超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今回でこの章の本編は終了です。
それでは、 真なる主 はじまります
ギョウカイ墓場にそびえ立つ塔の一室、そこではマジック・ザ・ハードを始め、幹部が全員集まって話し合いをしていた。
「……それで、マジック。これからどうすると言うのだ? あの男がいなくなったことは喜ばしいが、女神達には逃げられてしまったではないか」
「構わん。どうせ奴らが束になって来ても、我らには敵わんのだから」
トリックが眉をしかめて難しい顔でマジックに問うが、彼女は薄く笑みを浮かべ、自信を持って応えた。
「だがな、奴らが力を取り戻すと、ちと厄介だぞ。あの可愛らしい幼女達が成長したように、奴らの力も増すかも知れんのだぞ?」
「随分弱気じゃないか、トリック。貴様は女神達に勝つ自信がないのか?」
「むっ、そう言うわけではないが、万全を期するためにはそう言うことを想定していなければ……」
「うるせぇよ」
マジックに食い下がるトリックの言葉を遮り、ジャッジが獰猛な笑みを浮かべながら両手を打ち鳴らす。
「考えるだけで最っ高じゃないか。女神候補生だけじゃなく、女神どもともやりあえるんだ。これ以上の戦闘は考えられないだろ」
「……相変わらずの脳筋が、そう簡単に事が運べば……」
「難しいことはどうでもいいんだよ!! オレはただ、戦えりゃ、それでいいんだよ!! どうせアイツら全員、ぶち殺すしかねぇんだ!! なんなら、オレが今から暴れてくるぜ!!」
「落ち着け、ジャッジ」
これからのことを話すために集まったと言うのに、勝手に暴れに行こうとするジャッジをブレイブは引き止めた。
引き止められたジャッジは不満そうに眉間に深いしわを造ってブレイブを睨み近づいて行く。
「ああん!! 何言ってやがるブレイブ!! オレァ、ここまで我慢したんだぞ。暴れたいのを今まで我慢してたんだぞ!! 本当ならここにやってきた女神候補生どもや勇者、捕まってた女神、そしてあの男もまとめてぶっ殺してやりたかったんだぞ!! それなのに、いつまでもいつまでもいつまでも!! こんなところに閉じ込めやがって!! 止めるってんなら、テメェからぶち殺してやろうか!!」
「お前の気持ちはわからんが、俺と戦っても無意味だ。そんなことよりも、これから俺達がどう動くのかを……」
「そんなことだぁ!! ふざけんじゃねぇぞ!! テメェにとってはそんなことでもなぁ、オレにとっちゃ大切なことなんだよ!!」
ジャッジが今にもブレイブに跳びかからんと腰を落とし始めたのを見て、ブレイブの瞳にも暗い光が灯り始めた。
「……いいだろう、貴様の落ち着きのない態度を見せられて、俺も頭に来ている。相手になってやる」
ブレイブも足を一歩引き、いつでもジャッジに駆けだせるように準備したのを見て、ジャッジの怒りに歪んでいた顔がようやく戦える歓喜の表情となった。
その様子を見てトリックは肩を竦めて呆れて頭を振り、2人を止めるため声を張り上げた。
「ええい、やめんか!! ここで吾輩達が争っても何にもならんではないか!!」
「うるせぇっつってんだよ、ロリコン野郎!! なんならテメェも一緒に相手してやるぜぇ!!」
「吾輩はロリコンではない!! 幼女を愛する1人の紳士だ!! ブレイブも落ち着け!! 争っても意味がないと言ったのはお前だろ!!」
「下がっていろ、トリック。俺にも我慢の限界と言うものがある」
「……まったく、お前らは」
もはや2人の衝突が止められないことを悟り、トリックは天井を仰いでしまった。
1人我関せずとマジックが腕を組んで目を閉じている現状で、トリックは2人を止めることを諦めてしまった。
もう思う存分戦っていろ、と。
そして、できるなら外で戦ってもらいたいと願っていた時だった。
「おっハロー! 辛気臭い場所ね、ここ」
「て、テメェ、勝手には言ってんじゃねェよ!?」
「し、失礼するっちゅ!?」
突然、部屋に黒ロリファッションの少女、それを追いかけるようにリンダとワレチューが入ってきた。
衝突寸前だったジャッジとブレイブも突然の来訪者の登場に戦う姿勢を解いて驚いてしまった。
その少女の顔がネプギアにそっくりだったからだ。
「命令するんじゃないわよ……さて、初めましてかしら?」
「……誰だ、貴様は」
2人の衝突ですら無関心であったマジックであったが、突然入ってきた少女に敵意視線を向けながら尋ねた。
その瞳には、敵意以外にも怒りが込められている。
「うふふ、そんな目で見つめないで欲しいわ」
「答えろ、貴様は誰だ」
「うーん、実を言うと名前はあるんだけど、気に入らないのよね。武骨すぎるって感じがして……」
マジックの敵意を通り越して、殺意が込められている視線を少女は受け流しながら、人差指を頬に当てながら自分の名前を考えていた。
「どうしようかしら? 私も女の子だから、可愛い名前がいいと思わない?」
「……答える気がないのならもういい。貴様の目的は何だ」
少女が自分の名前を答える気がないのを悟り、マジックは質問を変えた。
ギョウカイ墓場に侵入しただけでも、少女が油断ならない相手だと感じていたが、それ以上にネプギアに似ている彼女を警戒していた。
いつでも攻撃ができるよう、自らの手に鎌を出現させ、油断なく構えた。
それはマジックだけではない。
他の幹部3人も同様に、少女を取り囲むように移動して、いつでも跳びかかれる状態である。
そんな危機的な状況であっても、少女は余裕なのか、笑みを浮かべながら自然体で立ちつくしていた。
「あらやだ。私、大ピンチじゃない」
「その割には余裕があるではないか」
余裕の態度を不審に思いながらも、マジックは鎌の刃を少女に向けて言う。
「……最終通告だ、今すぐ貴様の目的を答えろ。さもなければ……」
「私を殺す? 無理無理、できもしないこと言ってんじゃないわよ、オ・バ・サ・ン」
「……もういい、貴様は死ね!!」
マジックが少女に斬りかかったのを皮切りに、3人も一斉に少女へと攻撃を仕掛けた。
中心にいる少女は変わらず余裕の笑みを浮かべ、目前に迫る鎌の刃を見つめているだけだった。
* * *
イストワ―ルさんから女神の卵の欠片が見つかったとの連絡を受け、俺達は急いでイストワ―ルさんのいる部屋に向かった。
女神の卵の欠片、俺が記憶をなくしていても持っていたあの石の欠片だよな。
あれが1つだったとは思っていなかったが、まさかプラネテューヌで見つかるなんて思わなかった。
あれが砕けて散らばったのはギョウカイ墓場だ。
それがなぜプラネテューヌに……
そんなことを考えていると、イストワ―ルさんがいる部屋に辿り着いた。
「いーすん、入るよー」
「……ネプテューヌさん、そう言うことは入る前に行ってください」
「別にいーじゃん、いーすんとわたしの仲だし」
「親しき仲にも礼儀あり……って、今はそれよりも、こちらを見てください」
ネプテューヌにお説教が始まるのかとちょっとだけ不安に思っていたが、イストワ―ルさんはすぐに俺達に机の上に置いてある欠片を見るように促してくれた。
「こちらが発見された女神の卵の欠片と思われる、宝石の欠片です」
机の上に置かれた宝石の欠片。
俺が持っていたものと形は違うが、間違いなく女神の卵の欠片であった。
何故なら……
「わたしだ!! パパ、ママ、わたしがいる!!」
腕の中でアカリが興奮して暴れながら欠片を指さしている。
欠片のことを、わたしだと言って。
「これがわたしってことは、やっぱり、これは女神の卵の欠片なのね?」
ノワールが興味深そうに欠片を手に取り、光に透かしてみたり、指で弄って、確認するかのようにアカリに尋ねた。
「うん、わたしだよ!!」
「俺も間違いなく、それは女神の卵の欠片だと思う。俺も形は違っても、同じものを持ってたから」
「……ん? その欠片はどうしたのよ?」
「……こっちに帰って来た時にはなくなってたんだ」
本当にどこに行ったんだよ。
「それ!! わたしにちょうだい!!」
「これ? いいけど、口に入れちゃダメよ」
小さい子ってこう言う小さいものを口に入れちゃったりして大変なんだよな。
アカリが欠片を欲しがっているのを見て、ノワールは軽く注意しながら欠片を渡そうとした時だった。
「あむっ」
「って、言ってる傍から、なに口に入れてんのよ!?」
欠片を持っていたノワールの指ごと、アカリは大きく口を開けて口に含んでしまった。
って、本当に何してんだ!?
「むにゅむにゅむにゅ」
「ちょ、ちょっと、舌で指を舐めないでよ!?」
「むーっにゅ!」
「って、あああ!? 欠片が!?」
ノワールもアカリが欠片を食べてしまわないように、口の中から欠片を取り出そうとしたが、それよりも早くアカリが大きく首を振ってノワールの指だけを離してしまった。
「むにゅむにゅ……っん……けぷっ、くひっ」
アカリは欠片を味わうかのように口の中で転がした後、欠片を飲み込んでしまった。
満足そうに息を吐いて笑うアカリを見て、俺は今更ながら慌ててしまった。
「な、なななな何やってんだよ!? 早くペッ! しなさい、ペッ!」
「いーや!」
「嫌じゃない!!」
どどどどどうするんだよ!?
欠片を飲み込んだせいでアカリの内臓が傷ついてしまうじゃないか!?
お願いだから、欠片を吐き出してくれ!?
「の、ノワールのせいだからね!? なんでちゃんと欠片を持ってなかったの!?」
「わ、私のせいじゃないでしょ!? ま、まさか指ごとくわえるとは思わなかったのよ!?」
「うっせぇよ、テメェら!! いいから落ち着きやがれ!!」
「責任問題は後ですわ!! 早く欠片を吐き出させないと!!」
ネプテューヌがノワールを責め、ノワールが目を回して慌て、ブランが騒ぐ2人にキレ、ベールが事態の深刻さを叫んだ。
どうやって欠片を吐き出させれば……
「夢人さん!! 早くアカリちゃんを逆さにするです!! そして、背中を少しだけ強く叩いて吐き出させてあげるです!!」
「そ、そうか!!」
さすがコンパ!!
伊達に看護師の資格持ってないぜ!!
俺はコンパに言われた通り、アカリの頭が下になるように抱え直した。
少し苦しいだろうが、我慢してくれ!
「ううううぅぅぅ、みゅうううううぅぅぅぅぅ!!」
「うわっ!?」
俺がアカリの背中を叩こうとした時、彼女の体が光始めた。
な、何が起こってるんだよ!?
「こ、これって……」
ネプギアは何か知っているみたいだったが、俺が尋ねる前に光は消えてしまった。
ど、どこもおかしなところはないよな?
俺はアカリの体に異変がないかどうかを確認するため、両脇に手を入れ高く持ち上げた。
「くひひっ、もっと、もっと!!」
アカリはそれを勘違いして、笑ってもっと高く上げてくれとねだってきた。
「ふぅ、どうやら何ともないみたいだな」
「パパ、もっと、もっと!!」
「あー、わかったわかった。ほら、高いたかーい!」
「きゃーい!!」
アカリを高く持ち上げ、少しだけ上下に揺らしてやると、彼女は嬉しそうに明るい悲鳴を上げながら喜んでくれた。
でも、本当に何ともなくてよかった。
「……アイエフさん、今の光って」
「ええ、似てるわね」
似てる?
どうやらさっきの光景に心当たりがあるのはネプギアだけじゃないみたいだ。
俺がアカリを抱え直して振り向くと、その場にいる全員が神妙な顔をしていた。
え、俺以外皆が心当たりあるのか?
俺にはまったくと言っていいほど心当たりなんてないんだが……
「アカリちゃん」
「なにママ?」
俺が皆の様子に戸惑っていると、ネプギアがアカリに尋ねた。
「もしかして、力が戻った?」
「うん!! すこしだけ!!」
……へ?
* * *
やっぱり、アカリちゃんは欠片を飲み込んで少しだけ力を取り戻したみたいだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺には何のことだかさっぱりわからないんだが」
この場で夢人さんだけは、何が起こったのかわからないみたいだ。
「ま、まずは、さっきの光、ネプギア達はアレに心当たりがあるみたいだったけど……」
「はい、私達はあの光を見たことがあります」
アカリちゃんから放たれた光、アレには見覚えがある。
私なんて間近で2度も見ている。
「あの光は、夢人さんやアカリちゃんが現れた時と同じ光なんです」
「俺やアカリが現れた時?」
「ええ、正確には女神の卵が力を発動していた時と同じ光だったわ」
アイエフさんの言う通り、女神の卵が力を発揮した時に放っていた光と同じものだ。
光の区別なんて普通じゃわからないけど、あの光は違う。
感覚でしかないけど、普通とは違うと思える力の波動を感じたのかもしれない。
この場にいる全員、アカリちゃんが現れた時に、同じ光を見ているからわかる。
アレが『再誕』の力の光だと……
「おそらくアカリさんの体に欠片が融合したんだと思います。元々1つであった女神の卵の欠片が元の形に戻ろうとしているのではないでしょうか」
そう言えば、アカリちゃんも私の部屋に初めて現れた時は、小さな欠片だったはずだ。
すぐに光ってしまってよく見えなかったが、ちょうど先ほど見た欠片と同じくらいの大きさだったと思う。
「……そうなると、やることは決まったわね」
「ノワールの言う通りですわ。わたくし達で欠片を探してアカリちゃんが吸収すれば……」
「アカリは『再誕』の力を取り戻して、夢人の記憶も戻って、ゲイムギョウ界も修復できるって、わけね」
欠片がいくつに散らばったかなんてわからない。
けど、少しずつでもアカリちゃんが力を取り戻すことができれば、夢人さんも記憶を取り戻すことができる!
「そうと決まったら、ギョウカイ墓場に乗り込んで欠片を探すわよ!」
「でも、欠片はプラネテューヌにあったんだよね?」
「おかしいじゃない、欠片が散らばったのはギョウカイ墓場なのよ? どうしてプラネテューヌにあるのよ?」
「……うーん、それがわからないんだよね」
どうして欠片がプラネテューヌにあったのかはわからない。
本当にどうしてなんだろう?
「もー! 細かいことはこの際置いといていいよ! 今はやることが分かっただけいいじゃん!」
「……そうね、今は考えるより行動した方がいいわよね」
私達がこれからすること……
女神の卵の欠片を探すこと。
それがゲイムギョウ界の崩壊を阻止するために必要なことなんだ!
「よーし! 皆でアカリちゃんの欠片を探すぞー!!」
夢人さんやお姉ちゃん達と一緒にゲイムギョウ界を救うために、必ず欠片を探しだす!
ゲイムギョウ界のために、アカリちゃんのために。
そして、夢人さんのためにも。
私達は欠片を見つけてみせます!!
……こうして、私達の新しい戦いが始まったのだった。
* * *
「う、うそ、だろ……」
「そ、そんな……ありえないっちゅ」
リンダとワレチューは目の前の光景が信じられなかった。
マジック達、マジェコンヌ幹部はその名に違わぬ強さを誇っている。
その4人を相手に少女が勝てる可能性などなかったはずだった。
「もう気が済んだでしょ? いい加減諦めなさいよ」
「……き、貴様」
4人は少女の前に膝をついてしまっていた。
ブレイブは堅牢なはずの機械のボディに亀裂が入り、トリックは自慢の舌がズタボロになっており、ジャッジはパワードスーツが半壊してしまっていた。
3人は膝をついてすでに戦える状態ではなかった。
そんな中、比較的傷が浅いマジックが少女を睨むが、少女はそんなマジックの態度に呆れてしまった。
「いくらやっても無駄なんだから」
「黙れ……っ!?」
マジックが少女に斬りかかろうとするが、足がもつれて無様に倒れてしまった。
すでにマジックも戦える状態ではなかったのだ。
「……まったく、勝手に壊れちゃこっちが困るんだから」
少女が指を鳴らすと、少女を中心として部屋全体に赤い光が走った。
その光に包まれ、傷ついていた4人の体が癒されていく。
「こ、これは……」
「いったいどうなってやがんだ」
「ベロ……うむ、口内炎の心配もなし、完全に治っておるではないか」
「……いったい何のつもりだ」
何故自分達の傷を治療したのかを少女に問うと、少女は薄く笑いながらマジックを見下した。
「当たり前でしょ、あなた達は今日から私のお人形さんなんだから。お人形さんは大切にしないとね」
「……貴様の人形になるつもりなど……」
「まだ気付かないの? 私の中にあるものに」
「……っ!? な、なぜ……何故貴様が……」
少女の言葉を聞き、マジックは何かに気付いたのか、唇を震わせ始めた。
その姿は普段のマジックとは思えないくらいに、少女に恐怖している姿であった。
「オバサンは気付いたみたいね……そうよ、今日から私があなた達のご主人様、あなた達が崇めるべき神様よ」
すると、そこで少女は何かを閃いたのか、人差し指を頬に当て顔を綻ばせた。
「そーだ。これなら少しは女の子らしい可愛い名前よね」
少女は自分に恐怖しているマジックに近づき、その顔を強制的に自分と向き合わせた。
「私の名前は、フィーナ」
少女、フィーナは瞳を怪しく光らせ、口元に小さく笑みを浮かべた。
「本当の名前はデルフィナス……って言うらしいわ。あなた達の元ご主人様の話じゃね」
「……デル……フィナス」
「いやん、フィーナ様って呼びなさいよ。あなた達は私のお人形さんなんだから」
フィーナはそう言うと、マジックの頬から手を離し、後ろで呆然としていたブレイブ達に向かって宣言する。
「あなた達も覚えておきなさい。私はフィーナ、この地の真の主にして、『再誕』の女神……フィーナ様よ」
……ここに、犯罪組織マジェコンヌの新しい主が誕生した。
という訳で、今回はここまで!
ようやくフィーナちゃんを出せました。
感想でも彼女の正体についていろいろとあったんですが、本文の通りです。
さあ、これからどうなって行くのか、楽しみにしておいてくださいね。
それでは、 次回 「帰ってきた女神通信(ネプテューヌ編)」 をお楽しみに!