はいすくーるDxD 平穏(笑)な日常   作:鶏唐

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どうもお久しぶりです。


1年 夏休み開始編
第46話 アルバイト


「おっしゃー!夏休みだーーっ!」

 

「朝からうるさいぞコテツ」

 

「何言ってるんだライザーさん!これが騒がずにいられるかよ!」

 

 

現在、朝の8時を過ぎたばかり。

夏休み初日となり俺のテンションは朝からマックスだった。

あの忌まわしい生徒指導という名の暴力も無いなんて最高じゃないか!

 

 

「学生は羨ましいな」

 

「はい、コーヒー」

 

 

親父は普通に仕事なのでスーツで新聞を読んでいた。

お袋はその親父の朝食を準備中だ。

ライザーさんは俺に注意しながらテレビを見ている。

ふむふむ、今日の怪獣予報はバルタン星人か。

 

 

「虎徹、ちゃんと宿題もやるのよ」

 

「分かってるって」

 

「まったくこの子は・・・そうだ、ライザー君は実家に帰るのかしら?」

 

「そうですね。来週あたりに一度帰りますよ、何か実家の方から呼び出しを受けまして」

 

 

朝食の準備が終わったお袋がライザーさんと会話している。

その横で俺は本来なら我が家にいるはずのない奴に視線を向けた。

 

 

「・・・で、何でお前がいるんだ搭城」

 

「部長命令でお目付け役です」

 

「グレモリーが?何でだよ」

 

「八代先輩は相当な危険人物だと分かりましたのでこれから毎日、私たちが交代制で見張りすることになりました」

 

「意味がわかんねー」

 

 

グレモリーの奴、一体どういう事だ?

あの時・・・森の中で俺の望みを叶えてもらった後におっさんやグリ子さんと話していたみたいだが関係しているんだろうか。

まぁ、毎日遊び相手が増えたと思えば・・・

 

 

「おっと、今日の俺は搭城みたいに暇人じゃないんだぜ」

 

「暇と言う服を着た塊みたいな人が言いますか」

 

「搭城、お前本当に口が悪いな」

 

「先輩ほどじゃありません。で、何があるんですか?」

 

「ふふん、今日はルガール運送でバイトする日なんだ」

 

「バイト?・・・あぁ、ナーヴギアとか言うのを買うためでしたっけ」

 

 

そう。かねてから約束をしていたナーヴギアを買うためにルガール運送でバイトをするのだ。

ここ最近、色々と忙しかったからな。

 

 

「それはそうと搭城」

 

「なんですか?」

 

「・・・お前、その猫耳と尻尾は何だよコスプレか?」

 

 

先ほどからずっと気になっていたことを聞いてみた。

搭城の頭の上と腰あたりから猫の耳と尻尾らしきものがある。

尻尾はさっきからゆらゆらと動いている事から本物かと思ったぐらいだ。

搭城は頭の上にある耳に触れて尻尾を見てこちらに向き直ると・・・

 

 

「いえ、私猫又の妖怪ですから」

 

「・・・何だそうだったのか。じゃあ何で今まで隠していたんだ?」

 

「それが自分でもよく分からないんですよね。今時妖怪なんて珍しくもありませんし・・・」

 

 

確かに今時妖怪なんて珍しくもねーな。

人を襲う妖怪もいるらしいが人間社会に溶け込みすぎな妖怪もいるぐらいだ。

・・・あれ?何か違和感がするが何故だ?

 

 

「じゃあグレモリーや姫島、木場なんかも妖怪だったのか?」

 

「いえ、部長たちは違います。・・・悪魔です。まぁ今の私もですが」

 

「はぁ?悪魔?おいおい搭城、どんだけ頭の中ファンタジーなんだよ」

 

「物凄い理不尽を感じました」

 

 

搭城もそんな冗談が言えるとはな。

ファンタジーの世界じゃねーんだから、悪魔だなんているわけないだろ。

 

 

ゴツッ

 

 

「いてっ!何すんだよライザーさん」

 

「いや、ここは代表して殴っておかなくちゃいけないと思ってな」

 

「ありがとうございます。もう少しで私が殴るところでした」

 

「意味わかんねーよ」

 

 

どういう事だよ。ライザーさん達の故郷で流行っているギャグなのか?

俺は悪魔だぁ、って・・・あれ?どこかでそのセリフを聞いた覚えがあるな。

 

 

「さて、虎徹。そろそろ行くぞ」

 

「あいよー。で、搭城も来るんだよな?ライザーさんは?」

 

「お目付け役ですから」

 

「俺は遠慮しておく。頑張ってこいよ」

 

「社長さんに迷惑かけないようにね虎徹」

 

 

こうしてお袋とライザーさんに見送られて俺は親父と搭城と一緒にバイト先であるルガール運送へと向かった。

しかし夏休みだってのに仕事とは社会人は大変だな。

その辺を親父に言ってみたところ変に哀愁を漂わせていた。

 

 

「虎徹も大人になれば分かるさ・・・頼むからお前は早く大人になってくれ」

 

「うぉい。どういう意味だ親父」

 

「子供っぽいって事だと思います」

 

「はん、搭城に言われたらお終いだな。うおっ!危ねっ!」

 

 

搭城の奴思いっきり足を踏みつけようとしやがった。

反応が少しでも遅かったら危ないところだったぜ。

 

 

「私だって成長すれば部長達みたいになりますから」

 

「お前が?グレモリー達みたいに?」

 

「そうです。だからこのまま成長すればいいんです」

 

 

どうだ、と言わんばかりに今は無い胸を張っている塔城。

ふむ。搭城がグレモリーや姫島並みの成長を遂げる、ねぇ。

・・・・・・無いな。

 

 

「・・・何ですかその憐憫の視線は」

 

「いや、まぁ何だ。希望を持つのはいいことだぞ」

 

「こほんっ。そろそろいいか虎徹?」

 

 

搭城をからかっていると親父に止められた。

一歩前を歩く親父がこちらに視線をちらりとやると前に戻す。

ルガール運送の本社まであと少しってところだ。

 

 

「仕事内容は運送、とは言っても虎徹の場合は自転車で届けてもらう」

 

「まぁ確かに本職の人たちみたいにスライド移動なんてできないからな」

 

「全員がそういう人たちばかりではないんだがな。勤務時間は9時から12時までの3時間だ。日給は1万円」

 

「マジで!?」

 

「随分と好待遇ですね」

 

「社長は何故か虎徹には甘いからな。まったく、抗議しても聞く耳を持ってくださらない」

 

 

午前中働くだけで1万円か。何だ、随分楽な仕事じゃないか。

って事は10日も働けばナーヴギアを買う金が溜まるな!

 

 

「それとバイト期間中、指導してくれる人を付ける」

 

「親父じゃないのか?」

 

「私は営業だからな。安心しろキャリアで言えば最年長だ」

 

 

ふーむ。初めての事だからその道のプロがいるのは安心できるな。

 

 

「そ・れ・と!いいか虎徹、くれぐれも荷物をダメにしないようにな!」

 

「おいおい、俺を何だと思っているんだ」

 

「お前だから言っているんだ」

 

「先輩だから言っているんだと思います」

 

 

親父と搭城が見事に同じ言葉を言い出した。

俺ってそんなに信用が無いんだろうか。

 

 

「小猫ちゃん。虎徹の事頼んだよ、社長にかけあってバイト代を出してもらうようにするから」

 

「いいんですか?ありがとうございます。八代先輩、そういうわけですのでキッチリ働いてくださいね」

 

「こんな善良市民を危険人物みたいな扱いしやがって・・・お?あそこにいる人か?」

 

 

ルガール運送の門の前に誰かが立っているのが見える。

初老のおさげに結んだ髪を後ろに垂らした男性だ。

遠目からでも凄そうな人だと思えるオーラ的ものを放っている。

 

 

「あぁ、そうだ。私はこっちだから頑張れよ」

 

 

そう言って親父は社員用の入り口から入ってしまった。

とりあえず俺と搭城は腕を組んで立っている人の前まで向かった。

 

 

「どうも、八代虎徹です。今日はお願いします」

 

「付き添いの搭城小猫です。お願いします」

 

 

俺たちがぺこりとお辞儀をするとジロリとこちらを品定めするかのように見つめた。

 

 

「貴様が八代の倅か。ふむ、社長達が言うような強さは見受けられんが・・・」

 

「えーっと?」

 

「いや、こちらの話だ。わしは東方不敗、バイトとはいえ手加減はせぬから覚悟するがよい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら次ですよ八代先輩、頑張ってください」

 

「ぜぇぜぇ。そう思うなら降りろよ・・・」

 

 

私は今、八代先輩の漕いでいる自転車の後ろにある荷台に座っています。

東方不敗とか言う人は八代先輩に幾つかの荷物を渡して先に行っちゃいました。

面倒を見るという話はどうなったんでしょうか?

 

 

「あのクソジジイ、絶対嫌がらせだぜ」

 

「まぁ確かに」

 

 

これまで届けた荷物は駒王町の端から端まで。

自転車で漕ぐ先輩も本当に常人離れしてますね。

いくら荷物が封筒など小さな荷物とは言え、距離がおかしいです。

 

 

「あ、これで最後ですよ」

 

「おぉ、時間的にも昼だな。ならラストスパートするか、それで何処だ?」

 

「・・・悪魔の森って書いてますけど」

 

 

聞いたこと無い場所ですね。

悪魔に悪魔の森に届けろとは皮肉でしょうか?

まぁ届けるのは八代先輩ですが。

 

 

「なんだ、ディズィーの家じゃないか」

 

「ディズィーさんのですか?」

 

 

ディズィーさんと言えば何度か会った事のある女性ですね。

悪魔とも違う何か異様な力を感じてはいましたが。

そんな事を思いながら荷物を送った人の名前を見る。

高藤琢磨・・・あれ?

 

 

「しかも高藤先輩からですよ」

 

「はぁ?琢磨から?」

 

 

自転車を漕ぐのを止めてこちらを見る。

私は八代先輩に高藤先輩の荷物を渡した。

荷物というよりも何かの書類が入っている封筒みたい。

 

 

「んー?届け先はディズィーじゃなくてテスタメントさんか」

 

「あぁ、あのカラスさんですか」

 

「カラスて・・・まぁ確かに黒い服ばっかりだったな」

 

 

やたらと人間を嫌っている発言をしているディズィーさんの保護者ですね。

発言内容から人間ではないのは分かりますが正体までは分かりません。

この街に来てから一般人に会った記憶があまり無いのは何故でしょうか?

皆、私よりも強そうな人たちばかりですし。

・・・ここは祐斗先輩のように誰かに師事を受けた方が良さそうです。

 

 

「八代先輩。聞きたいことがあるんですけど」

 

「あ?何だよ」

 

「私の戦闘スタイルってどうやったら強くなれると思いますか」

 

「知らね。っていうかお前闘えたのか」

 

「・・・そういえば八代先輩は見た事ありませんでしたね」

 

 

迂闊でした。でも八代先輩の人脈なら誰か一人くらいは知っているかもしれないです。

私は悪魔であることは伏せて戦車の能力を説明した。

 

 

「はぁ、搭城。お前見かけによらず怪力バカでタフネスなんだな」

 

「バカは余計です」

 

「うーん。奇声を上げる喧嘩殺法のチビが同級生にいるぐらいか」

 

「それ、大丈夫なんですか?」

 

「心配するな。普段は・・・普段からキョエーとか言ってるな」

 

 

心配する要素が一つもありません。

やっぱり八代先輩の知り合いには碌な人がいませんね。

 

 

「後は以前にお袋が拾ってきた京都の兄ちゃんかな」

 

「京都の兄ちゃん?京都の人なんですか?」

 

「いや、京都に行くって言って彷徨っていたところをお袋に拾われたんだ」

 

「なんですかその人」

 

「黒い鹿を出したりパンチして拳の骨が折れたりと面白い人だったぞ」

 

「・・・やっぱり自分で探すことにします」

 

「そうか。ならいいけどよ」

 

 

自分で探した方がよさそうな気がしてきました。

その辺を歩いていた方がまだマシな人がいそうです。

 

 

「しかし最後の最後でこの森の中を抜けなくちゃ行けないのかよ・・・」

 

「八代先輩、ふぁいとです」

 

「ぐぬぬ、仕方ない。行くぞ搭城!しっかり捕まってろよ!」

 

「はい」

 

 

自転車の後ろで八代先輩に掴まる。

最初よりは力が落ちていますがそれでもまだ力強い漕ぎですね。

 

 

「おりゃああぁっ!」

 

「うるさいですよ。静かに漕いでください」

 

「叫ばないと、力が、出ないんだよ!」

 

「ほぅ、意外に頑張るではないか」

 

「え?」

 

 

突然の声に横を向けば東方不敗さんが八代先輩の自転車に並走していました。

ルガール運送に勤めているだけあって、この人も一般人じゃないですね。

 

 

「人を、放っておいて、言う、セリフじゃ、ねーだろ!」

 

「ふん、まだ時間がかかるとは思ったが・・・まぁよい、褒美だ手伝ってやろう」

 

 

ガシッ

 

 

「あいた!何しやがる!」

 

「どれ、おぬしを直接運送してやろう。行くぞ!」

 

「どわああぁあっ!」

 

 

正面からこめかみをを掴まれた八代先輩が東方不敗さんにそのまま運送されて行きました。

そして残された私と自転車。

・・・どうしましょう。やっぱり追いかけた方がいいのかな?

一先ず自転車を押して追いかけつつ、考える。

それは先ほども悩んだ強さについて。

以前にティナ先輩に言われた事を思い出す。

 

 

『小猫ちゃんの場合は駒の強みを生かすか種族の強みを生かすか、どっちがいいかしら?』

 

『それは・・・』

 

『まぁ私は小猫ちゃんの主でもないから、別の選択肢を選んだとしても文句は無いわよ?』

 

 

ティナ先輩に鍛えられたおかげではぐれ悪魔相手でも苦戦する事無く勝てるようにはなってきた。

ただ、それは皆も同じ・・・いやそれ以上に強くなってきている。

特に朱乃先輩、以前に腕を交差させて浮き上がったかと思うと光が降り注ぎ、はぐれ悪魔達が文字通り消え去っていた。

堕天使の力でも悪魔の力でもない、敢えて言うなら無色の力?を感じた。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

溜息一つ、何だか皆から置いて行かれたような気になる。

まぁあの引きこもりの彼はどうなっているのかわかりませんが。

ふと、八代先輩の自転車を押していたのを止める。

目の前には男性が二人立ち話をしていた。

一人はインドの修行僧のような出で立ちで頭にターバンを巻いている男性。

もう一人はアロハシャツにサングラス、そして亀の甲羅を背負った奇妙な出で立ちをした老人。

男性が老人に向かってしきりに頭を下げている。

そして老人が鬱陶しそうにしているのが分かった。

 

 

「全く、お主は何年も前の事を・・・」

 

「そういうわけにも行きません!貴方のおかげで故郷は救われたのですから、むて・・・亀仙人様」

 

 

ピクリ

 

 

男性の言葉に耳が反応する。

仙人?にしては随分と恰好がらしくない気がする。

いえ、仙人なんて見た事ないですけども。

とは言えこれはチャンスではないだろうか?

奇しくも仙道を極めた仙人が目の前にいる。

私は思わず声をかけてしまっていた。

 

 

「あ、あの・・・」

 

「む?・・・なんじゃ娘さん(可愛い子じゃが胸が残念じゃのぅ)」

 

 

私を上から下まで見て、ある一点を見て生暖かい視線を送ってきた。

思わず殴りかかりそうになりつつも頭を下げた。

このまま皆から置いていかれるのは嫌だ。ならば私も強くなっていくしかない。

 

 

「お願いします。私を弟子にしてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディズィーは渡さん!」

 

「賞金はアタシが頂くアル!」

 

「おっとヒロインを助けるのはヒーローの定めと決まっているんだぜ」

 

 

チッ、メンドクセェ。

目の前には大量にいる賞金稼ぎどもの姿。

そして俺は情報屋からの依頼でディズィーの警護をしていた。

こちらの戦力は俺以外にはテスタメントと俺と同じ依頼を受けているジョニー。

戦力としては申し分ないが数が多すぎる。

それにあの娘からギアの反応はないが、何かが引っかかる。

情報屋からの依頼ってのも何処か胡散臭いしな。

 

 

「オラッ!」

 

「甘ぇっ!」

 

 

ギィンッ

 

 

考え事をしていたのを隙と捉えたのか賞金稼ぎの一人がこちらに斬りかかってくる。

それを封炎剣で防ぎ蹴りを一発お見舞いしてやるが、すぐに後ろに飛び避けられてしまう。

 

 

「そう簡単には行かないか。しかし賞金稼ぎのお前がこんなところにいるとはどういう風の吹き回しだ?ソル・バッドガイ」

 

「ふん、そっちこそ賞金稼ぎは止めてアイドルのプロデュースをしていたんじゃネェのか、ハヤト・カンザキ」

 

 

炎の賞金稼ぎとして有名だったコイツが突如、賞金稼ぎを止めたのはコッチの世界じゃ騒ぎになったんだが・・・

何故また復帰しているのか、それともデマだったのかはどうでもいい。

ピンからキリまで揃った奴らの相手をするのがウザッテェだけだ。

 

 

「賞金を独り占めしようったってそうはいかないぜ」

 

「あん?・・・っと、テメェまで」

 

 

突如の銃撃を避けてみれば赤いフードを被った嬢ちゃんがマシンガンを構えていた。

バレッタだったか、どうして有名な賞金稼ぎばかり俺のところへ群がって来やがる。

しかし、先に対面していたハヤトの奴が怪訝な表情を見せた。

 

 

「賞金?何を言っている」

 

「あん?アンタも賞金首をとっ捕まえに来たんだろ」

 

「知らん。俺は以前に学校で見かけた少女に会いに来ただけだ」

 

「・・・会ってどうするつもりだ?」

 

「当然、アイドルとしてスカウトするに決まっているだろう」

 

「「・・・・・・・・は?」」

 

 

今、コイツは何て言った?

アイドルをスカウト?

 

 

「なんだ?俺は何か変なことを言ったか?」

 

「変な事しか言ってねぇよ」

 

「なんだ、お前アイドルプロデューサになったってのは本当なのかよ」

 

「本当だ。あぁ、これは俺がプロデュースしている麻宮アテナの新シングルだ。元同業者の仲だ、やるよ」

 

 

目つきは鋭いままで何処からか紙袋を取り出したかと思うとCDを配りだした。

・・・人間変われば変わるもんだな。

警戒はしたままその様子を眺めていると何処からか声が聞こえてきた。

 

 

「む?何だこの声は?」

 

「あん?」

 

「どわああぁぁっ!」

 

「ん?この声は・・・虎徹か?」

 

 

コテツ?バレッタの声に眉を顰める。

あの坊主が何でこんなところに・・・ってディズィーに会いに来たのか。

よりによってこんなややこしい時に来るんじゃねぇよ。

全員が坊主の声が聞こえてくる森の奥へと視線を向ける。

 

 

「はーなーせーっ!このクソジジィ!!」

 

「やかましい小僧だな。よかろう、覚悟しておけよ」

 

「え、覚悟って?待て、何で力込めてんの?何で俺を前に突き出してんの?」

 

「しかと見よ、これがダークネス・・・」

 

「嫌な予感しかしねーんだけどーーっ!?」

 

「フィンガーーーッ!!」

 

「ぎゃーーーーっ!」

 

 

おさげにした爺さんが坊主を片手で掴んでこちらに突撃してきた。

そのまま賞金稼ぎ共の山へと突っ込んで行く。

そして爺さん一人がこちらへと構えた姿勢で止まった。

 

 

「爆砕!」

 

 

ドッゴーーーンッ!!

 

 

「シッショーッ!」

 

 

・・・今のは気か?賞金稼ぎ共は爆発して数が減って助かるが坊主はどうなったんだろうか。

後、どこかで聞いた声が聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

 

「見たか。お主も運送業をするなら、ここまでして見せよ」

 

「いや、ありゃ聞こえてねーぞ」

 

 

バレッタの声が恐らくこの場にいる全員の声だった。

そんな誰もが呆然としている中、坊主を爆発させた爺さんが悠然と歩いてきた。

 

 

「ふむ、テスタメントというのはお主か?」

 

「・・・なんだニンゲン」

 

「わしはルガール運送の運び屋だ。ほれ、ここに名前を書くがいい」

 

 

そういって何事もなかったかのように封筒と受領書、ボールペンを出した。

警戒していたテスタメントのようだが話が進まないと思ったのか、諦めたのか大人しく受領書にサインをする。

 

 

「では、しかと受け取った」

 

 

そういって両腕を組んだままその場から消え去る。

・・・運送屋ってのは変な奴らばかりか。

そんな事を想いながら封筒を受け取ったテスタメントを見る。

既に封筒から中身を見たようだが目を見開いていた。

 

 

「これは・・・」

 

「なんだ、何を驚いて・・・なるほどな」

 

 

ジョニーの奴が後ろから覗いて中身を確かめ理解したようにうなずく。

見た方が早いと思い俺もテスタメントが見ている封筒の中身を見る。

そこにはディズィーの賞金首が解除されたこと、そして謝罪としての小切手が入っていた。

国際警察からの正式な印章まであることから偽物とは考えにくいが何故このタイミングで?

俺はテスタメントの握っている封筒を奪い裏返す。

そこには高藤琢磨、と書かれた名前。・・・あの情報屋、これを狙って俺達に護衛なんて依頼をかけやがったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・イッテェ!」

 

 

あー頭っていうか体全体が痛ぇ。

どうなったんだっけ?確かあのクソジジィに運送されたんだっけ。

それで・・・?爆発が起きたところまでは覚えているんだがどうなってんだ。

 

 

「大丈夫ですか虎徹さん?」

 

「んあ?ディズィー?」

 

 

囁くような聞き覚えのある声に目をゆっくりと開く。

そこには何故かディズィーがこちらを見下ろしている・・・って顔が近ぇよ!

これは・・・膝枕?何でこんな事になってんだ!?

 

 

「どわぁっ!?」

 

「きゃっ!」

 

 

ゴチンッ

 

 

「ぐおおぉぉっ!」

 

「あいたたた、だ、大丈夫ですか?」

 

 

なでなで

 

 

「だああぁっ!大丈夫!大丈夫だから!ちょ、ちょっと離れてみようか!」

 

「?」

 

 

いきなりの事で何がなにやらだが、とにかく一度は離れて落ち着かねば・・・

って身体中が痛くて動けねぇ!?

 

 

「虎徹さん、顔が赤いですよ?やっぱりどこか痛いんですか?」

 

「待て、ディズィー。お、おおおお落ち着け、クールだ。クールになるんだ」

 

「よくわかりませんけど落ち着いた方がいいのは虎徹さんでは?」

 

「少年。役得は味わえる内に味わっておくもんだぜ」

 

 

何とかしてディズィーの膝枕から脱出しようとしていたところへ渋い声が届く。

見上げるようにして相手を確認してみれば黒い帽子にサングラス、おまけに黒いコートに黒いズボンと靴の・・・半裸の男がいた。

 

 

「ディズィー、逃げろ。変態だ、変態がいるぞ」

 

「おいおい、こんなハンサムを見て嫉妬したい気持ちは分かるが言い様ってもんがあるだろう?」

 

「そうですよ。この方はジョニーさんと言って私を助けてくれたんですよ」

 

「ねーよ・・・って助けた?」

 

 

ジョニーと呼ばれた男からディズィーへと視線を向ける。

膝枕されたままなので自然と見上げるようになり、ディズィーの顔が見え・・・ない

さっきは背筋を伸ばしていたから顔がよく見えたが今は前かがみになっているらしい。

・・・うん。ぶっちゃけ二つのおっぱいが邪魔で顔の上半分くらいしか見えない。

 

 

「賞金稼ぎ?の方達が襲ってきて、ジョニーさん達が守ってくれたんです」

 

 

顔のほとんどが見えないが悲しそうな眼を見て本当の事なんだろうと思った。

・・・ジョニーさん達?他にもいるのかと思い視線を巡らせてみると。

 

 

「おのれニンゲン!ディズィーに、ディズィーに膝枕されるなどユルサン!!」

 

「坊主、ちぃとばかし灸を据えてやる」

 

 

鎌を持って今にもこちらに飛び掛かりそうなテスタメントさん。

周囲に炎を纏わせて両腕を組んでいるソルさんがいた。

テスタメントさんはまだしも何でソルさんまで怒っているんだ。

だがこの状態はまずいのは分かっている。

しかし意識的なのか無意識なのかディズィーが俺の肩を抑えているおかげで逃げることができない。

えーい、何だこの恥ずかしい状況は!

 

 

「よぉ、虎徹。アタシの獲物を横取りした挙句にいいご身分だな」

 

「へ?バレッタの姐さん。なんでここにいるんだ」

 

 

見れば何時ぞやの格闘大会でお世話になったバレッタの姐さんがいた。

しかも機嫌悪そうに普段から悪い目つきが悪化して更に酷い顔になっている。

見た目が童話の赤ずきんみたいなのに子供が見たら泣くぞ。

 

 

ジャキッ

 

 

「ここで死ぬか、アタシに金を寄越すか選びな」

 

「なにその理不尽」

 

 

額に銃を突きつけられて意味不明な脅しを受ける。

うん、とりあえず整理をしよう。

ディズィーは賞金稼ぎに追われていたって事は賞金が掛けられていた。

バレッタの姐さんは賞金稼ぎだからディズィーを捕まえようとしたんだろう。

んで、横取りと言われた俺。

・・・なるほど、分からん。

 

 

「この天才的な発想力を持つ俺でも分かんねぇ、教えてくれ姐さん」

 

「はぁ、脅す相手を間違えたか。気にすんな。賞金首が解除されたんでアタシも気が立ってた」

 

「おぉ、よくわかんねーけど、よかったなディズィー」

 

「はいっ」

 

 

銃が額から退かされた。

そして満面の笑みを浮かべたディズィーが何故か俺の頭へと手を・・・

 

 

「危ないっ!主に俺の心が・・・イデェッ!」

 

「きゃっ」

 

 

ほとんど条件反射でゴロゴロと転がってディズィーの魔の手から脱出する。

全身に傷みが走るが窮地を脱したようだ。

再度こちらに向かって来ようとしたディズィーを半裸の男が止める。

 

 

「で、嬢ちゃん。俺の提案に乗るかい?」

 

「あ、はい。森に棲んでいる動物や他に住んでいる人たちにも迷惑をかけてしまいましたし」

 

「待てディズィー!ニンゲンの罠だ!」

 

「そうだ、そんな事より俺と一緒にトップアイドルを目指さないか?」

 

「テメェらがいると話が進まねぇ。消し飛ばすぞ」

 

 

おーいてぇ。痛みに耐えつつも倒れこんだ状態から身体を起こして何とか座り込む。

ディズィーと半裸の男が話している横でまた一人どこかで見たような男が言い争っている。

どこで見たのか思い出そうとすると近寄ってきた姐さんに目を向けて別の事を思い出した。

 

 

「そういえば姐さん。聞こうと思ってたんだけど」

 

「なんだ?」

 

「姐さんって妹いるか?」

 

「・・・テメェ、まさかマシェッタに手をかけたんじゃネェだろうな」

 

 

再度ジャキッと銃が俺の目の前に降臨した。しかも今度は二丁だ。

どうして俺の知り合いの姉は全員シスコンなんだろうか。

姐さんといいガーネットといい・・・

 

 

「はん、見くびるなよ!既に知的探求部の部員だ!」

 

「よし分かった。命は要らねぇって事だな」

 

「あれ、おかしいな会話が成立しないぞ」

 

 

姐さんの妹だと分かったマシェッタは俺の1個したの後輩だ。

その頃には姐さんは中学を卒業していたんで聞く機会はなかった。

が、姐さんを彷彿とさせる赤ずきんっぽい恰好をしていて気にはなっていた。

 

 

「おーけー、姐さん。その前にアレ、どうにかしようぜ」

 

「はっ、その手に乗るか」

 

「いやいや、マジで」

 

 

俺を逃がさないという意志が強いのはよくないが、いい。

ただ、現実は認識した方がいいと思う。

 

 

ずんっ

 

 

「ん?影?」

 

 

日が差していた中、俺達を影が覆う。

そこでようやく姐さんは気づいたようだ。

見ればディズィー達も空を見上げている。

 

 

「んなっ!?」

 

 

そこにいたのはセミみたいな顔にハサミを持った・・・巨大な怪獣だった。

あれか、朝に怪獣予報でやっていたバルタン星人ってやつか!

すげー、でっけー!

 

 

「フォッフォッフォ!」

 

「くそっ、逃げるぞ虎徹!」

 

「あいよー」

 

 

とは言え、俺は動けないので姐さんに引きずられるようにしてその場を離れた。

とりあえず地球防衛軍に連絡しておくか。

ちなみにこの後、バルタン星人は光の巨人が現れて腕を十字にして出したビームで撤退したらしい。

 


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