はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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13家主に交われば赤くなる

 人様に迷惑かけるんやない、とはやてに怒られた。しょぼーん。

 

「なんや、イラッとするわそれ。ちょっとそこ寝てみ。轢いたるから」

「発想が恐ろしすぎる。あのつり目ちゃんといい、最近の小学生は容赦ないなあ」

 

 え、俺のせいだって? 知ってた。

 

「まあ、そんな感じでケーキは予約したから。誕生日にはやてが作るのも変な話しだし」

「確か翠屋って、この前の美味しいシュークリームのとこやんな? ショートケーキも美味しかったし、楽しみやなあ」

 

 確かにあそこのは美味かったよなあ。

 しかし、ケーキでこれだけ喜んでくれるなんて予想外だった。

 これ、プレゼントのハードル上がっただけじゃないかな。白目。

 

「誕生日って定期検査と被ってるんだっけ?」

「そや。検査のあと、石田先生からお食事に誘われとるよ。もちろん、ヤクモさんも込みでな」

 

 ちゃんと呼んではくれるらしい。ぶっちゃけ、少し心配だったのは内緒だ。

 まあ、あの人も仕事あるだろうしなあ。夜が空いてないなら仕方ないか。

 ケーキはどうしよう。はやての検査中に俺が取りに行くとして、レストランで出すと怒られる気がする。

 うーん……まあ最悪の場合、奥義を使ってなんとかするか。

 猛虎落地勢に敵はない。

 

「そんで、まだ1日の猶予があるわけやけど。ヤクモさんはなにをくれるんやろうなあ」

「HAHAHA! それはそれはいいものを考えてございますのことよ?」

「目が泳ぎまくっとるがな」

 

 見えないだろうけど、背中の汗も凄いんだぜ。

 

「女の子の趣味なんて俺にわかるかよ。ハードル上がると洒落になんないんで、あんまり期待しないでください」

「ふぅん、それでもちゃんと用意してくれるんやな」

 

 そりゃお前……っておい、顔がにやけてんぞ。

 まったく。誕生日のプレゼントは俺だよ! とかやろうかと思ってたけど、これは真面目に考えないといかんね。

 

「ああそうだ。誕生日で思い出したけど、散歩の件どうする? 昼間は検査とご飯で潰れそうだから、そのあととか?」

「んー。でも、誕生日は家で過ごしたいしなあ」

 

 いつ行こ? と首を傾げられても困るんですけど。

 でも実際、ささやかなパーティーをやってやりたいから家で過ごすのには賛成だ。

 ご飯の後にちょっと外へ出るのもありだが。しかし、食後にすぐ運動というのもしんどい。

 昼に余るだろうケーキも控えているから、できたら人心地つけておきたくもある。

 

「もういっそ、明日の日付変わるくらいに行ってみるか? 誕生日の瞬間、地球にいませんでしたとかどうよ」

「なんやその新年イベント」

 

 えー、流行ってるって聞いたのにー。

 

「でもそれええなぁ。この前は夕方やったし、今度は夜景とか今から楽しみや!」

「じゃあ、明日は11時くらいから上がるか。街の明かりが少なくなったら、きっと星が綺麗に見える」

「なん、やと……ヤクモさんがロマンチックなこと言うとる。熱でもあるんちゃうの?」

「お前は俺をなんだと思ってんだ」

 

 星ぐらい俺だって見るわ。

 遭難したときとかの必須スキルだぞ。

 

「前から思ってたんやけど、ヤクモさんホンマなんの仕事してるん? 何でも屋みたいなんかと思ってたけど、そういう感じでもないねんな」

「あれ、なんでこんな雲行きが怪しい話題になったのかな?」

 

 わけがわからないよ。

 と茶化してみたものの、ちょっとはやてさんの目が怖い。

 あ、これ今度こそ言い逃れできそうにないかも。

 

「なんていうか、ちょいちょい変なとこはあったんよ。言葉の端々にある違和感いうか、それ今聞いてもええ?」

「けっこう今さらじゃない? この話」

「誰かさんがおらんかったから、聞きそびれとったってのもあるんやで?」

 

 まだ根に持っていらっしゃるとは。

 その節はご心配おかけしました。

 

「まあ、実際のところ言ってないことがあるのは認める。けど、特に隠すつもりもないから聞かれたら答えてあげますよ?」

「……せやな。例えば、もしかしてヤクモさん家族おらへんかったりする?」

 

 くぁwせdrftgyふじこlp;!?

 

「……ノーコメントで」

「やっぱ、おらへんのやね」

 

 おいおい嘘だろ。そんな話いつしたよ。

 口を滑らせた記憶なんて、欠片もないはずですけどそれは。

 

「参考までに、なんで俺に家族がいないと思ったのか教えてくれる?」

「いくつかあるで。最初におかしい思うたんは、私くらいの歳で働いてたって言うてたときやな。確信を持ったんは昨日、誕生日やったことない言うてたからやけど」

「なるほど、普通は家族がいればやってるはずと。家庭環境が酷かったっていう可能性は?」

「そうやったとしても、早いうちから働いて自立しとったんやろ? 離れて過ごしとったら、おらんのと一緒や思うで」

 

 なるほど、仮に親子の縁を切ってたとしても同じ質問で通りそうだ。

 確かに、魔法圏で仕事をしている人間の平均年齢は低い。場合によっては1桁の年齢で働いているものもいる。

 だが、それらはそうしなくては生活できない子供たちだ。

 一般家庭で、家族の庇護下を抜けてまで働いているような子供はほとんどいないだろう。

 ホント、よく頭が回るじゃないか。

 いや、感心してる場合じゃないんだけどさ。

 

「あとは免許証のこととか、ウィルスデータ作ってたとか、管理局ってところから逃げまわってるとか。もろもろ考えたら、世間的には犯罪者ってことでええん?」

「そうだな。そっちは別に隠すつもりもなかったし、あえて言うつもりもなかったけど」

 

 とはいえ、目の前でいろいろやってたからそれは気付いて当然だろう。

 逆にあれでばれなかったら、はやてがかなり察しが悪い子ということになる。

 

「そうか。それやったら、いろいろ話してもらおか。中途半端なごまかしは聞きたないで? 完璧に嘘つくか、ホントのこと言うかどっちかにしてや」

「きっついこと言いやがって、マジで最近の小学生怖いわ。おっけー、俺の負けです。インディアン、嘘つかない」

 

 え、なんでそこで胡散臭そうな視線がくるんですかね?

 

「まあ、ってもそんなに難しい話じゃない。ただ俺が孤児なだけ、それで全部だ。気付いたら親はいなかったし、自力で生き抜くしかなかったから今の仕事を……おい、お前なんて顔してんだよ」

「……どんな顔しとる?」

 

 ちょっと女の子がするべきじゃない顔してるかな。

 声も震えてるし、動揺してるのがまるわかりだ。

 小学生相手に、思ってることを表情に出すなってのが無理な注文なのもわかるけどさ。

 

「別にお前が気に病む必要はないからな?」

「それくらいわかっとるよ」

 

 わかってなさそうだから言ってるんですが。

 

「反応に困るくらいなら聞かなきゃいいのに。まあ、もう言っちゃったから最後まで続けるけどさ。えぇっと、どこまで話したっけ……ああ、そうだ。生きるために今の仕事始めて、悪そなヤツはだいたい友達までだったかな」

「気ぃつかうつもりあるんやったら、もうちょい丁寧にやって欲しいわ」

 

 その調子その調子。

 

「実際のところ、半分はホントなんだけどな。最初のころは盗みとかもしてたし。そのあと、人に拾われて半分何でも屋の傭兵業を始めたんだ。だから、あまりガラのよくないやつらも知ってる」

 

 俺のこと拾ってくれた人も、あんまり良心的な分類にはできないからなあ。

 なんせ、その娘は親の影響受けすぎて守銭奴の転送屋やってるぐらいだし……カッコ遠い目。

 

「中には優しいやつだっているかもしれないけど、それだけでやっていける環境でもなかったからな。拾ってくれたオッサンも、言わないけど俺に利用価値をみつけたから引っ張り込んだんだと思うし。そこそこ感謝はしてるんだけど、口に出して言ったら負けみたいな?」

 

 その辺、ちょっと気分的に複雑である。

 こうして普通……かどうかは微妙だけど、それなりに生活ができるのは今の仕事があるからだ。店先から商品盗んだり財布スッたり、そういうやり方で飯の確保をしなくていいようになったのは大きい。

 しかし、同時にこの生活をいいと思ってないのも事実である。

 今回、プレシアの一件が運悪く明るみに出てしまったわけだが。もちろん、俺個人に対する罪状でいうならこれは氷山の一角だ。

 密輸に脱走、公務執行妨害もやった気がする。あ、不正アクセスもか。

 プレシアの事件だけで少なくとも4件。過去の違反行為も掘り起こせば、軽く5倍くらい膨らむんじゃなかろうか。

 もう、芋づるで管理局に嗅ぎつけられないことを祈るばかりだ。

 

「まあ、だいたいそんな感じかな。他に聞きたいことは? もしくは、出てけとかある?」

「それじゃあ、最後に質問や。ヤクモさんは私が同じように親無しやから、かわいそうでここにおるんか?」

「ノーだけど、なにこのアホらしい質問。俺は身を隠すのにちょうどよかったから、お前の家に転がり込んだの。言っとくけど親無しの子供見つけるごとに助けるほど、俺は心優しい人種じゃないからな?」

 

 ま、そうやんなと息を吐きながらはやてが呟く。

 ここでそれはずるいだろ。

 

「それに、俺は哀れみじゃなくて気遣いでここにいるんだよ。他人のことなんて知らんが、身内なら話しは別だろうが言わせんな恥ずかしい」

 

 というか、言っといてなんだが何様だ!!

 これは痛い。痛すぎて黒歴史化待ったなし状態すぎる。

 噂の中二病とかいう病院で治療できない病気だろうか。ここ最近、柄にもないことをやり続けた結果かもしれない。

 

「あはは、なんやのそれ。顔真っ赤にして、新手のツンデレか? ツンデレなんか?」

「やかましい! 誰のせいだ誰の!!」

 

 これしばらくネタにされるんだろうなあ。

 そんなことを思いつつ、ニヤニヤ顔で騒ぐはやてをキッチンに放り込む。

 さっさと晩飯作ってくれませんかね! という感じで強引に話しを打ち切り、うやむやにするのがやっとだ。

 ただまあ、そのあと出てきた晩ご飯がちょっと豪華だったのは、気のせいじゃないと思う。

 




おかしい、こんなシリアル展開どこから出てきたんだ…
あと、早くも私のことわざストックがやばい(迫真
辞書片手に勉強しなおしとこう

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