超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回も区切りの都合上、少々短めになってしまいました。
それでは、 空っぽな彼 はじまります


空っぽな彼

 ……これは夢だ。

 

 夕暮れの色じゃない赤い空の下、1人の女の子が俺に向かって走ってくる。

 

 その子は、白いレオタードの様な服に、機械的な翼を見に纏っていた。

 

 淡い紫色の髪の毛は輝いて見え、その青い瞳は彼女の幻想的な魅力を引き出しているように思えた。

 

 ……まるで妖精だ。

 

 普通では考えられない姿をしている彼女を見て、俺はこれが夢であることを確信した。

 

 夢なら妖精が出てきても不思議じゃない。

 

 ……でも、1つだけ気になることがある。

 

 なんでそんな表情をしているんだろう。

 

 きっと彼女は誰もが見惚れるような素敵な笑顔を浮かべることができるはずだ。

 

 これが夢の中であっても気になってしまう。

 

 ……なんで泣いているんだろう。

 

 

*     *     *

 

 

「……んが……ふわあああ」

 

 どうやら寝ていたらしい俺は、目を覚ましてすぐに大きなあくびをしてしまった。

 

 座席から伝わってくる熱と、電車の揺れの気持ちよさに寝てしまっていたらしい。

 

 周りには人の姿はなく、この車両には俺しかいないみたいだ。

 

 俺の名前は、御波夢人……らしい。

 

 ついこの間まで、原因不明の意識障害に陥り、入院していたらしい。

 

 なんでらしいとつけているかと言うと、俺にはその自覚がまったくないからだ。

 

 ……簡単に言ってしまうと、記憶喪失って言うものらしい。

 

 今まで生きてきた人生の記憶をすべて失ってしまったらしい。

 

 まあ、俺にはそんな自覚もないんだけどさ。

 

 病院のベットで目覚めたら、いきなり知らない男性と女性に詰め寄られた。

 

 思わず、誰? って言ってしまった。

 

 そう言った時の2人の顔は今でも思い出せる。

 

 目を見開いた後に、涙を流して悲しむ2人の顔を。

 

 後でわかったことだが、この2人が俺の両親だったらしい。

 

 ……悪いことをしたと思っても、俺には2人の記憶どころか、自分のことさえわからなかった。

 

 その後、白衣を着た男性が来て、俺にいくつか質問をしてきたけど、俺はその質問に1つも答えることができなかった。

 

 そこでやっと、俺が記憶喪失だと言うことが判明したわけだ。

 

 ……ふーん、そうなんだ、ぐらしか思えなかったけどさ。

 

 自分のことなのに、どこか他人事のように思えた。

 

 まあ、忘れちゃってるものは忘れちゃってるし、別に記憶を取り戻そうとも思えなかった。

 

 白衣を着た男性、医師には心理的ショックの影響が記憶喪失の原因ではないかと言われた。

 

 つまり、俺が自分で記憶を忘れようとしているのではないかと言われたんだ。

 

 多分この解釈であってると思うけど、俺自身が思い出したくないことがあったんだと思う。

 

 それなら、別に思い出す必要はない。

 

 忘れたいほどショックなことをわざわざ思い出して、苦しい思いをする必要はないだろう。

 

 それよりも、俺にはまずやらなければいけないことがある。

 

 それは……

 

〔次は、終点、終点……〕

 

「って、寝過してる!?」

 

 俺は慌てて抱えていたリュックサックを手に持って、電車を降りる準備をした。

 

 俺がしなければいけないこと。

 

 それは、アルバイト探しだ。

 

 

*     *     *

 

 

「……やっぱり、落ちたよ」

 

 俺は項垂れながら歩いていた。

 

 寝過した俺はアルバイトの面接の時間に間に合わず、急いで連絡を入れたものの、採用をしてもらえるわけがなかった。

 

 当然だよな。時間を守れない人物が採用されるわけがない。

 

 ましてや、こんな履歴書じゃ、時間に間に合っていたところで落とされていただろう。

 

 ……何たって、自己PRの部分が全然書けてないんだもんな。

 

 自己PR、俺こんなことできますよ、俺こんな経験積んでるんですよ、って企業に自分を売り込む大事な部分だ。

 

 その部分が充実しているかどうかで、その人物の人柄を判断できる。

 

 例えば、ボランティアをしていたと書いていたら、コイツは地域の活動に積極的に参加できると判断できるだろ?

 

 これは、仕事に積極的に取り組める奴としてみられる。

 

 反対に、何の活動もせずに、大学時代のことを書いた奴がいるとするだろ?

 

 そうすれば、その人は受け身になりがちで、消極的な奴だと思われてしまう。

 

 積極的な奴と消極的な奴、企業がどちらを採用するかなんてわかりきっていることだ。

 

 ……と、本に書いてあった。

 

 俺の部屋らしい部屋の本棚には就職に関する本が並んであって、それを読んで自分なりに解釈した結果がこれだ。

 

 ……で話を戻すと、俺の自己PRなんだが、俺、記憶失ってるでしょ?

 

 そういう経験とか全部覚えていないわけだ。

 

 だから、まったく書けず、俺が記憶を失う前に書いたと思われる履歴書のコピーを参考にしたんだ。

 

 何が言いたいかと言うと、面接で履歴書の内容とか聞かれるでしょ?

 

 ……俺、答えられないだよね。

 

 聞かれても、それに満足に答えられないってことは、ウソ書いてるって思われてしまうから、そんな人が採用されるわけがない。

 

 いや、まあ、そう……わかってたよ?

 

 こんな状態じゃ、満足にアルバイトをすることもできないってさ。

 

 だって、今の俺が書ける自己PRと言えば、体が丈夫で健康です、ぐらいじゃないかな。

 

 資格とかもその知識を忘れちゃってるから、まったく意味がない。

 

 つまり、今の俺は企業に自分をアピールすることができない。

 

 アルバイト未経験者でも少しはまともなアピールができるだろうが、俺にはその少しも自信を持ってすることができない。

 

「……はああ、どうしよう」

 

 ……まさか、記憶を失う前の俺がニートだったなんて。

 

 記憶を失う前の俺がニート、両親のすねをかじっていただけだと知った時、俺に衝撃が走った。

 

 俺は一体何をしていたんだ!?

 

 いくらなんでもニートはない。

 

 履歴書とか見返してみたけど、立派に大学まで卒業させてもらっているのに、ニートなんて……

 

 しかも、アルバイトも未経験じゃないか!?

 

 本当にお前は何をしていたんだ!?

 

 もし記憶を失う前の俺が目の前にいたのなら問い詰めたい。

 

 確かにテレビのニュースでは就職氷河期と言われているが、立派に就職を決めている奴もいるんだ。

 

 それは当人のやる気次第だろ?

 

 つまり、俺はやる気がない奴だったんだ。

 

 いったい何をしていたんだお前は!?

 

 だから、俺はまずアルバイトをしてお金を稼ごうと考えた。

 

 少しでも両親に恩を返せるように、まずはニートを脱却しようと考えたんだ。

 

 そして、アルバイトから経験を積んで、ゆくゆくは正社員として立派に働いて行こうと決めた。

 

 ……よし、そうと決まれば、即行動だ!

 

 俺は急いで履歴書を買ったり、自分の経歴とかを調べあげた。

 

 俺が記憶を失う前の俺とは違うところ見せてやるぜ! と勢い込んで面接に臨んださ。

 

 ……そして、結果がこのざまだよ。

 

 電車では寝過すは、面接ではろくに答えることもできないは、散々な結果になってしまった。

 

 ちきしょう……

 

 本当にどうすりゃいいんだよ。

 

 俺はポケットに入っていたあるものを取り出して、空に透かすように見上げた。

 

「俺、どうしたらいいんだろうな……なーんて、ただの石に言っても仕方ないか」

 

 俺は手に持っている透明な石に向かって話しかける自分がおかしくて少し笑えた。

 

 ……それにしても、この石は本当に何なんだろう?

 

 最初は水晶かとも思ったが、どうやら違うみたいだし……

 

 この石は、俺が目を覚ますと握っていたものだ。

 

 両親や病院の関係者に聞いても、俺はこんな石を最初は握っていなかったらしい。

 

 でも、目を覚ました時、最初に感じたのはこの石の温かさだ。

 

 ……なんか落ちつくんだよな。

 

 これを持っていると、なぜか安心する。

 

 今ではお守り代わりとしていつも持ち歩くようになったんだよな。

 

 ……この砕けた石の欠片。

 

 

*     *     *

 

 

 俺が家への帰り道を歩いていると、目の前に人だかりができていた。

 

「あの、その、結構ですから、道を開けてください」

 

「そんなつれないこと言わないでさ、俺達と一緒に遊ぼうよ」

 

「そうそう、君学生さんでしょ? 学生さんでも大丈夫なとこ連れてくからさ。一緒に遊ぼうよ」

 

「JK、マジかわゆす」

 

 ……うわー、ないわ。あれはないわ。

 

 どうやら3人の男が1人の女の子をナンパしているようだ。

 

 でも、そのナンパの方法が前時代過ぎて、もう笑えないレベルだ。

 

 いくらここが都会から少し外れた田舎だとしても、あんな絶滅危惧種的なナンパをする男達がいるなんて驚きだよ。

 

 しかも、1人やばすぎだろ。

 

 何が、かわゆすだ。お前は、まずまともに話す練習から始めた方がいいのではないかと逆に心配になってしまう。

 

「急いでますから、道を開けてください」

 

「そんな用事後にしてさ、パーッと遊ぼうよ」

 

 彼女の方はナンパされる気がないらしく、急いで通り抜けようとしている。

 

 当然だ。あんなナンパの方法に引っかかるのは、相当頭の緩い子しかいないだろうな。

 

 ……まあ、俺には関係ないか。

 

 そっと横から通り抜けてしまおう。

 

 わざわざ厄介事に首を突っ込むほど、俺は正義感に溢れているわけじゃありませんからね。

 

 ほら、今通り抜けている人達だって横目で心配そうに見ているのに、誰も彼女を助けようとしない。

 

 なら、俺だって助けなくても仕方ないよな。

 

 ごめんね、女の子。

 

 俺、通り過ぎちゃうけど、一応は心配してたんだよ? 的な視線を向けとけばいいか。

 

 頑張って自分で振り切って逃げてね、と心の中で応援して止めていた足を再び進めようとした時だった。

 

「きゃっ!?」

 

 ……俺は駆け出していた。

 

 目の前でナンパされている女の子を助けるために。

 

 そのためには、まず……

 

「かぁああーじだぁああー!! たぁああーっけてぃいいい!!」

 

 思いっきり叫んだ。

 

「なっ!? 火事だと!?」

 

「ど、どこだ!?」

 

「み、見えないっす」

 

 人は火事だと言われると、どうしても煙を探すため上を向いてしまう。

 

 その習性を利用して、俺は男達に近づき、無防備になっている下半身を全力で……

 

「チェストーッ!!」

 

「おうふっ!?」

 

 蹴り上げた。

 

 俗に言う、ゴールデンボールクラッシュ。

 

 またの名を金的蹴りだ。

 

 就職関係の本の合間に読んでてよかった護身術の本。

 

 持っててくれてありがとう、記憶を失う前の俺。

 

「なっ、何す……」

 

「お前もじゃーっ!!」

 

「あうっ!?」

 

 仲間の男の悲鳴に気付いてこっちを向いてきた男に対しても、俺はためらうことなくその下半身をクラッシュした。

 

 無様に股間を押さえる哀れな男が2人出来上がった。

 

「ついでにおまけだーっ!!」

 

「あんっ!?」

 

 うおっ!? なんだこいつ!?

 

 あの変なことを口走ったであろう男の悲鳴が気持ち悪く、思わず一瞬寒気がした。

 

 こいつにはやらなければよかったと、ちょっと後悔した。

 

 だって、こいつだけ凄い恍惚の笑みを浮かべてるんだよ。

 

 って、そうじゃない!

 

「ごめん!」

 

「え、あ……」

 

 俺はナンパされていた彼女の手を取って走り出した。

 

「お騒がせしましたーっ!!」

 

 最後に消防署に通報されないように、一応謝罪をしながら。

 

 ……大丈夫だよな?

 

 

*     *     *

 

 

「ハア、ハア、ハア……ごめん、急に連れ出しちゃったりして」

 

「ハア、ハア、ハア……いえ、おかげで助かりました」

 

 俺と女の子は、あの場を後にして今は公園で足を止めていた。

 

 ここまでどう走ってきたのかは覚えてない。

 

 ……ってか、ここ本当どこ?

 

 俺、まだ自分の家の周りしかよくわかってないのに、こんなところ来て帰れるかな?

 

「……あの、ありがとうございました」

 

 俺が自分の帰宅方法について悩んでいると、女の子が礼儀正しく頭を下げてお礼を言ってきた。

 

 そ、そんな風にお礼を言われると、ちょっと心が痛む。

 

 俺は君を見捨てて行こうとしていたんだから。

 

 ……まあ、助けちゃったけどさ。

 

「ああ、うん、気にしないでいいよ。それより、君はどうしてここに? ここは都会には近いけど、近くには何にもなかったはずだけど?」

 

 彼女くらいの年齢なら友達と一緒に都会で遊ぶのが普通ではないのかな?

 

 俺がさっきまで面接をしていた近くなんて、彼女くらいの年齢の子達が意味もなく笑いながら道を歩いている姿を何度も見かけた。

 

「……人を探していたんです」

 

「人?」

 

 人探し?

 

 どういうことだろう?

 

 ちょっと訳ありなのかもしれない。

 

「……聞いてもいいですか?」

 

「うん? いいよ」

 

「どうして……どうして、助けてくれたんですか?」

 

 ……どうして助けたのか、か。

 

 自分でもわからない。

 

 男達の間から彼女の顔が見えた瞬間、俺は彼女を助けなきゃいけないと強く思ったんだ。

 

 それは多分、目の前の彼女が似ていたから。

 

 あの夢の中に出てきた妖精に似ているんだ。

 

 妖精とは違って、黒いセーラー服を着て、髪にはゲームのコントローラーの様な十字キーのアクセサリーを付けている、淡い紫色の髪の彼女。

 

 妖精と似ているようで、微妙に違うように見える彼女だけど、同じところが1つだけある。

 

 ……彼女の今にも泣きそうな顔は、妖精とそっくりだった。




という訳で、今回は以上!
というより、前回までのシリアスが全部台無しになってるような気がする。
それでは、 次回 「泣き顔」 をお楽しみに!

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