超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
この章もそろそろ終わりが近づいてきました。
そのために、今回はまず夢人帰還の謎から。
それでは、 修復不可能? はじまります


修復不可能?

「……怨霊ごときが、ふざけたことを言ってくれたものね」

 

 石像を破壊した黒ロリファッションの少女は、ただ冷たく石像を貫いていた手を見下ろしていた。

 

 しばらくその手を握ったり開いたりしていると、無表情だった顔に再び笑みを浮かべ、ギョウカイ墓場の赤い空を見上げた。

 

「まあ、いいわ。アイツが何を勘違いしていたのかも、すぐにわかることだしね」

 

 上体をそらして深呼吸するかのように両手を広げた少女に、地面から赤黒い靄が次々にまとわりついていく。

 

 少女はそれを嬉しそうに受け入れ、目を閉じた。

 

「アイツの知識も力も記憶も、ぜーんぶもらっちゃうんだから」

 

 やがて、赤黒い靄は少女の全身を覆い尽くしてしまった。

 

 

*     *     *

 

 

「……本当に、夢人はもう消えないんだよね?」

 

「ああ、もう勝手に消えたりしないよ」

 

 泣き止み落ち着いたユニは、不安そうに夢人に尋ね、彼は困ったように笑って応えた。

 

 2人は今、パーティー会場に戻る通路を歩いている。

 

 それでもユニは不安そうに顔を落とし、彼と握っている手を強く握った。

 

「……ごめんね、夢人の言葉を疑ってるわけじゃないの。でも、アタシは不安なのよ」

 

 ユニを引っ張るように歩いていた夢人は、握られていた手に力が込められたことがわかると、立ち止まって彼女の方を振り向いた。

 

 夢人が立ち止まったことが分かったユニは、不安そうに眉根を下げ、今にも泣きそうな顔で彼を見上げて尋ねた。

 

「本当に、本当に大丈夫なのよね?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「本当?」

 

「本当」

 

 夢人は何度も尋ねてくるユニを安心させるように柔らかく笑みを浮かべながら彼女に応える。

 

 つないでいない方の手も、もう片方のユニの手を握り、まっすぐにお互いの顔を見ながら彼女に伝える。

 

 ここにちゃんと自分がいることを……

 

 ユニは夢人の言葉にしない思いが伝わったのかはわからないが、不安そうに揺れていた瞳が次第に潤み始め、小さく口元に笑みを浮かべた。

 

「……うん」

 

 短い言葉ではあったが、ユニの不安が少しは晴れたことを感じた夢人は安心したように口元を緩めて、握っていた手の片方を離した。

 

「あっ」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「な、何でもない……」

 

 離された手の温かさを惜しむようにユニが声を上げたが、夢人にそれを指摘され、恥ずかしそうに俯いてしまった。

 

 夢人はまた俯いてしまったユニを不思議に思ったが、いつまでも通路にいるわけにもいかず、彼女を引っ張る形で再び歩き始めた。

 

 ユニもそれに抵抗せず、夢人について行った。

 

 握っている手から余分な力が抜け、優しく夢人の手を包むように自分の手を握りなおした。

 

 そのまましばらく、2人の間に会話はなかったが、互いに居心地の悪さを感じることはなく歩き続けた。

 

「……そう言えば、どうやってゲイムギョウ界に戻ってきたの?」

 

 ユニは思い出したかのように夢人に尋ねた。

 

 夢人と話せて安心したことにより、彼がどうやってゲイムギョウ界に戻って来たのかを知りたくなったのだ。

 

「アカリのおかげだよ。俺、実は消えた後は元の世界に戻ってて記憶を全部失ってたんだ」

 

「記憶を……って、そうか。前まで夢人は精神体でこの世界にいたんだっけ?」

 

「そう、詳しくはわからないけど、女神の卵が俺を不完全に召喚したせいで、俺はこっちに精神だけの状態で来てたみたいだ。そのせいで、こっちの世界で消えた俺は、記憶を全部失ってたんだけどな」

 

 夢人がギョウカイ墓場で消えた理由は、彼が全ての記憶を失ったせいである。

 

 記憶を失ったことにより、『再誕』の女神の力で造られていた体の情報が失われてしまい、体を維持していられなかった。

 

「でも、今回は体ごとこっちに来てる。前みたいに消えることは絶対にないさ」

 

 夢人は顔だけ振り返り、悪戯っぽく口角を大きく吊り上げて笑った。

 

 ユニはそのわざとらしい笑みがおかしく見え、口元に手を当てながら小さく噴出して目を細めた。

 

「ぷっ、なによその顔」

 

「おかしいか?」

 

「わざとらしすぎておかしいのよ。ふふ、でもそれならちょっと安心したかな」

 

 本当に安心したようで、ユニは自然と頬を緩めて夢人の目をまっすぐと見つめた。

 

「だから、少しだけ許してあげるわ」

 

「厳しいな」

 

「当然よ、まだまだ許してあげないんだから。ベーっ、だ」

 

 ユニは悪戯っぽく片目をつぶりながら舌を出して夢人に言った。

 

 その顔は明るく、先ほどまであった不安など微塵も感じさせないものであった。

 

「でも、記憶なんてよく戻ったわね。全部忘れてたんでしょ?」

 

「まあ、それもアカリのおかげかな? アカリが俺の記憶を残しておいてくれたんだ」

 

「残しておいた? ……っと、そう言えば、アカリはどうしているのよ? 今日はまだ会ってないんだけど、まさか1人にさせてるなんて言わないわよね?」

 

 ユニは言葉の意味はわからなかったが、それは置いといてアカリが今どうしているかどうかを尋ねた。

 

 自分達が来てからずっとアカリの姿を見ていない。

 

 いくらアカリが『再誕』の女神と言えども、まだ赤ん坊だ。

 

 1人にさせておくわけはないし、どこで何をしているのかが気になった。

 

「ん……ちょっと待ってくれ、今ちょうど起きたみたいだ」

 

「は? なに言ってるの?」

 

「ちょーっと待ってろって……うん、いいぞ、出てきても」

 

 夢人が急に目を閉じてまるで電波を受信するかのようにアカリの様子を言ったことをユニは不審に思った。

 

 夢人はユニの態度を気にせず、手をつないでいない方の腕を軽く曲げ、何かを抱くような形を造った。

 

 すると、夢人の体と腕の間に小さく光が発生し、光は段々と人の形に大きくなっていった。

 

 やがて、光は体と腕の間にちょうど収まる形、赤ん坊の姿となって現れた。

 

「うみゅぅ、おはよう、パパ」

 

「おはよう、アカリ。よく眠れたみたいだな」

 

「うみぃ」

 

 まだ眠たいのか、赤ん坊、アカリの目はまったく開いておらず、返事にも力がなかった。

 

 そんなアカリの様子に夢人は苦笑していると、その驚くべき光景を見たユニは目を大きく開かせて指先を震わせながらアカリを指さした。

 

「ね、ねえ、夢人、今アンタの体からアカリが出なかったかしら?」

 

「ああ、そっか。言ってなかったよな」

 

 夢人は困ったように眉根を下げて笑みを浮かべた。

 

「アカリは女神の卵の時と同じように、俺の体の中にいるんだよ」

 

 

*     *     *

 

 

「……へえ、それじゃアカリは夢人の体の中にいるのね」

 

「うにゅぅ」

 

 ノワールは夢人が抱いているアカリの頬を軽くつつきながら、夢人に確認するように尋ねた。

 

「ああ、理由はわからないけど、俺の中にアカリがいるんだよ」

 

「いきなりアカリちゃんが出てきた時は、ほーんと驚いたもんね」

 

 ネプテューヌはノーコネディメンションの奥で、夢人の体からアカリが突然現れた時を思い出し、困ったように笑いながら言葉を続けた。

 

「こう急にピカッと光ったと思ったら、アカリちゃんがゆっくんの腕に抱かれてるんだもん」

 

「わたしも部屋で寝かせていたはずのアカリちゃんが急に消えて驚いたですよ。もしかしたら、誘拐されちゃったかもと思って慌てちゃったです」

 

 コンパも急にアカリがいなくなって、慌ててイストワ―ルに報告し、自分もタンスの中やベットの下、ゴミ箱の中まで探したことを思いだした。

 

「この子が夢人に寄生してるってことかしら?」

 

「そんな虫じゃありませんし、無難に夢人さんの体と融合していると言った方がいいんじゃありませんか?」

 

 ブランとベールも興味深そうに、未だに眠そうに瞼を閉じているアカリを見つめた。

 

 今パーティー会場には、ネプギア達女神候補生も全員そろっており、夢人を中心として集まっているのである。

 

「まあ、そんなわけで俺とアカリはベールの言葉を借りるなら融合している状態なんだ。しかも、ある一定の距離を取ると、自然とアカリが俺の体の中に戻ってくるんだよな」

 

「船の中で急に消えたと思ったら、トイレに行った夢人が抱えて戻ってきた時は驚いたわよ」

 

 アイエフはため息をつきながら、その光景を思い出していた。

 

 夢人がトイレに行くためにネプギアにアカリを預けた後、突然アカリの姿が光とともに消えたのだ。

 

 ネプギア達は慌ててアカリを探そうとした時、トイレに行っていたはずの夢人がアカリを抱えて戻ってきた姿を見て思わず叫んでしまうくらい驚いてしまった。

 

「何か見えない糸でつながってるのか、離れられないんだよな」

 

「くひひ」

 

 夢人は困ったように笑いながらもアカリの頭を優しくなでると、アカリがもっとなでてと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「でも、俺はアカリのおかげで記憶を取り戻すことができたんだよな」

 

「それってどういう意味なのよ? 通路では聞けなかったけど、残してたってどこに残してたって言うのよ?」

 

 ユニは先ほど通路では聞けなかったことを夢人に尋ねた。

 

 アカリが夢人の記憶を残していたとは言っていたが、いったいどこに残していたのか。

 

「パープルディスクだよ。アカリがパープルディスクに俺がゲイムギョウ界に来てからの記憶を残しておいてくれたんだ」

 

 夢人は元の世界の自室で紫色のディスク、パープルディスクに触れた時に、パープルディスクからゲイムギョウ界にいた時の記憶が流れ込んできたのだ。

 

「え? でも、ゲイムキャラ達からもらったディスクってそれぞれの国の情報が入ってたんだよね?」

 

「ああ、女神の卵はディスクからその情報を受け取ることで、この世界を救う『再誕』の女神を誕生させたんだ」

 

「その影響で夢人の記憶がこぼれたって聞いてたのに、どうやって残してたの?」

 

「……バックアップってことですの」

 

 日本一が疑問に思っていると、がすとが全部理解したと言った感じで頷いてつぶやいた。

 

「女神の卵はあらかじめ、夢人の記憶を保存してたんですの。そして、情報を抜き取ったディスクに夢人の記憶を入れたんですのね」

 

「……なるほど、確かに女神の卵自体に保存していられないなら、外に保存していたと言うわけね」

 

 女神の卵、アカリが夢人の記憶を保存していた方法は、PCに情報を保存しきれないのならば、外部メモリーに保存しておくようなものだ。

 

 ゲームディスクから情報を受け取る際、女神の卵からも夢人の記憶を送っていたのだ。

 

「パープルディスクに残されていた記憶を、アカリの『再誕』の力を使って修復した結果、俺はゲイムギョウ界の記憶を取り戻すことができたんだ」

 

「……なら、まだ記憶が全部戻ってるわけじゃないんだね」

 

「……うん、そうなるな。俺が今思い出せるのは、初めてゲイムギョウ界に来た時の記憶からしかないんだ」

 

 その言葉を聞いて、夢人は寂しそうに小さく笑いながら応えた。

 

 あくまで夢人が思い出したのは、パープルディスクに残されていた記憶だけである。

 

「……つまり、今私達の中にあるディスクの中にも夢人の記憶があるってこと?」

 

 ナナハがそう言って、自分の胸に手を当てて体を見下ろした。

 

 それはナナハだけでなく、ネプギアを除く女神候補生全員が同じであった。

 

「じゃあ、わたし達の中に入ってるディスクを使えば、夢人の記憶が全部戻るのね」

 

「……でも、どうやって取り出すの?」

 

「アタシ達の体に入ったっきりで、どうやって取り出すのかなんてわからないわよ?」

 

 ユニ達はどうすれば体内からディスクを取り出すことができるのかわからず眉をひそめた。

 

 やがて、唯一ディスクを取り出すことができたネプギアに視線が集まったが、彼女も困ったように手を合わせた。

 

「……私もよくわからないの。アカリちゃんにおでこを叩かれたと思ったら、夢人さんの世界にいて、私が消えた後に残っていたらしいんだけど……」

 

「……やはり、アカリちゃんの力なんでしょうか?」

 

 ネプギアの言葉を聞いて、ベールが夢人に近づき、アカリの頬を優しくなでながら自分の考えを言った。

 

「アカリちゃんが使える『再誕』の力、それは世界を修復できるほど強い力のはずですわ。その力を使って、ナナハ達の体内からディスクを修復したのではないでしょうか?」

 

「……記憶だけで人間の体を造り上げるくらい強い力なら、それくらい簡単かもしれませんね」

 

 ベールの言葉に全員が納得したようで、ネプギアに向けていた視線をアカリに集めた。

 

 そして、代表として夢人がアカリに尋ねた。

 

「なあ、アカリ」

 

「なぁに、パパ?」

 

「ユニ達の体の中からディスクを取り出すことってできるか?」

 

「うみゅぅ、うぅん……」

 

 アカリは眠い瞼を腕で擦りながらユニ達を順に見て行く。

 

 その間に目がさえたのか、瞬きを数回してしっかりと目を開けて夢人を見上げた。

 

「できるけど……」

 

 アカリの言葉に夢人達は嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 これで、夢人の記憶が完全に戻ることができると思ったからである。

 

「でも、いまはできないよ」

 

 ……しかし、続けられた言葉に全員は固まってしまった。

 

 できるのに、今はできない。

 

 その言葉の意味がわからず、皆が疑問に思い首をかしげているなか、アカリは言葉を続ける。

 

「だって、わたしいま、ちからつかえないもん」

 

「力が使えないって……」

 

「それって……」

 

 アカリは夢人達が何故驚いた表情をしているのかわからず、無邪気に笑いながら言った。

 

「パパをこっちにつれてくるのに、ちからぜんぶつかっちゃった。えへへへ」




という訳で、今回はここまで。
この話から、次章からどんなことをしていくのかが分かると思います。
それでは、 次回 「探し物は娘の欠片」 をお楽しみに!

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