「違うんですこれ本気で冤罪だから! 俺は悪くねぇ!!」
「それ、街ひとつ滅ぼした人のセリフじゃ……」
よく知ってるじゃないかツインテールちゃん。
「ともかく、話を聞かせてもらおう。父さんから任されている以上、場合によっては三枚におろさせてもらう」
「なにそれ恐い」
隣が厨房なせいか、ちょっと冗談に聞こえないんですけど。
そんな斬新すぎるダイエットはしたくないので、手短に経緯を話してしまう。
といっても内容は、車道に出てしまったお嬢さんをとっさに蹴って歩道へ戻したというハイパー嘘なんですけどね。
さっきから念話で、魔法のことは絶対に喋るなと釘を刺されまくってるから仕方ない。
むしろ、実は振りなんじゃないかってくらいの念の押しようだ。
押すなよ? 絶対に押すんじゃないぞ!
「なるほど。つまり、あなたはなのはを助けてくれたと。なんだ、それなら恩人じゃないか」
「そんないきなり『あなた』呼ばわりなんて。照れるじゃないかハニー」
凄く嫌そうな顔で返された。
まあ、勢いで言っといてなんだけど俺も嫌すぎる。
ヨツンヴァインな謎の生物が出てくる前にやめておこう。
「で、ご理解いただけたなら包丁は片付けてくれませんか? これ普通に脅迫だからね!?」
「にゃはは……お兄ちゃん、私もちょっとやりすぎだと思うよ」
「まあ、流石に俺もこれはやりすぎたと後悔している」
でも反省はしていないって顔してるのが恐すぎる。
シスコンってこじらせると凶器になるんだな。覚えとかないと。
包丁を厨房に返して戻ってきた恭也くんは、いろいろとなのはちゃんに説教をはじめた。
心配かけたくないのはわかったが、なぜ黙ってたんだとかそういう感じの。
店先で散々俺のこと止めたから、この誤解は当然だな。
だから、そこでどうしようって顔するんじゃありません。あとこっち見んな!
「あー、俺が黙ってるように言ったんだ。特に怪我もなかったから大丈夫だと思ったし」
何より他所の子蹴ったなんて聞こえ悪いでしょ? と肩を竦めて見たところ、鋭い眼光がこちらを向く。
恭也のにらみつけるこうげき。効果はばつぐんだ。
彼自身が恐いっていうより、化け物家系の補正付きでの話だけど。
ちょっと達人とかじゃないんで、見た目から「ムムッ、こやつできる!」とかはわかんないです。
生存本能的にやべぇ! くらいならわかるんだけどなあ。
「とても大人の意見とは思えないな。見たところ同世代だと思うが、責任感はないのか」
「体は大人、心は子供! そういう人に、私はなりたい」
危うく掴みかかられそうになったので一歩下がる。
包丁片付けた後でよかったよ、マジで。
「まあまあ、ちょっと頭冷やそうぜ。なんでこう、みんな沸点低めなんだろうな。冗談くらい言わせてくれよ」
「時と場合を考えろ! なのはが怪我をしてたかもしれないんだぞ!!」
「結果論だけど、今こうして元気にしてるんだからいーじゃん! いーじゃん! スゲーじゃん!?」
今度は本格的に殴られそうだったので、握られた右拳とは反対の左手側へダックインして向こうへ抜ける。
よし、動きはまだ普通だ。将来的にどうなるかは知らないけど!!
「お、お兄ちゃん! 暴力はダメだよ!」
「そうだよお兄ちゃん。暴力はんた――危ねぇ!?」
完全に背後へ回り安心してたら、前のめりの姿勢で後ろ蹴りが飛んできた。
咄嗟に膝から力を抜いて下に回避する。
「なんつう体勢で蹴ってくんだよ。化け物の片鱗でてるじゃないですかやだー」
で、そっちのなのはちゃんはアワアワしてる間にお兄さんを止めてくれませんかね。
さっきのヘッドバッドでもくれてやれば大人しくなるから。ほら急いで、ハリーハリー!
「どうやら、俺はお前のことが嫌いみたいだ」
「まあ、見知らぬ野郎に嫌われてもコメントしづらいな。悲しくて死んじゃいそうよ、とか言えばいい?」
蹴り上げ、かかと落とし、ハイキックからの回し蹴り。
流れるような動作で繰り出された4連打をなんとか捌く。
こんな狭いところで、よくもこんな派手な動きができるね。驚愕とか通り越してドン引きですよ。
しかも4連撃中、1回も蹴り足が地面に付かないってどういうことだ。
ホントもう、マジでやめてよねそういうの!!
『あのあの! 喧嘩しちゃだめですよ!!』
「いやお前、それは口に出して言おうぜ!」
「なんの話だ!」
ですよねー。
『適当に落としどころつくるから、あとは自分で誤魔化せよ? いいな』
『へ? それってどういう』
知らん。自分で考えろ。
「やーい、1発も当たってないでやんのー。見た目の派手さに拘るからだよぷーくすくぶっ!?」
無言で高速のアッパーカットが飛んできました。泣きたいです。
身を縮めてコンパクトに構え、殆ど予備動作無しでの一撃。
お見事。流石は化け物の血を引くだけある。
「あー、これダメなヤツ……」
目の前がゆらゆらしんてんよ。
自分がなにやってんのかわかんなくなってきたよ最近。マジ楽しいですわーカッコ棒読み。
「お、おい! なんで避けなかった」
「お、お父さん! お父さぁん!!」
なんか大騒ぎされてる中、そっと俺は目を閉じた。
合掌。
‡
西日に照らされながら、車椅子を押して帰路を歩く。
結構がっつり気を失っていたようで、起きたときは既に夕方だった。
開眼一番、はやてに目潰しされたので目覚めもばっちりである。
容赦? そんなもんなかった。
あー、それにしても痛い。
まだ顎ががっくんがっくん言ってる気がする。
「ヤクモさんはやることが極端やない?」
「んなこと言われてもなあ。いったい俺にどんな紳士的解決策を求めてんだよ。それが出来るんだったら、今からでも詐欺師に転職したいね」
そうすれば、少なくとも殴り合いなんてしなくて済むだろう。
まあ、出来ないから殴られたんだけどさ。
あーやんなっちゃった。あー驚いた。
ウクレレが欲しいところだな。
「そっちはどうよ。友達は大丈夫か?」
「アリサちゃんが凄い呆れとったで。すずかちゃんは心配そうやったけど」
「なんていうか、悪魔と天使だな」
気を失ってたから見てないけど、2人の反応は目に浮かぶようだ。
今度あったらなに言われるかまで予想できる。
きっと、あんたバカァ? って言われるに違いない。
「そんなに沢山の拍手が欲しいと?」
「なんなの、はやては俺を強制エンディングに放り込みたいの?」
ちょっとありがとうを言う父もいないし、とっくの昔に母とはさよならしてるんで勘弁してください。
「そんで? 結局なんでああなったん。恭也さんは優しいお兄さんやって聞いてるけど?」
「ちょっと煽り厨の真似をしてみたくなって。むしゃくしゃしてやった、今でも反省はしていない」
「え? むしゃむしゃしてやった?」
俺を食いしん坊キャラにしてどうするつもりだ。
そりゃ、乱闘途中にむしゃむしゃしてたら凄い腹立つとは思うけどさ。
「とりあえず、あんまりこの話題は突かないでくれる? まあ、察しはついてると思うんだけどさ」
「そやなぁ。じゃあ、私の気ぃ逸らせるもんあれば聞いたげる」
また難しい注文を。
どうしようかな。笑ってはいけない八神家の開催宣言とかどうだろうか。
あ、ダメだ。普通に全員から吊るされる未来しか見えない。
「んー……あっ、そういえば」
ふと上着のポケットを探れば、渡すタイミングを見失って数日放置されていたプレゼントの感触がある。
完全に記憶から抹消しかけてた。危ない危ない。
「ハッピバースデーはやて」
「……忘れとったやろ」
バレテーラ!
「いやまあ。ごたごたしてたし、これも円環の理に導かれた結果じゃないかな」
「その流れで行くと、ヤクモさんは首なくなりそうやな。見せてもらったデバイス的な意味で」
「今は長銃状態にできないし、なにより起動すらしないからセーフだって。たぶん」
あと、拳銃状態にも出来るから場合によっては無限ループ開始の可能性も微レ存。
心が擦り切れて悪魔化は遠慮したい。
そんなことを思いながら、プレゼントを渡す。
開けてもええ? と聞かれたので、お好きにどうぞと言っておく。
「ん、ヘアゴム? 思ったよりも普通やな」
「ネタに走って欲しかったなら先に言っといてくれ。自分をラッピングする用の長いリボンがいるじゃないか」
「ありのまま、今起こったことを話すで。ヤクモさんが予想以上に変態やった。なにを言っているかわからねーと思うが、私もなにを言ってるのかわからへんし警察さんこいつです!」
「おのれポルナレフ!」
近くに警官がいなくてよかった。あいつら執拗に追いかけてくるんだよね。
「で、ご感想は?」
「うん、ええ感じや。羽のワンポイントも可愛くて気に入った。けど、なんでヘアゴム? 私、そこまで髪長くないんやけど」
「伸びたら使えばいいんじゃね? 俺、実はポニーテール萌えなんだ」
「お、おう。とりあえず、ヤクモさんの偽名がジョン・スミスやなくてよかったわ」
アル晴レタ日ノ事。
魔法使いのヤクモが。
限りなく腹すかす、冗談じゃないわ。
「てっきり、こういうのは誕生日プレゼントに本名教えてくれるフラグやと思ってたんやけどなあ」
「あえて目を逸らしたのにこの子は! どこだよ! 今度はどこでやらかしたよ俺!!」
記憶にないぞ。
というか、この調子で俺の秘密を丸裸にされそうな勢いなんですけど。
「え、だって気付いたら親はおらへんかったんやろ? その時点で、前に言っとったたまたま理論は崩れとると思うけど」
「そんな前の話よく覚えてましたね……」
ねえねえ、今どんな気持ち!?
そう聞かれたら、こんな気持ちと言って涎を垂らした顔文字を書き込めるレベルだ。
なんだろうね。はやては俺を幼女恐怖症とかにしたいのかな。
「で、本名は?」
「知らぬ! 存ぜぬ! 省みぬ!」
「こまけぇこたぁええから言ってみ?」
いやガチでダメなんで教えませんけどね。
「まあ、それもそのうちぼろが出るんまってようかな」
「どんな口の滑らせ方したら、本名を全部いう事になるのか疑問でならない」
「でもヤクモさんならやりそうやん?」
「前科があるだけに否定の言葉が見つからないよね……」
おかしいなあ。
管理局は煙に巻けても、はやてから逃げきれる気がしないのはなんでなんだろうなあ。
ちょっと無理に髪を集めてポニーテールを作ったはやてが、振り向きながらこっちを向く。
よくお似合いじゃないですか。
「みんなにも見せびらかしたろかな」
「恥ずかしくなるから目の前でやるなよ?」
どーしよかなぁ、とちょっと上機嫌のはやてに溜息で答えながら帰路を進む。
うん。ヴィータ辺りがなんか言ってきたら、黙れファンブルと返してやろう。
次こそはおちゃらけ回書く! 本編とまったく関係ないおふさげ回書く!!
と思って何話重ねたかな。
でも、ここらでフラグ回収と建設イベントがまだいくつかあってだな……
追記
落ち着け。落ち着くんだ私。
自分で見直しただけだけでもわかり安すぎるミスが2箇所もあったぞ!
更に追記
3箇所でした…(白目