超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はーい、皆さんこんばんわ!
今日はいつもより遅くなってしまいましたが、何とか投稿することができました!
私関東に住んでいるんですけど、今日急に暖かくなったでしょ?
なんか眠くて仕方ないんですよね
そんな中書いたものなんでちょっと心配ですけど、重要なことは伝えられると思いますので、楽しんでいってくださいね!
それでは、 女神通信(ナナハ編) はじまります



女神通信(ナナハ編)

 ……ふわぁ~。

 

 結構、収録って遅いんだね。

 

 私の番って最後だから待ちくたびれちゃったよ。

 

 ……え? 今回はベールに拾われた所からでいいの?

 

 私、一応転生者で前世のこととかも話せるけど?

 

 ……次の収録の時にやるんだ。

 

 まあ、楽できるからいいかな。

 

 それじゃ、 女神通信 ナナハ編 始まります。

 

 

*     *     *

 

 

 私が金髪の胸が大きい人に裏路地で見つけられた後、私は教会へと連れて行かれた。

 

「お帰りなさい! ベールお姉さま!」

 

 教会の中にいた緑色の髪をした女性が金髪の人に笑顔で話しかけた。

 

 ……ベールお姉さま?

 

 私は私の手を握っている金髪の人を見上げた。

 

「そう言えば、まだ自己紹介を済ませていませんでしたよね。わたくしの名前はベール、ここリーンボックスの女神ですわ」

 

 金髪の人、ベールは柔和な笑みを浮かべて私に名前を教えてくれた。

 

 ……リーンボックス?

 

 ……女神?

 

 私にはどちらも聞き覚えがなかった。

 

 私が首をかしげてベールを見ていると緑色の人がベールに話しかけた。

 

「その子はどうしたんですか?」

 

「裏路地に居たんですわ……チカ、この子の目を見てご覧なさい」

 

 緑色の人、ベールが言うにはチカって人が私の目を覗き込んだ。

 

「なっ!? ベールお姉さま! この子の目は!?」

 

「チカもわかりましたか」

 

 チカが慌ててベールに尋ねている。

 

 私には意味がわからなかった。

 

 そんなに私の目がおかしいのだろうか?

 

「なんで女神の目をしているんですか!?」

 

 ……女神の目?

 

 そう言えば、生みの親は私の目を見て急に怯え出したような……

 

「……おそらく自然に発生したんですわ。自然発生型の女神……おそらくこの子は今の自分の状態もよくわかっていませんわ」

 

 そう言うと、眉間にしわを寄せて難しい顔をしていたベールが、私と目線を合わせるために屈んで笑みを浮かべた。

 

「あなたのお名前を教えていただけませんか?」

 

 ベールがほほ笑みながら尋ねてくるが、私は答えられない。

 

 ……名前

 

 なんだっけ?

 

 前世の名前を言えばいいのかな?

 

 それとも私を捨てた生みの親がつけた名前を言えばいいのかな?

 

 私が黙ったまま首をかしげていると、ベールが悲しげに言う。

 

「……もしかして、わかりませんの?」

 

 ……違うけど。

 

 私には実感がない。

 

 私が生きている実感が……

 

 だって、私はあの時に死んだはずだから。

 

 私が黙ったままベールを見つめていると、ベールは何かを思いついたのか両手を叩いて言う。

 

「そうですわ! わたくしがあなたに新しい名前をあげますわ!」

 

 ……私の新しい名前?

 

 私はなんでそんなことをするのか不思議に思って首をかしげた。

 

 そんな私に構わず、ベールは右手の人差し指を口に当てて悩んでいる。

 

「うーん、一体どのような名前がいいんでしょうか……」

 

 ベールが悩んでいると、横からチカが苦笑しながら言う。

 

「まずはその子をお風呂に入れてあげませんか? 女の子がいつまでも泥だらけなのはちょっと」

 

 チカの言葉を聞いたベールは立ち上がって言う。

 

「そうでしたわ! まずはこの子を綺麗にしてあげませんと!」

 

 そう言って、私はベールにお風呂場に連れて行かれた。

 

 ……ちなみに、ベールはやっぱり大きかった。

 

 

*     *     *

 

 

「女の子は身だしなみをきちんとしていないとダメですわ!」

 

 ベールはそう言うと、私を鏡の前に座らせて私の髪をブラシで丁寧に梳いていく。

 

 ……気持ちいいな。

 

 私は他人に髪を梳いてもらった経験はないけど、ベールのブラッシングはとても気持ちよく感じた。

 

「ほーら、前を向いていてくださいまし」

 

 ベールは笑顔で私にそう言う。

 

 私はベールの言葉通り、前を向いて鏡を見る。

 

「……え?」

 

 私は鏡に映る自分の姿を見て驚いてしまった。

 

「……むらさき?」

 

 ……そう、転生してからの私の目は青色だったはずだ。

 

 それが今では紫色になり、変な模様が浮かんでいた。

 

「……やっぱり、気付いていませんでしたか。そうですわ、あなたの目は私と出会った時にはすでに紫色になっていましたわ」

 

 私はベールの言葉を聞いていられるほど、冷静ではなかった。

 

 ……紫色。

 

 前世の記憶がある私には到底受け入れられない変化だった。

 

 青色だったのなら外国人にもいたから許容できた。

 

 ……でも。

 

「い、いや……」

 

 私は無意識に体を両手で強く抱いていた。

 

 体中が震える。

 

 怖い。

 

 鏡の前の自分が怖い。

 

 昨日までの自分じゃなくなった自分が怖い。

 

「いや、いや、いやあああああああああ!!」

 

 私は大きな声をあげて叫んだ。

 

 そうしなければ自分がなくなってしまうのではないかと思ったからだ。

 

「お、落ち着いてくださいまし!?」

 

 ベールが私の様子に慌てて押さえようとするが、私は暴れた。

 

「いや! いや! いやなの!?」

 

 私は涙を流しながら暴れた。

 

 ……この目のせいだ。

 

 私は理解した。

 

 私の目を見て怯えた両親。

 

 きっと、私が怖かったんだ。

 

 この目は私からすべてを奪う悪魔の目なんだ。

 

 ……そう、まるで世界から私を弾き飛ばそうとするように。

 

「仕方ありませんわ!」

 

 一瞬、部屋中がまぶしく光出した。

 

「落ち着いてくださいまし……そして、わたくしのことをよく見て」

 

 私はベールの声がさっきと違うことに気付いた。

 

 私に触れていた手の力もさっきよりも強い。

 

 私はベールの言葉に従ってベールを見上げた。

 

 ……しかし、そこにいたのは私の知っているベールじゃなかった。

 

 白いレオタードのような服を着た緑色の髪の女性。

 

 そして何より……

 

「……わたしとおなじ?」

 

 そう、私と同じ紫色の目をした女性がいた。

 

 私は口を開いたまま緑色の髪の女性を見上げた。

 

「あなたのその目はわたくしと同じ……女神の目ですわ」

 

 ……同じ?

 

 女神の目?

 

「改めて自己紹介しますわ」

 

 緑色の髪の女性が私にほほ笑みながら言う。

 

「わたくしはベール、リーンボックスの女神であり、女神グリーンハートと呼ばれていますわ」

 

 ……女神グリーンハート。

 

 確かに、彼女からは先ほどまでとは違う感じを受けた。

 

 上手く言葉は見つけられないが、女神と言われると納得してしまう雰囲気があった。

 

「あなたも私と同じなんですよ」

 

 グリーンハートが私の顔を優しくなでながら優しく笑みを浮かべた。

 

「よければ、わたくしの妹になりませんか?」

 

 ……その顔には優しさがあふれていたように感じた。

 

 気付けば私は頷いていた。

 

 ……これが私の新しい始まり。

 

 女神候補生としての日々の始まりだった。

 

 

*     *     *

 

 

「やっぱり、名前は教えてくれませんか?」

 

 元の姿に戻ったベールが困ったように笑いながら私に尋ねてきた。

 

 ……名前。

 

 私には特に思い入れがない。

 

 前世も生みの親がつけた名前も。

 

 私はベールを指さして言った。

 

「……あなたが決めて」

 

 私がそう言うと、ベールは驚いた表情をして尋ねてきた。

 

「わたくしが、ですか?」

 

 私はただ頷いて応えた。

 

 すると、ベールは急にオロオロして部屋の周りを見渡す。

 

「そ、そんな、ど、ど、どうしましょうか?」

 

 ……そんな姿が少し可愛く見えた。

 

 お姉さんって雰囲気のベールがそう言う行動を取るとは思っていなかったので、私は少しだけ唇の端が上がった気がした。

 

「さ、先ほどはああ言いましたが、急にそう言うとなると……!」

 

 オロオロしていたベールが部屋の端に何かを見つけたようだ。

 

「そうですわ! ちょっと待っていてくださいまし」

 

 ベールはそう言うと、部屋の端にある物を取りに行った。

 

「確かこの辺に……ありましたわ!」

 

 ベールが向かった場所には本棚があり、ベールはその1冊を手にとってあるページからしおりを取りだした。

 

「うん、だとしたら……決めましたわ!」

 

 ベールが勢いよく本を閉じると、本を戻して笑顔で私に近づいてきた。

 

「あなたの新しい名前が決まりましたわ。あなたは今日から『ナナハ』ですわ」

 

 ……ナナハ。

 

 それが私の新しい名前。

 

「これを見てください」

 

 ベールはそう言うと、私に先ほど本から取り出したしおりを見せた。

 

 それは手作りのしおりであった。

 

「……クローバー」

 

 しおりの中央には四つ葉のクローバーが押し花のようにされていた。

 

「そうですわ」

 

 ベールが私を抱き寄せて髪をなでながら言う。

 

「四つ葉のクローバーは幸せを、幸福をもたらすと言われていますわ」

 

 ……知ってる。

 

 四つ葉のクローバーが貴重なものだから、それを見つけると幸せが訪れると言われていた。

 

 ……でも、どうして7なのだろう?

 

 四つ葉ならヨツバになるのではないのだろうか?

 

「クローバーは他に三つ葉のものがありますわ」

 

 ベールの言いたいことがわからなかった。

 

 私はベールを見上げる。

 

 ベールは優しく微笑みながら言う。

 

「2つを合わせれば7になりますわ……7はとても縁起のいい数字ですわ」

 

 ベールはそう言うと、私の頭を自分の肩に押し付けて言う。

 

「あなたにいっぱい幸せが訪れるように……7つの葉のクローバー、つまりナナハという名前を送りますわ」

 

 ……幸せ。

 

 私が受け取っていいのだろうか

 

 私は妹になったとしてもベールにとっては他人なのに……

 

「気にいってくれませんか?」

 

 ベールが心配そうに聞いてきた。

 

 ……手が震えている。

 

 きっとベールは怖がってる。

 

 私はベールに強く抱きついた。

 

 抱きつかれたことでベールの体が一瞬、大きく跳ねた。

 

「わたしのなまえは、ナナハ」

 

「……!? そうですわ、これからよろしくお願いしますね、ナナハ」

 

 ベールは私の言葉に驚いたようだが、強く私を抱きしめ返してくれた。

 

 

*     *     *

 

 

 それから私はナナハとして教会で暮らすようになった。

 

「さあ、ナナハ! お姉ちゃんと一緒に出かけませんか?」

 

 ……ベールが私の部屋に笑顔でやって来て言った。

 

「……出かけるの?」

 

 私はベールに首をかしげながら尋ねる。

 

 ベールは頷いて言う。

 

「そうですわ! あなたに見せたいものがありますの!」

 

 そう言うと、ベールは私の手を引いて部屋から連れ出した。

 

 ……強引だなあ。

 

 私はベールに引っ張られながらそう考えた。

 

 ベールは何が嬉しいのか、鼻歌を歌いながら歩いていく。

 

「……なんで嬉しそうなの?」

 

 私は何でベールがそんなに嬉しそうなのかわからなかった。

 

「当然ですわ!」

 

 ベールは私に振り返ると、笑顔で言う。

 

「わたくしにも遂に妹ができたんですわ! これが嬉しくなくて何が嬉しいと言うんですの!」

 

 ……私がいることが嬉しいの?

 

 私はベールの気持ちがわからなかった。

 

 どうして他人の私を妹として受け入れているのだろう。

 

 私があの時に頷いたから?

 

 それとも女神の力を持っていたから?

 

 ……どちらにせよ関係ない。

 

 きっとベールは妹という『特別』な存在が欲しかったんだろう。

 

 きっと私ではなくてもその『特別』はいるだろうに……

 

 他人の私にはきっと理解できないことなんだろう。

 

 私はベールに引っ張られながらそう考えていた。

 

 ……私は誰にも必要とされない。

 

 きっとベールも私の中にある女神の力とやらを見て妹という『特別』を与えているのだろう。

 

 そこに私はいない。

 

 ……そう、きっとこの世界に私は存在しないんだから。

 

 

*     *     *

 

 

 私はベールのおかげで女神の力を扱えるようになった。

 

 最初の頃は、急に髪の色が変化して驚いたが、今では元の姿に戻ることも簡単にできるようになった。

 

 私の目も紫色から青色に戻った。

 

 ……こんなものなのか。

 

 私は少し呆気なく感じた。

 

 女神という私の知らない力だ。

 

 もっと苦労すると思った。

 

 しかし、時間にすれば2週間程度で私は女神の力を自由に扱えるようになった。

 

「すごいですわ!」

 

 私が女神の力を使えるようになったことをベールは自分のことのように喜んでくれた。

 

 ……どうしてそんなに嬉しそうなの?

 

 こんな簡単なことなのに。

 

 私は素直にそう思った。

 

「あなたは天才ですわ、ナナハ」

 

 ベールが私を抱き寄せてそう囁いた。

 

 ……天才か。

 

 また私に『特別』が増えたんだ。

 

「あなたはわたくしの自慢の妹ですわ」

 

 ……自慢の妹。

 

 『特別』があるから自慢の妹なのかな?

 

 ……私が『特別』でなければ捨てられなかったのかな?

 

 だったら

 

 ……私は普通の女の子でいたかったよ。

 

 

*     *     *

 

 

 3年前、ベールが犯罪組織マジェコンヌにやられたと言う情報が入った。

 

 あの時、ベールは私が女神の力を使えるのに、私を置いて行った。

 

「わたくしはあなたのいるこの世界を守るために戦ってきます」

 

 私を抱きしめながらベールは優しく囁く。

 

「だから、ナナハはここにいてください」

 

 私は不思議に思った。

 

 確かプラネテューヌの女神候補生がベール達と一緒に行くはずだ。

 

 なのに、なぜ私は連れて行かないのだろうか?

 

「……行かなくていいの?」

 

 私はベールに尋ねた。

 

 私が尋ねると、ベールははにかんだように笑みを浮かべた。

 

「妹を守るのは姉の役目……あなたは安心してわたくしの帰りを待っていてください」

 

 ……私には理解できなかった。

 

 私には力がある。

 

 少なくともベール達の足手まといにならないくらいには。

 

 それを妹という理由で私を置いて行くベールの気持ちが……

 

 私には理解できなかった。

 

 どうせ他人なのだ。

 

 使いつぶせばいいだろうに……

 

 私は歩いて行くベールの後姿を見てそう思った。

 

 ……それが最後に私がベールとかわした言葉だった。

 

 それからというもの、チカが毎日のように言っていた。

 

「ベールお姉さま……」

 

 チカはベールのことを本当の姉の様に慕っていた。

 

 他人なのに本当の姉の様に慕うチカの気持ちもわからなかった。

 

 それに、チカは毎日私に言う。

 

「ナナハ、あなたもベールお姉さまの妹で女神候補生なのよ! その自覚を持ちなさい!」

 

 チカはそう言って、私にベールの仕事をさせようとしてくる。

 

 ……私は好きでベールの妹になったわけではない。

 

 私がただ『特別』だったから、ベールが妹にしただけだ。

 

 ただそれだけの他人なのだ。

 

「やだ」

 

 私はそう言って教会から出ていこうとした。

 

「待ちなさい! あなたはベールお姉さまが心配じゃないの!?」

 

 私の腕をつかんだチカが瞳に涙を浮かべながら私に言う

 

 ……心配?

 

「別に」

 

 私はチカの手を振りほどいて教会から出ていった。

 

「ナナハ!?」

 

 後ろからチカが私を呼ぶ声が聞こえる。

 

 でも、私は振り返らない。

 

 ……そうだ。

 

 ベールは私より『特別』な存在だ。

 

 私の様に偶然女神の力を手に入れたわけではない。

 

 今までも女神としての仕事をこなしてきた。

 

 ……そんな私より『特別』なベールを劣っている私が心配してどうする?

 

 どうせ他人なのだ。

 

 チカもどうせ私の中の『特別』を私だと思っている。

 

 ……そこに私はいないのに。

 

 私はどこ?

 

 本当の私は誰なの?

 

 ……そんな『特別』なんていらなかったよ。

 

 

*     *     *

 

 

 チカからの小言から逃げた私はいつも決まって行く場所がある。

 

 リーンボックス特命課事務所。

 

 あそこにはケイブがいる。

 

 ケイブは私に何も言わない。

 

 チカの様にうるさく女神の仕事をしろだなんて言わない。

 

 ……ただちょっとモンスターを倒す手伝いをすればいいだけなので楽ができる。

 

 ケイブ自身も私に近づいてこない。

 

 ただ離れた位置から私を見ている。

 

 私はその距離感に安心する。

 

 ……近づきすぎるのは怖い。

 

 私を『特別』な存在としてみられるのが怖い。

 

 実際はケイブも私を天才と思っているだろう。

 

 だから、私に何も言わない。

 

 ……私は1人ぼっちだな。

 

 女神という『特別』。

 

 天才という『特別』。

 

 私にある『特別』は私を1人にする。

 

 私はただ普通に生きていたかったのに……

 

 『特別』はそれを許してくれない。

 

 私にいつも言ってくる。

 

 お前は『特別』なんだと……

 

 お前は他人とは違うと……

 

 ……いやだ。

 

 いやだよ!

 

 私は『特別』になりたくない!

 

 ベールが新しくくれた名前でさえ私に『特別』を強制してくる。

 

 女神候補生のナナハ。

 

 なんで!?

 

 どうしてなの!?

 

 私は新しくなることすらできないの!?

 

 ……私は絶望した。

 

 私はきっとこれからもずっと『特別』なんだ。

 

 ……ねえ、私は誰なの?

 

 『特別』じゃない私は……

 

 いらないの……

 

 こんな私は……

 

 消えなきゃいけないの……

 

 

*     *     *

 

 

 その日、私が事務所に行くと不気味な連中がいた。

 

 何故ならその中の1人、夢人が女装していたからだ。

 

 ……正直、ありえなかった。

 

 あんな女装で女だと言ってること。

 

 あんな女装すら見抜けないケイブも。

 

 私はそんな連中と関わり合いたくなかったので、無視してソファーで眠り始めた。

 

 ……起きてみれば、私は事務所にいなかった。

 

 ここは、ガペイン草原?

 

 何度かモンスター退治をしているダンジョンに居ることに気付いた私は目の前の光景に驚いた。

 

「痛!? やめ!? やめてくれ!?」

 

 ……モンスターに袋叩きにあっている夢人がいた。

 

 ありえなかった。

 

 夢人の木刀はモンスターにかすりもしない。

 

 魔法を使おうとするが、なぜか失敗している。

 

 ……なんで戦ってるんだろう。

 

 私は寝たふりをしながら夢人を観察した。

 

 私から見た感じ、夢人は戦いに向いていない。

 

 ……自殺行為に思えた。

 

 自分からモンスターに向かって行ってはやられる。

 

 たまにモンスターを倒せたと思えば、今度は数の暴力の前になすすべもなく袋叩きにあう。

 

 ……笑いよりも呆れがまさるとはこのことだな。

 

 私は夢人の姿を呆れながら見ていた。

 

 ……あんなことしなければいいのに。

 

 夢人は普通だ。

 

 ……むしろ、それ以下だ。

 

 そんな人がモンスター退治なんてしなければいいのに。

 

 私の様に『特別』を持っていないんだから……

 

 夢人が私を庇ったことでさらに私の疑問は増えた。

 

 ……どうして他人のために傷つくことができるの?

 

 私にほほ笑む夢人が不気味だった。

 

 なんで笑ってられるの?

 

 きっと痛いはずなのに……

 

 私はケイブに治療されている夢人を見ながらそう思う。

 

 ……でも、関係ないか。

 

 私はそう思い、夢人から視線を外して街へと帰ろうとした。

 

「……おい、待てよ」

 

 そんな私を止める人がいた。

 

 夢人と一緒にいた緑髪の女、リンダだ。

 

「なに?」

 

 私にはリンダが私を止めた理由がわからなかった。

 

「何だじゃねぇよ、テメェの不注意のせいでアイツが怪我したんだぞ? 言うことがあるんじゃねぇのか?」

 

 ……今にして思えば、リンダって結構お人よしだよね。

 

 敵である夢人に対してこんなこと言えるんだから。

 

 でも、この時の私はリンダの言葉を理解できなかった。

 

「……言うこと? 別にないでしょ?」

 

 ……そう、他人を庇うのがいけないんだ。

 

 人は誰も自分のことしか守れないんだから。

 

 ベールも『特別』でいながらゲイムギョウ界の人達を守るためにやられてしまった。

 

 ……だったら

 

 自分すら守れていない私は誰も守れないな……

 

 そんな私より劣る夢人が私を庇う?

 

 ……ありえない。

 

 ただの自己満足の行動だろう。

 

「だって、そこの人が怪我したのはそこの人が勝手に私を助けようとしたからでしょ? だったら、なにも言う必要ないでしょ」

 

 ……私は夢人の優しさを否定した。

 

 今にして思えば本当に恥ずかしいし、夢人に謝りたくなる。

 

 ……でも無理なんだ。

 

 『特別』を否定している私は夢人を認められない。

 

 だって、認めてしまうと……

 

 ……『特別』な私もいなくなってしまう。

 

 怖い。

 

 私を誰も必要としなくなる。

 

 また捨てられてしまうかもしれない。

 

 ……いやだ。

 

 もうあんな思いはしたくない!

 

 『特別』な私が必要ならそれでいい。

 

 だから……

 

 もう……私を1人にしないでよぉ……

 

 私は消えるから。

 

 『特別』な私でいるから。

 

 ……私を捨てないで。

 

 

*     *     *

 

 

 夜、私が教会を抜けだして街を歩いていると、夢人とケイブが歩いているのが見えた。

 

 ……どこに行くのかな?

 

 私は気になったので隠れながらついて行った。

 

 風の魔法、私が得意な魔法だ。

 

 私は自分の周りに風を纏うことで自分の姿を見えなくすることができる。

 

 私は自分の姿を消しながら夢人達の後をついて行った。

 

 ……そして、私は呆れた。

 

 夢人はケイブと戦闘の訓練していた。

 

 夢人はケイブの攻撃を防ぎきれずに何度もやられた。

 

 ……やらなければいいのに。

 

 夢人には無理だ。

 

 夢人は普通だ。

 

 いや、それ以下だ。

 

 私は呆れてみていたが、やがて怒りがわいてきた。

 

 無駄なことを繰り返す夢人に。

 

 ……どうして無駄なことを繰り返すんだ。

 

 夢人が一番わかっているはずだ。

 

 自分が強くなれないことに。

 

 それでも何度も立ち上がる夢人を見て私は苛立ってきた。

 

 ……あ、ケイブが私に気付いた。

 

 ケイブは私の魔法を見たことがあるので気付けたのだろう。

 

 ケイブが1人だけ街へと帰っていく。

 

 夢人がその背中を見ながらつぶやく。

 

「……絶対に強くなる」

 

 ……こいつは!

 

「バッカじゃないの?」

 

 気がつけば、私は魔法を解いて夢人に言っていた。

 

 夢人は私がいることに驚いていたようだが、関係ない。

 

 怒りの感情は止まらない。

 

 だったら、夢人の事情など関係ない。

 

「人にはね、絶対に乗り越えられない壁があるんだよ……どんなに頑張ったって、絶対に……ね」

 

 ……そう、人には壁がある。

 

 私に『特別』という壁があるように。

 

 夢人にも壁がある。

 

 私が乗り越えられない壁を夢人が乗り越える?

 

 ……無理に決まってる。

 

「……わかんないだろ、そんなこと」

 

 ……まだ言うのか!!

 

 私は無駄な努力を続けると言う夢人の言葉を聞きたくなかった。

 

「現実見なよ。アンタは何やっても凡人以下を抜けられないんだよ……それがアンタの運命で、絶対に超えられない壁」

 

 ……夢人の言うような夢物語など存在しない。

 

 そんな甘い現実なんて存在しないんだ!

 

 誰もが夢見れば叶うようなおとぎ話など現実にはないんだ!

 

 だから私は『特別』でいなければいけない!

 

 ……そうしないと、私がいなくなってしまうから。

 

 ……ねえ、教えてよ。

 

 本当の私はどっちなの?

 

 『特別』を望む私?

 

 『特別』を否定する私?

 

 ……どっちが本物なの?

 

 私にはもうわからないよぉ……

 

 

*     *     *

 

 

 普通の女の子。

 

 夢人が私に向かって言った言葉だ。

 

 ……嬉しくなかったと言えば嘘になるだろう。

 

 ずっと望んでいたはずの言葉だ。

 

 ……羨ましかったんだ。

 

 夢人にもリンダにも嫉妬してた。

 

 キラキラと輝いている生き方に。

 

 私が『特別』でなければ輝けたのかな?

 

 ……違う。

 

 夢人が岩を壊した時に言っていた。

 

 運命は自分の手で切り開ける。

 

 諦めていたんだ。

 

 自分はどうせ他人とは違うからって。

 

 『特別』な自分の運命を受け入れていたんだ。

 

 ……そうなんだ。

 

 自分の手で変えられるんだ。

 

 私の『特別』も変えられるんだ。

 

 夢人が私の考えを壊してくれた。

 

 絶対に崩せない壁を崩す力強い輝きを見せつけてくれた。

 

 ……だったら次は私の番だ。

 

 私の『特別』で私は輝いて見せる!

 

 ……受け入れるだけじゃない。

 

 ……否定するだけでもない。

 

 『特別』な私だからこそできる運命の切り開き方!

 

 キラキラと輝いて見せる!

 

 誰にも負けない輝きを見せつけてやる!

 

 ……それが私の欲しかったもの。

 

 自分だけの誇れる『特別』。

 

 他人が認める『特別』じゃない。

 

 私だけが持っている『特別』を見せつけるんだ!

 

 ……夢人にはどう見えたかな?

 

 私の『特別』な姿。

 

 キラキラと輝けたかな?

 

 …私は夢人には認めて欲しいと思った。

 

 だって、私の『特別』に気付かせてくれた『特別』な人だから。

 

 

*     *     *

 

 

 ……こんなところかな?

 

 こう考えると、私って結構いやな子だったんだね。

 

 夢人の優しさを否定して傷つけてたんだ。

 

 ……夢人が謝る必要はないよ。

 

 むしろ、私が言うよ、ごめんなさい。

 

 そして、私の『特別』に気付かせてくれて、ありがとう。

 

 ……私の中の『特別』はまだまだ小さい輝きだけどさ。

 

 きっといつか夢人が見せた力強い輝きに負けないくらいに輝いて見せるよ。

 

 だからその時は、もっと私を見てほしいな。

 

 きっと夢人の側でなら、誰よりも負けない輝きになるから。

 

 

 …………

 

 

 ……撮影は終わったの?

 

 今回で女神通信って確か最終回じゃなかったっけ?

 

 ……え? 続編の予定もあるの?

 

 スタッフが変わるんだ。

 

 誰になるんだろう?

 

 私達が話すことには変わりはないんだよね?

 

 ……だったら、今日はこれから一緒に打ちあげしない?

 

 一応、この番組の完結を祝ってさ。

 

 ……ネプギア達も呼ぶの?

 

 ……別にすねてないよ。

 

 そうだよね、夢人はそう言う人だから。

 

 でもね、覚えておいてよ。

 

 ……女の子が男の子を誘う時はいつだって真剣なんだよ?

 

 覚悟しておいてね。

 

 財布の中身を全部なくすくらい食べるから。

 

 ……ウソだよ。

 

 さすがにそんなには食べれないし。

 

 私が言うのもおかしいかもしれないけどさ。

 

 ……まだまだ小さな輝きの私達だけど。

 

 これからもよろしくね、夢人。




という訳で、今回はここで打ち止め!
というより、ナナハちゃんは前世も絡めないと説明できないところもあるので、夢人君がもっとナナハちゃんと親密にならないと書けない部分が多かったんですよ
女神通信って最終的に夢人君に対して女神候補生達が信頼を寄せるようになったというのを表現できればよかったんですよね
ですから、女神通信は今回で終わりです
…でも、安心してください!
これからは信頼でなく、恋愛しての感情を向けるようになった女神候補生達の心情を書く番外編を予定しております!
…これのせいで本編の進みが遅くなってしまうのですが、私これ書いてて楽しいっていうのもあるんですよね
やっぱり、1人ずつの視点の話って結構面白いんですよ、読むのも、書くのも
それで、次回なんですが、リーンボックス編でネプギア達が何をやっていたのかの話になります
今回はコンパちゃんにお願いしたいと思っているのですが、口調がまた難しい!
でも、本編だと目立った活躍を見せることができなかった彼女ですので、いろいろと頑張って書いていきますね!
それでは、 次回 「看護日誌(リーンボックス編)」 をお楽しみに!

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