超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
何とか二日で仕上げることができましたy(^ー^)y
……顔文字は要練習ですね。
それでは、 サブシステム はじまります


サブシステム

 フィーナの怒りは叫んだだけで静まることはなく、奥歯を噛み砕かんばかりに強く噛み締めてネプギアをきつく睨みつける。

 

 先の言葉が発端ではあるが、ネプギアの態度がフィーナの怒りに油を注いでいるのだ。

 

(何よ、その目はっ!! いったい何なのよっ!!)

 

 フィーナが1番気にくわないのは、ネプギアが自分に向けてくる視線である。

 

 ……まるで憐れんでいるように悲しそうに瞳を潤ませて自分を上目遣いで見つめている。

 

 これまで散々痛めつけ、馬鹿にして、殺してやろうとしている相手がそんな目をしているのが気に入らない。

 

 恨み、憎しみ、悔しさを滲ませて自分を見つめてくるのならわかる。

 

 自分が逆の立場だったら、必ず相手をそう言った思いを込めて睨んでいるはずだとフィーナはすでに知っていた。

 

 何故なら、それこそがフィーナがネプギアを甚振っている最大の理由だからだ。

 

 本当にすぐに決着をつけたかったのであれば、プラネテューヌの教会に乗り込んだ時にネプギアをゲハバーンで貫けばよかったのだ。

 

 この場においても、キラーマシン達を使ってネプギアの動きを止めさせればよかったのだ。

 

 『再誕』の力を使うことに慣れていないネプギアはすぐにシェアエナジーを切らしてしまい、楽にトドメを刺すことができたはずだった。

 

 そうすれば、フィーナの『再誕』の力に対抗できるものは存在せず、例え他の女神達がいても楽にゲイムギョウ界を手中に収めることができたであろう。

 

 ……だが、フィーナのネプギアとアカリに対する憎しみは、そんなことで晴れるほど薄いものではなかった。

 

「人のことを見下して、あまつさえ母親ですって? ……勝手なことを言うな!! あなた達は私の敵……あなた達がいるから、私はいつまで経っても私になれないのよ!!」

 

「違う!! ……私達は、フィーナちゃんのことを……」

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

 怒りに体を震わせ、フィーナはネプギアの言葉を否定するように吠えた。

 

 しかし、それでもネプギアは態度を変えることなく、フィーナを潤んだ瞳のまま悲しそうに見つめてくる。

 

 自分が望んでいない感情をぶつけてくるネプギアの姿を打ち消すように、フィーナは激しく頭を左右に振って大声を上げた。

 

「何も知らないくせに!! 私が誰なのかも……」

 

「知ってるよ」

 

 キッと睨みながら喚くフィーナの言葉を遮るように、ネプギアの声が凛と響く。

 

 ネプギアは1度瞬きをすると、顔を引き締めて真っ直ぐにフィーナの瞳を覗き込むように見つめて迷いなく口を開いた。

 

「フィーナちゃんもアカリちゃんと一緒で私と夢人さんの娘……それに、アカリちゃんの妹だよ」

 

「っ!?」

 

 放たれた一言に、フィーナは目を見開いて体をビクッと震わせてしまったのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 一方、その頃リーンボックスでは、ベールがナナハとジャッジの戦いに介入しようとしていたのだが……

 

「どりゃあああああ!!」

 

「ああああああああ!!」

 

「ぐっ、きゃああああ!?」

 

 撫子とポールアックスによって発生する衝撃によって、ナナハを押さえることはおろか、ジャッジを彼女から引き離すこともできずに1人後ろへと吹き飛ばされてしまう。

 

 吹き飛ばされながらベールはプロセッサユニットのウイングによって体勢を整えると、すぐに手に持つ槍の先端をジャッジに向けて飛翔する。

 

「はああああああ!!」

 

「ぬっ!?」

 

 ナナハの相手だけでも精一杯の状態であったジャッジは、ベールの攻撃に反応することができずにその身に槍の一撃を受けてしまった。

 

「ふんっ!!」

 

「っ、あああああ!?」

 

 しかし、ベールの攻撃はジャッジの鎧に傷1つ付けることはできず、一瞬だけしか動きを止めることしかできなかった。

 

 槍の一撃を受けた当初は少しだけ体を押され体勢がずらされたジャッジであったが、すぐに自分の体を貫こうとして失敗した槍を腕で払いのける。

 

 本当ならば押し切ろうとしていた一撃が体勢を崩す結果しか残せなかったことにベールは硬直してしまっていた。

 

 そのためジャッジによって槍が払われたことで大きく仰け反ってしまい、両手を万歳しているような体勢で体を無防備に晒してしまう。

 

 そんなベールに追撃しようと、ジャッジはポールアックスを振り上げて彼女を両断しようとするのだが……

 

「ああああああ!!」

 

「うぐっ!?」

 

「……あぐっ」

 

 ベールを狙っていたポールアックスを構える腕に、ナナハが横から払うように撫子を振るったのだ。

 

 横から力が加わったことにより、ポールアックスの狙いはベールから外れ、虚しく空を切りながら地面へと突き刺さる。

 

 ベールはと言うと、背中から地面へと打ちつけられてしまっていた影響で、苦しそうに息を吐きだして薄目を開けて自分を助けてくれたナナハを見つめた。

 

「ナナハ、ありが……」

 

「はあああああああ!!」

 

「ぐおっ!? ぬぐっ!?」

 

 ナナハが自分を救うためにジャッジの攻撃を防いでくれたのだと思い、ベールは苦しそうにしながらも頬を緩めて礼を言おうとするのだが、最後まで言い切ることができなかった。

 

 ナナハの目にベールは映っておらず、ただジャッジを睨むように見つめて撫子を構えていた。

 

 そして、ジャッジが体勢を整える前に脇目も振らずに撫子を大きく横薙ぎに振るって、態勢をさらに崩しにかかる。

 

 ポールアックスを抜き取ることが間に合わず、ジャッジは鎧の胸の部分で撫子の刃を受けてしまい、短くうめき声を上げて後ろへと飛び退るようにナナハから距離を取ろうとした。

 

 すでに何度も刃を交えたことで、ジャッジはナナハ相手に近すぎる距離での戦闘は不利だと判断したのだ。

 

 その際、ポールアックスを地面から抜き取り、自身の体と平行になるように両手で横に構えた。

 

 その判断は正解であり、すぐさま距離を詰めて飛んできた撫子の刃を柄の部分で防ぐことに成功するのであった。

 

 そして、再びナナハはジャッジの周りを高速で移動しながら撫子で斬りつける。

 

 それを迎撃しようとジャッジも足を止めて、ナナハに向かって腕やポールアックスを振るっていく。

 

 ……ベールが介入する前の状況が出来上がってしまったのだ。

 

「くっ、ナナハ……」

 

 ベールは倒れた体を起こすと、自分から離れた位置で繰り広げられる2人の戦いを悔しそうに唇を噛みながら見つめる。

 

 ベールの目的はナナハの動きを止めて正気に戻すこと。

 

 そのため、ベールはまずナナハからジャッジを引き離そうとしていたのだ。

 

 2人を同時に相手をするほど、ベールは自分の力を過信していない。

 

 パワーアップを果たしてネプギア達女神候補生3人を無傷のまま圧倒したジャッジ。

 

 このままでは再び『歪み』になってしまう程、力が刻一刻と増大して暴走しているナナハ。

 

 両者の動きを1度に止めるには、力も人数も足りない。

 

 だからこそ、ベールは遠慮なく攻撃できるジャッジをナナハから引き離そうと考えたのだ。

 

 傷つけることはできなくても、全力で攻撃すればナナハから引き離すことくらいは自分にもできると考えたからである。

 

 ……しかし、結果として自分の全力はジャッジの動きを少しの間しか止めることしかできず、ナナハから遠ざけることもできなかった。

 

 また、ナナハには自分の存在が見えていないのか、倒れていた自分を無視してジャッジに向かっていく姿にベールの心は傷ついた。

 

 体も心もくじけそうになりながらも、ベールは槍を支えに立ちあがり、再び2人の間に突貫しようと槍の先端を向ける。

 

「今度こそっ! ……っ!?」

 

 決意を口にして自身を鼓舞すると、ベールはジャッジへ槍を突き刺すように勢いよく飛び出す。

 

 迷いなく真っ直ぐにジャッジへ向かっていくベールであったが、突然目を見開き動きを止めようとしてしまう。

 

 ……ナナハの動きから槍とジャッジの間に躍り出ることがわかったからである。

 

 高速で移動していると言っても、プロセッサユニットから発生する火花が彼女の移動先を教えてくれる。

 

 それでもジャッジがナナハを捕まえられないのは、彼女の動きが彼の反応速度を越えているからだ。

 

 ナナハは自身に向かって伸びてくる腕や振るわれるポールアックスを最小限の動きで避けることで、動きを予測されていても平気であった。

 

 しかし、認知外からの攻撃は防ぐことができるのか? もしかしたら、自分の槍がナナハを貫いてしまうのではないか? ……そんな最悪の事態が一瞬で浮かび上がったベールは慌てて自身の動きに制動をかける。

 

 ジャッジを貫こうとしていた槍の先端を下げて止まろうとするのだが、飛翔している体は止まってはくれず、ベールはぶつかることを覚悟で体を丸めた。

 

「うおりゃあああ!!」

 

「ぐっ、あああああああ!? ガハッ!?」

 

 そんなベールを視界に収めていたジャッジはにやりと笑って拳を突き出した。

 

 ナナハを空振りした拳は、その後ろから現れたベールに直撃する。

 

 体を丸めていたベールは背中を強打され、まるで海老のように体が反ってしまい、胸から地面へと激突してしまう。

 

 ベールは地面に激突した際に肺の中の空気を全て吐き出してしまった影響で、意識が混濁し手から力が抜けてしまい、握っていた槍を手放してしまう。

 

 手放してしまった槍は、遠くへと転がっていってしまった。

 

 うつ伏せの態勢のまま動かなくなったベールを見ても、ジャッジ追撃することなく、ナナハの対処へと意識を切り替えた。

 

 ジャッジの警戒は鎧を傷つけることができるナナハに限定されていたのだ。

 

 とある理由で鎧が自動修復するとはいえ、そう何度も傷つけられていてはジャッジも焦りを隠せない。

 

 何より、ナナハの攻撃が段々と鋭くなっているのを肌で感じているからこそ、ジャッジは最優先で彼女を狙っているのである。

 

 一方で、ナナハも先ほどから戦いに介入しているベールが見えていないかのように振舞い続け、ジャッジだけを狙い続ける。

 

 すぐ近くでベールが倒れていても、ナナハは見向きもしない。

 

 まるでベールの存在に興味がないかのように、ジャッジだけを見据えているのだ。

 

 ……つまり、両者はベールの存在を気にも留めていないのである。

 

 2人にとって敵として映っているのはお互いだけであり、戦いに介入しようとするベールの存在などどうでもよかったのだ。

 

(……立た……な……けれ……ば……)

 

 混濁する意識の中、ベールはうつ伏せのまま手探りで手放した槍を探して腕を彷徨わせる。

 

 強打された背中と地面に打ち付けた胸は、感覚が麻痺しているようでベールは痛みを感じていない。

 

 だが、その分受けたダメージは深刻であり、瞼は今にも閉じてしまいそうであった。

 

 微かに見えるその瞳の色も虚ろになりかけ、ベールの視界は焦点が合わさっていないように霞んだものになっている。

 

 槍を探す腕も小刻みに震えており、今にも地面に落ちて動かなくなってしまいそうである。

 

 ……しかし、ベールは満足に体を動かせなくても、意識を手放さないように首に力を入れて顔を上げた。

 

 霞んでいてよく見えないはずの視界で槍のような物を見つけると、それを拾うために腕を伸ばして体を這いずるように体を移動させる。

 

(……これは……今までの……ツケ……なので、しょうね……っ)

 

 意識を保つためにベールは口の中に血の味を感じるほど奥歯を強く噛み締めた。

 

 すると、次第に他の感覚も呼応するかのように正常に機能し始め、ベールは体の至る所から痛みを感じてしまう。

 

 特に、ジャッジによって強打された背中のプロセッサユニットが露出している部分は変色しており、とても痛々しい姿をさらしていた。

 

 体中から響いてくる痛みに脳が強制的に意識を落とそうとするのを強い意志で繋ぎとめ、ベールは転がっている槍へと這いずって行く。

 

(わたくしは……今まで……ナナハに……何も……できません、でしたわ……っ)

 

 後悔の念を強く思えば思うほど、ベールの瞳に力が戻り始める。

 

 ナナハを止めることができない不甲斐なさ、悔しさ、悲しみ……そして何より、意識を手放して諦めてしまいそうになる自分に対する憤りがベールを突き動かしている。

 

 ベールとナナハの関係は、他の姉妹に比べると繋がりが薄いものであった。

 

 生まれはもちろんだが、心の距離が離れすぎていたのである。

 

 ネプテューヌとネプギアのように、お互いに必要とし必要とされる関係ではなかった。

 

 ノワールとユニのように、尊敬され目標とされる関係でもなかった。

 

 ブランとロム、ラムのように、守り慕われる関係でもなかったのだ。

 

 ベールはナナハにどう接したらいいのかわからず、いつも上手くコミュニケーションを取ることができなかった。

 

 犯罪組織に捕まる前は、自分に対してなかなか心を開いてくれないナナハを相手に、姉として見栄を張ったり振り回すことしかできなかった。 

 

 ナナハが歩み寄ってくるようになってからは逆に甘えてしまい、ベールは自分の感情を制御できずに近づきすぎてしまった。

 

 そのことをベールは心のどこかで時間が解決してくれると勝手に思い込んでいた。

 

 自分達と他の姉妹との違いは一緒に過ごしてきた時間の差、自分達も一緒に過ごすことで本当の姉妹になれると妄信していたのである。

 

 ……その結果が再び自分を拒絶するように立ち去ったナナハである。

 

 しかも、理由は不明だが力を暴走させ、『歪み』に戻ってしまうかもしれない事態も招いてしまった。

 

 発端はネプギアの言葉だろうが、ベールはナナハを止められなかった自分のせいであると後悔していたのである。

 

 なぜあの時、自分は走り去っていく彼女の背中を追えなかったのか、泣き崩れることしかできなかったのか……どうしてナナハの姉として自信が持てなかったのかを悔やんでいるのである。

 

 たった一言、それだけで今までの全てがなかったことになってしまうくらい、自分達の関係は薄いものだったのか? 途切れてしまうくらいに自分達の絆は脆いものだったのか? ……自問自答し、答えを出せなかったベールの背中を押したのはもう1人の妹、チカだった。

 

 ナナハと同じで血の繋がらない仮初の妹であったが、チカはベールを最初からお姉さまと呼んで慕っていた。

 

 自分の関心を引こうと色々なことをして構ってもらいたがるチカに、ベールは時として飴を、時として鞭を与える理想の姉を演じることができていた。

 

 それがいつしか自然な形になり、ベールはチカを大切な本当の妹と思えるようになっていた。

 

 そんなチカが自分と同じ妹であるナナハのために涙を流していたのだ。

 

 ベールはチカがナナハの存在を疎ましく思っていたことに気付いていた。

 

 突然現れたポッと出の妹、自分よりもベールの役に立つことができる力を持っているナナハにチカが嫉妬しないわけはなかった。

 

 だからこそ、救出された後、2人の仲が良くなっていることに誰よりも喜びを感じたのだ。

 

 チカはナナハを愛でるようになり、ナナハはチカを姉として慕う。

 

 嫌っていたり、家族になることを怖がっていたはずなのに、2人の関係はベールが目指した姉妹の関係を築いていたのだ。

 

 そんな2人から姉として慕われることの居心地の良さに、ベールは問題を先送りにしてしまっていた。

 

 自分が2人の関係に乗っかっているだけで、間に入れていないことに気付いていなかったのである。

 

 本当なら、自分が乗り越えなければならなかった問題を夢人に解決してもらい、チカと姉妹になったナナハが自分の妹であると錯覚していたのだ。

 

 自分とナナハの距離は変わっていなかったのに、ベールはそれを見て見ぬ振りをして今日まで過ごしてしまった。

 

 ……2人の優しさに甘えていたのである。

 

(今のままでは……ナナハの姉はおろか……チカの姉も名乗れませんわ……)

 

 這っていくうちにベールの思考も段々とはっきりとしだし、ぼやけていた視界も正常に戻っていく。

 

 這うために力を込めていた指は地面をより深く抉り、転がっている槍へと大きく前進する。

 

 やがて、槍まで手が届くと、もう2度と離さないように強く握りしめた。

 

 槍を自分の胸の近くまで引き寄せ両手で握ると、立ち上がるための支えとした地面に刃の部分を突き刺す。

 

 上手く力が入らず、倒れそうになりながらも立ち上がったベールは顔を上げると、未だに何かがぶつかり合う音が響いてくるナナハとジャッジの方へと視線を向けた。

 

 ……そして、視線の先にいるナナハの姿を見て、悔しさに顔を歪ませてしまうのであった。

 

 険しく細められた両眼はナナハの激情に反応しているのか、普段よりも強い紫色の輝きを放ち、火花と共に紫色の光も置き去りにして高速で移動していた。

 

 プロセッサユニットから発生する火花も、最初は金色のラインだけであったが、今では腕や足が帯電しているようにバチバチと稲妻を発生させていた。

 

 ナナハの増大し続ける女神の力に、プロセッサユニットと彼女の体が限界を迎えようとしていたのである。

 

 自分が何もできずに倒れていた間にも、ナナハは苦しんでいたのだ。

 

 その事実が焦りとなり、ベールの胸に刻まれている傷に塩を塗るように痛みを悪化させる。

 

 ……しかし、同時にベールの決意の炎を熱く燃え上がらせた。

 

(誇れなくていい……立派じゃなくていい……凛々しくも頼もしくなくてもいい……ただ2人の、わたくしの大好きな2人の姉でいたいっ!!)

 

 槍を地面から引き抜き、ふらつく体勢をプロセッサユニットのウイングで整えながら、ベールは視線をブレさせることなく真っ直ぐにナナハ達の方へと向けた。

 

 持ち上げるだけでも辛いはずの槍の先端をジャッジへ構え、ベールは睨むように目を鋭くさせて顔を引き締めた。

 

 その心にあるのは、自分を姉と慕ってくれる2人の妹。

 

 その優しさに甘えるばかりで何もしなかったことに対する後悔。

 

 それでも、2人の姉で……家族でありたいと願う強い気持ちがベールの体を動かす。

 

(待っててください、ナナハ!! 今、あなたを助けますわ!!)

 

 決意を胸に滾らせて、ベールは再度ジャッジへと飛翔する。

 

 その姿は先ほどまでさらしていた今にも気絶しそうなほどの弱弱しいものではなく、大切なものを守るために立ち向かう強い意志を感じさせるものであった。

 

 

*     *     *

 

 

「ここ、なのか?」

 

〔はい、その通りです〕

 

 エヴァの案内の元、夢人達は黒い塔の最上階にある部屋の前に辿り着いていた。

 

 しかし、その扉は固く閉ざされており、まるで侵入者を拒むような印象を与えてくる。

 

 そのことに疑問を覚えた夢人は声を漏らしてしまった。

 

 だが、それはエヴァによって肯定されてしまい、同じく疑問に思っていたリンダはいぶかしんで眉をひそめてしまう。

 

「おいおい、テメェがアタイらに来いって言ったのに何で扉が閉まってんだよ?」

 

〔申し訳ございませんが、その扉はパスコードを入力しなければ開かない仕様になっているのです。お手数ですが、扉の横にあるコンソールに入力してください〕

 

 そう言われ、夢人達は扉の横に付けられているコンソールへと視線を向けた。

 

「それでパスコードっていったい何なんだ?」

 

〔すみません。それについてはお答えすることができないのです〕

 

〔どう言うことだ?〕

 

〔その扉のパスを持つ者は、必然的に私の機能の全てを使用する権限を得ることになるのです。ですから、私の口からはパスコードを言えないようにプログラムされているのです〕

 

「だったら、どうしようもねェじゃねェかよ」

 

 苛立ちを隠せないように頭を掻き毟りながらリンダは愚痴をこぼした。

 

 この部屋に入ったことがあるのはフィーナのみであり、そもそもマジック達も塔の最上階にまで来たことがない。

 

 当然、下っ端扱いであったリンダがこの部屋の存在など知っているわけもなく、パスコードなど知る由もなかった。

 

「せめて何でもいいからヒントをくれないか? 教えられる範囲でいいからさ」

 

 途方にくれる中、夢人はエヴァにパスコードについて少しでも情報を貰えないかと尋ね出す。

 

 エヴァの話が本当なら、この部屋の中にはイストワ―ルがいるはずであり、夢人達は彼女を含めて全員でゲイムギョウ界に帰ることを望んでいるからだ。

 

 それに当てずっぽうで入力していき、時間を無駄に浪費していいほど外の状況がよくないことを夢人はワンダーから聞いていた。

 

 特に黒い塔の外で激突しているネプギアとフィーナのことが夢人には気がかりなのである。

 

 自分とイストワ―ルが誘拐されたにもかかわらず、夢人はフィーナのことを憎く思うことができないでいた。

 

 容姿がネプギアに似ているからではなく、短い間しか話せていないが自分のことを父として慕っていた様子のフィーナがこんな事態を引き起こしたことが信じられないのである。

 

 本心では今すぐにでも2人が戦っている場所に駆けつけ、その真意を確かめるために戦いを止めたいとも思っている。

 

 だが、実際にアカリが体内からいなくなってしまった自分が2人の戦いを止められるほどの力がないことも自覚しているため歯がゆくも思っていた。

 

〔ヒント、ですか。そうですね……あなた、勇者は『再誕』の女神に何を望んでいますか?〕

 

「はあ? 意味わかんないんですけど」

 

〔……すみませんが、これ以上のことはお答えできかねます〕

 

 出されたヒントになっていないヒントに、リンダは不満そうに眉間のしわを深くする。

 

 そんな中、夢人はエヴァの言葉に思考を巡らせるために目を閉じた。

 

(俺がアカリ達に望んでいること……ゲイムギョウ界を修復することだろ? でも、それなら何で俺を指名したんだ?)

 

 『再誕』の女神が生まれた理由を考えれば、おのずと答えは1つに絞られる。

 

 しかし、わざわざ自分を指名したことには何かあると考えた夢人は思い浮かんだ考えを頭においたまま、違う答えも考え始めた。

 

(他に俺が望んでいることと言えば……っ!?)

 

 思考の途中、夢人は何かを閃いたように突然目を見開いた。

 

 すると、すぐにコンソールの前まで歩み寄り、指でキーを押し始めた。

 

(もし、もしも俺の考えが当たっているのなら……)

 

 慣れない手つきで慎重に夢人はキーを押しながら、内心で不安と疑問に襲われていた。

 

 外れていれば、最初に考えていたものを入力すればいい。

 

 だが、もしも当たっていれば、なぜそれがパスコードに使われているのかがわからない。

 

 何故なら、今夢人が入力しているものはおそらく彼しか知らないものだからである。

 

(これでよしっ! どうだっ!)

 

 すべて入力し終えた夢人は期待を込めて、扉の方へと視線を向けた。

 

 すると、固く閉ざされていた扉はゆっくりと開き始めたのだ。

 

「お、おおお! やるじゃねェか、おい!」

 

「……ああ、そうだな」

 

〔うん? どうした?〕

 

「いや、何でもないさ。早く中に入ろう」

 

 扉が開いたことに驚いて呆けていたリンダであったが、それを理解すると笑いながら夢人に近づきその肩をバシバシと強く叩いた。

 

 しかし、夢人の表情は痛みとは別の理由で強張っており、それを疑問に思ったワンダーに心配されてしまう。

 

 それを何でもないと頭を横に振って答え、夢人は部屋の中に入るように促した。

 

 部屋に入った夢人達が最初に見たのは、中央にあるパネルの前で浮いている本に乗っている人の影であった。

 

 その人物は夢人達が部屋に入ってきたことに嬉しそうに頬を緩めて口を開く。

 

「ようこそいらっしゃいました。私のわがままを聞いてくださり、本当にありがとうございます」

 

「……イストワ―ル、さん?」

 

 自分達の来訪を歓迎している人物がイストワ―ルと同じ姿をしていることに夢人達は驚いてしまった。

 

 顔や服装はイストワ―ルそのままだが、瞳の色が金色に輝いていて別人のように思える。

 

 驚き固まってしまっている夢人達を見て、女性は苦笑してしまう。

 

「いいえ、今は少しだけ彼女の体を借りているだけです。私の名前はエヴァ。この地の管理を司るこの塔のAIです」

 

「あなたがエヴァ、さん?」

 

「敬称は不要ですよ。あなたは今、私の権限の全てを行使する権利を得ているのですから……ですが、その前にお願いしたいことがあるんです」

 

 柔らかくほほ笑んでいた顔を一変させ、エヴァは真面目な顔になり、夢人達を真っ直ぐに見つめる。

 

「どうかフィーナの本当の願いを叶えてあげてくれませんか?」

 

「フィーナの願い?」

 

「はい、彼女が本当に望んでいることを叶えてあげてください。お願いします」

 

「ちょ、ちょっと待ちやがれ!? 急に何言ってやがるテメェは!?」

 

 頭を下げてお願いするエヴァに、リンダは慌てて口を挟んだ。

 

 今ゲイムギョウ界を危機に陥れようとしている人物の願いを叶えて欲しいなどと言う頼みを聞けるはずがなかったのである。

 

 しかし、エヴァは頭を下げたまま懇願し続ける。

 

「無理なことを言っているのは承知の上です。ですが、このままでは彼女の本当に望んでいることを叶えることができなくなってしまうのです」

 

「それっていったい何なんだ?」

 

「彼女の本当に望んでいること……それは自身をこのゲイムギョウ界に確立させることなのです」

 

 エヴァの言葉に夢人の体が反応してわずかに肩が動いた。

 

 それを夢人はフィーナ自身から聞いていたからである。

 

 夢人が反応したことで顔を上げたエヴァだったが、その目は悲しそうに伏せられたままであった。

 

「ですが、このままでは彼女は自身の存在を確立させることはおろか、消滅してしまう可能性もあるのです」

 

「……どう言う意味なんだよ?」

 

「それは……」

 

 いつの間にか夢人に眉間にはしわが寄せられ、尋ねる声も低くなっていた。

 

 そんな夢人を見上げるように、エヴァは視線を上げて辛そうに顔を歪めた。

 

「彼女が『再誕』の女神を構成するプログラムの一部……サブシステムに過ぎないからです」




と言う訳で、今回は以上!
ようやくこの章も終わりが見えてきました(私の中で)
多分、予定通りに話が収まればエピローグ合わせて後5話でmk2編が終わるはずです。
そうなると、ちょうど180話になるのかな?
まあ、本当に長くなってしまいましたが、どんな結末になるのかをお楽しみに。
それでは、 次回 「ワタシハダレ」 をお楽しみに!

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