はやてに勁草を知る   作:焼きポテト

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10閉めっ放しの根性あし

 どうも艦橋に直接放り出されたらしい。

 部外者に機密を見せるのとかいいのだろうか。ああ、でも一部は民間に公開してるんだっけ。

 純粋な軍隊じゃないよというアピールも大変だな、管理局。

 

「アリ、シア?」

 

 大型モニターに映った自分そっくりの少女を見て、フェイトは声を震わせながら視線を落とした。

 少女は試験管の中に収められているようだが、あれ死んでるんじゃないかな。

 というか、あれがアリシアか。見た目的には妹っぽいが、たぶん違うんだろう。

 もう、地雷が見えてるんですけど……

 プレシアも、突入したらしい武装隊が送還されてるのをガン無視か。余裕だな。

 

『もう駄目ね。時間がないわ……今あるロストロギア12個。これだけあれば、あるいはアルハザードに届くかもしれない』

 

 何かに酔っているような口調で、モニターのプレシアが語り始める。

 死んでしまったアリシアのこと。クローンとして作ったのに、まったく似なかったフェイトのこと。これから目指すアルハザードのこと。

 途中で挟まったアースラ側の説明もあり、ようやく話が繋がってしまった。知りたかったかと聞かれれば首を全力で横に振りたい。

 アルハザードというのは俺も知っている。確か、自爆して滅んだ御伽噺レベルの古代文明だったはず。

 そこへ行くためには、次元を裂いて道を作る必要があるようだ。

 つまり、あのジュエルシードが通行証になると。移動するごとに次元震なんて起こされてたら、正直たまったもんじゃないな。

 

『これでも感謝しているのよ。最後の6つ。あなたが確保してくれなかったらどうなっていたか』

「えー、マジでー。追加料金とっとけばよかったー」

 

 なんとなく俺に喋っているようだったので適当に答えてみたが、一瞬周りから怖い視線が集まった。ちびりそう。

 結局、プレシアはフェイトを人形だとか使えないだとか失敗作だとか一通り罵り続けた。ゆっくりと心を抉るような言葉を選んでいる辺り、いろいろ溜まっていたんだろう。

 ホント、他所の家庭事情に首突っ込むと碌な目にあわない。昼ドラ先生の言うとおりだ。

 更にヒートアップを見せるプレシアは、時の庭園内に大量のゴーレムを出現させながら口角を吊り上げる。

 溢れかえった高魔力反応に艦橋がざわめく中、不意にフェイトが画面を見た気がした。

 こちらからでは後頭部しか見えないが、きっとすがる様な目をしているに違いない。

 

『いいことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してからずっとね。私はあなたのことが――』

「楽しそうなとこ申し訳ないんだけど、俺そろそろ本格的に吐きそうなんだよね。その話ってまだ長い? もうちょいかかるなら、誰でもいいからちょっと医務室に連れてって欲しいなあ」

 

 え、駄目? そこをなんとか。あ、睨まれた……

 

「お前の不幸はよくわかった。娘を亡くして辛かったな。うんうん、その気持ちよくわかるよって言ってやりたいところだが。ぶっちゃけさっさと子離れしろよ、この親バカ。もしくは、娘と一緒に墓場へ行きたいなら端っこの方でひっそりやってくれない?」

 

 あ、モニターからも睨まれた。

 全部ひっくるめて敵に回すとか、俺もなかなかやるじゃん。

 

「世の中、不幸なんてキャリーオーバーしてるんだ。お前だけじゃない。もっと悲惨なやつだっている。それを御伽噺にしがみついて家族旅行? やってることが子供だぞプレシア」

『なんとでも言いなさい。私はアリシアを取り戻すためならなんでもするわ!! 私たちは旅立つの! 忘れられた都、アルハザードへ!!』

 

 狂信的に叫んで、彼女はジュエルシードを発動させた。

 次元震で艦が揺れ、立っているのがやっとだったフェイトが崩れ落ちる。

 親からいらないと言われた子供。こんなところにだって、不幸は意味もなく転がっているのに。

 なまじなんとか出来そうな能力があると、今のプレシアみたいになるのかもしれない。

 

「まあ、俺はお前がなにをしようと知らん。けど、仕事はしないとな。なんせ、フェイトを手伝うのが依頼内容だし」

『……なにをしたの?』

「えー、なんのことかわかんないですー。庭園内の至るところに刻まれてた、ゴーレム召還っぽい術式引っ掻き回したくらいかなあ」

 

 周りの管制官たちが、今の話を聞いてマップから手薄な場所を探し始めたらしい。こいつら優秀だな。

 対してプレシアは舌打ち1つ。忌々しげにこちらを睨んで通信を切ってしまった。

 タヌキは損気と言ってだ……あれ、なんか違うな。あと、なんでこのタイミングではやてを思い出したんだろう。

 通信が切れたことにより、艦橋が慌ただしくなり始める。

 次元震の影響が少ない位置へ艦を動かしたり、茫然自失のフェイトを医務室へ運んで行ったりするようだ。

 すいません、俺は?

 

「いろいろと言いたいことはありますけど。一応、感謝しておいた方がいいのかしらね」

「感謝、ね。怒る方が先じゃないか?」

 

 不意に、正面で指揮を取っていた女性が振り返る。確か乗船リストには艦長と記載されていたか。

 いい加減、手厚い看護をください。こういう世間話も体力使うんだぞチクショウ。

 

「あら、怒られるようなことをした自覚はあるのね」

「ノーコメントだ。あんたみたいなタイプは、下手なこと言うとこっちが不利になる」

「それは残念ね。まあ全部終わったら、たっぷりお話は聞かせてもらうのだけれど」

 

 怖いなあ。でもこれ、お手柔らかにって言ったところで意味はなさそうだ。

 何かしら考えておかないと。

 

「あ、そうそう。これを忘れていたわ」

 

 やることの多さにため息を吐いた直後、手元でガチャリと嫌な音が鳴る。

 手錠だ。どこからどう見ても手錠にしか見えない。

 そのまま視線を上げた先には、笑顔でこちらを見下ろす艦長様。途端に腹黒さが浮いて見え、背中を冷たい汗が落ちていく。

 

「治療室へは自力で行ってちょうだいね。艦内図くらいは手に入れてるのでしょう?」

「あれれ~おかしいぞ~。どこら辺で俺が艦内図持ってる話になったんですかね」

「ずいぶん派手に管理局のサーバーを引っ掻き回していたのだし。あれでバレてないと思うほうが難しいわね」

 

 それもこれもプレシアのせいじゃないか。俺は悪くねぇ!

 

「俺もあんまり余裕ないんですけど。マジで自力?」

「ええもちろん。ここにいてくれてもいいけれど、あなたはやることがあるでしょう? ずいぶん肩入れしていたものね」

「うわい、あんたいい性格してるわ。せめてこの手錠外してくれない?」

「それ無しで艦内を歩かせるわけにはいかないのよ」

 

 頑張ってね、という有り難い言葉を残して艦長さんはどこかへ歩いていった。

 そういえば現場に出るとか言ってた様な気がする。何か奥の手でも持っているのだろう。

 なんにしても助力はなしと。ほふく前進は……逆に疲れそうだな。

 壁伝いに根性出して歩くしかないらしい。

 体痛い、頭ぐんるんぐるんする。

 毎回思うけど、俺こういうキャラじゃないんだって。ホントに勘弁してください!

 

「もうやだ帰りた……いや、帰ったら帰ったで五体倒地が待ってるんだった……」

 

 進退窮まった感がいなめない。なるほど、これが四面楚歌。

 楚国の項羽さんがどんな気持ちだったかちょっとわかるな。

 あと、産まれたての子牛の気持ちもわりとわかりそうで嫌だ。

 

「くそう、思ったより遠い。頑張れ俺、ファイトだ俺、負けるな俺。これ、やってみると思ったより虚しすぎて死にたくなるなあ!」

 

 涙が出ちゃう、だって怪我人なんだもん!

 冗談言いながらモチベーションを上げつつ、えっちらおっちら歩いて医務室まで行きましたとさ。

 




 傀儡兵をゴーレムと言っているのは仕様です。

 ViVidの方でゴーレムクリエイトをする女の子がいますが、要はあれと同じものだと判断しました。
 そして、おそらく一般的な呼称はゴーレムの方かと思われます。
 違ったらおせーてください。

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