超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日で11月も終わり、気が付けばもう今年は後1月しかないんですね
なんだかそう思うと少しさみしく感じちゃいますよね
さて、今回はハードブレイカー回、これにつきます!
それでは、 人間の心 はじまります



人間の心

「一緒に逃げましょう? ……マジェコンヌのいない場所まで2人で……」

 

「ユニ? 何を言ってるんだ?」

 

 夢人は思わず耳を疑った。

 

 ユニからそんな言葉が出るなんて思わなかったからだ。

 

 夢人が困惑している中、ユニは夢人の服を握る手に力を入れて言葉を続ける。

 

「アタシは本気よ……2人でマジェコンヌから逃げましょう……アタシは女神をやめるから、夢人も勇者をやめて一緒に来てほしいの」

 

「……ユニ」

 

「アタシはできそこないの女神で、夢人も勇者の力を引き出せないできそこないの勇者……そんなアタシ達が逃げても誰も責めないわ」

 

 夢人はユニが体を震わせていることと、背中を濡らす涙の冷たさに何も言えずに目を閉じてユニの言葉を待つ。

 

「夢人はもう充分頑張ったよ? だから、もうこれ以上傷つかないでいいの……元々、ここは夢人のいるべき世界じゃないんだから」

 

「……ユニ、俺は……」

 

「だから!」

 

 ユニは夢人の言葉を遮って夢人の背中から手を前に回して強く抱きしめて言う。

 

「アタシと一緒に逃げてよぉ……お願いだから……」

 

 夢人は自分を強く抱きしめるユニの手に自分の手を優しく添えながら言う。

 

「ユニ、俺は……」

 

 

*     *     *

 

 

「起きろーっ!」

 

「うおっふっ!?」

 

 夢人は寝ている時に、突然腹に強烈な衝撃を受けて苦しみながら起きだした。

 

「もう朝ごはんできてるよ! 夢人兄ちゃん!」

 

「わ、わかったから、退いてくれないかな?」

 

 夢人は自分の腹の上でとび跳ねる子どもに苦笑しながら言った。

 

「うん! それじゃ、早く来てよ!」

 

 子どもは笑いながら夢人の腹から退くと、部屋を飛び出して行った。

 

「……げ、元気だなあ」

 

 夢人は腹をさすりながら子どもが出て行ったドアを見つめてつぶやいた。

 

 やがて、着替えて最低限の身だしなみを整えてから学校の中にある食堂へと向かった。

 

「おはよう、夢人君」

 

「おはよう、ファルコム」

 

 夢人が食堂に着くと、ファルコムがエプロンをして子どもたちに食器を手渡していた。

 

 夢人は食堂を見渡してとある人物がいないことを確認するとファルコムに尋ねた。

 

「ユニは?」

 

「……また後で食べるって部屋にこもってるよ」

 

「……そっか」

 

 夢人はため息をついて天井を見上げて考える。

 

(あの夜から3日……あれからユニとは顔を合わせていない、無理もないのかな)

 

「考え事?」

 

「……まあな」

 

 夢人は心配そうに尋ねるファルコムに苦笑しながら応えた。

 

「そんなに心配なら直接会って話せばいいのに」

 

 ファルコムはため息をついて夢人を見て言う。

 

「……再会した時は、変わってないと思ったけど……夢人君、少し変わったね」

 

「俺が?」

 

「うん……あの時と比べて夢人君はかっこ悪くなってる」

 

 ファルコムは夢人に真剣な表情で言う。

 

「あの時の……ユニやフェルのことを救おうと頑張ってた夢人君に比べて、今の夢人君はすごくかっこ悪い」

 

「……あの時の」

 

 夢人はかつてラステイションでファルコム達と冒険していた時のことを思い出した。

 

(あの時はまだ火の魔法しか使えなくて、B.H.C.もなくて勇者の力も全然使えなかった……今よりも弱い俺は……!)

 

 夢人は両手で頬を思いっきり叩くと、ファルコムに笑みを浮かべて礼を言った。

 

「ありがとう、ファルコム……俺、焦り過ぎてた」

 

「うん、ちょっとはかっこいい夢人君に戻ったみたいでよかったよ」

 

 ファルコムも夢人にほほ笑みながら言った。

 

「今日はユニも連れ出して子ども達と一緒に浜辺の方に行こう……ユニにとっても、子ども達にとっても楽しい1日にしようぜ!」

 

 笑顔で言う夢人にファルコムも嬉しそうに頷いて応えた。

 

 

*     *     *

 

 

「……で、アンタは一体何してんの?」

 

「み、見ての通り……埋められてしまいました」

 

 ユニはジト目で砂浜に顔だけ出して埋められている夢人を見ながら言った。

 

 夢人は浜辺で子ども達と追いかけっこをしていた時に、子どもの1人に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。

 

 子どもたちはその隙に、夢人に大量の砂をかけ始めた。

 

 夢人もすぐに立ち上がろうとしたのだが、子ども達のかける砂が目や鼻や口に入って苦しんでいたため動けなかった。

 

 夢人が苦しんでいるうちに、体はすでに砂によって埋められていたのである。

 

「最近の子どもってアグレッシブだよな……俺、驚いちゃったよ」

 

「……まったく、バカなんだから」

 

 ユニは夢人の言葉を聞いてため息をついて夢人の顔の近くに腰をおろして海を眺める。

 

「……ねえ、どうしてアタシを連れだしたの?」

 

「俺がそうしたかったからだよ」

 

 ユニの言葉に夢人は笑いながら応えて言う。

 

「ユニがまた笑えるように……また自分を好きになれるように、俺ができることをしていこうと思ったんだよ」

 

「……無理よ」

 

 ユニは俯きながら夢人の言葉に応える。

 

「アタシはもう笑えないし、自分のことを好きにもなれないわ……それとも、あの夜の答えを変えてくれるの? そうすればきっと……」

 

「それはできない」

 

 夢人はユニの言葉を遮って言う。

 

「あの答えだけは絶対に変えない……俺のためにも、ユニのためにも」

 

「……アタシのため?」

 

 ユニは悲しそうな表情で言う。

 

「なら、なんであの答えなのよ……アタシのためを思うならアタシの望む答えを出してくれてもいいじゃない」

 

「……それが本当にお前の望む答えならばな」

 

「……アタシの本当の望み?」

 

 夢人はユニに優しく微笑みながら言う。

 

「そうだ、ユニが本当に望んでいること……逃げることがユニの本当の望みじゃないだろ?」

 

 ユニは夢人の問いに応えず、膝を抱えて顔を埋めたまま黙ってしまった。

 

 夢人はユニのその姿を見て少しだけ悲しそうな表情でユニを見たが、すぐに海へと視線を移した。

 

「うーん! 今日も空が青いし、綺麗だよな! ほら、あそこにカモメの群れ……も?」

 

 夢人はユニを元気づけようと大きな声で見える景色について話していると、おかしなものを見つけた。

 

 最初は見間違いかと思ったが、何かがこちらにすごいスピードで近づいてきていたのだ。

 

 黒い点だったものはやがて巨大な人型に見えてきて、浜辺に着陸すると、夢人達に大きな影を造りながら言う。

 

「こんなところにいたとはな……勇者、それにラステイションの女神候補生よ」

 

 巨大な人型、ブレイブ・ザ・ハードは夢人とユニを見下ろして言った。

 

「……ブレイブ・ザ・ハード!」

 

 夢人はブレイブを睨みながら砂から抜け出そうともがきだす。

 

「ひっ!?」

 

 ユニはブレイブの姿を見て、顔を青くして体を震わせ始めた。

 

「夢人君、コイツは?」

 

 ファルコムはブレイブに向けて剣を構えながら夢人に尋ねた。

 

「ブレイブ・ザ・ハード……マジェコンヌの幹部だ」

 

「……なるほど、納得の威圧感だね」

 

 ファルコムは冷や汗をかきながらブレイブを視線から外さないように夢人とユニに近づく。

 

「ユニは……無理そうだね、夢人君も早く構えて」

 

「……そうしたいんだけどさ」

 

 ファルコムの言葉を聞いて夢人は冷や汗をかきながら言う。

 

「抜け出せないんだな、これが」

 

「はあ!?」

 

「冗談じゃなくて、砂が固まっちゃってるのか……びくともしないんですけど」

 

 ファルコムは夢人の言葉を聞いて頭痛がしてきたが、剣で夢人が埋まっている砂を吹き飛ばした。

 

「はっ!」

 

「うわっ!? ……おお、動ける! ありがとう!」

 

「……どういたしまして」

 

 ファルコムが砂を吹き飛ばしてくれたおかげで、夢人は砂から抜け出した夢人は肩を回しながら笑顔でファルコムにお礼を言った。

 

 ファルコムは苦笑しながら夢人の言葉に応えると、すぐにブレイブに視線を戻して真剣な表情で尋ねた。

 

「マジェコンヌの幹部が何でこの島に? ここは子ども達が暮らす学校しかないんだけど」

 

「その子ども達に用があるのだ」

 

「……何ですって」

 

 ブレイブの言葉を聞いて、ファルコムはブレイブを睨みだす。

 

 ブレイブはファルコムから睨まれているにも関わらず、膝をついて子ども達に視線を向けて言う。

 

「君たちにこれをプレゼントするために来たのだ」

 

「……それ、何?」

 

「これはマジェコンと言って、どんなゲームでも遊べる機械だよ」

 

「お前! 何してんだよ!」

 

 夢人はブレイブが自分達を無視して、子ども達にマジェコンを渡そうとしている姿を見て叫んだ。

 

「見ての通りだ……俺は子ども達に娯楽を提供しているんだ」

 

「だからって、なんでマジェコンを渡すんだよ!」

 

 ブレイブは立ち上がって夢人達を見ながら言った。

 

「それは貴様ら女神に与する者が不甲斐ないからだ!」

 

「……聞き捨てならないね、どういう意味か教えてもらおうか」

 

 ファルコムは目を鋭くさせてブレイブを睨みながら、剣を持つ手に力を込める。

 

「ここの子ども達は理由は違えど、親がいない子ども達だ……そんな子ども達に女神が何をした?」

 

「いやっ!?」

 

 ユニはブレイブの言葉を聞いて、両耳をふさいで涙を流しながら体を縮めた。

 

「女神の支配によって親がいなくなった子ども、不幸になった子どももいるだろう……女神はそんな子ども達を犠牲にして国を治めていると本気で言っているのだぞ!」

 

「もうっ! もう言わないでっ!」

 

「女神はゲイムギョウ界を守ると言っておきながら、世界の宝である子ども達をないがしろにしているのだ!」

 

 ブレイブはユニの制止の声に耳をかさずに言葉を続ける。

 

「だからこそ、我らマジェコンヌが偽りの平和の証である女神に代わり、ゲイムギョウ界を守っているのだ!」

 

「……それ以上、言うんじゃねえよ」

 

 夢人は拳を強く握りしめてブレイブを睨みながら叫ぶ。

 

「その傲慢な口を閉じやがれ! このナルシスト野郎!」

 

「……なんだと? まだ認めぬのか、勇者よ」

 

「ああ、認めねえよ! 自分の正義に酔ってるだけのナルシスト野郎の言葉なんてな!」

 

 ブレイブが夢人を睨みながら言う。

 

「俺が自分の正義に酔ってるだけのナルシストだと……ふざけたことを言う……貴様こそ、周りから勇者ともてはやされているだけの名前だけの勇者だろう!」

 

「そうだよ! 名前だけの勇者さ! ……だからこそ、お前の言う正義を絶対に認めねえ!」

 

「夢人……」

 

 夢人とブレイブが互いに激しく睨みあっている姿をユニは目を見開いて見つめていた。

 

(どうして……どうしてそんなことを言えるの……)

 

 ユニは今の夢人の姿が信じられなかった。

 

 ブレイブの言葉はユニからしても正しく聞こえた。

 

 それを否定する夢人がおかしいとさえ思ってしまった。

 

「減らず口を……んっ?」

 

 ブレイブは視界の端にある人物を見つけた。

 

「貴様はハードブレイカーか」

 

 ハードブレイカーはブレイブが現れてから少しも動かずに立っていた。

 

「貴様もマジェコンヌの一員ならば、そこの口だけの勇者と震えている女神候補生を殺せ……これは命令だ」

 

〔……命令……絶対に遂行……〕

 

 ハードブレイカーは夢人に向けて拳を構えながら宣言する。

 

〔……勇者……女神候補生を……殺す……〕

 

「ハードブレイカー!?」

 

 ファルコムはそんなハードブレイカーの姿を信じられなかった。

 

 今までの彼はまじめで子ども達に優しかった。

 

 しかし、今の彼のカメラアイはまったく光っておらず、ただ命令を遂行するだけの機械になっていた。

 

「……いいぜ、来いよ」

 

「夢人君!? 何を言ってるの!?」

 

「ファルコムは子ども達とユニを頼む……アイツらの相手は俺がする!」

 

 ハードブレイカーは夢人達の姿を見ても、ただ機械的に夢人に近づいて右腕を振るって夢人の腹に拳を突き刺す。

 

「ぐはっ!」

 

 夢人が衝撃で浮き上がったのを見たハードブレイカーは左腕で夢人の後頭部を強打して地面に叩きつける。

 

「がっ!」

 

 ハードブレイカーはただ機械的に夢人に攻撃をし続ける。

 

 地面に倒れた夢人を掴み上げると、夢人を掴んでいない腕で何度も腹を強打する。

 

「ごふっ……」

 

 やがて、殴っている夢人から反応が消えると、ハードブレイカーは夢人を地面に投げ捨ててユニ達へと向かっていこうとする。

 

「……待てよ」

 

 ハードブレイカーが後ろを振り向くと、傷だらけになりながらも夢人が立ちあがっていた。

 

 

*     *     *

 

 

 私は所詮機械だ。

 

 命令を必ず遂行することを誇りに思っているだけの機械だ。

 

 私はブレイブ・ザ・ハード様からの命令の通りに、勇者が死ぬほどの攻撃を加えたはずだ。

 

 私の計算ではすでに勇者は立ち上がれないはずだ。

 

 そして、眠るように死ぬはずだった。

 

 ……しかし、どうだ。

 

 目の前の光景はなんだ?

 

「俺はまだ生きてるぜ……ハードブレイカー」

 

 ……なぜ立ち上がれる?

 

 勇者の体はすでに動けないはずだ。

 

 女神よりも劣る人間の体で私の攻撃を喰らい続けたのだ。

 

 すでに死んでいてもおかしくはない。

 

「……命令を遂行するのがお前の誇りなんだろ? だったら、まだ終わっちゃいないぜ」

 

 なぜ自分から死のうとしているのだ。

 

 勇者はわかっているはずだ。

 

 私に勝てないことを……

 

 だからこそ、何もせずに攻撃を喰らい続けているのではないのか?

 

 勇者はその気になれば、火の魔法で体を燃やして拘束から逃れられたはずだ。

 

 風の魔法で私を海に突き落とすことができるはずだ。

 

 氷の魔法で私の中のコンピューターを狂わせることもできるはずだ。

 

 土の魔法で私のボディを貫けたはずだ。

 

 ……なのに、なぜただ立っているだけなのだ。

 

「がっ!」

 

 私は再び右腕を勇者の頭に振り下ろした。

 

 勇者は再び地面にうつぶせにたれた。

 

 ……これでもう立ち上がれないはずだ。

 

 私は次にラステイションの女神候補生を殺すために動き出そうとした。

 

「……だから言ってんだろ?」

 

 ……ありえない。

 

 これは私の聴覚機能が狂っているせいなのだ。

 

 私の視覚機能が狂っているせいなのだ。

 

「俺はまだ生きてるぞ」

 

 ……勇者が再び立ち上がっていた。

 

 なぜだ。

 

 なぜなんだ。

 

 どうしてそんな状態で立ち上がれる。

 

 どうしてそんな状態でいながら笑っていられる?

 

 勇者は私に笑いながら言った。

 

「お前には俺が死にそうに見えるか?」

 

 ……その言葉の意図がわからん。

 

 確かに体はすでに死にかけているのかもしれない。

 

 いや、すでに死んでいてもおかしくはないだろう。

 

 ……しかし、なぜだ。

 

 なぜそんなにも強く立っていられる?

 

 傷つく前よりも強く堂々としていられるのはなぜなんだ!

 

「この姿、お前には覚えがあるはずだ……なにせ、リーンボックスで俺達を守ってくれていたお前の姿と同じだからだ」

 

 私と同じだと?

 

 確かにリーンボックスの時は、いくら傷つこうが命令を遂行するために戦い続けた。

 

 ……それが今の勇者の姿と同じだと?

 

「お前は命令だったから、なんて言ってたが……本当にそれだけなのか? お前が最後にリンダに言った言葉、あれはお前の本心だろ?」

 

 私がリンダに最後に言った言葉……

 

【……ありがとう、リンダ……君が私を使ってくれたことを誇りに思う】

 

「お前はもうわかってんだろ? ただ認めたくなかったんだ……子ども達を見てみろよ」

 

 私は私を見つめる子ども達の顔を見て驚いた。

 

 ……全員が悲しそうな目で私を見ていた。

 

 なぜだ。

 

 私は所詮、マジェコンヌの一員なんだぞ?

 

 本当はドラマの様な存在ではないのだぞ?

 

「お前は子ども達を見て感じないか? お前に対する強い気持ちを……お前のAIは何も感じていないのか?」

 

 ……っ、まただ!?

 

 またノイズが走った。

 

 なぜなんだ!?

 

 なぜ子ども達の姿を見るだけでノイズが走る!?

 

 このようなノイズを私は知らない!?

 

「お前が感じている物の正体こそ、心そのものだ……お前の知りたがっていたノイズこそ、お前の感情そのものなんだ」

 

〔……心……これが……〕

 

 私は自分の両手を見つめてつぶやいた。

 

 これが心?

 

 なぜこんなにも悲しいのだ?

 

 あの時、感じたノイズはまるで身を焼くような熱い衝動だった。

 

 ……しかし、今のノイズは違う。

 

 これではまるで、私の疑問の通りではないか。

 

 時に笑い、時に泣き、時に怒る。

 

 今は悲しい。

 

 傷だらけになりながら立つ勇者の姿が……

 

 子ども達が私に向ける視線が……

 

 私を悲しませる。

 

 ……これが人間の心。

 

 不安定でいながらも、なぜこんなにも手放したくないと思ってしまうのだ!?

 

 なぜ悲しいのに、私はこのノイズを捨てられないのだ!?

 

「ハードブレイカー……っ!?」

 

「茶番はそこまでだ」

 

 私にゆっくり近づいてきた勇者をブレイブ・ザ・ハード様が左腕で捕まえた。

 

「ぐっ! 離せ!」

 

「所詮は不良品だったか……ならば、俺がこのまま勇者を殺そう」

 

「がっ!?」

 

 ブレイブ・ザ・ハード様は勇者を握りつぶさんと強く左手を握りしめていく。

 

 ……私は不良品。

 

 そうだ、私はできそこないの機械なのだろう。

 

 ……ならば!

 

 私は!

 

 

*     *     *

 

 

「ぐっ!?」

 

「このまま握りつぶしてやる」

 

 ブレイブが左手にさらに力を入れようとした時、左腕の下からハードブレイカーが飛んできた。

 

〔ハードクラッシュ!〕

 

「ぐおっ!?」

 

「……あっ」

 

 ハードブレイカーはブレイブの左腕に右腕の強力な一撃を喰らわせた。

 

 ブレイブはその衝撃によって、捕まえていた夢人を手放してしまった。

 

 夢人は力なく宙に投げ出されて地面に激突するかと思われたが、途中でハードブレイカーに抱きしめられた。

 

「……ハードブレイカー」

 

〔礼を言おう……ありがとう、勇者〕

 

 ハードブレイカーはカメラアイを強く光らせて夢人に言う。

 

 地面に着陸したハードブレイカーにユニとファルコムが慌てて駆け寄る。

 

「夢人!?」

 

「夢人君!?」

 

 ハードブレイカーは2人に夢人を預けると、夢人達に背を向けて言う。

 

〔人間の心……その意味を私は知ることができた……だからこそ頼みがある〕

 

「なんだ?」

 

〔ゲイムギョウ界を守り切れ……ただそれだけだ〕

 

「……わかった」

 

「夢人君!? ハードブレイカーも何を言ってるの!?」

 

 ファルコムは夢人とハードブレイカーの言葉の意味がわからず困惑する。

 

〔ファルコム〕

 

「な、何?」

 

 ハードブレイカーはファルコムの方を振り向いて言った。

 

〔お前と子ども達の世話をした日々……悪くはなかった〕

 

「……ハードブレイカー」

 

 ファルコムはハードブレイカーの言葉を聞いて何も言えなかった。

 

 ハードブレイカーは一度頷いて、背中のブースターを全力で噴出させてブレイブの左肩へと突撃した。

 

〔うおおおおおおおおおっ!!〕

 

「ぐっ!? 血迷ったか!? この不良品が!?」

 

 ブレイブは右手でハードブレイカーを退かそうとするが、ハードブレイカーは構わずブレイブを海上へと押し出した。

 

〔そうだ! 私は不良品だ! しかし!〕

 

 ハードブレイカーは自身に搭載されている新型のエネルギー発生装置をフル稼働させながら言う。

 

〔私は心を理解した! 私は子ども達を! 勇者を守る!〕

 

「馬鹿め! それはプログラムのバグだ! 貴様が狂っているだけだ!」

 

 ブレイブはハードブレイカーのウイングを右手でへし折りながら言う。

 

〔プログラムのバグ……確かにそうだろう! だが、私はそれを消したくはないのだ!〕

 

 ハードブレイカーの体中から白い煙が上がりだした。

 

「……どうやら自壊寸前のようだな」

 

 ブレイブはハードブレイカーが壊れ始めていることに気付いた。

 

〔ラステイションの教祖が言っていた、私に搭載されている新型エネルギー装置の全力は私のボディでは耐えられないと……しかし、それがどうした!〕

 

 ハードブレイカーは体中から白い煙を出し、赤く溶け始めているのにもかかわらず、エネルギー装置をフル稼働させ続けた。

 

「無駄死にするつもりか? 貴様が自爆したところで、私には効かんことはわかるだろう」

 

〔普通の自爆ならばそうだろう……だが!〕

 

 ハードブレイカーは浜辺にいる夢人に向かって叫ぶ。

 

〔私を攻撃しろ!! 私を爆発させるんだ!!〕

 

「な、何を言っている!?」

 

 ハードブレイカーの言葉にブレイブは慌てた。

 

〔普通の自爆ならば確かに貴様には傷一つつけることができないだろう……しかし、エネルギー装置を臨界まで高めた爆発ならば!〕

 

「やめろ!? 本当に女神達の味方になるつもりか!?」

 

〔……拾われた命が新しい道を開くのならば、本望だ!!〕

 

 夢人はハードブレイカーの言葉を聞いて、ファルコムに涙を流しながら頼んだ。

 

「……剣をくれないか?」

 

「……うん……夢人君、お願い」

 

 ファルコムも瞳に涙を浮かべながら剣を夢人に手渡した夢人は剣を振りかぶってハードブレイカーに投げようと構えた。

 

「やめろ!? そんなことをして何になる!?」

 

 ブレイブは剣を構えた夢人の姿を見て慌てるが、ハードブレイカーを引き剥がすことができない。

 

 ハードブレイカーはすでに体を真っ赤にさせて溶けた金属がブレイブにくっついていたのだ。

 

〔……人間の心……それは機械の私が本来ならば知ることがなかったもの〕

 

 夢人は風の魔法の力も使って勢いよくハードブレイカーに剣を投げつけた。

 

〔人間だけが持つ素晴らしいもの……それを守り抜いてくれ……勇者よ〕

 

 夢人が投げた剣はハードブレイカーの体内にあるエネルギー装置を貫いた。

 

 瞬間、ハードブレイカーの体の内から強い光が漏れだした。

 

〔……ありがとう〕

 

 ハードブレイカーは最後にそれだけつぶやいて、ブレイブを巻き込んで爆発した。

 

「……礼を言うのは俺の方だ、ありがとう」

 

 夢人は涙を流しながらハードブレイカーが爆発して起きた黒い煙を見つめた。

 

「……夢人」

 

「……夢人君」

 

 ユニとファルコムはそんな夢人の様子を心配して声をかけたが、それ以上の言葉を続けることができなかった。

 

「……少々危なかったな」

 

「……えっ?」

 

 ファルコムは自分の目を疑った。

 

 ハードブレイカーが爆発して起きた黒い煙を右手で払いのけるブレイブの姿があったのだ。

 

「だが、この程度で俺は倒せん」

 

 ブレイブは左肩を損傷させていたが、まだ戦闘は可能なようで浜辺に近づき始めた。

 

「所詮狂った機械だったというわけだ……心などと言うくだらないものを信じたから……」

 

「くだらなくねえよ」

 

 夢人はブレイブの言葉を遮って、涙を流しながらブレイブを睨んで叫んだ。

 

「人間の心を……アイツが信じたものをくだらないだなんて言うんじゃねえ!!」

 

「……ならば、どうしたというのだ? 奴は結局、何も残せずに爆発しただけだ」

 

「いいや……アイツは俺に、俺達に残していった!!」

 

 夢人は右手を強く握りしめて、ブレイブに向けながら言う。

 

「お前は、絶対に俺が倒す!!」




という訳で、今回はここで打ち止め!
いやあ、昨日の感想欄で夢人君の答えを期待している声があったんですが、今回はカットせざるを得なかった
なんかハードブレイカーだけでいっぱい文字数使っちゃいましたよ
次でブレイブ編の本編はおしまいになります
夢人君がどんな戦いをするのかを楽しみにしておいてくださいね!
それでは、 次回 「譲れない思い」 をお楽しみに!

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