超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

77 / 184
はい、皆さんこんばんわ!
明けましておめでとうございます!
昨日は寝落ちってこちらを更新できませんでした。
ごめんなさい!
それでは、 望んで生まれた憎しみ はじまります


望んで生まれた憎しみ

「……何をやっているんだ、あの役立たずどもが!」

 

 俺はワレモノモンスター達の向かって行った方向を見て苛立ちを隠せない。

 

 あの男にはもう戦う力なんてないはずだ。

 

 いくらガラクタを身に纏ったところで、ワレモノモンスター達の方が強いはずだった。

 

 ……しかし、結果はどうだ?

 

 アイツはワレモノモンスター達の包囲を突破し、こちらに向かって来ている。

 

「……気に食わない」

 

 ……なんだこれは?

 

 何の戦う力も持たない人間が……

 

 ゲイムギョウ界とは関係ない世界で生きていた人間が……

 

 ゲイムギョウ界を救うために戦っているだと?

 

「ふざけるな」

 

 俺は『シェアクリスタル』を持つ手に力を込めた。

 

 その偽善が……

 

 その境遇が……

 

 その姿が……

 

「全てが気に入らない!!」

 

 あの男は必ず殺す!!

 

 完膚なきまでに絶望に叩き落とし、その顔を恐怖で染め上げる。

 

 ……俺はアイツを認めない!!

 

 

*     *     *

 

 

〔見えてきたぞ!〕

 

 目の前の道が広がり、広い空間が見えた来た。

 

 間違いない。

 

 あそこで俺は『シェアクリスタル』を奪われたんだ。

 

 俺の目は鋭くなり、ハンドルを握る手にも力が入る。

 

 ……落ちつけ、落ちつけよ。

 

 ここで失敗するわけにはいかないんだ。

 

 ネプギア達を助けるためにも……

 

〔しかし、本当にそんなことができるのか?〕

 

「ああ、プラネテューヌのゲイムキャラからは確認はとってある」

 

 俺のやることはレイヴィスを倒すことじゃない。

 

 それよりも優先することがある。

 

「まずはネプギア達を助けることに全力を掛けるぞ!」

 

 ……待っててくれ。

 

 必ず皆を助ける。

 

 そして、このゲイムギョウ界を救う。

 

 それが、俺の……

 

 

*     *     *

 

 

 ネプギア達、女神が捕まっている広い空間、そこに1台のバイクに乗った夢人が辿り着いた。

 

「皆!! 助けに来たぞ!!」

 

 道を抜けてきた夢人は黒い紐で拘束されているネプギア達を見ると、ほほ笑みながら叫んだ。

 

「……ゆ……めと……さん……なん……で……」

 

 ネプギアは夢人が来たことを悲しく思った。

 

 ……どうして来たのか、何で来てしまったのか、と言葉にはできなくとも、夢人に逃げて欲しいと願って視線を向けた。

 

「わざわざ死にに来たのか」

 

 そんなネプギアの視線を遮るように、レイヴィスは夢人とネプギアの間に立ち、眉間にしわを寄せながら夢人を睨み始める。

 

「貴様が戦えたのは、この『シェアクリスタル』があったからだ。それがなくなった今、貴様は本当に俺に敵うとでも思っているのか?」

 

「負けないさ。俺は必ずネプギア達を助ける」

 

「チッ、雑魚が何を言っている」

 

 迷う素振りのない夢人の言葉に、レイヴィスは怒りを募らせる。

 

「いいだろう。貴様にもう一度味あわせてやるよ。己の無力を、たっぷりとな!」

 

 レイヴィスがそう言うと、『シェアクリスタル』を握る手に力を込め、シェアエナジーを『シェアクリスタル』に送り始めた。

 

 シェアエナジーを送られ続けている『シェアクリスタル』は、まるで血の様な赤く輝き始めた。

 

「これがお前の使っていた力、勇者と言う生贄が使っていた悪魔の力だ!!」

 

「ワンダー!!」

 

〔CHANGE MODE ARMOR〕

 

 レイヴィスの手のひら炎の球体が自分めがけて飛んでくるのを見て、夢人はワンダーをアーマーモードへと変形させた。

 

 炎の球体は浮き上がったワンダーの後輪によって、かき消され、そのまま夢人の体に鎧として装着された。

 

〔先ほどの戦闘で発生した熱がまだ残っている。お前の体が限界だと判断した時は、強制的に解除するぞ〕

 

「解除される前に、決着をつけるぞ!」

 

 夢人は先ほどよりも背中に熱を感じながらも、レイヴィスに向かって拳を振り上げながら向かって行った。

 

 レイヴィスは鎧を身に纏った夢人を眉をひそめて見ながら、自身に向かって振り抜かれた腕を大きく横に跳ぶことで避けた。

 

「くっ! 少し飛ばされたか」

 

 レイヴィスは自分が思った以上に横に跳んでいることに苛立ちを感じた。

 

 鎧を身に纏っていると言っても、夢人自身の攻撃には脅威を感じなかった。

 

 今の攻撃も避けた後に、すぐに横から攻撃をしようと考えていた。

 

 しかし、振り抜かれた拳の衝撃で、レイヴィスは空中で飛ばされていたのである。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

「チッ、調子に乗るな!」

 

 夢人が再び拳を振り上げながら向かってくる姿を見て、レイヴィスは氷の槍を造り上げ迎え撃つ構えを取った。

 

 振り下ろされる拳と突き上げられる槍の先端が激しい衝撃音とともにぶつかり、両者は一歩も引かない拮抗状態になった。

 

「まだ、だ!!」

 

「なっ!? くっ!?」

 

 夢人は振り下ろしたことで伸びきっていた腕に体重を掛けるように前のめりになりながら足の車輪をフル稼働させて前進した。

 

 それにより、ぶつかっていた槍の先端が砕け、まっすぐにレイヴィスに向かって拳が飛んで行く。

 

 槍の先端が砕けたことに驚愕したレイヴィスだったが、すぐに我に戻り、後ろに跳ぶことで拳を避けることに成功した。

 

 避けられた拳は、地面に叩きつけられ、拳を中心として環状に地面が陥没した。

 

〔夢人、これ以上は危険だ〕

 

「大丈夫、まだいける」

 

〔夢人!!〕

 

 鎧からは白い煙が上がり、装着している夢人自身も熱さの影響で顔を苦しそうに歪ませて大量の汗をかいていた。

 

 しかし、それでも夢人はアーマーモードを解除しようとはせず、レイヴィスを睨みながら立ち上がった。

 

「……ご立派な決意だことだ。そのやせ我慢をすぐに終わらせてやるよ」

 

 レイヴィスは夢人の様子を見て、薄く笑いながら両手を大きく広げた。

 

「これは土の魔法と同じで、お前が使えなかった風の魔法の使い方だ」

 

 そう言うレイヴィスの両腕の間に青い稲妻が走り始めた。

 

「風の魔法で真空状態を造り出すことで起こる放電現象、プラズマって言葉ぐらい知っているだろう?」

 

 発生させた青い稲妻を『シェアクリスタル』を持っていない方の手に集めながら得意げに語るレイヴィス。

 

〔まずい!?〕

 

「気づくのが遅れたな、喰らえ!!」

 

〔しまっ!?!?!?!?!?〕

 

「ぐっ!? ぐわあああああああ!?」

 

 レイヴィスが放った稲妻がワンダーを纏った夢人に直撃した。

 

 いくら高性能なマシンであるワンダーと言えども、機械の体。

 

 稲妻により、ワンダーの内蔵されている精密機械に異常が発生した。

 

 AIは強制的にブラックアウトし、アーマーモードも解除され、青いボディに黒い焦げを造りビークルモードで転倒してしまった。

 

 とっさにワンダーがモードを解除した時、夢人を後ろへと飛ばしたが、稲妻から逃げられずに、右足に稲妻が直撃し、右足から血を流して転がってしまった。

 

「所詮ガラクタだな。簡単に壊れる」

 

 レイヴィスは薄く笑いながら、倒れているワンダーに近づき、その車体を蹴り飛ばした。

 

「これで貴様も終わりだ。だが、楽に死ねると思うなよっ!」

 

「がっ!?」

 

 ワンダーを蹴り飛ばしたレイヴィスは、次に右足を上手く動かすことができず、立ち上がれないでいた夢人に近づいてその腹を蹴り上げて転がした。

 

 転がされた夢人は両手で蹴られた腹を押さえながら顔だけはレイヴィスを睨む。

 

「……なんだ、まだ勝つ気でいるのか?」

 

「当たり、前だろ……俺は、ネプギア達を……」

 

 夢人は両手で地面に手をつき、何とか立ち上がるが、右足に力が入らず、ふらふらとふらついてしまう。

 

 レイヴィスは立ち上がった夢人が気に食わず、その手を夢人に向かって伸ばした。

 

「グラビティ」

 

「ぐわっ!?」

 

 立ち上がった夢人であったが、レイヴィスに重力を操作され、頭から再び地面に倒れてしまった。

 

 しかし、夢人は頭上から自分に強力な圧力がかかっているにもかかわらず、歯を食いしばって立ち上がろうと、上手く動かせない両手を震わせながら力を入れた。

 

「いい加減にしろ!!」

 

 レイヴィスが立ち上がろうとしてくる夢人の姿に苛立ち、さらに強く圧力をかけた。

 

 そのせいで夢人は声も出すことができず、地面に突っ伏してしまった。

 

「今の貴様に何ができる! 『シェアクリスタル』も頼みの綱のガラクタも失った貴様に! そんな弱い姿をさらして何が守るだ!!」

 

 顔を怒りで歪ませながら、さらに圧力を強めていくレイヴィスであったが、夢人は少しずつ指を動かして動こうとしている。

 

「……守……る……さ……必ず!」

 

 夢人が諦めていないと知ると、レイヴィスが一気に押し潰してしまおうと考え、伸ばしていた腕を大きく上に上げた。

 

「待って……ください」

 

 レイヴィスが勢いよく腕を振り下ろそうとした瞬間、拘束されているネプギアが涙を流しながらレイヴィスに訴えた。

 

「……私……は……どうなっても……構いません……でも……夢人……さんは……」

 

「……そうか……そうかよ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

 レイヴィスは一度ネプギアの訴えを聞こえた時、振り下ろしている腕を途中で止めたが、それが夢人の命を助けて欲しいと言う願いだと知ると、顔を怒りに歪ませて腕を振り下ろして圧力を強めた。

 

 圧力が一気に増したことで、周りの地面は沈み、夢人は短く悲鳴を上げて倒れ伏した。

 

「そんなにコイツが大事なのか……そんなにコイツはこの世界に望まれていると言うのか!!」

 

 レイヴィスは圧力を緩めず、夢人を睨みながら声を荒げる。

 

「ろくにこの世界のことを知りもしない人間が、何でこの世界に望まれている!!」

 

「……なに……を……」

 

 怒りをあらわにしているレイヴィスの姿にネプギアは驚いてしまう。

 

 夢人を圧倒し、自分が優位に立っているはずなのに、レイヴィスの姿には余裕が見られない。

 

「貴様に……貴様に! この世界に望まれている貴様に! この世界から弾かれた俺の憎しみがわかるか!!」

 

 

*     *     *

 

 

 何度も立ち上がろうとしてくる目の前の男が憎い。

 

 傷つきながらもこのゲイムギョウ界を救うと言う決意を無くさない目の前の男が憎い。

 

 女神から大切に思われ、この世界に祝福されている目の前の男が憎い!!

 

 ……何故だ。

 

 俺の方がこの世界のことを知っている。

 

 ……どうしてだ。

 

 俺の方がコイツよりも強い。

 

 ……何でなんだ。

 

 俺の方がこの世界のことを愛していたのに!!

 

 

*     *     *

 

 

 ……俺の生前の名前は、西沢 拓也(にしざわ たくや)。

 

 俺はアニメやゲーム、漫画が好きな高校生だった。

 

 特に、『超次元ゲイムネプテューヌ』と言うゲームが好きだった。

 

 店頭で並べられていたパッケージを見た瞬間、俺はパッケージに描かれていた彼女達に心を奪われた。

 

 周りでの評価は微妙だったが、俺はこのゲームを何度もプレイした。

 

 続編でありながら、違う世界観を持つmk2やVにも手を伸ばし、画面の前に映る魅力的な彼女達の姿に目を奪われていった。

 

 ……俺もこの世界に行ってみたいな。

 

 オタクなら誰でも考えるように、俺はこの世界で彼女達と一緒に冒険してみたいと考えるようになった。

 

 別に彼女達と恋愛をしたいわけではなかった。

 

 ただ画面の前に映る魅力的な世界に惹かれていたんだ。

 

 学校での勉強の日々に疲れていたのかも知らない。

 

 俺は日常ではありえない、非日常的なファンタジーな世界で過ごしてみたいと強く思っていたんだ。

 

 ……そんな時だった。

 

 俺は気が付けば、真っ白な空間にいた。

 

 そんな空間にいた女性は、俺が死んだことを教えてくれた。

 

 そして、再び生き返ると言うことを……

 

 俺はどんな世界に生き返るのかを聞いた時、女性の言葉に喜びを隠せなかった。

 

 俺の理想の世界……『超次元ゲイムネプテューヌmk2』の世界に生き返らせてくれると言うのだ。

 

 ……これで、あの画面の中にあった世界に行ける!

 

 俺は『特典』として、強力で何にでも使える能力を貰った。

 

 俺は死んだことを喜んでいたんだ。

 

 死んだからこそ、俺は憧れの世界に行けるんだから。

 

 ……しかし、現実は甘いものではなかった。

 

 3年前に、治安が悪くなってきていたことから、俺は原作が始まったということを察した。

 

 ……よし、俺も女神達を助けるぞ!

 

 俺はこの日のために力をつけてきた。

 

 『特典』に振り回されないように、その力を使いこなせるように訓練をしてきた。

 

 そんな俺がまず、しようと思ったことは、俺の村を襲うモンスターを退治することだ。

 

 俺の生まれた村は小さい村であったため、教会やギルドにモンスター退治を依頼しても、後回しにされてしまっていたんだ。

 

 そこで、戦える力を持っている俺は村を救うためにモンスターを退治しようと考えた。

 

 ……これから俺の旅が始まる。

 

 そう考え、俺は興奮していた。

 

 村を救うヒーローの気分でいたんだ。

 

 きっと村の皆はモンスターを退治した自分を英雄のように称えてくれるに違いない。

 

 女神不在の中に現れた俺と言う英雄の物語が始まるんだと期待していたんだ。

 

 ……しかし、実際に俺に注がれた視線は冷たいものだった。

 

 俺がモンスターを退治して村に戻った時、村の皆は口にした。

 

 ……この化け物と。

 

 何でだ?

 

 俺は村を救うためにモンスターを退治してきたんだぞ?

 

 何でそんな俺が化け物なんだ?

 

 俺は理解できなかった。

 

 きっと温かく迎えてくれると思っていた分、その冷たい態度に混乱していた。

 

「俺が何をしたって言うんだ!?」

 

 俺がそう皆に叫ぶと、村長である俺の父親が言った。

 

「女神でもないのに、お前はあんな危険なモンスターを1人で退治したんだぞ!! そんな普通では考えられない力を持っているお前は化け物だ!! 返せ!! 私達の息子を返せ!!」

 

 ……なに言ってんだよ。

 

 アンタの息子は俺だろ?

 

 何で受け入れてくれないんだよ。

 

 俺はただこの村を救いたかっただけなんだよ。

 

 そんな俺がどうして化け物なんだよ!

 

 父親の言葉をきっかけに、集まっていた皆は俺に石を投げ罵倒してきた。

 

「この村を出てけ!! この化け物!!」

 

 ……何で。

 

「近づかないで!! この化け物!!」

 

 ……どうして。

 

「返して!! 私達の息子を返して!!」

 

 ……何でなんだよ!!

 

 気が付けば、俺の視界は真っ赤に染まっていた。

 

 俺の周りで村人だったものが赤い液体を流しながら転がっているのを、俺はただ呆然と見ていたんだ。

 

 ……何でこうなったんだろう。

 

 俺は頬についている赤い液体が、冷たくなっていくにつれて現実を認識していった。

 

 ……俺は、英雄なんかになれない。

 

 俺は、化け物だ、と。

 

 

*     *     *

 

 

 俺は村だった場所を後にして歩き始めた。

 

 行くあてなんてない。

 

 ただその場にいたくなかった。

 

 ……これが憧れていた世界なのか?

 

 俺はただそれだけを考えていた。

 

 確かに、この世界は女神と一般人との力の差がはっきりしていた。

 

 女神以外に特別な力を持つものなんて限られていた。

 

 ……何で俺はこんな世界に憧れていたんだろう。

 

 村の皆から向けられていた視線を思い出すたびに、憧れていた世界に罅が入っていった。

 

 こんなの俺の憧れた世界じゃない。

 

 どうして俺は認められなかったんだ。

 

 ……そんなことを考えていると、気が付けばおかしな場所に入り込んでいた。

 

 赤い空、高く積み上げられたゴミの山、遠くに黒い大きな塔が見えるが、人の気配がまったくしない空間。

 

 しかし、俺は知識としてこの場のことを知っていた。

 

「ここは……ギョウカイ墓場?」

 

 どうしてこんなところに迷い込んでしまったのだろう。

 

 不気味に漂う光る球体を見ながら俺は考えていた。

 

『お前はバグだ』

 

「誰だ!?」

 

 ふいに後ろから声が聞こえてきた。

 

 俺は慌てて振り向くと、そこに人の影はなく、女性の石像があるだけであった。

 

 ……何で、お前が。

 

 俺はその石像のことも知っていた。

 

 しかし、それはありえない。

 

 何故なら、その女性はまだ現れるわけがないのだから。

 

『お前は、この世界を歪ませるバグだ。お前を中心に『歪み』は広がり、世界は崩壊する』

 

「黙れ!」

 

『お前が存在するだけで、世界は悲鳴を上げ、周りのものは不幸になっていく』

 

「黙れ、黙れ!」

 

『お前は世界に認められていない存在だ。望む望まないは関係ない。お前はこの世界の異物なんだ』

 

「黙れ、黙れ、黙れ!!」

 

 俺はその石像から聞こえてくる声を聞きたくなく、両耳を塞いで顔を激しく左右に振った。

 

 ウソだ!

 

 ……だからなのか。

 

 そんなことあるわけがない!

 

 ……認めちゃいなよ。

 

 俺はこの世界を救いたいと思っているんだ!

 

 ……本当に救う価値があるの?

 

 俺はその声を否定しながらも、心の中では肯定していた。

 

 ……俺はこの世界に祝福されていない。

 

 だから、化け物なんて言われたんだ。

 

 こんな世界を救う必要があるのか?

 

 俺を異物としか認めない世界なんて……

 

『憎いか? 壊したいか? この世界を』

 

 ……憎い。

 

 俺を認めないこの世界が……

 

 ……壊したい。

 

 俺を受け入れない世界を……

 

 自分勝手な理由だってわかっていた。

 

 しかし、俺の気持ちは収まらない。

 

『ならば、壊せ。その手で、憎いこの世界を』

 

「うわあああああああああああああ!!」

 

 俺は『特典』の力を使い、石像を破壊した。

 

 瞬間、俺の中にどす黒く気持ちの悪いものが流れ込んできた。

 

 でも、俺は流れ込んでくるこの不快感がたまらなく嬉しかった。

 

「……そうか、そうだったのか」

 

 俺の中には、石像の力と知識が流れ込んできた。

 

 そして、理解した。

 

 石像の言葉が真実であると……

 

 俺がこの世界のバグであると……

 

 俺の憧れていた世界なんて存在しないんだと……

 

「ククククッ、ハハハハ、アーッハッハッハ!!」

 

 笑いがこみあげてくる。

 

 こんな世界を救おうとしていたバカな自分に……

 

「感謝するぞ!! これで俺はこの世界を壊せる!!」

 

 俺は『特典』に加えて、石像の力と知識も得た。

 

 これだけの力があれば、女神なんか敵じゃない。

 

 俺に敵う奴なんて存在しない。

 

 この憧れていた世界の偽物を壊すことができる!

 

「このゲイムギョウ界は、俺が破壊する!!」

 

 顔に焼ける熱を感じ、痕になって残った赤い模様こそが俺の思いを肯定してくれているように感じた。

 

 

*     *     *

 

 

「俺は望んで、憧れたこの世界に生まれたはずだった!! なのに何故だ!! なぜ俺は認められないんだ!!」

 

 レイヴィスがまるで血を吐くように叫ぶ姿は、私にはとても悲しく見えた。

 

「俺が何をしたって言うんだ!! 俺はただ憧れた世界で生きたかっただけだ!! 俺は愛していたんだ!!」

 

 レイヴィスも私達と同じで、ゲイムギョウ界を愛していたんだ。

 

 私はレイヴィスの今の姿を見て、それが本当の気持であるとわかった。

 

「世界が俺の愛を裏切ったんだ!! 俺の全てを否定したんだ!!」

 

 フェル君やナナハちゃんと同じ、『転生者』として生まれたせいで、苦しんでいたのは彼も同じだ。

 

「それなのに、この世界をよく知りもしないくせに、『シェアクリスタル』に選ばれただけの貴様が、何故世界から望まれる!!」

 

 レイヴィスは倒れている夢人さんをきつく睨みながら叫び続ける。

 

「俺の方が知っていた!! 俺の方が強い!! 俺の方がこの世界を愛していたはずなのに!! 何故偶然選ばれた人間である貴様だけが望まれる!! 何故俺は望まれなかった!!」

 

 ……私はレイヴィスの姿をもう見ていられなかった。

 

 その悲しい後姿が私には泣いているように思えた。

 

「貴様は望まれているからこそ、この世界を救うだなんて言えるんだ!! 偶然選ばれただけの無関係な貴様の思いが!! 望んで生まれた俺の思いに勝てるわけがないだろ!!」

 

 レイヴィスはそう言うと、振り下ろしていた腕を今度は上に上げた。

 

 腕の動きに合わせて、地面に倒れ伏していた夢人さんが宙に浮きあがった。

 

「それなのに!! いつまでもこの偽物の世界を救うだの言っている貴様が憎い!!」

 

 レイヴィスは伸ばしている腕の先に炎の球体を造り出した。

 

「望まれなかった俺の絶望を知らない貴様が!! 世界から望まれた貴様が憎い!! だから、俺は貴様を認めない!!」

 

 レイヴィスの手から放たれた炎の球体は、宙に浮かびあがり、避けることができなかった夢人さんに直撃し、夢人さんは炎に包まれた。

 

「そのまま燃え尽きろ!!」

 

「……そん……な……」

 

 私は炎に包まれている夢人さんの姿を見て、涙を流すことしかできない。

 

 ……私が全部悪いんだ。

 

 レイヴィスの憎しみを加速させたのは私だ。

 

 私が偶然夢人さんを勇者として召喚しなければ、夢人さんはこのゲイムギョウ界を愛することはなかったはずだ。

 

 私が夢人さんにこの世界を救うために力を貸して欲しいと頼んだせいだ。

 

 私が夢人さんと約束なんてしたせいだ。

 

 私が強要していたんだ、夢人さんにこの世界を救うことを……

 

 真実を知った私は、そのことがどれだけ残酷なことだったのか理解している。

 

 私は今、自分勝手な思いのせいで、2人の人間を不幸にしている。

 

 レイヴィスには、愛していた憎しみを加速させる存在と出会わせてしまった不幸を……

 

 夢人さんには、私の身勝手な思いのせいで強要させた死と言う不幸を……

 

 全部私が悪いんだ。

 

 私がいたから……

 

「……違うだろ」

 

 ……え?

 

「お前はこの世界を壊したいんじゃない」

 

「……な、何でだ」

 

 私の眼に、炎に包まれていた夢人さんが右手を大きく振り払い、全身で燃えていた炎を消して力強く立つ姿が映った。

 

「お前が壊したいのは、自分自身だろ」

 

「何故生きている!?」

 

 夢人さんは体のあちこちを火傷していたが、私には火傷する前よりも力強く見えた。

 

「お前は許せないんだ。この世界を壊してしまう自分が……この世界を憎んでいる自分自身が」

 

「っ、知ったような口を聞くな!! 望まれた貴様が、望まれなかった俺の気持ちなど……」

 

「だから!!」

 

 怒りで顔を歪ませたレイヴィスの叫びを、夢人さんはそれよりも大きな声で遮って叫ぶ。

 

「俺がお前を救う!! 俺は、このゲイムギョウ界を救う勇者だ!!」




という訳で、今回は以上!
いよいよこの章の本編も残すところ2、3話ぐらいでおしまいです。
予定よりも長引いてしまったこの章ですが、最後まで楽しみにしておいてくださいね!
それでは、 次回 「色づいた思い」 をお楽しみに! 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。