超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
遅くなってごめんなさい!
ちょっとリアルでトラブルがあって、書く時間がうまくとれませんでした。
それでは、 色づいた思い はじまります


色づいた思い

「……何が救うだ」

 

 目の前の男は何を言った?

 

「……何が勇者だ」

 

 俺と違って望まれているコイツは何を言った?

 

「ふざけるなっ!!」

 

 恵まれているコイツは何を言った!!

 

 俺は『シェアクリスタル』の力で炎の球体、フレイムを造り出して、目の前の憎い男に向けて放った。

 

 男は横に跳ぶことで、フレイムの直撃を避けた。

 

 ……許さない。

 

 コイツだけは絶対に許さない!!

 

 俺を憐れんでいるつもりか!!

 

 不幸な俺に同情しているつもりなのか!!

 

 他の奴だったら、ここまで怒りが湧くことはなかっただろう。

 

 だが、コイツは違う!!

 

 コイツは俺の欲しかったものを全部持っている!!

 

 俺がいたかった場所に望まれて立っている!!

 

 俺がいくら望もうとも、絶対にたどり着けない場所に……

 

「恵まれて、望まれて!! 貴様に何がわかる!!」

 

 俺は地面を強く踏み、氷の魔法を発動させる。

 

 俺が踏んだ地面から氷の柱がどんどん男に向かって出現していく。

 

 氷の柱は、途中で二つに分かれ、男の左右を囲むように出現し、逃げ道を塞いだ。

 

「憐れみか、それとも同情か!! 俺はそんなものは望んではいない!!」

 

 逃げ場を失った男に、俺は今度こそフレイムを直撃させるために手のひらに魔力を集中させる。

 

「貴様に!! この歪んだ世界を救うだなんて言っている貴様に!! 俺の憎しみがわかるか!!」

 

 俺の叫びが聞こえているはずなのに、男の顔には変化がない。

 

 俺をまっすぐに見つめている。

 

 ……そんな目で見るな!!

 

「ましてや!! 勇者なんて言う悪魔を生みだすための生贄にすぎない貴様が!! この世界を救うだなんて偽善を振りまくな!!」

 

 俺はありったけの魔力を込めたフレイムを男に向けて放った。

 

 男は氷の柱に阻まれて避けることができずに、全身が炎に包まれた。

 

 今度こそ……

 

「……勘違いしてんじゃねえよ」

 

 しかし、俺の予想とは違い、男は再び腕を大きく払うことで全身の炎をかき消した。

 

 ……何でだ。

 

 何でコイツは死なない!?

 

「俺は生贄になるために望まれたのかもしれない。だが、俺が勇者であることは、俺が望んだことだ」

 

「ウソだ!! 出鱈目を言うな!!」

 

「ウソでも出鱈目でもない。俺は、俺の意思でお前もゲイムギョウ界も救ってみせる」

 

 信じられない。

 

 コイツは死ぬことが怖くないのか!?

 

 俺は目の前の男が怖くなり、後ろに下がってしまった。

 

「お前には偽善に見えるかもしれないが、俺のこの思いは本物だ。この思いは絶対に揺るぎはしない」

 

「っ、黙れ!!」

 

 俺は男の言葉をこれ以上聞きたくなかった。

 

 コイツが言ってることはただの偽善だ!

 

 勇者なんて死ぬための運命を受け入れているコイツはただの自己犠牲の偽善者なんだ!!

 

 ただコイツは勇者な自分に酔ってるだけなんだ!!

 

 『シェアクリスタル』に選ばれたから、勇者をしているだけに違いない!!

 

 そうでなきゃ、好き好んで勇者なんて名乗るはずがない!!

 

 そんな義務感で勇者を名乗ってるような奴の思いが本物であるわけがないんだ!!

 

「口ではいくらでも言えるんだ!! 結局貴様は望まれた役目を果たしたいだけだ!! そんな義務感の様な……」

 

「違うさ」

 

 俺の叫びは、男の静かだが、力強い声で遮られてしまった。

 

「勇者は象徴だ。この胸にこの思いがある限り、俺は勇者であり続ける」

 

 ……なんだよ、それ。

 

 何なんだよ!?

 

「貴様の思いがなんだって言うんだ!? 貴様の思いが俺の憎しみよりも大きいとでも言う気なのか!?」

 

 コイツの思いがどんなものなのかは知らない。

 

 だが、俺のこの憎しみよりも大きいはずがない!!

 

「この世界を知りもしなかった貴様の思いが!! 俺の憎しみよりも大きいはずがあるわけないだろ!!」

 

「……確かに、俺の思いは他人から見れば、ちっぽけなものかもしれない」

 

 そう言った男の顔は少しだけ頬を緩めてほほ笑んでいた。

 

「お前の様に、最初からこの世界を知っていたわけじゃない。俺が知っているのはこの世界に来てからのことだけだ。だが……」

 

 男は俺から視線を外して、後ろで拘束されているプラネテューヌの女神候補生を見つめた。

 

「俺はこの世界のことを愛している女の子を知っている。それだけで充分だ」

 

「……結局、他人の思いじゃないか。貴様はただ強要された思いを貫いているだけだ!!」

 

 他人の思いを理由にして戦っている様なコイツの思いが本物であるはずが……

 

「……なんで笑ってるんですか」

 

 俺が男の言葉に再び怒りが湧き上がり、睨みつけていると、男は静かに語り出した。

 

「なんで私に笑いかけるんですか……なんでこんな私を助けようとしてくれるんですか」

 

「な、何を言っている!?」

 

 俺は男の言葉の意味がわからなかった。

 

「俺が本当に戦ってこれた理由……俺が初めてゲイムギョウ界に来た時の夜、俺を憎しみから救ってくれた言葉だ」

 

「……憎しみ、だと」

 

「俺は最初、この世界のことが……ゲイムギョウ界のことが嫌いだった」

 

 

*     *     *

 

 

 気が付けば、裸で見知らぬところに立っていた。

 

 俺がそれを自覚すると同時に、女の子の悲鳴とともに俺は頬を叩かれ、壁に頭をぶつけて気絶してしまった。

 

 次に目を覚ました時、俺は自分がどうしてここにいるのかを理解した。

 

 ゲイムギョウ界ってなんだよ?

 

 女神ってなんだよ?

 

 そんでもって、誰が勇者だ。

 

 俺は目の前で話すイストワ―ルさんの言葉を聞いていても、現実感がわかなかった。

 

 ……もしかして、夢じゃないか?

 

 太ももをつねってみたが、痛かった。

 

 ……本当に現実なのか?

 

 俺はこれが現実だと理解しても、納得はしなかった。

 

 だって、急に知らない世界を救ってくれとか言われても……

 

 いくら『シェアクリスタル』に選ばれたからと言われても、俺は別にこの世界のことなんてどうでもいいと思っていた。

 

「あなたは勇者さまで『シェアクリスタル』の力で召喚されたんです!! 絶対に間違いありません!!」

 

 ……あの時のネプギアの勢いには驚いた。

 

 俺が勇者であることを否定しようとした時に、ネプギアは強く俺が勇者であることを肯定した。

 

 それまで、顔を赤くしてうずくまっている姿しか見ていなかったから余計だ。

 

 そして、ネプギアの事情を聞いて、俺は同情した。

 

 大切な姉が捕まっていて、それを助けるために勇者の力を貸してほしい、か。

 

 ……正直、勘弁してほしかった。

 

 初対面の相手からそんなこと言われても、いきなり説明もなく、あなたは勇者なんだよ、とかさ、意味がわからない。

 

 大体、何で『シェアクリスタル』は俺なんて選んだんだよ。

 

 俺は就職が決まらなかったニートだぞ?

 

 自分の将来すら、お先真っ暗な奴が関係ない世界の事情にまで首を突っ込む余裕なんてあると思っているのか?

 

 もっと余裕のある奴選べよな。

 

 ……まあ、そんな感じで勇者になることに納得なんてしていなかった。

 

 当然だろ?

 

 勇者をしたところで、元の世界に戻った時、就職に役立つはずがないんだから。

 

 そんなことしている暇があったら、就職できるように資格の1つでも取る勉強をした方がましだ。

 

 ……まあ、こっちが申し訳なく思えるほど、ネプギア達が勝手に召喚したことを気にしていたから文句は言えなかったけどさ。

 

 結局、俺は勇者になることを、ゲイムギョウ界を救うために力を貸すことを決めた。

 

 勇者なんて呼ばれて悪い気はしなかったし、ネプギアの様な可愛い子に頼られて嬉しくもあった。

 

 それに、どうせ『シェアクリスタル』のおかげでチートの様な力が使えるんだろ?

 

 なんたって勇者なんて言う特別な存在なんだから、きっとすごい力が使えるに違いない。

 

 ゲームのイージーモードの様に、簡単に世界を救えるんだろうな、と思っていたんだ。

 

 ……実際は、そんなことなかった。

 

 俺は特別な力なんて一切使うことができず、雑魚モンスターの代表例みたいなスライヌにやられてしまうくらいだった。

 

 

*     *     *

 

 

「ん? ここは……」

 

 俺はネプギアにかっこいいところを見せようと、ビッグスライヌに突っ込み捕食されたはずだった。

 

 それなのに、今はベットの上で寝ている?

 

 ……アイエフ達が助けてくれたのかな?

 

 きっと気絶した俺をここまで運んできてくれたのは彼女達だろう。

 

 俺は目を覚ましてすぐに思った。

 

 ……何やってんだろうな。

 

 期待していた特別な力は使えず、雑魚モンスターの代表例みたいなモンスター相手にやられてしまった。

 

 ……結局、『シェアクリスタル』に選ばれたとか言われても、特別な力なんて使えないじゃないか。

 

 体内には女神を超える魔力があると言われても、使えなきゃ意味ないだろう。

 

 ……どうして、俺こんな目に合ってんだろう。

 

 俺はただのニートなのに……

 

 俺はこんな世界とは無関係なはずなのに……

 

 俺は勝手にこの世界に呼び出された怒りが湧いてきた。

 

 何で俺、こんな理不尽な目に合っているのに、この世界を救わなきゃいけないんだよ。

 

 もうこんな世界のことなんてどうでもいい、さっさと元の世界に戻してくれよ。

 

 俺は俺を選んだ『シェアクリスタル』を憎んだ。

 

 『シェアクリスタル』が俺を選んだせいで、こんな世界に来て勇者なんてしなくちゃいけないだ。

 

 そんな『シェアクリスタル』を生んだこの世界を憎んだ。

 

 俺がこんな目に合っているのは全部この世界のせいだ!

 

 俺は勝手な都合で強要された勇者なんて、もうやめたかった。

 

 でも、帰る手段がない俺はここで勇者の役目を果たさなきゃいけない。

 

 諦めるしかないのか、と嫌々俺は勇者を続けるしかないと内心ため息をついていた。

 

 ……でも、そんな俺の考えを変えたのは、ネプギアの涙ながらの叫びだった。

 

「なんで! なんで笑ってるんですか!? 私が!! 私が勇者としてあなたを呼んだばっかりに!! あの時! 一歩間違えれば、死んでいたんですよ!? なんで私に笑いかけるんですか!? なんで!! なんで……こんな私を助けようとしてくれるんですか!!」

 

 俺が自分の気持ちを押さえて笑っていると、ネプギアは涙を流しながら言ったんだ。

 

 ……笑う理由、か。

 

 就職活動の面接では嫌でも笑顔でなきゃいけない。

 

 本当は滑り止めの様な気持ちで受ける企業でも、ここが第一志望ですって気持ちでいかなきゃいけない。

 

 本気で志望していない人を採用するわけがないからだ。

 

 誰だってその仕事を第一に思える人と一緒に働きたい。

 

 でも、俺はそれが苦手だった。

 

 自分の気持ちにウソをつくようで、なんだか嫌だった。

 

 作り笑いをするたびに、本当の自分が何なのかわからなくなっていく気がした。

 

 ……笑いかける理由、か。

 

 作り笑いってコミュニケーションの手段の1つだろ?

 

 嫌な相手と接する時や、嫌なことをする時も笑顔で対応するのが社会人ってもんじゃないのか?

 

 好きなことばかりしていた学生時代とは違うんだ。

 

 大人は少しでも良好な人間関係を築くために、我慢することも必要なんだ。

 

 俺は元の世界に帰れない。

 

 なら、俺はここで良好な人間関係を築くために、ネプギア達と笑顔で接しなければならないじゃないか。

 

 ……助ける理由、か。

 

 ネプギアは女の子じゃないか。

 

 古い考えかもしれないが、男は女を守るものだ。

 

 ネプギアは女神って言う特別な存在なのかもしれないけど、俺にはただ泣いている女の子にしか思えなかった。

 

 泣いている女の子を放っておけるほど、俺は薄情じゃない。

 

「……なんで助けるのか、か」

 

 俺は天井を見上げ、拳を握りしめながらつぶやいた。

 

 ただ純粋に俺を心配してくれる気持ちが胸に痛かった。

 

 

*     *     *

 

 

 それからはアイエフに戦い方を教わり、バーチャフォレストで実践する日々を送った。

 

 思いだすのは、あの夜聞いたネプギアの涙ながらの叫び。

 

 ……俺はいったい何ができるんだろう。

 

 俺を心配してくれたあの子に、俺は何ができるんだろう。

 

 俺はネプギアのことをまだ何も知らなかったんだ。

 

 何をすれば、彼女が笑ってくれるのかわからない。

 

 だから、彼女の願いである女神を救出するために、少しでも力をつけようと考えた。

 

 泣いている彼女が少しでも笑顔になってくれるように……

 

 ……でも、俺はこの世界のことを知るにつれて、再び怒りがわいてきた。

 

 この世界は女神に依存している、俺はそう感じた。

 

 確かに彼女達は人々に信仰されることで、その力を使い人々を助けて国を繁栄させているんだろう。

 

 でも、それはただの依存じゃないのか?

 

 彼女達を機械の様に見ているのではないかと俺は思った。

 

 その証拠が、ネプギアが『変身』できないことが広まったことによるシェアの低下だ。

 

 ふざけるな!!

 

 彼女が何をしたって言うんだ!!

 

 俺は無責任に彼女に期待し、勝手に失望した人々のことを許せなかった。

 

 彼女だって好きで『変身』できなくなったわけじゃない。

 

 彼女だって心がある。

 

 調子が悪い時だってあるに決まってるだろ。

 

 女神なんて特別な存在の前に、ただの純粋な女の子なんだ。

 

 ……ネプギアは笑顔にしたいが、この世界を救うことには疑問を感じていた。

 

 この世界のためになることをするのが嫌になっていたんだ。

 

 当面は、ネプギアのためだけに頑張ろう。

 

 そんな風に考えて、いつものようにバーチャフォレストに行った時だった。

 

「……う、うぅぅ……」

 

 ……ネプギアが1人で膝を抱えて泣いていた。

 

 理由なんてわかってる。

 

 彼女が1人で『変身』を成功させるために、バーチャフォレストに来ていたことは知っていた。

 

 俺がいつもスライヌにやられて気絶していた時、治療してくれたのは彼女だったんだから。

 

 俺はたまたま治療中に意識が戻った時があった。

 

「……ごめんなさい」

 

 彼女は謝りながら俺の治療をしていたんだ。

 

 ……なんでこんな優しい子が傷つかなければいけないだろう。

 

 なんで涙しなければいけないんだろう。

 

 ……本当はわかってる。

 

 彼女はこの世界が好きなんだ。

 

 このゲイムギョウ界を愛しているからこそ、彼女は自分の無力に傷つき泣いているんだ。

 

 彼女は悪くないはずなのに、彼女は自分のせいだと自分を責める。

 

 それはきっと彼女が純粋だからだろう。

 

 純粋だからこそ、彼女は優しいんだ。

 

 優しいから他人を傷つけない方法で後悔しているんだ。

 

 それが例え、自分の心を傷つけることでも、彼女はそれを受け入れて、この世界のために頑張っているんだ。

 

 ……そんな傷ついている彼女を俺は見ていることしかできなかった。

 

 俺には彼女を慰めることなんてできない。

 

 優しい彼女のことだ、俺が目の前に現れただけで、その涙を隠してしまうだろう。

 

 そして、また自分を傷つけてしまう。

 

 他人に迷惑をかけてしまう自分が許せないと。

 

 ……俺は知りたくなった。

 

 彼女がこの世界を愛する理由を……

 

 彼女が心を傷つけながらも愛するこの世界のことを……

 

 

*     *     *

 

 

 そして、俺は知ったんだ。

 

 俺が知ってた世界なんて世界の一部であったことを……

 

 ネプギアのことをちゃんと見てくれている人達がいることを知ったんだ。

 

 アイエフにコンパ、イストワ―ルさんはもちろん、プラネテューヌの人達だってそうだ。

 

 彼女の不調を心配している人達がちゃんといてくれた。

 

 俺はそれが嬉しかった。

 

 彼女は温かい輪に包まれていたんだ。

 

 今の彼女はその輪に気付いていないが、それは確かに彼女を守っていたんだ。

 

 だけど、純粋な彼女のことだ。

 

 それが無意識にわかっているからこそ、彼女も守ろうとしていたのではないか。

 

 愛されていることを感じていたからこそ、彼女も愛していたんだ。

 

 俺は彼女を包む輪の中に入りたくなった。

 

 俺だって彼女を守りたい。

 

 ただの偶然でこの世界にやってきた俺を心配してくれた優しい彼女を守りたい。

 

 傷ついて涙を流しながらも愛することをやめない彼女を支えたい。

 

 ……気が付けば、俺はこの世界のことを認めていたんだ。

 

 女神に依存している人だけじゃない。

 

 女神を愛する人達がいるこの世界を……

 

 俺はそんなネプギア達の関係が羨ましかった。

 

 互いに本当に思い合っているからこそ、人々は女神を愛し、女神は人々を愛しているんだから。

 

 そこにウソなんて存在しない。

 

 本当の自分を隠しながら就職活動をしていた俺にはまぶしい関係だった。

 

 嫌っていた世界がまぶしかったんだ。

 

 ……俺がこの嫌っていた世界でできること。

 

 それは、まずこの世界を好きになることだったんだ。

 

 自分を傷つけるから嫌うんじゃない。

 

 何も知らずに否定するんじゃない。

 

 目で見て、耳で聞いて、手で触れて、この世界のことを知らなきゃいけなかったんだ。

 

 そして願わくば、俺は彼女のようにこの世界を愛したいと思えるようになったんだ。

 

 彼女と同じように、誰かに優しくなれるように……

 

 

*     *     *

 

 

「私が! 私が大好きな人達を! 大好きなゲイムギョウ界を守るための力なんだから!!」

 

 バーチャフォレストの奥で、そう言った彼女の後姿は俺の憧れだ。

 

 泣いていた彼女が立ち上がった瞬間だった。

 

 自分を傷つけて泣いていた彼女が俺の前で初めて強い姿を見せた。

 

 ……嬉しかった。

 

 俺は彼女を傷つけることしかできないと思っていた。

 

「だから……見ててくださいね……『夢人さん』!」

 

 そんな俺を勇者ではなく、彼女は名前で呼んでくれた。

 

 俺は少しでも彼女を支えられたんだと思って嬉しかったんだ。

 

 ……何より、その笑顔がまぶしかった。

 

 泣いている顔しか見たことがなかった俺に衝撃が走った。

 

 ……彼女はこんな風に綺麗に笑うんだ。

 

 俺は見惚れていたんだ。

 

 彼女の笑顔に……

 

 そして、同時に思った。

 

 この笑顔を守りたい。

 

 見た目の年相応に可愛らしく笑う彼女の顔をもう曇らせたくない。

 

 俺は彼女の純粋な心に惹かれていたんだ。

 

 あるがままを受け入れ、それに応えるために、傷つきながらも前を向く彼女の強い心。

 

 純粋で強いからこそ、壊れてしまうのではないかと思うぐらい儚い心を守りたい。

 

 俺はネプギアを守りたい!

 

 最初は嫉妬だったのかもしれない。

 

 自分にはない純粋で強い心を持っている彼女への……

 

 でも、今は違う。

 

 俺は1人の男としてネプギアを守りたい!

 

 俺はネプギアのことを好きになっていたんだから……

 

 

*     *     *

 

 

「でも、そんな俺の嫌いを変えたのはネプギアだ。ネプギアがいたからこそ、俺は優しくなろうとも思えたし、強くなろうとも思えた」

 

 俺は拘束されているネプギアにほほ笑みながら言った。

 

 君が傷つく必要なんてないんだ。

 

 自分を責めて傷つけないで欲しい。

 

 そんな思いを込めて俺はネプギアに言葉を送り続ける。

 

「俺は『シェアクリスタル』に選ばれて、勇者になれて幸せだ。だって、ネプギアと出会えることができたんだから」

 

「……夢人……さ……ん……」

 

 ネプギアは俺の言葉を聞きながら泣いていた。

 

 泣かせてばかりでごめん。

 

「俺の戦う理由、勇者であり続けた理由は、ネプギアを守りたかったからだ!!」

 

 俺はレイヴィスに言わなければいけない。

 

 俺のちっぽけな理由。

 

「今では理由が増えて、迷って悩んで後悔して、俺は絶望しかけた。だけど、今は違う!!」

 

 それでも、お前の憎しみに勝るとも劣らない、俺だけの理由。

 

「俺はネプギアを守る!! アイエフ達やユニ達も!! 俺の大好きな人達を守る!! それが、俺の勇者の証だ!!」

 

 俺は結局、世界よりも大好きな人達を守りたいんだ。

 

 大好きな人達が生きる世界だから救いたいんだ。

 

「お前だってこの世界で生きる1人の人間だ!! 俺はそれを受け入れ、お前を救う!!」

 

 例え、レイヴィスが世界を歪ませてしまう存在であろうとも関係ない。

 

 彼も俺が大好きな人達が生きる世界で生まれた大切な存在なんだ。

 

 俺の求める強さは、誰かを救える強さ。

 

 優しくあろうとする心を失わないことだ。

 

 俺はお前を救うためにこの手を伸ばし続ける。

 

「……ふざけるな!!」

 

 俺の言葉を聞いて、体を震わせていたレイヴィスが睨みながら、俺に炎の球体を放ってきた。

 

「何が救うだ!! 何が勇者だ!! 今更、そんなことを言うんじゃない!!」

 

 レイヴィスは叫びながら何発も俺に炎の球体を放ってくる。

 

 でも、俺はそれを避けたりはしない。

 

 ……何故なら、レイヴィスは涙を流していたんだから。

 

「貴様に何がわかるんだ!! 俺の気持ちの何がわかるんだ!!」

 

 俺は全身が炎に包まれても気にはしない。

 

 この程度の炎、慣れっこだ。

 

 本当の思いがこもっていない魔法なんて少しも効きはしない。

 

「今更そんな姿で!! そんなことを言いながら!!」

 

 俺は腕を大きく払うことで全身で燃えていた炎をかき消した。

 

「これ以上、これ以上!!」

 

 レイヴィスが頭上に手を上げ、今までよりも巨大な炎の球体を造り出した。

 

「俺を、惨めにさせるなあああああ!!」

 

 迫ってきた巨大な炎の球体は、俺に直撃する前に、後ろから跳んできたワンダーによってかき消された。

 

〔まったく、無茶をする〕

 

「お前だって無茶してんだろ」

 

 そのボディについている黒い焦げ跡、それに今でも白い煙を出しているお前に言われたくない。

 

〔私が道を造ろう。お前はただ駆け抜けろ〕

 

「頼むぞ」

 

 言葉はいらない。

 

 俺もワンダーも心は1つ。

 

 やるべきことをやるだけだ。

 

〔メインエンジン、オーバードライブ!! 小型シェアエナジー増幅装置、最大出力!!〕

 

 ワンダーの体を中心にドーム状にシェアエナジーが広がっていく。

 

 ワンダーのメインエンジンはシェアエナジー増幅装置を小型化したものだ。

 

 そのため、ワンダーの体内にはシェアクリスタルが内蔵されている。

 

 以前、ハードブレイカーであった時は、その最大出力に耐えられなかったが、今のワンダーとなった彼なら充分に耐えられる。

 

 シェアクリスタルに内蔵されていたシェアエナジーがこの空間に広がっていく。

 

 マジェコンヌシェアが広まっていたこの空間を女神のシェアで塗り替える、それこそがケイさんの考えていた女神救出作戦の奥の手だ。

 

「なっ、ぐっ!?」

 

 シェアエナジーを放出するとともに、光輝くワンダーの姿に、レイヴィスは目を眩ませてしまっていた。

 

 今しかない!!

 

 俺はレイヴィスに向かって駆け出し、『シェアクリスタル』を持っているその腕を蹴り上げた。

 

「あっ……」

 

 空中に放り出された『シェアクリスタル』をレイヴィスは呆然と見上げることしかできない。

 

 ……『シェアクリスタル』に干渉できる存在は2人だけだ。

 

 だから、レイヴィスは『シェアクリスタル』から女神を誕生させることができなかった。

 

 でも、俺は違う。

 

 俺は『シェアクリスタル』に選ばれた勇者だ。

 

 俺は空中に浮かびあがった『シェアクリスタル』を追って跳び上がった。

 

 血のように赤い輝きを放っていた『シェアクリスタル』も、ワンダーから放たれている女神のシェアエナジーで、元の透明な輝きを放っていた。

 

 ……ごめんな。

 

 俺はこんな選択しかできない。

 

 俺は右腕を大きく振りかぶった。

 

 ……今まで助けてくれて、ありがとう。

 

「砕けろおおおおおおお!!」

 

 俺はありったけの力を込めて、『シェアクリスタル』を殴った。

 

 その一撃で『シェアクリスタル』は砕け散り、光と共に数多くの欠片が飛び散っていった。




という訳で、今回は以上!
修正作業が思ったよりも難航しております。
予定では、擬音の部分を描写に差し替えたり、いらない空行をなくしたりするだけなのですが、ちょっと上手く時間が取れないで完了させられませんでした。
何とか5日までには終わらせますので、ご勘弁を。
そして、いよいよ次でこの章もおしまいです!
長かったこの章がどうなるのか、楽しみにしておいてくださいね!
それでは、 次回 「約束の行方」 をお楽しみに!

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