超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
ついにmk2編は今話でおしまいです。
それでは、 きりひらけ! 女神通信(ネプギア編) はじまります


きりひらけ! 女神通信(ネプギア編)

 皆さん、お久しぶりです。

 

 私、プラネテューヌの女神候補生パープルシスター、ネプギアが今回のきりひらけ! 女神通信のラストを担当することになりました。

 

 最近は女神通信もお姉ちゃん達ばかりで、私も久しぶりの撮影に緊張しています。

 

 きりひらけ! 女神通信も今回で最終回みたいでなんだか少しさびしいです。

 

 どうせならお姉ちゃんやユニちゃん達も呼んで、皆で楽しくやってもよかったんじゃないかって思います。

 

 ……え、皆が私を推薦したの?

 

 そっか。だったら、皆の分まで頑張らないとね。

 

 それでは、 きりひらけ! 女神通信 ネプギア編 始まります。

 

 

*     *     *

 

 

「……ん、んぅ……あれ? ここは……」

 

 目を開けて最初に見えたのは見慣れている天井、ベッドで寝る時に私がいつも見ている私室の天井でした。

 

 ぼんやりした頭で自分が寝ていたことを理解した私は、どうして自分が眠っていたのかを考える。

 

 ……私、確かギョウカイ墓場に夢人さんといーすんさんを助けに向かって、それから……っ!?

 

 思い出すと思考が一気に冴えわたり、私はガバッと上半身を起こした。

 

 あのまま横になっていたら、きっとまた眠ってしまうと思ったからだ。

 

 私が何か時間を確認できるものがないかと辺りを探すと、近くにNギアを発見した。

 

 壁には時計も掛けられていたけど、こっちの方が正確な日時もわかると思い、私はベッドに横になったままNギアへと腕を伸ばす。

 

 どれくらい眠っていたのかわからないけど、妙に体が重くて動くのが億劫に感じてしまう。

 

 気を抜いてしまえば、再びベッドへと体を埋もれさせて眠ってしまいたいという欲求に負けそうになってしまう。

 

 それでも何とか耐えてNギアを手に取り起動させ、自分がどれだけ眠っていたのかを確認すると、私は大きく目を見開いて驚いてしまった。

 

 私達がギョウカイ墓場に向かってから、すでに5日も経ったお昼になっていた。

 

 ……私、そんなに眠ってたの!?

 

 自覚にすると、急にお腹からぐぅと言う音が鳴り出し、少し恥ずかしくなり頬が熱くなる。

 

「ネプギア? 起きてる?」

 

「ひゃっ、ひゃい!? 起きてるよ!?」

 

 空腹を訴えるお腹をさすりながら俯いていると、突然ノックと共に誰かの声が聞こえてきた。

 

 一瞬、お腹の音が聞こえてしまったのではないかと焦ってしまい、舌を噛んでしまった。

 

 すると、扉から何かを載せているトレーを持ったユニちゃんが入ってきた。

 

「なに慌ててんのよ、アンタは」

 

「え、えっと、それは……それより、何でユニちゃんが?」

 

「アタシだけじゃないわよ」

 

「わたしもいるよ(にっこり)」

 

「当然、わたしもいるわよ」

 

「お邪魔するね」

 

 変な返事をしてしまった私をジト目で見つめるユニちゃんの後に続いて、ロムちゃんやラムちゃん、ナナハちゃんも部屋に入ってきた。

 

「ネプギアちゃんが起きてよかった(にこにこ)」

 

「まったく、ずっと眠ってたから心配したじゃない」

 

「え、え、その……ごめんなさい」

 

 皆が思い思いにベッドに横になっている私に近づくと、ロムちゃんがにこにこしながら手を握ってきた。

 

 その隣で不服そうに口の端を尖らせるラムちゃんに、私は何故か知らないけど謝らなければならないと思ってしまう。

 

 ……こ、これはいったいどういう状況なの?

 

 私自身、眠る前の記憶が曖昧でいつの間にギョウカイ墓場からゲイムギョウ界に戻ってきたのか覚えていない。

 

 確か、最後は夢人さんと一緒に犯罪神にビームソードを突き刺した所までは覚えてるんだけど、そこからの記憶がまったくない。

 

「まあまあ2人とも、それぐらいにしといてあげなよ」

 

「そうよ……はい、これ。お腹空いたでしょ?」

 

 ナナハちゃんが苦笑しながら眉間にしわを寄せるラムちゃんの頭を撫でて宥め始める。

 

 それにユニちゃんも同意しながら、持ってきたトレーを私に手渡してきた。

 

 トレーの中には、スープのような物とスプーンが載せられていた。

 

「それ、コンパさんがネプギアちゃんにって、作ってくれたの」

 

「コンパさんが?」

 

「うん。ずっと寝ててお腹空いているだろうけど、いきなり固形の物とか食べると体に悪いだろうからって、今回はお粥だけどね」

 

 私がトレーの中身を凝視していると、ロムちゃんとナナハちゃんが説明してくれる。

 

「コンパさんにはちゃんとお礼を言っておきなさいよね」

 

「何でもずっと眠ってるアンタがいつ起きてもいいように、朝昼晩ってずっと用意していたみたいよ」

 

 ラムちゃんとユニちゃんの言葉に頷きながら、私はお粥を少しずつ口に運んで行く。

 

 ……うん、温かくて美味しい。

 

 眠っていた体が優しく起こされていくように、少しずつお腹の辺りからポカポカしてくる。

 

 後でコンパさんにちゃんとお礼を言っておかないと。

 

「まあ何はともあれ、アンタと夢人達が無事に帰って来て本当によかったわよ」

 

「……あむっ、ちょっと聞いていいかな? 私っていつの間にゲイムギョウ界に戻ってきたの?」

 

 安心したように頬を緩めるユニちゃんを見て、私は食べる手を止めて尋ねた。

 

 すると、ユニちゃん達は驚いたように目を見開いてしまう。

 

「覚えてないの? 私は何でも疲れて眠っちゃったネプギアを夢人が背負って帰って来たって聞いたけど」

 

「背負って……って、ええええええ!?」

 

 不思議そうに首をかしげながら言うナナハちゃんの言葉に、私は思わず膝の上に置いていたトレーをひっくり返してしまいそうになった。

 

 ……わ、私、夢人さんにおんぶされて帰って来たの!?

 

 顔がお腹の音が鳴った時とは比べものにならないくらいに熱くなってきた。

 

「はいはい、話を続けるわよ……と言っても、アンタは帰って来てから今までずっと眠りっぱなしだったから、ネプテューヌさんやコンパが交代して看病していたみたいよ。今日はたまたまアタシ達がアンタの様子を見に来たから、代わりにってことでそれを持ってきてあげたのよ」

 

「……あ、ありがとう。あむっ」

 

 呆れたように見つめてくるユニちゃんの視線から逃げるように私は俯いてお粥を載せたスプーンをくわえた。

 

 ……うぅぅ、パープルディスクで観た夢人さんの気持ちを知ってから、どうにも落ち着かない。

 

 おんぶなら前にアカリちゃんも含めた3人で温泉に行った時にされたって言うのに、どうしてもあの時より恥ずかしく思える。

 

「まあ、様子を見に来たって言うよりも、他にやることがなかったんだよね」

 

「え? そうなの?」

 

 ナナハちゃんの言葉を疑問に思い、私は顔を上げた。

 

 困ったように笑いながら、ナナハちゃんはユニちゃん達へと視線を向ける。

 

「私やユニ、ロムとラムも今『変身』したくてもできないんだよ」

 

「何でも、わたし達の中にあるゲイムキャラからもらったディスクの調査をするためってお姉ちゃんやミナちゃんに止められてるの」

 

「だから、今わたし達、女神のお仕事を手伝えないの」

 

 話を聞きながら、何で今更そんなことをするのかと首をかしげてしまう。

 

 ゲイムキャラからもらったディスクなら、私も夢人さんがゲイムギョウ界に戻って来てから体におかしなことがないかどうかを調べてもらった。

 

 でも、何ともないっていーすんさんにもコンパさんにも言われたんだけどなぁ。

 

「アンタらはまだいいじゃない。アタシなんて昨日までずっと検査してたのよ。まったく、アタシだってどうしてあんなことになったのか意味わかんないって言うのに」

 

「……あんなこと?」

 

「ああ、そうよね。眠ってたアンタは知らないか。どうせアンタも後で知ることになるんだし、食べながら聞いておきなさい」

 

 うんざりしたように愚痴をこぼすユニちゃんだったけど、私が声をかけると苦笑しながら話してくれる。

 

「あの日、フェルやコンパ、ワレチューとラステイションに向かったアタシの前に、意味のない破壊活動を繰り返すブレイブ・ザ・ハードがいたのよ。後で、そいつがフィーナの“再現”した偽物だって、本物のブレイブが教えてくれたんだけど、その時不思議なことが起こったのよ。急に変な声が聞こえたと思ったら、いつの間にかブレイブがアタシのプロセッサユニットと融合って言うのかしら? とりあえず、アタシのプロセッサユニットがブレイブみたいになっちゃったのよ。それで、その原因がアタシの中にあるブラックディスクなんじゃないかってことになったから、調査しようってことになったわけ」

 

 目を閉じて思い出しながら語るユニちゃんは、わずかに頬が緩んでいる。

 

 ちょっと説明されただけじゃわからないこともあるけど、調査の理由がユニちゃんのプロセッサユニットが変化したからだってことはわかった。

 

 でも、考えてみれば、ロムちゃんとラムちゃんの合体変身も謎だよね。

 

 私は変な声を聞いたり、おかしいことがあったわけではないからあまり実感がわかない。

 

 ただ何となく体の調子がよくなった気はする。

 

 でも、あの時は戦闘中だったし、気分が高揚していたからそう錯覚しているだけなのかもしれない。

 

 うーん、考えてもわからないし、調査の結果を待つしかないのかな?

 

「そう難しく考える必要はないわよ。今のところ、アタシ達の体に悪影響があるわけじゃないってことはわかってるわけだし、今回の調査も単なる健康診断みたいなものよ」

 

「そうなのかな?」

 

「何か気になることでもあるの?」

 

「そうなんだけど……」

 

 そんなに心配そうな顔をしていたのだろうか、ユニちゃんが私のことを安心させるように言ってくれるけど、どうにも何かが引っ掛かるような気がする。

 

 上手く言えないんだけど、私はユニちゃんのプロセッサユニットが変化した原因がブラックディスクだけのせいだとは思えない。

 

 自分がどうしてそう思うのかもわからない私は、尋ねてくるラムちゃんにどう答えていいのかわからずに言葉に詰まってしまう。

 

「気にし過ぎとは言わないけど、悩み過ぎても答えは出ないと思うよ。今はベール姉さんやチカ姉さん達の調査結果を待った方がいいよ」

 

「……うん、そうだね。ありがとう、ナナハちゃん」

 

 悩んで目を伏せてしまった私の耳にナナハちゃんの声が聞こえてきた。

 

 わからないから調べるんだし、結果を待った方がいいよね。

 

 少しだけ心の内が晴れたような気がして、私は顔を上げてナナハちゃんにほほ笑みかけた。

 

 でも、ナナハちゃんは複雑そうに瞳を揺らして口をきつく結ぶと、1度瞬きをして意を決したように私の目を真っ直ぐに見つめながら口を開く。

 

「話は変わっちゃうけど、ごめんね、ネプギア」

 

「え、どうしたの急に?」

 

 突然謝りだしたナナハちゃんの気持ちがわからず、私はきょとんとしてしまう。

 

 何か私謝られることでもあったかな?

 

「ギャザリング城で、勝手に八つ当たりしちゃってごめん。あの時、ネプギアが夢人の気持ちを知ったことは不可抗力だってわかっていても認められなかったんだ。そのせいで皆にもいっぱい迷惑をかけちゃった」

 

「で、でも、それは私の……」

 

「ううん、ネプギアのせいじゃないよ。全部私が悪いんだよ。勝手に全部諦めて絶望しかけた。そのせいでベール姉さんにも酷いことをいっぱい言っちゃった」

 

 私が否定しようとしても、ナナハちゃんは首を横に振って言葉を続ける。

 

 その瞳は潤み始め、まるで懺悔しているようにも見える。

 

 いいや、多分ナナハちゃんは私に許してもらいたいと思っている。

 

「ナナハちゃん、それはナナハちゃんが……」

 

「でもね、今回のことでわかったこともあるんだ。私はやっぱり夢人のことが大好きなんだって」

 

「……ほえっ?」

 

 予想外のナナハちゃんの言葉に、私は変な声を上げて呆けてしまう。

 

 そんな私に構わず、ナナハちゃんははにかみながら言葉を続けていく。

 

「私ね、私を助けてくれた夢人のようにキラキラと輝きたいと思ってずっと憧れてた。輝く夢人の隣にいれば、私もずっと輝けると思ってたから……でも、本当はそうじゃなかったんだ。私は夢人に私だけの輝きを見て欲しかったんだ。ただ近くにいてその輝きを受けるだけじゃなくて、私が夢人を照らしてあげられるようになりたい。今は素直にそう思えるんだ」

 

「う、うん……」

 

「だから、勝手に嫉妬したりしてごめんね、ネプギア。でも、これだけは覚えておいてよ」

 

 ナナハちゃんの勢いに押されて、私は曖昧に返事をすることしかできない。

 

 そんな私に向かってナナハちゃんは悪戯っぽく笑いながらウインクをする。

 

「最後に勝つのは私だからね。私の輝きで必ず夢人を夢中にしちゃうから」

 

 ナナハちゃんの言葉を理解すると同時に、私は頭を抱えたくなってしまう。

 

 ……これ懺悔じゃなくて、宣戦布告だったの!?

 

 さっきまで謝る必要はないだの、ちょっと上から目線っぽく許してあげるみたいなことを考えていた自分が恥ずかしい!?

 

 それに私から見て、ナナハちゃんはもの凄く輝いて見えるよ!?

 

 私なんて霞んで見えてしまうくらいにキラキラしているように思える。

 

「はあ、何でアンタはそう言うことを恥ずかしげもなく言えるのよ……ま、まあ、アタシも夢人のことを諦める気はないんだけどね」

 

「わたしも、頑張る(ぐっ)」

 

「わたしだってナナハちゃん達に絶対に負けないもん」

 

 私が言い知れぬ敗北感を感じていると、ユニちゃん達もナナハちゃんに続くように宣戦布告をしてきた。

 

 ……ど、どどどどうしよう!?

 

 ただ好かれているだけの私なんて、このままじゃユニちゃん達に絶対負けちゃうよ!?

 

 よ、よし、私も自分の気持ちをちゃんと言葉にしなきゃ!?

 

「わ、わひゃひも……」

 

「やっほー、みんなー……って、おおーっ! ようやく起きたんだね、ネプギア!」

 

 まるで発熱しているのではないかと思うくらいに体全体が熱くなっているのを自覚し、目の前がぐるんぐるん回って見えてもユニちゃん達に負けないように自分の気持ちを宣言しようとした時、急にお姉ちゃんが部屋に入って来た。

 

「お邪魔してます、ネプテューヌさん」

 

「うん、ようこそ……って、皆はゆっくんに会うついでにネプギアの様子を見に来たのかな?」

 

 熱に浮かされた思考のままであったとしても、私はお姉ちゃんの発言のおかしさに気付いた。

 

 ……私がついでで夢人さんに会うことが本命?

 

 ユニちゃん達の気持ちを知っている私としては、それでもおかしくないと思うけど……

 

「どう言うことですか?」

 

「あれ? 聞いてないの? 今日、ゆっくんが元の世界に帰るって」

 

『……えっ』

 

 私達は声をそろえて呆然としてお姉ちゃんを見つめることしかできなかった。

 

 熱いほど火照っていた体に、突然極寒の地に落とされたように凍えるような寒さを感じる。

 

 ……夢人さんが、元の世界に帰っちゃう?

 

 

*     *     *

 

 

 お姉ちゃんからそのことを聞いた後の私達の行動は早かった。

 

 私はすぐにベッドから起き上がると、何かを話すお姉ちゃんを無視して部屋を飛び出した。

 

 ……何で最初に疑問に思わなかったんだろう。

 

 どうして起きた時にアカリちゃんが私の中にいなかったことに気付けなかったんだろうと、自分を罵倒する。

 

 夢人さんはアカリちゃんの力でゲイムギョウ界に戻って来た。

 

 だったら、アカリちゃんの力を使えば、元の世界に戻れるんじゃないの?

 

 理由はわからないけど、ギョウカイ墓場でアカリちゃんは夢人さんの体の中に戻れないと言っていた。

 

 アカリちゃんが体内にいない夢人さんはバグになってしまうと聞いている。

 

 だから、夢人さんはゲイムギョウ界を壊さないようにするために、元の世界に帰ろうとしているんじゃないのかと思えて仕方ない。

 

 ……でも、でもそんな別れ方、絶対に嫌です!!

 

 私はもっと夢人さんと一緒にいたいです!!

 

 これからもずっと、ずっと一緒に!!

 

 廊下を走っていると、とある部屋からいーすんさんが出てきて慌てている私達を不思議そうに見つめてきた。

 

「どうしたんですか、皆さん? そんなに慌てて……」

 

「いーすんさん!! 夢人さんは!! 夢人さんはどこにいるんですか!!」

 

「お、落ち着いてください、ネプギアさん!? それよりも無事に起きたみたいで……」

 

「私のことはいいんです!! 夢人さんはどこにいるんですか!!」

 

 驚くいーすんさんに構わず、夢人さんがどこにいるのかを私は尋ねた。

 

 早く、早く止めないと夢人さんがいなくなってしまうと、私は焦る気持ちを隠せない。

 

「夢人さんなら、先ほどアイエフさんと一緒にギョウカイ墓場に送りましたけど……」

 

「だったら、私達も送ってください!! お願いします!! どうしても夢人さんの所に行きたいんです!!」

 

『お願いします!!』

 

 困惑するいーすんさんに私達は頭を下げてお願いする。

 

「は、はあ、わかりました。それでは転送装置を起動しますので、皆さんも部屋に入ってください」

 

『はい、ありがとうございます!!』

 

 事情を飲み込めていないようで、いーすんさんは困ったように眉根を下げながら、出てきた部屋に戻っていく。

 

 そこは転送装置がある部屋だった。

 

 ……いーすんさんはさっきって言ってたから、今ならきっと間に合うはず。

 

 帰ってしまう前に、必ず夢人さんを止めてみせる!!

 

 

*     *     *

 

 

 ……でき、なかった。

 

 夢人さんは私達の目の前で消えてしまった。

 

 あの時と一緒、ギョウカイ墓場で消えた時と同じようにいなくなってしまったっ!!

 

 ……何で、何でなんですか!!

 

 私、約束しましたよね。

 

 勝手にいなくなったりしないって、指きりして約束したはずなのに……

 

「嘘つき……夢人さんの……夢人さん……」

 

 涙がぽつぽつと零れ落ち、地面に染みを作っていく。

 

 悪態をつこうとしても、上手く言葉にできない。

 

 できることは、ただ名前を呼ぶことだけ。

 

 ……嘘つき、夢人さんは私との約束を破ってばかりです。

 

 私も守れずに傷つけてばかりでしたけど、今回は酷すぎます。

 

 どうして何も言わずに帰ってしまったんですか?

 

 帰らなくてもすむ方法があったかもしれないのに、どうして勝手に帰ってしまったんですか?

 

 ……どうして、私に黙ったままで帰ろうとしたんですか?

 

 今日、偶然目を覚まさなければ、夢人さんは私の知らない間に帰っていたってことですよね?

 

 つまり、夢人さんは最初から私との約束を破るつもりで……っ!

 

 何で問題を先送りにしていたんだろう?

 

 何で夢人さんがバグになってしまうとわかった時に、ずっと一緒にいられる方法を考えなかったんだろう?

 

 それさえ分かっていれば、夢人さんも帰る必要がなかったのにっ!!

 

 自己嫌悪と後悔が私の心を傷つける。

 

 ユニちゃん達と話していた時のほんわかした気持ちは、もうすでになくなっていた。

 

 あるのは、夢人さんがいなくなったことに対する悲しみだけ。

 

 もう会うことができない愛した人との別離に涙が止まってくれない。

 

 夢人さんの、ばかぁ……

 

「あ、あのね、アンタ達、その、なんて言うか、夢人は……」

 

「うにゅっ!!」

 

 アイエフさんが何かを言おうとしていたけど、それを遮ってアカリちゃんの声が響いてきた。

 

 顔を上げると、アカリちゃんは興奮しているみたいに鼻の穴を大きくして真っ直ぐに両腕を伸ばしていた。

 

 伸ばしている先は、帰ってしまった夢人さんのいた場所。

 

「パパ!!」

 

 アカリちゃんがそう叫ぶと同時に、その場所から強烈な光が発生した。

 

 ……こ、この光って、それにパパってまさか!?

 

 私は3度目になるその光を見て、淡い期待を抱いた。

 

 もしかして、もしかして……っ!?

 

 光はやがて人型のシルエットを作り出し、次第にその姿がはっきりと見えてくる。

 

 そして、光が完全に収まると、そこには……

 

「あ、あはは……ただいま」

 

 困ったように頬を掻きながら笑う夢人さんの姿があった。

 

 ……夢人さん。

 

「随分早かったみたいだな。もう少しあっちでゆっくりしてくるものだと思っていたのだが」

 

「いや、俺もそう考えていたんですけど、ネプギア達に見つかっちゃったから急いで戻って来たんですよ」

 

「ちょ、ちょっとちょっと!? どう言うことなの!?」

 

 マジェコンヌさんがにやりと笑いながらからかうような口調で尋ねると、ますます困ったように夢人さんは眉根を下げてしまった。

 

 そんな2人のやり取りの意味がわからず、ラムちゃんが声を上げた。

 

「なに、ちょっとした里帰り……いや、けじめをつけに行ってただけだよ」

 

「けじめ?」

 

「そう。俺はこれからもずっとゲイムギョウ界で生きていくって、父さんと母さんに報告しに行ってたんだよ」

 

 首をかしげるロムちゃんに、夢人さんは口元を緩めながら答える。

 

 その口から出た一言に、私は衝撃を受けた。

 

 ……ずっとゲイムギョウ界で生きていく?

 

「今回のことで、俺もいろいろと考えたことがあってさ。どうしても会って話がしたかった。そして、またここから俺もスタートを切ろうと思うんだ」

 

「ど、どう言う意味?」

 

「勇者としてゲイムギョウ界にやって来たんじゃなくて、俺が俺の意思で俺としてゲイムギョウ界で皆と一緒にいたいと思ったんだよ」

 

 夢人さんは懐かしむように顔を綻ばせながら、青空に変わったギョウカイ墓場の空を見上げる。

 

「最初は偶然呼び出されて、次は自分の意思で戻ってきたけど、どっちも勇者として俺はこのゲイムギョウ界で過ごしてきた。でも、平和になった今、勇者なんて必要ないだろ? だから、俺も新しい自分を始めるためにけじめをつける必要があったんだ」

 

 夢人さんは右手首に嵌められているブレスレットを優しい眼差しで見つめながら、撫でるように指で水晶に触れていく。

 

 ……フィーナちゃんだ。

 

 夢人さんはあの時にフィーナちゃんに言った言葉を思い出しているんだ。

 

「勇者じゃない俺……ただの御波夢人として、これからも皆と一緒にいたい。これからもずっと、ずっと一緒に」

 

「夢人さん……」

 

「あー、その、何だ……だから、何の力もないし、勇者でもなくなった俺だけど、これからも一緒にいていい……」

 

「夢人さんっ!!」

 

「うおっ!? ネプギア!?」

 

 照れたように視線をずらす夢人さんの胸に、私は跳び込んで行った。

 

 夢人さんは驚いたようですけど、しっかりと私の体を受け止めてくれた。

 

「はい……はいっ! 私も……私もあなたと一緒にいたいです! ……勇者じゃなくていいです! ……私も夢人さんと一緒にいたいです!」

 

「……ありがとう、ネプギア」

 

 だらしなく緩んでいる顔を見られたくなくて、私は夢人さんの胸に顔を埋めたまま素直に気持ちを伝えていく。

 

 私を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなった気がする。

 

 ……これからもずっと一緒ですよ、夢人さん。

 

「ちょっと、アンタは何やってんのよ!?」

 

「ネプギアちゃんだけずるい。わたしも夢人お兄ちゃんとぎゅっとしたい」

 

「夢人もにやけてないで、さっさとネプギアを離しなさいよ!?」

 

「うーん、これはさすがに見過ごせないよ。夢人、私のこともちゃんと抱きしめてね」

 

 夢人さんから引き剥がそうとユニちゃんとラムちゃんが、私を引っ張ってくる。

 

 ロムちゃんとナナハちゃんは逆に、夢人さんの腕に自分の手を乗せていた。

 

「ちょっ、痛い痛い痛い!? 2人ともあんまり強く引っ張らないで!?」

 

「駄目よ!! アンタはさっさと夢人から離れるの!!」

 

「夢人も早くこの腕を離しなさいよ!!」

 

 だ、だからって、髪の毛は引っ張らないでよ!?

 

 あまりの痛みに目尻に涙が浮かんでしまう。

 

「ほら、ユニとラムもそう言ってることだし、次は私のことを抱きしめてよ。私もそのままの夢人と一緒にいたいんだ。大好きだよ、夢人」

 

「わたしも、夢人お兄ちゃんのこと、大好き(てれてれ)。だから、ナナハちゃんの次はわたしの番。ぎゅってして欲しいな(にこにこ)」

 

「待った待った!? 急になに言ってんだよ!? 確かにずっと一緒にいたいって言ったけど、今はそう言う意味じゃなくてだな」

 

 ナナハちゃんに耳元でささやかれ、ロムちゃんに上目遣いで言われて、夢人さんは顔を真っ赤にさせて慌て始めた。

 

 ……むぅ、何だか夢人さんが2人にデレデレしているように見えて少し嫌な気分になって来た。

 

 私の方が先に一緒にいたいって言ったのに……

 

 だ、だったら、私ももう1度……っ!?

 

「はうっ!?」

 

「ネプギア!?」

 

 髪の毛を引っ張られているのを忘れて、言いなおそうと大きく息を吸ったのが間違いだった。

 

 息を吸い込む際に首をそらした結果、見事に私は夢人さんから引き離されてしまう。

 

 夢人さんの驚いた声が聞こえてきたけど、私は尻もちをついてしまった。

 

「そこの2人!! なに変なこと口走ってんのよ!!」

 

「い、今はゆ、夢人のことをす、す、好きとか、関係ないじゃない!?」

 

「あ、ユニも夢人に言うの? だったら、場所代わろうか?」

 

「ラムちゃんも代わる?」

 

『代わらないわよ!?』

 

 私が痛む首とお尻を擦っていると、ユニちゃんとラムちゃんが顔を真っ赤にしてロムちゃんとナナハちゃんの言葉を否定していた。

 

 ……あーうー、酷いよ、2人とも。

 

 夢人さんから引き剥がしたくせに、私のことはそのまま放置だなんて。

 

「付き合ってられんな」

 

「そうですね」

 

 呆れているように見えるけど、どことなく嬉しそうに頬を緩めて夢人さん達を見つめるマジェコンヌさん。

 

 でも、その隣にいるマジック・ザ・ハードは本当に呆れているみたいで額に手を当てて目を閉じていた。

 

「パパ、モテモテ?」

 

「あー、そうね。その内爆発しちゃうんじゃないかしら? それか、刺されちゃうかもね」

 

 夢人さん達を指さして尋ねるアカリちゃんに、アイエフさんは苦笑しながら答えていた。

 

 だけど、その答えが例えであっても物騒で怖いです。

 

 ……って、そんなことを考えてる場合じゃないよ!?

 

 私は立ち上がると、軽くお尻についた砂を払い落して、未だがやがやと騒いでいる夢人さん達の方を真っ直ぐに見つめて一歩踏み出す。

 

 夢人さんがいて、ユニちゃんやロムちゃん、ラムちゃんにナナハちゃん、それにお姉ちゃん達がいる毎日がいつまでも続いていきますように。

 

 皆と一緒にいられる、楽しい毎日が始まりますようにと、私は一歩踏み出していった。

 

 ……大好きな皆と愛しい人といる未来に向かって。

 

 

 …………

 

 

 そんなわけで、これからも私達の未来は続いていきます。

 

 犯罪組織がなくなり平和になったゲイムギョウ界で、今度は勇者じゃない夢人さんと一緒に過ごしていきます。

 

 皆と一緒に楽しい毎日を過ごしていけるといいな。

 

 ……その輪の中にフィーナちゃんがいないのは悲しいけど、私も夢人さんも、アカリちゃんだって絶対にフィーナちゃんのことを忘れない。

 

 フィーナちゃんが最後に言ってた言葉、私なりの解釈だけど、私達が覚えている限り、フィーナちゃんはずっと私達と一緒にいられると思う。

 

 だから、絶対に忘れないよ。

 

 私と夢人さんの娘で、アカリちゃんの妹のことを。

 

 ……ちょっとしんみりしちゃったね。

 

 そう言えば、今日だったよね?

 

 夢人さんのもう1つのスタート、上手くいくといいな。

 

 あれ? フェル君は聞いてないの?

 

 夢人さんは今頃……

 

 

*     *     *

 

 

 そこはさほど広くない部屋であった。

 

 部屋の中央にはパイプ椅子に座るスーツ姿の男性1人、その向かい側には同じくスーツ姿の男性が3人おり、机の上に置かれた紙を読んでいた。

 

「えー、では、これより面接を始めます。それではまず、お名前と軽く自己紹介をしてもらえますか?」

 

「はいっ!」

 

 ……パイプ椅子に座っている男性は就職面接を受けていたのである。

 

 3人が読んでいた机の上の紙は男性の履歴書であり、彼らはこれから男性が話す内容が書かれていることと矛盾がないかどうかをチェックしようとする。

 

 3人の中央に座っていた男性が履歴書から、パイプ椅子に座っている男性に視線を移すと軽くほほ笑んで頼み込む。

 

 パイプ椅子に座っていた男性は元気良く大きな声で返事をすると、自然と頬を緩めながら口を開く。

 

「私は御波夢人と申します。少し前まで、女神様と共にゲイムギョウ界の平和を守るための旅を続けておりました……」

 

 男性、夢人は少しだけ溜めるように間を開け、自信を持って堂々と背筋を伸ばして言葉を続ける。

 

「元勇者です」

 

 その表情は晴れ晴れとしており、さわやかな笑みが浮かべられていた。

 

                            TO BE CONTINUED...?




と言う訳で、今回はここまで!
そんなわけで、祝mk2編完結!!
ちょっと遅い時間の投稿になってしまいましたので、今後の執筆活動なども含めた報告やmk2編の反省会は明日、と言うより今日活動報告でやらせていただきます。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!
お気に入り登録して下さった皆様や、評価して下さった皆様、非ログインで読んでいた皆様、この作品をここまで読んでくださりました、すべての読者様に感謝を。
これにて一旦は閉幕となりますが、物語はこれからも続いていきます。
そちらの方も皆様に読んでもらえますよう、これからも頑張っていきます。
それでは、次回をお楽しみに!

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