超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
……サブタイから予想がついていますでしょうが、予定がいきなり崩れて分割です(T□T)
説明が長すぎるんだよ、私の馬鹿ンモォー!! o(*≧д≦)o″))
それでは、 復活の勇気 はじまります


復活の勇気

 ユニは自分が危機的状況に陥っているのにもかかわらず、その場から動くこともできずに困惑してしまう。

 

 時間差で放たれたブレイブの砲撃は乱入者のおかげで奇跡的に防ぐことができたが、動くことも難しいフェルのために本当ならすぐにでも飛びあがり、ブレイブの注意を自分に向けなくてはいけないことはわかっている。

 

 今までの戦闘で、ブレイブが邪魔をする相手のみを優先して狙ってくることがすでにわかっており、またいつ砲撃が来るかもわからない以上、ユニは立ち止まっているわけにはいかない。

 

 しかし、ユニは乱入者の声と姿……そして何よりもそのサイズに驚きを隠せていなかった。

 

「ムッ、俺の偽物だと聞いていたが、俺の体よりも大きいとは……」

 

 乱入者はユニの声が聞こえなかったのか、振りかえることなく彼女達を攻撃してきたブレイブの大きさに驚きの声を漏らす。

 

 ユニはその姿を見て頭が痛くなり、いつの間にかしわが寄っていた眉間を指でほぐすようにぐりぐりと押さえた。

 

「……ねえ、アンタ本当にブレイブ・ザ・ハードなの?」

 

「何を言っている? 他に誰に見えると……ぬおっ!? 貴様までいつの間にそんなにでかくなったのだ!?」

 

「アンタが小さくなっているのよ!?」

 

「何だと!? ……何だこの体は!?」

 

「アタシが聞きたいわ!?」

 

 意を決してユニはもう1度乱入者へと声をかけた。

 

 そのことを不審に思った乱入者は振り返ると、ユニの大きさに驚いてしまう。

 

 慌てふためく乱入者にユニは怒鳴り声を上げて真実を告げる。

 

 乱入者の姿は青と白を基調とした機械の体をしており、胸にある金色の獅子の意匠は勇ましさを感じさせる。

 

 背中から伸びる2本の砲身は鈍い銀色の輝きを放ち、鋭い尖りのあるウイングも乱入者の力強さを強く印象付けるものになっている。

 

 極めつけに、その手に握る諸刃の剣は乱入者を歴戦の勇士と言わせるにふさわしいほどの圧倒的な威圧感を見る者すべてに与えてくる……はずであった。

 

 しかし、残念なことにそのすべてが乱入者の体のサイズによって台無しになってしまっている。

 

「これはいったい……どう言うことだ、勇者!?」

 

 乱入者は自分の手のひらを見つめてわなわなと怒りに震えていたが、やがて自分をこんな姿にした元凶に届かせる勢いで空に向かって吠える。

 

 ……乱入者、サイズが推定50センチ程度のブレイブ・ザ・ハードの叫びは、青空に虚しく溶けていくのであった

 

 

 

*     *     *

 

 

 ……これはラステイションにブレイブが現れる前、ギョウカイ墓場でネプギア達が黒い塔から空に向かって伸びる1条の光を目撃する前のことである。

 

 黒い塔の最上階にあるエヴァが存在する部屋で、夢人達は彼女からフィーナの秘密を語られていた。

 

「フィーナは2人を暴れさせることで自身のシェアエナジーを確保しているのです」

 

〔……すまないが、話が見えない。どうしてそれでフィーナがシェアエナジーを確保していることに繋がるのだ?〕

 

 エヴァの言葉にワンダーは疑問を挟んだ。

 

 この際、どうしてブレイブの名前が出たのかは敢えて尋ねない。

 

 それは夢人達は、ラステイションとリーンボックスで暴れるキラーマシンじゃない機械的な体を持つ敵の存在を知っているからである。

 

 その答えがジャッジとブレイブだったと言うだけなので、ワンダーはエヴァに詳しい説明を要求した。

 

「先ほどもお話しした通り、フィーナは“リバース”を使えません。ですから、そのまま犯罪神を完全に吸収することができないのです」

 

「自分が乗っ取られちまうからだっけ?」

 

「はい。自身の存在の確立が最終目標であるフィーナにとって、それは絶対に避けなければならない事態です。そのために彼女は2人を利用して犯罪神からシェアエナジーを吸い上げているのです」

 

 そう言うと、エヴァはパネルに指を走らせ、空間に1つのモニターを夢人達の前に展開した。

 

 そこには赤い球体を囲むように4本の線と紫色の刀身をしている剣の絵が映し出されていた。

 

 また4本の線には錠前のような印が付いており、その内の3つがすでに解錠されている。

 

「簡易的に現在の犯罪神の状態を表しますと、モニターのようになります。赤い球体が犯罪神、4本の線が集まったシェアエナジーを逃がさないようにしている保護膜です。保護膜にはそれぞれ封印が施されており、解錠するためにはそれに適応する鍵が必要になります」

 

「それってトリックの体から出てきた犯罪神を復活させるための鍵のこと、だよな?」

 

「ええ。正規の手順で犯罪神を復活させる方法は3通りあります。1つ目は鍵を持つ幹部の存在が消滅すること。2つ目に幹部の体から4つの鍵をすべて抜き取り、1つの鍵として封印を解く方法。最後に幹部達が協力し合い、私のいるこの部屋に入ると言うものがあったのですが……」

 

「……まあ、最後はちょっと無理があるよな」

 

 神妙な面持ちでエヴァは夢人達に空間に映し出されたモニターの内容を説明しだす。

 

 1つ目の方法は、幹部であるマジック達が消滅することで鍵が自動的に犯罪神へと吸収されると言うこと。

 

 マジック達は犯罪神の力を使っているため、消滅すると同時にその力は犯罪神の元へと返っていく。

 

 体内に存在していた保護膜を解除するための鍵も犯罪神の元に行くため、必然的に封印が解けるのである。

 

 2つ目の方法は、1つ目の方法とは違い、第3者による任意での封印解除が可能である。

 

 1つ目の方法が受動的な復活プロセスだとすれば、2つ目は能動的なものであり、理論上は誰にでも行えるものだ。

 

 幹部の体から4つの鍵を抜き取り、1つの鍵にして封印を解く。

 

 言葉にすると簡単であるが、実際には幹部達を殺すことなく体内から鍵を抜き取らなければならない……言ってしまえば、実現不可能な方法でもある。

 

 弱ければ幹部達によって返り討ちにあい、強くても殺してしまえば鍵はなくなってしまう。

 

 殺すことなく倒すことができても、鍵が体内のどこにあるのかわからなければ、それこそ解体しなければならない。

 

 そんなことをしてしまえば当然幹部は死んでしまうので鍵を手に入れることなどできないので、この方法がとれるのは体内のどこに鍵があるのかを知っている幹部と“カット”の力が使える『再誕』の女神に限定されるだろう。

 

 最後に3つ目の方法を目を伏せながら言い辛そうにするエヴァの姿に、リンダは眉をひそめて納得する。

 

 犯罪組織に身を置いていたリンダだからこそ、幹部達が協力し合う姿が想像できないのである。

 

 マジックは犯罪神以外のことにはあまり興味を示そうとはせず、ブレイブは自分の正義を信じてゲイムギョウ界を守ろうとし、トリックは自分の欲望に忠実に幼女を求め、ジャッジはむやみやたらに暴れたがる……それがリンダから見た幹部達の姿であった。

 

 そんな4人がいくら犯罪神を復活させるためとはいえ、仲良くエヴァのいる部屋までやってくる光景は驚愕を通り越して恐怖を想起させるものである。

 

 しかし、不運にもリンダはそんな4人の姿が一瞬でも頭によぎってしまったため、非現実的過ぎて笑ってしまう程の衝撃を受けているのにもかかわらず、ありえないと言うことも理解しているために頬をヒクヒクと引きつらせてしまう。

 

「そ、それが今のフィーナにどう関係しているんだ?」

 

「あっ、ちょっと待ってください。今現在、彼女は鍵を3つ所持していますので、この保護膜の3つは無効化している状態です。ですので、この残った最後の保護膜に……えいっ」

 

 リンダと同様に幹部達4人が手を取って笑い合う姿を想像してしまった夢人は、ぎこちなく片側の頬だけ緩めながら尋ねた。

 

 すると、エヴァは俯きそうになっていた顔をパッと上げ、パネルを操作してモニターに映し出されている図を動かし始める。

 

 唯一錠前が解錠されていない保護膜に紫色の刀身をしている剣を突き刺す。

 

 突き刺した部分を広げるように剣が動き、球状を保っていた赤色が外へと漏れだす。

 

 だが、漏れ出した赤色は1番外側にある保護膜に新しく現れた2本の管のような物へと流れていく。

 

 それぞれの管の先には人型のシルエットがあり、赤色が流れ込むごとに赤く光りながら点滅を始める。

 

 保護膜から出てくる赤色はすべて管へと流れるわけではなく、こぼれ落ちているように広がっていく。

 

 また、シルエットからも滲みでるように赤色が背景に広がっていく

 

 しかし、その広がっていく赤色は次第に人型のシルエットを作り出す。

 

 やがて、薄い赤色を背景に濃い赤色のシルエットが目立つ形で姿を現した。

 

「彼女は残っている最後の保護膜をゲハバーンを使って無理やりこじ開けると、犯罪神を外へと流し始めたのです。ですが、“リバース”を使えない彼女は外へと出てくるシェアエナジーをそのまま直接取り込むことをせず、ジャッジ・ザ・ハードと“再現”したブレイブ・ザ・ハードに流し込んだのです。そして、彼女自身は2人に流れ込む際に溢れてしまい、ギョウカイ墓場に散ってしまっているシェアエナジーを常に吸い上げることでシェアエナジーを確保しているのです」

 

〔……つまり、ジャッジ・ザ・ハードとブレイブ・ザ・ハードは犯罪神を汲み上げるためのポンプと同じ役割をしているのだな〕

 

「ええ。2人が暴れる、もしくは傷つけば傷つくほどシェアエナジーはどんどん外へと流出し、ギョウカイ墓場にもシェアエナジーは漏れ出していきます。溢れているシェアエナジーを吸収することで、今のフィーナは理論上無制限に『再誕』の力を使うことを可能にしているのです」

 

 可愛らしい掛け声を上げたモニターを動かした時とは違い、フィーナのことを説明するエヴァの声は硬く低いものになっていた。

 

 ……フィーナが今現在行っているシェアエナジーを確保する方法は、一種の裏技に近い。

 

 3つの鍵とゲハバーンを手に入れ、場所をギョウカイ墓場に限定した時のみに実行可能なものである。

 

 まずは正規の手順と同じように3つの鍵を使い保護膜を解除していく。

 

 モニターの図は簡易的に犯罪神の状態を表したものであり、実際の物とは細部が異なっているため保護膜の順番などはまったく関係ない。

 

 重要なのは保護膜が3つ解除されていると言うことである。

 

 フィーナは残っている錠前がついた保護膜をゲハバーンを使い、“カット”して穴を開けたのだ。

 

 保護膜は負のシェアエナジーの塊である犯罪神を外に出さないようにするために存在している……つまり、その存在はシェアエナジーと接触できる力であり、“カット”の対象となる情報でもある。

 

 シェアエナジーと接触できると言うことは、刀身に負のシェアエナジーが流し込まれているゲハバーンも保護膜に接触可能である。

 

 それはすなわち、保護膜もゲハバーンの能力の対象であり、“カット”できる情報であることを証明していた。

 

 だからこそ、フィーナは保護膜の情報を一部“カット”することですべての鍵を集めることなく犯罪神のために蓄えていた負のシェアエナジーを外へと流出させているのだ。

 

 ゲハバーンが“カット”できる範囲もグロリアスハーツと同じく刀身が接触している部分のみであるため、保護膜すべてを“カット”することはできない。

 

 しかし、一部だけでも“カット”してしまえば、その部分は情報は消失して再生不可能な状態になり、閉じることのできない穴が出来上がってしまう。

 

 よって、シェアエナジーはゲハバーンの“カット”によって開けられた小さな穴から少しずつ流出を始める。

 

 だが、この流れはとても緩やかなものであり、フィーナが必要とするシェアエナジーの需要に供給は追い付けない。

 

 だから、フィーナはシェアエナジーを汲み上げるためのポンプとしてジャッジと“再現”したブレイブを利用しているのだ。

 

 幹部である4人は元々犯罪神の力を使っているため、シェアエナジーの供給をしているラインが存在している。

 

 現に、マジックがネプテューヌ達女神とネプギアを含めた5人に圧倒できた理由は、女神のシェアの低下だけでなく、犯罪組織のシェアが増加していたからでもある。

 

 犯罪組織のシェアの高まりは、犯罪神が蓄える負のシェアエナジーの増大でもあるため、幹部達はより強い力を振るうためのシェアエナジーをラインから汲み上げることが可能になる。

 

 フィーナはそのシェアエナジーを供給するためのラインを利用することで、“カット”で開けた穴を広げたのである。

 

 ここでフィーナが目をつけたのだが、レイヴィスがかつて使ったワレモノモンスターの生態である。

 

 ワレモノモンスターは、モンスターを吸収したディスクに傷をつけることで、敢えてモンスターを不完全な形で呼び出すことにより生み出すことができる。

 

 このモンスター達はディスクに傷がついたことにより、消失してしまった情報を修復しようとして分裂を繰り返し、数を増やしていく。

 

 フィーナはこの不完全な形での増殖に着目した。

 

 わざと不完全な形にすることで数を増やしていくのなら、当然力は分散していく。

 

 実際、レイヴィスが召喚したワレモノモンスターは危険種をモデルにしているにもかかわらず、夢人1人でも簡単に対処ができるほどの弱い個体になってしまっていた。

 

 元々1体だけの情報しかなかったので、その力の総量も1体分しかないのは当たり前である。

 

 だから、数が増えれば増えるほど、1体が保有する力が少なくなるのは必然であろう。

 

 ……しかし、力が別の場所から供給される場合はどうだろうか?

 

 分裂した個体にもオリジナルと同じだけ力を注ぎ込めば、ワレモノモンスターの力は通常のモンスターと変わらないものになるだろう。

 

 生まれるのは欠けた情報によって増殖する結果のみであり、ワレモノモンスターはモデルにしたモンスターと遜色ない強さを発揮するはずである。

 

 こんな予測を立てたフィーナは犯罪神からシェアエナジーを得るために、ジャッジとブレイブの体からそれぞれとある情報を“カット”したのである。

 

 その結果、2人の体は存在を維持するためにより多くのシェアエナジーを欲する。

 

 これはワレモノモンスターが増殖するメカニズムと同じであり、2人の体が失った情報を取り戻そうとして体内で情報を増殖するからだ。

 

 だが、2人はワレモノモンスターとは違い、体が分裂することはない。

 

 何故なら、2人は体が増殖するだけのシェアエナジーを確保できていないからである。

 

 例えるなら、ワレモノモンスターは罅割れた皿であり、両者は穴が開いたコップ、シェアエナジーは水である。

 

 皿は罅割れていようが、その受け皿に乗せられる水の総量は変わらない。

 

 ワレモノモンスターの増殖は、皿からスプーンで水を掬って違う皿へと移す作業なのである。

 

 しかし、穴が開いたコップはいくら水を注ぎ込もうとしても満杯になることはなく、穴からすべて流れ落ちてしまう。

 

 これにより、水を注ぎ込むことをやめてしまえば、コップの中身はすぐに空になってしまい、他のコップに移す余裕はない。

 

 つまり、現在ジャッジとブレイブの体にはラインを伝って負のシェアエナジーが止めどなく流れてきているが、それを体内で止めておくことができないのである。

 

 よって、底抜けになってしまった需要先の要請を受け、供給源である犯罪神はより多くのシェアエナジーを流し込むために流出の流れを速める。

 

 流出の速度が増すことで、穴は自然と広がりラインに吸収できない量のシェアエナジーが保護膜からこぼれ落ち、ギョウカイ墓場に霧散する。

 

 また流れ落ちるシェアエナジーもギョウカイ墓場へ、犯罪神へと戻っていくため、今現在のギョウカイ墓場はシェアエナジーの濃度が普段よりも濃い状態なのだ。

 

 この空気中に溶け込んでいるシェアエナジーを確保することで、フィーナはネプギア以上に『再誕』の力を使っていても疲れることなく余裕を保っていられるのである。

 

 これはフィーナが一部とはいえ犯罪神を吸収していたことによりできる芸当であり、いくら同じ『再誕』の女神であり“リバース”を使えるアカリでも不可能な方法である。

 

 もしもアカリがフィーナと同様に犯罪神を一部でも吸収していたとしても、今度はこの“リバース”が自然と負のシェアエナジーを正のシェアエナジーへと『反転』させてしまう。

 

 つまり、“リバース”を使えないフィーナだからこそ実現可能な裏技なのだ。

 

「そんなことまでしていったい何をフィーナはしようとしているんだ? 普通に生きていくだけなら、そこまでする必要ないだろ?」

 

「はい。ただ彼女が自身の消滅を防ぐだけならば、こんな大掛かりなことをせずともゲハバーンで開けた穴から漏れ出すシェアエナジーを吸収するだけで充分です……ですが、彼女の望みは自身の存在を確立させること。すなわち、『再誕』の女神になることなのです」

 

「ん? フィーナも『再誕』の女神のサブシステムとか言う奴なんだろ? だったら、そんなもん最初から叶ってんじゃねェか?」

 

「いいえ。彼女が望んでいる『再誕』の女神とは、ゲイムギョウ界を救うことができる完璧な『再誕』の女神なのです」

 

 夢人はフィーナの行動が何故そこまで手の込んだことをしてまでシェアエナジーを確保しているのかを疑問に思った。

 

 ギョウカイ墓場に連れて来られてから、夢人はフィーナから直接その望みを聞いていた。

 

 だが、エヴァの説明ではそれを実現させるための具体的な方法がまだ出ていない。

 

 しかし、夢人の疑問に対するエヴァの答えはまた要領の得られないものであったため、リンダは眉をひそめて口を開く。

 

 すると、エヴァはモニターを消し、悲しそうに夢人達を見つめる。

 

「彼女は“再現”と“カット”しかできない自身が嫌だったのでしょう。だから、欠片を集めて吸収することで少しでも他の力が使えることを期待していました。しかし、実際にいくら欠片を吸収したところで、それを扱うだけの権限が彼女にはありませんでした」

 

「権限?」

 

「権限とは力の使い方とでも言いましょうか。力を扱うための説明書、もしくは資質と言ってもいいかもしれませんね。彼女は“カット”の領域が意識を持った存在、いくら“リバース”や“ペースト”を司る領域の欠片を吸収したところで使い方がわからなかったのです。例えるなら、彼女はフォークの使い方はわかっても、お箸の使い方がわからない……と言った感じになるのでしょうか?」

 

「い、いや、逆に聞かれても……とりあえず、フィーナは自分が使えない力があることに我慢ができなかった、でいいのか?」

 

 首を傾げながら自分の例えに納得ができなそうに半目になるエヴァに、夢人は戸惑いながら自分が解釈した内容を口にする。

 

「概ねその通りですね……ですから、フィーナはその権限を求めています。この意味、もうわかりますね?」

 

「……狙いはアカリ、と言うわけだな」

 

「はい。加えて、フィーナの狙いはプラネテューヌの女神候補生でもあります」

 

「な、何でだよ!? ネプギアは『再誕』の女神なんかじゃ……」

 

「いいえ。ここで重要なのはフィーナの容姿がプラネテューヌの女神候補生そっくりであることと、『再誕』の女神が持つ女神として致命的な欠陥が関わってくるのです」

 

 語られるフィーナの狙いに、夢人は目を見開いて驚きをあらわにする。

 

「『再誕』の女神は普通の女神とは違い、国からの信仰を受けることができません。言わば、スタンドアローンの状態なのです」

 

〔なるほど。それで犯罪神と言う外部からシェアエナジーを供給するための物が必要になってくるのだな〕

 

「その通りです。『再誕』の女神の役割は、ゲイムギョウ界を救うと同時に自身の消滅でもあります。しかし、フィーナは自身の消滅を何よりも恐れています。ですから、彼女はなり代わろうとしているのです」

 

「……もう読めたぜ。要するに、フィーナはあのクソチビ女神になり代わって国からのシェアを受けようってわけだ。だから、キラーマシンでプラネテューヌを襲ってねぇンだな」

 

「はい。彼女はゲハバーンの力を使い、プラネテューヌの女神候補生から“女神”の力を“カット”することも可能です」

 

〔それは同時にアカリの消滅も意味する……つまり、フィーナは『再誕』の女神になると同時にプラネテューヌの女神候補生になることで自身の存在を確立させようとしているのか〕

 

 エヴァの口から話されるフィーナの行動理由に、リンダとワンダーの口調は硬いものになってしまう。

 

 一方で、夢人はエヴァの説明を聞いていくうちに眉がつり上がり、両手を強く握りしめていた。

 

「……おい、何でフィーナはそんなにしてまで『再誕』の女神やネプギアになろうとしているんだ?」

 

「おそらく、それが彼女に許された唯一の自由だからです。イレギュラーな存在として女神の卵から生まれた彼女が『再誕』の女神としての役割を果たして生きていくための……」

 

「ふざけんなっ!!」

 

 エヴァの推測を聞いた夢人は、声を荒げて踵を返すと目を鋭くさせたまま部屋から出ていこうと歩き始める。

 

 それに気付いたリンダは慌てて夢人の肩を掴み、自分の方へと顔を向けさせた。

 

「お、おい、どこに行こうとしてんだよ?」

 

「決まってんだろ!! 今すぐフィーナを止めに行くんだよ!!」

 

「は、はあ!?」

 

 夢人の剣幕にリンダは呆気に取られてしまう。

 

 先ほどまで自分と同じようにエヴァの説明を大人しく聞いていたとは到底思えないほど、今の夢人が怒っているのはリンダにもわかる。

 

 だが、何が夢人の逆鱗に触れたのかわからない以上、リンダは無茶なことをしようとする夢人を止めるため、強引に肩を引っ張り体ごと自分の方へと向かせた。

 

「テメェは馬鹿か!? 今テメェが行ったところで何ができるってンだよ!?」

 

「わかんないさ!! でも、今はフィーナを止めなきゃいけないだろ!!」

 

「だから、どうやって止めるつもりかって聞いてんだよ!! 大体、テメェは何でそんなに怒ってんだよ!!」

 

「当たり前だろ!! フィーナが今やろうとしていることは、何の意味もないじゃないか!! だから、勘違いしているアイツを何が何でも止めなきゃ……」

 

「止められますよ」

 

 夢人とリンダの言い合いをエヴァの声が凛と遮る。

 

 2人が自分の方に注目しだしたことを確認したエヴァはパネルを操作し始める。

 

 やがて、作業を終えると、エヴァはパネルの前から体を退かせて夢人達に見せた。

 

 そこにはパネルの一部がスライドし、何かが嵌る穴が姿を現した。

 

「フィーナを止めるもっとも確実な方法。それは犯罪神を封印している保護膜をもう1度施錠することです」

 

〔なるほど。確かに供給されるシェアエナジーがなくなれば、フィーナも止まらざるを得なくなるな……だが、ゲハバーンによって開いてしまった穴はどうやって修復するのだ?〕

 

「勇者が『再誕』の力を使って修復すればいいのです。鍵から保護膜の情報を“再現”して蓋をしてもらいます」

 

 納得したように言葉を発するワンダーにエヴァは頷きで返し、視線を夢人へと向けながら疑問に答える。

 

 急に話を振られた夢人は驚き慌ててしまう。

 

「で、でも、俺はアカリがいなきゃ……」

 

「いいえ、できますよ。あなたはすでに『再誕』の力を使うためのものを受け取っているはずです」

 

「俺が……受け取ってる……?」

 

「はい。ですから、何も不安になることはありません。あなたはあなたがしたいことをイメージすればいいのです」

 

「……俺がしたいこと」

 

 目をパチクリとさせていた夢人であったが、エヴァの安心させるようなほほ笑みと続けられた言葉に、静かに瞳を閉じる。

 

 そのまま自分の右手を胸の位置まで持ち上げると、目を閉じたまま何かを確かめるようにゆっくりと手のひらを開いたり閉じたりさせる。

 

「……よしっ! まずはどうすればいいんだ?」

 

「まずは4つの鍵を1つにします。そして、ここにフィーナが集めた3つの鍵がすでにありますから、あなたはもう1つの鍵を“再現”して……」

 

「おおっと! それならここにあるぜ!」

 

 確信を持てたのか、夢人は気合を入れて声を出すとエヴァに何をするのかを尋ねた。

 

 その様子を見て、エヴァは口元を柔らかく緩めながら小さな金属の欠片を3つ取り出す。

 

 続けて説明しようとするエヴァを遮り、リンダはにやりと笑ってポケットから同じような金属の欠片を夢人へと手渡した。

 

「コイツはマジェコンヌ様から預かってきたもんだ。もしもん時は、テメェにあの赤ん坊を戻してコイツを完璧な形で“再現”させるつもりだったんだがよ」

 

 マジェコンヌがリンダに鍵を渡した理由は、今のエヴァと同様に夢人、もしくはネプギアに犯罪神の封印を強固にしてもらうためである。

 

 封印が強くなれば、少なくともゲイムギョウ界で暴れているキラーマシン達の動きを止められる可能性があったからだ。

 

「リンダ……ありがとう」

 

「ハッ、んなもんは成功させてから言いやがれ。いいか、テメェが失敗したらゲイムギョウ界にいるマジック様にまで被害が及ぶんだよ。だから、絶対に成功させろよ、いいな?」

 

「ああ、わかってる……エヴァ、これを1つにすればいいんだな?」

 

「はい、どうぞ」

 

 夢人が頬を緩めて礼を言うと、リンダは鼻で笑いながら念を押してくる。

 

 エヴァはそんな2人の様子に笑みを深め、自身に近づいてくる夢人に持っていた3つの金属の欠片を手渡した。

 

 それをパズルのように組み合わせて1本の鍵にした夢人は、パネルの前に立って開いている穴と鍵の先端を交互に見つめる。

 

 すると、鍵は何かを訴えるように光だす。

 

 それを見た夢人は何かを悟り、エヴァへと顔を向ける。

 

「なあ、エヴァ。この鍵を使って俺達もシェアエナジーを利用できないか?」

 

「はい? ええ、できますけど……何がしたいんですか?」

 

「だったら、アイツの情報を出してくれないか? この鍵の持ち主の1人で、ゲイムギョウ界を守るために命をかけて戦った……熱い正義の持ち主の」

 

 そう言ってほほ笑む夢人の考えを察し、エヴァはにこりと笑って空間に1つのモニターを展開する。

 

 ……そこにはブレイブ・ザ・ハードの設計図のような情報が映し出されていた。

 

 

*     *     *

 

 

「クソッ、いったいどうしてこんな体になっているんだ!?」

 

「それはこっちが聞きたいわよ!? ……とりあえず、アンタはアタシ達が知っているブレイブ・ザ・ハードなのね?」

 

「……ああ、その通りだ」

 

 ブレイブは自身の体の小ささに嘆き、膝をついて地面を強く叩きだす。

 

 最初こそ怒鳴ったものの、ユニは次第に呆れを含む視線でブレイブを見下ろす。

 

 声を掛けられたブレイブの返事に力はなく、小さくなっていることに落ち込んでいるようにどんよりした雰囲気を放っていた。

 

「勇者の力を借りて体を取り戻した所まではよかったのだが、何故こんな姿に……」

 

「……夢人のせいなのね」

 

 愚痴のようにこぼされた言葉に、ユニは納得すると同時に口元をわずかに緩める。

 

 今のブレイブの体が夢人によって“再現”されたものであることは、『再誕』の力について少しばかりの知識しか持っていないユニでも推測がついた。

 

 それと同時に、フィーナに捕まって安否が不明であった思い人が無事であったことがわかり、安堵しているのである。

 

「俺の邪魔をしたのは、どこのどいつだ!!」

 

「……おっと、いつまでもこうしちゃいらんないわね。ほら、アンタもしっかりしないさいよ!」

 

「う、うむ、そうだな。例え体は小さくなっても……」

 

 ユニ達との間に立ちこめていた爆煙を腕で振り払い、偽物ブレイブは大声で叫びを上げた。

 

 必勝を確信していたにもかかわらず、横やりが入れられたことが気に入らなかったのである。

 

 そんな怒りに満ちた叫びを聞いたユニは、緩んでいた顔を引き締めてX.M.B.を構えて浮かび上がる。

 

 ユニに叱咤されたブレイブは顔を上げると、瞳を一瞬強く輝かせて浮上する。

 

 そして、そのまま突撃するように偽物ブレイブに向かって飛翔していく。

 

「この胸の正義は不滅だ!!」

 

「ふんっ!!」

 

「はあっ!! ……っ!?」

 

 叫び声を上げながら突貫してくるブレイブを見つけた偽物ブレイブは叩き落とそうと拳を振り下ろす。

 

 ブレイブも負けじと偽物ブレイブの拳を打ち上げるようにアッパー気味に腕を振り抜いた。

 

 サイズは違えど、2つの拳が激突すると両者の動きは完全に停止してしまう。

 

 ……しかし、少しすると激突した拳からブレイブの体へと振動が走る。

 

「い、痛い……」

 

 泣きごとのようにブレイブは声を漏らす。

 

 偽物ブレイブの勢いは止められたが、拳の激突は偽物に軍配が上がっていたのだ。

 

「ならば、これでっ!! ……っ!?」

 

 小さい体での接近戦は不利だと判断したブレイブは、偽物ブレイブがまだ動かないことをいいことに顔の位置まで急上昇した。

 

 そのまま偽物ブレイブの顔めがけて背中から伸びる2本の砲身から砲撃を放つ。

 

 ……だが、砲身から放たれた砲撃は曲線を描きながら偽物ブレイブの顔へとコテンとぶつかる程度の威力しか発揮できなかった。

 

 まるで玩具の弾のような砲撃であった。

 

「な、なななな……」

 

「今、何かしたか?」

 

「何だこれはああああああ!?」

 

 偽物ブレイブに自分の攻撃がまったく効いていないことに、ブレイブは体を震わせて叫びを上げる。

 

 ……ブレイブが体だけでなく力まで弱くなってしまっていることにユニも気づき、彼女は思わず頭を抱えたくなってしまう。

 

 だが、そんな頭痛に襲われながらもユニはブレイブが偽物ブレイブの注意を引いているうちに背中に回り込み、X.M.B.から散弾を発射させる。

 

「うおっ!? 誰だ!?」

 

「アタシよ!! 間抜けな偽物さん!!」

 

「貴様っ!!」

 

 背中に受けた攻撃に偽物ブレイブは驚きの声を上げて振り返ると、そこには挑発するようににやつくユニの姿が目に映る。

 

 さらに、続けられた煽るような言葉に偽物ブレイブは怒りながらユニを捕まえようと腕を振り回す。

 

 ユニは捕まらないように腕の間を飛びまわりながら、徐々に疲れて動けないフェルから遠ざかっていく。

 

 偽物ブレイブはその目論見に気付くことなく、ユニの後を追ってズシンズシンと地響きを鳴らしなら駆けだす。

 

 ……そんな中、1人ブレイブはポツンと浮いたまま動けずにいるのであった。




と言う訳で、今回はここまで!
今回は分割しないように書きたいところも削ったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったんだ(◞‸◟ㆀ)ショボン
その分、次回は削ったところも含めて書きたい部分をいっぱい書いてやる(`ω´)ヤッテヤルゼ!
それでは、 次回 「強く、雄々しく、たくましく」 をお楽しみに!

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