超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、本日も皆様こんばんわ!
今回はラステイション編のユニ視点でのお話となります
でも、ラステイション編って長いからところどころ飛ばしてますよ?
…まあ、それを補うためにケイとの会話やネプギアとの会話を入れたのでお楽しみに!
それではさっそく、
女神通信(ユニ編) はじまります


女神通信(ユニ編)

 まったく、なんだってアタシがこんなことしなくちゃいけないのよ。

 

 こんな面倒なことは全部ネプギアに任せちゃえばいいのに……

 

 え? ネプギアよりもアタシの方がいいから?

 

 ふ、ふーん、そこまで言うならいいわよ。

 

 その代わり、アンタもしっかりと仕事しなさいよ!

 

 それでは 女神通信 ユニ編 、始めるわ

 

 

*     *     *

 

 

 アタシのお姉ちゃん、女神ブラックハートはアタシの憧れだ。

 

 お姉ちゃんはアタシができないことも簡単にしてしまう。

 

 アタシがいくら頑張ってもお姉ちゃんを超えることはできないのではないかと思うくらいである。

 

 別にアタシはそれをひがんだりはしていないわ。

 

 それどころか、そんな何でもできる天才の姉がいることを誇りに思っている。

 

 お姉ちゃんは女神の中でもきっと一番に違いない。

 

 だって、アタシが誰よりも近くで見ていたんだ。

 

 間違いない。

 

 だからこそ、信じられなかった。

 

 3年前、女神が、お姉ちゃんが負けたことが……

 

 

*     *     *

 

 

 3年前、アタシはケイから女神がマジェコンヌに負けたことを聞いた。

 

「ウソでしょ? ……お姉ちゃんが……負けた……」

 

 アタシはその知らせを聞いて立っていられない程の衝撃を受けた。

 

 近くの机に手をつかなければきっと倒れていた。

 

「……そうだ、ノワール達女神は負けたんだ」

 

 この時のアタシは自分のことで精一杯であったが、ケイの声はきっと震えていた。

 

 アタシと同じで信じられなかったんだと思う。

 

 ケイもアタシと一緒でお姉ちゃんとずっと居たんだから。

 

「ノワール達が今現在どうなっているかはわからないが、最近マジェコンヌのシェアが急速に高まっているということは……」

 

「いやだ! ……聞きたくない!」

 

 アタシは自分の耳を手でふさいで床にへたり込んだ。

 

 それでもケイは言葉を続けた。

 

「……ノワール達が負けてしまったという証拠なんだ」

 

 アタシは聞きたくなかった。

 

 お姉ちゃんが……

 

 何でもできるお姉ちゃんが、負けた?

 

 そんなわけない。

 

 きっと何か理由があるんだ。

 

 そうだ。

 

 きっと誰かがお姉ちゃんの足を引っ張ったんだ。

 

 そうでなければお姉ちゃんが負けるはずがない!

 

「ゲイムギョウ界全体も4人の女神と1人の女神候補生を失ってしまい、非常に危うい状況になってしまった」

 

 1人の女神候補生?

 

「……アタシと同じ女神候補生がついていったの?」

 

 アタシの質問が意外だったのか、ケイは驚いた顔で答えた。

 

「聞いていなかったのかい? プラネテューヌの女神候補生が女神と一緒に行動していたんだよ」

 

 アタシじゃなく、他の女神候補生が……

 

 女神についていくことを許されたってことなの?

 

 つまり、そいつはお姉ちゃんに認められたの?

 

 お姉ちゃんはアタシじゃなくてそいつを!

 

 アタシは先ほどまで悲しんでいたことなど忘れたかのように怒りがわいてきた。

 

 許さない……

 

 絶対に許さない!

 

 その女神候補生のせいでお姉ちゃんがやられてしまったに違いない!

 

 アタシだったら……

 

 アタシが『変身』さえできれば!

 

 アタシはこの時、まだ『変身』することはできなかった。

 

 だからこそ、お姉ちゃんはアタシに頼まなかったのだ。

 

 アタシが『変身』できていればきっと……

 

 きっとアタシを選んでいたはずだ!

 

 『変身』できるだけの女神候補生が!

 

 アタシからお姉ちゃんを奪ったんだ!

 

 絶対に許さない!

 

 

*     *     *

 

 

 お姉ちゃんがやられてからの3年間は大変であった。

 

 ラステイション中でマジェコンが普及し始めたり、モンスターが街を襲うなど当たり前であった。

 

 加えて、アタシが『変身』して女神の力が使えないと国民が知ると、さらにラステイションのシェアが低下していった。

 

 どうして!?

 

 どうしてアタシがこんなに頑張っているのに!

 

 何で誰も認めてくれないの!?

 

 アタシは毎日モンスターを退治したり、ケイからの指示でマジェコンをラステイション内で販売している組織を壊滅させたりもした。

 

 お姉ちゃんに比べて未熟なアタシはいつも怪我を造り、時にはモンスターやられることや組織に捕まったこともあった。

 

 悔しい……

 

 アタシに力があれば……

 

 力さえあれば!

 

 アタシの思いが通じたのか。

 

 アタシはついに『変身』をすることに成功した。

 

 これで……

 

 これでやっとお姉ちゃんを助けることができる!

 

 アタシはブラックハートの妹なのだ!

 

 そんなアタシが強くないわけがない!

 

「……やった……やったわ! ついに、ついにアタシも力を! お姉ちゃんと同じ力が!」

 

 初めて『変身』した時、確かにアタシは笑っていただろう。

 

 力を振るえる喜びに……

 

 きっとアタシの顔は女神ではなく、悪魔の笑顔であったはずだ。

 

 

*     *     *

 

 

 アタシが『変身』できるようになってからしばらくして、アタシはケイにあることを提案した。

 

「……正気なのかい?」

 

 ケイはアタシの提案が信じられないと言った顔で尋ねた。

 

 何でそんな顔をするのだろう?

 

 アタシには力があるんだ。

 

 お姉ちゃんが居なくなる前には無かった力が。

 

 だからこそ……

 

「……おかしいことかしら? ギョウカイ墓場に居るマジェコンヌの奴らを倒しに行くことが……」

 

 ギョウカイ墓場に居るマジェコンヌの打倒。

 

 別におかしくはない。

 

 お姉ちゃん達だってマジェコンヌを倒すためにギョウカイ墓場へ行ったのだから。

 

 『変身』できるようになった今のアタシが……

 

 力を得たアタシが行くことに何の不満があると言うのだ。

 

「……許可できないよ」

 

 ケイはアタシが本気だと知ると、アタシに背を向けてその場を去ろうとした。

 

 何で!?

 

「どうしてよ!? なんでダメなのよ!?」

 

 アタシは信じられなかった。

 

 ケイは感情で行動をすることはない。

 

 しかし、お姉ちゃんのことなら話は別だ。

 

 きっと心の中では心配しているはずだ。

 

 ずっと一緒に居たんだからそれぐらいはわかる。

 

 だからこそ、力を得たアタシがお姉ちゃんを助けるついでに他の女神と候補生を助けてマジェコンヌを倒してこようと思ったのだ。

 

 それがどうしていけないのだ!

 

「ケイだってお姉ちゃんのことが心配なんでしょ!? ……もしかしてケイはお姉ちゃんが死んだと思っているの!?」

 

 アタシはケイを睨んだ。

 

 例え、ケイであってもそれだけは許せない!

 

 お姉ちゃんが死んでいるはずがない!

 

 きっと生きているに違いない!

 

 だって、アタシのお姉ちゃんなんだから!

 

 ケイは睨んでいるアタシを悲しそうに見つめた。

 

 まるで憐れんでいるようであった。

 

 なんだその目は……

 

 アタシをそんな目で見るな!

 

 アタシはそんな目で見られるほど弱くはない!

 

 アタシはこれ以上ケイからそんな視線で見られたくなかったので教会を飛び出した。

 

 ケイはきっと知らないんだ。

 

 アタシが強いことを知らないんだ。

 

 だから、あんな目でアタシを見たんだ。

 

 だったら、証明してやる!

 

 アタシが強いってケイに認めさせてやる!

 

 

*     *     *

 

 

 その夜

 

 アタシはマジェコンを販売している組織の壊滅のために1人で組織のアジトへと向かった。

 

 本来なら警備隊の人達と来るはずであった。

 

 しかし、『変身』できるアタシにとって彼らは足手まといだ。

 

 そんなの最初からいない方がいい。

 

 アタシの力には誰も敵わないんだから。

 

 アタシは女神の力でためらうことなく組織の連中を殲滅しようとした。

 

 そして、組織の連中のほとんどを倒して、後は片手で数えるぐらいの人数になった時に異変が起きた。

 

 アタシは急に体から力が抜けていくのを感じた。

 

 どうして!?

 

 どうして女神の力が無くなっていくの!?

 

 アタシは力が抜けていくのを止めることができず、ついに『変身』を維持することができなくなった。

 

 アタシはそれが信じられず、敵の前で呆然と膝をついてしまった。

 

 そんな『変身』が……

 

 アタシの力が……

 

 そんなアタシの様子に組織の連中はニヤニヤしながら近づいてきた。

 

 来るな!?

 

 来ないで!?

 

 アタシは近づいてくる奴らに恐怖して足に力が入らず、無様にも泣きながら地面を這うように逃げるしかできなかった。

 

 そんなアタシを逃がすわけはなく、連中はアタシの腕や髪を引っ張りながらアタシを立ち上がらせる。

 

 触らないで!?

 

 アタシは強制的に連中の顔を見せられた。

 

 連中はニヤニヤとアタシを見てその手をアタシに近づけてくる。

 

 いやだよ!?

 

 怖いよ!?

 

 助けて!?

 

 お姉ちゃん!?

 

 もうダメだとアタシが思った時、アジトの入口から警備隊の人達が突入してきた。

 

 警備隊の人達の活躍でアタシは助かることができた。

 

 しかし、アタシは助け出された後、ケイに呼び出された。

 

 ケイはアタシの姿を見ると、すぐに駆け寄ってきて、アタシの頬を叩いた。

 

 はじめは何をされたのかわからなかった。

 

 ……ケイがアタシを叩いた?

 

 アタシはケイに叩かれた頬を抑えながらケイの顔を見た。

 

 そこにはアタシの知らないケイがいた。

 

 ケイだって人間だ。

 

 笑ったり泣いたり怒ったりする。

 

 長い付き合いのアタシはその表情を見たことがあるし、知ってもいる。

 

 それでも……

 

 それでも今のケイの表情をアタシは知らない。

 

 昼間にアタシを憐れむような視線で見ていたケイはそこいなかった。

 

 ただ無機質にアタシを見ているケイがそこに居た。

 

 アタシは初めてケイが怖いと思った。

 

「……わかっただろ、君が1人でギョウカイ墓場に行ったって無駄なことが」

 

 ケイの声も聞いたことの無い声に聞こえた。

 

「君はまだ未熟だと思っていたが、それは僕の間違いだったようだよ」

 

 ケイの視線と声が怖くなり、アタシは後ろに下がってしまう。

 

 怖い、怖いよ……

 

 アタシは涙を流していたと思う。

 

 正直、ケイが別の人物に思えてしまうくらいの恐怖を感じていたアタシはこの時の記憶があまりない。

 

 それでもあの一言だけはアタシの中に刻み込まれた。

 

 できそこない

 

 アタシはその言葉の意味がわかった瞬間、意識を失ってしまった。

 

 そっか……

 

 アタシは、できそこないなんだ……

 

 ただその事実が重くのしかかってきた。

 

 

*     *     *

 

 

 アタシの『変身』は完全ではない。

 

 ある一定の時間が過ぎるか、女神の力を使いすぎると勝手に『変身』状態が解除されてしまう。

 

 お姉ちゃんはそんなことなかった。

 

 お姉ちゃんの『変身』が自分の意思以外で解除されたところをアタシは見たことがない。

 

 お姉ちゃんにできることで、アタシにできないこと。

 

 今まではそれを知ってもがんばれば追いつくと思っていた。

 

 アタシが頑張ればお姉ちゃんを追い越すことは無理でも、隣に立つことを許されるくらいに強くなれると思っていた。

 

 しかし、現実はアタシの甘い考えを吹き飛ばした。

 

 アタシは優秀なお姉ちゃんのようになれない。

 

 ケイの言葉でわかってしまった。

 

 アタシは女神なんて存在じゃない。

 

 女神なら不完全な『変身』などしない。

 

 優秀な姉とできそこないの妹。

 

 きっと物語にすればできそこないの妹が優秀な姉を超えるみたいな内容の話が想像できるだろう。

 

 しかし、そんなことは絶対にない。

 

 姉と妹には埋めることのできない差があるのだから。

 

 だからこそ、アタシはできそこないなんだ。

 

 そんなアタシなんかいらない。

 

 アタシには必要ない!

 

 アタシは優秀な妹になるためにどうすればいい?

 

 ……そうか

 

 妹は姉になればいいんだ。

 

 そうすれば妹は優秀になる。

 

 だから、アタシはお姉ちゃんになればいい。

 

 できそこないのアタシを消して。

 

 優秀なお姉ちゃんになればいいんだ。

 

「アハハ……簡単なことじゃない……アタシがお姉ちゃんになればいいんだ……」

 

 この時、アタシは涙を流していたことに気付かなかった。

 

 

*     *     *

 

 

 それからの日々はあまり思い出したくない。

 

 アタシはお姉ちゃんのようになろうとした。

 

 ギルドでモンスターを退治するクエストを受け続けた。

 

 お姉ちゃんならモンスターの被害に会っている人達を放っておけない。

 

 なら、アタシはモンスターを退治しなきゃ……

 

 ラステイションのシェアが低下してきた。

 

 お姉ちゃんならラステイションのシェアを低下させない。

 

 なら、アタシはシェアを確保しなくちゃ……

 

 マジェコンを販売している組織がいる。

 

 お姉ちゃんなら愛する国がマジェコンヌの侵略を受けていることを許さない。

 

 なら、アタシはマジェコンヌを倒さなきゃ……

 

 そんな日々を送るアタシにケイはあの日見た憐れむような視線を向けることが多くなった。

 

 やめろ!

 

 アタシをそんな目で見るな!

 

 アタシはお姉ちゃんなんだ!

 

 アタシは優秀なんだ!

 

 それに加えて、ケイが独自の方法でゲイムギョウ界を救おうとしていることは知っていた。

 

 それを利用して他の大陸と差をつけようとしていることも知っていた。

 

 お姉ちゃんならそんな卑怯な真似は許さない。

 

 アタシはケイに計画を止めるように言った。

 

 しかし、ケイはアタシの言葉を聞いて再びあの時の恐怖を思い出す顔になった。

 

 どうして!?

 

 アタシは優秀になったのに!?

 

 どうしてできそこないなのよ!?

 

 アタシはそれを認めたくなくて逃げ出した。

 

 どうしてわかってくれないの?

 

 アタシが一生懸命お姉ちゃんをするからラステイションは他の大陸より平和なんだよ?

 

 どうしてアタシを信じてくれないの?

 

 アタシも何を信じたらいいかわからないよ……

 

 アタシはもう誰も信用できない。

 

 でもいいよね?

 

 誰もアタシをわかってくれないんだもの。

 

 だったら、アタシもわからなくていいよね?

 

 

*     *     *

 

 

 アタシは誰も信用できなかった。

 

 ただお姉ちゃんをしていればいい。

 

 そう思って毎日を過ごしていた。

 

 その日もいつもと同じようにギルドでモンスター退治のクエストを受けて、モンスターを倒すお姉ちゃんをすればいい。

 

 そう思っていた。

 

 ギルドでアイツらと出会うまでは……

 

 アタシにしつこく話しかけてくる少女、ネプギア。

 

 アタシのクエストに勝手について来て何もしなかった彼女をアタシは特に力も持っていないただの女の子だと思っていた。

 

 しかし、違った。

 

 ネプギアと話していると、怖いケイを思い出す。

 

 実際は違うが、それに似た何かがアタシの中に生まれる。

 

 何なの?

 

 このまとわりつく感覚は?

 

 それからネプギアに女神候補生か聞かれたことによってアタシは気付かされた。

 

 そうか……

 

 アタシはお姉ちゃんになれてなかった。

 

 お姉ちゃんならネプギアと力の差を感じたりしない。

 

 力の差を感じたのはできそこないのアタシが残っていたからだ。

 

 もっとお姉ちゃんにならなくちゃ……

 

 そうすればアタシはいいんだ。

 

 そう考えたのに、どうして悔しいんだ!

 

 どうして涙があふれてくるんだ!

 

 アタシはお姉ちゃんなんだ!

 

 どうしてアタシだった頃のことを思い出すんだ!

 

 泣いていたアタシは近づいてくる気配があることに気づくのが遅れた。

 

 アタシが振り向くと、そこには1人の男がいた。

 

 男、御波夢人はアタシを心配してくれたのだろう。

 

 でも、この時のアタシはアイツがネプギアとアタシを比べているように思えた。

 

 こいつはネプギアという優秀な奴と一緒に居た男だ。

 

 ならば、アタシができそこないだと気付かれてしまう。

 

 それはお姉ちゃんができそこないだと思われてしまうことに繋がる。

 

 そんなことは認められない!

 

 証明してやる!

 

 ネプギアの近くに居たこの男を利用してやる。

 

 アタシが、お姉ちゃんが優秀だってことを証明するために!

 

「アンタは今日からアタシの奴隷よ!」

 

 

*     *     *

 

 

 やってしまった。

 

 アタシは夢人を奴隷宣言してから教会へと帰る道で後悔していた。

 

 どうしてアタシは奴隷なんて言葉を使ってしまったんだろう……

 

 どういう風に夢人と接していいのかわからない。

 

 彼がせっかく話しかけてきたのに、冷たくあしらってしまった。

 

 どうして素直になれないんだ。

 

 本当にどうしてこうなった……

 

 

*     *     *

 

 

 アタシがケイから逃げた後、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

 

 時計を見ると、そんなに遅い時間じゃない。

 

 アタシはやはり夢人に謝ろうと思った。

 

 奴隷なんて言ってしまってごめんなさい、と。

 

 アタシが夢人の部屋を入ろうとすると、そこには枕に向かって唇を突き出している姿の変態がいた。

 

 アタシが悩んで謝ろうとしているのに、相手は枕に求愛行動をしているなんて!

 

 アタシは変態と一緒に居たくなくなったのでドアを閉めながら言った。

 

「……死ね、変態」

 

 あんな変態、奴隷で十分だと自分の部屋へと帰っていった。

 

 

*     *     *

 

 

 それから夢人と一緒に何度もクエストを受けた。

 

 彼は弱かった。

 

 驚くほど弱かった。

 

 木刀の使い方はなっていないし、魔法も上手く発動できない。

 

 こんな役立たずとなんで一緒に居るんだろうとアタシは思った。

 

 それでも、アタシは彼と離れることはなかった。

 

 なんだかんだ言いあいながら、彼の側は温かいのだ。

 

 アタシがお姉ちゃんのように冷静にモンスターを倒せず、彼ごと吹き飛ばしても、彼はアタシと変わらずに接してくれた。

 

 アタシがお姉ちゃんのように大人の対応ができず、子どものように彼に対して悪口を言っても彼は変わらない。

 

 いつの間にかアタシはいつも彼のことを考えていた。

 

 お姉ちゃんになりきれないアタシと居ても変わらずに接してくれる彼の隣が居心地がよかった。

 

 気がつけば、アタシは彼に対していろいろと感情を吐き出していた。

 

 お姉ちゃんになると決めてからは、自分の感情を出さないようにしていたのに……

 

 彼の隣に居ると、アタシは気持ちを隠せない。

 

 いつの間にか、笑ったり泣いたり怒ったりするときに一緒に居るのはいつも彼だった。

 

 そんなコロコロと表情を変えていたアタシを彼は笑顔で見ていた。

 

 ……その笑顔は何か気に食わない

 

 アタシはそんな時は彼の足を力いっぱい踏み抜くと決めていた。

 

 今日も彼が痛みで転がっている姿を見るだけでまたアタシはアタシに戻っていく。

 

 

*     *     *

 

 

 セプテントリゾートで彼の前で初めて『変身』した。

 

 理由はアタシ達の目の前にマジェコンヌの下っ端がいたからだ。

 

 下っ端はモンスターを吸収することができるディスクを使ってモンスターを使役することができるらしい。

 

 下っ端がドルフィンを出した時は驚いたが、アタシなら倒せる。

 

 アタシ1人でも!

 

 そう考えた時、アタシの中の女神の力が急激に失われた。

 

 どうして!?

 

 まだ限界まで力を使っていないのに!?

 

 アタシはドルフィンの攻撃によって戦闘不能手前まで追い詰められてしまった。

 

 やられる!?

 

 そう考えた時、アタシを救ったのは役立たずであった夢人であった。

 

 夢人が言った言葉は今でも思い出せる。

 

「自分を信じるな! お前を信じる俺を信じろ!」

 

 今思えば無茶苦茶な言葉よね。

 

 アタシと彼が会ってからそんなに時間が経っていなかったのに。

 

「……お前が自分を信じられないなら、お前を信じている俺を信じてくれ」

 

 そんな彼の言葉だけでアタシは立ち上がれた。

 

 アタシを……

 

 できそこないのアタシを見ても信じてくれる夢人を見て、アタシは今まで感じたことの無い力がわいてきた。

 

 アタシは夢人の期待に応えたい!

 

 アタシを信じてくれる夢人を守りたいと心で強く思った。

 

 その思いが通じたのか、アタシは今まで一番の攻撃ができた。

 

 アタシの中からあふれる力がアタシに勇気をくれた。

 

 まるでお姉ちゃんに包まれているみたいに安心できた。

 

 結局、ドルフィンはその攻撃でも倒すことができず、ファルコムとフェル、フェンリルに助けてもらったんだけどね。

 

 それでも、ドルフィンがアタシ達に向かって突撃した時、彼に抱きしめられたぬくもりをアタシは忘れることができなかった。

 

 意外とたくましいんだなあって……

 

 

*     *     *

 

 

 ファルコム達に助けられてからは彼女達と一緒に行動するようになった。

 

 でも、アタシは正直いやだった。

 

 フェルがアタシに向ける視線が怖い。

 

 アタシや女神を恨んでいる奴と一緒に行動することを了承した夢人の感覚は絶対におかしいと思う。

 

 それに、アタシとフェルのどこが似ているというのだ!

 

 まったくもって失礼だと思っていた。

 

 でも、その言葉は正しかった。

 

 アタシはフェルのフェンリルがマジェコンヌによって殺されてしまったことでそのことに気付いた。

 

 ……アタシと同じだ。

 

 フェルはきっと自分を信じていない。

 

 きっと自分が嫌いなんだ。

 

 自分が嫌いだから、彼は世界を好きになれていないんだ。

 

 自分に自信を持てないから、大切なものを見つけられないんだ。

 

 できそこないのアタシをいらないと思ったアタシそっくりだ。

 

 アタシはアタシの中にアタシがいないから自分を信じられない。

 

 だから、アタシも大切なことに気付かなかったんだ。

 

 でも、フェルはフェンリルを喪った悲しみを乗り越えて立ち上がった。

 

 フェンリルが体を張ってフェルを愛したからこそ、その思いがフェルに届いたのだ。

 

 ……アタシはどうだ?

 

 できそこないのアタシはいらなかったのか?

 

 そんなことない!

 

 できそこないのアタシでも愛してくれた人達がいた。

 

 お姉ちゃんやケイ、それに夢人。

 

 そんなアタシを愛してくれている大切な人達が住むゲイムギョウ界を破壊するマジェコンヌをアタシは許さない!

 

 お姉ちゃんじゃなくていい。

 

 優秀じゃなくてもいいんだ。

 

 アタシはできそこないのアタシで女神候補生の一番になって見せる!

 

 ネプギアなんかに絶対負けてあげないんだから!

 

 アタシはその思いを力に変えて『変身』した。

 

 初めて『変身』が温かく感じた。

 

 愛してくれている人達を守るために力を使うことが嬉しかった。

 

 ならば、アタシも言おう!

 

 アタシもゲイムギョウ界を愛していると!

 

 この気持ちがある限り、アタシは絶対に負けない!

 

 戦闘が終わり、ネプギアに近づきながらアタシは言った。

 

「アタシの方がずっと、ずーっとゲイムギョウ界のことが好きなんだからね」

 

 言葉にすると恥ずかしいことだったけど、アタシはこの思いを胸を張って言える。

 

 だって、アタシが信じるアタシをもう二度と裏切らないと決めたんだから……

 

 

*     *     *

 

 

 あの後、アタシはケイに謝った。

 

 ケイはアタシの事を考えてくれていたのに、アタシは自分ことだけしか考えていなかった。

 

 アタシがそのことを話すと、ケイはアタシに抱きついて言った。

 

「お帰り、ユニ」

 

 アタシはその言葉を聞いて泣き出してしまった。

 

 アタシはやっと自分に戻れたんだとわかった。

 

 アタシがやっとアタシに戻れた。

 

 気がつけば、ケイの目元も光っていた。

 

 アタシ達は今まで離れていた時間を埋めるように抱き合った。

 

 

*     *     *

 

 

 その夜、アタシはネプギアを自分の部屋に呼んだ。

 

 一方的ではあるが、勝手に敵視した相手だ。

 

 アタシは柄にもなく緊張していた。

 

 こんな気持ちは本当に久しぶりだ。

 

 そんなアタシに対してネプギアはただニコニコとしていた。

 

 ……アンタ、その枕何なの?

 

 え? ここで寝る? ベットで? 一緒に?

 

 なんでアタシがアンタと一緒に寝なきゃいけないのよ!

 

 そう言ったアタシをネプギアは涙目になりながらずっと見つめてきた。

 

 や、やめなさいよ!

 

 そんな目で見られると、すごく罪悪感がわくじゃない!

 

 アタシは結局、ネプギアの視線に負けて一緒に寝ることになった。

 

 そのことにネプギアはずっとニコニコしていた。

 

「えへへ、嬉しいな」

 

「……何がそんなに嬉しいのよ?」

 

 アタシはどうしてネプギアが嬉しそうにしているのかがわからなかった。

 

「だって、私って同い年ぐらいの知り合いがいなくて、ずっと友達と一緒にお泊りとか憧れていたんだ」

 

 ……実を言えば、アタシもそうだ

 

 アタシも今までラステイションを出たことがなくて、同い年の知り合いなどネプギアが初めてだ。

 

 でも、ひとつだけ訂正しておきたいことがある。

 

「……アタシはアンタと友達になった覚えなんかないわよ」

 

 そうだ、アタシはネプギアと友達になった覚えはない。

 

「えー! そんなこと言わないでよ、友達になろうよ?」

 

「イ・ヤ・よ」

 

 ネプギアがしつこく言うが、アタシは絶対に譲らない。

 

 だって……

 

「アンタはアタシのライバルなの……だから、友達じゃないわ」

 

 アタシはそう言うと、ネプギアに背を向ける。

 

 後ろからアタシを呼ぶ声がするが、気のせいだ。

 

 今振り返ると、絶対にネプギアのペースに巻き込まれてしまう。

 

 これ以上話すこともなくなったので寝ようとした時、アタシはネプギアにひとつ質問した。

 

「……ねえ、ひとつ聞いていい?」

 

「何、ユニちゃん?」

 

 ちゃんづけはやめてほしかったが、質問の方が重要なのでスルーすることにする。

 

「ネプギアは奴隷、夢人のことを……」

 

 アタシがそう聞こうとした時に、外から夢人の叫びが聞こえた。

 

「犬怖いいいいいいい!!」

 

 ……何言ってんだか

 

 そのことがおかしくて、アタシは自然と笑っていた。

 

 ネプギアも「相変わらずだなあ」と、笑っていた。

 

 質問する空気じゃなくなったので、アタシはネプギアに言った。

 

「やっぱりいいわ」

 

 そして、アタシはネプギアの返事を聞かずに目を閉じ眠りにつこうとした。

 

 後ろではアタシを呼ぶネプギアの声など無視だ、無視。

 

 ネプギアが夢人をどう思っていようと関係ない。

 

 アタシが夢人をどう思っているかが重要なのだ。

 

 アタシの気持ちはまだふわふわでよくわからない。

 

 でも、いつか答えを出せたらいいなと思う。

 

 だって、アタシのことを信じてくれるんでしょ?

 

 

*     *     *

 

 

 ……結構長かったわね

 

 それから夢人達はラステイションを出発してルウィーに向かったわ。

 

 アタシ?

 

 アタシはゲイムキャラの力が弱まったことで低下したラステイションのシェアを取り戻すためにラステイションに残ったわ。

 

 夢人はいいのかって?

 

 いいに決まっているわ。

 

 アイツがどんなところに居てもアタシの大切な人ってことに変わりはないもの。

 

 これからもずっとね。

 

 

 ……

 

 

 ……本当にこれで終わり?

 

 アタシ結構恥ずかしいこといってるんだけど、もちろんカットしてくれるのよね?

 

 え? そのまま使う?

 

 ちゃんと編集しなさいよ!

 

 まったくこんなものに出るんじゃなかったわ。

 

 ……まあ、でもアンタが頼むんなら次の回にまた出てあげても……

 

 次はまたネプギア? やっぱり、ネプギアの方がよかった?

 

 ……そう、できの悪い奴隷はお仕置きされたいのね。

 

 いいわ、ご主人様であるアタシがたっぷりとお仕置きしてあげる。

 

 逃げるな! この、バカ夢人!




はい、というところで今回は終わりです!
ラステイション編の総集編と言いながら、女神がいない3年間の空白期間のユニを書いてしまった
ラステイション編は本当に予想よりも文量が多くなってびっくりしていたので、このような形になってしまいました
まあ、同じ内容を何度も書くよりもましだしいいよね?
…とりあえず、次回も番外編としてラステイション編でネプギア達がどうしていたのかをだれか視点で書きます
だれかって?決まっているじゃないですか!
それでは、次回 「報告メール(ラステイション編)」 をお楽しみに!
サブタイでみんな分かってくれるはずだ…たぶんね?

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