はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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別のことやってたら更新設定するの忘れてたでござるの巻


20胡蝶のヤクモ

 ずずいとお茶をすする。

 うん、今日のは飲めるな。

 

「昨日のしょっぱいコーヒーはなんだったのか」

「そ、その節はご迷惑を」

 

 全力で視線を逸らしにかかったシャマルさんに肩を竦めて見せ、もう一口麦茶をすすった。

 もうホントに普通のお茶だわ。文句のつけようがないね。

 

「インスタント物で、どうやったら味を変えられるのか疑問だがな。砲撃、B3」

「砂糖の代わりに、塩が混入したんじゃないかなと推理してるんだけど。波高し。戦艦、東に2マス移動」

 

 ザフィーラの言葉にシャマルさんが若干凹む。

 この前のカレー事件といい、料理っていうか台所に立たせると危険な気がしてきた。

 本人はなんとしても頑張りたいようなので、特に止めるつもりはないが。

 犠牲者が出たとき用に、胃薬くらい準備しておいたほうがいいかもしれない。

 

「駆逐艦、南へ1マス。まあ、努力しだいでなんとかなればいいが。実験台はヤクモがやってくれるそうだ」

「攻撃、B4。お前も道連れにしてやるから覚えとけ」

「く、着弾。戦艦沈没」

 

 おお、当たったか。

 

「ところで、2人はさっきからなにをしてるんですか?」

「ん? 海戦ゲームって遊びだよ。最近、レーダー作戦ゲームってのを見つけてな。俺ら魔道師なら、脳内処理でなんとかなりそうだったし実験をな。いきなり縦横10マスもあれだし、5マスで済む方をザフィーラに付き合ってもらってる」

 

 まあ、実験とは名ばかりで意味のない暇つぶしなんですけどね。

 

「はやてたちも、買い物でしばらくは帰って来ないだろうしなあ。シグナムに押し付けた感はあるけど、騒がしいヴィータもいないから平和でなによりだ」

「あはは。ヴィータちゃんが聞いたら、それこそ騒がしくなりそうね」

「お前が煽るせいだと思うが。戦艦、北へ1マス」

 

 そんな、なんでもかんでも俺のせいにされてたまるか。

 あれはどう考えても性格の問題だろうに。

 ちょっとアイス食べちゃっただけでアイゼンを振り回されていたら、いつか骨を砕かれるんじゃないかと不安になる。

 誰か、俺の心労を気遣って欲しいな。

 

「シャマルさんが仲間になりたそうな目でこちらをみている。駆逐、北へ2」

「ルールがややこしくならないか? C1へ攻撃」

「あ、俺の駆逐艦が……」

 

 見事に轟沈してしまった。

 なんというめくら撃ち。ゆ゛る゛さ゛ん゛!!

 

「で、シャマルさんも暇なら仲間に入ってみる? C2、攻撃」

「ぐっ、なぜそこにいるとわかった……全滅だ」

 

 いや、意趣返しのつもりだったんだけど当たったのか。

 その辺にいるのはわかってたけど、まさか大当たりとは。

 

「じゃあ、ひと段落したし別のことでもやるか。3人でやる遊び……ハルマとか? 普通にゲーム機出してきてもいいけど」

「ハルマ? ってなんですか?」

「そもそもボードがあるのか」

 

 よく考えたらないな。

 アナログゲームを調べるのに気をとられて、現物のこと忘れてた。

 まあ、今度までに作っとこう。時間あったらだけど。

 

「しかたないからテレビゲームだな。確か、モノポリー系のソフトが1本だけあったはず」

 

 俺がソフトを漁っている横で、手早くザフィーラは本体の準備を終えている。

 なんだかんだで、こいつさり気ない気配り上手いな。

 流石は守護騎士のサポート担当。行動がイケメンのそれじゃないか爆発しろ。

 ところで、シャマルさんどこ行った。

 

「2人とも、ゲームするならお茶とお菓子もどう? って、そんな目で見ないで! 大丈夫よ、これははやてちゃんが作っておいてくれたものだから!!」

「ああ、それは安定と安心の提供だな」

「すまないシャマル。これには同意せざるを得ない」

 

 怒ったシャマルさんがお菓子の独占を宣言した。

 この瞬間、俺とザフィーラの結託が確定。初っ端から株で荒稼ぎし、慌てて買いに走ったシャマルさんを見て全売りしてやる。

 ああっ!? と悲痛な叫びは、大人しくお菓子をシェアすることで落ち着きを取り戻した。

 

 

 夢を見た。

 目を覚ますと俺がいて、こちらをじっと見ている夢だ。

 場所は八神家の居間。先ほどまで、ザフィーラやシャマルとゲームで遊んでいた場所である。

 ゆっくりとこちらを指差した俺が、もったいぶって口を開く。

 

―お前は刺されて死ぬ。じわりじわりと死んでいく―

 

 不意に見下ろすと、腹から刃物が生えていた。

 赤く滲んだ色に沈む、鉄の塊がずしりと重い。

 視線を戻せば、俺がくつくつ笑っていた。

 ほら見ろと。お似合いじゃないかと。目の前で俺があざ笑っている。

 おもむろに伸ばした手が届くはずもなく。そのまま目の前は真っ暗になり。

 

「なんという悪夢。おいはやて、頼むからどいてくれ」

 

 目を開けると、見慣れた天井が視界へ飛び込んでくる。

 いつもの八神家。差し込む夕日に照らし出される居間だ。

 なぜか腹の上にはやてが乗ってるけど。

 

「んー……あと5時間……」

「5秒で支度しな!!」

 

 眠いんやぁー……と目も開けられないはやてが、俺のお腹を圧迫する。

 頭が乗ってるなんてレベルじゃない。もう完全に上半身が乗っている。

 俺はクッションじゃないんですけどね!!

 

「ところで、左の太ももにも重みがあるんですがそれは」

「シャマルが枕にしているからな。こういうとき、リア充爆発しろと言うんだったか?」

「リア充って枕代わりの称号だったんだな、はじめて知ったわ」

 

 足が痺れて感覚ないんですけど、助けてはくれないんですかシグナムさん。

 

「今、ザフィーラが夕食の準備をしている。主ほどではないが、あれもそれなりに料理ができるからな」

「ザフィーラの万能感が凄いな。心の隅で、これはケモナー大歓喜! とか考えてたんだけど謝った方がいいかもしれない」

「お前がなにを言っているのかよくわからんが。とりあえず、主はやてはお疲れだ。ついでにシャマルの足止めも頼む」

 

 お前それ、疲れてるのって確実にヴィータのせいだろ。

 アイツに抱き枕役やらせろよ。っていうかどこ行った。

 

「ヴィータならそこだ」

「寝てんじゃねぇか。守護騎士って買い物ではしゃぎ疲れて昼寝するもんなの?」

「…………」

 

 おいこらそこで視線逸らすな。

 

「おっと、そうだ忘れるところだった。闇の書が主と一緒に昼寝をしたいらしくてな。ここまで連れてきた」

「え、連れてきたってお前その分厚い本どうするつもりで――ちょ、待てやめろ! そんなもん顔面に落ちてきたら流石に前歯が折れるわ!! 角度計算とかいいから!?」

 

 ちょっと残念そうに、シグナムが闇の書を胸の上に置いてくる。

 いやあの、それもそれで面倒くさいんですけど。はやての横にでも置いといてやればいいだろ?

 

「主の顔を見れる場所がいいそうでな」

「この本の目ってどこになるのか、素朴な疑問が俺の中を駆け巡っていくな」

「あくまでデバイスだからな。目で見るというより、スキャンで認識していると言う方が正しくないか?」

 

 その場合、別に顔の付近に置いてやる必要ないよね。

 オ・ノーレ!!

 

「もういいよ諦めました。で、今日の買い物はどうだった?」

「我々の衣装を追加で買っていただいたな。あとは下着類の充実と、ヴィータが人形をねだったくらいか」

「へぇ、シグナムのサイズがあったのか。流石、専門店は伊達じゃないな」

「まったく、頭をかち割って欲しかったなら早く言え。レヴァンティンの錆にしてやろう」

「ハハッ冗談きついなあ……冗談だよな?」

 

 ウィットに富んだ会話のキャッチボールじゃないか、もうちょっと冷静になろうぜ。

 だからほら、武器を下ろそうか? これじゃ、ただの斬首スタイルだし。

 

「まあいいだろう。それにしても、ずいぶんよく寝ていたようだが」

「あー、まあ留守番組みはゲームでヒートアップしてたからなあ。騒ぎ疲れたから、途中で昼寝タイムに入って……あれ、俺はいつシャマルさんの枕にされたんだ?」

 

 まあでもそうか。おやつの片付けとかしてたはずだから、最後に寝たのはシャマルさんのはず。

 俺とザフィーラもフローリングに直接寝てたからなあ。後から来たら、空いてるスペースで横になるのが普通か。

 え、普通か?

 

「俺の部屋だった場所、お前らに譲ったんだしそっち行ってもよかったんじゃ?」

「まあ、仲良きことは美しきかなとも言うそうじゃないか。悪いことではあるまい」

 

 そりゃそうかもしれないけど、俺の左ももを生贄に捧げる友情ってどうよ?

 

「お前は不思議なやつだな。気安いというか、壁はあるんだが見えないというか」

「きっとガラス製なんじゃね、その壁」

 

 もちろん、防弾仕様の。

 隠し事なんていくらでもあるから、そりゃ壁の1つや2つくらいはあるだろうさ。

 

「そんで? これどういう会話の流れなの」

「……お前、どういった内容の夢を見た? 我らが帰ってきた時点で、もうかなりうなされていたようだが」

「マジっスか……」

 

 ってことはなんだ。この2人は俺の心配をして、近くにいてくれたからこうなってると。

 なんという事実を教えてくれやがりましたんですかね、こいつは。

 これでもう、2人を無理やり起こしたり振り落としたりできなくなったジャマイカ……

 

「ホント、お前ら優しすぎて涙でそうだわ。お礼にシャマルさんをあげるから、お願い早くどけて俺の左足がおかしなことになる前に!」

「たまにはお前も酷い目にあうべきだと私は思う」

 

 鬼か。

 

「それで、どういう夢を見たんだ?」

「ずいぶん食いついてくるな。ちょっと腹から刃物生やして死ぬ夢だよ」

 

 しかも犯人が自分っていう。

 言ってて滅入りそうだなこれ。

 

「ふぅん、けっこう怖い夢見たんやな。頭撫でたげよか?」

「…………やられた」

 

 こいつ起きてやがる。

 というか、寝てると思ってたヴィータがぷるぷる震えている。

 これは全体的にはめられた感が酷いな。

 

「くそう、さっきまでの感情を返せと言いたい」

「まあまあ、そう怒らんと。ほら、頭撫でたげるで?」

「いらないから、とりあえずどいてくれる? 俺が起きれないんだけど」

 

 まあええやんか、と闇の書を撫でながらはやてが笑う。

 俺の左足的にはよくないけど、まいっか。

 そんなこんなで、ザフィーラ飯が完成するまでごろごろしていた。

 

「ん、ふ……あ、おはようございます」

「あ、こっちはガチで寝てたのか。俺の左足が持ってかれそうなんで早めに起きてくれますか?」

「え? あっ、きゃぁっ!?」

 

 おい悲鳴やめろ! なんで俺が悪いみたいになってんだ。

 それから、お前らは左足つつくのやめてください。あっ、触るな! 触るなぁっ!!

 




ひとつ前の話がとてもコメントし辛いものだったのは理解している。
しかし、この話もたいがいコメントし辛いと思うだ私!!

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