超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回はようやく夢人君メインで、物語も進みます!
それでは、 消えない決意 はじまります


消えない決意

〔事情があってサウンドオンリーの通信ですまない。私はお前と話がしたい〕

 

「いや、そんなことより、お前、生きていたのか?」

 

 お前はブレイブ・ザ・ハードとの戦いで自爆したはずじゃなかったのか?

 

 俺は今でもお前に向けて投げた剣の感触を覚えている。

 

 俺の投げた剣がお前の中に内蔵していた新型のエネルギー装置を貫き、お前が爆発した姿を今でも思い出せる。

 

 ……俺にとって忘れたくない記憶の1つだからだ。

 

〔私がラステイションの教祖に新型のエネルギー発生装置のモニターを頼まれていたことは知っているな〕

 

「あ、ああ」

 

〔私の中には逐一データをラステイションの教祖に送る発信機がついていた。あの自爆の時でさえな〕

 

 え、えっと、ちょっと待ってくれないか。

 

 ケイさんから新型のエネルギー発生装置のモニターを頼まれていたことは知っている。

 

 そして、そのデータが常にケイさんに送られるように発信機がついていたと?

 

〔そのデータの中に、破損していながらも私のAIデータが紛れ込んでいたらしい〕

 

「そんなことってありえるのか?」

 

〔通常ならありえなかっただろう。しかし、あの時私は願った。私の中に芽生えた心を失いたくないと〕

 

 ……心。

 

 ハードブレイカーはそれを知るために、ケイさんから依頼を受けていたんだよな。

 

〔その願いがかなったのかわからないが、私のAIデータはエネルギー装置のデータとともに教祖の元へと届いたのだ。私はこれが心の力かと、思わず感慨深く思ってしまった〕

 

 ……そっか。

 

 お前は本当に心を知ることができたんだな。

 

 お前はもうただの機械なんかじゃないんだ。

 

〔教祖が言うには発信機の誤作動らしいが、私はそうは思わない。これは私が望んだ結果の証だ〕

 

「お前の望みって……」

 

〔人間の心を守る。そのために、このゲイムギョウ界を守るために戦うこと、それこそが私の望みだ〕

 

 ゲイムギョウ界を守る、か。

 

「……でも、この世界はもう……」

 

〔崩壊してしまうか?〕

 

「……っ、知ってるのか!?」

 

〔先ほど教祖達が話していた話を聞いていた。この世界のこと、『転生者』のこと、『シェアクリスタル』のこと……そして、勇者のことを〕

 

「……なら、わかるだろ? この世界にもう未来はないんだ。俺が『シェアクリスタル』を奪われたせいで、俺が死ななかったせいで」

 

 そうだ。

 

 全部俺が悪いんだ。

 

 あの時、俺の決心がぶれていなければ、ゲイムギョウ界は救われているはずだったんだ。

 

 俺が死んで、『シェアクリスタル』から新しい女神が生まれていれば、ネプギア達だって今頃……

 

〔……しばらく会わなかった間に、随分とつまらないことを気にするようになったな〕

 

 ……つまらない、だと。

 

〔そんなに死にたければ、さっさと死んでしまえ。誰も止めはしない。この世界から居なくなってしまえ〕

 

 ……ふざけるなよ。

 

〔どうした? 死ぬのが怖いのか? 死んでいればよかったなどと言っているくせに、所詮口先だけの男か?〕

 

 ……ふざけるなよ!

 

〔何かの理由がないと死ねないのか? ならば、理由を与えてやる。そんな姿、見せられる方が迷惑だ。さっさと死んでくれ〕

 

「黙れ!!」

 

 俺はNギアを握りつぶす勢いで手に力を込めた。

 

 Nギアからフレームがきしむような音がしたが、それを気にしている余裕なんて俺にはなかった。

 

 お前に……

 

 お前に……!

 

「お前に何がわかる!!」

 

 俺がどんな思いで女神を救出しに行ったと思っている!

 

 俺がどんな気持ちでパープルディスクにシェアエナジーを送ろうと思ったと思っている!

 

 俺が『シェアクリスタル』を奪われてどんな思いをしていると思っている!

 

 俺が、俺が……!

 

 ネプギアを悲しませてどんな思いをしていると思っているんだ!!

 

「お前に俺の気持ちがわかってたまるか!!」

 

 いくら心を理解しようとも、やはりお前は機械だ。

 

 人間じゃない。

 

 しかも、心を神聖化しているお前にはわかるはずがない。

 

 醜い言い訳しか並べることしかができない、この俺の醜い心が……

 

 大切な人達からの信頼を裏切った、この俺の卑怯な心を……

 

 なすべきことを果たすことができなかった、この俺の弱い心を……!

 

〔黙らないし、わかるわけがないな。つまらない男になり下がったお前の言葉など、少しも響いて来ないな〕

 

「黙れ、黙れ、黙れ!!」

 

〔もう一度言う。そんな無様な姿をさらしているのならば、いっそ潔く死んでしまえ。それがこの世界のためだ〕

 

 お前に……

 

〔それともなんだ? 同情してもらいたいのか? 自分は頑張ったと、自分はこんなひどい目にあっていると?〕

 

 お前に……

 

〔自分を悲劇のヒーローだとでも思っているのか? それこそ勘違いだ〕

 

 お前に……!

 

〔今のお前は負け犬以下の存在だ。吠えることもせず、か細く泣いて同情をされようとしているだけだ〕

 

「お前に俺の後悔がわかるのか!!」

 

 俺は叫ばずにはいられなかった。

 

 ここまで言われて黙っているわけにはいかない!

 

「お前にわかるのか! 明日にはネプギア達のこともわからなくなってしまう恐怖が!!」

 

 俺の中にあった大切な記憶がなくなってしまう恐怖がわかるのか!!

 

「自分の体が内側から壊される恐怖が!!」

 

 いつ自分の中から、女神が俺の体を食い破って生まれてくるのかわからない恐怖がわかるのか!!

 

「ゲイムギョウ界を救うために死ななければならない恐怖が!!」

 

 ゲイムギョウ界が滅びてしまわないように、死ななければならない恐怖が!!

 

「機械のお前に……わかってたまるか!!」

 

 何度でも直せる機械の体や、修復可能なAIの心を持つお前に……

 

 簡単に壊れてしまう体や、失ったら元に戻らない記憶しかない人間の俺の気持ちが……

 

 わかるわけがないだろう!!

 

〔言いたいことはそれだけか?〕

 

「……なんだと?」

 

〔所詮は口先だけの言葉、痛くも痒くもない〕

 

「お前!!」

 

〔なんだ悔しいのか? 図星を指されて怒ったか?〕

 

「ふざけたことばかり言ってんじゃねえ!!」

 

〔ならばさっさと勇者などやめてしまえばよかったんだ。お前など勇者に相応しくなかったんだから〕

 

「そんなこと……言われなくてもわかってんだよ!!」

 

 そうだよ。

 

 俺が勇者に相応しくなかったからいけないんだ。

 

 他の奴が勇者をやればよかったんだ。

 

 俺よりも強い力と心を持った奴が『シェアクリスタル』に選ばれればよかったんだ。

 

 そうすれば、ネプギア達だって幸せだったんだ。

 

「でも……皆と、離れたくなかったんだよ!!」

 

 勇者じゃなくなった瞬間、俺はネプギア達と一緒にいる意味を失ってしまう。

 

 こんな弱い俺がネプギア達と一緒にいていいはずがないんだ。

 

 だから、俺は勇者であり続けた。

 

 勇者でいれば、ネプギア達と一緒にいられる。

 

 この世界でできた大切な人達と一緒にいられるはずだったんだ。

 

「……だから、俺は、最後まで勇者として……」

 

 例え、それで自分が死ぬことになっても、最後まで勇者としての役目を果たす必要があったんだ。

 

 それが『シェアクリスタル』に選ばれて、この世界にやってきた俺の役目なんだから。

 

〔自惚れるな。お前は勇者として期待されていたとでも思っているのか?〕

 

 ……なに言ってんだよ?

 

 俺は勇者だから、『シェアクリスタル』が体内にあったから、ネプギア達と一緒にいられたんだよ。

 

 それがなくなった俺に意味なんてないんだ。

 

〔魔法を失敗させてばかりのお前が、B.H.C.というクスリに頼らねば戦えなかったお前が、本当に勇者として期待されていたとでも思っているのか?〕

 

 違うって言うのかよ。

 

〔はっきり言おう。誰もお前に勇者としての期待など微塵もしていなかったはずだ〕

 

 ……ウソだ。

 

 そんなことあるわけがない。

 

「……じゃあ、何で……」

 

〔お前が女神候補生達を大切だと思うのと同じように、女神候補生達もお前のことを大切に思っていたんだ〕

 

 ……でも、俺は……

 

〔お前が離れたくないと思っていたのと同じように、女神候補生達もお前と離れたくなかったのではないのか?〕

 

 そんな、ネプギア達のことを……

 

〔それとも、お前は女神候補生達が伝説の通りにするために嫌々お前と一緒にいたと思うのか?〕

 

「そんなことあるわけないだろう!! でも!!」

 

 ギョウカイ墓場に突入する前に、俺に掛けられた言葉には皆の思いが込められていた。

 

 恐怖していた俺を心配し、励ましてくれた。

 

 皆からの気持ちが嬉しくて涙が出そうになったよ。

 

「だからこそ、許せないんじゃないか!! 俺があの時、ためらってさえいなければ、皆が生きるこの世界が救われたんだぞ!!」

 

 そんな皆が生きる世界だから救おうと思った。

 

 それが俺が最後にできる、皆からの思いへの応え方だから。

 

「それなのに、俺はレイヴィスに『シェアクリスタル』を奪われて一瞬安心してしまったんだ!! これで死ななくても済むと!!」

 

 あの時、俺が呆然としていた理由は『シェアクリスタル』を奪われたせいではない。

 

 俺は死ななくても済むと安堵していたんだ。

 

「こんなことになるなら、作戦前にパープルディスクにシェアエナジーを送り込んでおけばよかったんだ!! そうすれば、『シェアクリスタル』から新しい女神が生まれて、ネプギア達のお姉さん達だって救われていたかもしれないのに!!」

 

 全部俺が弱いせいだ。

 

 俺がネプギア達と離れたくないと思っていたからいけないんだ。

 

 死ぬ覚悟ができなかったからいけないんだ。

 

「俺が勇者の役目さえ果たしていれば……」

 

〔なんだお前は義務感で戦っていたのか?〕

 

 ……えっ?

 

〔さっきから勇者として、勇者の役目などと言って、お前が戦う理由は義務感だったのか?〕

 

 ……俺の戦う理由。

 

〔お前は勇者として嫌々戦っていたのか? しかし、私にはそうは思えなかった〕

 

 ……違う。

 

〔お前が言っていたゲイムギョウ界を救うという言葉は、勇者としてのお前の気持ちなのか? それとも、本物のお前の気持ちなのか?〕

 

 ……俺は……

 

〔命令を必ず遂行することを誇りに思っていた私だからこそ、お前の思いは本物だと感じていた。それは間違いだったのか?〕

 

 ……俺は!

 

〔お前の本当に戦ってこれた理由はなんだ? 何を思い、何を考え、戦ってきたんだ?〕

 

 ……俺が戦ってこれた理由。

 

 どんなに傷ついても、諦めずに前を向けた理由。

 

 ……そんなの決まってるじゃないか。

 

 ただ理由が欲しかっただけなんだ。

 

 ネプギア達と一緒にいられる理由が……

 

 自分では名ばかりの勇者と思いながらも、それを捨てるのは怖かった。

 

 勇者でなくなった瞬間、皆が離れていくような気がしていたんだ。

 

 そんなことあるわけないって知っていたはずなのに……

 

 勇者という言葉にすがっていたんだ。

 

 勇者でいれば、皆といられると思って……

 

 だからこそ、勇者として皆の期待に応えようと、役目を果たそうとしていた。

 

 ……違う。

 

 それは俺が自分に言い訳していた言葉だ。

 

 弱くて役立たずな自分がネプギア達と一緒にいるために造り出した理由だ。

 

 俺が本当に戦えた理由は……

 

「……俺がゲイムギョウ界を救いたかったからだ!! 大切な人達が生きるこの世界を壊したくなかったからだ!!」

 

 勇者なんて関係ない!

 

 これは、俺が決めたことだ!!

 

 あの時、俺はそう決めたんだ!!

 

〔調子が戻ってきたようだな〕

 

「ハードブレイカー、お前……」

 

〔私はお前が勇者だから、私の思いを託そうと思ったのではない。お前が、御波夢人という人間が見せた心があったからこそ、私は思いを託そうと思ったのだ〕

 

 ……俺の心。

 

 俺の心は、最初から決まっていたんだ。

 

〔お前の体は私が守ろう。だから、お前はお前の意思を貫け〕

 

「……ありがとう、ハードブレイカー。お前のおかげで、俺は大切なことを忘れずに済んだ」

 

 ……そうだ。

 

 俺が戦ってこれた本当の理由。

 

 あの言葉だけは忘れてはいけないんだ。

 

「勇者は象徴だと、大切なものが胸にある限り、勇者は勇者だと、あなたは言いましたね?」

 

 俺はただ側で、俺とハードブレイカーの話を聞いていたプラネテューヌのゲイムキャラに話しかけた。

 

〔はい、言いました〕

 

「なら、俺は最後まで勇者だ。この胸に、この思いがある限り」

 

 この思いがある限り、俺は勇者だ。

 

 『シェアクリスタル』が体内にあるかどうかなど関係ない。

 

 そう、これは俺だけの勇者の証だ。

 

〔いいのですか? 戦えば、あなたは再び記憶を失うことになってしまうのですよ? それはつまり……〕

 

「ここで戦わなければ、俺は死んでいるのと一緒です。俺は生きています。だから、戦うんです」

 

 俺は生きている。

 

 なら、俺は大切な人達を守るために戦う。

 

〔……あなたの決意、しっかりと受け取りました。私が言えることは1つだけです〕

 

 ゲイムキャラは嬉しそうに言う。

 

〔この世界をよろしくお願いします、勇者〕

 

「はい、必ずゲイムギョウ界を救います」

 

 ……もう、この決意に揺らぎはない。

 

 俺は必ずゲイムギョウ界を救う。

 

「ハードブレイカー、お前に頼みがある」

 

〔……なんだ?〕

 

 これはハードブレイカーにしか頼めない。

 

「お前に受け取って欲しいものがある」

 

〔……いいだろう。そして、1つ訂正しておく。今の私はハードブレイカーではない。今の私は……〕

 

 

*     *     *

 

 

「……箱崎様、オレが女神様達を助けに行ってきます」

 

「アナタが言ったところで、何もできないでしょうが」

 

 シュンヤは拳を握りしめ、覚悟を決めた顔でチカに言ったが、チカは額に手を当ててため息をついた。

 

「じゃあ、どうしろって言うんですか!? アイツを使えばオレだって戦えますよ!」

 

「落ちつきなよ、シュンヤ」

 

「そうだよ、シュンヤ君が1人で熱血したって変わらないって」

 

「でも!」

 

 シュンヤはエースケとカケルに言われ、悔しそうに顔を歪めて言う。

 

「じゃあ、どうやって女神様達を助けるんですか!? このまま指咥えて待ってるなんてオレはできません!」

 

「……だからって、未完成のアイツでアナタが戦えるわけないでしょ?」

 

「でも……」

 

「俺が行く」

 

 シュンヤの言葉を遮り、転送装置のある部屋に夢人が入ってきながら言った。

 

「夢人さん、何を言って……」

 

「俺がネプギア達や女神達を助けにギョウカイ墓場へ行きます」

 

 イストワ―ルは目を見開き、驚きながら夢人に尋ねるが、夢人は軽く微笑みながら応えた。

 

「でも、これ以上、あなたをこの世界の問題に関わらせるわけには……」

 

「前に言いましたよね、ミナさん」

 

 ミナが心配そうな顔で夢人を止めようとしたが、夢人はそれを遮って言う。

 

「俺が自分から飛びこんでいくんです。もう、俺にとってこの世界は関係のない世界じゃないんですから」

 

 夢人はミナの方を向いてほほ笑んだ後、ゲイムキャラ達に近づいて行く。

 

〔……何か用か?〕

 

「聞いておきたいことがあります」

 

 ラステイションのゲイムキャラは夢人が近づいてくることを不思議に思い尋ねた。

 

「俺は何故『シェアクリスタル』に選ばれたんですか?」

 

 夢人の問いにラステイションのゲイムキャラは少し悩むそぶりを見せて言う。

 

〔……ただの偶然だ。この世界と関係のない人物ならば、誰でもよかったんだ〕

 

「……そうですか」

 

「そうですかって、アナタはそれでいいの!?」

 

 夢人はただ目をつぶってラステイションのゲイムキャラの言葉を受け入れたが、チカはそんな夢人の態度が気に食わず叫んだ。

 

「いいんです。そして、感謝します」

 

「……えっ?」

 

 夢人は目を開くと、ほほ笑みながらゲイムキャラ達に言う。

 

「ただの偶然が俺にかけがえのない出会いと思いをくれました。俺は幸せです」

 

「……アナタ」

 

 チカだけでなく、ミナやイストワ―ル、ユピテルも夢人の言葉に驚愕していた。

 

 その中で1人、ケイはポケットから1つの鍵を取り出して夢人に投げた。

 

 夢人はそれを受け取ると、しっかりと握りしめてほほ笑んでケイに言う。

 

「ありがとうございます。行ってきます」

 

「……行ってらっしゃい。君達が無事に帰って来てくれるのを祈っているよ」

 

 ケイはそれが叶わない願いだとしても、言葉にせずにはいられなかった。

 

 眉根を下げたままのケイのほほ笑みを見た夢人は、そのまま振り返らず鍵の主が待つところまで行こうとする。

 

〔……待て、御波夢人〕

 

 その様子を見たラステイションのゲイムキャラは夢人を呼びとめた。

 

〔お前はなぜ戦える?〕

 

 足を止めて聞いていた夢人は振り返らず、少しだけ視線を上に向けて応える。

 

「俺がネプギア達を助けたいからです」

 

〔……死ぬことが怖くないのか?〕

 

 その言葉を聞いた夢人は少しだけ口元を緩めると、顔だけ振り返り言う。

 

「未練も後悔も恐怖も、全部持って戦います……俺は勇者です」

 

 それだけ言うと、夢人は再び歩き始め、部屋を出て行った。

 

 

*     *     *

 

 

 部屋を出て行った夢人は教会の外に置いてある鍵の主に近づいて言う。

 

「待たせたな」

 

〔……いや、そんなことはない。それよりも、本気なのだな?〕

 

 鍵の主の問いに夢人は苦笑した。

 

「ああ、本気だ」

 

〔……ならば、私は何も言わない。お前は最後までお前の思いを貫け〕

 

「当たり前だ」

 

 夢人はそう言って、鍵の主、全体が青い色で染められているバイクに鍵を差し込んだ。

 

「行くぞ、ハードブレイカー……いや、ワンダー!」

 

〔ああ、勇者……いや、夢人!〕

 

 夢人はバイク、ワンダーに乗り走り出した。

 

 アクセルを最大にして加速していくと、光の粒子が発生し、夢人とワンダーを包み込んだ。

 

〔座標特定完了……目的地、ギョウカイ墓場〕

 

「待ってろよ、ネプギア、皆!!」

 

 光の粒子が前方の空間を歪ませ、空中に穴が開いた。

 

 夢人達がその穴に向かって飛びこむと、穴は何事もなかったかのように閉じられた。

 

 

*     *     *

 

 

〔……どうやら行ったようですね〕

 

 私達が勇者を追って教会の外に出ると、そこには青いバイクに乗った勇者が次元の壁を突き抜けてギョウカイ墓場へ向かう姿が見えた。

 

〔それにしてもかっこよかったわよね。ラステイションのなんか見惚れてたし〕

 

〔な、何を言っている!? そ、そんなわけあるか!?〕

 

〔わかりやすい反応ですね〕

 

 私はその現場を見ていないけど、ラステイションのの反応を見ればすぐにわかる。

 

 ……本当に相変わらずわかりやすい反応だ、と。

 

〔大体ラステイションのはきついこと言い過ぎなのよ……まあ、それも仕方ないか〕

 

〔そうですね。ラステイションのは初代にぞっこんでしたからね〕

 

〔あ、あ、あ、アナタ達なに言ってんのよ!? 私がアイツにぞっこん!? ふざけたこと言わないで!?〕

 

 ラステイションのゲイムキャラが慌てて否定するが、その反応だとやっぱり……

 

〔あらあら、口調が戻ってますわよ?〕

 

〔そう言うアナタだってそうじゃない!〕

 

 リーンボックスのゲイムキャラがラステイションのゲイムキャラをからかっているが、その口調が先ほどまでと違う。

 

〔別にいいじゃありませんか。あのキャラをロールするのも楽しいのですが、この口調が一番しっくりするんですのよ〕

 

〔……あなたと同意見なのは癪だけど、確かにそうね〕

 

 リーンボックスのゲイムキャラに続いてルウィーのゲイムキャラも口調を変化させた。

 

 ……しかし、私にとってはこの口調の彼女達は懐かしい。

 

〔……あんなですます調で長くしゃべるのは疲れるわ〕

 

〔アナタ達は自覚が足りないのよ! もっとゲイムギョウ界の平和を維持するための存在としての自覚をね……〕

 

〔そこまでにしておきなさい。わたし達の役目はまだ終わったわけではないんだから〕

 

 ……どうやらわたしも彼女達に引きずられているらしい。

 

 先ほどと一人称が微妙に変わっている。

 

〔……そうね。私達には初代との約束があるんだから〕

 

〔なんでしたっけ? 【あの人以外の勇者なんて認めない!!】って言っていた人もいますわよね?〕

 

〔そこ、うるさいわよ!!〕

 

〔隠す必要ないじゃない。ここにいる全員が初代を慕っていたんだから〕

 

〔うっ!〕

 

 そう、わたし達は全員、初代との約束を果たすために存在している。

 

 体を捨て、自分がどんな名前で、どんな人物だったのかなんて記憶はすでにない。

 

 それでも、わたし達には共通して忘れていないことがある。

 

〔初代が言っていた未来の通りになったわね〕

 

〔できれば、あのような未来にはならないで欲しいのですけどね〕

 

〔……それはわからないわ。でも、わたし達がすることは変わらない〕

 

 ……わたし達がすることは変わらない。

 

 このゲイムギョウ界を守る。

 

 これは義務ではなく、わたし達が自分で決めたことだ。

 

 今代の勇者と同じように……

 

〔……でも、本当にあの約束は守られるのかしら?〕

 

〔あらあら、不安ですか?〕

 

〔弱気なんて珍しいわね。明日は雨かしら?〕

 

〔……あなた達は! いい加減にしなさいよ!!〕

 

 わたしが考えていると、我慢の限界に来たらしいラステイションのが2人を追いかけていた。

 

 ……まったく、変わらないわね。

 

〔ハア、ハア……覚えておきなさいよ〕

 

〔はいはい。それにしてもプラネテューヌのは口調を元に戻さないんですの?〕

 

〔……あなたのその口調はちょっと違和感があるわ〕

 

 し、失礼ね!

 

 わたしが変な口癖を言っていたことは覚えているわよ!

 

 ……でも、今はこの口調でいいのよ。

 

〔だって、あの人と初めて会った時の口調だから……今はこれでいいのよ〕

 

 初めて初代と会った時、わたしはこの口調だった。

 

 わたし達が忘れていないこと……

 

 それは初代との大切な思い出。

 

 自分の名前すら忘れてしまったわたし達だけど、彼との大切な思い出だけは忘れることなく覚えている。

 

 ……最後に交わした約束。

 

 わたし達はずっと果たされるのを待っているわ。

 

 その時は、本当のわたしであなたと話したい。

 

 ……【いつか未来で】。

 

 この言葉を胸にわたし達はゲイムギョウ界を守ってきた。

 

 そして今、あなたと似ている今代の勇者がゲイムギョウ界を救うために戦っているわ。

 

 ……あなたと同じ言葉を口にしてね。

 

 御波夢人さん。

 

 あなたに女神の加護があらんことを。




という訳で、今回はここまで!
本編読んでもらってわかるとおり、ハードブレイカーは青いバイク、マシンワンダーになりました!
これで彼もこれから書く男同士の飲み会に参加できるね!
このマシンワンダー、次回も大活躍する予定です。
それでは、 次回 「命、燃やして」 をお楽しみに!

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