はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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あっさりA's編突入の巻


A's
12ヤクモに反哺の孝ありき


 五体投地とは、己の身を大地に投げ出して行う行為。

 土下座? 生ぬるい。

 膝を折って頭を地面に擦り付けるよりも、これは上位互換に位置する。

 体の前面はすべて地面と一体化し、背中は一片の影もなく天井を仰ぐ。

 決して寝ているわけじゃない。これは最上位の礼だ。

 

「で、ヤクモさん結局なにしてたん」

「えっと、出稼ぎ?」

「出稼ぎで借金作ってくるんやったら世話あらへんな」

 

 ごもっとも過ぎて言い訳の余地もない。

 

「まあそれはええわ。そんで? もう6月やねんけど。話を聞いとる限り、1週間くらい誤差あるわな。なにしとったん?」

「管理局と追いかけっこ……」

「ホンマにぃ?」

 

 ほほほ本当ですよ? 半分は……

 実際、不慮の事故で管理局に逆探知されたときは本気で焦ったが。まあ、隣にいたやつを思えば言うほどの脅威ではない。

 むしろ問題なのは、あの守銭奴が慈善で助けてくれないところである。

 人の足元見やがって……ぐぬぬ。

 

(でも仕方ないよなあ)

 

 あの時点で体調は絶不調、頼みのデバイスもパーツが足りないので起動できず。魔力にしても、ようやく少し回復してきたところだった。

 完全に無理ゲーじゃないですかねこれ。

 根本的に、あの次元震の中を転移する方が頭のおかしい話である。

 今回はレアスキルの転移だったから無事だったものの。あれが通常の次元転移だったとしたら、俺も今頃はプレシアの仲間入りを果たしていたことだろう。

 手錠も外してもらい、看病までしてもらったのだから文句の言いようもない。

 そんなこんなで、気付けば積み上がった借金はちょっと口にしたくない額に達していた。思わず白目になるくらいの金額だ。

 普段やらないことをやるから、こういう目にあうのだろう。救いはないんですか!?

 古い付き合いということもあり、前金は働いて先払いするという条件でツケにしてもらい。気付いたら、あれこれやらされてる間に1週間が過ぎ。

 そして、今日までしっかり勤労に従事して帰ってきたら土下寝という流れである。

 情けない大人をスキップして通過した先にあったのは、ただの駄目人間だった。泣きたい。

 

「もう許してください、なんでもしますから!」

「ん? 今なんでもって」

 

 いかん、早まった。

 

「ほほう、なら許したろか。そやなぁ……さしあたって、明後日の誕生日プレゼントでも楽しみにさせてもらうわ」

「え、今なんて?」

 

 誕生日とか言いましたか。しかも明後日?

 

「私の誕生日、6月4日やねん」

「凄い初耳なんですけど」

 

 そりゃ言うとらへんし、なんてはやてはしれっと言う。

 どうしろというのか。生まれてこの方、プレゼントなんてやったことも貰ったこともないぞ!

 

「ひ、ヒント! ヒントください!! 誕生日とかやったことない俺にお慈悲を!!」

「卑屈なんか自虐なんかどっちやの」

 

 ホント、どっちだろうね。

 

「もう、しゃあないなあ。それやったら、また空に連れてってぇな。もちろん、これ以外にもなんか考えるんやで?」

「そうだな。それ、本来は俺の宿代に含まれてるやつだもんな……」

 

 ホンマやわ、とため息混じりの声が後頭部に突き刺さる。

 誰かさんがおらんかったせいで、結局行けへんままやったしなぁ。なんて心の声が聞こえてくるようだ。

 マジすいませんした!!

 

「あの、新しい炊飯器とかご入用じゃ?」

「母の日はもう過ぎたで。というか、プレゼントは当日まで本人に内緒で用意するもんや。しっかり考えとくんやで?」

 

 あ、そういう感じなんだ。

 でもそれ、貰ったのが興味ないものとかだったらどうするんだよ。ああっ、だから考えるのか。

 つまり、相手のことを考えてプレゼントを選ぶってことでいいのか?

 なかなか難しい注文をしてくれる。

 これまで送った品なんて、爆弾かコンピュータウィルスの二択だぞ。

 

「いやまあ、流石にそれは極端か。他には……あっれ、おかしいぞ? 今日まで20年生きてきたはずなのに、浮いた話の記憶がないのはなんでかな? 贈り物、贈り物……やべぇ、毒薬のこと追加で思い出しちまった」

「え、なにそれ怖い。ヤクモさんの青春時代が荒んどる件について」

「ちょっとこれは俺もドン引きですわ……」

 

 灰色どころかどす黒いんですがそれは。

 

「まあ、ええ機会やろ。女の子に贈り物する練習せえへんと、ずっと独り身になってしまうで」

「小学生にそんな心配されるとは思いもしなかった。これは驚愕を禁じえない」

 

 うそ、だろ!?

 そんなことを言っていたら、突然背中にはやてが降ってきた。グワーッ!

 いくら軽いとはいえ、肺の空気が!! というか、普通に危ないから。

 

「人が心配したってんのに」

「え、心配したらフライングプレスになる理由を詳しく」

「何事も暴力で解決するのが一番や」

 

 お前、いつからニンジャになったんだよ。

 ここネオサイタマじゃねえから!

 

「ところで話しは変わんねやけど。パンの耳とドックフード、どっちがええか決めたんか?」

 

 アイエエエエエエエ!?

 そのフラグ生きてたのかよ!!

 

 

 あー、まだお腹がごろごろいっている。

 晩ご飯は普通のを出してもらえるそうだが、さっき食った昼飯は凄いインパクトだった。

 今回のことから俺が学ぶべき教訓は、カリカリドックフードとシリアルは別物であるということだ。

 しばらく牛乳も控えよう。嫌なことを思い出す。

 

「すいません。誕生日ったらケーキらしいんで、なんかそれっぽいのありませんか?」

「えっと、いつまでに必要なのかしら?」

 

 明後日ですと伝えたら、翠屋の店員さんはうーんとなにごとか考え始めた。ちなみに女性のほうだ。

 あのとんでもない男性の方は、カウンターでコーヒー豆をごりごり殺っている。

 なんでミルが拷問器具に見えちゃうんだろう、不思議だなあ。

 

「そうね。他の予約もあるから小さいのになってしまうけど、用意できると思うわ」

「助かります。3人なんで、むしろ小さい方がありがたい。このお礼はそのうちしますんで」

 

 いいのよ料金は取るから、という素敵な笑顔で店員さんが言う。

 当然なんだけど、容赦の欠片も感じられないのはなぜだ。

 

「あと、女の子が喜びそうなプレゼントとか知りません? 正直、まったく思いつかなくて」

「それは彼女さんのために、あなたが悩んで選んであげるべきだと思うわ」

 

 違う、そうじゃない。

 

「いやあの、相手は家主的なあれで彼女とかそういうんでは」

「あらいいのよ恥ずかしがらなくても。だってそういう歳だもの」

 

 どす黒い青春送っててサーセン……

 

「でもそうね……その子が、普段から身に着けてるアクセサリーなんかをヒントにするといいんじゃないかしら」

「アクセサリー……髪留め? やばい、本格的にわからないジャンルだどうしよう」

 

 そもそもプレゼントってジャンルから未知との遭遇レベルなのに、その上でアクセサリーだと?

 茨の道すぎんよ。都合よくライフカードとか出ないかな。

 けどまあ、ヒントは貰えたし。これ以上ここに居座って、営業妨害するのも気が引ける。

 予約伝票を受け取り、軽く礼を言って翠屋をあとにした。

 さて、どうしてみようかなあ。

 まだ昼過ぎだし、アクセサリーショップでも探してみるかな。

 見付けても1人で入る根性あるかは微妙だけど。

 

「せめて小学生の流行りとかわかればなあ。いっそ、その辺の子に頼んでみるか?」

 

 もちろん、付き合ってくれればお小遣いくらい出そうじゃないか。

 おい、そこの警官。なんでこっち見たんだよ。

 冤罪! 冤罪だからこっち見たまま無線に話しかけるのやめて!!

 たぶん、今ごろ管理局からも指名手配されているはずなんだが。このままこっちでも追われる身になった場合、もう引きこもりの道しか残らない。

 ここは迅速にBダッシュ。

 予想以上にしつこい警官から逃げて隠れてしてるうちに、気付いたら夕方だ。

 あいつら仕事しすぎだよ。

 

「善良な市民になんという仕打ち」

「なんなのこの不信人物。すずか、通報よ通報!」

「ちょ、ちょっとアリサちゃん落ち着いて! 流石にそれはかわいそうだよ。確かに怪しいけど悪い人ではなさそうだし」

 

 軽く打ちひしがれていると、なにやらちびっ子と遭遇してしまった。つり目と気の弱そうな2人組みである。

 あと、気弱な方は弁護になってない。心を抉りにきてるだろそれ……

 

「やあ、そこなお嬢さんたち。ちょっと教えて欲しいんだけどさ」

「小学生をナンパするなんて……つまり、変態のおじさんだったわけね」

「アリサちゃん……」

 

 おいちょっとマジやめてくれませんかね。危うく前科付いちゃうだろうが、ぶっちゃけもう付いちゃってるけど。

 あとお兄さん! まだそんな歳じゃないから!!

 

「君らくらいの子って、誕生日プレゼントになに貰うと嬉しいのか教えて欲しいだけなんだけどなあ」

「はあ? なんで私の誕生日なんて教えなきゃいけないのよ!」

「誰がお前のって言った」

 

 なんですって! と怒ったつり目を気弱の方がなだめている。

 あれ、こいつ思ったよりも気弱じゃないかもしれない。

 

「ちょうど君らと同い年くらいの子にプレゼントを要求されてな。正直、誕生日プレゼントなんて選んだことないからわかんないんだよね。あと、これは親切心から言うけど君らつけられてるよ?」

 

 は? とか言いながらつり目が勢いよく背後を振り向いた。

 ちょ、おま。そんな行動とったら相手が警戒するに決まってんだろ。

 なるほど、だから漫画とかアニメでは振り向くなよとか前置きするのか。ひとつ勉強になったわ。

 

「なによ、あれうちのボディーガードじゃない。たぶん、あんたのこと取り押さえるかで迷ってるのよ」

 

 ファッ!?

 

「アルェ? ピンチなの俺だったのか……」

「あの、大丈夫ですから。大丈夫ですって言っておきますから」

 

 その優しさが心に染みるわ。

 泣いてないし!!

 

「それにしてもボディーガードとか、お前らとんでもないな」

「あんたみたいなのもいるから、最近は物騒なのよ。習い事のたびに付いて来られるのも、鬱陶しくはあるんだけどね」

 

 そんなもんかね。とりあえず、こいつが金持ちなのはよくわかったけど。

 まあ、勘違いだったならそれでいいや。これ以上関わってたら、今度はボディーガードと追いかけっこすることになりそうだし、ここはさっさと撤収しよう。

 

「この辺で、髪留めとか売ってる店しらない? それだけ聞いたら消えるから」

「人の話は聞きなさいよ! まったくもう……確か、駅前に新しくできたお店に可愛いのがいくつかあったと思うわ」

「あれ、わりと親切に教えてくれるんだな。ちょっとびっくりしたわ」

「なんだかんだ言って、アリサちゃんはやさしいもんね」

 

 くすくすと気弱そうな子が笑うのに、つり目ちゃんがいろいろと否定の言葉を並べている。

 仲いいなこいつら。もう結婚しろよ。

 

「なるほど、これが噂のツンデレ。実在するとは」

 

 ぽろっと出してしまった心の声を、俺はすぐさま後悔することになる。

 そりゃもう、今すぐに。

 顔を真っ赤にして弁明を繰り返していたつり目が、ゆっくりとこちらを振り向く。同時に振り上げられた右手を警戒してみたが、何のことはないただ振り下ろしただけだ。

 だが、彼女にとってはその動作だけで十分である。

 そう。隠れていたボディーガードがこちらへ突進してくるのには、あまりに十分すぎたのだ。

 

「うわあ、カッコ絶望カッコトジル」

 

 これは逃げるだろ常考。

 ちょうど真横に停車した車へ乗り込んだつり目は、俺の発言はガン無視でいくつもりらしい。

 慌てる気弱な子を車内へ引っ張り込み、そのまま車はスムーズに発進していく。

 そして目の前に迫るのは、ハンター……

 本日2回目の鬼ごっこ開幕である。

 




ここら辺からやりたい放題やりつつ、いろいろと回収を始めるよ!
え、今までは比較的原作沿いにやってましたが何か?

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