超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
この作品、ついに10万UAを突破いたしましたヽ(≧▽≦)ノ"ワーイ
これも読んでくださる皆さんのおかげですね。
本当にありがとうございます!
それでは、 スターライト はじまります


スターライト

 油断なくX.M.B.の銃口を偽物ブレイブに向けるユニの表情は、先ほどまで体の痛みと悔しさに涙していたとは思えないほど凛々しいものになっていた。

 

 その瞳は見る者に強い意志を与えるほど澄み切った緑色の輝きを放ち、ジェネレーション型から変化した新しいプロセッサユニットも呼応するように内から外へと緑色の光のラインが走る。

 

(アタシは今、ブレイブと1つになっている、のよね?)

 

 頭には黄色い2本の角のような物がある兜、肩には流線型の列車を思わせるデザインのプロテクター、背中には2本の砲台と2つのドリルが目立つ青いラインが入った白い翼、腰には青と赤と黄色の3色で構成されている腰当て、足には全体が青い装甲で覆われている無骨なブーツのような物で膝下を保護している。

 

 プロセッサユニットの至る所にブレイブの特徴が再現されているのだ。

 

 当然理由もわからずに変化したプロセッサユニットにユニは戸惑ったが、それ以上に今の姿に安心感を覚えていた。

 

 ……まるで誰かに背中を支えられ、押してもらっているような絶対的な安心感。

 

 プロセッサユニットを通して自分へと流れ込んでくる力に、ユニは今ならどんなことでもできるような気がしてきた。

 

 だが、それは決して自惚れではない。

 

 何故なら、今ユニが感じている力は1人の物ではないからである。

 

 ブレイブが信じてくれたからこそ、再び立ち上がり、偽物ブレイブに立ち向かう力を得たのだとユニは感じ取っていた。

 

(だから、アンタの力を貸してもらうわ、ブレイブ!!)

 

 瞬間、まるで考えを読み取ったようにプロセッサユニットが反応して、全身に緑色の光を走らせる。

 

 光のラインはプロセッサユニットだけでなく、ユニの体を駆け巡り、やがてX.M.B.を構える指へと流れていく。

 

 すると、光はX.M.B.へと流れ、黒い銃身が一瞬緑色の光を放ち、銃口へと収束する。

 

 ユニはすかさず引き金を引き、集められていた光を偽物ブレイブへと解き放った。

 

「ぬっ、ぐおっ!?」

 

 偽物ブレイブはユニの体が光始めた時から嫌な予感を感じていたため、妙な動きをする前に踏みつぶしてしまおうと足を上げていた。

 

 だが、それよりも早くX.M.B.の一撃が彼の胴体に直撃してしまう。

 

 片足だけで立っていた偽物ブレイブはバランスを崩してしまい、持ち上げていた足を大きく後ろへと下げて何とか踏ん張ることに成功する。

 

 そのまま後ろ足へと重心を移して体勢を整えようとする偽物ブレイブへと、ユニは勢いよく飛翔する。

 

 その速度はジェネレーション型を纏っていた時とは段違いのスピードであり、ウイングにジェット機のような噴射口から火を放っていた。

 

 またたく間に偽物ブレイブとの距離を詰めたユニは、先ほどの攻撃が直撃した影響で発生している黒煙を切り裂き、胸の獅子にX.M.B.の銃口をピッタリとくっつける。

 

「くっ……喰らいなさいっ!!」

 

「っ、ぐがあああああああああ!?」

 

 一瞬、ユニは苦しそうに顔を歪めたが、すぐに最初の砲撃同様に光が体を駆け巡り、X.M.B.へと収束していく。

 

 すぐさまユニは引き金を引き、先ほどと同程度の威力を持つ攻撃を0距離で偽物ブレイブへとお見舞いした。

 

 偽物ブレイブは重心を後ろ足へと移していた影響で、前に出してあった足が踏ん張ることができず、後ろへと押し出される形で大きく体勢を崩してしまう。

 

 踏ん張ることができなかった片足は滑るように高く上昇し、それに伴い上半身は大きく後ろへと倒れかける。

 

 やがて、地面についていた方の足も踏ん張りきれなくなり、偽物ブレイブは尻もちをついて地面へと転倒し、背中を打ちつけてしまう。

 

 しかし、それを見てもユニの顔は優れず、片手で体を抱きしめるようにして肩を縮めていた。

 

(ぐっ……体が痛い……これって、アタシの体がブレイブの力について来れてないってことなの)

 

 ユニは痛みを堪え、片目を閉じたまま偽物ブレイブが倒れたせいで舞っている砂塵を睨みながら自身の体に起こっている異変について思考する。

 

 ただ1度、偽物ブレイブとの距離を詰めるために飛翔しただけで、ユニの全身は悲鳴を上げていた。

 

 これはユニが元々怪我をしていたせいでもあるが、それ以上に彼女の体がブレイブの力によって上昇した力とスピードについて来れなかったことが影響している。

 

「ハア、ハア、ハア……っ」

 

 額からは脂汗が噴き出し、ユニは辛そうに口を大きく開けて荒い呼吸を繰り返す。

 

 手の甲で額の汗を拭い去ると、追撃をするために偽物ブレイブが倒れているであろう場所目掛けてX.M.B.へと力を込める。

 

 3度目になる光が……ブレイブの力が体を駆け巡る感覚にユニは歯を食いしばって耐えると、照準を修正しつつ引き金を引くために指に力を込めようとした。

 

 ……しかし、それよりも早く砂塵を突き破るように巨大な何かがユニに向かって伸びてくる。

 

「っ!? ……ぐうっ!?」

 

 迫りくる何かにユニは驚きのあまり目を大きく見開いてX.M.B.へと収束していた力を霧散させてしまう。

 

 だが、ユニの意思とは別にウイングが光ると、ジェットから火を噴いて体を大きく後ろへと後退させ、迫りくる何かを避けることに成功する。

 

 しかし、急な動きに体は痛みを訴え、ユニは歯を食いしばるだけでなく、両目を固く閉じてしまう。

 

(ありがとう……でも、もう少し優しくして欲しかったわ……)

 

 ユニは心の中で自分を助けてくれたブレイブに礼を言うと、薄目を開けて今の状況を確認する。

 

 ユニに向かって伸びてきた巨大なものは、大きな手のひらであった。

 

「ぐおおおおおおおおおおお!! 殺すっ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!! 殺してやるっ!!」

 

 鼓膜が破けるのではないかと思ってしまうくらいの雄叫びを上げながら、偽物ブレイブは砂塵を掻き分けて立ち上がってきた。

 

 2度にわたるユニの攻撃で傷つき焦げ付いたはずの胸の赤い獅子は光だし、元通りに修復されていく。

 

 そんな偽物ブレイブを見て、ユニは苦虫を噛みつぶしたように顔を歪めてしまう。

 

 それはただ単に自分の攻撃が修復されていくのを目の当たりにしたからではない。

 

(アイツ、さっきまでとは違う)

 

 ユニは偽物ブレイブの様子が先ほどでとは違うことに気付いていた。

 

 倒れる前よりも偽物ブレイブの殺気が増大していたのだ。

 

 修復された獅子の目つきも凶悪そうに鋭くなり、牙の長さも増している。

 

 ……この変化は皮肉にもユニが今まで以上に偽物ブレイブを傷つけたことが原因である。

 

 偽物ブレイブは深く傷ついた体を修復するために、今まで以上にシェアエナジーを求めた。

 

 その結果、体内に残留する負のシェアエナジーの濃度が高くなってしまい、偽物ブレイブは破壊衝動に駆りたてられてしまっているのである。

 

 破壊衝動に支配されてしまった偽物ブレイブの思考は自分の邪魔をするユニの排除ではなく、殺害を優先するようにすり替わってしまった。

 

 その影響が言動だけでなく、獅子の変化、滲みでる殺気と言う形でユニに重圧を与えてくる。

 

 ただでさえユニはブレイブの力を扱えきれずにいるのに、苛烈になるであろうと予測される偽物ブレイブの攻撃を避け切れるかと不安がよぎってしまう。

 

 ……だが次の瞬間、自分を覆うプロセッサユニットに走った光を見て、ユニは驚いたように眉を動かすが、すぐにその意味を悟り柔らかく口元を緩める。

 

(……そうよね。アタシは1人じゃない)

 

 扱い切れていない力による体への負荷、未だ大きな亀裂を見せたままで後どれくらい保つかわからないX.M.B.、残り時間が少なくなっている『変身』……どれをとっても状況的にユニは不利である。

 

 ……だが、それでもユニの目は曇ることなく、口元の笑みは崩れない。

 

(アタシは諦めない。アタシを信じてくれているブレイブやフェル、お姉ちゃんやネプギア達……それにアタシに信じることの強さを教えてくれた夢人のためにも!!)

 

 背負った信頼を決意に変えて、ユニはX.M.B.へと力を再充填させる。

 

 ユニの決意に応えるように、プロセッサユニットからは今まで以上の光が溢れ、X.M.B.が溢れんばかりの光を放つ。

 

 高まる力に耐えれず、ピシッと言う音がX.M.B.から聞こえてくる。

 

 それでもユニは構わずに、自分の体に残っているすべての力をX.M.B.へと注ぎこんでいく。

 

(一発……一発でいいっ!! アタシの全力でアイツを倒すっ!!)

 

 乾坤一擲、今の自分ができる最大の一撃にすべてを懸けてユニは勝負に出る。

 

 偽物ブレイブが再生するのなら、再生できないくらいに大きな風穴を開けてやろうと……

 

「殺す殺す殺すっ!! 殺おおぉぉすぅぅっ!!」

 

 しかし、そんなユニを黙って見ているほど、偽物ブレイブも立ち止まっていてはくれない。

 

 力をためるために空中に浮かんだまま動けないユニに向かって、偽物ブレイブは大きく一歩を足を前に進める。

 

(早くっ!? 早くしないとっ!?)

 

 一歩一歩、自分に向かって歩を進める偽物ブレイブの姿が、焦っているユニにはスローモーションのようにゆっくりに映る。

 

 焦りは集中力を乱し、急ごうと思えば思う程、ユニは1秒を長く感じてしまう。

 

 さらにX.M.B.から聞こえてくる軋むような不快音がユニの心を責め立てる。

 

(あと少しっ!? あと少しなのにっ!? ……っ!?)

 

 段々と目に映る偽物ブレイブの姿が大きくなると共に、ユニの心臓は大きく脈打つ。

 

 すぐさま引き金を引け、もしくはこの場を退避してしまえと、諦めがユニを惑わす。

 

 しかし、それでもユニは動こうとしない。

 

 諦めてたまるかと、歯を食いしばりながらX.M.B.へと流れる力を止めない。

 

 ……だが、無情にも焦りと恐怖はユニの集中を乱し続け、X.M.B.へと流れる力の速度が落ちてしまう。

 

 さらに悪いことは重なり、額から噴き出した汗がユニの瞼に触れてしまう。

 

 驚いて片目を閉じてしまうと同時に、X.M.B.へと流れる力をユニは一瞬止めてしまった。

 

 一瞬、されどその一瞬がユニには致命的なタイムロスになり襲い掛かってくる。

 

「があああああああああああああっ!!」

 

 気付いた時には、すでに目の前で偽物ブレイブが立ち止まっており、その両手を組んだ巨大な腕を振り上げて、ユニに暗い影を落としていた。

 

 叫び声によって正常に機能するようになったユニの五感が、最悪の状況を彼女に伝えてくる。

 

 未だX.M.B.へは力の収束が終わっておらず、今からでは振り下ろされる偽物ブレイブの攻撃を避けることすらできない。

 

 詰んでしまっている現状に、ユニはどうすることもできずにただ自分に向かって振り下ろされようとしている手を呆然と見上げてしまう。

 

(……あっ、駄目、撃たなきゃ……)

 

「死ねえええええ!!」

 

 ユニは全力ではなくともX.M.B.から力を放出して偽物ブレイブの攻撃を止めなければならないとは、頭でわかっていても指が動いてくれなかった。

 

 引き金にかけていた指は硬直したように脳からの指令を受け付けず、まったく動かない。

 

 それに合わせて鈍くなる思考にユニは、自分の置かれている現状を正確に認識することすらできなくなってしまう。

 

 頭の中から避けると言う選択肢を完全に排除してしまったのだ。

 

 どうにかして引き金を引かなければいけないと脅迫染みた思考にとりつかれてしまったユニは、完全に棒立ち状態になっていた。

 

 しかし、偽物ブレイブは一切の情け容赦なく組み合わせた両手を無慈悲にもユニへと勢いをつけて振り下ろす。

 

 攻撃を止めることも、避けることもできなくなったユニに迫りくる偽物ブレイブの攻撃に対処する術はない。

 

 ……だが、偽物ブレイブが拳を振り下ろすよりも早く、その体を何かがもの凄い速さで駆け昇っていったのであった。

 

 それは一気に偽物ブレイブの顔まで辿り着くと、彼の目を目掛けて飛びかかる。

 

「はああああああああっ!!」

 

「っ、ぬぐわあっ!?」

 

 飛びかかった何か……フェルは偽物ブレイブの目を抉るように『人魔一体』によってフェンリルと同等の鋭さを得た爪を突き刺す。

 

 突如として視界に現れただけでなく、急所である目に急襲……巨体を誇る偽物ブレイブも体勢を崩して攻撃を中断せざるを得なかった。

 

 フェルは偽物ブレイブの目から爪を抜き去ると、自分から空中へと飛んで落ちていく。

 

 そのためフェルは頭から地面へと落ちていく。

 

 しかし、フェルの顔に恐れはなく、ユニに向かってほほ笑みながら親指を立てていた。

 

(……ありがとう、フェル)

 

 その意味を理解したユニは自然と顔を綻ばせてしまう。

 

 すると、今まで感じていた焦りや恐怖が消え去り、X.M.B.へと流れる力の速度が増す。

 

 そして、1秒にも満たない時間ですべての力がX.M.B.への収束を完了させた。

 

「いっけええええええええええええ!!」

 

 銃身を発光させ、銃口からバチバチと光が弾けるような音を出しているX.M.B.の引き金をユニは引き、全身から絞り出すように集めた全力の一撃を偽物ブレイブへと解き放つ。

 

 巨大な光の奔流は偽物ブレイブの胴体を丸ごと飲み込むと、青空に浮かぶ白い雲を切り裂きながら伸びていく。

 

 やがて、光が収まるとそこには……

 

 

*     *     *

 

 

〔……確認したいのだが、その鍵穴は壊れてしまっても構わないものだろうか?〕

 

「はい? ええ、まあこの鍵穴が壊れたところで犯罪神の封印が解除されるわけでもありませんし、特に問題はありませんけど」

 

〔つまり、その鍵穴の形に意味はないんだな? その穴に入るものなら鍵じゃなくても、保護膜を施錠できるのではないか?〕

 

「……確証はありませんが、おそらく可能です。重要なのは勇者が触れたものが保護膜に接触すればいいのですから」

 

 2人の会話を聞き、騒いでいた夢人とリンダも冷静になり、パネルにある鍵穴を見つめた。

 

「鍵穴に入るもの、細長い物……そうだ! リンダ、お前の刀を貸してくれ! 刀の先っぽなら上手くすれば……」

 

「……ああ、いや、悪い。アタイの刀はここに来る前に、フィーナに折られちまってねぇんだよ」

 

 希望が見えた夢人は目を輝かせながらリンダへと手を伸ばす。

 

 だが、リンダは申し訳なさそうに頬を掻きながら謝罪をする。

 

 ここに来る前にリンダはフィーナに刀を折られてしまっていた。

 

 名案だと思っていた鍵の代替物がないことに夢人はギョッとして、次にエヴァへと視線を移す。

 

「生憎ですけど、私もその鍵穴に入るような細長い物は持ち合わせておりません」

 

「そ、そんな……」

 

 夢人の視線の意味を理解したエヴァは苦笑してしまう。

 

 あっさりとしたエヴァの返事に、夢人の顔は絶望に染まる。

 

 それでも諦めず何かないかと自分のズボンのポケットに手を突っ込んで探り出す。

 

 しかし、夢人のポケットには糸くずしか入っていなかった。

 

 就寝前にフィーナに連れて来られた夢人は、実質服以外何も持っていなかったのだ。

 

「こうなったら、この糸で……」

 

〔待て、夢人……ここは私に任せてもらおう〕

 

 見つけた糸で無理やりできないものかと試そうとする夢人を、ワンダーが制した。

 

 そして、続けられた言葉に夢人とリンダは目を見開いて驚いてしまう。

 

〔私のモードチェンジ……本来ならネプギア専用のフェンサーモードは刀身をシェアエナジーで構築している。これを使えば……〕

 

「ちょ、ちょっと待て!? お前、急に何言ってんだよ!?」

 

〔シェアエナジーの心配なら問題ない。刀身を構築するだけの量なら、私の中に搭載していあるシェアクリスタルと小型シェアエナジー増幅装置でなんとかなる〕

 

「そうじゃないだろ!? テメェは今の自分の状態がわかってんのかって聞いてんだよ!?」

 

 淡々と話すワンダーに、夢人とリンダは慌ててしまう。

 

 今のワンダーのボディはモードチェンジに耐えられない。

 

 キラーマシンを相手に30分間フルでアーマーモードを全開で戦った影響で、ビークルモードでいるのが精一杯であることは2人も知っている。

 

 違うモードに変化すれば、ワンダーは空中分解を起こしてしまう可能性があるのだ。

 

〔確かに無茶は承知だ。だが、これ以上状況を悪化させないためには無理を通さなければならない〕

 

「だからって、それじゃテメェの体が……」

 

〔フッ、体ならまた造り直してもらえばいい。何の因果かただの機械だった私が心を持ち、ここまで来れたのだ。例え、ここで壊れてしまっても悔いはない……夢人〕

 

 心配するリンダにワンダーは穏やかな口調で語りかける。

 

 そんなワンダーに何も言えなくなったリンダは、悔しそうに唇を噛みながらフードで目元を隠してしまう。

 

 一方呼びかけられた夢人は、リンダとワンダーの会話の途中から何かを思案するように目を閉じたまま直立していた。

 

〔悩む必要はない。この体がゲイムギョウ界の平和を守るために使われるのなら、私は本望だ。だから、頼む。私を使って必ず保護膜を施錠してくれ……私の願いはそれだけだ〕

 

 ワンダーの懇願を聞くと、夢人は目を開いて歩き始める。

 

 その表情を硬くして、目尻が若干吊り上っているように見える夢人の顔には、とある覚悟が秘められていた。

 

「……ワンダー、これだけは言っておくぞ」

 

〔何だ?〕

 

 ワンダーの横にまで歩み寄ると、夢人は座席部分のシートを撫でながら口を開く。

 

「俺はもう自分も含めて、誰かがいなくなって流れる涙を絶対に見たくない。それは例え機械のお前だとしても同じだ。俺はお前を壊したくない」

 

〔……夢人。だが、それでは……〕

 

「わかってる。フィーナを止めるためにも、ゲイムギョウ界を救うためにもお前に無理をさせなきゃいけないってことはわかってる。だから……」

 

 ハンドルの横に設置された紫色のボタンに指を掛けながら、夢人はワンダーに向かって宣言する。

 

「お前の命、俺が預かる! 絶対にお前を壊さないし、必ず保護膜を施錠してゲイムギョウ界を救ってみせる!」

 

〔……ああ、頼むぞ。私と言う存在の全て、お前に預けさせてもらう〕

 

 夢人の決意に、ワンダーは声を和らげた。

 

 それを聞き届けた夢人は口角を上げて、紫色のボタンを押す。

 

「任せろ! いくぞ、ワンダー!」

 

〔CHANGE MODE FENCER〕

 

 ボタンを押されたワンダーは、モードチェンジをするために浮上する。

 

 まずは前輪と後輪、ハンドル部分が宙を舞い、車体が座席を中心に折れ曲がる。

 

 すると、さらに車体は畳まれるように折れ曲がっていき、本来の長さの半分ほどになってしまう。

 

 エンジンがちょうど前輪と後輪の部分の金属の間に挟まっているような形で落ち着いた車体に、今度は宙に舞っていたハンドル部分が近づいてくる。

 

 ハンドル部分が近づくにつれ、座席のシートが回転しスライドを始める。

 

 挟まれているエンジンを片側から隠すようにスライドしたシートの部分からは、ハンドル部分と接合するためのS字になっている金具が姿を現す。

 

 対してハンドル部分の方からもS字の金具が飛びだし、2つは絡むように接合を果たしてドッキングを完了させた。

 

 ドッキングが完了したと同時に、ハンドルは剣の柄になるように重なり合う。

 

 そのまま夢人の手に収まるようにワンダーの体は落下する。

 

 夢人が柄を握ると、シェアエナジーで構築された刀身がエンジンから金属に形に沿って発生する……これがワンダーのモードチェンジの1つ、フェンサーモードである。

 

 万全の状態であれば、車輪が側面の金属に接合することで回転を起こし、より巨大なシェアエナジーの刃を構築するのだが、現在車輪は力なく横たわっていた。

 

 これはワンダーの損傷が酷過ぎたため、車輪の中央に内蔵されていた誘導装置が故障していたのである。

 

 だが、この不完全な状態でも充分だと判断した夢人は、フェンサーモードを逆手にして、刃の切っ先をパネルの鍵穴に向けた。

 

〔やれ、夢人!!〕

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 夢人は叫び声を上げながら、フェンサーモードの刃をパネルへと突き刺し、『再誕』の力をワンダーへと流しこむ。

 

 すると、ワンダーの体を包み込むように黄金色の光が発生し、部屋全体を眩しく照らし出すのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 ……同時刻、リーンボックスのジャッジに異変が発生した。

 

「ぐっ、ぐあああああああああ!?」

 

 急に意味もなく苦悶の声を上げ始めたのだ。

 

 叫ぶと同時に暴走しているナナハの攻撃以外では傷1つ付かなかったはずの鎧から無数の罅が始める。

 

 しかし、今までと違って修復される気配を見せず、罅はさらに大きな亀裂となって鎧に爪痕を残していく。

 

「アレはいったいどうして……」

 

〔今はそんなことどうでもいいわ!! 今がチャンスよ!!〕

 

〔そうです!! 今のうちにジャッジ・ザ・ハードを女神候補生から遠ざけてください!!〕

 

「っ、わかりましたわ!!」

 

 急に苦しみ出すと同時に鎧が壊れだすジャッジに、ベールが戸惑っていると、傍にいたゲイムキャラ達が急かせるように声をかけた。

 

 ベールはすぐさまその声に反応すると、睨むようにジャッジを見据えて飛翔する。

 

 槍を突き刺すようにベールはジャッジへと突貫していく。

 

「はああああああっ!! 喰らいなさいっ!! シレットストーム!!」

 

「っ、ぬぐわああああああ!?」

 

 近づいてくるベールに反応することが遅れたジャッジは、槍を避けそこない鎧に深々と突き刺されてしまう。

 

 今まで弾かれていたことが嘘のように鎧に突き刺さった槍の先端から風の魔法を風の渦が発生し、ジャッジを軽々と吹き飛ばしてしまう。

 

 そのまま近くの林まで吹き飛ばされたジャッジを確認したベールが振り向くと、そこには自分に向かって撫子を振り下ろそうとしているナナハの姿が目に入った。

 

 ナナハはジャッジがこの場からいなくなってしまったことにより、攻撃目標をベールへと変更していたのであった。

 

 自分に向かって撫子を振り下ろそうとするナナハを見て、ベールは悲しそうに眉根を下げると、まるでナナハの攻撃を受け入れるかのように両手を大きく広げた。

 

「……ナナハ」

 

「っ!?」

 

 ナナハは撫子の刃を無防備な姿をさらしているベールの首元で止めてしまう。

 

 その表情は激情を表しているように眉を吊り上げていたのだが、ベールにはそのナナハの顔が泣いているように見えた。

 

 そう感じたベールは槍を手放すと、ゆっくりとナナハへと歩み寄り彼女を抱きしめる。

 

 もう離さないと言わんばかりに、ベールは胸に抱き寄せたナナハの後頭部を擦りながら耳元に優しく囁く。

 

「少し我慢してくださいまし。すぐに終わりますわ……頼みましたわよ」

 

〔オーケー! 任せなさい!〕

 

 ベールのつぶやきが聞こえたのか、リーンボックスのゲイムキャラを先頭にゲイムキャラ達はベールとナナハを囲うように四方へと飛んで行く。

 

〔さて、やるか〕

 

〔私はいつでも大丈夫です〕

 

〔こちらもです〕

 

〔よーし! それじゃ、やるわよ!〕

 

 ゲイムキャラ達は互いに確認を取ると、4つの球体から黄金色の光が溢れだし、ベールとナナハを包み込む。

 

 その光にベールは驚き肩をはね上げるが、それでもゲイムキャラ達を信じてナナハを抱きしめ続ける。

 

〔どこの誰がやったのか知りませんけど、あなたにその輝きは似合いませんわ。だから、今は少しだけ眠らせます……いずれあなたが手にするあなただけの輝きのために〕

 

 リーンボックスのゲイムキャラが誰にも聞こえない声でぼそりとつぶやくと、発生していた黄金色の光は次第にナナハの体へと吸収されていく。

 

 すべての光がナナハの体に吸収されると、彼女は脱力してしまったようでベールへと体を預けてしまう。

 

 すると、纏っていたトゥインクル型のプロセッサユニットも霧散し、ナナハの『変身』は完全に解けてしまった。

 

「……う、うぅ、ん……」

 

「ナナハ、聞こえますか? ナナハ」

 

「……ベー……ル……ね……あっ」

 

 身じろぎしながら息を吐くナナハに、ベールは優しく呼びかける。

 

 その声が聞こえたナナハは、薄目を開けながら自分の名前を呼ぶベールのことを呼ぼうとするが、何かに気付いて途中でやめてしまう。

 

「……私……何で……」

 

「ナナハ、わたくしあなたに聞きたいことが……」

 

「っ、嫌っ!? 離して!? 話なんて聞きたくないっ!?」

 

 ベールが尋ねようとすると、今まで大人しく体を預けていたナナハが急に暴れ出す。

 

 その目には涙が浮かび上がり、必死にベールから逃げ出そうとしていた。

 

「私はもうベールっ、の話なんて……」

 

「ナナハっ!!」

 

「っ!?」

 

 ナナハはベールの両肩に置いた手を伸ばしながら足をばたつかせ、言い辛そうに名前を呼んで離れようとする。

 

 ……そんなナナハを鋭く睨みつけ、ベールは彼女の頬を叩いた。

 

 自分が叩かれたことに遅れて気付いたナナハは信じられない物を見るような目で、怒りをあらわにしているベールを呆然と見つめてしまう。

 

 叩かれて赤くなった頬を手で押さえながら……




と言う訳で、今回は以上!
よし、ちょっと予定はずれましたけど、mk2編も残りわずか。
まさか六月に突入するとは私も思ってませんでしたけど、今週で確実に終わらせます。
それでは、 次回 「ここから始まる小さなキラキラ」 をお楽しみに!

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