はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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22失敗は味の素

 カチャカチャと卵を溶きながら、目の前で作業するシャマルさんを見張る。

 ちょっと目を放すと、大変なことになりそうで恐ろしい。

 この緊張感はなんだろうか。

 

「よし、じゃあその肉に下味をつけよう。まずは塩をひと摘まみ……違うそれはひと掴み!」

「え?」

 

 いや、そんな不思議そうな顔されても。

 

「今はトンカツを作ってるんであって、干し肉を作るわけじゃないからね? 塩漬けにしてどうする」

「え、でも今ひと摘まみって」

「いやだから摘まめよ、なんで掴んだ。実は力士かなんかなの?」

 

 ふ、太ってなんかいません! とシャマルさんが腕を振り回す。

 よし、今度からテメェの名前は関取だ。目指せ横綱!

 だから、その塩まきは本場所までとっといてくれませんかね。

 

「シャマルさんが俺を塩漬けにしようとする! ミイラになって発見されたら、犯人はこいつなんでよろしく!!」

「ち、違うんです! 手が滑っただけなんですぅ!!」

 

 半泣きでごめんなさいされたらどうしようもない。

 でも、とりあえず頭洗ってくるわ。海水浴したあとみたいな気分だし。

 

「いいか、俺が戻るまで絶対に続きをやるなよ? 絶対だぞ?」

「お前は夕食を台無しにするつもりか」

 

 足元から声がすると思ったら、ふくらはぎをザフィーラにかじられました。

 痛ぇ。

 もしかして、下味つけられてたのって俺か?

 た、食べても美味しくなんてないんだからね!

 

「あのマジ痛いんで勘弁してくださいお犬様」

「お前に生類を憐れむ精神などあったのか」

「あの、とりあえずワインを振りかければいいですか?」

 

 おいだからやめろって言ってんだろ。

 あと、テメェが今持ってるのはワインじゃなくてお酢だから。

 

「ちょっとザフィーラ交代。肉に下味つけるところで躓いてるから」

「思ったよりも早い段階で足踏みしているな。シャマル、続きをやるぞ」

「頑張ります!」

 

 やる気だけはあるんだけどなあ。

 空回ってるというか、トリプルアクセル決めて被害が出るレベルというか。

 台所に立つなって言いにくいから困るよねこれ。

 せめて、生贄は最小限にしよう。身内から殺人未遂とか笑えないし。

 

「でもなんでだろう。不安で胸がいっぱいなんですが」

「ごちゃごちゃ言ってる間にシャワーを浴びてこい」

 

 再びふくらはぎをがぶりといかれる。

 だから、痛いって言ってんだろ!?

 いい加減にしろよ? 頭から薄力粉ぶっかけて携帯のCMに引っ張り出すぞ!

 

「面白い格好で道頓堀に投げ込まれたくなかったら、今すぐ風呂へ行け」

「いえっさー」

 

 ザフィーラはやると言ったら必ずやる。きっとたぶんおそらくそういう奴だ。

 だが舐めるなよ? 俺は33-4なんて展開はきっちり回避してやる。

 そのためにも、まずは大人しくシャワーだ。

 なんでや阪神関係ないやろ! とはやての悲痛な叫びに背中を押されて一端風呂場へ。

 ついでに湯船の掃除もしてから居間へ戻る。

 

「あれれー?」

 

 ドアを開けて最初に見えた光景は、全員が着席している姿だ。

 これだけならおかしくはない。飯が完成したので、俺を待っていただけという風にも見える。

 問題はテーブルの上にあるカップ麺と、あとはなにかが焦げたような臭いか。

 え、なにこれどうなってんの?

 

「マモレナカッタ……」

「腐界に手を出したらこうなるんやな。身を持って理解したわ」

「あれがメラゾーマではなくメラだと? ありえん……」

 

 ヴィータ、はやて、シグナムが死んだ目でなにか呟いている。

 ちょっと言っている意味がさっぱりなんだけど、こいつら大丈夫か?

 

「あれ、そういえばザフィーラは――」

「中に誰もいませんよ?」

 

 視点の定まらない瞳で、シャマルさんが食い気味になにか言っている。

 っていうか、それあかんやつ!

 ちょっと目を放した隙に、本気でなにがあったんだよ。

 このお通夜みたいな状況の説明くらい、あってもいいんじゃないかな。

 

「おい、ザフィーラ?」

 

 とりあえず、台所にいるんじゃないかと覗いてみる。

 結論から言うと、そこにいた。真っ黒焦げの壁を虚ろな瞳で磨くザフィーラさんが。

 空鍋かき回してないだけマシなんだろうかこれ。

 そして、なんで火災の痕跡? まさか本気でフランベやったの?

 揚げ物だって言ったよね。炎上どころか危うくぼや騒ぎじゃないですかやだー。

 

「こんな短時間で昼ドラばりの急展開とか」

「ああ、お前か。今日の晩飯はカップ麺だ」

 

 あのテーブルはそういうことか。

 まるで最後の晩餐みたいになってたが、あながち外れてもいなかったらしい。

 明日までにコンロ直さないとな。

 

「カセットコンロの発掘は……今やってるんだな。手伝おう」

「すまない。引き戸が変形しているから、なにかで切断して開けてくれ」

「もうガチの火災じゃねえか」

 

 シャマルさんが、完全に戦略兵器化してるんですがそれは。

 あの人を敵地に潜入させれば、それだけで勝てる気がしてきた。

 もういっそ、管理局の本部にでも放り込んどこうかな。

 

「ところでザフィーラ」

「なんだ」

「その尻尾は……」

「なにも言うな」

 

 アッハイ。

 どうやらちりちりの尻尾には触れて欲しくないらしい。

 なんというか、ほら、ね? ファイト!

 

「…………」

 

 すげぇ怖い目で睨まれたため、さっさとコンロとヤカンを持って脱出する。

 台所の片づけは任せてしまっていいだろう。

 どうせ修理は俺の仕事になるんだろうし。

 

「台所のリフォームなんて初めてだわ。まさか俺こんなことをする日がくるなんて」

「一級建築士も裸足で逃げ出すようなん頼むわ」

「なるほど、耐震偽装をすればいいと」

 

 そういうのは一部の話しであって、全体ではないんやで? と軽く説教される。

 サーセン。

 とりあえずコンロに火を点け、ミネラルたっぷりのヤカンをセット。

 こう言っておけば、多少なりとも料理してる感が出るんじゃないかなたぶん……

 

「それにしても火災騒ぎか。シャマルさんの破壊力パネェ」

「違うんです! ちょっと失敗しちゃっただけなんです!!」

 

 ちょっとの失敗でこれか。

 大失敗したら街が1つ吹き飛ぶんじゃなかろうか。

 そう言えば最近、食材に包丁を入れるだけで爆発する謎のアニメを見たな。

 あんな感じで起こった事件なのかもしれない。

 どうせなら、食った後に口からビームが出てくれる方が嬉しいんだけど。あれがどういう感じなのか、ちょっと気になるんだよね。

 

「シャマル、もう料理は諦めろ。なんか、あたしの方がまだ上手くできる気がしてきた」

「まあ、なんだ。料理ができなくとも死にはしせんさ」

「シグナムがトドメを刺したように聞こえたのは俺だけか?」

 

 全力でシグナムが視線を逸らした。同時に、シャマルさんがテーブルに崩れ落ちる。

 湯加減を見ているはやてが助け舟を出してくれるわけもなく。カップ麺作りに精を出しているヴィータに関しては、もはや興味すらないらしい。

 こいつら自由だな!

 

「まあなんだシャマルさん。はやての手伝いはできてるんだし、加減をもろもろ覚えていくところから始めよう」

「うぅぅ……やぐもざーん!!」

 

 うわっ汚い!

 鼻水まみれでこっち来ないで!?

 

「わぁー、ヤクモさんはイケメンやなあ」

「おう、吃驚するぐらいの棒読みやめーや。あと、料理教えるのははやての役だからな?」

「事故になりそうやったら、ヤクモさんが颯爽と現れて助けてくれるんやろ?」

 

 なにそのとてつもなく高いハードル。

 言っとくけど、俺はスーパーマンじゃないしそんなことできないからな!

 でも、とりあえず台所に安全装置はつけとこう。耐熱板とスプリンクラーが完備のやつ!

 

「ホント、世の中って結局金だよね」

「渡る世間は鬼ばかりやしなあ」

 

 鬼っていうか金だけどね。

 借金やっほい!! カッコヤケクソ。

 




とりあえず、いったん伏線は撒き終えたので調子を戻そうとしたらこの様だよ!
私、今までどうやってギャグ書いてたっけ!?

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