はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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11下手の考え頭を抱える

 ちょっと根性出して自力で立ち上がる。姿勢も正し、なんでもない風を装えばパーフェクト!

 壁に手をついたへっぴり腰のやつが慰めに来たら、流石の俺も笑う自信がある。

 空気というのは大切だ。ここはまじめに行こうじゃないか。

 そんな感じで医務室までやってきたら、フェイトはベッドから体を起こしていた。

 あれ、これ俺必要なかったんじゃね? という不安が一瞬よぎっていく。

 いやそりゃ、必要ないならないで一安心なんだけどさ。

 そしてまたアルフがいないな。あいつ肝心なときいっつもいなくないか?

 

「よう、フェイト。俺よりは元気そうだな」

 

 どうやらベッドの側に備え付けられているモニターをみていたらしい。

 映し出されているのは戦闘の模様だ。執務官殿と白いのと、あとはお連れとアルフがゴーレムと戦っている。

 なんでアルフあそこに……まあいい。今は置いとこう。

 声に反応して振り返ったフェイトは、涙を流していた。どうやら来て正解だったらしい。

 

「どうすればよかったのかな。私はただ……」

 

 家族で仲良く過ごしたかっただけなのに。たぶん、そんな感じの言葉が続くんだろう。

 そりゃ、目標が急になくなったら戸惑うよね。

 特にフェイトの場合はそれだけだったはずだ。今まで知らなかったとはいえ、クローンだったわけだし。

 母親が優しくしてくれる日が来るのを、ずっと待っていたんだろう。

 

「うん、甘ったれんな」

 

 つい口から出た言葉に、フェイトがびっくりして動きを止める。

 とりあえず涙も止まったから、この場合はよしとしておこう。

 それにしてもいかんな。頭の頭痛が痛くなってきてるせいか、考えが欠片もまとまらない。

 

「フェイト。俺はプレシアに子離れしろと言ったが、お前もお前でさっさと親離れしろ。何も認めてくれるのは身内ばっかりじゃない。あれだって、そうだろう?」

 

 モニターを指差すと、その先を追いかけるようにフェイトが振り向く。

 移っているのは白い魔道師だ。

 この前はいい雰囲気になってたし、今回の決闘じみたジュエルシード争奪戦だって向こうが呼び出してきている。

 探す手間を省けて有り難い上に、早い話が白い魔道師にも思うところがあるということだろう。

 お話どうのと言っていたから、間違いないと思いたい。

 

「結局、俺が邪魔しちゃったからな。あとでちゃんと会話しとけ」

 

 実は俺の声届いてないんじゃないかなってくらい、フェイトはモニターを見つめている。

 それにしても、あの白いの怖いな。決闘であれだけ暴れまわったのに、もうあんなに元気ってどういうことだよ。

 どう考えても凶器の波動に目覚めてんだろ、あれ。

 

「で、まあアレだ。お前は他より一足早く子供を卒業しなきゃならん。ちょっとだけ大人になって親離れしろ。子供ってのは親がいなくても育つらしいからな」

 

 モニターに釘付けだった視線がこちらを向く。

 瞳の揺らめきは、そのまま不安の表れだ。良心が痛むなおい……

 大人が子供に、現実を見ろと強要してるんだから当然か。情けなくて泣きたくなる。

 はやてに知られたら、なんて言われるかわかったもんじゃない。

 

「さっきも言ったが、不幸なんてその辺に転がってる。ありふれた日常そのものだ。いちいち落ち込んでたらきりがない」

「でも……」

「でももかかしもねぇよ。俺だってお前くらいのころには働いてたし、自立もしてた。だからお前もってのは流石に乱暴だが、でもそれが現実だろう? うだうだ言ってたって、お前の身内はじきにいなくなる。例え、プレシアがアルハザードに行こうが管理局に捕縛されようがな」

 

 そう、どっちに転んでも結果は同じだ。

 あの様子では、改心してフェイトと一緒に暮らすなんてことは出来ないだろう。

 そもそも旅立ちか死かの二択しか頭にはないような気がする。プレシアの執念はそのレベルに達していると考えたほうがいい。

 アリシアを諦めて、という前提の考えは持っていないはずだ。

 

「最後に言いたいことがあるなら、通信をねじ込んでやる。それが出来ないなら母親は最初からいなかったと思う方が楽だろうな。どうしたい」

「私は……でも。母さんに笑って欲しくて……」

「甘えんなって言っただろ。残念だが、俺はお前にかけてやれる言葉を持ってない。ここにだって慰めに来たつもりは欠片もない。お前がどうしたいかの意思確認だけして、手伝えそうなら大人として手を貸してやろうってだけだ」

 

 もう一度、フェイトがモニターへ目をやる。

 相変わらず白いのは善戦しているが、ちょっとゴーレムの量が多いな。

 戦線をさげるリスクを負って、兵を集結させたのだろう。プレシアのやつ軍師の才もあるのかよ、多才で羨ましいね。

 別のモニターにクロノが映っている。こちらは陽動のため、1人別ルートで最深部を目指しているようだ。

 単騎でゴーレムをガンガン削っていく姿は、執務官の面目躍如といったところか。流石、星人相手にびびらない主人公は伊達じゃない。

 

「私は……まだ、どうしていいのかわからないですけど。でも、あの子は私の名前を呼んでくれた。何度も、何度も」

 

 かみ締めるような声で言って、フェイトがベッドから立ち上がる。

 あれ、思ったよりもやる気になっちゃってお兄さんびっくりなんですけど。

 

「捨てればいいってわけじゃない、逃げればいいってわけでもない。だから私は」

「えっと、通信繋ぐ?」

「いえ、あの子の隣に。それから母さんのところへ行きます」

 

 やばい、発破かけすぎた!

 っていうか、こいつもアレだけ暴れまわってもう動ける系統の人種かよ。なにここ怖い。

 

「バルディッシュ。上手くできるかわからないけど、一緒に頑張ろう」

「はいストップー! え、なにする気なの」

 

 ここに取り出しましたるはボロボロのデバイス。こちらを見事、自分の魔力で完璧に復元してご覧に入れますってか。

 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの!?

 っていうか俺の転送、実はぜんぜん間に合ってなかったんじゃ。

 

「ちなみにフェイトさん。なんでデバイスはボロボロなのかな?」

「えっと……母さんの次元魔法をバルディッシュがかばってくれて」

「完全に俺のせいでした本当にありがとうございます!!」

 

 いかん。アースラの制御中枢の一部まで食い込んでおいて、なんの成果も得られませんでしたとか洒落にならない。

 このままではアレだ。ちょっとくらい株を回復させておかないと、いつか大暴落する。

 

「よしフェイト、バルディッシュの修復は俺に任せなさい。どっちかっていうと、そっちが専門の人だから。ね? ちょっとでいいから俺にも汚名挽回、名誉返上のチャンスを!」

「え? え?」

 

 駄目だ、はやてだったら突っ込んでくれたのに!

 いや違うそうじゃない。

 

「よし、俺のデバイスパーツを使いまわす。ちょっと魔力切れしてるから、完全修復とはいかないけど。これでかなり楽になるはず」

 

 手を出して、躊躇いがちに渡されるバルディッシュを受け取った。

 黒いフレームはもちろん、コアである金色の宝石部分までひび割れている。こいつは重症だが、たぶんなんとかなるだろう。

 魔法を詰め込んでおく記憶媒体のストレージデバイスと違い、インテリジェントデバイスは人工知能を備えた杖だ。状況判断をする意志を持つため、場合によって魔法を自動で起動させたりする脳を持っている。

 つまり、突貫工事になってしまうが、修復において俺は補助をするくらいでいい。

 パーツさえ提供してやれば、おおよそは勝手に自分の穴を埋めていくはずだ。

 

「さてバルディッシュ。情けないことにデバイスの起動ができない。勝手に拡張空間へ接続して、使えそうなパーツは持っていってくれ」

『Thank you.』

 

 バルディッシュが展開した空間モニターを操作する。

 やるのはもっぱら、パーツの適合率を上げてやる作業だ。まあ、それすら殆どやる必要もないのがインテリジェントデバイスの凄いところだが。

 

「流石にフレームは無理だが、内部はほぼ代用できそうだな。ちょっと使い心地に違和感があってもご愛嬌ってことで」

 

 一通り作業の終わったデバイスを受け取って、フェイトが魔力を通していく。

 彼女の魔力光に包まれたバルディッシュは、ほぼ新品のようになって復帰した。

 フレームの修復ぐらいなら、俺でも出来る。もちろん、万全なときに一回くらいが限界だけど。

 

「ありがとうございます。あの、お兄さんのデバイスは」

「大丈夫だいじょうぶ。俺のはストレージだから、あとでパーツ買い足して直すさ」

 

 ところで、そろそろ立ってるのがしんどい。膝笑ってきてるし。

 思わずよろけて2歩ほど下がると、足元に転移魔方陣が展開した。

 え、こっから転移できんの? ああそうか、今非常時だからか。

 たぶん、庭園に乗り込んだ面子がやばくなったときに撤退するためだ。転移魔法を遮断する類の装置を起動したままにしておくと、いざと言うときの逃げ道が消えてしまう。

 そういうことにならないための措置かな。たぶん。

 

「あのお兄さん」

「おう、なんだ」

「その……私、まだちゃんと名前を聞いてなかったんですけど。でも、あの子はたくさん私の名前を呼んでくれて。だから、その」

 

 なんのこっちゃ。

 よくわかってないことを、そのまま口に出されても困るんだが。

 

「よくわからん、3行で!」

「え、えっと!」

「まあ、あんまりゆっくりしてると出遅れそうだぞ。さっさと行ってこい」

 

 よくわからないが、あわあわしていたフェイトの顔が引き締まった。

 ちょっとは覚悟が決まったんだろうか。

 

「お前くらいの歳だったら反抗期だろ。母親の顔面ひっぱたいてこい」

「……行ってきます! あとで、名前を。必ず」

 

 最後にまとまっていない言葉の切れ端を残して、転送魔法が発動した。

 あ、もうやせ我慢しなくていい? そろそろ本格的に膝と腰がいっぱいいっぱいなんですけど。

 この歳で腰痛持ちとか勘弁してくれ。

 

「はぁ、もう無理。これ、たぶん吐くだろうなあ。けど、今が絶好のチャンスだよね」

 

 懐を探ると、そこに硬い感触がある。

 手のひらサイズの立方体。ホントは、はやてのリクエストに答えて用意した装置だが。まあ、仕方ないな。

 捕まったときに、ばたばたしていたせいだろう。身体チェックが甘かったのは幸運だった。

 

「外は次元震。胃の中身がシェイク……で、済まないか」

 

 信じてるよ、俺の幸運値。

 装置をルービックキューブの要領で捻る。ぴこんぴこんと間の抜けた音をたてて点滅を始めたので、あとは待つだけだ。

 もちろん、これが小型の転移装置だなんていわない。そんなことができるなら、プレシアはもっと穏便にアルハザードへ向かっていただろう。

 これはビーコンだ。俺はここにいるから回収してねというやつである。

 そういうレアスキル持ちの知り合いがいるのだが。ああ、料金プラン的に足りるかな……

 

「俺、お金稼ぎに来たはずなのになあ。借金不可避なのはなぜだろう」

 

 悲しみの言葉ごと、俺は装置を起点にして三次元的に展開する魔法の中へと飲まれていく。

 バッチコーイ。

 

 

 名前を聞こうと思っていたお兄さんが、帰ってきたらいなくなっていた。

 いろいろと言葉をくれて、行こうとする私のために準備をしてくれて、さり気なく場所も空けてくれて。

 でも、戻ってきたときには色んなどたばたに紛れて脱走されたらしい。艦長さんがため息混じりに言っていた。

 なんとなく寂しいのは、きっとあんな風に声をかけてくれる人が今までいなかったからだ。

 全然似てないのに、リニスのことを思い出してしまう。

 

『アルフは優しいけど、私を叱ったりはしない。母さんも……だから、あんな風に叱ってくれた人はリニス以来でした』

『え、なにこれ。ちょっと今、かなり体調悪いんであとにし、オロロロロロロロロ……』

『ありがとうございます。また会えるような気がするので、そのときには名前を教えてくださいね』

『おいこらガン無視か? そっちから通信繋いできといてシカト? 実は……うっぷ……一方通行の通信になってんじゃないだろうな。叱ってどうのとか、いつからマゾに目覚めたんだよおま、オエーー!!!!』

 

 きっと、この念話回線もこれで切れてしまうだろう。

 もしかしたら、これも私を気遣って今日まで残していてくれたのかもしれない。

 今は管理局に捕縛されているから、念話を繋いでいるリスクもあるはずなのに。

 優しい人だ。こんな兄がいたらと思えるくらい、暖かな人だ。

 

『うぇぇ……おい、もう用がないなら切るぞ? お前との念話回線のこと忘れてた。バレて逆探知なんて洒落にならな――』

 

 あれ、回線が悪くなったのかな? 突然切れちゃったけど。

 迷惑になっても大変だから、この回線は早急に処分しよう。

 




 これまで平均4000文字くらいでやってたのに。気付いたらK点を1000文字も超えてやがる……
 ま、ご愛嬌ということでひとつ。

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