投降予約してたと思ったのに、なぜか投降されていなかった。
何を言っているかわからねぇと思うが、俺も何を言っているのかわからねぇ。
ただ、なんでか予約日時が年単位で間違ってたっていうか、来年の3/5に投降される予定になってたっていうか。
はい、私のミスですごめんなさい。_/\○_
八神家が俄かに慌しくなる。
とは言っても、はやては不思議そうな顔をしているだけなのだが。
主に騒然としているのは守護騎士の面々だ。ついでに、俺も内心ひやひやしてるけど。
なんせ、無差別に「七海八雲さーん、どこですかー!」なんて念話を飛ばす馬鹿がいるのだ。
俺の心中が穏やかなわけなくなくなくなくなくないじゃない。
「おいヤクモ。テメェ、いったいなにしやがった!」
「俺に聞かれてもなあ」
ずずいとお茶をすする横で、ヴィータが顔を真っ赤にしている。
これがデレなら可愛かったのだが、残念なことに激おこぷんぷん丸の方なのでどうしようか。
インフェルノする前には動くけど、今はまだそのときじゃないかもしれない。
あとシャマルさんは手元をよく見てください。
それチョコレート! カレールーじゃないか――あぁ……
「悲しい現実を見てしまった……」
「主はポテマヨにするそうだ。お前はどうする」
「あー、じゃあブッチャーキングで。あのカレーになれなかった残念スープはどうするよ」
元はといえばお前のせいだから、責任持ってなんとかしろという目でシグナムが俺を見てくる。
そのままザフィーラへ視線をパスしたら、自然な流れで更にヴィータへ受け流しやがった。
やるじゃない。
おいマジかよ……という絶望的な声は聞かなかったことにして天井を見上げてみる。
妙案とかどっかに書いてないかな。
「さて、どうするか」
『この念話、誰からか検討はついているのか?』
『こいつ直接脳内に!?』
いいから答えろと拳骨食らったので、大人しく高町なのはについて知ってることを喋っておく。
管理局の関係者だが、おそらく局員ではない。嘱託がいいとこじゃないかな、などなど。
聞けば聞くほど守護騎士達の顔色が悪くなっていくのだが、なにこれちょっと楽しい。
『そしたら、なのはが俺に向かって極大の砲撃を撃ってきてな。確か「ヤクモさんが避けると地球がコナゴナなのー!」とか言ってたような』
『管理局にそんな恐ろしい最終兵器があったとは。今後、警戒が必要かもしれないな』
『いや、今のはどう考えても嘘だろ』
ヴィータに言われて気付いたシグナムが、2度目の拳骨で俺を家から追い出した。
もろもろ解決するまで帰ってくるなとのお達し付きである。
「そんなこんなで呼び出しに応じてやったぜ!」
「えっと……はい、ありがとうございます?」
なんで疑問系なんだろうね。
いや、別にいいんだけどさ。
「で、あんな広範囲に念話とばしてまで呼び出した理由を聞こうじゃないか」
「実はフェイトちゃんのことでお話があって」
あ、これもう既にめんどくさい臭いしてるんですがそれは。
確かフェイトの身柄は、あのままアースラが持っていったはず。
となると、今ごろはミッドの法廷で大岡裁きを始める前準備をしているくらいか。
出来レースとまで言わないけど、きっと減刑されるに違いない。
情状酌量の余地は十分あるし、なにより被害者でもあるフェイトだ。彼らが鬼じゃなければ、きっと管理局へ引き込みにかかるだろう。
鬼は知らないけど、腹黒ならいたからね。優秀な魔道師を宙ぶらりんにするとも思えない。
「相談、ね。聞こうじゃないか、場合によっては手も貸してやろう」
「本当ですか!」
もちろんだとも。
誰もタダとは言ってないけどな。
「ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね」
そう言って、なのはは空間モニターを展開する。
通信の周波数を頑張って弄っているようだが。おかしいな、ちょっと時間かかってない?
『な……さん、き……るかしら。なのはさん?』
「リンディさん、まだちょっと音声が」
ちょっと待ってね、という雑音混じりの声がモニターから漏れ出す。
映像なしのサウンドオンリーにも関わらず、ここまで通信状況が酷くなるのも変な話だ。
ミッドチルダから第97管理外世界までって、そんなに距離あったかな。
『ごめんなさいね。まだちょっと安定しないけど、これくらいは許してちょうだい』
「お前らどこにいるんだよ。雑音入ってるけど、ミッドじゃないのか?」
『ミッドへ向かっているのは間違いないわ。まだ途中なだけで』
ん? それなら、やはりおかしい。
ミッドチルダに着いてないのもそうだが、近いのに通信が乱れる?
そんなわけあるか。
これはなにか起こってるんじゃ……
「まあいいや。で、俺になにをやらせたいって?」
『なんと言うか、あなたってかなり大雑把な性格をしているわね』
ははっ、褒めたってなにも出ねぇよ。
「リンディさん! 八雲さんがフェイトちゃんのこと手伝ってくれるそうなんです!」
『あらそうなの? てっきり、なにか要求されると思っていたのだけれど』
「よくわかってるじゃないか。どうせ裁判の証人とかだとは思うが、先に最低条件を言っとこうか。管理局に出頭して証人保護を受けろ、なんて言ったら俺は帰るからな」
わざわざ敵の巣窟へ飛び込む趣味なんて俺にはない。
大人しく逃がしてくれるとも思えないし。
『ええ、それくらいは理解しているつもりよ。それに、たぶんミッドまで来るのは大変だと思うわ』
「は? そりゃ確かに金はかかるが。ずいぶん含みがあじゃないか」
『小規模とは言え、現状で次元断層が発生しているわ。私たちも迂回しているせいで、帰路が長くなっているのだし。それとも、あなたのお友達なら次元断層を突っ切るような転移もできるのかしら?』
答えるわけないだろ。
にしても、次元断層ときたか。
原因は、間違いなくプレシアが起こした次元震だろうな。
あれ、これ俺も共犯者扱いされてるんじゃ。
『ああ、その件なら大丈夫よ。公式の記録上、あなたは存在しないことになってるから』
「そういうことか。じゃあ、どっちにしろ証人にはなれそうもないな」
どうせ別件で引っ張れるもの、とか考えてんだろうなあ。
ちくしょーめ!!
「まあ、次元断層はわかった。その辺は置いとこう。で、なおさらなにをさせたい」
『別に難しい話しではないのよ。あなたが持っているフェイトさんのデータが欲しいの』
データ?
いったいなんの……ああ、そういうことか。
『フェイトさんが言っていたわ。母親から虐待を受けたあと、あなたが治療したそうね』
「そうだな。治療痕の記録と、当時のバイタルデータなら保存してある」
もちろん、今のままじゃデバイスが起動しないから取り出せないけど。
「状況証拠ならいくらでも揃ってると思ったが。こんなデータまで必要なのか?」
『小規模とはいえ、次元断層が発生してしまっているから。フェイトさんに責任能力があるかないかで、判決は大きく変わってしまうの。バルディッシュの記録もあるのだけど、それだけじゃ納得させられるかわからないわね』
なるほど、デバイスとはいえ身内のデータだからか。
対比できる第三者の情報がなければ、真偽の判断もできないと。
それにしても、ずいぶん下地を固めにきてるな。
よっぽどフェイトにとって不利な条件があるのかもしれない。例えば、次元世界の1つでも断層に飲まれたとか?
「まあ、俺としてはバイタル関係のデータを渡すのもやぶさかじゃない。他にも戦闘中に降り注いだ空間干渉魔法とか、たまたま近くにいた民間人としてデータの供与は可能だが」
『タダではない、ということね』
もちろんという意味を込めて肩を竦めて見せたが、よく考えたらサウンドオンリーだった。
代わりに隣の幼女が険しい表情をしている。
当然のように、無償で協力してくれると思っていたらしい。
「60」
『45よ』
「57は?」
『49』
向こうの方が1つ譲歩してきたか、うーん……
「53、と言いたいところだが51まで譲ろう。代わりに輸送費を持ってくれ、そうすれば腕のいい転送屋も紹介してやる」
『あら、助かるわ。ではそれで。受け渡しは?』
「それも転送屋に仲介を頼んでおく。手数料くらいはサービスさせるさ」
そうしてちょうだい、と吐息混じりの声がモニターから漏れてくる。
おそらく、この交渉も公式の記録には残らないだろう。予算から用途不明金を捻り出すのは大変だろうが、それくらいあの腹黒い提督さんならなんとかするはずだ。
フェイトの才能と今後の働きをかんがみれば、ずいぶん安めに吹っ掛けたほうだろう。
うわあ、俺って優しい。
「じゃあ、受け渡しの場所だが――」
アースラの航路から、受け渡しに最適な場所なんかを話していく。
同時にメールで守銭奴に連絡を付けながら、細かいところを詰めていけば概ね完了だ。
当日は、雇われた現地民か専門のパシリを仲介に置くこととなるだろう。
俺の仕事はデータを渡して報酬を待つだけだから、その辺りの段取りは知ったこっちゃないけど。
「不満タラタラって顔だな」
「…………」
アースラと転送屋にパイプが出来てしまえば、俺はお役ごめんとなる。
モニターを閉じて隣を見れば、そこには口元を引き結んだなのはがいた。
そんなに熱烈な視線で見つめられたら、頭がフットーしちゃいそうだよ。
「どうして……フェイトちゃんを助けるのに協力してくれないんですか!」
「ちゃんと協力しただろ。有償だっただけで」
「フェイトちゃん、いい人だって言ってたのに。いつかお礼を言って、名前を聞くって。背中を押してくれた恩人だからって言ってたのに!」
俺の知らないところで株が鰻上りしてて恐すぎる。
なんだこれ、どう考えてもインフレしてんだろ。
さっさとオイルショックが来いよ。
「じゃあ、フェイトには汚い大人だったって伝えといてくれ」
「はやてちゃんも、八雲さんは優しい人だって」
「あいつは、俺が汚い大人だって知ってると思うけどなあ」
ここで「最終的に証拠は渡すし、その過程で俺の懐が潤うだけだろ?」と言うのは簡単だ。
だがまあ、そういうことを言ってるんじゃないってのもわかるはわかる。
どうも高町家の人間とトラブルことが多いと思ったら、早い話がこいつら正義の味方体質なんじゃないか。
士郎さんや桃子さんぐらいになれば、酸いも甘いも理解してるだろうから喧嘩にはならないが。しかし、恭也やなのはは違う。
善意で手を差し伸べ、無償で人を手助けする。そういう生活をしてきた人間に、俺みたいなのはさぞ邪悪に見えるんだろうなあ。
悲しすぎて涙が出るわ。
「打算と駆け引きで会話なんて、まあしないよな」
「どういう意味ですか」
「いや別に……はやてには好きなように言ってくれ。それで出てけってなったらそうするさ。どうせそんな――」
そこから先の言葉は飲み込む。
これをなのはに言ったって仕方ない。
なにより、やり残したことを片付けてからのことだ。
「そんな、なんですか?」
「そんなことよりおうどんたべたい」
え? と声を漏らしてなのはが固まる。
こいつも兄と同じで唐突なのに弱いな。
「じゃ、宅配ピザも来てるだろうから帰るわ。もう念話で呼び出しとかやめてくれよ? あと、俺と会いたくなかったらはやての家にも来るな」
背後で慌てたような声が聞こえるけど、待ってやる義理なんてどこにもない。
ちゃっちゃと八神家の玄関に転移して、俺のブッチャーキングを。
「お、帰ってきたか。お前のスペシャルシーフード残してあるぞ」
「いつから牛肉は魚介の仲間に入ったんだよ」
口の端にバーベキューソース付けて目を逸らしたヴィータと、コーンバターを一粒ずつ食べる意気消沈のシャマル。数種類を重ね置きされてどうしようか迷う犬ザフィーラに、シグナムはペプシが気に入ったのかぐびぐび飲んでいる。
なんだこのカオス。
ちょっと家を空けただけで、どうやったらこうなるんだ。
「お帰りや、ヤクモさん」
「おうただいま」
はやての隣に座りながら、さり気なくヴィータのピザにタバスコをぶっ掛けておく。
牛肉の恨みは恐ろしいぞ。
「で、なにしに出とったん?」
「ちょっと野暮用。実は軽く落ち込んでたんだけど、この惨状見たらどうでもよくなっちまった」
ギャーッ! と叫び声が上がる。
ざまあみろ。
「ヤクモさんでも落ち込むんやな。今はシャマルも落ち込んどるし、これ以上増えても困るんやけど」
「ああ、カレーになれなかったなにかね。今度、しゃべるお料理ナビでも買って来るわ」
ガタッと立ち上がったシャマルが、決意の視線を送ってきた。
やめろ、それたぶん失敗フラグだから。
あとザフィーラは人間フォームになって食えばいいと思うんだけど。
ちょ、シグナム。今のヴィータに炭酸はダメだろよくやった!
「この家、すげぇ賑やかだわあ。ちょっと安心する」
「全ての元凶の元凶はヤクモさんな気がする件について」
ははは、ご冗談を。
主人公が、俺いつまで悪役やればいいの? と言っているような気がしてきた。
きっと気のせい。大丈夫、お前はずっとそんな感じだから。
今回の話、いつも以上に収集つかなくなってる気がする。
そして、また五千文字近く書いてしまったという……
四千文字前後で軽く読める! を目指してるのにこの体たらく。
許してちょんまげ☆