はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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25猿も穴からボッシュート

 こつこつと足音が響く。

 それ以外、俺の耳を叩く音はない。

 ただ、人がいないということはないだろう。

 今日会いに来た人物と、それ以外に何人かの過激な先客がいるはずだ。

 

「冗談きついなあ」

 

 ぼそりと呟いた声が、奥に伸びる暗がりへと吸い込まれていく。

 自然の洞窟と人工物が半々で残る通路は、足元の非常灯が点々と続いているだけ。異様な静けさに包まれて、不気味なことこの上ない。

 すぐにでも帰りたいところだが、そうもいかないから困る。

 ここは、数年前のクライアントが所有するラボ。

 時期的には、プレシアの前に受けていた案件だが。その依頼主というのが、問題はあるものの名医と言って差し支えない技術を持っている。

 はやてのことを聞くならこいつに。正直、嫌で嫌で仕方ないけどそうするのが一番早いと考えていた人物だ。

 

「…………」

 

 ゆっくりと進む。

 視界は悪いが、今は助かる。

 入口を吹っ飛ばした跡があったので、おそらく先客は穏便なやつらじゃないだろう。

 出会わないことを祈っているが、いざというときは闇に紛れるしかない。

 逃げるが勝ちだ。

 とはいえ、どうしたもんかな。

 この施設の持ち主に用があって足を運んだら、まさか襲撃者がいるとは予想外デス。

 タイミング悪すぎワロタ、というやつだ。

 しかし、それに対する予定の変更もなければ、こちらの呼びかけにも答えがない。

 彼なら易々と死んだり捕まったりしないとは思うが、なにも言ってこないなら予定通りの場所へ出向くしかないだろう。

 最悪、いなくてもなにか手がかりくらい置いてある可能性だってある。

 

「はーい、お邪魔しますよ。誰もいませんように」

 

 ホントに。心からお願いします。

 そう願いながら、会う予定だった部屋の前で壁にへばりつく。

 デバイスを構えながら開閉パネルを操作すれば、欠片の抵抗もなく扉は開いた。

 ぷしゅーとエアの抜ける音が、やけに大きく聞こえてで泣きたくなる。

 こういう場合、部屋の中で死体食ってるやつがいそうで怖いよな。

 

「誰もいないかなー? いないならいませーんって返事してくれてもいいんだよ?」

 

 静まり返った室内を、やはり足元の非常灯だけが照らしていた。

 どうも、最低限の電力しか生きていないらしい。

 主電源は死んでいて、非常時の予備電源に切り替わっているのだろうか。

 

「あの野郎、会ったら一発殴ってやる」

 

 中は無人で、特別なにかいる気配はなさそうだ。

 家探ししたいところだが、これで日記とか見付けるとフラグがなあ。

 かゆ……うま……とか書いてあったら、きっと恐怖で漏らしちゃうよ俺。

 濡れる!! なんてね。

 まあ、冗談はさておいて。

 

「中に誰もいませんよ、っていう確約がないんだよなあ」

 

 これで入ってみたら誰かいて、実は息を殺してましたってオチだけは勘弁して欲しい。

 念には念を。まあ、怪しい扉の前で聞き耳は予定調和だしね。

 

「アクティブソナー、エコー」

 

 やることは単純。

 まず手に魔力を集め、砕いてそこらへまき散らす。

 同時に受信用の術式を展開し、跳ね返ってくる魔法の残滓を拾っていく。

 そして、最後にそこから演算した周囲の輪郭を意識内へ作り出せば完了だ。

 なんの捻りもない魔力ソナーである。

 サーチャーに比べて精度は劣るものの、維持と遠隔操作が必要ないから燃費は悪くない。

 室外でも一定の精度を誇るし、室内なら初見で打破できたりはしないだろう。

 サーチャーを誤魔化せるハイド系の魔法も、一部はこれで看破できる。

 欠点は1回で処理する情報量が多いことだが。

 

「あれ、ホントに誰もいない? そんな馬鹿な」

 

 発光スフィアを展開して、周りを照らしながら室内へ進む。

 端末と作業台、機材の数々が整然と並んでいる。

 急な襲撃に慌てた様子がない辺り、家主の性格が出ているというか。むしろ、これ事前に知ってたんじゃないかなとすら思えるレベルだ。

 おそらく、端末の中身は初期化済みだろう。

 起動してみて警報とか鳴っても笑えないし、とりあえずハードだけ引っこ抜いとくか。

 なにも残ってないとは思うけど、万が一という可能性だってある。足取りを掴むためにも、大人しく解析しておこう。

 

「まあ、それ以外に手がかりもなさそうだしなあ」

 

 小さな魔力刃で端末を解体して、中から手帳サイズのハードディスクを引っ張り出す。

 ん? そういえば、なんでこれがまだ残ってるんだ?

 襲撃者が、まだここまで到達してないだけってことはないだろうな。

 同じ場所から入った俺が、そいつらより先に着くはずもないし。

 

「じゃあ素通りしたとか?」

 

 いや、それもないか。特にロックもかかってなかったし、全部の部屋を確認するくらいはしたはずだ。

 ということは、襲撃の目的が殺害とか拉致だったという可能性か。

 膨大な量の研究データを盗むより、人間をさらう方が早いかもしれない。

 それはそれで困るなあ。いくつか協力して欲しいことがあったから来たのに、完全な無駄足じゃないですかやだー。

 また最初から探し直しか。

 どうせ殺しても死なないようなやつだし、どっかにいるとは思うけどさ。

 

「にしても、襲撃者の目的が見えないなあ。まさか管理局とか……あ、やばい。今、なんか変なフラグ立てた希ガス」

「そこにいるのは誰だ」

 

 ほらね! ほらね!!

 咄嗟に発光スフィアを入口へ撃ち出し、自分は大急ぎで機材の影へと滑り込む。

 たぶん牽制くらいにはなったと信じたい。

 

「こちらは次元管理局、首都防衛隊所属のゼストだ。無駄な抵抗はするな。大人しくしてくれれば、悪いようにはしない」

「首都防衛……エリート様がこんなとこでなにしてんだよ」

 

 ホントやめてよね。

 それにしてもどうしよう。首都防衛隊とか、まともにやり合って勝てる気がしない。

 あいつら選り抜きの人員だもん、仕方ないね。

 これがせめて航空隊だったら……うん、俺のなんちゃって空戦じゃ追いつけないわ。

 戦技教導周りのやつらは論外として、陸士隊ならワンチャンあるか? でも、飛べないだけで現場のやつらはタフネスあるんだよなあ。

 うわ……こうして考えてみたら、誰にも勝てなさそうなのが不思議だよね。

 し、自然保護隊とかのやつ相手なら遅れはとらないし! たぶん。

 

「俺はここの関係者じゃないんだけど、できたら見逃して欲しいなあ。なんて」

「それはわかっている。先ほど妙な魔力反応を感知するまで、人の気配は欠片もなかったからな」

 

 ああ、ソナーのせいか。

 探知のつもりで相手をおびき寄せるとか、俺天才じゃないかな。

 

「だが、ここにいるということはなにか知っていることがあるはずだ。拘束はしないと約束する。代わりに、保護という形で一度こちらへ身柄を預けてくれ。事情聴取がしたい」

 

 保護されたあと、手が後ろに回るコンボ持ちの場合はどうすればいいですか。

 救いが欲しいよ。切実に!

 

「ちょっと探られたくない腹とかある人なんだけど、そういう場合はどうすれば?」

「……大人しく投降しろ。これ以上の罪を重ねるな」

「さっきの意見と180度違うんですがそれは!!」

 

 あかん。これ完全にあかんやつ。

 ともかく逃げ道だ。それを探さないと、始まる前に終わってしまう。

 入口……は、管理局員が居座ってるからアウト。それ以外の出入り口も、全面壁だから無し。

 よし、じゃあこういうときの鉄板は通気口! と思ったけどないんだなこれが!!

 

「やっべ、なんだこれ。ちょっと楽しくなってきちゃったぜ」

 

 どっかに隠し扉とかないかな。まあ、あってもこの状況じゃ見付けるのは無理臭いけどさ。

 いっそ開き直って真正面から特攻してみるか。

 予想外の行動過ぎて怯んでくれるかもしれない。

 炸裂式のスフィアもいくつか展開して、腹マイト風特攻とかどうだろう。

 神風万歳!

 

『遅くなりました。まだご無事ですか?』

「こいつ、脳内に直接……いやこれ前にもやったわ。どちら様?」

『ドクターの指示でお迎えにあがりました』

 

 あの野郎。迎えを寄こすくらいなら、もっと早い段階で連絡寄こせよ。

 ついでに言うと、びびるから急な念話の割り込みもなんとかなりませんかね。

 今回は女の子の可愛い声だからよかったものの。これでおっさんの野太い声が割り込んできたら、いきなりすぎて俺の警戒心は有頂天ですよホントに。

 

『それでは、少々手荒な方法になりますので衝撃に備えてください』

「え? なにその不穏な言い方。やめてよ今ちょっと脳内が愉快な感じなのに!」

 

 これ以上、何を失えば俺は許されるの!?

 いやだが落ち着こう。偉大な先人は、こういうときのために素晴らしい言葉を残してくれている。

 どこからなにが来るかわからないとき、この言葉を思い出して用心するんだ。

 そう。上から来るぞ! 気をつけろぉ!

 

「あっ……」

 

 そんなことを思いながら勢いよく上を向いた瞬間、尻の感触と共に重力が消え去った。

 これ完全にボッシュートコースですわ、察し。

 

「テレッテレッテえええええええええええええええええええええ!?」

 

 頭上でゼストが「待てっ!!」とか叫んでいる気がする。

 けどまあ自由落下なんで、俺にはどうしようもないです。アデュー。

 そのまま帝国華撃団も真っ青なスロープを滑り降りていく。

 右へ左へ、ちょっと上がってから下がる。スパイラルっぽいのも抜け、っておいなげぇよ!

 これどこまで続いてるんだろう、と不安になってきた辺りでようやく出口が来た。

 どぼんと水の中に突っ込むオプション付きで。

 搭乗スロープかと思ってたら、ただのウォータースライダーだったで御座るの巻。

 

「冷てぇ。これは下水かな?」

「いえ、地下水です。衛生面に問題はないかと」

 

 振り返れば、そこに1人の少女が立っている。

 ウェーブがかた紫の長い髪が特徴的だ。確か、ドクターのところの秘書だったかな。

 えっと、ウーゴくんだっけ?

 

「ウーノです。とりあえず、そこから出てください。タオルはこちらに。ドクターのところまでお送りいたします」

「上のやつらは?」

 

 なんとか淵によじ登り、ウーノから受け取ったタオルで顔を拭く。

 まさか、こんな形で濡れる羽目になるとは。

 下着までびっちゃびちゃですけど。

 

「今回ご協力いただけたので、彼らの正体は掴めました。対応策は考えておきます」

「無断で協力とはいい度胸だあの野郎」

 

 ぜったいぶっ飛ばす。

 転移魔法陣が起動する中、それだけは固く心に誓った。

 





コンバット越前のエンム力が圧倒的に足りません><

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