はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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14口は八丁手はアチョー

 見上げれば満天の星空。そして、見下ろせば眠りかけの疎らな街明かり。

 夜の闇に溶けるような地上と空の狭間で、俺とはやては寝転がっている。

 あれがデネブ、アルタイル、ベガとかやればいいだろうか。もしくは、北斗七星の真横にある星とか見つけるのはどうだろう。

 

「あかんでヤクモさん。今めっちゃええ感じやねんから、余計なこと言わんといてや?」

 

 あっぶねぇ!

 

「俺の行動パターンばれつつあるよね」

「そら、わかりやすいからとちゃう?」

 

 なん、だと。

 こんなにあれこれ策謀を張り巡らせてる俺がわかりやすい?

 そんなバカな。きっと孔明先生も草葉の陰で顔を青くしてるはずなのに。

 

「そんで、いつんなったら回復するんや?」

 

 今でしょ!

 あれ、孔明先生って塾の講師だっけ?

 

「すまんね。デバイスないと魔力の変換効率が悪いんだわ。もともと、ぎりぎりAランクぐらいの魔力しか持ってないもんで」

「ランク?」

「あぁー、そうだった。本来は魔力総量とか運用技術なんかをランク付けする制度なんだけどな。魔力の出力量から推定のランクを出して、おおよその目安にしたりするんだわ」

 

 運用まで入れれば、たぶんAA+くらいはあるはず。

 けど、管理局の定めた基準だしなあ。こっちもわかりやすいから使ってるだけで、正確に測定したことはないし。

 あ、でも資格方式なんだっけ?

 どうでもいいけど、管理局の体制とかはよくわからんね。

 

「で、その目安で区切ると大体Aランク相当ってことになるらしい。目指せSSSSSSSランク!」

「ヤクモさんがTUEEEとかやってるとこ、欠片も想像でけへんわ」

 

 最近のはやてさん、俺の扱い酷くないっすか?

 

「まあ冗談は置いといて、そろそろいけそうだから」

「大丈夫なん? 途中で墜落とか嫌やで?」

「それ笑えないやつじゃねえか……多少だるいくらいだから大丈夫だろ。それに、そろそろ日付がかわりそうだし。俺がへばってたから、なんて理由で寝誕生日はまずい気がする」

「そんな寝正月みたいに言われてもなぁ」

 

 こまけぇこたぁいいんだよ!!

 

「さあお手をどうぞ。傭兵にだって、お姫様のエスコートぐらいできることを教えてやろう」

「そこは騎士とかちゃうんかいな」

 

 俺がそんな華やかな存在に見えますかね? それもそうやな。というやり取りを経て、お姫様抱っこのはやてと共に上空を目指す。

 今回は雲と同じ高さまで行く予定だったため、途中で休憩を挟んである。

 積雲や層雲ぐらいなら2000mくらいで済んだんだが、間の悪いことに巻雲ぐらいしか見当たらない。この分だと最低でも5000m前後、最悪の場合10000m以上の高さまで行く必要があるだろう。

 気圧の変化は防御魔法で気密を守ればなんとかなるが、流石に休憩無しで一気に行くのは無理くさい。

 こちとら、高速移動用の魔法と足場の生成でなんとかしてるからね。

 低スペック乙!!

 

「さあて、やってまいりました。星は綺麗に見えるからいいけど、昇るの超たいへん」

「おー、すごいなあ。雲に触れそうや。触られへんの?」

「そうだなあ。いきなりエベレストの山頂付近に放り出されました、みたいになってもいいなら防御魔法を解除しますけど?」

 

 高度9000mの猛威に耐えられるならやってもいいよ?

 俺は凍る自信あるけど。

 

「それは流石に無理やな。ちょっと残念やけど、これはこれで楽しいわ。目の前で雲が割れるなんて、初体験やしな」

「はつた……いやごめんなさいなんでもないです。ただの全方位防御魔法だから、飛行機とか突っ込んでくると一巻の終わりだけどな」

 

 ラウンドシールドならギリ耐えられる。たぶん。

 まあ、そもそも質量差で吹っ飛ばされるのがオチだとは思うけどさ。

 

「魔法にもいろいろあるんやね」

「わあ、都合の悪いところは聞かなかったことにするつもりだこの人」

 

 無言のはやてに額をぺしぺし叩かれる。

 その残念なものを見る目やめてくれませんかね? なんていうか、悲しくなってくるんですけど!?

 

「さあて、そんなこんなでお時間が迫ってまいりました。12時だよ!」

「全員しゅーごー!」

 

 はやてさんノリよすぎワロタ。けど、全員って誰だよ。

 

「なーなー、ヤクモさん」

「なにかなはやてさん」

「あれはサプライズってことでええん?」

「ちょっと空飛ぶ本に心当たりはないかなあ」

 

 全員集合とか言うからじゃないかな。

 いや、言わせたの俺だけどさ。

 

『Ich entferne eine Versiegelung.(封印を解除します)』

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」

 

 え、これはやての部屋にあったロストロギアだよね? なんでこんなとこに……

 って、いかん冷静に観察してる場合じゃなかった。

 これはまずい。どう見ても起動状態です本当にありがとうございました!

 ロストロギアなんて厄介なものが、この距離で起動とか勘弁してください。

 逃げよう、今すぐ逃げよう。

 

『Anfang.(起動)』

「マタシャベッタァアアァアァァアアァァァアァァ!!!」

「いや、さっきから騒ぎすぎやろ」

 

 ほら、片方が大慌てするともう1人は冷静になる法則だよ。

 俺なりの気遣いだって。う、嘘じゃないんだからね。

 

「で、凄い光ってるんやけど。これ大丈夫なん?」

「全然大丈夫じゃないです。今すぐ逃げるから落ちるなよ?」

 

 とりあえず、ショートジャンプで距離を……ってアルェ?

 いきなりはやてのリンカーコアが露出したんですけど、これどういう状況ですかね。

 なんやこれ!? と騒がれても、ちょっと俺だってわからないんですが。

 誰でもいいから説明はよ!!

 

「待て、よしちょっとタイム! 俺に考える時間をください!!」

「わあっ、ヤクモさん人! 人がおるよ!!」

「だからタイムだって言ってるじゃないですか!!」

 

 泣くぞチクショウ。

 

「闇の書の起動、確認し――」

「うるせぇ! もうちょっと時間くださいお願いしますから!!」

 

 よし、落ち着け。クールにいこう。

 こういうときは、まず状況の整理からと相場が決まっている。

 はやての部屋にあったロストロギアが起動しました。

 更にいきなりリンカーコアが露出して、目の前には4人の見慣れぬ影。

 えーっと、コアの露出はおそらくロストロギアとの接続? いや待て、じゃあこいつら誰だ。

 闇の書の起動を知ってたってことは、それ系で用のある人物たちてことでいいんだろうか。

 女3に男1、全員が跪いたまま俺に視線を注いでいる。いやん。

 こいつらを闇の書の関係者と仮定しよう。けっこう有名なロストロギアだから、それ系で動いてるやつなんてすぐ話題にあがりそうな気もする。

 だが、そんな噂は聞いたことすらない。こいつらがテロリストカッコ笑いである可能性は低いだろう。

 かと言って、こいつらが管理局の関係者とも考えにくいんだよなあ。そうだったら今ごろ杖を向けられて、大人しく投降しろ! とか言われてるはずだ。

 つまり、ほら。アレだ。

 

「わからんということがわか……あ、闇の書?」

 

 ファッ!?

 

「どうしたんや?」

「これはまずい。非常にまずい。え、闇の書って言った? マジで? 嘘でしょ? 嘘だと言ってよバーニィ」

「私はクリスちゃうで?」

 

 知ってるわ!

 

「お前ら、もしかして噂の守護騎士か。うわあ、めんどくさいことになってきたなぁ」

「さっきから聞いていれば貴様。いったい何者だ。我らの主をどうするつもりだ」

 

 ポニーテールさん目付き悪すぎて怖い。というか、なんで俺が悪者みたいになってんだよ。

 もうちょっと時間が欲しいな。だからそこの赤チビ、しばらく座ってろください。

 

「おうテメェ。あたしたちベルカの騎士を舐めんじゃねぇぞ」

「騎士っていうか、ただのチンピラだよこいつ!?」

「なあなあ。状況が飲みこまれへんねやけど、今どんな感じなん?」

 

 だんだん収集つかなくなってきた上に、俺が崖っぷちって状況ですけどなにか?

 

「簡単に言うとだな。あの本と4人組がはやての財産になったって状態かな」

「……んん? つまり、家族が増えるよってことでええん?」

 

 やったねはやてちゃん。っておいやめろ!

 その発想はなかったよ。流石にポジティブ過ぎやしませんかはやてさん。

 

「すいませーん。ちょっとそっちの守護騎士さん側で、話のできる人を出してもらえませんかね? あ、目付きの悪いポニーテールと赤チビは除外で」

 

 おい、そこで武器を構えるのはやめてもらおうか。

 仕方ない。ここはお仕事モードで、真面目にやらないと生命の危機が危ない。

 

「ご覧の通り、俺は空戦ができない。だから逃走の心配はしないし、人を担いでお前らとやりあえる実力もない。一度警戒を解いて、ちょっと俺と答え合わせしてくれないかな?」

「そうすることで、我らになんのメリットがある」

「お前たちが優先すべきは、主の安全だろう? 俺だって傷つけるつもりはないが、ぽっと出のやつらにハイどうぞって言えるほど浅い関係でもないんでね」

 

 語り合おうじゃないか。

 武器を持って殴りあわなくても、人には考える頭と伝える口があるんだから。穏便に済ませられるなら、それが一番だ。

 

「誰やあんた」

「はやてさん今そういう発言ややこしくなるから控えて!?」

 

 お前、そりゃ逃走どうのはブラフだけど敵対したいわけじゃないからね?

 条件にもよるけど、ガチンコで勝てないのも事実だし。こんなところで撃墜されたら、間違いなく死んじゃうから。

 

「わかりました。それなら、私がお話しを伺います」

「おいシャマル!」

 

 いいから、と赤チビを抑えて女性が進み出てくる。

 ポニーテールとアイコンタクトまでして、あれは念話でなに話されてるかわかったもんじゃないな。

 不意打ちの算段とかされてたらどうしよう。

 

「ぶ、文化的にいこうじゃないか。ね? 文化的に。暴力はなにも生み出さない」

「一気に腰ひけとるやん。もうちょい頑張りや」

「お前、これ4対1だってわかってる? リアル弱い者いじめだし、弱者(俺)がハンデ持ちっておかしいだろ!?」

 

 このあと、なんやかんやで穏便にことは済みました。でも、代わりにはやてと守護騎士たちの俺を見る目が『情けない男』って感じの雰囲気で泣きそうになりました、まる。

 




突然、お気に入りが50件以上増えたんですけども……
神よ、いったい何があったというのですか? 私、明日あたりに滅んじゃうんですか??

当初は「総UA:240前後/お気に入り:1(自演)」とか予想してたんですが。
気付いてみれば、お気に入り100件超えて150件も通り過ぎましたね。ありがたいことです。
ただし、どこまで行っても小市民な私は、この1週間(というか昨日)の間に何があったのかと冷や汗が止まりません。

かなりビビリながら続きも書いていきますので、お付き合いいただければこれ幸い。

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