超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
先に謝っておきます。
前回のラストの言葉を実は間違っていました。
黄身ではなく、白身でした。
申し訳ございません。
現在は修正をしてありますので、それを踏まえて今回の話をお楽しみください。
それでは、 こぼれ落ちる自分 はじまります
〔……あなたは今、どこまで覚えていますか?〕
……ああ、プラネテューヌのゲイムキャラは全部わかってるんだな。
「……俺が初めてゲイムギョウ界に来た時までしか思い出せない」
そう、もう俺は自分がいた世界のことを思い出せない。
両親のこと、友人のこと、どこに住んでいたか、どんな生活を送っていたのか。
ゲイムギョウ界を旅していた時に、思い出さなかったことは全部思い出せない。
〔手を出してください〕
俺はゲイムキャラの言葉通り、手を差し出した。
すると、ゲイムキャラは光る球体を造り出し、光る球体は俺の手の中に吸収されていった。
初めてゲイムキャラから力を貰った時と同じようだ。
「これは?」
〔応急処置です。これで何もしなければ、あなたはこれ以上、記憶を失うことはありません〕
……何もしなければ、か。
俺はしたくてもできない。
俺にはもう戦う力なんてないんだから……
「……聞いてもいいですか」
俺はゲイムキャラに聞いておかなければいけないことがある。
これは俺の後悔だ。
あの時、俺の決心がぶれていなければ……
「俺が『シェアクリスタル』を奪われず死んでいれば、ゲイムギョウ界は救われていましたか?」
〔……はい。あなたの中に眠っていた『シェアクリスタル』には、すでにゲイムギョウ界を救うだけの力がありました……酷な言い方ですが、あなたが死に、新しい女神が目覚めていれば、ゲイムギョウ界は崩壊を免れていました〕
「……そう……ですか……」
……全部俺のせいだ。
俺がためらったせいで、『シェアクリスタル』を奪われ、ネプギア達まで傷ついた。
そして、ゲイムギョウ界さえも危機に陥れている。
俺が勇者の役目を果たしていれば……
死んでいればよかったのに……
〔そして、もう1つ。あなたに話しておかなければいけないことがあります〕
* * *
「記憶がなくなっているってことですか?」
……理解したくなかった。
それを理解した瞬間、私達は夢人さんを助ける手段のすべてを失ってしまう。
ゲイムキャラ達が言う、卵の殻が壊れてしまう肉体的な死ならば、もう二度と戦わせず、安全な場所にいてもらえば、彼が少しでも長く生きていられる可能性があった。
でも、ラステイションのゲイムキャラの言葉は、私のその安易な考えを否定するものだった。
〔そうだ。まさか、卵に穴が開いて出てくるのが黄身だけだと思うか? 新しい女神を黄身だとすると、彼の記憶は白身だ〕
〔本来の覚醒ならば、彼はそのことを自覚することなく死ぬことができたでしょう。それが、私達にできる、せめてもの慈悲でした〕
〔でも、もうそんな慈悲も無駄になっちゃったけどね。彼はおそらく自覚してると思うわよ? その証拠が今回の敗北につながってるんだもん〕
……今、わかりました。
何で作戦の前に夢人さんがあんな無理をしていたのかを……
どこかさびしそうに笑っていたわけを……
「……彼を助ける方法はないのですか?」
〔ないわけではない。今、プラネテューヌのが彼に応急処置を施しているだろう〕
「応急措置……なんですね」
〔ええ、一時的に穴を塞ぐだけです。私達にできることは、これ以上白身が出ていかないように膜を張ることしかできません〕
……それはつまり、なにをしても夢人さんを助けることができないと言うこと。
もしも、ゲイムキャラが塞いだ穴が破ければ、夢人さんの記憶はなくなっていき、残るのは抜け殻になった夢人さんの体だけ、精神的な死が待っています。
卵の殻が壊れる肉体的な死。
抜け殻になってしまう精神的な死。
……どちらにしても、御波夢人と言う人間は死んでしまう。
〔……まあ、少しでも彼を長生きさせたかったら、これ以上戦わせないことね。私達が張る膜なんて簡単に破けちゃうんだから〕
……そうすることしかできません。
こちらの都合で死んでしまう夢人さんに私達ができることは、少しでも長く生きてもらえるように、これ以上戦わせないことしかできません。
〔これも全て今代の勇者が弱かったせいだ。さっさと彼女を目覚めさせ、役目を終えて死んでしまえばよかったものを〕
「……っ!? 夢人さんがどんな気持ちでいたのかわかっているんですか!!」
作戦前、夢人さんは自分で怖がっていたと言っていた。
当たり前です。
ゲイムギョウ界を救うためには、死ななければいけないんですから。
記憶がなくなって、周りの人が誰なのかわからなくなってしまうんですから。
……私だったら怖くなって逃げ出してしまいたいです。
自分が死ぬ運命になるなんて認めたくありません。
目の前の人物のことを急に思い出せなくなってしまうかもしれないと思うと、恐怖で誰にも会いたくなくなります。
大切な人達を忘れてしまうなら、もう大切な人達と会いたくありません。
忘れたままの方が幸せです。
無責任にも勝手にそんな運命を背負わされたことを憤り、自分にそんな運命を強いている世界を呪い、そんな世界のことなんて憎んでしまうはずです。
……でも、夢人さんは嬉しそうに笑っていたんです。
転送前に、皆さんに心配されて、励まされて、それを嬉しそうに受け止めていたんです。
何も知らずに死ぬことを強要していた私達に……
知っていたのなら憎んで欲しかった。
逃げ出して欲しかった。
勝手に勇者として期待していた私達に怒りをぶつけて欲しかった。
この世界を嫌って欲しかった。
そうすれば、私達は夢人さんが死ぬことを回避できたかもしれない。
例え、それでこの世界が崩壊したとしても、無関係であった彼を犠牲にしてまで生きていたくはない。
……この考えが甘えだってことはわかっています。
夢人さんは一度も私達の前で弱音を吐くことはありませんでした。
勇者をやめたいと、戦いたくないと言いませんでした。
この世界を救うために、どんなに傷ついても諦めず戦っていました。
……そんな彼を私は弱いだなんて思えません。
〔関係ない。結果はすべてに優先される。彼は弱かったから逃げ出し、挙句の果てには『シェアクリスタル』まで奪われてしまった〕
「ですがっ!?」
〔これを弱いと言わずになんと言う? 彼は結局勇者に相応しくなかった、ただそれだけだ〕
私は自分の視界がぼやけてきていることがわかった。
……私は、何で『シェアクリスタル』を見つけてしまったんだ。
何で勇者の伝説なんて見つけてしまったんだ。
私が『シェアクリスタル』さえ見つけなければ、夢人さんは勇者になることはなかったはずだ。
死ぬことなんてなかったはずだ。
……これは私の責任だ。
私のミスでネプテューヌさん達女神が捕まってしまったことから始まる、私の罪だ。
「……これだけは聞かせて欲しい。君達にとって勇者とはどんな存在なんだい?」
〔ただの記号だ。それ単独では何の意味のない。ただ『シェアクリスタル』から新しい女神を生みだすためだけの装置と同じだ〕
……ごめんなさい、夢人さん。
謝ることしかできない私を許して欲しいとは言いません。
私達にできることは、もうあなたをこの世界の問題に関わらせないことだけなんです。
後の問題は、全て私達が解決してみせます。
……それがせめてもの罪滅ぼしになることだと思っています。
だから、もう……
〔……横から失礼させていただく〕
……えっ?
誰ですか?
どこから声が聞こえているんですか?
「アナタ、なに通信機に勝手につないでいるのよ!?」
〔すまないな。緊急事態だと判断したもので、勝手に聞かせてもらっていた〕
チカさんが通信機を取り出して誰かと通信をしている?
〔私に勇者と、御波夢人と話をさせて欲しい〕
* * *
「……そう、ですか。でも、今更関係ないですよね。俺は結局死んでしまうんですから」
〔……そう悲観する必要はありません。あなたはよくやりました〕
……慰めはよして欲しい。
余計にむなしくなる。
自分の無力さを突き付けられているように感じてしまうだけだ。
〔元々あなたはこの世界とは関係のない人間です。今更怖くなって逃げ出したとしても誰も責めはしません。むしろ、人間として当然の反応です〕
わかってるよ、ネプギア達が俺を責めないことぐらい。
ずっと一緒に旅してきたんだ。
アイツ等が優しいことぐらいわかってるんだよ。
……それでも、俺は自分が許せない。
信じてくれていた大切な人達の期待を裏切ったんだ。
俺に勇者として期待していた人達の気持ちを裏切ったんだ。
……何より、ネプギアとの約束を守れなかった自分が1番許せないんだよ!!
何が【ごめんなさい】だ。
何が【今まで、ありがとうございました】だ。
全部俺が悪いんじゃないか!!
ネプギアは何も悪くないじゃないか!!
……もう悲しい思いをさせたくなかったのに!!
あんなこと言わせたくなかったのに!!
〔……あなたは少しあの人に似ています〕
俺に似ている?
いったい誰のことだ?
〔先代の勇者……いえ、あなたが2代目なので初代ですね。あなたはとてもよく初代に似ています〕
「……そんなこと、ないです」
初代、伝説に残っていた勇者。
伝説の通りなら、俺とは全然違う。
俺には、先のことなんてわからない。
俺には、魔法や天候なんて操れない。
俺には、光輝く武器なんて使えない。
……そして、何より女神の横になんて立てないんだ。
俺は結局ネプギア達と一緒に戦うことすらできなかった、ただの偽物の勇者だったんだ。
〔勇者とは象徴です〕
「……象徴?」
〔はい、人々の希望を集めるための象徴。勇者にとって必要なのは戦う力なんかじゃない。それよりも大事なことが胸にある限り、勇者は勇者であり続ける〕
……胸にある大事なこと。
勇者は勇者であり続ける、か。
「……初代は強かったんですね」
……羨ましい。
伝説が本当なら、初代は強い心と力を持っていたんだろう。
ゲイムキャラの言葉から、彼を慕う気持ちが伝わってくる。
きっと俺なんかとは比べものにならないくらい偉大な人物だったんだろうな。
〔ええ、何よりも心が強かったです。あなたと同じように〕
「……そんなこと……ありません」
……俺はダメだ。
これ以上、傷つきたくないって思ってしまっている。
これ以上、記憶を失いたくないって思ってしまっている。
これ以上……
戦いたくない。
そんな俺の心が強いわけがない。
もうゲイムギョウ界のことも……
ネプギア達のことも……
俺がそう考えていた時、机の上に置いてあったNギアから着信を伝える音が響いてきた。
……いったい誰なんだ?
俺のNギアに通信を入れる相手は限られている。
……教祖達? ここにいるから違う。
……リンダ? 今通信を入れる意味がない。
「……まさかっ!?」
もしかして、ネプギア達か!?
無事に全員でこっちに戻ってくると言う連絡かもしれない!
俺は慌ててNギアを手に取り、通信に応答した。
「ネプギア!!」
〔……残念だが、私はプラネテューヌの女神候補生ではない〕
Nギアから聞こえてきた声は、ありえない声だった。
その声の人物は、俺達の目の前で自爆したんだから。
……何で、お前が。
〔久しぶりだな、勇者。いや、御波夢人〕
……ハードブレイカ―。
という訳で、今回はここまで!
真面目に年内中に区切り良く終わらせられないな、これ。
だって、この章ここまでで半分ぐらいだよ?
自分が思っている以上に文量が増えて、いろいろと削ったりしているのに。
でも、ようやく説明回も終わって、次回から事態が動きだしますよ。
それでは、 次回 「消えない決意」 をお楽しみに!