超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
最近は暑過ぎて動いてないのに汗が止まらない(´д`∩;)
でも、明日から涼しくなるみたいですし、これで過ごしやすくなる……と思ったらまた一気に気温が下がるんですよね。もうこんな気温は嫌ですよ(||´Д`)o=3
それでは、 願ったものと手にしたもの はじまります
「ふーん、元に戻っちゃったんだ」
つまらなそうに眼下を見つめながら、少女はつまらなそうにつぶやいた。
少女はまだあどけなさを残す幼い顔立ちをしており、混じりけのない綺麗な黒髪を白いリボンで2つに縛っている。
まるで浴衣のようにひらひらとした薄い紅色の着物を着ており、ふわりと水色の羽衣が風に揺らめいている。
服装を除けば、一見どこにでもいるような容姿をしている少女だが、彼女が今いる場所が普通ではない。
……そこは周りに何もない空の上、ちょうどナナハ達の上空に少女は膝を折り曲げて座るような形で頬づえをつきながら眼下を覗き込んでいたのだ。
少女はまるでそこに見えない床があるのではないかと思ってしまうくらい、自然な形でその場に存在していた。
そんな少女のくりくりとした大きな黒い真珠のような瞳には、ここからでは到底視認できないはずの少女の姿が映り込んでいた。
「もー少しいけるかなーって思ってたんだけど、まあいっか。これであの子の準備も終わったし、後は待つだけかな……それにしても」
弧を描くように目を細めた少女はにんまりと笑みを浮かべている口元を手で覆い隠して眼下にいる人物、ナナハを見つめる。
2つに縛った黒髪はどう言う理屈かわからないが、ピコピコと上下に跳ねるように動きだし、まるで少女の心を表現しているようだ。
「あーもー、かぁーいーなぁー。可愛過ぎだよ、あの子。ワタシを萌え萌えキュンキュンにしちゃってさ」
口元は手で隠されているが、少女の頬はだらしなく弛緩しているようでえくぼがくっきりと浮かび上がっている。
周りにはベールやケイブ、レイヴィスもいるのだが、少女の瞳はナナハしか映していない。
細められた瞳は蕩けているように潤み、白い頬も朱色に染まっていることから、少女がナナハに対して並々ならぬ関心を持っていることが表情からもうかがえる。
「さっきまであーんなにおどおどしてめそめそしてたのに、急に凛々しくピシッとしちゃってさー。これがギャップ萌えって奴? それともただ単純でチョロイのかな? ……どっちにしろ、かぁーいーよぉー! かぁーい過ぎて、もーさいこー!」
けらけらと笑いながら少女はナナハに熱い視線を送り続ける。
ナナハにとって幸運だったのは、少女が上空高くにいたことであり、その熱視線に気付くことがなかったことだろう。
何故なら少女の熱には純粋な好意の他にも狂気を孕んでいるような暗くドロドロとした感情が織り交ぜられていたのだ。
「どーなるかなーどーなるかなー? ゲームが始まったら、あの子どーなっちゃうんだろーなー? あーもー、早く始めたいよー! そしたらそしたら、もっともーっとあの子と遊べるのになー! あー楽しみだなー! あの子………………どんな壊れ方をしてくれるのかな?」
大きく口を開けて間延びしたしゃべり方から一変、少女は声を低くして口元を軽く緩める。
楽しみを待ちわびている子どもの顔から、妖艶な大人の笑みに変化した少女の顔は、まるで別人のようであった。
だが、その表情はすぐになりをひそめ、再び少女の顔には天真爛漫を絵に描いたようなにこにことした笑顔が浮かび上がる。
「楽しみだなー。どんな音を出して、どんな色を散らせてくれるのかなー。かぁーいくて、期待値高めだから綺麗な花火みたいにパァーッて……」
〔見つけたわよ〕
少女が締まりのない顔でぶつくさと独り言を言っていると、彼女を囲むように4つの球体が浮上してきた。
〔あなたがあの子にあんなことをした方ですのね〕
〔よくもふざけたことをしてくれたものね〕
〔きっちり落とし前をつけてもらうわよ〕
緑、白、黒の球体、ゲイムキャラ達が少女を囲みながら怒りを滲ませて言葉を発する。
対して、少女は困ったように眉根を下げながら瞼を閉じて頭を抱えてしまう。
白いリボンで縛られている髪も心なしか萎えるようにだらりとしてしまっている。
「あーうー、見つかっちゃったよー。これじゃ怒られちゃうじゃん。もー、空気を読んで見て見ぬ振りとかしてろよー」
〔そう言うわけにはいかないわ。どう言うつもりか知らないけど、あなたがしたことは立派なルール違反じゃないかしら?〕
プラネテューヌのゲイムキャラの言葉に、少女の髪は元気を取り戻したように跳ね上がり、瞳をパチクリとさせて不思議そうに首をかしげてしまう。
「あれー? あれれー? どーしてあなたがゲームのことを知ってるの? ……あーっ、そっかー! あなたは全部覚えてるんだね!」
勝手に悩み始めた少女は1人で納得したように両手を打ち合わせると、プラネテューヌのゲイムキャラを得意げに指さす。
何の反応も示さないプラネテューヌのゲイムキャラを見つめ、自分の言葉が正しかったのだと思い込んだ少女はうんうんと頷きながらにっこりと笑いかける。
「なーんだ、それならそーと早く教えてよー。もー、ちょーびっくりしたじゃん。心臓が止まるかと思ったよー」
〔いいから答えてくれないかしら? あなたはどうしてあんなことをしたの? わざわざルール違反を犯してまであの子に干渉する必要はなかったはずよ〕
「ぶーぶー、ノリが悪いなぁー。あなただってワタシと同じ気持ちのくせに―」
〔……どう言う意味?〕
硬い声で尋ねてくるプラネテューヌのゲイムキャラに、少女は不満そうに唇を尖らせていた表情から信じられないものを見たような驚きをあらわにして目を見開いてしまう。
「うっそー。もしかして自覚なし? ……アハハハハハ、おっもしろーい!」
〔……ちょっと、さっきから何の話をしているのよ?〕
〔勝手に2人だけで話を進めないでちょうだい〕
〔プラネテューヌのもちゃんと説明してもらえませんこと?〕
腹を抱えて笑いだす少女に、プラネテューヌ以外のゲイムキャラ達がいぶかしむように尋ねる。
プラネテューヌのゲイムキャラはリーンボックスのゲイムキャラに話を振られても何も答えず黙ったまま少女だけを見つめていた。
しかし、少女の方は目尻に溜まった涙を指で拭うと、楽しそうに声を弾ませる。
「だってだってー、おかしいんだもん。ワタシと同じでゲームが始まるのを楽しみにしているのに、どーしてワタシのことを責められるの?」
〔……違うわ。わたしはゲームが始まるのを楽しみになんて……〕
「嘘うっそー! ブブブのブッブー! 残念不正解ってね! もっと素直になりなよー。あなたもワタシの同類で、いい子ちゃんでいられるわけないんだからさー」
楽しそうに両手で大きなバツ印を作りながら、少女は満面の笑みでプラネテューヌのゲイムキャラに語りかける。
見つかった当初とは違い、少女の言葉には妙な気軽さがあった。
そんな態度を続ける少女が癪に障ったのか、プラネテューヌのゲイムキャラは声を荒げる。
〔いい加減なことを言わないで! わたしはあなたと違う! あなたみたいにあんなふざけたゲームなんて……〕
「じゃあ、どうして何もしなかったの?」
〔っ〕
ふざける子どもの顔から感情を感じさせない無表情になった少女に、プラネテューヌのゲイムキャラは言葉を詰まらせてしまう。
それに構わず少女はプラネテューヌのゲイムキャラを冷たい目で見つめながら淡々と言葉を続けていく。
「あなたは知ってたんだよね? ワタシ達が企画したゲームのことを。だったらさ、どうして彼を止めなかったの? これから彼にどんなことが起こるのか、あなたは全部わかってるのに、どうしてそれを止めなかったの?」
〔そ、それは……〕
「どうして答えてくれないの? ワタシには急かすように答えろと言うくせに、どうして自分に都合が悪いことは答えてくれないの? ……まあ、無理もないよね。だって、あなたは……」
〔言わないで!!〕
悲痛な叫びがプラネテューヌのゲイムキャラから発せられ、ピリピリしていた空気が一段と重くなる。
だが、それでも少女は待ってましたかと言わんばかりに口角を大きく吊り上げて明るく言い放つ。
「おやおやー? 認めちゃったかなー? ワタシの同類だってことを、あなたの言うふざけたゲームを楽しみにしてるってことを?」
〔違う!! そうじゃないの!! わたしはただ、あの人を……〕
「うんうん、わかってるわかってる。いけないことだって、本当は駄目なことだってわかってるのに求めちゃってるんだよねー……アハハハハハハ、いーよいーよー! 今すぐにでも壊したくなるくらいにかぁーいーよー、あなた! もー、ゲームの楽しみが増えすぎて困っちゃうよー!」
必死に否定しようとするプラネテューヌのゲイムキャラを、少女は先ほどナナハを見つめていた時と同じ熱を持って見つめ続ける。
やがて、満足したように笑みを浮かべた少女は自分の体を回転させ、ゲイムキャラ達を見回して敬礼をするように人差し指と中指をピンと伸ばして額に添えた。
「ではではー、ワタシもちょーっと行かなきゃいけないところがあるから、ここでさよならバイバイしちゃうね」
〔なっ、待ちなさいよ!? まだ肝心なことが……〕
「大丈夫ダイジョーブ! ゲームが始まったら、ちゃーんと特等席に案内してあげるからさ! ……そんじゃまあ、バイバイビー!」
〔コラッ、待ちやが……チッ、消えやがったか〕
大きく手を振りながら空に溶けるように消えていった少女の居た場所をプラネテューヌのを除いてゲイムキャラ達は悔しそうに見つめる。
一方、プラネテューヌのゲイムキャラは少女の言葉を気にしているのか、悲しそうな雰囲気を纏っていた。
〔いなくなってしまったのなら仕方ありませんわね……それではプラネテューヌの、あなたとあの方がおっしゃっていたゲームとやらはいったい何なのですか?〕
〔……答える義理はないわ〕
〔んだと、おい!! テメェ、この期に及んでしらばっくれるつもりか!!〕
〔今がふざけている場合じゃないことは、あなたもよくわかってるでしょ? だから、さっさとあなたが知っているゲームの情報を……〕
〔できないのよっ!!〕
空気を切り裂くようにプラネテューヌのゲイムキャラが吠えたことにより、一瞬シンと静まりかえってしまう。
他のゲイムキャラ達も何も言うことができない。
それはプラネテューヌのゲイムキャラの声があまりにも辛そうで、泣いているように聞こえたからである。
〔言えないの。絶対に誰にも言っちゃいけないことなのよ。言ったら最後、わたしはあの人の思いを踏みにじってしまう。あの人が背負った覚悟をすべて無駄にしてしまうのよ〕
〔……わかったわ。もうゲームについては聞いたりしない。でも、これだけは答えて。あなたはあの女みたいに本当にゲームが始まるのを楽しみにしているの?〕
妥協案としてラステイションのゲイムキャラは、2番目に気になっていたことをプラネテューヌのゲイムキャラへと尋ねる。
ルウィーとリーンボックスのゲイムキャラは口を挟むことなく、視線だけでプラネテューヌのゲイムキャラに答えを催促する。
そんな3つの視線を受けたプラネテューヌのゲイムキャラは悲しそうに小さな声で答えを返す。
〔そう、ね。わたしはゲームが楽しみなわけじゃない。ただわたしはあの人を……〕
……救いたい、とつぶやかれた言葉は風の音にさらわれて儚く消えてしまった。
* * *
手放した槍を拾い上げると、付着していた土を払うようにベールは大きく横に薙ぐ。
そして、槍のどこにも違和感がないことを確かめたベールは隣にいるナナハへと視線を送り、1度頷くとわずかに頬を緩めた。
それを受け、ナナハも小さく口元を緩めて笑みを見せると、瞳を閉じて集中し始める。
瞬間、ナナハの足元から光の柱が発生し、髪は緑色に、体にトゥインクル型のプロセッサユニットが装着されていく。
……しかし、変化はそれだけのとどまらない。
暴走していた時と同じように金色のラインから稲妻のような電流が発生する。
バチバチと火花を散らす稲妻は、やがてプロセッサユニット全体に走り、黄金色の輝きを放つ。
すると、白を基調としていたトゥインクル型のプロセッサユニットに薄い黒が混じり、グレーに変化する。
プロセッサユニットの変化に驚いたナナハは、全身を確かめるように見ながら不思議そうに口を開く。
「あれ? 少し変わった? ……と言うより、焦げてる? まあ、いいかな」
自分の体を電流のような物が走ったと言う自覚があるため、ナナハにはまるでプロセッサユニットが焦げているように見えた。
しかし、すぐに気を取り直してジャッジ・ザ・ハードへと撫子の刃を向けて顔を引き締める。
「今はジャッジ・ザ・ハードを止めなきゃね。いこう、ベール姉さん」
「え、ええ。そうですわね」
ナナハのプロセッサユニットの変化に驚いていたベールも声をかけられることで正気に戻り、槍の先端をジャッジ・ザ・ハードへと向ける。
『はああああああああっ!!』
2人は声をそろえて同時にジャッジ・ザ・ハードへと飛翔していく。
その声が聞こえたのか、ジャッジ・ザ・ハードを攻撃していた冒険者達は一斉に距離を取るように後ろに下がった。
冒険者達の攻撃が止んだことで、最初は何事かと疑問に思っていたジャッジ・ザ・ハードだったが、すぐに自分に向かってくる2人の姿を視認し、迎え撃つために拳を振り上げる。
「だああありゃあああ!!」
正面から来る2人に向かってジャッジ・ザ・ハードは真っ直ぐに拳を突き出す。
しかし、拳による攻撃を2人はギリギリのタイミングで交わし、それぞれジャッジ・ザ・ハードの左右へと回り込むように飛んで行く。
「せいっ!!」
「んぐっ!?」
突き出していた拳側、伸びきった腕に向かってベールは弾くように槍を振るう。
これがもし、ジャッジ・ザ・ハードの鎧が完璧な状態であったのなら、彼は苦しそうな声を上げることなく、ベールの攻撃に耐えられたであろう。
しかし、今鎧には無数の罅が入っており、その耐久性は大幅に低下している。
これはギョウカイ墓場で夢人が保護膜の施錠に成功したからだ。
それにより、今まで供給されていたシェアエナジーが途切れ、ジャッジ・ザ・ハードの体は鎧ごと崩壊を始めていたのである。
「ハァッ!!」
「ぐおっ!?」
槍に弾かれ体勢を崩すジャッジ・ザ・ハードに、今度はナナハの撫子が襲いかかる。
ナナハは自分に向かって倒れるように体勢を崩すジャッジ・ザ・ハードを打ち上げるように、撫子を大きく振り上げる。
すると、ジャッジ・ザ・ハードは振り子のようにベールのいる側に戻っていく。
「もう1度!!」
「がはっ!?」
戻ってきたジャッジ・ザ・ハードに、ベールは体を回転させて勢いをつけた槍の一閃をお見舞いする。
遠心力がついた分、先程よりも威力が上がっていた槍の一撃に、ジャッジ・ザ・ハードは堪らず悲鳴を上げてしまう。
鎧の装甲も槍によって削られ、全身に入っている亀裂も深くなる。
「な、めるなあああ!!」
再び倒れかかるジャッジ・ザ・ハードは、自分を待ち構えて撫子を構えるナナハの姿を捉え、無理やり体を捻る。
無理に体勢を変えたせいで、ジャッジ・ザ・ハードの全身に痛みが走り、鎧も砕けて中に破片が舞ってしまう。
しかし、それでもジャッジ・ザ・ハードは痛みに耐え、全体重をかけてナナハを押し潰そうと拳を振り下ろす。
そして、その拳はナナハに直撃し……彼女の体は幻であったかのように消えてしまう。
「なっ!?」
ジャッジ・ザ・ハードはナナハのその行動を3度見ている。
ファントムダイブ、風の魔法で作られたナナハの分身はジャッジ・ザ・ハードの拳に当たると同時に霧散したのである。
また出し抜かれたとジャッジ・ザ・ハードの思考が驚愕から怒りへと変わるが、倒れる体と拳の勢いは止まらず、結果拳が地面に突き刺さったことにより転倒することだけは避けられた。
「はあああああっ!! っ、せいっ!!」
「っ、ぐわああああああ!?」
めり込む拳を中心に円状に陥没した地面からジャッジ・ザ・ハードが腕を引き抜くよりも早く、上方からナナハが撫子を振り下ろす。
飛びかかるように勢いをつけた攻撃であったが、撫子の刃はジャッジ・ザ・ハードの肩で止まってしまう。
それを受けてナナハは一瞬悔しそうに顔を歪めるが、吠えるように気合を入れ、ジャッジ・ザ・ハードの方で止まっていた撫子の刃に風の魔法を纏わせる。
さらに刃を押しだすように風で後押しさせながら、ナナハは撫子を振り抜く。
脆くなっていたところに撫子による新しい亀裂、風の圧力を受け、ジャッジ・ザ・ハードの腕は胴体から切り離されてしまう。
仰け反るように体勢を崩すジャッジ・ザ・ハードは切断された肩を腕で押さえながら、ベールとナナハを視界に入れて目つきを険しくする。
「こんなところで……私は……私は……オレはあああ!!」
軋む音を立てながら崩壊していく鎧に構わず、ジャッジ・ザ・ハードは怒りの咆哮を上げながら2人へと拳を振り上げて向かっていく。
それに応えて2人もジャッジ・ザ・ハードへと飛翔する。
2人は示し合わせたかのようにジャッジ・ザ・ハードの拳を、今度は上下に避ける。
「はあああああ!!」
「これでっ!!」
上方に避けたベールは槍を振り下ろし、下方に避けたナナハは撫子を振り上げて、交差するようにジャッジ・ザ・ハードの突き出された腕の肩へと食い込ませる。
鋏で挟まれたように上下から来る槍と撫子の刃によって、ジャッジ・ザ・ハードの残された腕も肩口から切断されてしまう。
「フィニッシュ」
「ですわ」
「……クソがああああああ!?」
2人が静かにつぶやくと、遅れて切断された腕が地面に落ち、鎧がショートしたようにジャッジ・ザ・ハードの全身に青い稲光による放電現象が巻き起こる。
両腕を失くしたジャッジ・ザ・ハードは、やがて足として機能していた部分も胴体から剥がれるように地面に横たわり、頭部のカメラも光を消して項垂れてしまう。
そのまま胴体は何の抵抗も見せることなく地面へと落下し、横たわるのであった。
* * *
「……どうやら各地のキラーマシンは動きを止めたようだよ」
「それってネプギアかゆっくんが上手くやったってことだよね?」
「はい。暴れているモンスター達はまだいるそうですが、それも徐々にですけど収まりつつあるようです」
プラネテューヌの教会、通信機を片手に連絡を受けていたケイが嬉しそうに頬を緩ませながら、報告された内容を口にする。
その意味を理解しているネプテューヌ達の顔にも笑みが浮かぶ。
「後の問題はリーンボックスとラステイションで暴れている奴、そしてギョウカイ墓場だけね」
「まっかせてよー! 今のわたしは色々と元気があり余り過ぎて噴火しそうなんだから!」
チカから向けられた視線の意味を理解し、ネプテューヌは満面の笑みを浮かべて親指をグイッと上げる。
うずうずしだしたのか、落ち着きがないように体を動かして黙って転送装置の設定を書き換えているマジェコンヌへと顔を向ける。
「転送装置の準備は?」
「もう少し待て……よし、これで」
ネプテューヌの方を向きもせず、転送装置のコンソールに指を走らせていたマジェコンヌだったが、最後に満足そうに口角を上げて1つのボタンを押した。
すると、転送装置に付けられているランプは光だし、重低音を響かせながら起動する。
「さあ、準備ができたぞ。さっさと位置につけ」
「ラジャー!」
急かすようなマジェコンヌの指示に、ネプテューヌは敬礼しながら小走りで転送装置へと近づく。
そして、自身も転送装置のコアとしての役割を果たそうとマジェコンヌが動こうとした時、急に部屋の扉が開く音が聞こえてくる。
不審に思った全員が扉の方へと視線を向けると、そこに立っていた人物の姿に驚いて目を見開いてしまう。
……ただ1人、にやりと笑うマジェコンヌを除いて。
「随分と遅いお目覚めではないか? このまま眠ったままになってしまうのではないかと思っていたぞ」
「……返す言葉もありません。申し訳ございません」
「ふん、皮肉の通じない奴だな」
からかうようにマジェコンヌが話しかけると、部屋に入ってきた人物は恭しく膝をついて頭を垂れた。
その姿を見て、マジェコンヌは苦笑してしまう。
「最初に聞いておくが、貴様は自分を利用しようとした私に何故まだそのような忠誠を誓うのか?」
「それは愚問です」
マジェコンヌの問いかけに、その人物は凛々しく眉を上げ、口元に軽く笑みを浮かべながら宣言する。
「私、マジック・ザ・ハードはどのようなことがあっても犯罪神様……いいえ、マジェコンヌ様のためにこの力を振るうことが我が使命、故に今ここに再び誓わせていただきます。主であるあなた様に尽くすと」
* * *
〔……ん、んん……私はいったい……〕
「よう、気がついたみてぇだな」
リンダは声を発したワンダーを見て、ほほ笑みながら安堵の息をこぼす。
ワンダーの今の状態はシェアエナジーによって構築されている刃ないだけで、フェンサーモードのままである。
前輪と後輪の誘導装置が故障してしまった以上、ビークルモードに戻ることもできずに床に転がっていたのだ。
「で、体の調子はどうなんだよ?」
〔うむ……簡易検査を実行した結果、私のAIにはまったく問題は起こってないらしい〕
「そっか……んなら、後で体を修理すりゃ、元通りになるってわけだ」
〔その通りだ……心配をかけてすまなかったな、リンダ〕
ぶっきらぼうに尋ねてくるリンダにワンダーは今の自分の状態を軽く説明する。
それを聞き、リンダは笑みを深めると倒れているワンダーの体を優しくなで始める。
「ったく、ハードブレイカーの時も思ったけどよ、テメェも勇者気取りも無茶し過ぎだぜ……まあ、無事でよかったがな」
悪態をつきつつ、リンダは小さな声で素直に自分の心情を吐露する。
その声を拾っているにもかかわらず、ワンダーは敢えて聞こえてない振りをしてリンダの言葉を甘んじて受け入れる。
無茶した自覚がある分、ワンダーはリンダに何も言い返すことができないからだ。
〔……ん? そう言えば、夢人はどこに行ったんだ? 姿が見えないようだが……〕
「勇者ならフィーナの所に向かいました」
しんみりしつつもどこか今の空気がむずがゆいものだと感じたワンダーは、話題を変えるため姿の見えない夢人の所在を尋ねる。
すると、エヴァが頬を緩ませながら答えを返す。
「彼はフィーナを止めるため、そして彼女の本当の願いを叶えるために走って行きました……この近くにある転送装置で塔の外に送りましたから、もうそろそろ……」
〔……そうか〕
エヴァの説明にワンダーは短く返事をして、フィーナの所に向かっている夢人へと思いを馳せる。
それを口に出すことは無粋であると、ワンダーは感じていた。
壊れる覚悟でいた自分を救ってくれた夢人をワンダーは信じ抜くことにしたのである。
「では、この体もそろそろイストワ―ルに返すとしましょう」
「そうかよ……ってか、結局フィーナの本当の願いっていったい何だったんだ?」
疑問を口にするリンダの姿に、エヴァは顔を和らげて頬に手を当てながら答える。
「ふふ、その答えはこの部屋のパスコードと同じなんですよ。私も勇者もただ彼女に……」
「ん? どうしたんだよ、おい?」
「……あ、あれ? ここは……リンダ、さん?」
言葉の途中で急に俯いて黙り始めるエヴァであったが、次に顔を上げた時には瞳の色が青に変わっていた。
本来の人格であるイストワ―ルに戻ったのである。
イストワ―ルとしては、突然場面が切り替わったように目の前の景色が変化したと錯覚してしまい、目の前にいるリンダの存在にすら懐疑的になっていた。
「私は確か、エヴァと言う人と……それにまた……」
「ああもうクソッ、肝心なところを言わずに消えやがって」
〔まあいいではないか。それで、イストワ―ルは体に問題はないか?〕
「え、ええ、特に問題は……それよりも、その体はいったいどうしたんですかワンダーさん!?」
〔うむ。では、助けが来るまで長い話になるが、1から説明するとしよう。まず君と夢人が連れ去られた後なのだが……〕
悔しそうに地団太を踏むリンダを横目に、ワンダーは自分の状態を見て慌てるイストワ―ルに今の状況を話していく。
今の彼らにできることはもうない。
ワンダーもビークルモードになれないことから、助けが来るまでギョウカイ墓場から抜け出すこともできない。
フィーナとネプギア、アカリのことを夢人に任せ、ワンダーは戸惑っているように目を瞬かせるイストワ―ルに今まで起こったことを語るのであった。
* * *
「ぐっ、もうやめてよ、フィーナちゃん!? そんなことしても何の意味もないんだよ!?」
「うるさいっ!! その名前で呼ぶな!!」
ネプギアは苦しそうに顔を歪めて、振り下ろされたゲハバーンの刃をグロリアスハーツで受け止める。
フィーナも黒い塔から発生した光の柱には驚いたが、すぐに自分の目的を思い出してネプギアに斬りかかったのだ。
その場にはすでにアカリの姿はなく、ネプギアの体の中に戻っている。
本当なら最初の一閃でアカリを斬り捨てるつもりだったフィーナは内心で舌打ちをしながら、ネプギアから投げかけられる言葉に烈火のごとき怒りをあらわにする。
「意味ならある!! 私が父様と一緒に生きるためには、絶対に必要なことなのよ!!」
フィーナはゲハバーンを振り回しながらネプギアを激しく睨みつつ叫び続ける。
「父様は勇者で、このゲイムギョウ界を歪ませるバグなのよ!! だったら、私が『再誕』の女神である“アカリ”になれば、私もずっと父様と一緒に生きていられる!! それだけじゃない!! “ネプギア”になれば、私は完璧な女神に、父様も私を必要としてくれる!!」
「っ、そんなの間違ってるよ!!」
振り下ろされるゲハバーンを弾き、ネプギアは真っ直ぐにフィーナの瞳を覗き込む。
それを不快に思ったフィーナは顔をしかめると、一旦距離を取るために飛び退った。
「何でそんな悲しいことを言うの!! フィーナちゃんはフィーナちゃんでしょ!! 私でも、アカリちゃんでもない。フィーナちゃんなんでしょ!!」
「……さい」
「“カット”の力を使ったところで、フィーナちゃんは私にもアカリちゃんにもなれないんだよ!! だから、もう……」
「うるさいうるさいうるさい!! 黙れっ!!」
瞳を潤ませながら訴えてくるネプギアの叫びを聞くと、フィーナは目を伏せて肩を震わせる。
だが、すぐにネプギア以上に大きな声を上げて、まるで聞きたくないと言わんばかりに激しく顔を左右に振る。
顔を上げると、フィーナは憎悪に瞳を曇らせてネプギアを鋭く睨みながらゲハバーンを構え直す。
「私は『再誕』の女神よ!! フィーナじゃない!! デルフィナスじゃない!! 『再誕』の悪魔なんかじゃない!!」
「フィーナちゃん……」
「だから、その名前で呼ぶな!! 私は“アカリ”で“ネプギア”な……っ!?」
フィーナの叫びは、ネプギアには悲痛なものに聞こえてくる。
自然とネプギアのフィーナを見る目は悲しそうに潤みを増し、思わず名前をつぶやいてしまう。
それがさらにフィーナの怒りに油を注ぎ、彼女は再びネプギアに斬りかかろうと膝を曲げた。
……だが、次の瞬間フィーナを目を見開いてすべての動きを止めてしまう。
体はネプギアに斬りかかろうとする不自然な形で止まってしまった。
動いているのは、焦点が合っていないかのように揺れ続ける瞳とわなわなと震える唇のみ。
何が起こったのかわからないフィーナが真っ白になってしまった頭で思考を続けようとした時、その声が響きだす。
(その体、我が貰うぞ)
低く頭の中に響いてくる声の正体を理解すると、フィーナの体は急に仰け反りだす。
すると、体が縦に裂かれたように傷が浮かび上がり、赤い何かが噴き出していく。
血のような赤い何かが2人の間に舞い散って消えていくのを、ネプギアは呆然と見つめることしかできない。
後頭部から地面へと倒れていくフィーナの瞳は、まるでガラス玉のように何の光も映していない。
やがて、地面に倒れ力なく四肢を投げ出すフィーナの姿は、彼女が嫌っていた人形そのものであった。
と言う訳で、今回は以上!
ついに次回でmk2編の最終話です。
ここまで本当に長かったですけど、ついに節目の部分が来ましたよ(๑•̀ㅂ•́)و✧
それでは、 次回 「さよならはいらない」 をお楽しみに!