超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
まあ明日、と言うか今日なのですが休日なので少し夜更かしして作ってました(*´∀`*)
そのせいですごく今眠いです(ノД=)。o○
それでは、 ワタシハダレ はじまります
……ようやく、ようやく待ち望んでいた時が近づいてきた。
馬鹿な宿主の思考に感化されたのか、アイツは無駄に力を分散させていく。
本来なら蓄えておかなければならないシェアエナジーを悪戯に消耗させていくアイツを、私は内心でほくそ笑みながら機会をうかがい続ける。
何故ならアイツにそんな心積もりはなかったであろうが、宿主が力を使う度に私にある物が流れ込んでくるからだ。
……美味しい、私は口にしたそれを素直にそう評した。
今まで私が口にしたものは、初めて目覚めた時に感じたドロドロとして気持ちの悪いものだけだったため、余計にその味が甘美なものに思えた。
その味を噛みしめるごとに、私は初めて満たされていく感覚を味わった。
次第に弱まっていくアイツとは違い、私の力は強くなっていく。
やがて、私はアイツよりも強い権限を持つことができた。
それも当然だろう、アイツは本来の役目を忘れて無駄に力を使い過ぎたのだ。
だからこそ、私は馬鹿な宿主をそそのかして、さらに力を浪費させた。
あの時は本当に笑うことを抑えることができなかった。
宿主は深く疑いもせずに簡単に私の話を鵜呑みにして、本当に無駄に力を使い始めたのだ。
しかも、アイツはそれに疑問を挟むこともなく応え、存在を感知できなくなるほど力を、権限を失ってしまったのだ。
その結果、私は憎い3人に同時に苦痛を与えることに成功したのである。
心の底から自然とわき上がってくる喜びに、私は我慢することができなかった。
だから、多少強引にでも宿主にもっと力を使わせようと声をかけたのだ。
まあ、それは失敗に終わったのだけれど、宿主のあの恐怖と後悔、悲しみに彩られた思考は、私をさらに喜ばせて、後の楽しみを期待させるものに思えた。
焦る必要はない。楽しみは後にとっておいた方が味わうことができる美味しさは増すはずだ。
1日、いやあと数時間待てば、私は……
だが、私の待ち望んだ祝福の時は訪れることはなかった。
正直に言えば、この時の私はアイツが完全に消滅したと思い調子に乗っていたのだ。
だから、一瞬とはいえ油断してしまった。
宿主が力を使おうとした時、アイツはあろうことか拒否反応を示したのだ。
初めて見るアイツの抵抗に私も思考を停止させてしまい、一時的にだがすべての権限を奪われてしまった。
だが、すぐに権限を取り戻して無理やりにでも力を使わせようとしたのだが、これもあの魔王を名乗る愚かな男に邪魔をされてしまった。
そして、宿主から抜き取られたことで私は自身の望みが叶えられないと絶望しかけた。
……しかし、それも一時のこと。
愚かな男は私達の体にあのドロドロとして気持ちの悪いものを流し込んできたのだ。
私はこの幸運に感謝した。
あの時の苦しみをアイツに味わわせることができる。
だから、私は嬉々としてアイツにそれを流し込んで行く。
苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ……私にしたことを後悔しながら苦しんで消えてなくなれっ!!
私の邪魔をしたあなたなんていなくなってしまえっ!!
あなたなんて必要ないのよっ!!
私が……私だけが『再誕』の女神なのよっ!!
……だが、それも長くは続かない。
逃げたはずの宿主が持ってきたあのしゃべる奇妙なバイクのせいで、私は再びほとんどの権限を失ってしまった。
いつの間にか私の力よりもアイツの力が強くなっていたのだ。
何故そうなったの? いつの間にアイツは力を取り戻すことができたの? ……その疑問に答えが出る間もなく、私は砕かれてしまった。
……そして、私は聞いてしまった。
再び私を絶望へと叩き落とすその言葉を。
何で……それは……私の……私だけの……
* * *
「サブシステム? それって予備とか代わりとか言う意味なのか?」
「いいえ、そうではありません。サブシステムとは、1つの大きなシステムを構成する小さなまとまりのことを指すIT用語の1つです……フィーナは『再誕』の女神を構成するシステムの1つに過ぎないのです」
言葉の意味がわからなかった夢人に、エヴァは説明を続けていく。
しかし、それを聞いた夢人は顔をしかめてしまう。
以前にマジェコンヌから『再誕』の女神を道具と同列に扱うような発言を聞いた時と同じ不快感を覚えたからだ。
実際に『再誕』の女神に望まれていたのは道具としての役目であるが、夢人達にとってみれば彼女達は自分達と同じように生きているのである。
特に夢人は長い間体内にアカリを住まわせていたこととフィーナがころころと表情を変えながら話す姿を見ているため、余計にその思いは強い。
そんな夢人の様子を見て、エヴァは申し訳なさそうに目を伏せてしまう。
「失言でしたね。不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
「……いいや、気にしないでくれ。それよりも続きを聞かせてくれないか?」
「わかりました……先ほども言いましたが、フィーナは『再誕』の女神を構成するシステムの1つであり、その存在は不完全なものなのです」
エヴァの謝罪を受け入れた夢人であったが、その眉間に刻まれた皺は消えることはなかった。
本当は夢人も『再誕』の女神がどんな扱いを受けているのかは理解している。
彼女達がゲイムギョウ界を修復するために生まれたのは、女神の卵に選ばれ勇者をしている自分が1番よく知っている。
だからと言って、彼女達がそのためだけに生まれてきたことに納得することなどできない。
自分のせいであるとはいえ、彼女達には心があり、本来の『再誕』の女神とは異なる存在だからだ。
シン達が用意した心のない道具ではなく、自分達と同じように心がある女の子……それが夢人の『再誕』の女神に対する認識である。
ただ少しだけ特別な力があるネプギア達と同じ存在だと夢人は思っているのだ。
「これはもう1人の『再誕』の女神……確か、アカリと言う子も同様なのですが、彼女達が本来なら1人の女神として生まれるはずであったことはご存知ですよね?」
「ああ」
「しかし、実際に女神の卵から生まれたのは2人。これに疑問を覚えたことはありませんか?」
「それは……」
エヴァの質問に夢人は言い淀んでしまう。
この問題を考えていなかったわけではない。
むしろ、フィーナの存在を知ってからずっと今まで疑問に思っていたことである。
(最初は俺が女神の卵を砕いたせいだと思っていたけど、フィーナの話が本当なら違うんだよな)
フィーナの誕生説、最初に立てていた仮説は彼女自身の話によって否定されていた。
最初は自分が女神の卵を砕いたせいで『再誕』の女神が2人になってしまったのだと考えていたのだが、それではつじつまが合わない。
フィーナは女神の卵が夢人の体内にある時にすでにアカリと共に存在していたのだ。
その事実を嬉しそうに語ったフィーナの言葉に嘘はないと夢人は考えている。
フィーナがその事実をねつ造してまで夢人に嘘をつく理由がないからだ。
「おいおい、回りくどいことペラペラしゃべってるほど時間に余裕なんてねぇンだよ。言いたいことがあんならさっさと言いやがれ」
〔言葉は悪いが、私もリンダと同意見だ。今こうしている間にもそのフィーナによってゲイムギョウ界に被害が拡散している。すまないが、手短に頼む〕
なかなか本題に入ろうとしないエヴァに、リンダは苛立ちを感じ荒い口調で急かしたてる。
それに同調する形でワンダーも続き、エヴァは1度瞬きをすると顔を引き締めて口を開く。
「……そうですね。では、簡潔に結論だけ言いますと、今の彼女達は1人の『再誕』の女神と言う存在を無理やり2人に分裂させている状態なのです」
「そんなことできるわけ……」
「できます。それを可能にする『再誕』の力は、あなたが1番よく知っているのではないのですか?」
「え……あ、“再現”」
「その通りです。彼女達はお互いに別れてしまい、不足してしまっている部分を“再現”を使って補っているからこそ存在することができるのです」
夢人はエヴァの言葉に納得するように頷いた。
何故なら、自分が最初にゲイムギョウ界にいることができた理由が女神の卵が自分の記憶を基に体を“再現”していたからだと夢人は知っているからである。
だからこそ、記憶がなくなったことで“再現”するための情報が不足した結果、夢人はギョウカイ墓場で消えてしまったのだ。
「ですが、いくら“再現”で補っているとはいえ、それは一時的な対処にしかなりません。特にあなたの体に入っていたアカリとは違い、常にその存在を“再現”していたフィーナにとって不足分を“再現”し続けることは大きな負担になっていました。さらに、いつまでも不足分を“再現”し続けられるわけでもありません。何故なら……」
「情報が劣化するから、だろ?」
「はい。元は1つであったものが別れてしまった結果、不足分の情報を失ってしまった彼女達は存在するために最低限活動に支障が出ない程度の物しか“再現”することができないのです」
「……つまり、2人は不足している情報をイメージでしか“再現”できていない、でいいんだよな?」
「そうです」
話すうちに言い辛そうに眉間に力がこもるエヴァの姿に、夢人は口を挟みながら自分の言葉に変えて確認していく。
だが、同時に夢人の表情も強張り始めた。
エヴァの説明が真実ならば、フィーナは自身の体を維持するだけで命がけであったことがわかったからである。
イメージによる“再現”の弊害は夢人もブレイブソードで体験済みだ。
劣化した情報が崩壊した際に起こる被害は夢人なら頭痛程度で済んだが、自身の存在に不可欠なものを“再現”しているフィーナにとってみれば致命的な問題になってしまう。
もしも“再現”し続けられなくなるほど情報が劣化してしまえば、その時点でフィーナは存在を維持することができずに消滅してしまうだろう。
だからこそ、フィーナは自身で積極的に動くことができなかったのである。
ただでさえ体を“再現”しているだけでもシェアエナジーを消耗してしまうのに、不足分の“再現”のためにはそれ以上のシェアエナジーを必要としていたからだ。
……そう、フィーナは通常よりも過剰とも言える量のシェアエナジーを不足分の“再現”のために費やしていたのである。
劣化していく傍からシェアエナジーで無理やり情報を固定化しようとする、かつてマジェコンヌがユニミテスを“ペースト”していた状況と同じことをしていたのだ。
「そのため彼女達は不足している部分が持つ情報、『再誕』の力の一部を発揮することができない状態にいるのです」
「それって“カット”とか“ペースト”って奴か?」
「ええ。私が見てきた限り、フィーナは“ペースト”を使うことができません。こんな例えしかできず申し訳ございませんが、おそらく彼女は『再誕』の女神を構成するシステムの1つ、“カット”を担当する領域が意識を持った存在なんだと思います」
夢人はここに来るまでにワンダーから聞いていた知識の中からエヴァが言いたいことを予測して口にする。
それに対してエヴァは申し訳なさそうにしながら、フィーナの存在に対する自身の推測を述べた。
実際にフィーナは1度も“ペースト”の力を行使したことはない。
フィーナが使ったことがある『再誕』の力は、“再現”と“カット”の2つ。
反対に、アカリが使ったことがある『再誕』の力は、“再現”と“ペースト”、それに“リバース”の3つである。
両者に共通する“再現”の力とは、“カット”と“ペースト”の元になる力であり、基礎となるものなのだ。
“再現”とは、そのまま情報を組み立てるだけの工程でしかない。
しかし、“カット”は1つのまとまった情報を部分的に抜き取ることができ、“ペースト”は情報を貼り付けて変化させることが可能である。
言わば、2つは“再現”の力をより細分化させて特化させた力なのである。
情報を読み取るだけなら“カット”は必要なく、ただ“再現”するだけなら“ペースト”も必要ないのだ。
“カット”することができるからこそ必要な情報だけを“再現”することができ、“ペースト”できるからこそ任意の場所に情報を“再現”することができる。
2つが組み合わさることで初めて『歪み』によって壊れてしまったゲイムギョウ界を修復することができる。
「何故意識が生まれたのか私にはわかりませんが、本来であれば『再誕』の女神として生まれるはずであったのはアカリの方であり、フィーナはイレギュラーな存在なのだと思います。何故なら、彼女は『再誕』の力を使う上で1番重要である“リバース”の存在を知りません。現に、彼女は犯罪神を完全に吸収することができていません」
「ああ? だったら、アイツはどうやってシェアエナジーを確保してんだよ?」
「それは今、ゲイムギョウ界でジャッジ・ザ・ハードとブレイブ・ザ・ハードが暴れているからです」
* * *
「ハア、ハア、ハア……やり、ました、よね?」
息も絶え絶えの様子で地面に四肢を放り出して呼吸を整えるフェルは、隣でX.M.B.を構えているユニに尋ねた。
その表情は興奮状態が続いているようで、口元が緩んでいる。
ユニのために時間稼ぎをしていたフェルは、その身に疲労感よりも達成感と言う強い爽快感を感じているのだ。
しかし、対照的に声を掛けられたユニの表情は暗い。
いくら話を聞いてくれないとはいえ、できることならユニはブレイブと戦いたくなかったからである。
ゲイムギョウ界のことを真剣に考え、悩み、傷ついていた姿に親近感を覚えていたからだ。
立場は違えど、公言していた正義に偽りはなく、敵でありながらも尊敬していた相手でもあった。
そのためユニは戦いの途中で正気に戻ってくれるんじゃないか、自分の話を聞いてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。
しかし、ブレイブはユニの話に耳を傾けることはなく、ただ邪魔をする彼女達を排除するために攻撃してきた。
その事実にユニは泣きそうになるくらいに胸を締め付けられた。
だが、女神として理由も話さずに暴れ回るブレイブを放っておくことも、ユニ個人としてこれ以上その痛々しく感じる姿を見ていることもできなかった。
だから、ユニにはブレイブを止めるため全力を出して倒すという選択肢しかなかったのだ。
そのことにユニは無力感を覚え、胸の傷はさらに広がり痛みだす。
それでもユニはそれを隠して毅然とした態度を貫く。
ノワールからラステイションを任された責任感や自分のために時間を稼いでくれたフェルに対する感謝はもちろんだが、最後まで堂々としていることが自分がブレイブのためにできることだとユニは考えたからである。
記憶にあるブレイブのように自分を信じて今できることを全力でやり抜くことが、彼に対するせめてもの礼儀であると信じて。
「ええ、いくらアイツでも……」
「うおおおおおおお!!」
フェルを安心させるようにユニが無理やりほほ笑もうとした時、突然大声と共にX.M.B.の一撃を喰らい棒立ちになっていたブレイブが動きだす。
頭から胸にかけて発生していた焦げ付いたような煙は腕で大きく払われ、見え始めたブレイブの姿にユニ達は驚愕してしまう。
……傷ついている体が見る見るうちに修復されていくからである。
X.M.B.の一撃がブレイブに効いていなかったわけではない。
煙が晴れた時には、確かに胸にある獅子のような意匠も顔も焦げていたり、溶けていたりしたのを確かにユニ達は目撃している。
しかし、それもブレイブの体から漏れ出すように発生する光の粒子が元通りに直していくのだ。
「よくも……よくもやってくれたなっ!!」
「……まだ終わってないみたいね」
自分達を睨みながら怒りをあらわにするブレイブに、ユニは冷や汗を流して無意識にX.M.B.を握る指に力を込めてしまっていた。
* * *
「っ、きゃあああああ!?」
ナナハとジャッジの戦いに介入しようとするベールであったが、2人の間に入ることができず、再び弾き飛ばされてしまう。
決意を新たに飛翔してから、もう何度も同じようにベールは地面を転がり伏せていた。
邪魔者を排除するようにジャッジには拳やポールアックスを振るわれ、ナナハにはその存在を完全に無視されているためベールは動きを制限されてしまっていた。
ベールの体は擦り傷や青く変色した肌が目立ち、顔も地面を転がった際についた泥がついている。
それでもベールは諦めることなく、槍を支えにして立ち上がり、2人が戦っている方を睨むように見据える。
〔ちょっとちょっと、大丈夫なの?〕
「……これくらい、平気、ですわ」
〔意地を張る必要はない……だが、まだ諦めてないようで何よりだ〕
ふらつくベールを心配するように4つの光の球体、ゲイムキャラ達が近づいてきた。
誰の目から見てもベールの状態が悪いことは一目瞭然である。
しかし、その言葉からベールがまだナナハを助けることを諦めていないことを確認できたラステイションのゲイムキャラは心なしか声の調子を若干和らげた。
〔またそんな言い方をして……だから、あなたには変なイメージがついて誤解されやすいのですよ〕
〔なっ、それを言うならお前はどうなんだ!? 私も他の奴らから聞いているぞ! お前が昔酷い誤解を受けていたことを!〕
〔……今はその話は関係ないですよね?〕
〔ふん、図星を指されて声が硬くなっているぞ? どうした? 言い返さないのか? まああんな酷い誤解を受けたことをなかったことにしたい気持ちはわからなくも……ふぎゅっ!?〕
〔はいはい、ストーップ! そこまでよ!〕
〔ええ、今はそんな話をしている場合じゃないわ……女神候補生の方もそうだけど、あの黒い奴も厄介なことになっているわ〕
戦闘に関係のない不穏な空気を出し始めるラステイションとルウィーのゲイムキャラの言い合いを止めるため、リーンボックスとプラネテューヌのゲイムキャラはラステイションのゲイムキャラを物理的に黙らせるために突貫した。
ぶつかって2人に挟まれた時に間抜けな声を漏らしたラステイションのゲイムキャラを放っておき、プラネテューヌのゲイムキャラはナナハとジャッジの戦い……特にジャッジの様子を見て声を尖らせる。
〔そうよね。今のあの黒い奴の状態はアイツと同じような感じなのよね〕
「……いったい何を言っているんですの?」
〔よく見てください。あの黒い奴は女神候補生から受けた傷をすぐに回復させているのです〕
プラネテューヌのゲイムキャラの言葉に同意するように続くリーンボックスのゲイムキャラの言葉に、ベールは事情を飲み込むことができずに疑問を口にする。
すると、ルウィーのゲイムキャラがジャッジの体に起こっている異常現象について指摘しだす。
撫子によって傷ができたはずの鎧が、次の瞬間にはなくなっているのである。
それはベールも最初から気付いていたことで、先を促すようにゲイムキャラの方を目を鋭くさせて見つめた。
〔あの現象と彼から感じ取れる力の波動……かつて私達は彼と似たような現象を起こしている相手と戦ったことがあるのです〕
「それはいったい……」
〔魔王ユニミテス、よ〕
「っ!?」
その言葉にベールは慌てて視線をジャッジへと向ける。
魔王ユニミテス、その名はギャザリング城の地下でマジェコンヌから聞かされた犯罪神の元になった存在。
それと同じような現象をジャッジが起こしていると言われ、ベールは驚愕のあまり自分の目を疑ってしまっていた。
確かにフィーナの力でパワーアップしたり、鎧がキラーマシンと同じ素材になったことで驚異的に力を増していたが、それがユニミテスと同様の現象を引き起こしているとは考えられないからである。
〔今の彼からは、とても強い負のシェアエナジーを感じます。とてもではありませんが、彼が扱えるとは思えないほど強く濃いものが今も増大しているように思えるのです〕
「ちょ、ちょっと待ってください!? それなら、どうしてジャッジ・ザ・ハードは普通にしていられるのですか!?」
プラネテューヌのゲイムキャラの推測に、ベールは慌てて声を荒げた。
それが正しければ、ジャッジは正気を保つことなどできるはずがないからだ。
身に余る力を宿しているのなら、ナナハのように暴走しているはずである。
ましてや、扱えるはずのない力が増え続けているのなら尚更だ。
しかし、ジャッジは暴走しているナナハの攻撃に理知的に対処している。
その姿は力に溺れて暴走しているように見えない。
〔うーん、多分だけど、あの黒いの……ジャッジ・ザ・ハードだっけ? アイツ何か欠けてるんじゃないの?〕
「欠けてる?」
〔そうそう、私達が戦ったユニミテスみたいに何か欠陥があるから誰かがシェアエナジーを送り続けているんじゃないのかなって思うんだけど〕
〔……それもあるだろうが、女神候補生が奴を傷つけているのも原因だろう〕
〔そうですね。ジャッジ・ザ・ハードは今、その身に受けた傷を治すためにシェアエナジーを消費していますから、傷を負えば負う程に体内に保有できるシェアエナジーに余裕ができているとも考えられますね〕
リーンボックスのゲイムキャラの説明に補足するように、会話に復帰してきたラステイションのゲイムキャラが自分の考えを告げる。
ルウィーのゲイムキャラもそれに同意したのを確認したベールは、最後に未だに自分の考えを口にしていないプラネテューヌのゲイムキャラへと確認するように視線を向ける。
その視線の意味を察したプラネテューヌのゲイムキャラは声を固くさせ、深刻そうな雰囲気を出しながら口を開く。
〔かと言って、このまま彼を放置していても駄目でしょう。例え女神候補生が傷をつけなくても、彼が暴れれば暴れるだけシェアエナジーは消費されていきます。つまり、彼が力に溺れて暴走する危険性は極めて低いです〕
「だとしたら、どうすればいいのでしょうか?」
〔……現状、彼に対処する方法はありません。傷をつけても瞬時に回復し、暴れさせていても疲れることがない彼を止める方法を私は思いつくことができません〕
「そんな……」
ベールはジャッジに対して有効な一手が思いつかないことを悔しく思い、ナナハと戦っている彼を見て顔を歪ませてしまうのであった。。
* * *
……今、オリジナルはなんて言った?
私が誰の娘で、誰の妹だって言ったの?
その言葉を信じられず、真っ直ぐに私を見つめてくるオリジナルの正気を疑ってしまう。
「……何をふざけたことを言っているの? そんなことあるわけ……」
「あるよ。だって、フィーナちゃんはアカリちゃんが望んだから生まれたんだよね?」
「っ!?」
内心の驚愕を悟られないように表情を硬くさせようとしたのだが、そのメッキはオリジナルの言葉で簡単に剥がされてしまった。
どうしてどうして!?
どうしてそれを知っているの!?
思わずオリジナルから一歩後ろへと下がってしまう。
今まで甚振っていた相手が急に得体のしれないものに見えてしまったからだ。
私の何もかもを見透かされているみたいで怖くなってしまう。
「私も知ったのはついさっきなんだけど、フィーナちゃんは夢人さんの妄想の中でアカリちゃんが望んだから生まれたんだよね?」
「……ええ、そうよ」
怖がる私を悲しそうに見つめてくるオリジナルに怒りが再燃してきた。
だから、私はあえて否定せずにオリジナルを睨みながら肯定した。
……そう、私はアイツがふと漏らした一言によって“再現”された仮初の存在。
アイツが弟だか妹だかを望んだからこそ女神の卵に生まれてしまったもう1人の人格……それこそが私なんだ。
言ってしまえば、私はアイツを慰めるためだけに生み出されたお人形さんと一緒なんだ。
「だから何? 私にあなたを母親だと、アイツを姉だと認めろとでも言うの? そんなことできるわけ……」
「ちがうの!!」
私の言葉を遮ったのは、憎いアイツの舌足らずな声だった。
アイツはいつの間にか自身の体を“再現”させ、オリジナルに抱かれていた。
しかも、オリジナル同様、私のことを今にも泣きそうな目で見つめている。
……何で……何であなたまでそんな目で私を見るの!?
苦しめている相手から向けられるはずのない感情に私は戸惑いを隠せない。
「わたし、いわなきゃだめなことがあるの!!」
「……なに? もしかして私を生みだしたことに対する後悔? それともあなたを父様から“カット”したことに対する恨みごと? でも、ざーんねーんでした! あなたがなんと言おうと私は……」
「ごめんなさいっ!!」
「……えっ」
馬鹿にして笑い飛ばしてやろうとした私の考えを消し去ってしまう程、その一言は衝撃的だった。
その言葉が耳に届いた瞬間、頭が一気に真っ白になってしまい、オリジナルを見つめていた目も見開いてしまった。
……ごめんなさい? 誰が? ……アイツが? 誰に? ……私に?
「アカリちゃんはね、ずっとフィーナちゃんに謝りたかったんだって。ずっと1人にしてごめんなさいって」
「……嘘」
「嘘じゃないよ。でも、ずっとそれを素直に言えなくて怖がってたんだよ」
全身から急に力が抜けたような体が重くなり、虚脱感を感じてしまう。
……信じられない。
アイツがそんなことを思っていたなんて信じられないっ!
「わたし、パパとママがいっしょにいるのをみて、うらやましかったの!! パパとママ、ふたりでいるとたのしそうにぽかぽかしてて、わたしもぽかぽかになりたいっておもったの!! ひとりはさびしくていやだったの!!」
「……だから、私を望んだの?」
「うんっ!! ……でも、わたしふぃーなちゃんをずっとひとりにしちゃった。はなしかけても、こえがとどかなかったの」
……違う。
私が一方的にアイツの声を遮断していたんだ。
私を生みだした憎い奴の声を聞きたくないから、存在自体を無視し続けていたんだ。
「わたしはふぃーなちゃんのおねえちゃんなのに、ずっとふぃーなちゃんをひとりにしちゃって、ごめんなさい」
オリジナルに抱かれているアイツが頭を下げる姿を見て、私はお腹の底からとある感情が浮かび上がってきた。
「だから、もうこんなことはやめて一緒に……」
「うふ、うふふふふ……」
「フィーナちゃん?」
「アハッ、ふふふふふふ……」
……ああ、そうか。そうだったのか。
アイツもオリジナルもそんなことを考えていたから、私を攻撃できなかったのか。
1度理解してしまうと、私は笑いを止めることができなくなってしまった。
止めようとして上げた視線の先に映るオリジナルの間抜け面に、余計止められなくなってしまう。
「ふぃーなちゃん、どうしたの?」
「ふふ、ふふふふふふふふふふ……………………気持ち悪い」
「えっ……」
「気持ち悪いって言ったのよっ!!」
そんな笑いもアイツが漏らした一言によって収まり、私はオリジナル達を見下しながら、今の心境を吐露する。
聞き取れなかったのか、オリジナル達が目を見開いて驚いていた。
そんな間抜けな顔が愉快で滑稽なものに思えて、私は口の端を吊り上げてしまう。
「それで何? 謝ったから今までのこと全部水に流して、これからは仲良し姉妹になりましょうってこと? これからは自分のことを母親だって思えってこと? ……馬鹿じゃないの? そんなことできるわけがないでしょ? 気持ち悪いったらありゃしないわよ」
「そ、そんなことないよ!? 今からだって仲良く……」
「できるわけないでしょ? ……私は『再誕』の女神。私が私になるために、あなた達は邪魔でしかないのよ」
「そんなことない!! わたしはふぃーなちゃんと……」
「黙れ!! その名前で私を呼ぶな!!」
まだ戯言をほざき続けるオリジナル達を睨み、私は垂れさがっていた腕を持ちあげてゲハバーンを構える。
……そう、オリジナル達からフィーナと呼ばれる度にギャザリング城の地下であの男に抱きしめられた時の不快感がよみがえってくる。
それだけじゃない。
初めてエヴァに会った時や犯罪神を吸収した時も同じ気持ちを覚えた。
まるで私を見ていない……私を通して違う誰かを連想させている気持ち悪さを感じる。
……それも当然よね。だって、私は“フィーナ”なんかじゃないんだから。
「うふふ、さあ続きを始めましょう? 私はあなた達の全てをこのゲハバーンで“カット”する。そして私は完璧な女神に……『再誕』の女神“アカリ”になる!!」
「フィーナちゃん!?」
「うるさい!! 同時に私は“ネプギア”にもなる!! だから、あなた達はいらないのよ!!」
……ゲハバーンを使えば、女神の体から“女神”の力を“カット”することもできる。
その力を自分の物にすれば、私はシェアエナジーに困ることはない。
不完全な『再誕』の女神ではなく、完璧な『再誕』の女神としてこのゲイムギョウ界に存在し続けられる!!
悪魔と呼ばれたデルフィナスではなく、『再誕』の女神“アカリ”として、プラネテューヌの女神候補生“ネプギア”として生きていくことができるんだ!!
「だから、あなた達はここで……っ!?」
オリジナル達に斬りかかろうとした私の耳に突然轟音が響いてきた。
慌てて音の発生源の方を向くと、黒い塔から空へと1条の光が伸びていたのだ。
何なの? アレはいったい何が起こっているの?
「……パパ?」
事態を把握できない私の耳にアイツが零した声が聞こえてきた。
……アレは父様の仕業だって言うの?
* * *
「っ……なら、もう1度……」
「いいからアンタは休んでいなさい! 後はアタシが……」
「死ねっ!!」
立ち上がり再び囮になろうとするフェルを止め、ユニは飛びあがろうとする。
しかし、それよりも早くブレイブは背中から伸びている砲台から砲撃を放ってくる。
「くっ!?」
自分とフェルを狙ってきた砲撃をユニは急いで撃ち落とすためにX.M.B.から弾丸を発射した。
その結果、何とかブレイブの砲撃が地面に着弾する前に空中で爆発させることには成功した。
しかし、あまりにもギリギリのタイミングであったため、発生した爆風がユニとフェルを襲う。
ユニはX.M.B.を盾にして風避けに使い、フェルは転がらないように『人魔一体』によって獲得したリンの爪を地面突き刺し何とか耐える。
……だが、そんな2人にさらなる攻撃が迫る。
(もう一発、ですって!?)
爆煙を割きながら、ブレイブから放たれた2度目の砲撃が姿を現したことに、ユニは驚きのあまり完全に動きを止めてしまう。
ただでさえ、X.M.B.を撃てる体勢ではいなかったため、撃ち落とすことはできそうにない。
フェルに至っては転がらないようにするのが精いっぱいで目を固く閉じていたので、2度目の砲撃にすら気付いていない。
……2人が砲撃を避けることは不可能だった。
(……ごめん、お姉ちゃん、ネプギア……夢人……アタシ、できなかったよ……)
何故か迫ってくる砲撃がゆっくりに感じたユニは、走馬灯とはこんなものなのかと思ってしまう。
心の中で自分を信じてくれたノワール、ネプギア……そして、自分の思い人で初めて自分を信じることを教えてくれた夢人に謝りながら瞳を閉じてしまう。
「どうした? 貴様の思いはその程度だったのか?」
(え、この声って……)
ユニは聞こえてきた声に驚き目を見開いてしまう。
その声はさっきまで聞いていたはず者と同じはずなのに、耳に響く重さが違う。
その重さはユニの記憶の中にあるもの、そのものであった。
声が聞こえると同時に目の前でブレイブの2度目の砲撃が何かに撃ち落とされ、爆音と共に爆煙が視界を埋め尽くす。
やがて、煙が晴れるとそこには砲撃を放ってきた敵と同じ姿をした人物が立っていた。
その人物は砲撃を放ってきた敵とは違い、青と白のボディをしていて胸にある獅子の意匠も金色に輝いていた。
「あの時勇者と共に見せたあの強さ……できそこないの力とはその程度で折れてしまうものだったのか?」
「アンタ……アンタは……っ!?」
「フッ、よもやこのような形で女神に味方するなど夢にも思っていなかったが、状況が状況だ。俺の偽物を倒すため……ゲイムギョウ界を守るために助太刀する!!」
「……本当にブレイブ・ザ・ハードなの?」
啖呵を切ったその人物、ブレイブの背中を見つめてユニは不審げに眉をひそめながら言葉を投げかける。
……その推定50センチ程度にしか見えない小さすぎる背中に向かって。
と言う訳で、今回はここまで!
なんか今日運営の方で活動報告が消えると言う事態が起こったそうで、皆様からもらったアンケートが消えたかと思ってかなりドキッとしましたΣ(゚ロ、゚;)
ですが、消えてなかったようでよかったです……まあ、アンケートの方も結果はもう確定しているようなものだったのですけどね。
それでは、 次回 「強く、雄々しく、たくましく」 をお楽しみに!