超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今日も一段と寒くなりましたね。
皆さんもお体にお気を付けくださいね。
それでは、 泣き顔 はじまります
「どうして……どうして、助けてくれたんですか?」
……うーん、どう応えよう。
正直に夢に出てきた妖精に似ていたから助けたと言ったら、危ない人だと思われるだろうし……
かと言って、他に理由なんてなかったし……
「え、えーと、それは……そう! それは俺が男だから! 困ってる女の子を助けるのは当り前さ!」
こ、こんな理由で大丈夫だよな?
ウソは言ってないし、女の子を守るのは男の役目だからな。
……見捨てる気満々だったのは内緒だ。
「……そう、ですか」
目の前の女の子は、俺の言葉を聞くとなぜか辛そうに顔を歪ませてしまった。
あ、あれ? 俺なんか変なこと言ったかな?
笑われるかもしれないと思っていたんだけどな……
俺が予想と違う反応をした彼女に戸惑っていると、彼女は今にも泣きそうな笑顔で言った。
「少し……話しませんか?」
* * *
俺と彼女は公園に設置してあったベンチに並んで座った。
しかし、それだけだ。
俺と彼女の間に会話はなく、ただ座っているだけだった。
……ちょっと気まずいかも。
初対面であろう彼女と2人っきりで会話もない状態に居心地の悪さを感じていた。
俺は横目で彼女を観察した。
……初対面、だよな?
一応、病院から家に帰った後、写真やアルバムを見て何か思い出せるかどうか試したことがあった。
でも、その中に彼女の姿はなかったはずだ。
彼女のその特徴的な淡い紫色の髪は、写真であっても一度見たら絶対に忘れないはず。
……あ、でも、彼女の着ているセーラー服って、確か俺が通っていた高校の制服と同じだ。
「……あの、いいですか?」
「え、あ、はい、どうぞ?」
一瞬、じろじろ見ていたことを咎められるかと思ったが、どうやら違うみたいだ。
彼女は自分ではほほ笑もうとしているのかもしれないが、俺には辛そうに見える笑みを浮かべながら尋ねてきた。
「あなたは、今何をしているんですか?」
「え……あ、その、アルバイトをしようとしていました」
い、いきなりどういうことだ?
なんで彼女が俺のことを聞こうとしているんだ?
「アルバイト、ですか……どうしてですか?」
ほ、本格的に彼女のことがわからなくなってきたぞ。
どうして彼女が俺のことを気にしているんだ?
本当に俺達って初対面なのか?
「……実は、職がないニート状態なんですよ、俺。だから、それを何とかしようと思って、まずはアルバイトかなって……」
……なんだろう、この空気。
自分でニートって言ってて少し悲しくなるし、初対面であろう彼女に言うことじゃない気がするぞ。
しかも、自分の恥を素直に告白するなんて恥ずかしすぎる。
やばい、頬が熱くなってきた。
俺は赤くなっているであろう顔を彼女に見せたくなくて彼女から顔をそむけた。
「それで、どうだったんですか?」
「……不採用でした」
熱くなった頬が一気に冷たくなった気がした。
そうだよ、考えてみたら、俺アルバイト決まってないよ。
恥ずかしさがなくなり、どんよりと暗い気持ちが湧きあがってきて、俺はうなだれてしまった。
「それは、その……残念でしたね」
「あ、アハハ、ごめんね。気を遣わせちゃって」
「いえ、そんなことありませんよ。それで、これからどうするんですか?」
苦笑しながら振り向いて見た彼女の顔には、少しだけ笑顔が見えた気がした。
泣くのを我慢している笑顔じゃなくて、心からの笑顔って言えばいいのかな?
彼女に会ってから初めて、彼女の顔に涙が見えない気がしたんだ。
「明日からまたアルバイト探しだよ。まずは、働いてニートを卒業しないとさ」
「……え?」
俺は彼女の顔に涙が消えたことが嬉しくなり、少しだけ声を弾ませた
でも、彼女はなぜか俺の言葉に驚きを見せていた。
「……理由を聞いてもいいですか?」
……うん? そんなに変なこと言ったかな?
なんでまた辛そうに顔を歪ませているんだろう?
「俺さ、実は記憶喪失なんだよ」
俺はベンチから立ち上がって彼女に背を向けながら話し始めた。
「今まで病院のベットの上で寝ていたらしくて、目覚めたのが最近なんだけどさ。自分がニートだったのを知って愕然としたよ」
できるだけ明るく言おうと思い、俺は頬を緩ませてゆっくりと話し続けた。
「記憶を失う前の俺はなにをしていたんだって思っちゃうだろ? 俺もそう考えたよ。だから、俺はまず両親に恩返しをしようと思ったんだ」
「……恩返し」
「そう、今の俺には自覚がないけど、両親にはいっぱい迷惑かけてるからさ」
この年齢まで俺のことを見捨てずにいてくれたんだ。
俺が就職を決めるまで待ってくれている両親に、今俺ができることをしなくちゃいけないと思う。
「そこで今の俺に何ができるんだろうな、って考えた結果がアルバイト。自分の飯代くらいは自分で稼がないと、申し訳が立たないだろ?」
いつまでも甘えているばかりじゃダメなんだ。
本当なら正社員として企業で勤められるようになった方が言いに決まってる。
でも、今の俺はそんな贅沢なことを言ってられない。
「ただでさえ心配かけていたんだ。これ以上、心配かけたくないんだよ」
両親の信頼はとっくに裏切っているのかもしれない。
当たり前だ。俺に期待して、大学まで通わせてくれたんだから。
俺は一度両親の信頼を、全部忘れると言う最悪な形で裏切っているんだ。
なら、今度は安心させるために働くべきではないだろうか。
「正直、今でもあの人達のことを両親だと思えていないんだけど、俺のことを心配してくれる大切な人達なんだ。そんな人達に俺ができる恩返しをしたいと思うからこそ、明日からもアルバイト探しをするんだ」
顔を合わせるのも気まずい両親だけど、俺のことを心配してくれているからこそ、気まずくなっているんだと思いたい。
「……記憶を……思い出したいとは思わないんですか?」
「うーん、あんまりそう言う気持ちはないかな。できるなら全部思い出したいとも思うけど、大事なのは過去じゃなくて未来だと思うんだ」
「……過去じゃなくて未来」
「思い出は確かに大事だけどさ、それ以上に未来って大事だと思うんだ。俺には思い出はないけど、これからの未来がある。未来のために今できることを頑張りたい、俺はそう思っているんだよ」
記憶がなくたって生きていける。
むしろ、これからを生きていくために、俺は前を見なくちゃいけない。
俺のスタートラインは社会的地位が限りなく低いニートなんだ。
ここから立派な社会人となるためには、後ろを向いている暇なんてない。
……まあ、初対面の彼女に話すようなことじゃないよな。
人生の先輩として、俺を反面教師にしてくれればいい。
彼女はまだこれからだから、俺のようにならないで欲しい。
将来について真剣に考えていれば、俺のようにニートになることなんてそうそうないんだから。
……って、考えが横にそれているな。
いつの間にか空も暗くなってきているし、話はここで切り上げた方がいいか。
彼女も人を探しているみたいだし、これ以上遅くならない方がいいだろう。
「あー、なんか説教ぽくなってごめんね。それに、そろそろ君も…………え?」
今まで言った言葉が少し臭く感じて、少し照れながら彼女の方へ振り向こうとした。
……でも、できなかった。
彼女が俺の背中に抱きついてきたんだ。
え? これって、どういう状況?
なんで俺は彼女に抱きつかれてるの?
いきなりのことに困惑していると、服越しに冷たいものを感じた。
「……どうして……どうして……」
彼女は泣いていた。
顔は見えないが、背中の冷たい感覚と震えている声で、彼女が泣いているんだとわかった。
「……なんで……思いだそうとしないんですか……忘れたままでいいなんて……言わないでくださいよぉ」
「君は……」
「いやです……忘れないでください……思い出してください……」
……俺は彼女の言葉の意味がわからなかった。
もしかして、彼女は俺のことを知っていたのかもしれない。
でも、それならどうして今になってそんなことを言っているんだ?
ここに来た時に言ってくれれば、俺だって……
「過去や……未来よりも……大事なこと……あるじゃないですかっ!」
服を掴む彼女の指の力が強くなった。
泣きながら叫ぶ彼女の声も段々と強くなってきている。
「……私達は……私は! 未来よりも……っ!?」
突然、背中に感じていた彼女の熱が消えた。
俺は慌てて振り向くと、そこに彼女の姿はなかった。
……幽霊、だったのか。
そう考えてすぐに否定した。
背中に残る涙の冷たさが、俺に彼女がここにいたことを教えてくれている。
彼女は確かにここにいた。
でも、彼女はどこに……
「ん? これは?」
俺は地面に何か光るものが落ちていることに気付いた。
ちょうど彼女がいたであろう位置に落ちているそれを拾い上げた。
「……何かのディスク?」
……それは、全体が紫色のディスクであった。
* * *
「それで、いーすん、今日はその、ノーコメディアンって言う場所に行けばいいの?」
「……ノーコネディメンションです。コメディアンじゃありません」
「あ、アハハハ、ちょっと聞き間違っただけだよ」
朝、プラネテューヌの教会で、イストワ―ルはネプテューヌの様子にため息をついた。
3年のブランクを感じさせない姿を喜ぶべきか、それとも悲しむべきかと。
「とにかく、ノーコネディメンションで犯罪組織が前線基地を造ろうとしている情報が入っているんです。ネプテューヌさん達には、その情報が本当かどうか確かめてきて欲しいんです」
「オッケー、オッケー。それで、本当に基地があったらぶっ壊してきちゃえばいいんでしょ?」
「……ネプ子、アンタ本当にわかってんの? いくらアンタに元気が有り余ってると言っても、アンタは3年間ずっと捕まってたのよ?」
「そうですよ、いきなりそんな激しい戦闘をしたら、体を壊しちゃうですよ」
ネプテューヌのそんな軽い態度に、アイエフとコンパは心配そうに言った。
いくらギョウカイ墓場でワレモノモンスター達相手に大立ち回りをしたと言っても、あの時はワンダーのおかげでシェアエナジーが満ちている空間だったからだ。
今から行く場所は、犯罪組織の前線基地と思しき場所である。
そんな満足に戦えるわけがない場所に行くのに、ネプテューヌはいつも通りの態度であった。
その元気な姿に、逆に心配が募ってしまう。
「もー、心配性だなー、2人とも。わたしは本当にもう大丈夫だって」
「……そう言って、大丈夫じゃなかった奴を知ってるから不安なのよ」
アイエフは今のネプテューヌの元気な姿がどうしても空元気に思えてしまう。
同じように笑って消えてしまった夢人を知っているから……
「本当に大丈夫だって……なんなら、おやつのプリンを賭けてもいいよ? その代わり、わたしが本当に大丈夫だったら、あいちゃんのプリン貰っちゃうから」
「……はぁ、わかったわよ。その代わり、無理そうだったら、気絶させてでも連れ帰るからね」
それでも変わらないネプテューヌの態度に、アイエフは額に手を当ててため息をつきながら諦めた。
今のネプテューヌには、なにを言っても意味がない。
なら、今度こそは自分が必ず守ろうと決意した。
もう2度と大切な存在がいなくならないように……
「あいちゃんも納得したところで、早速、しゅっぱー……」
「待って、お姉ちゃん」
「つ、って、ネプギア? どうしたの?」
ネプテューヌが片手を振り上げて気合いを入れようとした時、突然部屋に入ってきたネプギアが彼女を呼び止めた。
「私も一緒に行くよ」
「……ですが、ネプギアさんは……」
「行かせてください、いーすんさん。私もお姉ちゃん達と一緒に行きたいんです」
寝ているアカリを抱いているネプギアに、イストワ―ルは心配そうに視線を向け、ネプテューヌ達に同行することをやめさせようとした。
この場にいる全員がネプギアが夢人がいなくなって悲しんでいたことを知っている。
だからこそ、今は彼女にはゆっくりと休んでいてもらいたいと考えていた。
「ネプギア、本当についてくるの?」
「……うん、私も立ち止まったままじゃいられないから」
「……そっか、じゃあ、一緒に行こうか?」
ネプテューヌがネプギアの顔を覗き込みながら尋ねるが、ネプギアは答えを変えずにいた。
そんなネプギアの様子を見て、ネプテューヌは眉間にしわを寄せながらも頷いて同行を許可した。
アイエフ達はそんなネプテューヌの態度に驚くが、アイエフ達が口を開く前に、ネプテューヌがアカリの頬をつつきながらネプギアに言う。
「でもね、ネプギアは本当にいいの?」
「……どういう意味?」
「そのまんまだよ。進んじゃっていいの?」
「……うん、いいの」
ネプギアは顔を辛そうに歪ませるが、それでも意見を変えなかった。
そんなネプギアの顔をネプテューヌは悲しそうに見つめた後、ネプギアの腕からアカリを奪ってコンパに渡した。
「それじゃ、アカリちゃんはコンパにお任せだね。悪いんだけど、コンパはお留守番しててね」
「そ、それはいいんですが……」
「よろしくお願いします、コンパさん」
留守番することも、アカリを預かることも問題ないが、本当にネプギアを連れていくのかと、不安そうにコンパは視線をさまよわせた。
しかし、目に映るのは頭を下げてお願いしているネプギアと、アカリの手をにぎにぎしているネプテューヌ、そんな2人を心配そうに見つめるアイエフとイストワ―ルの姿だけであった。
「……仕方ありませんね。それでは、ネプテューヌさん、ネプギアさん、アイエフさんの3人でノーコネディメンションに向かってください」
「りょーかい! パパッと終わらせて帰ってくるから、プリンの用意しといてね! 特大だからね!」
「行ってきます、いーすんさん、コンパさん」
そう言って、ネプテューヌとネプギアは部屋を出て行ってしまった。
後に残ったアイエフは、眉間にしわを寄せながらコンパ達に言う。
「……2人のことは任せてください。必ず無事に帰ってこれるようにします」
「よろしくお願いします、アイエフさん」
「あいちゃん、ねぷねぷとギアちゃんをよろしくお願いするです」
アイエフはそんな2人に苦笑しながら手を振って答えて部屋を出て行った。
* * *
「……あー、ダメだ」
俺は自分の部屋のベットに横になり、アルバイト情報誌を読んでいたが、途中で放り投げてしまった。
どうにも集中できない。
あの淡い紫色の髪の女の子のことが気になってしまう。
「……いったいなんだって言うんだよ」
手のひらで目を覆いながら、俺は彼女のことを思い出していた。
……彼女はきっと記憶を失う前の俺と知り合いだったんだ。
でも、俺は家に帰ってから、またアルバムをひっくり返してみたが、彼女の姿はどこにもなかった。
……彼女の勘違いか?
俺が彼女の探し人に似ていただけなのかもしれない。
全部彼女の勘違いで、勝手に俺が気に病んでいるだけなのかもしれない。
……記憶喪失って言うのが彼女の中でタブーだったのかもしれない。
彼女の知り合いに記憶喪失になった人がいて、それなのに、俺が無神経に記憶が戻らなくてもいいと言ったから、彼女が泣いたのかもしれない。
いくら考えても答えなんて出ない。
それでも、俺は彼女のことが気になってしまう。
何なんだろう、この気持ちは……
「……そう言えば、あのディスクもいったい何なんだ?」
俺は反動をつけてベットから起き上がり、机の上に置いてあった紫色のディスクを手に取った。
PCで何が入っているのか確かめようとしたが、どうしても読み込めなかった。
最初は俺が使ってるPCが低スペックだから読み込めないのかもしれないと思ったが、どうにも違うみたいだ。
父親が使っている最新のPCでも試してみたが、同様に読み込めなかった。
いったいこれには何が入っているんだ?
これの中身が分かれば、彼女のこともわかる気がするのに……
彼女と入れ替わりになるようにして現れたこの紫色のディスク。
本当に何なんだ……
「あー、いくら考えても仕方ないか」
気分を入れ替えようと、髪をぐしゃぐしゃと掻いてみるが、一向にこの気持ちは晴れない。
……どうしても気になってしまう。
彼女の涙が……
彼女の言葉が……
彼女の泣きながら見せた笑顔が……
……どうしてこんなにも彼女のことが気になってしまうんだ?
やっぱり、夢の中の妖精のせいなのか?
それとも……
俺は考えがまとまらずに悩み続けた。
そして、ディスクを持ったままベットに再び飛び込んで眠ろうとした。
何もかも忘れて眠ってしまいたい。
そう思って、横になって目を閉じようとした時だった。
「……ん? って、うわああああ!?」
閉じようとした目に急に光が差し込んできた。
何かと思って目を開けると、持っているディスクが光り輝いていた。
「な、な、な、なんだこりゃ!? いったいどうなってる!?」
俺は慌ててディスクを放り投げて、尻もちをつきながら後ずさった。
何が起こってるってんだよ!?
……そして、俺は気付いた。
光っているのはディスクだけじゃない。
ディスクの横で光る物体があることに気付いた。
「……お守り?」
ただの石の欠片だと思っていたお守りも、ディスクと一緒に光っていたのだ。
そんな驚きの連続に俺は呆然としてしまった。
「いったいなんだって……」
『……触って』
「……へ? 声? いったいどこから?」
どこからか声が聞こえてきた。
ここは俺の部屋で、ここには俺しかいないはずだ。
辺りを見回してみても、誰もいない。
携帯も通話になんてなっていない。
じゃあ、いったい誰が……
『……触って』
「……もしかして、この石が?」
声が聞こえた方を見ても、そこには光っている石とディスクしかない。
もしかして、この石かディスクから声が聞こえているのか?
『……触って……早く』
という訳で、今回はここまで!
よし、この章も残すところあともう少しだ。
それが終われば、ようやく前章から続いたこのシリアスの渦から抜け出せるはずだ。
それでは、 次回 「再就職」 をお楽しみに!