超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
ようやくこの章の最終話!
年を跨いだこの章もいよいよ今回でおしまいです!
それでは、 約束の行方 はじまります
……温かい光が溢れている。
『シェアクリスタル』が砕け散り、その欠片がキラキラと空中に舞う光景を見て、私はそう感じた。
夢人さんの乗っていたバイクから放たれているシェアエナジーとは違う温かさを感じる。
……これは、喜んでいる?
レイヴィスが持っていた時は、悲しい光を放っていた『シェアクリスタル』だったが、欠片となって舞っている光を見ると、心が温かくなる。
私を拘束していた黒い紐が光となって消えていく。
解放された私は地面に両膝をついて、夢人さんを見つめている。
……ずっと後悔していました。
あんなこと言わなければよかったと思っていました。
あなたを傷つけてばかりだと思っていました。
……でも、違っていたんですね。
あなたの言葉を疑うわけではありませんが、こんな私があなたを支えられていたなんて信じられないです。
私はあなたより優しくも強くもないんです。
私はあなたに勇者と言う生贄の運命を強要していたんです。
あなたにとって私との出会いは不幸なんです。
……でも、そんな私の考えを否定するように、あなたの言葉が優しく耳に残っています。
私はあなたから温かく優しい気持ちを貰ってばかりだと思っていました。
本当は、私もあなたを支えられていたんですね。
その事実が嬉しい。
私もあなたのように強く優しくなろうとしました。
私もあなたが勇者でよかったです。
私も……
私もあなたに出会えて幸せです。
私や皆を守ると言ってくれた夢人さんの姿は、私が最初に夢見た勇者さまの姿そのものでした。
〔……っ!? 夢人!?〕
夢人さんの後ろからワレモノモンスターが跳びかかっている光景が目に入った。
多分、レイヴィスが最初に召喚したワレモノモンスターが追いついてきたんだ。
夢人さんはワレモノモンスターの接近を察知することができなかったらしく、バイクから聞こえてくる音声に反応して後ろを振り向くことしかできていなかった。
私はすぐにビームソードを両手に持って駆け出した。
……今度は私の番だ。
夢人さんは私の心と体を守ってくれた。
今度は私があなたを守ります!!
あなたを絶対に死なせません!!
* * *
俺は砕け散った『シェアクリスタル』の欠片を見て、悲しく思った。
これまで、俺のことを守ってくれていたのに、こんな方法でしか彼女を目覚めさせることができないことが悔しい。
俺は落ちてくる欠片を手のひらで受け止めた。
欠片は淡い光を放ち、その光はまるで喜んでいるようにも思えた。
『……ありがとう』
……お礼を言われることなんて何もしてないよ。
俺の方こそ、ごめん。痛かっただろ?
『ちょっとだけ……でも、嬉しい』
どうして?
『あなたを壊さずに生まれることができる……時間はかかるけど、あなたと一緒にいられるようになる』
……そっか。
でも……
〔……っ!? 夢人!?〕
俺はワンダーの叫びを聞いて、振り向いた。
そこには、フェンリルもどきが俺に跳びかかってこようとしている姿が見えた。
……マズッ!?
俺は慌ててフェンリルもどきが振り下ろそうとしている爪から逃れようとした。
でも、突然のことで体が思ったように動いてくれない。
『やだっ!?』
握っている欠片からも悲痛な叫びが聞こえてきたが、俺はどうすることもできない。
俺は来るであろう衝撃に備えて、目を閉じて腕で顔を隠すことしかできなかった。
「スラッシュウェーブ!!」
しかし、俺の耳にはネプギアの声と、自分の近くで何かが吹き飛ぶ音しか聞こえなかった。
俺が目を開けると、そこにはフェンリルもどきの姿はなく、俺に向かって駆け寄ってくるネプギアの姿が見えた。
「夢人さん!!」
「ちょっ、あぶっ!?」
駆け寄ってくるネプギアは、近くまでくると俺に向かって跳んできた。
俺は何とかネプギアを両手で抱きしめ、ネプギアも抱きしめられたことがわかると、俺の背中に腕をまわして強く抱きついてきた。
「ね、ネプギア? 急にどうしたん……」
「ありがとうございます」
ネプギアは顔だけを俺に向けてほほ笑みながら言う。
「あなたの言葉が嬉しかったです。だから、私も言わせてください……私もあなたに出会えて幸せです」
そのネプギアの笑顔は、俺が今までで見たどんな表情よりも輝いて見えた気がした。
あ、やばい。顔が熱くなってきた。
「……アンタらはなんで抱き合ってんのよ!!」
「……夢人から離れようねっと!!」
「きゃっ!?」
ネプギアは短く悲鳴を上げ、俺から剥がされた。
「まったく、何で目を覚ました瞬間、アンタらの抱き合ってるシーンを見せられなきゃいけないのよ」
「ユニちゃん」
「そうだよ、ネプギア。羨ましいよ」
「そうそう、羨ま……しくないわよ!? 何言ってのよ、ナナハ!?」
「ナナハちゃん」
ネプギアは自分の両腕を掴んでいるユニとナナハを見上げ、涙を浮かべていた。
「な、何泣いてんのよ?」
「2人が無事でよかった」
「……私達だけじゃないよ」
ナナハがそう言うと、ロムとラムがこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。
「……夢人お兄ちゃん、ごめんなさい(うるうる)」
「……夢人、ごめんなさい。わたし達、捕まっちゃった後のことは覚えてないけど、いっぱい迷惑かけたよね」
ロムとラムは俺に近くに来ると、申し訳なさそうに俯きながら謝ってきた。
俺はそんな2人を抱きしめるために、膝をついて2人を抱きしめた。
「2人が無事でよかった。もう平気なのか?」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」
「……シェアも回復したし、大丈夫よ。ありがとう」
最初は驚いていた2人だったが、すぐに笑顔になり俺に抱きついてきた。
……本当に無事でよかった。
「……ジーッ」
「ど、どうしたんだ、ユニ?」
俺が2人を抱きしめていると、ユニがジト目でこちらを見ていた。
お、俺が何かしたか?
「ベっつにー、アンタが誰を抱きしめていようと、アタシには関係な……」
「じゃあ、次は私ね。夢人、優しくしてね」
「って、アンタは何便乗しようとしてんのよ!!」
俺から視線を外して腕を組んでいたユニであったが、ナナハが俺に近づこうとすると、眉間にしわを寄せながらその首を掴んだ。
「ユニには関係ないんだよね? じゃあ、私が夢人に抱きしめられても問題……」
「あるわよ!! まだ全部終わったわけじゃないのよ!!」
……そうだった。
ユニ達の無事な姿を見て、安心していた俺達だったが、ワレモノモンスターはフェンリルもどき一匹だけじゃない。
〔お前達が話している間に囲まれたな〕
ワンダーの言う通り、追いついてきたワレモノモンスター達は俺達を囲むように立っていた。
「ふん、罠にはめてくれた分、たっぷりお返ししてやるわ」
「わたしも、怒ってる」
「あんた達なんてすぐにやっつけてやるんだから」
「もうこれ以上、夢人だけを戦わせない」
ユニ達が夢人を囲むようにワレモノモンスター達を睨みながら武器を構えた。
「フォトンブレード!!」
「一斉掃射!!」
俺達がワレモノモンスター達と睨み合っていると、ワレモノモンスター達の後ろから声が聞こえ、正面にいたワレモノモンスター達が一掃された。
広がった視界には、剣を構えているファルコムと、右手をこちらに向け、その腕の周りに白いU字型の砲台を構えているケイブが立っていた。
2人だけじゃない。
「暗黒剣Xの字斬り!!」
「フォルクスリート!!」
ワレモノモンスターに斬りかかる日本一、杖を頭上に上げ、光の柱をワレモノモンスター達へと降らせるがすとの姿が見えた。
「みんなー!! 僕の歌を聴けーっ!!」
日本一達の後ろでは、ギターを掻き鳴らす5pb.の姿もあった。
その歌声はこちらにまで響き渡り、俺は力が湧いてきた。
「アンタ達だけにかっこつけさせないわよ」
「ギアちゃんは夢人さんを連れて来て欲しいです! すぐに治療しちゃいましょう!」
「は、はい! 行きましょう、夢人さん!」
「お、おう!」
俺はネプギアに腕を引かれながら、コンパの所まで連れて行かれた。
「……よくやったわね、夢人。後は、私達に任せておきなさい」
「アイエフ、でも……」
「でも、じゃないです! 夢人さんはまず火傷の治療が先です!」
「い、いや、それはわかってるって、コンパ」
まだ俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
「それと、お兄さん、はい」
「これって、パープルディスク!?」
な、何でフェルが持ってるんだ!?
「お兄さんのお人好しが誰かさん達に移ったんですよ。まあ、そのおかげでボク達は助かったんですけどね」
誰かさん達って誰だ?
……まあ、深くは考えなくていいか。
俺は欠片を強く握りしめて目を閉じた。
『……本当にするの?』
……ああ、俺がしたいんだ。
『後悔しない?』
……ここでしない方が後悔する。
俺はこれをネプギアに渡したいんだ。
『……うん、わかった』
……ありがとう。
『弱くて強い心……揺れ動く輝き』
欠片から俺の体を通して、シェアエナジーがパープルディスクへと送られていった。
これで、後は……
「夢人さん、どうして……」
「これをネプギアに渡したかったんだ」
心配そうに俺を見るネプギアに俺はパープルディスクを差し出した。
ネプギアは多分、全部知ってるんだよな。
今の顔を見れば、すぐにわかる。
「でも、そんなことしたら、夢人さんの体が……」
「大丈夫さ。それより、受け取ってくれないか?」
俺は苦笑しながら応えた。
本当に優しい子だ。
俺はネプギアを好きになれてよかったと、本当にそう思った。
「……はい、あなたの思い、しっかりと受け取りました」
ネプギアはパープルディスクを受け取ると、両手で大事そうに胸に抱きしめた。
やがて、パープルディスクは光の粒子となってネプギアの体の中に吸収された。
「……夢人さん、ありがとうございます。あなたの思いと一緒に戦います」
力強く瞳を輝かせるネプギアの姿を見て、俺はほほ笑みながら頷いた。
「行きましょう、皆さん。絶対に勝ちます!!」
ネプギアの言葉に、ユニ達はほほ笑みながら頷き、いよいよ戦闘を開始しようとした時だった。
「……わたし達も一緒に戦うわ」
俺は聞いたことのないその声に驚いて、慌てて振り向いた。
「これだけシェアエナジーがあれば、3年のブランクなんて関係ないわね」
「妹たちが頑張ってんだ。わたしらが頑張らなくてどうすんだよ」
「受けた屈辱は、自分の手で倍にして返して差し上げませんといけませんしね」
……そこには、捕まっていた女神達がプロセッサユニットを完全に再生して武器を構えている姿があった。
「お姉ちゃん!? 平気なの!?」
「ええ、大丈夫よ。この空間に満ちているシェアエナジーのおかげで、わたし達も一緒に戦えるわ」
ネプギアが紫の髪を二つに編んで伸ばしている女性に話しかけた。
あの人がネプギアのお姉さん、ネプテューヌさんなのか。
「再会を祝うのは、全部終わって皆で帰ってからにしましょう」
……うん、似てる。
今のネプテューヌさんのほほ笑みは、ネプギアが浮かべるほほ笑みに似ていた。
「……うん、皆で一緒に帰ろう。そのために……」
「絶対に勝つわよ」
そう言って、ネプギアは『変身』をして、ネプテューヌさんと一緒にワレモノモンスター達へと斬りかかっていった。
* * *
まったく、ネプテューヌ達だけで盛り上がらないで欲しいものですわ。
わたくしだって、ナナハの前でお姉ちゃんとしてしっかりとその勇姿を見せて差し上げませんと。
「ナナハ、わたくし達も行きますわよ」
「うん、行こう。ベール姉さん」
……ん?
今、何とおっしゃいました?
わたくしの幻聴でなかったのでしたら、【ベール姉さん】と呼ばれた様な気がしたのですが……
「……どうしたの、ベール姉さん?」
やっぱり!?
幻聴ではなかったんですのね!?
「ナナハ、あなた……」
「……私、ちゃんとベール姉さんの妹になりたいんだ。だから、ダメ、かな?」
……ハッ!?
意識が飛んでしまいましたわ。
「そんなことありませんわ。あなたはいつだってわたくしの自慢の妹ですもの」
ナナハがわたくしのことを姉さんって呼んでくれた!!
わたくしはちゃんと姉として威厳ある顔ができてますわよね?
も、もしかして、だらしなく頬が緩んでいませんか!?
「ありがとう、2人でちゃんとチカ姉さんの所に帰ろうね」
「当たり前ですわ。行きますわよ!!」
……ナナハはこんな風に笑えるんですのね。
わたくしが捕まっていた間に何があったのかわかりませんが、今のナナハはすごく生き生きしていますわ。
チカの所に帰ったら、3人でお茶を飲みながらゆっくりと話を聞かせてもらいますわ。
わたくしもあなたの話を聞きたいんですもの。
わたくしの知らないナナハのことを……
わたくしの自慢の妹の話を……
* * *
……正直、ロムとラムが助けに来てくれるなんて思っていなかった。
2人ともまだまだ小さいし、こんな危険な真似はしないで欲しかった。
でも、2人の顔を見てわかったことがある。
……2人は強くなった。
わたしがいない間に何があったのか知らないけど、守ってあげなきゃいけないと思っていた2人は、しっかりと自分の足で立てる程成長したのね。
2人が強く成長してくれただけで、わたしは嬉しい。
「ラムちゃん、いける?」
「これだけ力があれば、いけるよ、ロムちゃん」
……ん?
なんだ? 何をするつもりだ?
わたしは『変身』した2人が何を言っているのかわからない。
「おい、お前らいったい何を……」
「いくよ、ロムちゃん!」
「うん、ラムちゃん!」
わたしが2人に尋ねようとした時、2人は互いの武器であるステッキをぶつけた。
瞬間、まばゆい光の柱が発生した。
これって、『変身』の光!?
でも、2人はもう『変身』していたはず!?
光が収まると、2人の姿はなく、1人の女性が立っていた。
「だ、誰だてめえ!?」
本当に誰だこいつ!?
ロムとラムはどこ行った!?
「落ちついてお姉ちゃん。わたし達は1つになってスーパー女神になれたの」
スーパー女神だ!?
何だそれ!?
「わたし達ものんびりしてないで行こう、お姉ちゃん!」
「お、おい! 待てよ!?」
……な、な、な。
何であんな成長までしてんだよ!?
なんだあのスタイル!?
何だあのボン、キュッ、ボン。
ふざけてんじゃねえぞ!?
「あーもう! 後で、絶対話聞かせてもらうからな!!」
2人の成長は嬉しいが、いったい何があったって言うんだよ!?
……ったく、絶対に無事にルウィーに帰って聞かせてもらうからな!!
* * *
「もっと早く来てくれるものだと思っていたんだけどね」
「ごめんね、お姉ちゃん」
そう言うが、私はユニの成長が嬉しい。
いつも私の後ろにひっついていたユニが、今ではこんな立派になっちゃって……
一目見てわかった。
私が知っていたユニは、いつも自信が持てず、瞳を揺らしていた。
でも、今のユニの瞳には強い光がある。
きっと自分に自信を持てた証だろう。
まあ、私の妹なんだし、当然よね。
むしろ、遅すぎたんじゃないかしら?
……おっと、いけない。
今はユニの成長を喜ばなきゃ……
「アタシはできそこないだから、お姉ちゃん達を助けるのが遅れちゃった」
で、できそこない?
ユニが?
誰だ!? そんなこと言った奴!?
私の妹を侮辱して……
「でもね、そんなできそこないのアタシでも、ちゃんと誇れる自分を見つけたよ」
そう言ったユニの顔は自信に満ち溢れていた。
……そっか。
ユニは私が思っている以上に、心が強くなったんだなあ。
前までなら、できそこないって言われたら、泣いて逃げちゃうような感じだったのに。
知らないうちに妹って成長しちゃうんだ。
……ちょっとさびしい。
本当だったら、私がもっと姉らしくユニを導きたかったのになあ。
私のようになってはダメよ、とか。
私の真似なんてしても無駄よ、とかね。
……まあ、考えるのは後にしましょう。
「ちゃんとサポートしなさい、ユニ!」
「お姉ちゃんこそ、油断しないでよ!」
まったく、誰にもの言ってんのよ。
私は頬を緩ませながらモンスター達に向かって斬りかかった。
私の後ろはユニが守ってくれる。
信じているわよ、強くなったあなたを……
* * *
「はあああああああ!!」
わたしは、また1体モンスターを斬り捨てた。
捕まる前より調子が良いのではないかと疑うほど、わたしは体が動かせた。
「ミラージュダンス!!」
わたしの近くでは、ネプギアが一気に2体のモンスターを倒していた。
……強くなったわね。
わたしは戦闘中にもかかわらず、頬が緩んでしまうくらい嬉しかった。
わたしに憧れて、女神の力の意味がわからずに『変身』してしまったネプギアをわたしは心配していた。
いつか女神の力に怯えて、心を壊してしまうのではないかと思っていた。
……でも、その心配はいらなかったみたいね。
ネプギア、あなた気付いているかしら?
あなたがあの男性に向ける目が他の人に向ける目と違うことに……
前までわたしに向けていた目と同じようで違う気持ちがこもっている目をしていたことに……
あなたが強くなったのはあの男性のおかげなのね。
……きっとネプギアを守ってくれていたのは彼だ。
コンパに治療されていた彼がネプギアにとってどんな存在なのかはわからない。
でも、ネプギアにとって大切な存在なのだろう。
……ありがとう、妹を守ってくれて。
わたしは心の中で彼にお礼を言う。
この戦いが終わったら、ちゃんとお礼をしたい。
そのためにも、絶対に……!?
「ネプギア!? 後ろ!?」
さっきまで呆然と立ち尽くしていたくすんだ銀髪の男がネプギアに向かって手を伸ばしている。
その手には魔力が集まっていくのがわかる。
しかも、ネプギアはそのことに気づいていなかった。
モンスターの方に集中しているらしく、わたしの声も聞こえなかった。
くっ!? 間に合わない!?
わたしはネプギアを庇おうとしたが、モンスター達に阻まれてしまった。
そうこうしている間にも、銀髪の男の手には魔力が収束して形を造ろうとしていた。
何とかして、ネプギアを助けないと……!?
「させねえよ!!」
「ぐっ!?」
銀髪の男がネプギアを攻撃しようとした時、横からコンパの治療されていたはずの男性が銀髪の男を殴り飛ばした。
「貴様!!」
「お前の相手は俺だ!! レイヴィス!!」
* * *
……なんだよ、これ。
何なんだよ!!
俺は目の前の光景を呆然と見つめるしかできなかった。
『シェアクリスタル』は砕けたのに悪魔は復活しない。
女神候補生達や他の奴らが解放されている。
挙句の果てには、満足に動けないはずの女神達にワレモノモンスター達が圧倒されているだと?
……ふざけるな、ふざけるな!!
ようやくここまで来たんだ!!
それをここで終わらせるわけにはいかないんだよ!!
俺は一番近くにいたプラネテューヌの女神候補生に向けて腕を伸ばして魔力を収束させていく。
あんな力、いらなかったんだ。
俺の『特典』の力があれば、女神どもなんて簡単に倒せるんだ。
この世界のだって、簡単に破壊できるんだ!!
「させねえよ!!」
「ぐっ!?」
俺は横から殴り飛ばされた。
「貴様!!」
殴り飛ばした相手は、俺の計画を壊した張本人だった。
「お前の相手は俺だ!! レイヴィス!!」
そう言って、男は俺に向かって駆け出した。
……貴様さえいなければ!!
俺は『特典』の力を使って、コイツを殺そうとした。
「遅い!!」
「がっ!?」
奴の方が早かった。
奴は俺の顎を正確に殴りやがった。
そのせいで、脳が揺れ、視界がブレ始めた。
「お前は本当はわかってるんだろ! お前が本当に壊したいのは自分自身だって!」
……くっ!? 俺の『特典』は、集中しなくては使えない。
こんな状態じゃ、力が使えない!?
「お前は今でもこの世界のことを愛しているんだ! その証拠が!」
奴の拳が次々に俺の頬に叩きこまれる。
頭は左右に振られ、口の中には血の味がしてきた。
「今まで行動しなかった、お前の行動だ!!」
「げふっ!?」
男の強烈な右ストレートが右頬に決まり、俺は吹き飛ばされて地面に転がってしまった。
「お前はその気になれば、すぐにでもこの世界を破壊することができたんだ」
……黙れ。
「お前はこの世界のことを知っていたんだ。お前がその気になれば、俺達のことなんてすぐに始末して、楽にこの世界を破壊することができたんだ」
……黙れ。
「それをしなかったのは、お前が信じたかったからだ。お前の愛したこの世界が偽物なんかじゃないって」
「黙れ!!」
俺は奴を睨みながら立ち上がり、奴に殴りかかった。
奴は俺の拳を避けずに、拳は奴の顔へと吸い込まれるように決まった。
……しかし、俺の心にあったのは、奴を殴れた喜びなんかじゃない。
「貴様に!! 貴様にわかってたまるか!!」
俺の拳が奴に次々と叩き込まれるが、それは奴が避けないからだ。
何故避けない!?
「そんな拳、効かねえよ!!」
「ごふっ!?」
奴は殴られながらも、俺の腹に拳を叩きこんできた。
お、重い!?
「気持ちがこもっていない拳なんて、少しも効きはしないだよ!!」
腹に拳を叩きこまれたせいで、前のめりになっていた俺の顔に再び奴の拳が叩きこまれた。
俺は再び地面に転がってしまった。
「答えろ、レイヴィス!! お前は、今でもこの世界を愛しているのか!!」
……言わせておけば!!
俺は奴の言葉に悔しさが湧いてきた。
「いい加減にしろ!!」
俺は立ち上がり、先ほどよりも力を込めて奴を殴った。
……ああ、そうか。
……奴を殴って感じたこの気持ちは。
「俺はこの世界のことを愛したいんだよ!!」
……悲しみなんだ。
奴の言葉が正しすぎて、俺は否定したかったんだ。
そうしなきゃ、俺はどうしたらいいのかわからなくなる。
「憧れていた世界なんだぞ!! 愛した世界なんだぞ!! そう簡単に振り切れるわけないだろ!!」
……本当は期待していたんだ。
俺の愛は裏切られていないって……
俺の憧れた世界はちゃんと存在しているって……
「それでも、俺はこの世界を壊してしまうバグだ!! この世界にいちゃいけない存在なんだ!!」
俺がいるだけで世界が歪み、壊れてしまう。
憧れた世界が……
愛した世界が俺のせいで壊れてしまう。
「憎むしかないだろ!! そんな残酷な運命!! 俺の愛はもう憎しみになっているんだよ!!」
裏切られた俺の愛は、もう憎しみに変わってしまった。
壊れてしまうのなら、愛しても無駄ではないか。
「だから壊すんだ!! 俺が!! この手で!!」
壊れてしまうのなら、せめて自分の手で壊したい。
それが、俺の本当の願い。
「愛した世界が壊れていくのを見るのが!! 俺には耐えられないんだよ!!」
俺はこれ以上、愛した世界を壊したくない。
なら、これ以上壊さないように、ひと思いに壊してしまった方がいい。
「っ、バカ野郎!!」
「ぐっ!?」
俺が自分の気持ちを叫びながら奴を殴っていたが、それは奴の叫びと拳によって止められてしまった。
「なら、何で誰かを頼らなかった!! お前は助けを求めてよかったんだ!!」
「求められるわけないだろ!! 俺はこの世界を壊してしまう存在なんだぞ!! そんな俺を助ける奴なんて……」
「いる!! ここにいる皆そうだ!!」
……何で。
「お前がどんな存在だろうと関係ない。お前が助けを求めれば、必ず助けてくれる奴がここにはちゃんといてくれるだ!!」
……今更。
「今からでも遅くない!! お前に差し出されている手を握ってくれ!!」
俺は自分が涙を流すほど、奴の言葉が嬉しいことに気づいていた。
……涙なんて久しぶりだ。
でも、顔にある赤い模様が奴らの手を握ることを拒否するかのように熱くなる。
……そうだ。
俺はもう……
「俺はもう止まれないんだよ!! この憎しみは、もう止まらないんだよ!!」
俺はここで止まるわけにはいかない!!
手を握ってしまえば、俺は止まってしまう。
止まってしまえば、憎しみしかない俺の心はどうすればいいんだ。
もう、この世界を愛することなんて……
「なら、俺が止めてやる!! お前の涙も、憎しみも!!」
そう言って、右腕を振りかぶって俺を見つめる奴の目は俺の憧れた光を灯していた。
……ああ、そうだった。
「歯あ、喰いしばれえええ!!」
……俺も、こんな風に生きてみたかったなあ……
* * *
俺は自分が今出せる全力で、レイヴィスを殴った。
本当は立っているのもやっとであったが、アイツの拳は避けるわけにはいかなかった。
アイツの気持ちを正面から受け止めなきゃいけないと思った。
地面に転がるレイヴィスは、ただ呆然と空を見上げていた。
もう立ち上がる気力がないのか、大の字になって転がっているレイヴィスに俺は近づいて言った。
「お前が困っていたら、お前を助けてくれる奴がちゃんとこの世界にはいてくれるんだ」
「……でも、俺は……」
「だから、これはお前を救う、最初の手だ」
俺はずっと握っていた欠片をさらに強く握った。
『……本当にいいの?』
……ああ、俺はレイヴィスを助けたいんだ。
『でも、彼はバグだよ? 世界を壊しちゃうんだよ?』
……関係ないさ。コイツもこの世界で生きる大切な存在だ。
『……じゃあ、お願い聞いて』
……ん? なんだ?
『名前、ちょうだい』
……名前? どうして?
『私の名前、あなたから貰いたいの』
……わかった。
君の名前は……
* * *
私達は皆で協力して、ワレモノモンスター達を倒すことに成功した。
さすがに数が多く、お姉ちゃん達と協力しても時間がかかった。
私はすぐに夢人さんの姿を探した。
……嫌な予感がした。
私はすぐに夢人さんの姿を見つけることができた。
夢人さんは倒れているレイヴィスに手を向けていた。
その光景を私は見たことがある。
それは、フェル君にシェアエナジーを送り込んだ時と同じ姿だった。
「夢人さん!?」
私は急いで夢人さんに向かって駆け出した。
レイヴィスの話が本当なら、『シェアクリスタル』は勇者を犠牲にして力を発揮する。
夢人さんが今使おうとしている力は『シェアクリスタル』の欠片の力だ。
そんなことしたら、夢人さんは……
私は急いで夢人さんを止めようとした。
……でも、間に合わなかった。
夢人さんの手から、レイヴィスにシェアエナジーが送られていく。
「これでお前は、もう世界を壊さなくて済む」
「……貴様……何で」
「だから、生きろよ。この世界をまた愛せるように。憎しみが消えるようにさ」
レイヴィスの顔から赤い模様が消えていく。
「お前が愛する気持ちを忘れなければ、きっとそれに応えてくれるさ。なんたって、お前の思いは本物なんだからな」
そう言って立ち上がった夢人さんが私を見つけた。
……でも、その顔は今にも泣き出しそうなほど悲しい笑顔だった。
「……悪い、俺ここまでみたいだ」
「何を言って……!?」
……私は見てしまった。
夢人さんの手が透明になってきている……
手だけじゃない、顔だって段々と透明になってきている。
「どうして、どうして!?」
何で夢人さんが透明になっているの!?
「……もう時間がないみたいだから、最後にネプギアに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「最後って……最後ってなんですか!? 待ってください、夢人さん!?」
私は夢人さんが消えてしまわないように、いなくならないように抱きしめようと駆け出した。
「約束……守れなくて、ごめん……」
「夢人さん!? ……っ!?」
そう言い残して、夢人さんの体は私の腕をすり抜けて消えてしまった。
残ったのは、夢人さんが着ていた服と履いていた靴だけだった。
「……夢人さん……夢人さん!!」
私は腕に残る服を抱きしめて、泣き叫ぶことしかできなかった。
……夢人さんが消えてしまった。
残された服に残る温かさが、私をさらに悲しませるように、冷たくなっていった。
という訳で、今回はここまで!
いやあ、久しぶりに10000字超えたよ。
最近は意識して6000ぐらいに抑えようと考えていたんですが、難しいですね。
さて、今回のおまけの女神通信Rとメーカー達の視点ですが、ネプギアとケイブさんを予定しております。
そして、順番を入れ替えて、今回はケイブさん視点から投稿させていただきますね。
それでは、 次回 「特命課活動記録(ギョウカイ墓場編)」 をお楽しみに!