超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
皆さんは体調を崩されてはおりませんか?
私は本格的に鼻水が止まらない状態です。
皆さんも体調には十分お気を付けくださいね。
それでは、 シークレットハート はじまります


シークレットハート

 石像を貫いた手から赤い光が黒ロリファッションの少女へと流れて行く。

 

『貴様!! やめろ!!』

 

「い・や・よ。なんであなたなんかの命令を聞かなきゃいけないの? 私に命令できるのは、私だけなの」

 

『ぐっ!?』

 

 やがて、石像は苦しそうに声を上げると、段々と砂になっていく。

 

 その様子を見て、少女はより笑みを深め、石像を挑発するように笑った。

 

「ねえねえ、今どんな気持ち? 利用しようとした相手に利用されそうになって、今どんな気持ちなのよ?」

 

『……だ、まれ!! あ……く……ま……っ!?』

 

「だ・か・ら、あなたは何を勘違いしているのかしら? 私が悪魔? ふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」

 

 少女は今まで浮かべていた笑みを消し、眉間にしわを寄せながら激しい怒りをあらわにした。

 

 その証拠に、石像を掴む手に力が入り、顔の部分に罅が入った。

 

「あなたが何を知っているのか知らないけど、私は悪魔なんかじゃない。私は……私こそが!!」

 

 それ以上、石像に喋らせる気がないのか、少女は石像の頭を握りつぶした。

 

「『再誕』の女神……ただ1人のね」

 

 頭を砕かれた石像は全身が砂となり、消えてしまった。

 

 後に残ったのは、無表情に石像があった場所を見下ろす少女の姿だけだった。

 

 

*     *     *

 

 

 ……アタシはいったい何をやってるんだろう。

 

「ユニちゃん、そっちの準備できた?」

 

「もうとっくにできてるわよ」

 

 アタシが今居る場所は、ネプテューヌさんが突然言い出したパーティーの会場……

 

 ではなく、パーティーのための食べ物と飲み物を準備する場所、調理場なのだ。

 

 前日に用意してあったらしく、アタシがすることと言えば、準備してあった簡単な料理を温めたり、飲み物を冷蔵庫から出すだけだ。

 

 アタシ達にとっては突然のことだったが、ネプテューヌさん達にとっては予定していたものだったらしく、本当に簡単な仕事しかない。

 

 だから今回は、あたし達女神候補生が交代で準備をしようって決めた。

 

 そんなに人数もいらないし、ロムやラムも運ぶだけで大丈夫だからできる仕事だ。

 

 何より、ゆっくりと夢人との再会を祝いたかったから。

 

 アタシ達がこうして集まった理由は、夢人が帰ってきたからだ。

 

 皆夢人と早く話したいと思っているだろう。

 

 その中で、特に夢人と話したいと思っているのは、夢人のことが好きだとわかっているネプギアを除く、女神候補生4人だ。

 

 きっと、我先にと言った感じで、夢人に群がり、ゆっくりと話すことさえできない。

 

 そんなことにならないように、アタシ達が交代で夢人と話すために準備を引きうけたんだ。

 

 で、最初の話に戻るんだけど……アタシはいったい何をしているんだろう。

 

 アタシがここで準備をする必要は、本当はないのだ。

 

 ネプギアが準備をしている間は、本当ならアタシは会場の方に行ってもよかった。

 

 でも、アンタ1人じゃ不安だとか、しょうがないから手伝ってあげるわよ、とか言って理由を付けてここでネプギアを手伝わせてもらってる。

 

 理由?

 

 そんなの決まってるじゃない。

 

 ……夢人から逃げちゃった。

 

 だって、しょうがないじゃない!?

 

 感動の再会と思ってここに来たと思ったら、その相手が縛られた状態で再会したのよ!?

 

 もう感動も全部吹き飛んじゃったわよ!?

 

 後に残ったのは、感動の再会を想像して浮き足立っていたアタシの恥ずかしい気持ちだけ。

 

 ……もう、どうしてくれんのよ!?

 

 恥ずかしすぎて、まともに話せないじゃない!?

 

 本当は1番に話しかけたかったのに、すぐさまここに逃げ込んじゃったじゃない!?

 

「ユニちゃん、どうかしたの?」

 

「な、な、何でもないわよ!?」

 

「そ、そう? それならいいんだけど……」

 

 お、落ちつくのよ、アタシ。

 

 ここにはネプギアがいるんだから……

 

 ん? そう言えば、聞かなければいけないことがあったんだっけ。

 

「ネプギア、1つだけ聞いていい?」

 

「なに?」

 

「どうして夢人は……そ、その……縛られてたのよ?」

 

「え!? そ、それは……その……なんと言うか……えっと……」

 

 聞くのは少し恥ずかしかったが、聞いておかなければいけない。

 

 ……でも、何よ、その反応。

 

 いきなり頬を赤くして、何指をもじもじさせてるのよ?

 

 え? 本当になに? 何なの?

 

 アタシは今まで見たことがないネプギアの反応に戸惑っていると、彼女の口から出た言葉に衝撃を受けてしまった。

 

「き、昨日ね……そ、その……一緒に……寝たの」

 

「……え? ね、寝たって……え? あれ? うん? ……ええええええ!?」

 

 寝たってことは、アレよね?

 

 男と女の営みって言う、そ、その夜の運動って……

 

「ご、誤解しないでよ!? 一緒のベットに寝たのはアカリちゃんもだから、3人で寝たの!!」

 

 それでも問題発言なのよ!?

 

「なんでそんなことになってるのよ!?」

 

「あ、アカリちゃんが、パパとママと一緒に寝たいって言うから……そ、その……一緒に寝ました」

 

「じゃ、じゃあ、なんでそれで夢人が縛られてたのよ?」

 

「夢人さんは縛られてないと眠れないみたいで、私に縛ってくれて……」

 

 あ、アホーッ!!

 

 そんな奴いるか!?

 

 夢人も何てこと言ってんのよ!?

 

 で、でも、一線を越えてないみたいでよかっ……

 

「……わ、私も聞いていい? お、男の人ってさ、ああいうのす、好きなのかな?」

 

 んん? 何やら雲行きが怪しくなってきたような……

 

 え? アカリのわがままで仕方なく、一緒に寝たんじゃないの?

 

「そ、それって、どういう意味?」

 

 頬を真っ赤になり、両目を潤ませながら両手で口を隠して尋ねてきた。

 

 ま、まさか、そんなこと……

 

「え、えっと……夢人さん、ああいうの好きなのかなって……わ、私も、覚えた方がいいのかな?」

 

 ……こ、ここここれはマズイ!?

 

 なんでか知らないけど、ネプギアが夢人のことを好きになってる!?

 

 直接好きとは言っていないが、目を見ればわかる。

 

 あれは恋をしている目だ。

 

 アタシやロム、ラム、ナナハと同じように。

 

 今までは、夢人の一方通行の思いだったからよかったけど、今両想いじゃない!?

 

 どどどどどどどうするのよ!?

 

 おおお、おおおお落ち着きなさい、アタシ。

 

 そう、クール、クールになるのよ。

 

「そ、そそそそうね、お、覚えておいた方がいいんじゃないかしら?」

 

「そ、そうなんだ。ありがとう、ユニちゃん。後で調べてみるね」

 

 って、何言ってるんだ、アタシは!?

 

 何が覚えておいた方がいいだ!?

 

 そんなの覚える必要なんてないわよ!?

 

 ネプギアも、何そんないい笑顔で調べとく、なんて言ってんのよ!?

 

 ……ほ、本当にどうすればいいのよ。

 

 このままじゃ、アタシの恋は……

 

「交代に来たよ……何やってるの、ユニ?」

 

 調理場にナナハが来たが、アタシはそれどころじゃない。

 

 今でさえ、夢人とまともに話せないのに、どうすればアタシの恋が実るのかを考えて頭を抱えているんだ。

 

「……放っておいてよ」

 

「……何があったのか知らないけど、交代だよ。2人とも会場に行ってもいいよ」

 

「私はもう少し手伝うよ。ユニちゃん、会場の方に行って来ていいよ」

 

 そっか、じゃあお疲れさまでしたって言って、会場の方に行こうかしら……

 

 って、なるわけないじゃない!?

 

 まだどうやって夢人と話そうか考えついていないのに、今の衝撃発言で頭真っ白になっちゃったじゃない。

 

 こんな状態じゃ、夢人と話せないわよ!?

 

「……ユニ、早く会場に行ってきなよ。いつまでも頭抱えてないでさ」

 

 うっさいわね、わかってんのよ。

 

 でも、どうやって話せばいいんだか、わかんないのよ。

 

「ロムとラムも、もうそろそろこっちに来るだろうし、後はユニだけだよ? 女神候補生で話してないの」

 

「うっ」

 

「ユニがそんな調子なら、私がまた会場の方に戻って……」

 

「ああもう、行くわよ!! 行ってくるわよ!!」

 

 こうなりゃ、自棄よ!?

 

 その首洗って待ってなさいよ、夢人!!

 

 

*     *     *

 

 

 ……何やら変な風に気合いを入れて、ユニが会場に向かった。

 

 まったく、何やってるんだか。

 

 なんで夢人と話すのに、そんな気合いが必要なんだろう。

 

 ただ、おかえりって言ってあげるだけでいいのに。

 

 そうすれば、自然にいろいろと話せるはずだ。

 

 ……でも、よかった。

 

 ユニが恥ずかしがって夢人を避けるように手伝いをしていたのは知っていた。

 

 だから、無理やりにでもユニを夢人と話させようと思っていたけど、あの様子なら大丈夫……かな?

 

 ちょっと不安は残るけど、夢人なら多分大丈夫だと思う。

 

 夢人はユニのことも大切に思ってるから。

 

 私もユニのことが好きだし、大切な人だと思ってる。

 

 ユニの言葉のおかげで、私は夢人や皆に前世のことを告白できたんだから。

 

 だから、頑張ってね、ユニ。

 

 好きな人と話せないで辛い思いをするのは、ユニなんだから。

 

 同じ人を好きになった者同士、頑張ろうね。

 

 ……そう言えば、ユニはなんで頭を抱えていたんだろう?

 

 アレは恥ずかしがってたのとはちょっと違う気がする。

 

 ネプギアなら、何か知ってるかな?

 

 ……そして、私もユニがどうして頭を抱えていたのかを知り、自分も頭を抱えてしまった。

 

 ただ、1つだけ言えることがある。

 

 ネプギア、そんなこと調べる必要なんてないよ。

 

 

*     *     *

 

 

 さて、ブラン達、ルウィーの面々と話し終えた俺は、次は残っているユニ達と話そうとしたのだが……

 

「あれ? いない?」

 

 ユニの姿がどこにもなかった。

 

 ナナハは準備は交代制だって言っていたから、ここにいてもおかしくはないはずなんだが……

 

「今、いいかしら?」

 

「え、はい、えっと……確か、ノワールさん?」

 

 俺がユニを探してきょろきょろしていると、後ろから黒い髪を二つに縛った女性から話しかけられた。

 

「ノワールでいいわ。それにしても、よくわかったわね。私はあなたと初対面のはずだし、『変身』すると髪の色も変わるのに」

 

 あ、アハハ、実は消去法で残っているのが、ユニの姉のノワールしかいなかっただけなんて言えない。

 

「ゆ、ユニと似ていたからですよ」

 

「それもそうよね。それと、敬語もいらないわ。夢人よね? ユニが大分世話になったみたいね。姉としてお礼を言うわ。ありがとう」

 

「お礼なんていいよ。俺もユニに世話になりっぱなしだし」

 

 どこに行ってもお礼を言われるから、本当に何かむず痒い。

 

 こう、感謝されるのは嬉しいんだけど、恥ずかしいと思ってしまう。

 

「こんなところで話すのも難だし、あっちのテーブルで話しましょ?」

 

「わかった」

 

 そう言って、俺はノワールに連れられてとあるテーブルに向かった。

 

「やあ、夢人君、おかえり」

 

「おかえりなさい、お兄さん」

 

「ただいま、ファルコム、フェル」

 

 そこには、フェルとファルコムが自分の飲み物の紙カップを持って待っていた。

 

 俺はフェルからテーブルに置いてあった紙カップを受け取り、中の飲み物を一口飲んでから話し始めた。

 

「勝手にいなくなってごめん。皆を悲しませたみたいで、もうこんなことないようにするよ」

 

「……その様子だと、他の皆にいろいろと言われたみたいだね。なら、あたしから言うことはないかな」

 

「ボクもですね。こうして無事に帰ってきてくれて嬉しいです」

 

 ……本当に皆優しいな。

 

 もっと責められると思っていたのに、こんな俺を許してくれるなんて。

 

 ありがとう、2人とも。

 

 ……それにしても、本当にどこにいるんだ? ユニの奴。

 

「ごめんなさいね、夢人。ユニのこと探してるんでしょ? あの子、まだ手伝いに行ったっきりで帰ってこないのよ」

 

「……やっぱり、わかります?」

 

「そんなにきょろきょろしてたらね。まったく、あの子は本当に何してるのかしら?」

 

 そう言ってノワールは、髪先を指でくるくると弄って扉の方へと視線を向けた。

 

 この人がユニの姉か……

 

 さっきブランに会った時も思ったけど、やっぱり妹は姉に似ているのかな。

 

 顔立ちとか瞳の色とか、本当にそっくりだ。

 

 ……ある部分を除いてな。

 

「でも、本当にユニのこと、ありがとう。あの子、自分に自信がない子だったでしょ?」

 

「……ああ、最初に会った時のユニはそんな女の子だったよ」

 

「そうでしょ。あの子はいつも私と自分を比べて、劣等感を抱いていたのよ。でも、そんなユニと再会した時、私はあの子の目を見て嬉しかったのよ」

 

 ノワールがその赤い瞳でまっすぐに俺の瞳を見つめて、嬉しそうに頬を緩めながら言う。

 

「あの子の目に強い意志を感じたのよ。いつも私にひっついてばかりだったユニが本当に成長してくれた証だって思えたの。そのきっかけをくれたのは、きっとあなたよ」

 

 ……やばいな、さっきから本当にお礼を言われたりしてばっかりで、過大評価されてる気がする。

 

 俺は真っ直ぐ見つめてくるノワールの視線から逃げるため、視線を上にそらした。

 

 そんな俺がおかしいのか、ノワールは目を細めながら小さく笑った。

 

「ふふ、照れてるの? 案外、照れ屋なのね」

 

「い、いや、さっきからお礼を言われてばかりでくすぐったくて」

 

「言われるだけのことをあなたはしているのよ」

 

 うう、頬が熱くなってきた。

 

 ノワールって結構ストレートに言うなあ。

 

「……ん? どうやらようやく来たみたいね」

 

 ノワールが視線を向けた先には、この部屋に入ってきたユニが俯きながらこっちに近づいてきていた。

 

 なんで俯いてるんだ?

 

 俺は首をかしげながらユニを見ていると、ユニは俺の前の前で立ち止まり動かなくなってしまった。

 

「……ユニ?」

 

 どこか調子が悪いのか?

 

 俺が心配になってユニの顔を覗き込もうとした時だった。

 

「……やっぱり」

 

「ん? どうした?」

 

「やっぱり、無理いいいいいいいいいい!!」

 

「……は? え、ユニ!?」

 

 急に顔を上げたと思ったら、顔を真っ赤にして勢いよく部屋から飛び出していってしまった。

 

 いったいどうなってんだ!?

 

 

*     *     *

 

 

 ……まったく、あの子ったら本当に何やってるのよ。

 

 私は夢人から逃げたユニの姿を見てため息をついた。

 

 あんなに会いたがってた相手がいるのに、なんで逃げちゃうのかな。

 

 少しは素直になればいいのに。

 

 変な所で私と似てるんだから。

 

 私だって素直じゃない自覚ぐらいあるわよ。

 

 でも、あんな風に逃げちゃうなんて……

 

 ユニもまだまだ子どもね。

 

 仕方ない、ここは私が……

 

「悪い、俺ユニ追いかけてくる!」

 

「よろしくね、夢人君」

 

「頑張ってください」

 

 ……あれ?

 

 なんで夢人が追いかけるって感じになってるのかしら?

 

 ここは姉である私がユニを追いかけるべきじゃないのかしら?

 

 ほら、姉として妹を優しく導く的な……

 

 って、考えているうちに夢人もユニを追いかけてちゃった!?

 

「ちょ、ちょっと!? 私も……もぎゅっ!?」

 

「はいはい、ここは夢人君に任せようね」

 

 私も慌ててユニを追いかけようとした時、後ろからファルコムに口と体を押さえられてしまった。

 

 は、離してよ!? 私もユニを追いかけなきゃいけないのよ!?

 

「ユニお姉さんも、お兄さんが追いかけてくれることを期待してるんですから」

 

 私がファルコムの拘束から逃れようと暴れていると、フェルがまるで聞き分けのない子を諭すように優しく私に言ってきた。

 

 そ、そんなのまだわからないじゃない!?

 

 もしかしたらお姉ちゃんが追いかけてくれることを期待しているのかもしれないのよ!?

 

「暴れないでよ、ノワール」

 

 だったら、せめて口を押さえるのはやめなさいよ!

 

 息が苦しくなってきて、呼吸が上手くできないのよ!

 

「ファルコム、口、口」

 

「あ、そっか」

 

「……ぷはっ」

 

 ふーっ、何とか呼吸困難に陥らずに済んだわ。

 

 私が1度大きく息を吸って吐いた後、振り返りファルコムを睨んだ。

 

「急に何をするのよ!! ユニを追いかけられなかったじゃない!!」

 

「アハハ、ごめんごめん。でも、ノワールはここでお留守番だよ」

 

「だから、何でよ!!」

 

 なんで私はユニを追いかけちゃいけないのよ!

 

「ユニは皆の前で恥ずかしかったから逃げたんだよ? だったら、今は2人っきりにさせてあげた方がいいと思わない?」

 

「うっ、それは……」

 

 た、確かにそうだけど……

 

 それじゃ、夢人に失礼じゃない。

 

 あんな風に逃げるだなんて……

 

「ユニお姉さんも素直じゃないですから、ここはお兄さんに任せといたほうが1番にいんですよ」

 

 ううぅ、これが姉離れなのかしら?

 

 いつも何かあれば、お姉ちゃんって言って私を頼ってきたユニが、今は他の誰かを頼りにしているなんて……

 

 まあ、その相手が夢人だって言うことには不満はないわよ?

 

 少し話してみただけで、ユニのことを大切に思っていることが分かったから。

 

 ……でも、お姉ちゃん寂しいなあ。

 

 

*     *     *

 

 

 走る。

 

 アタシは今、全速力で教会の中を走ってる。

 

 ……やっちゃった。

 

 アタシの…………アタシのバカ!!

 

 何また逃げちゃってるのよ!?

 

 勢い込んで夢人と話そうと思ったら、目の前にいることと私の名前を呼ぶその声に私は耐えられなかった。

 

 ……なんでこんなに恥ずかしいのよ!?

 

 話したいことを何とか通路を歩いているうちにまとめたはずだった。

 

 最初は夢人に文句を言ってやり、最後に笑って許してあげるわって言おうと思っていた。

 

 何度も頭の中でシミュレーションしたため、歩くスピードは遅くなってしまったが、準備は万端であったはずだった。

 

 でも、実際に夢人の前に辿り着くと、また頭の中は真っ白になってしまった。

 

 何を話していいのかまったくわからず、顔だけが熱くなってしまったアタシは逃げ出してしまった。

 

 なんで皆して普通にしてられるのよ!?

 

 アタシだけなんでこんなに恥ずかしがってるのよ!?

 

 いくら自分が素直じゃないと言っても、これはない。

 

 走りながら自分の行動を後悔するが、今更後には引けない。

 

 ……ううぅぅ、アタシの、バァーカァ。

 

 ネプギアって言う強敵が現れたのに、何でアタシはこんなことしてんのよ。

 

 自分の性格が恨めしい。

 

「おい、待てよ、ユニ!!」

 

 ……ああ、何か夢人の声が聞こえてくる。

 

 きっと幻聴よね。

 

 夢人が追いかけてくるわけ……

 

「待てったら、ユニ!!」

 

 って、本当に追いかけてきてる!?

 

 な、な、なんで!? どうしてなの!?

 

 アタシはどうして夢人が追いかけてくるのかわからないが、足を止めることはなかった。

 

 今は絶対に会いたくない!!

 

 こんな顔で夢人に会いたくない!!

 

 アタシは夢人に追いつかれないように走り続けた。

 

 絶対に追いつかれたくない!!

 

「ああ、もう!! こうなりゃ!!」

 

 夢人が何かしようとしているが、アタシには関係ない。

 

 アタシはただ逃げるだけだ。

 

「追いついた!!」

 

 ……と、思っていたんだけど、いつの間にかアタシに並んで横にいた。

 

 どうしてよ!?

 

 そのまま夢人はアタシを追い抜き、アタシの目の前に立ち塞がった。

 

 よく見てみれば、その足は凍りついていた。

 

 おそらく、足を凍らせて滑ったんだろう。

 

「ユニ、止まって……」

 

「急に目の前で止まる……ぶっ!?」

 

「く……うごっ!?」

 

 アタシは急に止まれず、思いっきり夢人のお腹に頭から突っ込んでしまった。

 

 夢人もアタシを支えきれず、2人はそのまま地面を転がってしまった。

 

「イテテ、大丈夫か?」

 

「……大丈夫なわけないでしょ」

 

 アタシは俯いたまま応えた。

 

 顔は絶対にみられたくない。

 

 だって、顔を見られたら……

 

「ユニ? お前……」

 

 夢人が心配してアタシの両肩に手を置き、顔を覗き込み驚いていた。

 

 ……だって、アタシは泣いていたんだから。

 

「どこか怪我でも……」

 

「バカ!! 夢人のバカ!!」

 

 もう我慢できなかった。

 

 アタシはずっと言いたかったことを夢人にぶつけた。

 

「なに勝手にいなくなってんのよ!! なにが幸せだったよ!! あんな映像記録だけ残して!! 挙句の果てに、なに何食わぬ顔で戻ってきてんのよ!!」

 

 勝手にいなくなったと思ったら、また勝手にやって来て、アタシの心をこんなにもかき乱して……

 

 あんな映像記録で自分だけ言いたいことだけ言って、こっちの気持ちも知らないで……

 

「このバカ!! バカ!! バカ!!」

 

「お、おい、ユニ」

 

「バカバカバカバカバカ、バカーッ!!」

 

 アタシは泣きながら夢人の胸を何度も両手で殴った。

 

 駄々っ子のようにただ夢人の胸を殴り続けた。

 

 アタシは皆のように笑って許してなんてやんないわよ。

 

 皆のように物わかりがよくなんてできない。

 

 ……本当は笑っておかえりって言ってやろうと思ったのに。

 

 どうして素直に言えないんだ。

 

 アタシの、バカ……

 

「皆して……アンタのことで……泣いたんだから」

 

「……ユニ」

 

「……皆は……笑って……許したかも……しれないけど……アタシは……」

 

 アタシは皆のようにするのは無理だ。

 

 今だって夢人に会えて嬉しいはずなのに、憎まれ口を叩いている。

 

 ネプギア達のように、どうしてなれないのかな……

 

「……絶対に……っ!?」

 

「ユニ」

 

 アタシが胸を叩いていた手に力が入らなくなり、頭ごと夢人の胸に寄り掛かっていると、急に夢人に抱きしめられた。

 

「……ごめん、ユニ」

 

「……謝っても……許してあげないんだから」

 

 ……ウソ、本当はもう許してる。

 

 だって、こうして側にいてくれる。

 

 追いかけてきてくれたんだから。

 

「俺には謝ることしかできないからさ。何度だって謝るよ、ごめん、ユニ」

 

 ……夢人。

 

 アタシはもう力が入らないと思っていた両手で夢人の服を強く掴んだ。

 

 本当にバカだな、アタシ。

 

「遅くなったけど……ただいま、ユニ」

 

 やっぱり、アタシは素直になれないけど……

 

「……おかえり、夢人」

 

 夢人のことを好きな気持ちは、誰にも負けないんだから。

 

 だから、今は精一杯の笑顔をあなたに送る。

 

 素直になれないアタシが送る精一杯の合図。

 

 ……好きだよ、夢人。




という訳で、今回はここまで!
ということで、ようやく女神の4人とも無事会うことができました。
これで本格的にいろいろと話を進めることができますよ。
それでは、 次回 「修復不可能?」 をお楽しみに!

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