超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回も遅い時間になってしまいましたが、ようやく完成しました。
それでは、 夢、覚める時 はじまります


夢、覚める時

「ねえねえ、わたしにも何か手伝えることないかな?」

 

「……鬱陶しい。いいから黙って座ってろ」

 

「ええー、そんなこと言わないでさ」

 

 プラネテューヌの教会の一室、ネプテューヌは不満そうに口の端を尖らせて椅子に座っていた。

 

 手持無沙汰のようで足をバタバタとさせ、落ち着きがない様子が見て取れる。

 

 そんなネプテューヌの姿を見て、マジェコンヌは額に手を当てながらため息をつく。

 

「はあ、いいから大人しくしていろ。何のために貴様がこうしてここに残っていると思っているんだ」

 

「……それはわかってるんだけどさ。こう、皆が頑張ってるのに1人だけ何もできないなんて悔しくて」

 

 マジェコンヌの言葉にネプテューヌは悲しげに目を伏せた。

 

 リーンボックスに向かったベール、ラステイションに向かったユニ達、ギョウカイ墓場に向かったネプギア達に続いて、残っていたメンバーもそれぞれ動き出していたのだ。

 

 ブラン達は暴れているモンスターとキラーマシンに対応するため各地に飛んでいる。

 

 その中でプラネテューヌの教会に残ったのはマジェコンヌと教祖達……そして、ネプテューヌとノワールの2人であった。

 

「貴様には転送装置が直り次第、ギョウカイ墓場に向かうと言う役目があるだろうが」

 

「そうだけど、この待っている間の時間がすごく嫌なんだよ」

 

「我慢しろ。向こうで何があるかわからない以上、貴様に消耗してもらうわけにはいかんのだ」

 

「……わかってるよ。だから、ノワールも似合わないことやってるんだよね」

 

 渋々とだが納得するネプテューヌであったが、その表情は不満の色が残されていた。

 

 マジェコンヌの言葉通り、ネプテューヌは転送装置の修理が終わり次第、ネプギア達の加勢に向かう手筈なのである。

 

 何故ネプテューヌがそんな役目を任されたのかと言うと、ネプギアとの連携が1番取れるのが彼女であったからだ。

 

 捕まっていた3年間のブランクはあったが、姉妹のコンビネーションは健在であり、今では前と遜色なく、むしろネプギアの実力が上がったため前よりも動きがよくなっている。

 

 実力もあり、ネプギアの精神的な支えにもなれるネプテューヌだからこそ、この場に残って待機しているのだ。

 

 そんなネプテューヌと転送装置を守るのがノワールである。

 

 いくらフィーナがプラネテューヌを攻める気がないとわかっていても、暴れているモンスター達は違う。

 

 欠片によって興奮しているモンスター達は見境なく暴れ回り、プラネテューヌの街を襲う可能性もある。

 

 そのためノワールが1人残り、プラネテューヌの教会の護衛、ひいては街の守護を買って出たのだ。

 

 その胸には自分に代わってラステイションを守ると宣言したユニに対する、姉として負けていられないと言う対抗心もあった。

 

 だからこそ、モンスターやキラーマシンをブラン達に任せ、自分1人でプラネテューヌの守護に回ったのである。

 

 それがユニが言っていた自分にしかできないことだと信じ、強くなった彼女の姉として誇れるようにするために。

 

「そうは言っても、いつになったら転送装置は直るの?」

 

「部分的な破損は今教祖達と教会の職員達が直しているが、ソフトは私が見てみなければわからんからな。どの程度データが残っていることやら」

 

「うー、つまり修理にはまだまだ時間がかかるんでしょ? 何とかならないの?」

 

「こればっかりは仕方ない。無理に転送しようとして貴様を危険にさらすわけにはいかんからな」

 

 心配そうな顔で自分を見つめてくるネプテューヌに、マジェコンヌは腕を組んだまま目を閉じて答える。

 

 現在、ケイ達教祖と教会の職員達の手により、ジャッジに破壊された転送装置の修理が行われているのだが、それは目に見える範囲でのパーツ交換が主である。

 

 内面的なソフトの修復は、イストワ―ルに代わりコアの役割を果たすマジェコンヌが担当する手筈なのだ。

 

 座標はすでにワンダーに記録されていた物を使用すればいいのだが、それだけで転送装置は正常に起動しない。

 

 コアとして転送装置を安定させる存在が必要なのだ。

 

 そこでイストワ―ルの代わりができるマジェコンヌ用に転送装置の設定を変更する必要がある。

 

 マジェコンヌがイストワ―ルの代わりにコアになれる理由は、彼女が犯罪神のコアでもあったからである。

 

 元々負のシェアエナジーの塊である犯罪神を内部からコントロールする役目をマジェコンヌは担っていた。

 

 言わば、犯罪神はマジェコンヌのもう1つの体も同然であり、彼女は犯罪神の頭脳でもあったのだ。

 

 だからこそ、マジェコンヌはギョウカイ墓場にいる犯罪神の波長を感じ取ることができ、2つの次元を繋げることが可能なのである。

 

 入り口と出口に目印があるからこそ、安全に転送できるのだ。

 

「歯がゆい気持ちがわからんでもないが、今は……」

 

「わ、わたしを心配してって……マジェっちがデレてる!? で、でもでも、わたし達ってまだ知り合ったばかりだし、それに年の差も……」

 

 辛そうに目を伏せるネプテューヌを励まそうとほほ笑んでいたマジェコンヌの顔は凍りついてしまった。

 

 そんな様子にも気付かず、ネプテューヌは頬をわずかに染めて両手で押さえて体をくねらせる。

 

「っ、ええい、気色の悪いことをほざくな!? 私が言いたいことはそんなことではない!? しかも、貴様私が老けているとでも言いたいのか!?」

 

「あ、あははは、冗談だよ。ほ、ほら、場を和ませるジョークって言うか、実際にマジェっちって結構年いっちゃってるわけだし……」

 

「もう貴様は黙ってろ!!」

 

「ねぷっ!?」

 

 ネプテューヌの態度に倒れそうなくらい前のめりになってしまったマジェコンヌであったが、すぐに怒りに顔を赤くして吠えだす。

 

 それでもネプテューヌは笑って誤魔化そうとしたが、余計なひと言を言ってしまい、マジェコンヌにチョップをされてしまった。

 

 涙目になりながらネプテューヌは痛む頭を押さえて縮こまってしまうのであった。

 

「いいな、もう貴様はしゃべるな!! 口を2度と開くんじゃないぞ!!」

 

「それって、むしろ口を開けってことに……」

 

「ならん!!」

 

「……で、ですよね」

 

 恐る恐る尋ねるネプテューヌをマジェコンヌはぎろりと睨み黙らせた。

 

 頬を引きつらせて視線をそらすネプテューヌであったが、その胸にある焦りは隠せず、しばらくすると再び足をバタつかせ始めた。

 

 考えるよりも行動、じっとしていることが苦手なネプテューヌにとって、今の状況はとても苦痛であった。

 

 夢人とイストワ―ルの誘拐、各地で暴れるモンスターとキラーマシン、ギョウカイ墓場に向かったネプギアのことなど、居ても立ってもいられない状況なのに自分1人だけ何もできないことを悔しく思い焦っていた。

 

 そのため冗談でも言わなければ、自分を抑えられなくなっていたのである。

 

 結果的に羽目を外し過ぎて怒られてしまったが、焦りと心配は募るばかりで消えてくれない。

 

(ネプギア、アカリちゃん、いーすん、ゆっくん、ワンちゃん、リンダ……皆、大丈夫だよね)

 

 顔を上げてギョウカイ墓場にいる夢人達の無事を祈る顔は不安に彩られていた。

 

 

*     *     *

 

 

 ギョウカイ墓場の中央にある黒い塔に向かって走るワンダーを追いかけるキラーマシンの数は徐々に増えていった。

 

 黒い塔に近づくにつれ、ゴミ山の陰から姿をどんどん現し始めたキラーマシン達を何とか避けながら進むリンダ達だったが、それも段々ときつくなってきた。

 

 それでも何とか道を塞ぐように姿を現すキラーマシン達の間ギリギリをくぐり抜けながら、リンダ達は黒い塔を目指して走り続ける。

 

「ったく、どんだけいんだよ」

 

〔それはわからんが、奴らに構ってる暇はないぞ。今は一刻も早く夢人にアレを渡さねばなるまい〕

 

「わーってんだよ、んなことは……でも、アイツにこれが本当に使えんのか?」

 

〔それはわからん。だが、試してみる価値は……っ!?〕

 

 しつこく自分達の邪魔をしようとするキラーマシンに悪態をつきながらリンダ達は黒い塔を目指していたが、その足を止めてしまった。

 

 目の前に通り抜ける隙間もないように待ち構えているキラーマシン達がいたからだ。

 

 迂回して別ルートに引き返そうとしたリンダであったが、後ろにもすでにキラーマシン達がいたため逃げ道すら塞がれてしまった。

 

「チッ、捕まっちまったか……しゃあねェな、こうなったら……」

 

〔強行突破しかないだろう〕

 

「ああ、そんじゃいくぜワンダー!!」

 

〔CHANGE MODE ARMOR〕

 

 舌打ちをして前後を挟むキラーマシン達を睨んでいたリンダは、ワンダーのハンドルにあった青いボタンを押し、アーマーモードを展開した。

 

 リンダは手の感触を確かめるように指を動かすと、満足そうに口角を上げて獰猛な笑みを浮かべた。

 

「コイツはスゲェじゃねェか。思った通りに動きやがるぜ」

 

〔敢えて当然だと言っておこう……だが、私は不謹慎ながらこの状況が好ましいものに思えてくる〕

 

「ああん? どう言う意味だよ?」

 

 リンダが少し嬉しそうに声を発するワンダーに眉をひそめて訝みながら尋ねる。

 

〔何、君とまた一緒に戦えるのが嬉しいのだよ。しかも、相手はハードブレイカーの時には歯が立たなかったキラーマシン、あの時の雪辱を君と一緒に晴らせると思うと、何故か高揚してくる〕

 

「……ハッ、だったらアタイ達の力、あの鉄屑どもに見せつけてやろうじゃねェか。アタイとテメェ、元祖コンビでな!!」

 

〔了解!!〕

 

 ワンダーの言葉に虚をつかれたように目を見開いたリンダであったが、すぐに笑い飛ばすように息を吐いた。

 

 そして、両の拳をぶつけて気合いを入れると、好戦的な笑みを浮かべたまま前方の道を塞ぐキラーマシン達に向かって拳を振り上げて駆けだした。

 

 キラーマシンが武器を振り上げてリンダ達に振り下ろすよりも早く、アーマーモードの拳はキラーマシンに突き刺さった。

 

 その衝撃によって吹き飛ばされたキラーマシンは、殴られた箇所が漏電しているように青白い火花を散らし、カメラアイを点滅させるだけで起き上がれない様子であった。

 

〔ジ、ジ……コウゲキ……カイシ……〕

 

「遅いんだよ!!」

 

〔!?!?!?〕

 

 吹き飛ばされたキラーマシンの横にいた1体がワンテンポ遅れて攻撃しようとするが、それよりも早くアーマーモードの蹴りが炸裂する。

 

 脚部についている車輪が高速で回転し、キラーマシンの装甲を削り取るように斬り裂き、火花を散らした。

 

「おらおら、邪魔する奴はスクラップにしちまうぞ!!」

 

〔今の私達を止められると思うな!!〕

 

 黒い塔への道を塞ごうとするキラーマシン達に向かい、啖呵を切りながらリンダ達は走り出す。

 

 ただ黒い塔を目指し、邪魔するキラーマシン達を蹴散らしながら……

 

 

*     *     *

 

 

 ……わたくしはゲイムキャラの口から出た言葉が信じられませんでした。

 

「何を言って……」

 

〔このままではあの子を殺さなくてはいけないと言ったんです〕

 

「っ、何でですか!? 何でナナハを!?」

 

 聞き間違いであったと願ったわたくしの希望は簡単に崩れ去ってしまいました。

 

 わたくしは思わず言葉を発した紫色の球体、プラネテューヌのゲイムキャラに詰め寄りました。

 

 ……信じたくありません。

 

 ナナハを殺さなくちゃいけないなんて信じたくありませんわ!?

 

〔落ち着いてください……あの子は今、力に飲み込まれようとしているのです〕

 

 宥めるようにプラネテューヌのゲイムキャラが発した言葉に、わたくしは無言のまま睨んで続きを促します。

 

 口を開いてしまえば、自分を抑えられなくなり冷静でいられなくなってしまうことを理解していたからですわ。

 

 それに、明らかに様子のおかしいナナハの状況を早く知りたかったからでもあります。

 

〔今彼女が行使している力は、1女神が扱える力を大きく逸脱した物です。それは今も尚、増大しています〕

 

 わたくしは戦っているナナハへと視線を向け、プラネテューヌのゲイムキャラの言葉に納得して無言で頷きました。

 

 確かに、ナナハのスピードが先程よりも速くなっているような気がしますわ。

 

 帯電しているプロセッサユニットの火花も、最初見た時よりも大きくなっているように見えますし……

 

 それはおそらく、ナナハのスピードが火花を置き去りにするほど速くなっているか、プロセッサユニットから発生している火花が強くなっているかのどちらかだと思います。

 

〔このまま力を増大させ続ければ、彼女は再びバグに……ゲイムギョウ界を破壊する『歪み』になってしまいます〕

 

 ……その言葉に、わたくしは耳を疑ってしまいました。

 

 だって、ナナハは夢人さんのおかげでもうバグではなくなったはずですわ。

 

 それなのに、どうしてまたあの子が……

 

〔よく考えてみなさい。今のあの子はあなたが好きなゲームで例えるなら、名前が文字化けしていたり、ステータス画面の数値がおかしな値を示しているのと同じ状態なのよ〕

 

〔つまるところ、今の彼女の状態が私達が危惧していた『転生者』による『歪み』の正体なのだ〕

 

 わたくしはリーンボックスとラステイションのゲイムキャラの言葉を聞きながら、ナナハを呆然と見つめることしかできません。

 

 リーンボックスのゲイムキャラが言う通り、ゲームの話なら文字化けや異常ステータスはバグ以外の何物でもありませんわ。

 

 味方、敵のどちらでもゲームバランスを崩壊させ、ゲームをシナリオ通りに進めることができなくなってしまう原因……それが今のナナハの状態だと言うのですか?

 

 そんなことを認めたくないと思いつつも、わたくしは心の中でゲイムキャラの話を理解もしていましたわ。

 

 急激な力の上昇、わたくしの知る限りではジャッジ・ザ・ハードに単独で挑める力量を持っていなかったナナハが一方的に攻めている現状が、わたくしにゲイムキャラの話を肯定させてきます。

 

 おそらく、プロセッサユニットの不具合を思わせるのあの火花もその影響なのでしょうね。

 

 ナナハの急激な力の上昇にプロセッサユニットが耐えられていないんだと思いますわ。

 

〔今代の勇者によってバグでなくなったはずの彼女が再びああなった原因は不明ですが、このまま放置しておくわけにはいきません〕

 

〔今はまだ意識があるようですが、このまま力が強くなり続けてしまえば、彼女の意識は完全に力に飲み込まれて消滅してしまいます〕

 

「そ、そんな!? いったいどうすれば……」

 

〔そこであなたに聞いておきたいんだけど〕

 

 プラネテューヌとルウィーのゲイムキャラの言葉に、わたくしは慌てて視線を向けて何かナナハを助ける方法がないかを尋ねようとしました。

 

 しかし、わたくしと紫と白の球体の間に割り込むように緑色の球体、リーンボックスのゲイムキャラが硬い声で尋ねてきました。

 

〔あなたがあの子のために取れる選択は2つ。1つは、あの子が完全に『歪み』になってしまう前にあなたの手で殺してあげること。もう1つは、このまま何もしないであの子を身捨ててしまうことよ〕

 

 リーンボックスのゲイムキャラの提示した選択肢は、わたくしにとってどちらも同じ意味を持つものでした。

 

 わたくしは俯き、その選択の行き着く末を考えてみました。

 

 前者はわたくしの手で、後者は力に飲み込まれてナナハは死んでしまいますわ。

 

 ゲイムキャラの話が正しければ、このままではナナハの意識は完全に消滅してしまうらしい。

 

 だから、ナナハをナナハとして死なせてあげる前者か、ナナハを見殺しにする後者しか選べないと言われているのですわね。

 

 でも……

 

〔さあ、どちらを……〕

 

「ふざけないでください!!」

 

 わたくしは勢いよく顔を上げ、ふざけた選択肢しか提示しないリーンボックスのゲイムキャラを睨みます。

 

 この場でわたくしが何をするのか、そんなの考えるまでもありませんわ!!

 

「そんなふざけた選択肢、最初から御断りですわ!! わたくしはナナハを死なせも殺しもしません!! 2人で必ずチカや皆さんの所に帰ります!!」

 

〔……そんなことが本当にできると思ってるの? あなたに今のあの子を助ける方法があるの?〕

 

「そんなことわかりませんわ!! でも、わたくしは……」

 

 確かに、わたくしには今のナナハを助ける方法なんてわかりませんわ。

 

 止められるのかさえもわかりません。

 

 でも、それでもわたくしは約束をしました。

 

 ネプテューヌ達に必ずナナハを連れて帰ると。

 

 何より……

 

「わたくしはナナハの姉ですわ!! 妹を助けるのに理由なんていりませんわ!!」

 

 わたくしはナナハの姉なんですわ。

 

 どう接すればいいのかわからず、避けてしまったり近づきすぎてしまい、わたくしは今までちゃんとナナハと向き合うことができませんでした。

 

 ですが、もう逃げることはしません。

 

 ナナハにはもう遅いと言われるかもしれませんが、わたくしはあの子と本当の姉妹に、家族になりたい。

 

 わたくしが自慢の妹だと思うのと同じで、わたくしもナナハにとって自慢の姉でありたい。

 

 この役目はネプギアちゃん達やネプテューヌ達……ましてや夢人さんでも任せられない。

 

 姉であるわたくしがしなくてはいけないですわ。

 

「ですから、わたくしは何と言われようとも……」

 

〔よく言ったわ!!〕

 

「……は?」

 

 先ほどまでとは打って変わり、嬉しそうに弾んだ声を上げたリーンボックスのゲイムキャラにわたくしは今度は違う意味で耳を疑ってしまいましたわ。

 

〔あなたの決意、しっかりと聞かせてもらったわ!! あなたは一瞬でもいいからあの子の動きを止めなさい!! 後は私達があの子を助けるわ!!〕

 

「ほ、本当ですか?」

 

〔ええ、任せておきなさいよ!! ……本当はあなたがどちらかを選ぶようだったら、喝を入れてやろうと思ってたんだけど、必要なかったみたいね〕

 

 苦笑するように話すリーンボックスのゲイムキャラの言葉に、わたくしは胸が熱くなってきました。

 

 ナナハを助ける希望が見えてきたんですもの。

 

〔まあ、いくら『転生者』と言えども女神を減らすことは避けねばならないからな……仕方ない、協力してやろう〕

 

〔もっと素直になったらどうです? 彼女のことを助けたいから協力するって言えばいいじゃないですか〕

 

〔だ、誰がそんなことを言った!? 私はただ、この世界を守護する女神が減ることが……〕

 

〔だったら、今代の勇者が消えた時も同じことを言えたはずですよね? あの時の彼女達の落ち込みようを見て、反省しているんですよね?〕

 

〔うっ……だ、誰がそんなことを……〕

 

 目の前でラステイションのゲイムキャラが言いくるめられていますわ。

 

 言い淀むのは語るに落ちている証拠ですわね。

 

〔彼女のことは気にしないで下さい。私達もできることなら彼女を死なせたくはありません〕

 

「……そうですか」

 

〔今代の勇者を見殺しにした私達が言えた義理ではありませんが、どうか信じてはもらえないでしょうか?〕

 

「……わかりました。よろしくお願いしますわ」

 

 真摯な態度で尋ねてくるプラネテューヌのゲイムキャラに、わたくしはほほ笑んで了承し、こちらからも協力を願いましたわ。

 

 知らずに硬くなっていた声は柔らかくなり、わたくしは彼女達を信じても大丈夫だと思いましたわ。

 

 確かに、夢人さんの時のことはまだ納得しきれていませんわ。

 

 ゲイムギョウ界のためとはいえ、無関係な人間を勝手に生贄に選び、死ぬことを強要した初代勇者を含めた彼女達のことをまだ許せそうにありません。

 

 ですが、選ばれた当人である夢人さんが彼女達を恨んでいませんのに、わたくしがいつまでも根に持つことはおかしいことですわね。

 

 その気になれば、夢人さんはゲイムギョウ界に帰ってきてすぐに彼女達に文句を言いに行けたはずなのに、1度も彼女達に会いに行っていません。

 

 それはきっと行く必要がなかったから。

 

 ワンダーに残されていた映像記録と今までの態度を見れば、わたくしでも夢人さんが彼女達に対して恨みを抱いていないことは簡単にわかりますわ。

 

 ……それに、彼女達が帰ってきた夢人さんに会わなかったのは、話の通りなら罪悪感を感じていたからでしょう。

 

 夢人さんが消えてしまったことを後悔し反省しているのなら、今苦しんでいるナナハを助けるために力を貸してくれる……そう、今は信じたいですわ。

 

 わたくしは目を閉じて『変身』を完了させると、眼前に見えるナナハとジャッジ・ザ・ハードとの戦いに割り込むべく、槍を構えて浮き上がりました。

 

 そのまま槍を突き出すように前に構えて、2人の間に割り込むように飛翔します。

 

 ……ナナハ、必ず助けますわ!!

 

 

*     *     *

 

 

「こちらの世界とあちらの世界、どちらを望みますか?」

 

 デートを終えて家に帰ると、俺はネプギアに2階に案内され、いきなり2つの選択を迫られた。

 

 正直話の展開についていけず、目を見開いてネプギアを見つめてしまった。

 

 しかし、俺の驚愕をよそにネプギアの顔は真剣そのもの……いいや、どことなく悲壮感が漂っているような気がする。

 

「選んでください。このまま私とずっとこの世界で生きていくのか、あちらの世界に戻るのかを」

 

「……この世界は、やっぱり現実じゃなかったのか?」

 

「いいえ、この世界も現実です。夢人さんが現実だと思えば現実に、夢だと思えば夢になる、そんな世界なんです」

 

「……ごめん、よくわからないや」

 

「今はわからなくてもいいです。ただ夢人さんが望めば、ずっとこの世界で生きていける、それだけわかってくれれば大丈夫です」

 

「……そう、なのか」

 

 この世界についてネプギアが説明してくれたのだが、俺にはよくわからない。

 

 俺が現実だと思えば、夢でも現実になってしまうのか?

 

 ……ありえない。

 

 今は記憶が薄れてしまってよく思い出せないあの世界とこの世界、どちらかが現実でどちらかが夢なんだ。

 

 だから、俺は現実を選ばなければいけない。

 

 でも……

 

「俺は……」

 

「選べませんか?」

 

「っ!?」

 

 ネプギアの言葉に肩をビクッと震わせてしまった。

 

 気が付けば俯いていたらしく、俺の視界には床しか映っていない。

 

 ネプギアの声はそんな俺を気遣っていた様にも聞こえた。

 

 だけど、図星を指された俺の鼓動は激しく高鳴ってしまう。

 

「どうして選べないんですか?」

 

「……わからないんだ」

 

「何がですか?」

 

「……どっちが現実で、何が正しいのか。それに……」

 

「それに?」

 

「……俺が何をしたいのかも、よくわからないんだ」

 

 少しずつ尋ねてくるネプギアに、俺は自然と自分の気持ちを吐きだしていく。

 

 言葉にするうちに、俺も自分が今何を考えているのかを整理することができた。

 

 俺が選べない理由、それはどちらが現実なのかがわからなくなっているからだ。

 

 起きた当初はこの世界が夢であると確信を持てていたはずなのに、今ではあの世界の方が夢だと思っている自分がいる。

 

 この世界が俺の世界に似すぎていたため? それとも、この世界に居心地の良さを感じてしまったからなのか? 

 

 ……元々、ゲイムギョウ界自体俺にとってはファンタジーの世界だったんだ。

 

 魔法やモンスター、女神に『転生者』なんて存在、現実にいるわけがない。

 

 ましてや、俺なんかが勇者でネプギア達と一緒に旅をしていたなんてありえない。

 

 ……この世界に居心地の良さを感じてしまったのは事実だ。

 

 だって、この世界は平和そのものだから。

 

 普通に起きて、ご飯を食べて、ネプギアと2人で何をすることもなく、ただ一緒に居られる。

 

 世界の崩壊なんて物騒なことは起きないし、危険な旅をする必要もない。

 

 ……だったら、考える必要ないんじゃないのか?

 

 きっと今まで長い夢を見ていただけなんだ。

 

 夢の内容が濃すぎたせいで、現実と混同してしまっているだけなんだ。

 

 普通に考えたら、そんなゲームやマンガのようなファンタジーなこと起こるわけがない。

 

 だから、俺が選ぶべき選択はこの世界で間違いない……そう、自分に言い聞かせているのに……

 

 思わず拳を強く握りしめ、奥歯を噛み締めてしまう。

 

 ……何を迷っている? さあ、口にしろ。お前が現実だと思っているのはこの世界だろ? あの世界は夢だったんだ。そんなもの忘れてしまえ。

 

 心の中で急かすように自分の気持ちを固めようとするのだが、どうしても上手くいかない。

 

 どちらが現実なのかはわかっている。

 

 どちらを選べば正しいのかもわかっている。

 

 俺が何をしたいのかもわかっている……はずなのに、どうしても答えられない。

 

「じゃあ、1つずつ聞かせてもらいます。夢人さんはこの世界が夢だと思いますか?」

 

「……いいや」

 

「この世界にずっと居たいと思いますか?」

 

「……ああ」

 

「この世界で、私と夫婦になってずっと一緒に居るのは嫌ですか?」

 

「……嫌なんかじゃない」

 

「だったら……」

 

「でも、違うんだ」

 

 ネプギアの言葉を遮り、俺は顔を上げた。

 

 そこには悲しそうに見つめてくるネプギアの顔があり、胸に痛みが走った。

 

 ……だが、同時にずっと胸に引っかかっていた答えが見つかった。

 

 そうだった。ネプギアはずっと……

 

「何が違うんですか? どうしてこの世界を望んでくれないんですか? 教えてください、夢人さん」

 

 懇願するように前のめりになりながら尋ねてくるネプギアの瞳には涙が浮かんでいた。

 

 見ているだけで胸が締め付けられるように痛みは増していく。

 

 だから、答えよう。

 

 俺が迷っていた理由、それは……

 

「君が笑顔で居てくれないから」

 

「……私、が?」

 

 俺の言葉が信じられないみたいでネプギアは大きく目を見開かせた。

 

 俺がこの世界に居ると自覚してから、ネプギアは1度も笑っていなかった。

 

 表面上は嬉しそうだったり楽しそうだったりしていたけど、俺にはそれが彼女の本当の笑顔に見えなかったんだ。

 

「朝起こしてもらって、ご飯を食べて、デートして……今日1日ずっと一緒に過ごして、今ようやく君が1度も笑ってくれていないことに気付けたんだ」

 

「……私、笑えてませんでしたか?」

 

「ううん、笑ってたよ。でも、今思い出せば、その笑顔が全部寂しそうだったように思えるんだ」

 

 最初は気付かなかった。

 

 急に場所が変わっていたり、いきなり夫婦だなんて言われたりして混乱していた。

 

 アカリとフィーナのことを知らないと言われて、余計に頭の中はこんがらがり、何を信じればいいのかさえもわからなくなっていた。

 

 時折襲ってきた頭痛と胸に中に引っかかる疑問がさらに拍車をかけ、俺は自分のことしか考えられなくなっていた。

 

 1人で目に見えない恐怖に怯えて、すぐ傍に居るネプギアさえも目に入らなかったんだ。

 

 ……でも、あの時繋いだ手の温かさが俺にきっかけをくれた。

 

 この世界で意識が覚醒してから、初めてネプギアのことを見つけることができたんだ。

 

 しかし、その姿が俺に夢だと思いこもうとしていたあの世界でのことを思い出させた。

 

「気のせいじゃないんですか? 私、今日1日夢人さんと一緒に居られて楽しかったですよ」

 

「俺も楽しかったよ……でも、違ったんだ。君はずっと無理して笑っていた」

 

「……どうしてそんなことがわかるんですか?」

 

「情けない話だけど、俺は何度も君にそんな顔をさせてしまったから、勘でしかないけど何となくそう思えたんだ」

 

 悲しそうに眉根を下げるネプギアに、俺は自嘲気味に答える。

 

 その時のネプギアとよく似た姿を、俺は何度も見ていたから。

 

 初めてゲイムギョウ界に召喚された日の夜、ギョウカイ墓場で1人だけ逃がされた時、記憶を失って俺の世界で話した時も、彼女は今のように辛そうにしていた。

 

 その度に胸が張り裂けそうな痛みを覚え、俺は彼女に何ができるのかを悩み迷ってしまった。

 

 ……本当、情けないよな。

 

 俺はいつも自分のことばっかりで、ネプギアのことを傷つけてばかりだ。

 

 今だって、目の前の彼女は泣きそう顔で俺を見つめている。

 

 彼女の笑顔を守りたいと願っていたはずなのに、何度も失敗して悲しませることしかできない。

 

「だから、ごめん。俺、どっちも選べない。選んで君を傷つけてしまうなら……」

 

「やめてください!!」

 

 言葉を言い切る前に、ネプギアが俺に抱きついてきた。

 

 背中に回された腕が痛いほど俺の体を締め付けてくる。

 

 俺を見上げてくる瞳は限界まで涙をためた結果、頬を伝い流れだす。

 

「夢人さんはいつだって勝手すぎます!! 何で私のことは考えてくれるのに、自分のことには無頓着で無鉄砲なんですか!! そんなことで本当に私が笑えると思っているんですか!!」

 

「でも、今だって俺は……」

 

「ふざけないでください!! 私も嫌なんです!! 夢人さんが心から笑ってくれないのが悲しいんです!! ……だから、馬鹿なことを言わないでください!! 考えないでください!! ちゃんと選んでください!!」

 

 涙を流しながら訴えかけるネプギアの言葉は俺の胸に染み込むように広がっていき、萎えかけていた決意に火が灯るような気がした。

 

 その顔は何度も俺を奮い立たせてくれたあの顔と同じ。

 

 自分が悲しいはずなのに、それでも俺を気遣ってくれる優しさからくる涙ながらの訴え。

 

 そんな顔をさせたくないと思っているのにさせてしまっている罪悪感を感じるけど、その顔はいつも迷って悩んでいる俺に答えを出す勇気を与えてくれる。

 

 だから、俺も彼女の泣き顔を笑顔にするために答えを出す。

 

 優柔不断な態度のままで、これ以上彼女の顔を曇らせないように。

 

 俺が現実になって欲しいと望む方の世界を選ぶ。

 

 でも、それは結局目の前の彼女を泣かせてしまう決断な訳で、俺の顔は強張ってしまう。

 

「私を傷つけるのが嫌なら、それ以上に私のことを守ってください!! 泣かせたくないのなら、涙が消えるまでずっと傍に居てください!! 夢人さんはいつも自分の気持ちだけ押し付けて、私の気持ちを全然考えてくれないじゃないですか!!」

 

「……ごめん」

 

「謝らないでください!! 謝るくらいなら、私と……」

 

「俺、あっちの世界に戻るよ」

 

「っ、どうしてですか!?」

 

 俯きそうになったネプギアは、俺の答えを聞くとガバッと顔を上げて見つめてきた。

 

 その表情は驚愕と悲しみに包まれており、俺はやっぱりこの決断に後ろめたさを感じてしまう。

 

 ……でも、もう決めたんだ。

 

 目の前にいる彼女を泣かせてしまう決断だとわかっていても、あっちの彼女を泣かせたままでなんていたくないんだ。

 

「この世界で君とずっと一緒に居て、君を守って幸せにしたいとも思う。でも、それ以上にあっちの世界で傷ついている君を放っておけない。彼女を守りたいんだ」

 

「だったら、目の前に居る私はどうでもいいんですか!? あなたがいなくなったら、泣くことしかできなくなる私のことなんてどうでも……」

 

「そんなことない!!」

 

「きゃっ」

 

 泣き叫ぶネプギアを俺は強く抱きしめた。

 

 その頭と腰に手を回して離さないように強く彼女の体を抱きしめる。

 

「俺はまだどっちが現実で正しいのかわからないし、君を泣かせたくないのに悲しませることしかできなくて、何をしたいのかもわからないよ!! それでも、あっちの世界に居る君と約束したんだ!! もう2度と勝手にいなくなったりしないって……それだけじゃない!! ユニやネプテューヌ達とも一緒にゲイムギョウ界を救って、皆でずっと一緒に居たいんだよ!!」

 

 ……そう、俺は約束していたんだ。

 

 これはネプギアだけじゃない。

 

 ユニにロム、ラム、ナナハ、アイエフ、コンパ、日本一、がすと、5pb.、ファルコム、ケイブ、フェル、ネプテューヌ、ノワール、ブラン、ベール……あの時、俺がゲイムギョウ界に帰ってきた日の翌日、皆で一緒にゲイムギョウ界を救うって約束したんだ。

 

 勝手に1人で満足していなくなった俺を心配して叱ってくれて、笑顔で許してくれた皆がいる世界に帰りたい。

 

 約束を抜きにしても、俺は大好きな彼女達とこれからもずっと一緒に居たいんだ。

 

 この世界では彼女達に会っていないだけかもしれないけど、俺はそれが寂しく思えてしまう。

 

 この世界にいれば、きっと俺もネプギアも笑顔を忘れてしまう。

 

 大好きな人達に囲まれているからこそ、彼女の笑顔は輝くように思える。

 

 俺もそんな彼女の笑顔が見れることが1番嬉しい。

 

 だから、俺はこの世界を選べない。

 

 彼女に本当の笑顔を浮かべさせるためには、この世界を夢にしなければいけないんだ。

 

 それは目の前の彼女を否定していることだってわかっている。

 

 それでも俺は今の彼女の姿を現実にしたくない。

 

 勝手な考えだけど、彼女にはずっと輝くような笑顔でいて欲しい。

 

 自惚れだけど、俺のために泣きながら無理をして笑っていて欲しくないんだ。

 

 ……これが皆を理由にして、目の前の彼女を泣かせてしまうことに対する言い訳に過ぎないことは重々承知している。

 

 単に俺は皆と一緒に居たいから、目の前の彼女を泣かせてしまうんだ。

 

 その事実は絶対に覆らない。

 

 だから、俺はせめて泣いている彼女から逃げずに、ありのままの事実を全部受け止めよう。

 

 それが俺の責任なんだから。

 

「それで私の前から姿を消すんですか? また居なくなってしまうんですか?」

 

「……そうなる。だから、ごめん」

 

「勝手すぎます。事前に許可を取れば居なくなってもいいと思っているんですか? 私とあの子、何も変わらないのに、何で私じゃないんですか?」

 

「……ごめん」

 

「……本当にずるいです。謝るだけで何にも答えてくれないんですね。酷すぎます」

 

 ネプギアの声が震えて聞こえてくる。

 

 顔が埋まっている胸の位置に冷たさを感じた。

 

 背中に回された腕がよりきつく締め付けてきて、ネプギアの体の震えがさっきよりも強くなったことを俺にはっきりと伝えてくる。

 

 ……謝ることしかできなくて、本当にごめん。

 

 泣きながら震えるネプギアに、俺は心の中で謝りながら抱きしめる腕に力を込める。

 

 より強く自分の体に密着させ、少しでも彼女の悲しみを受け止めたい。

 

 流している涙を受け入れ、罵倒を受け入れ、彼女が抱えている悲しみを少しでも晴らしたい。

 

 これも自己満足でしかないけど、俺にはこうすること以外に彼女のためにしてあげられることが思いつかない。

 

 ……本当、最低な男だよ。

 

 抵抗しないネプギアに俺は勝手な思いを押しつけているんだ。

 

 身勝手なことしかできない男で、本当にごめん。

 

「……う、ん、もういいです」

 

 しばらく抱き合っていた俺達だったが、ネプギアは軽く息を吐きながら俺の背中に回していた腕を離した。

 

 俺も抱きしめていた頭と腰を離すと、ネプギアは俺から一歩離れた。

 

 その目元は涙で赤く腫れているように見えたが、それでも俺を安心させるように頬を緩めて口を開く。

 

「私もわがまま言って困らせちゃいましたね。ごめんなさい」

 

「いや、それは俺がはっきりしなかったから……」

 

「もうそれはいいんです。夢人さんは、はっきり答えを出してくれましたから」

 

 その悲しそうな笑顔が俺の胸に突き刺さってくる。

 

 決断したはずなのに、いざ目の当たりにすると決心が鈍ってしまいそうになる。

 

「だから、最後に1つだけお願いを聞いてください」

 

 そう言って、ネプギアは小指を差し出してきた。

 

 それは指きりの合図……俺とネプギアがいつも約束を形にするために交わしていた指と指との繋がり合い。

 

 俺は無言で差し出された小指に自分の小指を絡めた。

 

「絶対に私のことを守ってください。特別なことはいりません。嫌になるくらい傍に居て、本当は泣き虫で臆病な私を笑顔にしてください」

 

「……できるかな、俺に」

 

「できますよ……ううん、夢人さんにしかできないことなんです」

 

 弱気になる俺に、ネプギアはほほ笑みながら背中を押すように言葉をくれた。

 

 絡めた小指から伝わる熱が俺の胸を温かくする。

 

 現金な話、そう言われるだけで何でも出来そうな気がしてきた。

 

「勇者と言う枠にこだわって、本当の自分を見失わないでください。夢人さんの全てはそれだけではありません。それはフィーナちゃんとアカリちゃんにも言えることです。生き方を1つに縛る必要なんてどこにもないんです」

 

「何を言って……」

 

「可能性と言う希望を捨てて絶望しないでください。生まれや出会いは最悪のマイナスでも、最高のプラスにできるように……だから」

 

「っ!?」

 

 言葉を区切ったネプギアは絡ませていた小指を解くと、ゆっくりと俺に近づき、俺の頬に両手を合わせた。

 

 そして、そのまま俺の顔を倒すように引っ張ると自分の顔を近づけて……唇と唇をそっと合わせてきた。

 

 思わず目を見開いて近すぎる距離にあるネプギアの顔を見つめてしまう。

 

 ネプギアは目を閉じており、俺にはそのまつ毛の長さぐらいしかうかがい知れない。

 

 ……俺、今ネプギアとキス、しているのか?

 

 意識しだすと頬が紅潮して来たのがわかるほど熱を帯びてくる。

 

 以前の頬にしてもらった時とは違い、今度は唇同士。

 

 触れた唇が溶けてしまうんじゃないかと疑ってしまうくらいに熱い。

 

 そのくせ、ふんわりとした感触と甘さを口の中に感じてしまう。

 

 やがて、ネプギアは俺の唇から自分の唇を離すと、嬉しそうにはにかんで見せた。

 

「えへへ。キス、しちゃいましたね」

 

「な、何で急に……」

 

「勇気が出るおまじないです……それじゃ、えーい!」

 

「って、うわっ!?」

 

 ネプギアは頬を赤く染めたまま笑顔で俺の後ろに回ると、背中を思いっきり押してきた。

 

 いつの間にか2階にある扉の1つ、俺がやや広めなんじゃないかと思っていた部屋の扉が開いており、その中に頭から飛び込んでしまっていた。

 

 部屋の中は真っ暗で最初はなにも見えなかったけど、全身が部屋の中に入ると、奥の方から眩しいほどの光が溢れだしてきた。

 

 思わず腕で顔を隠してしまった俺の後ろから、ネプギアの声が聞こえてくる。

 

「最後に、夢人さんはずっと夢人さんでいてくださいね……行ってらっしゃい」

 

「……行ってきます」

 

 いろいろと聞きたいことはまだあったけど、俺はネプギアの方を振り返ると頬を緩ませて答えた。

 

 嬉しそうにほほ笑むネプギアが扉を閉めると、部屋は光に包まれた。

 

 目も開けられないほどの光の奔流に、俺は目を閉じてしまう。

 

 すると、体が浮いているように立っている感覚がなくなり、次第に体全体の感覚もなくなってきた。

 

 やがて、何かに包まれているような温かさを覚えると、俺の頭の中にとある映像が流れだした。

 

 ……そこには知っているはずの知らない男の子の姿があった。




と言う訳で、今回はここまで!
うーん、今回はちょっと上手く夢人君の心情を表現できたかどうか不安です。
現段階で矛盾に矛盾を重ねているような状況ですから。
ちょっと次回はこの状況を補足するための話も入れていく予定です。
それでは、 次回 「サブシステム」 をお楽しみに!

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