く。半眼になって瞳から光が消えた末、眼鏡の二頭身が変なポーズでモリモリ言いながら変態紳士とか聞いた気がする。

 あれ、コシコシ言いながらヘッドバットだったかな? よく覚えてないや。

 でもまあ。うん、これは流石に嘘だな。

 あそこで教えてもらったことを頭から全部信じるのはよくない。それくらいは俺も学習した。

 

「あの掲示板、とりあえず罵倒から入るところもあるしなあ」

「ヤクモさんのソースは、偏りが多いと思うんやけど」

 

 そんな馬鹿な、と驚愕しているうちにステージのボス機体が撃墜されてしまう。

 流石にやり込んでいるだけあって、序盤の敵など相手にもならないようだ。

 この調子で攻略されると、ステージ設定が間に合いそうもない気がする。

 

「ということで、急遽ラスボスのご登場です」

「ご都合主義もええとこやな」

 

 この際、手抜きと言われても致し方ない。

 いくらROMがあると言っても、映像を処理して各画面に割り振るシステムを組み込む必要がある。

 各ステージで数値も違うので、最初のステージを作ったらあとはコピペというわけにもいかないから面倒だ。

 

「なーなー、ボスキャラが全然出てこえへんけど。どこに……ん? なんやあれ」

 

 何かに気付いたらしいはやてが、左側の空間モニターへ目を凝らしている。

 まだはっきりと視認しているわけではないようだが、こっちからは丸見えだ。

 

「ちょ、まっ! ストライクイーグル!! あかん、こっち旧式ミグやのに勝てるわけあらへん!!」

「HAHAHA! 見ろ、人がゴミのようだ」

 

 大慌てで急旋回した冷戦期の戦闘機を、最新鋭の戦闘機が追いかける。

 当然、操作しているのは俺だ。ちょっと大人げなかっただろうか。いや、そんなはずはない。

 この前の格ゲーで味わったトラウマを刻み返してくれるわ。

 

「ふはは、逃げろ逃げろ」

「満身やな! 喰らえ捻り込み!!」

「なん、だと……」

 

 絶望的なスペック差でぐんぐん放されていくが、一瞬でも背後を取られるとは。フロッガーなんて骨董品でとんでもないことをしてくれる。

 はやて、恐ろしい子……

 きっと魔法を覚えて空戦が出来るようになればとんでもない才能を開花させるんだろうなあ。

 最終的に「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」とか言う日が来そうで笑えない。

 

「まあでも、その前にリンカーコアの状態も気になるし。冗談抜きで一回こっちの医者にも見せた方がいいかなあ」

 

 小声での呟きは、撃墜されて落胆の声を上げるはやてまで届かないだろう。

 

 彼女のリンカーコアは、共同生活を始めて2日目くらいに気付いた。

 医療関係は専門じゃないが、簡単な身体スキャンくらいはできる。こっちの技術ではわからないことも、これならわかるかもしれないという考えの元に行ったのだが。

 あろうことか、とんでもない容量のリンカーコアを発見してしまってコーヒーを吹く結果となった。

 あとはあからさまに怪しい本と、遠巻き且つ偽装を施された監視用カメラが芋づるで出てきて真顔になったのは言うまでもない。

 前者に関しては封印がきつすぎて正体不明だが、きっとロストロギアだろう。面倒事の匂いしかしない。

 後者も見たことがある隠蔽魔法と機材だっただけに、管理局絡みと見て間違いないだろう。こっちも面倒事の匂いしかしない。

 どれもこれもはやてには伏せたままだが、場合によっては二人して逃亡生活も考えた方がいいだろうか。

 

 まあ、独断専行で騒いだって仕方ない。

 ロストロギアは起動する気配すら見せないし、管理局だって突然こちらを殺しに来たりはしないと思う。

 しばらくは大人しく様子見をしつつ、ちょっとした妨害工作を挟んでいくことにする。

 手始めに投げつけたウィルスを、監視してるやつが気に入ってくれればいいな。そう思っていたら、はやてが声高らかにお昼ご飯宣言を発令した。

 今日はオムライスらしいが、何故か俺だけグミになるらしい。

 え、ミグの呪い? なにそれ怖い……

 土下座で許してもらい、なんとかオムレツを確保するのだった。

 




更新速度は安定しないと思うので、たまに思い出したら見に来てくだしあ

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