超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
気がつけば、こんな時間になっていました。
やべっ、今日もう寝れるかわからないや。
それでは、 ここから始まる小さなキラキラ はじまります


ここから始まる小さなキラキラ

 ……意味がわからない。

 

 何で叩かれなきゃいけないの?

 

 意識しているせいなのか、叩かれた頬が妙に熱い。

 

 指で触れると、頬はさらに熱くなっていくような気がする。

 

「初めて、ですわね。あなたにこうやって手を出す日が来るなんて思いもしませんでしたわ……1度、降ろしますわよ」

 

「……うん」

 

 私を睨むように見つめていたベール、がふわっと表情を崩した笑顔を見て、ただ頷くことしかできなかった。

 

 ベール、は浮いていた体を地面に下ろすと、私の腰に回していた腕を離して、今度は両手を包むように握ってきた。

 

 抵抗は……できなかった。いや、しなかった。

 

 するりと肩に置いていた私の手を握るベール、はどこか寂しそうに見えて何でそんな顔をするのかわからない。

 

 本気で逃げようと思えば、今すぐにでもこの手を振りほどいて走ることができる。

 

 でも、今の私にはこの手を振り払うことができない。

 

 疑問が頭の中を埋め尽くし、ただ呆然と立ち尽くしたままベール、を見つめることしかできない。

 

 ……何で私をそんな目で見つめてくるの?

 

「出会った時から、あなたはわたくしに1つもわがままを言わないで、女神の力も簡単に制御してしまったりして本当に手間のかからない子でしたわね。それが姉として嬉しくもあり寂しくもあったのですけど」

 

 懐かしむようにベール、は頬を緩めているけど、やはりどこか寂しそうに眉根を下げている。

 

「そんなあなたをわたくしは1度も叱ったことがありませんでしたわ。でも、今日初めてあなたの頬を叩いて気付いたことがありますわ……ナナハ」

 

 名前を呼ばれた瞬間、思わず肩が跳ね上がってしまう。

 

 その声があまりにも優しく私の耳に響いてくる。

 

 でも、そんな声を出したベール、は今にも泣き出しそうな顔になっていた。

 

「わたくしは今まであなたの優しさに甘えてばかりいたのですね。本当にごめんなさい、ナナハ」

 

「えっ……」

 

 ベール、の口から出た言葉が予想外の物で私は目を丸くして間抜けな声を上げてしまう。

 

 ……私の、優しさ?

 

 違う。私はベール、に優しくなんてしてない。

 

「あなたがわたくしのことを姉と呼んでくれることが嬉しくて、何もしてあげられなくてごめんなさい。必死に歩み寄ろうとしてくれていたのに、わたくしは逃げてばかりで、いつも本当のあなたを見れていませんでしたわ」

 

 聞こえてくる声は、まるで懺悔の言葉だった。

 

 いや、実際にベール、は後悔をしているのだろう。

 

 私の両手を包む手がわずかに震えているような気がする。

 

 ……本当の私、か。

 

 ベール、が気付かなくても無理はないよ。

 

 だって、それは私が悪いんだもん。

 

「でも、乱暴なやり方でもこうして触れることができて、わたくしにもユニちゃん達が言っていたことの意味がよくわかりましたわ」

 

 私の手を包んでいたベール、の手がゆっくりと顔に近づいてくる。

 

 そのまま撫でるようにベール、は頬に指を添わせるのだけど、何だか指が濡れているように感じた。

 

 手に汗をかいてた? ……ううん、いつもしている手袋は破けていたけど、むしろベール、の手らしくなく乾燥しているみたいでカサカサしていた。

 

 じゃあ、どこから水が……

 

「あっ……私、泣いてるの……?」

 

「気が付いていませんでしたか? わたくしがあなたの手を包んだ時には、すでに泣いていましたのよ」

 

 私のつぶやきにベール、は困ったように笑いながら答える。

 

 ……そっか、私泣いてたんだ。

 

 自覚して初めて視界の端がぼやけていたり、頬に熱い何かが触れていたことに気付けた。

 

 でも、自覚しても尚、私はそれをどこか他人事のように感じている。

 

 涙を流しているってわかっても、別に悲しくも嬉しくもない。

 

 あるのはただ、何で泣いているのかと言う疑問だけ。

 

「ユニちゃんが言っていましたわ。前に家出をした時、わたくしとチカのことを嬉しそうに語るあなたの姿を見たと」

 

「ユニが?」

 

「ええ。今のあなたは混乱していて、周りが見えなくなっているとも言ってましたわ……その言葉に間違いはありませんでしたわね。覚えてらっしゃいますか? 先ほどまであなたがどんな状態でいたのか」

 

「……少しだけ」

 

 ベール、の問いに私は目を伏せてしまう。

 

 ……ギャザリング城を飛び出して、途方に暮れていた私の耳に知らない声が聞こえてきて、気が付けば体の中から力がどんどん湧いてきた。

 

 望めば望むほど、私は自分の力が強くなっていく不思議な感覚に身を委ねていった。

 

 そこに疑問を挟む余地などなく、ただ強い力だけを望んでいた。

 

 ……だって、それだけが私の運命なんだから。

 

「今はどうしてあんなことになっていたのかは聞きません。ですが、これだけはどうしても答えてもらえないでしょうか?」

 

「……なに?」

 

「ナナハは、今でもわたくしの妹に……わたくしとチカの家族になりたいと思っていますか?」

 

「っ」

 

 尋ねられたことの意味を理解した瞬間、私は顔を強張らせて唇を噛んだ。

 

 ……妹、家族。

 

 自分がそれにどう答えたいのかわかっているからこそ、口を開かないように下唇を強く噛んで我慢する。

 

 口の中に血の味が広がっていくけど、絶対に今は口を開きたくない。

 

 私にはそれを言うことができない……しちゃいけないんだから。

 

「わたくしが姉としても、家族としても失格なのは重々承知していますわ。散々あなたを蔑ろにしてきたのに、今更都合のいいことを言っているのも理解してます……ですが、わたくしはできることならあなたの姉で、家族でいたい。そう、願っているのですわ」

 

 ふと視線を上げると、ベール、は涙を流していた。

 

 泣きながら私に懇願していたのだ。

 

 ……でも、言えないよ。

 

 これ以上ベール、の顔を見ていると決心が鈍りそうな気がして、私は再び顔をそらした。

 

 すると、頬に当たっていたベール、の指がピクッと反応して、ゆっくりと離れていく。

 

 離れた指に合わせて、何故か私の顔も次第に上がってしまう。

 

 そこで目に留まったのは、さっきまで私の頬に触れていた手を柔らかくもう片方の手で包んでいるベール、の姿だった。

 

 その表情は泣きながら笑っていたのだ。

 

「……図々しい願いでしたわよね。わたくし、またあなたの気持ちを無視して、勝手なことをしようとしていましたわ」

 

 私は目が離せなくなってしまった。

 

 私はベール、にこんな顔をしてもらうつもりはなかった。

 

 こんな悲しい顔をさせるつもりはなかったのにっ!

 

「ですが、安心してくださいまし。例え、あなたがわたくしの妹でなくても、リーンボックスの女神としてあなたを守ってみせますわ。ですから、ナナハは安全な所に……」

 

「……がう」

 

「ナナハ? どうかなさいまし……」

 

「違うっ!!」

 

 もう抑えることができなかった。

 

 気が付けば、ベール姉さんの言葉を遮って叫んでしまった。

 

「ベール姉さんは何も悪くない!! 悪いのは全部私!! 私が悪いの!!」

 

 溢れだした気持ちは、自分でも止めることができなくなった。

 

 言わないようにしていた言葉がどんどん口から出ていく。

 

「私もベール姉さんとチカ姉さんの妹で、家族でいたいよ!! それだけじゃない!! 夢人やネプギア達ともずっと一緒にいたい!! ……でも、できないよ」

 

「そんなこと……」

 

「ううん、できないよ。だって、私は『転生者』で、必要のない存在なんだもん」

 

 最初は感情のままに叫んでいたけど、最後にはその事実を認めたくなくて声が小さくなってしまう。

 

 『転生者』の私……偽物の女神はゲイムギョウ界に必要ないんだ。

 

「シンも言ってたでしょ? 本当だったら、私はゲハバーンで『才能』を“カット”されて、女神じゃなくなってたはずだって。ベール姉さんやネプギア達と違って、私はゲイムギョウ界に必要のない女神だったんだよ」

 

「っ、違いますわ!? ナナハは確かに生まれは特殊ですが、わたくし達と同じ女神ですわ!?」

 

「違うよ。私は与えられた『才能』のせいで女神を演じていた偽物の女神……その証拠に、私は夢人を選んでベール姉さん達を捨てようとしていたんだよ」

 

「そ、それは……」

 

 言い淀むベール姉さんの姿を見て、私は自分の胸が痛むのを感じた。

 

 ……本当は夢人のことを引き合いに出すつもりはなかった。

 

 夢人のことを逃げ場として利用しているようで、自分の愛が嘘臭く感じてしまうから、絶対にしないと決めていたのに。

 

 だって、悪いのは全部私なんだから。

 

 今こうしてベール姉さんを泣かせてしまっているのは私なんだから。

 

「女神の誇りなんて知らない。役目なんてどうでもいい。私は『特別』な力なんていらなかった……だから、私はゲハバーンの話を聞いて、少しだけ期待していたの。これで人間に……北条沙織だった時のような『特別』なことのない普通の人間になって、夢人と同じ時間を生きられるんじゃないかって」

 

 浅ましくも私はそんな未来を想像してしまっていた。

 

 自分で望んだ第2の人生なのに、望んだ力なのに、私はいざそれを手に入れたら、今度は捨てたくなってしまっていた。

 

 勝手に夢見てたくせに、それが想像していたものとは違うからって癇癪を起こす子どもそのものだ。

 

 ……いっそ、私なんて生まれなければよかったんだ。

 

「でも、それはできなかった。シン達の計画通りなら夢人はいなくなって、そうでなくても夢人は私じゃなくてネプギアを選ぶ未来しかなかったんだ」

 

「まだそう決まったわけではありませんわ。第一、それを決めるのは夢人さんですし、ナナハにだってまだチャンスは……」

 

「無理、だよ。私はネプギアに勝つ自信なんてない……ううん、最初から勝ち目なんてなかったんだ」

 

 自分から敗北宣言をしているようで、ベール姉さんには私の姿が実に情けなく映っているんだろうな。

 

 でも、私の恋は最初から勝ち目のないものだったんだ。

 

 だって、恋を自覚した時には夢人の中にネプギアと言う大きな存在がいたんだから。

 

 ……そこに私が入り込む余地なんて、最初から用意されていなかったんだよ。

 

「初めて出会った時から夢人はネプギアのことが好きで、それは今でも変わらないでずっと思ってる。そんなネプギアが夢人に愛されている事実に気付いた時、私の恋は終わっちゃったんだ」

 

「でも、それは不可抗力で、決してネプギアちゃんが意図していたわけでは……」

 

「わかってる。ネプギアが夢人の気持ちに気付いたのは偶然で、仕方なかったことだってことはわかってる……でも、できることなら気付かないでいて欲しかったよ。だって、私はまだ夢人のことを諦めたくないんだからっ!!」

 

 叫ぶと同時に涙が溢れてくる。

 

 ああ、もう駄目だ。

 

 考えないようにしていた不安まで頭の中を駆け巡ってる。

 

 ……こんなこと、本当は考えたくないのにっ!!

 

「私はまだ夢人に私の輝きを見てもらってない!! ネプギアよりも強くキラキラして、絶対に夢人のことを夢中にさせるつもりだったのに!! だから、告白もしたし、デートもした!! ネプギアよりも私を見て欲しいってお願いもしたのに、夢人はいつまで経っても変わらない!! 出会った時から変わらないままネプギアに夢中で、私の輝きに見向きもしてくれない!!」

 

「それは違いますわ! 夢人さんはナナハのこともちゃんと大切に……」

 

「うん、そうだよ。私はいつまで経っても夢人の大切な女の子から変われていないんだ。ネプギアと同じステージに立つことすらできていないんだよ」

 

 言葉にすると、何だかどうでもよくなってしまいそうで頬が緩んでしまう。

 

 悲しいはずなのに、笑いたくないはずなのに、何だか可笑しくて口元に笑みが浮かんでしまう。

 

「悔しいよ。私とネプギア、いったいどう言う差があるんだろうね。ルックスかな? それとも性格? ……でも、もう関係ないよね。私の輝きは夢人には届かない。見てもらう資格すら失くしちゃったんだから」

 

 ……そう、私は自分から夢人の1番になることを諦めてしまった。

 

 もう胸を張って夢人のことを愛しているとも言えないんだ。

 

「私はきっと夢人のことをずっと利用していたんだよ。自分がキラキラと輝いて生きたいから、私よりも強く輝いているように思えた夢人の傍にいたいと思った。でも、きっとこれは恋じゃなかった。ただの依存だったんだよ」

 

「ナナハ……」

 

 だって、そう思わなきゃ私はきっとネプギアのことを憎んでしまう。

 

 恋を嘘だと決めつけなきゃ、理不尽にわめき散らして夢人とネプギアを困らせるだけだ。

 

 それは私が最も否定してはいけないと思っていた夢人の好きも、ネプギアの好きも否定してしまうことになってしまう。

 

 ネプギアが逃げていた時とは違い、今度は完全な八つ当たりも同然の自分勝手な感情で。

 

 あの時はネプギアの本音を聞き出すために、2人のためと自分に言い聞かせながらああやって追い詰めることしかできなかった。

 

 でも、今回は完全な私怨だ。

 

 2人の気持ちを無視して、自分勝手な思いを押し通そうとしているだけなんだ。

 

 だから、私はこの恋を嘘にしなければいけない。

 

 夢人が私を救ってくれたことを嘘にしないためにも、これ以上夢人のことを都合のいい逃げ場にしないためにも。

 

「ただ熱に浮かされて錯覚していたんだよ。夢人なら、私のことを照らしてキラキラと輝かせてくれるって。そうして、初めて私はこのゲイムギョウ界に生きてるって実感を持てるはずだって勘違いを……」

 

「ナナハっ!!」

 

「っ!?」

 

 頭の中の不安を吐きだしていく私の両肩をベール姉さんはいきなり強く掴んできた。

 

 驚いてハッとした私の頭の中は一気に真っ白になってしまう。

 

「そんな悲しい嘘をつく必要はありませんわ。わたくしはあなたがどれだけ夢人さんのことを好きなのか、ちゃんとわかってますわよ」

 

「……そんなこと、ない。私は夢人のことなんて、最初から好きじゃ……」

 

「だったら、辛そうに泣きながら笑わないでくださいまし。自分の気持ちに蓋をしようとしては駄目ですわ」

 

「あっ……」

 

 ベール姉さんの優しい言葉が耳に響くたびに、私の中で何かが熱を持ってくる。

 

 胸の真ん中あたりが段々と温かくなってきた。

 

「あなたが夢人さんを思う気持ちは、決して依存なんかじゃありませんわ。わたくしが保証致します。ナナハは夢人さんに恋していらしたんですわよ」

 

「……違う。私はただキラキラしたいから、夢人を利用しようと……」

 

「利用するだけの相手と一緒に年をとって死にたいと思えるはずがありませんわ。あなたが一生をかけて夢人さんを愛そうとした証拠ですわよ」

 

「……でも……ううん、やっぱり違うよ。私は女神でいたくなかったから、夢人を理由に死にたかっただけで、愛してなんて……」

 

「だったら、あなたはどうして女神の力を使っていたのですか?」

 

「それは……」

 

 どう答えていいのかわからず、私はベール姉さんから顔をそむけてしまう。

 

 ……女神の力を使ってた理由、私が何をしたかったのかも本当はわかってる。

 

 でも、それを口には出せない。

 

 これ以上、ベール姉さんに……

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

「っ!? ベール姉さん、危ない!?」

 

「なっ!? くっ、ナナハ!?」

 

 視界の端にジャッジ・ザ・ハードがものすごいスピードでこちらに向かってくる姿が見えた。

 

 慌てて警告すると、あろうことかベール姉さんは私を強く抱き寄せてきた。

 

 私を守るように背中を丸めるベール姉さんに、最悪の未来を想像して背筋が凍りつく。

 

 このままじゃ、私を庇うベール姉さんがジャッジ・ザ・ハードのポールアックスにやられてしまう!?

 

 一瞬でそのことを察した私は急いでベール姉さんの腕から抜けだそうとした。

 

 しかし、ベール姉さんは逆に私を抱きしめる腕の力を強め、いくら体を押しだそうとしても動いてくれない。

 

 ……嫌だ、やだよ!? こんなの絶対に嫌だよ!?

 

 私はこんなことさせたくなかったのに!?

 

「ブラックレーベル!! いきなさい!!」

 

「ぬっ、うおっ!?」

 

 耳に聞きなれた声が聞こえると同時に、視界に赤と青で構成されている無数の光弾が宙を舞っている。

 

 続いてジャッジ・ザ・ハードの驚く声が聞こえてきた瞬間、ベール姉さんは私を抱き寄せる腕の力を弱めた。

 

 その隙をついてベール姉さんから離れると、そこには私の予想していた人、ケイブがジャッジ・ザ・ハードへと弾幕を放っている姿が目に入った。

 

 それに……

 

「はあああああああっ!!」

 

「っ、チィッ!?」

 

 弾膜の隙間を縫うように駆け抜けているレイヴィスが、その手に持っている剣でジャッジ・ザ・ハードへと斬りかかっていた。

 

 弾幕に対処するだけで辛そうにしていたジャッジ・ザ・ハードは、奇襲染みたレイヴィスの攻撃に対してポールアックスでの防御を選択した。

 

 しかし、レイヴィスの剣はポールアックスを両断して、ジャッジ・ザ・ハードは悔しそうに舌打ちをしながら弾幕の嵐を抜けるために後退していく。

 

「今だ!! 全員で遠距離から攻撃開始!!」

 

『了解!!』

 

「んぐぐっ」

 

 さらに、レイヴィスの合図と共に武装した人達が一斉に後退したジャッジ・ザ・ハードへと発砲を開始する。

 

 この人達はいったい……

 

「どうやら間に合ったようですね、ベール様」

 

「ケイブ、それにレイヴィスまで……どうしてこちらに?」

 

「俺達はリーンボックス周辺で暴れているモンスターとキラーマシンを担当していたんだが、さっき急にキラーマシンが動きを止めてな。だから、冒険者や防衛隊の職員を集めて救援に来たと言うわけだ……まあ、奴らもナナハを助けるためにここに来る気満々だったがな」

 

 レイヴィスが柔らかく口元に笑みを浮かべながら、私の方を見つめてくる。

 

 ……私を助けるために?

 

 意味がわからずきょとんとしていると、ケイブが私の髪を撫でながら口を開く。

 

「彼らはここに来るまでにあなたに助けられた人達ばかりなの。だから、あなたに恩返しがしたくて私達について来てくれたのよ」

 

「……どうやら奴らだけじゃないみたいだな」

 

 レイヴィスの視線の先に顔を向けると、そこには茶髪の青年を先頭にまた大勢の武装した人達がこちらに向かって来ていた。

 

 特に、先頭を走っている茶髪の青年、隣を走る金髪の青年と緑髪の少年は私もよく知っている。

 

「ナナハ様!! 助太刀に参りました!!」

 

「おやおや千客万来のようで、少し出遅れてしまいましたか」

 

「気にしない気にしない。そんなこと気にしているよりも、早いとこ僕達もあの黒いのに攻撃しないと」

 

「そうだぜ!! いくぞ、野郎ども!!」

 

『おう!!』

 

 シュンヤ、エースケ、カケルの合図と共に武装してやってきた人達が一斉にジャッジ・ザ・ハードへと攻撃を開始していく。

 

 ……どうしてユピテルの3人やあの人達まで。

 

「不思議そうな顔をしているわね」

 

「……うん。だって私、あの人達に何もしてないのに」

 

「そう感じているのはあなただけよ。彼らはあなたに助けられたからここまで来てくれた。皆あなたのために戦ってくれているのよ」

 

「……私のため」

 

 私はケイブの言葉が信じられなかった。

 

 何でこんな私のためにジャッジ・ザ・ハードと戦ってくれているの?

 

 目の前でジャッジ・ザ・ハードを囲むように発砲を続ける彼らを見て、私は胸が締め付けられてしまう。

 

 私は善意で彼らを助けたわけではない。

 

 むしろ、彼らのことなんてどうとも思ってなかったのに。

 

「ナナハはすごいですわね」

 

「ベール姉さん? 何を……」

 

「だって、ナナハは彼らを助けながらギャザリング城からリーンボックスまで来たのでしょ? わたくしなんてあなたと話をするためだけに、脇目も振らずにここまで急いで来たと言うのに。ナナハはあんなにもたくさんの人達を助けていたなんて」

 

「……そうじゃない。そうじゃないんだよ」

 

 私は俯きながら顔を横に振る。

 

 ベール姉さんに感心されるほど、私が彼らを助けた理由は立派なものではない。

 

 酷く利己的で自分勝手な理由だったんだから。

 

「本当は死ぬつもりだったんだ。私は『転生者』で、このナナハとしての人生はズルをしているのと同じだから」

 

「おい、それは……」

 

「シッ、ここは黙って聞いていましょう」

 

 眉間にしわを寄せながら口を挟もうとしたレイヴィスをケイブが制した。

 

 レイヴィスからしたら、同じ『転生者』である私がこんなこと言うのが気にくわないのかもしれない。

 

 でも、私は本当に死んでしまいたかった。

 

「彼らを助けた理由はね、戦っているうちに死ねるんじゃないかって思ったの。自殺する勇気はないけど、誰かを助けて死ねるんだったら、必要のない偽物の女神でも役に立てるんじゃないかって。私のズルにも意味を持たせることができるんじゃないかって……」

 

「ふふ、やっぱりナナハは夢人さんのことが好きなんですわね。気付いていますか? あなたが今言っていることは、ギョウカイ墓場で消えた夢人さんと同じなんですわよ」

 

「えっ……」

 

 ベール姉さんがほほ笑みながら口にする内容に、私は思わず目を丸くしてしまった。

 

 ……私が、夢人と同じ?

 

「夢人さんは自分が消えるとわかっていながらも、わたくし達を助けるために死力を尽くしてくれましたわ。あなたと同じでその生に意味を持たせようとしていたのですわ」

 

「……違う。私は夢人のように前向きな思いなんかじゃ……」

 

「前向きも後ろ向きもありませんわ。輝きと言うものは四方に広がっていくもの……前も後ろも横も、すべてを照らす光なんですわ」

 

 ベール姉さんの言葉が頭の中で何回も繰り返されていく。

 

 ……輝きはすべてを照らす光。

 

 それに納得してしまう理由は、きっと夢人の輝きがそうなっているように感じるからだ。

 

 踏み出すことができず立ち尽くしていた私に光を注いでくれたのは、前を歩く夢人だったから。

 

「ナナハはきっと憧れが強すぎたんですわ。夢人さんのように輝きたいけど、自分のことを照らす光が強すぎて自信が持てないのですわ。そんなことではいつまで経っても夢人さんを夢中にはできませんわよ」

 

「……だったら、だったらどうすればよかったのっ!!」

 

 何もかも見透かしたように得意げに語るベール姉さんに、私は苛立ちを覚えた。

 

 八つ当たりなのはわかってる。

 

 でも、勝手に私の努力まで否定しないで!!

 

「私は夢人みたいにキラキラとした生き方がしたかっただけなの!! 『才能』なんかいらなかった!! 女神じゃなくてよかった!! ただ夢人のようにキラキラと輝いて、ずっと傍にいたかったの!! それなのにどうして駄目なの!! どうして私の輝きは夢人を夢中にできないの!! ……私はキラキラと生きることができないの?」

 

 私は声を張り続けることができずに、尻すぼみになってしまう。

 

 また涙が溢れてきた。

 

 泣き腫らした瞼が指でこする度に痛む。

 

 そんな私の頭をベール姉さんは抱き寄せて髪を撫でながら優しく囁いてくる。

 

「ナナハもキラキラできますわ。でも、それだけでは夢人さんを夢中にさせることはできませんわよ」

 

「……どうして?」

 

「あなたが憧れる夢人さんと同じ輝きでは、強い輝きに飲み込まれてしまいますもの。ナナハだけの輝きで夢人さんを照らして差し上げませんと」

 

「私だけの、輝き?」

 

 見上げたベール姉さんの顔はとても穏やかに笑みを浮かべていた。

 

 ……私だけの輝き。

 

 夢人のようなキラキラじゃなくて、私だけのキラキラ。

 

 そんなもの、見つけることができるだろうか?

 

 北条沙織の時に見つからなかったものが、ズルをしている今のナナハで見つけられるか不安になってしまう。

 

「大丈夫ですわ。あなたはもうその輝きを手にしていますもの……彼らを見て、何か感じませんか?」

 

 不安が顔に出ていたのだろうか、ベール姉さんは柔らかく口元を緩め笑みを深めると、ジャッジ・ザ・ハードと戦っている人達へと視線を向けた。

 

 それにならって、私も彼らの方を見る。

 

「各員、休むことなく攻撃を続けろ!! 奴に反撃の隙を与えるな!!」

 

『了解!!』

 

「ぬぐぐぐっ……いい加減にしろ!!」

 

 隊長らしき人が指示を飛ばすと、他の人達が揃って返事をする。

 

 でも、ジャッジ・ザ・ハードもやられっぱなしと言うわけではなく、無理やり彼らに向かって拳を振り下ろしていく。

 

「どりゃあああああ!!」

 

『うわああああああ!?』

 

 直撃こそしなかったものの、ジャッジ・ザ・ハードの拳は地面を陥没させるほどの威力を持っていたため、舞い上がった土や拳の衝撃波が彼らを襲う。

 

 受け身も取れずに転がる彼らに近づこうとしたが、ベール姉さんに腕を掴まれて止められてしまった。

 

 私が抗議の目線を送ると、ベール姉さんが静かに首を横に振って彼らの方を向けと目で伝えてくる。

 

 納得できずに顔をしかめて彼らの方へと視線を戻すと、私は驚きに目を見開いてしまう。

 

「平気か!?」

 

「……ああ、大丈夫だ。これくらいでへばってなんていられませんよ」

 

「よし、もう1度いくぞ!」

 

「おう!」

 

 倒れている人達同士で助け合いながら、彼らはジャッジ・ザ・ハードへの攻撃を再開していく。

 

 ……正直、彼らが再びジャッジ・ザ・ハードへと向かっていく姿に正気を疑ってしまう。

 

 でも、勝てないとわかっている相手に向かっていくその後ろ姿が私の憧れたキラキラにも見える。

 

 輝きの規模は違うけど、1人1人がまるで夢人と同じようにキラキラしているように見えた。

 

「彼らもキラキラしているように見えませんか?」

 

「……うん。でも、どうして? どうしてあの人達はキラキラしているの?」

 

「それはあなたの輝きに照らされているからですわ」

 

「私の?」

 

「そうですわ。彼らを輝かせているのはあなたのキラキラ。夢人さんの物ではない、あなただけのキラキラが彼らを照らしているのですわ」

 

 彼らとベール姉さんを交互に見ながら、私は信じられなかった。

 

 私のキラキラが彼らを照らしてる?

 

 私にもわからないものでどうしてそんなことができるの?

 

「彼らがジャッジ・ザ・ハードに向かっていくのは誰のためでもない、ナナハ、あなたのためですわ。あなたに助けられた彼らだからこそ、力になりたくて集まって来てくれましたわ」

 

「……でも、私はそんなつもりであの人達を助けたわけじゃないのに」

 

「夢中になると言うのは、そう言うことですわ。自分を照らしてくれた光に惹かれ、恋焦がれることですわよ……だからこそ、ナナハも夢人さんのことを好きになったのでしょう?」

 

 ベール姉さんの言葉に私は黙って頷くことしかできなかった。

 

 ……うん、私も夢人の輝きに焦がれていた。

 

 私を照らしながら、もっと輝ける世界へと連れ出してくれた夢人だからこそ恋をすることができたんだ。

 

「今の彼らも同じですわ。皆あなたの輝きを認めているからこそ、助けたいと願っていますわ……それでもまだ自信が持てませんか?」

 

 顔を覗き込んでくるベール姉さんを直視できず、私は目を伏せてしまう。

 

 ベール姉さんの言っていることの意味はわかってる。

 

 それが事実なら、私の願いはもう叶っていたんだ。

 

 ……でも、私はそれを受け入れてもいいのかな。

 

「……私、あの人達が思っているような女神じゃないけど、それでもいいのかな?」

 

「問題ありませんわ。わたくしだって理想の女神なんて存在ではありませんもの。ナナハはナナハのままでいいんですわ」

 

「っ、でも、私は『転生者』でいらない女神なんだよ? それでもいいの?」

 

「ナナハはわたくし達にとって、かけがえのない女神の1人ですわ。『転生者』かどうかなんて関係ありませんわよ。あなたはわたくしとチカの妹で、家族なんですもの」

 

「……私……私……」

 

 しゃっくりが止まらず、上手く言葉にすることができない。

 

 涙も止めどなく流れてきて、きっと今の私の顔は滅茶苦茶になっているんだろうな。

 

 ……でも、それがただ不快なだけじゃない。

 

 私の心を占める感情は1つ、嬉しいという気持ちだけだった。

 

 私、まだ女神で、ベール姉さんとチカ姉さんの妹で、家族なんだって認めてもらえて、皆にここにいていいって、生きていていいって言われているみたいで本当に嬉しい。

 

「それに、まだ夢人さんのことを諦めるのも早いですわ。あなたの輝きはここからですもの。夢人さんに憧れたキラキラではなく、あなただけが持っているキラキラで夢中にさせればいいんですわ。大丈夫、あなたのキラキラはちゃんとここにありますわ」

 

「……うんっ!」

 

 私ははにかみながら、ようやく心からの笑みを浮かべることができたことに気付いた。

 

 ずっと胸の奥で燻っていて、スッキリしなかった感情。

 

 憧れていたキラキラになろうとするだけで、自分の中のキラキラに気付かなかった。

 

 見て欲しいと願う夢人と同じ輝きを返すだけで、自分を殺すことしかできていなかった。

 

 それは私が自分の作った『特別』の壁に引きこもっていた時と同じ。

 

 でも、照らされるだけで、何もできなかった私はここで終わらせよう。

 

 私は、私の色で輝いて夢人を夢中にさせる。

 

 夢人と言う大きな輝きの近くにいる小さな星の輝きでも、必ず埋もれることなく自分の色で輝いてみせる。

 

 だから、もう1度誓うよ。

 

 ネプギアの持つ輝きよりも、私は強く輝いてみせる。

 

 今は小さくて弱いキラキラだけど、答えが出るその日まで私はあなたを夢中にさせるために輝き続ける。

 

 ……好きな気持ちを諦めない。

 

 今なら胸を張って言える。

 

 私は夢人のことを誰よりも愛しているって。

 

「では、いきますわよ、ナナハ」

 

「うん、ベール姉さん」

 

 凛々しく眉を吊り上げたベール姉さんに私も顔を引き締めて応える。

 

 いつまでもこうしているわけにはいかない。

 

 私のことを信じて、ジャッジ・ザ・ハードと戦っている彼らの輝きを守る。

 

 それがリーンボックスの女神候補生で、ベール姉さんとチカ姉さんの妹で家族であり、夢人の輝きに魅せられた私のやるべきこと。

 

 例え『転生者』であり、イレギュラーな存在だとしても、このゲイムギョウ界で生きて、皆を守る私なりの女神になる。

 

 ベール姉さんやネプギア達とは違う、私だけの女神を目指していくよ。

 

 他の誰でもない、私だけのキラキラを輝かせながら……




と言う訳で、今回はここまで!
目がシパシパしてすごく眠いです。
でも、これでようやくエピローグ込みで後3話です。
予定とはいったい何だったのかを考えながら、スパートかけていきますよ。
それでは、 次回 「願ったものと手にしたもの」 をお楽しみに!

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