はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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は?
今日は普通の平日ですけどなにか?(白目


15錆も出れば棒に当たる

 はやてを病院に放り込み、って言うと聞こえが悪いな。なんでだろう。

 

「なんででしょうね」

「君はあれだね。僕を怖がるわりには話しかけてくるね」

 

 そりゃ怖いけど、視界に入ってなかったらもっと怖いし。

 もちろん、良心的な人であることはわかってる。だから奇襲の警戒もしてないわけで、この辺りがギリギリ限界だから許してください。

 あとは慣れってことでひとつ。

 

「とりあえず、予約してたケーキを受け取りに来ました」

「ああ、桃子から聞いてるよ。ちょっと待っていてくれ」

 

 奥に引っ込んでいく店員さんを見送りつつ、そうかあの人は桃子さんって名前なのかぁ、なんて思ってたら即行で戻ってきて変な声が出そうになった。

 はっやーい!

 例え保管庫が近かったとしても、今の速度はおかしいだろ。

 どうなってんの、ホントに人間でいいんだよね?

 

「うちの桃子が作ったケーキは美味しいからね。きっといい誕生日になるよ」

「よし、とりあえず情報ダダ漏れとかは置いとこうか。え、うちの? もしかして夫婦だったりとか」

「そうだよ。僕が高町士郎で、妻の高町桃子。ここは家族経営なんだ」

 

 ヴェーイ!

 そりゃ人妻だとは思ってたけどさ。もう少し夢を見させてくれたっていいじゃないか。

 こちとら花も恥らう20代だぞ。綺麗な店員さんがいたら、お近づきになりたいなとか考えちゃう世代なんだよ察しろ!!

 

「美人な嫁さん持っててオシアワセソウデスネ」

「え? あ、うん。そうだね?」

 

 くそう、これが勝者の余裕か……いや、流石になんか違う気がするな。

 というかなんの話しだっけ。

 確かに桃子さんは美人だけど、別に愛をささやくつもりなんてないし。こういうときは、とりあえずリア充爆発しろって言うんだったか?

 ん? 爆破するためにここへ来たわけじゃなかったような。

 

「えっと、ケーキはいいのかい?」

「ああっ!」

 

 それだ!

 ということで、さっさとお金を払ってしまう。

 それにしても懐が厳しい。ただでさえ薄い財布が、そろそろ透けてきそうだ。

 昨日のプレゼントも含め、どうしてこうなった。

 別に必要経費だから、散財だとは思わないけどさ。こうして借金に借金を重ねながら買い物してると、自分に甲斐性がなさすぎて笑えてくるよね。

 

「目から汗だって出るんだぜ……」

「君は、なんだかいつも忙しそうだね」

 

 いやあ、それほどでも。

 

「とりあえず、ありがとうございました。桃子さん? にもお礼を伝えておいてください」

「わかった。いい誕生日になるといいね」

 

 軽く頭をさげ、いつも通り後ずさるスタイルで店を出る。

 まだ、ちょっと背中がガラ空きは怖いんだ。許してくだちい。

 

「ふぅ、今日もなんとか生き残れた。今はデバイスもないし、本気でこられると負けるかもなあ」

 

 今のままでも魔法は使えるけど、戦闘になったら流石にね。

 ホント頼むから、もうちょっとしっかり人間やってくれないかな。

 

 

 ガチャリと玄関を開けると、ちょっと荒んだ目の黒尽くめ4人が待ち構えている。

 え、なんなのこいつら。ずっと立ってたの? くつろいでてくれってはやても言ってたジャン!

 

「ただいまー。あっ、これ食いかけだけどお前らの分ね。美味いケーキだから楽しみに……すいません、なんかリアクションくれませんか? そんな駆逐してやる! みたいな目で見られても困るんだけど」

「どこンシナ区出身や」

「思ったより語感が似ててびっくりしたわ」

 

 あははは、と2人で笑ってみるが苦しい。

 守護騎士たちとネタの共有ができてないせいかな。

 

「いやまあ、俺のせいってのはわかってるんですけどね?」

「私の誕生日やからとか言って、ごり押すからこうなるんやろ」

 

 あの時点で深夜0時超えてたし、子供は寝る時間だろうが常考。

 まあ、そりゃはやてが寝たあとに少し話はしてたんだけどさ。

 

『結局、貴様は何者だ』

『管理外世界出身、ヤクモ・ナナミ、ジャン!』

 

 語尾もちゃんと上げたのに、なにが悪かったんだろうか。

 全部ですね。知ってた……

 

「俺の持ってる情報開示するんで許してください」

 

 流れるような動作で土下座したのが功を奏したらしく、とりあえず全員でリビングまで移動する。

 はやてを含む女性4人が着席し、テーブルの上には問題の本が一冊。残りの野郎組はフローリングへ……あれ、なんで犬?

 

「この身は守護獣だからな。狼の姿にもなれる」

 

 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッ、まあ二度ネタは置いとこう。

 とりあえず、使い魔みたいなものという認識でいいのだろうか。

 前衛は2人いるし、後衛も1人いる。その繋ぎとして、中盤を支える縁の下の力持ち的な立ち位置を担っているのだろう。

 そんな立派な守護獣様にこういうのはアレなんだけど、俺は犬と同じ場所ですかそうですか。

 

「昨日はどたばたしてしまいました。改めて、私はシグナムといいます。順にヴィータ、シャマル、ザフィーラ。我ら守護騎士は、闇の書の収集を行い、主を守る存在です」

「うーん、つまりどういうことなん?」

「はやての命令があれば、犯罪にも手を染める危ないしゅうだ――ごめんなさい許してください命ばかりはお助けを!」

 

 じょ、冗談の1つくらい許してよ!?

 なんだか、最近シリアスなこと多すぎて耐えられないんだよこっちは!!

 今からまた真面目な話ししないとだめなんだしさ。

 

「闇の書ってのは、管理局でロストロギア扱いになってる魔道書のことだな。古代ベルカって文明があったらしいんだけど、その頃に作られたものらしい。因みにベルカ文明そのものはとっくの昔に滅んでるから、俺もあんまり知らないんだよね。そっち関係の知り合いが1人いるから、今度聞いとこうとは思うけど」

 

 うーんと思案顔のはやてに、シグナムが闇の書に関する取り扱いを喋り始める。

 そこに適時、俺の知っている範囲のことを差し込むわけだが。これちょっと情報量が多いかもしれない。

 

「つまり、闇の書のページを埋めると願いが叶うけど、人様に迷惑かけるってことでええん?」

「はやてさんマジぱねぇ!」

 

 今ので理解できたのか。これは脱帽もんですわ。

 

「そのリンカーコアっていうんは、魔道師の生命線なんやろ? それ引っこ抜くんやから、大変なことになるんとちゃうん?」

「まあ、大変ってか最悪死にますね」

 

 お腹から臓器引き抜くのと同じことだから。

 足を治して欲しいとか、叶えたいことはあるだろうに。結局、はやてが出した結論は「収集活動禁止!」の一言だった。

 かっこいいね。

 

「ああ、ついでに。必要ないかなと思って言わなかったんだけど、こうなったからには仕方ない。昨日、ランクの話はしたよな? はやてにもリンカーコアがあるんだけど、軽くオーバーSランクなんでよろしく」

「なん、やと」

 

 はやてさんTUEEE! が見れる日も遠くないな。

 いやあ、楽しみ楽しみ。

 

 しばらく中二病という言葉に打ちひしがれるはやてだったが、咳払い1つで立ち直ってシグナムたちを順に見回していく。

 最後に視線を俺へ向けて、にっこり笑って見せた。

 あ、この顔知ってる。俺のときと同じやつだ。

 

「まあ、私のリンカーコア辺りの話は今度聞くわ。それより、みんなの衣食住なんとかするんが先やしな!」

 

 まあ、このまま黒尽くめだと不審者として通報されそうだしね。

 実ははやてが着せ替え人形を手に入れただけ、なんて思ってない。きっと気のせい。

 

「ほらヤクモさんメジャー!」

「いやちょっと野球ボールは今ないかな」

 

 顔面をジャイロ回転さすよ? と笑顔で脅され、思わずダッシュで裁縫箱を取りに行く。

 首が凶ルなんてもんじゃねえよそれ!?

 

「最近、はやての発想がとんでもない方向にぶっとんでないかな」

「くだらんことばっか言うからちゃう?」

 

 あれ、おかしいなあ。否定の言葉がみあたらないよ?

 

「いつまでおるんや。はよ出ていき。みんなのサイズ測るんやから」

「え、俺は別に気にしな――あっ待てはやて。冗談! 冗談だから車輪はやめアーッ!!」

 

 ザフィーラに引きずられ、敢え無く廊下へと退場させられました。

 乱暴に放り投げられたので、フローリングにヘッドバッドしてしまい散々です。

 

「少しは自重したらどうだ」

「お前らがもうちょい気安かったら、端っこで大人しく三角座りしてたんだけどね」

 

 ひんやり気持ちいい廊下に寝転んだまま、軽く肩をすくめて見せる。

 僅かに守護獣様の表情がかげったのは、きっと気のせいじゃないだろう。

 俺が知っているだけでも、闇の書はこれまで戦って戦って戦いぬいたロストロギアだ。ここにきて、環境ががらりと変わったんだから戸惑うのも仕方ない。

 まあ、その辺はおいおい慣れていけばいいんじゃないかな。

 むしろ、今はそんなことよりもその太すぎる眉が気になる。

 え、なにそれどういう感じで生えてるの? 私気になります。

 

「まあ、暮らしてるうちに心情くらい変化するだろ。とりあえず、ちょっとその眉毛触らせてくれない?」

 

 一瞬でザフィーラの視線が冷たくなった気がする。アルェ?

 

「いやほら、ちょっと構造的に気になるじゃん? 触ってみればなにかわかる気が、げふっ」

「わけのわからんやつだ」

 

 後頭部の方からため息らしきものが聞こえる。

 というか、足どけてもらえませんかね? 廊下と熱い口付けを交わして、愛を語る趣味は持ってないんですが。

 ほら、いい子だから。お手は後頭部じゃないくて、掌にするものだからね?

 アフルにやり忘れたジャーキーもあげるし、ちょっとその開放してくださいお願いします。

 

「あと、ここは定番的にこっそり覗くところだと思うんだ。ほら、男同士の友情とか深めようぜ痛い痛い痛い!!」

 

 割れる! いや違うこれ潰れる方が先だ!!

 

「おい、ちょお前。マジか! マジでかっ!?」

「一瞬でも感心した自分が嫌になる」

 

 ちくしょう、リビングからは楽しげな声が漏れてくるというのに。なにが悲しくて、頭を力いっぱい犬に踏まれなくちゃいけないんだ。

 男たるもの「え? シグナムの魔乳が重すぎて計りづらいだって? じゃあ俺が支えててやんよ」くらいの紳士的な行動を痛い! これ痛すぎて冗談も考えてられないんですけど!?

 これあかんやつ!!

 あばばばと暴れてみたところで、ザフィーラはびくともしない。

 危うくなにか目覚めそうなので早く解放して欲しいんだけど、よく考えたらはやてに誕生日プレゼント渡すのも忘れてる。

 どうしてこうなった!

 いや、自業自得なんですけどね。知ってた知ってた。

 




バレンタイン話の更新だと思った? 残念、通常更新でした!!
いや、もうホント泣きたくなるわ……
(ぶっちゃけ、これを言いたいが為だけに大慌てで続き書いてたとか内緒な)

書けば書くほど面白いのかわからなくなる病気が発症中。頑張れ私!!

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