超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
ちょっと体調崩して昨日は投稿できませんでした。
少しは良くなったので、頑張れるうちに投稿していきます。
それでは、 ただ望むままに はじまります
(やった! これで!)
ネプギアはフィーナとの戦闘中だと言うのに、頬を緩めて小さく笑みを浮かべた。
何故なら、この場で1番警戒すべき存在であるゲハバーンを無力化できたからである。
今現在、ゲハバーンの刀身は半分以下になっており、明らかに剣としての役割を果たすことができない。
もちろん凶器としての役割と本来の役割に支障はまったく生じていないが、今の状態ではネプギアの持つ白い輝きを放つ剣には敵わない。
ゲハバーンが斬り裂かれたことでしばらく呆然としていたフィーナであったが、勝ち誇るように笑みを浮かべたネプギアの顔が目に入るとハッとしてその場を跳び退る。
「……それは何?」
フィーナは逃げる自分を追撃することなく白く輝く剣を構えるネプギアの態度を余裕と受け取った。
それもそのはず、必勝を疑うことなく振り下ろしたゲハバーンの刃は、ネプギアのM.P.B.L.が変化した正体不明の謎の剣に防がれてしまったのだ。
あまつさえ、ゲハバーンも握っていた自身が抵抗を感じることなく簡単に斬り裂かれてしまったのだ。
フィーナの心中は穏やかではなく、眉間に深いしわを寄せて険しい表情でネプギアを睨む。
「これは夢人さんが教えてくれた『再誕』の力の使い方。そして、この剣はその力の形」
「……父様が?」
「うん、名前は《グロリアスハーツ》。夢人さんとアカリちゃんの力で生まれた『再誕』の剣……ゲイムギョウ界を明るく照らすために生まれた剣だよ」
ネプギアは凛とした表情でグロリアスハーツの切っ先をフィーナに向けて構えた。
信じられないと言った風に自分とグロリアスハーツを見つめて目を見開くフィーナの姿に、ネプギアはギョウカイ墓場に突入する前、プラネテューヌの教会であったことを思い出していた。
* * *
「あうぅ……もう……ダメ……」
「早っ!? 早いよネプギア!?」
アカリちゃんの力で再びパープルディスクに記録されている夢人さんの記憶を観終えた私は、その場でふらふらとよろめいてしまった。
自分でもわかるくらいに頬が熱くなっていて、頭も少しだけボーっとしている。
お姉ちゃんは早いって言ってたけど、これでも私は夢人さんがゲイムギョウ界に来てからギョウカイ墓場でパープルディスクに力を入れた瞬間までの記憶を観てきたんだけどなあ……
「アレで本当に大丈夫なの?」
「おそらく記憶を観ている間と実際の体が感じている時間の差に目を回してしまっているのだろう。ギャザリング城でも短時間で2週間以上の記憶を観ていたのだ。今回はその時以上に時間がかかっていることから、より長い期間の記憶を覗き見てしまったのだろうな」
マジェコンヌさんの言葉に、私はなるほどと思ってしまう。
確かに、記憶を観ている間は時間の流れなんか気にしていませんでしたけど、本当だったらかなり時間がかかるはずなんですよね。
でも、実際は数分しか経っていないみたいで、まるで私だけ加速していたみたいです。
別に夢人さんの記憶が早送りされていたと言うことはなく、普通のスピードで再生されていたので気付きませんでした。
……でも、違うんです。
私がふらふらしていたり、顔を熱くさせていたりするのは目を回しているせいだけじゃないんです。
「いや、そうじゃなくて、あの様子で本当に大丈夫なのかって話なんだけど」
「それもそうだな。おい、しっかりと観てきたんだな?」
「は、はいぃ……だ、大丈夫、です……」
アイエフさんの心配する声とマジェコンヌさんの確認する声が聞こえてきたので、私はそちらの方を向いて何とか返事をする。
でも、ボーっとして上手く働かない頭と呂律の怪しい返事では、返事をした自分でも大丈夫じゃないとわかってしまう。
しっかりしなきゃいけないと思うのに、頭の中でさっきまで観ていた夢人さんの記憶が離れてくれない。
「全然大丈夫じゃなさそうね。いったい何を観たって言うの?」
「え、えっと、その、あの……」
「……ああもうわかったからいいわ。大方夢人の記憶を観て、自分がどれだけ好かれていたのかを知って照れまくってんのね」
「あ、あうぅ……」
私が言い淀んでいると、ユニちゃんは自分で聞いてきたのに自己完結して呆れたようにため息をついた。
……実はその通りなんです。
プラネテューヌのゲイムキャラから力を授かって以降、夢人さんの心の声が駄々漏れになって聞こえてきたんです。
それも私の出てくる場面では、強くはっきりと聞こえてくるんです。
そ、その……可愛い、とか……私のことを守りたい、とか……やっぱり、好き、なんだって……何で私は今まで気付かなかったの!?
ずっとそんな風に見られていたことに気付かなかったのが恥ずかしいと思うくらいに、夢人さんは私のことをずっと見ていて思ってくれていた。
不謹慎だと思うけど、それが嬉しくて、気付かなかったことが悲しくて、添い寝や温泉の時の暴走を考えると恥ずかしくて、ユニちゃんやナナハちゃんと喧嘩したことを思い出すと申し訳なくて……もう何が何だかわからないって言うのが今の正直な気持ちなんです!?
頭がショートしそうなくらいに夢人さんから優しく囁かれながら今までの自分達の旅を観てみると、私かなり悪女じゃないですか!?
夢人さんの気持ちに気付かずに振り回してばっかりで、そりゃユニちゃんもナナハちゃんも怒るよ!?
ロムちゃんには励まされたけど、ラムちゃんが夢人さんのことを好きにならないで欲しいって思っていた気持ちが今ならよくわかる。
皆夢人さんのことが好きなのに、本命であった私はその夢人さんの気持ちを全部スルーしていた。
しかも、自分が弱った時にだけ都合よく頼りにしていた。
これじゃ、今までずっと夢人さんの気持ちを弄んでいたとしか思えないよ!?
泣いてすがったりして助けを求めたくせに、ただ笑ってお礼を言うだけで、夢人さんの気持ちにこれっぽっちも気付こうとしなかった自分が嫌になってくる。
……それなのに夢人さんが私のことを好きだったこと、両思いだってことがわかったことを喜んでいる自分がいる。
意識していないとにやけそうになる頬が憎らしい。
罪悪感を感じるとともに、ユニちゃん達に好かれながらも……ナナハちゃんからは告白されながらも、夢人さんがずっと私のことを好きでいてくれたことがすごく嬉しい。
も、もちろん私が観たのがパープルディスクに記録されていた夢人さんの過去の記憶だってことはわかってるよ!?
今は私のことをどう思っているのかわからないけど、少なくとも私のことを女の子として意識していたことがわかって、それだけでも満足って言うか……
「はいはい、今は照れてにやけている場合じゃないわよ。それで、結局のところ夢人の記憶の中に何があったの?」
「じ、実は、その……」
『実は?』
「……な、何も、わからなかったです」
『はあああああ!?』
アイエフさんの言葉で正気に戻った私は、皆さんに注目される中で目をそらして正直に答えた。
……はい、夢人さんの記憶を観ても何ひとつ現状を打破するための方法を知ることができませんでした。
わかったことは2つ。
夢人さんが私のことを好きだったと言うこと、私が悪女だったと言うことだけです。
皆さんが信じられないと言った感じで叫ぶのも当然です。
私もこの2つしかわからなかったことに、頭を抱えたいんです!?
「ちょっとちょっと!? あのウラヌスって奴、適当言ったんじゃないの!? あれだけ期待させといて、何もわからないって何よ!? ふざけんじゃないわよ!?」
「そうだそうだ!? マジェっちもシリアスな雰囲気出しながら、何が毒になるものだなの!? 思いっきり無害だよ!?」
「……いやいや、別の意味でネプギアには毒だったですの」
お姉ちゃんとノワールさんが騒ぎだすのを聞いて、私は居た堪れない気持ちになってしまう。
だって、がすとさんの指摘通りなんだもん。
私にとって夢人さんの記憶は劇薬過ぎて、頭の中がパンクしそうなんです。
記憶の中で心の声が聞こえる度に、私の心臓がドキッと跳ね上がりました。
夢人さんといーすんさんを助ける方法を知るために観たはずなのに、それどころじゃなかったんです。
何度も落ちつこう、冷静になろうとするのに、心の声が聞こえてくるだけで頬が熱くなってきたんです。
とてもじゃないけど、耐性がない私には耐えられるものではなかった。
むしろ、嫌われていたり女の子として見られていないんじゃないかって思っていたくらいですから、本当に爆弾発言ばかりでした。
「それで、本当に何も心当たりはないの?」
「少しでも何か気にかかったことはなかったかい?」
ブランさんとケイさんが優しく私に尋ねてくる。
そ、そんなこと言われても、心の声のインパクトが強すぎて……ハッ!!
「コンパさんのシュークリームを食べちゃったのは夢人さんです!?」
「そ、そうだったんですか!? あれ、期間限定の物ですごく楽しみにしていたのに、酷いです!!」
「どうでもいいわよ、そんなこと!!」
混乱した私が導き出した答えは、何故か夢人さんの盗み食いだった。
本当、何でこんなこと言ったの!?
駄目だ。頭と一緒に目の前までくらくらしてきた。
で、でも、他に気になったことと言えば……
「ケイブさんの胸が柔らかかったことですか!? それとも、背中越しに感じたユニちゃんの胸が意外とあったことに驚いたことですか!? 他には、日本一さんのライダースーツ姿に目のやり場に困っていたことや、アイエフさんとがすとさんに対する恨みごと、ファルコムさんのおへその辺りをずっと見ていたこと、コンパさんに治療されている時にずっと目線が胸にいっていたこと、人見知りで恥ずかしがり屋なのに派手なステージ衣装の5pb.さんに内心どぎまぎしていたこと、ロムちゃんとラムちゃんの体が予想以上に軽くて柔らかかったこと、ナナハちゃんに正面から抱きつかれた時に感じた甘い香りと胸の感触とか……」
「そんなの全部どうでもいいわよ!! ってか、アイツは何考えてたのよ!!」
私が何を話しているのかに気付き、慌てて口を押さえた頃にはすでに遅かった。
……あ、あああ!? またやっちゃった!?
「ケイブ、あなた夢人と何があったの?」
「……あの時は夢人のことを本気でユメ子だと思っていたから、励まそうと訓練の後に抱きしめたんだけど」
「ユニにとってはよかったんじゃないのかい? 夢人君は君の胸のサイズでも充分に魅力を感じているみたいだよ」
「べ、別にそんなの嬉しくないわよ!? てか、意外って何よ!? アタシの胸が抉れてるとでも思ってたの!?」
「あ、あはは、相手が夢人でも何か恥ずかしいな……そっか、アタシでも目のやり場に困ってたんだ」
「……詳しく聞きだす必要があるわね」
「……がすとも一緒に聞きだすですの。内容次第では……」
「ええ、ただじゃおかないわ」
「あたしのおへそって、そんなに変かな? 何か他の人達に比べると微妙な位置を見られていたって気分になるんだけど」
「……いえ、多分そうじゃなくて……まったく、お兄さんって……」
「ゆっくんも男の子だね。コンパの巨乳に目をつけるなんて」
「はううぅぅぅ、恥ずかしいですぅ」
「こんぱちゃんの胸を視姦していたなんて、許せないっちゅ!!」
「ぼ、ボボボボクの衣裳ってそんなに派手なの? そ、そんなことないよね? 皆これくらいの露出、普通にすると思うんだけど……」
「……すまないが、フォローはできない。俺も派手かな、と思っていた」
「軽くて柔らかいっていいこと、なのかな?」
「うーん、ちょっとわかんないわよね。お姉ちゃんはわかる?」
「……お願いだから今は聞かないで。ちょっと考え事を……」
「ぐぬぬぬぬぬ、勇者め!! よくも吾輩を出し抜いてロムとラムを……吾輩だって2人のことを思う存分ペロペロしたいと言うのに……ぐほっ!?」
「うるっせぇんだよ!! こっちは今、アイツが2人にいかがわしいことをしたんじゃないかって真剣に考えてたところなんだよ!! 邪魔すんじゃねぇ!!」
「……ブランさんが考えていることはないと思うんですけど。前にも教会にラムを背負って……あれ、じゃあロムのことはどうして……」
「いや、それは多分トリック様から逃げるために抱えた時のことだと思うんだが……ってか、勇者気取りの奴、ナナハのことを大分意識してたんじゃないのか? 普通、どうでもよく思ってんなら、甘い香りなんていわねぇだろ」
「確か、フェロモンの話だっけ? 男性が好意的に見ている女性の体臭を甘く感じたりして惹かれることがあるって聞いたことがあるような……と言うより、本人はずっと隠しておきたかったことでしょうね。何か、夢人が少し可哀想に思えるわね」
私が変なことを口走ってしまったことで、何か大変なことになっちゃったよ!?
これって私が原因ですよね!?
そして、被害は全部夢人さんに……本当にごめんなさい!?
「と言うより、ネプギア!! アンタ本当に夢人の記憶を観て何を理解して来たのよ!!」
「そ、そんなこと言われても……」
「言い訳はいいのよ!! 観たまんま何を観たのかを言いなさいよ!!」
鬼のような形相でユニちゃんに詰め寄られて両肩をがっしりと掴まれてしまった。
痛い痛い痛い!? わかったから、ちゃんと話すから離して!?
肩に食い込む爪の痛みにちょっと泣きそうになりながら、私は正直に答える。
「パープルディスクに入ってた記憶、実は穴だらけだったんです!?」
「穴だらけ? それってどう言うことですか?」
「そんなの私にもわからないですよ!? 突然気絶してもいないのに視界が暗くなって、気が付いたらユニちゃんやアイエフさんから叩かれたり蹴られてれたりしていることばっかりだったんです!?」
何でそんなことばっかりなのかはわからないけど、実際に急に暗くなったり、明るくなったと思えば不機嫌なアイエフさんとユニちゃんから……って、あれ? さっきまで皆さん騒いでいたのに急に静かになっちゃった。
「……それってアレよね?」
「……多分そうだと思うわ」
ユニちゃんが私の肩から手を離して、意味あり気にアイエフさんと視線を交わすと頷き合った。
2人以外にもフェル君やがすとさん、5pb.さんやファルコムさんまで微妙そうな顔をしている。
「……それ、ネプギアは見ない方がいいよね?」
「おそらく、今でさえこんな状態ですし、見たらいったいどうなってしまうんだか」
「ある意味、夢人くんなんとか最後の一線は守りぬけたみたいだね」
「まあ、もうあまり意味ないですの。こんな形で自分の気持ちが知られているだけでも赤っ恥ものですのに、それを知られていても恥の上塗りなだけですの」
ど、どう言う意味なんでしょう?
実際に記憶を観たはずの私がわからないのに、ユニちゃん達6人はわかり合っている。
「ねえ、あいちゃん達は知ってるみたいだけど、それっていったい何なの?」
「……今の話にはまったく関係しないことだから気にしないで。と言うより、忘れて」
「ええー? 気になって夜も眠れなくなったらどうするの? 教えてくれても……」
「ええい、貴様らはいつまで話を脱線させれば気が済むんだ!! 話がまったく進まんだろ!!」
当初の話題とは別の物で盛り上がろうとしていた私達に向かってマジェコンヌさんが大声を上げた。
そのおかげで、お姉ちゃん達も騒ぐのをやめてマジェコンヌさんの方を注目する。
マジェコンヌさんは顔を赤く染めて肩で息をしながら、私をぎろりと睨みながら口を開く。
「貴様も貴様だ!! 色惚けするのも大概にしろ!!」
「で、でも、私本当にわからな……」
「そんなわけあるか!! 私とウラヌスが伝えようとしたことは、貴様の恋愛指南などではない!! 『再誕』の力の本質だ!!」
「え……」
唾がかかるくらいに詰め寄られながら聞かされた単語に、私は思わず声を漏らしてしまった。
『再誕』の力の本質?
そんなのが夢人さんの記憶にあったの?
「はあ、その様子では本当に気付かなかったようだな。勇者は少なくとも1度、いや2度は確実に『再誕』の力の本質を利用して貴様らを助けていたと言うのに」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? アイツが『再誕』の力を使えたのはB.H.C.を使ってた時だけでしょ!? だったら、あれが『再誕』の力の本質だとでも言うの!?」
確かにアイエフさんの言う通り、夢人さんが『再誕』の力を引き出していたのは、B.H.C.を使っていた時だけだと思う。
だとしたら、夢人さんの黒歴史が『再誕』の力の本質?
……え、えっと、ブロックダンジョンで見た魔法が得意な黒歴史、ルウィーの教会で見たアイエフさんを口説いていた黒歴史、アンダーインヴァースでなった日本一さんっぽい黒歴史、直接見たわけではないけど後はルウィーの街中で胸のことについてトリックさんに向かって語っていた黒歴史、最後にミッドカンパニーで見たエアギターをしていた黒歴史……本当にこの中に『再誕』の力の本質があるんですか?
「違う。奴は薬に頼ることなく、『再誕』の力を引き出し行使したことが少なくとも2度以上はあるはずだ」
「そ、それっていつのことですか!?」
「リーンボックスの女神候補生を助けた時とギョウカイ墓場でレイヴィスを救った時だ……その時の記憶は記録されていなかったのか?」
「あ、いや、ナナハちゃんを助けた時のことは観ました」
「なら、その時に勇者が何を考えて感じていたのかをよく思い出してみろ。そこに答えがある」
私はマジェコンヌさんに諭されるように言われた時の夢人さんの記憶を思いだしながら目を閉じる。
……あの時、ナナハちゃんはレイヴィスに洗脳されていて、夢人さんが抱きしめると急に光が溢れて来たんだよね。
確か、あの時夢人さんが考えていたのは【大切なことは相手を思うこと】、ロムちゃんから教えてもらった治療魔法と同じように元のナナハちゃんに戻って欲しいって強く思っていた。
つまり……
「『再誕』の力の本質って、相手のことを大切に思うこと、ですか?」
「……全然違う。そんな抽象的なものではない」
あ、あれ、違ったの?
私が答えると、マジェコンヌさんは呆れたように半目になりながらため息をついてしまう。
え、え、え、でも、夢人さんはそう思っていましたよ?
「もうもったいぶらずに教えなさいよ。いったい『再誕』の力の本質って何なのよ?」
「そうだな。このまま続けても時間の無駄か……できれば気付いて欲しかったのだが、仕方あるまい。『再誕』の力の本質、それは“リバース”だ」
ノワールさんに急かされると、マジェコンヌさんは疲れたように思いため息を1度ついてから顔を引き締め、私を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。
「“リバース”? 確かにrebirthも広い意味で捉えれば『再誕』という意味合いになると思うけど、実際はresurrection、“リザレクション”が正しいのではないのかい?」
「その通りだが、前提が間違っている。そもそも『再誕』とは、“リバース”と言う能力に因んで名づけられた名称だ。そして、本来の“リバース”の綴りはreverse、つまり『反転』と言う意味になる」
ケイさんの問いに、マジェコンヌさんは私達の認識のずれを正しながら答えていく。
『再誕』の女神の『再誕』は、実は発音が同じだった『反転』から来るもので、本当は“リバース”と言うのが正しい……ってことでいいんだよね?
ちょっと頭がこんがらがるけど、とりあえず『再誕』という名称が“リバース”と言う能力の当て字だったってことはわかった。
だとしたら、本当は『再誕』の女神じゃなくて、『反転』の女神……うん、嫌な響きに聞こえるね。
『再誕』と言う名称に慣れ過ぎたのかもしれないけど、私には『反転』と言う名称に何だか嫌な印象しか持てない。
上手く言葉にできないけど、ゲイムギョウ界を救う女神の名前に思えない。
むしろ、その逆の存在を連想させてしまう。
「“リバース”とはその名が示す通り、あらゆる情報を『反転』させる力だ。リーンボックスの女神候補生を助けた時、勇者は彼女の体内に巣食っていたマイナスのシェアエナジーをプラスのシェアエナジーに変換することで洗脳を解いたのだ」
「……あの時、ナナハの体の中ではそんなことが起こっていたのね。でも、本当にそんなことが可能なのかしら? あの魔法すら失敗する夢人がそんな器用な真似をしてたなんて到底思えないんだけど」
「それは奴がB.H.C.とか言う薬で『再誕』の力に慣れ過ぎたのが原因だろう。無意識のうちに、奴は人間の身でありながらシェアエナジーを操作する方法を感じ取っていたはずだ」
「……つまり、黒歴史を自分の体に“ペースト”していくうちに体がシェアエナジーの扱い方を覚えていた、と言うことですの?」
「その通りだ。“再現”も“カット”も“ペースト”も“リバース”も、全ては情報をシェアエナジーと言う力によって操作する能力のことだ。その中で“リバース”の果たす役割は大きく、この力が使えなければ『再誕』の女神はゲイムギョウ界を修復することなどできない」
「どう言うこと? 聞いている限りじゃ、“リバース”って直接的にゲイムギョウ界の修復には関係してないんじゃないの?」
「ギャザリング城に行った者達は知っているだろうが、本来の予定では『再誕』の女神の力となるシェアは犯罪神から吸い取るつもりだったのを覚えているな? 犯罪神とは負の情念の塊、そんなものを直接吸収してしまえば、心を持たないはずだった『再誕』の女神など、簡単に負の意識に飲み込まれてしまっただろう。だからこそ、“リバース”と言う能力でマイナスをプラスに変える必要があったのだ」
「端的に言っちゃえば、ゲイムギョウ界を破壊する負のシェアエナジーを、ゲイムギョウ界を救う正のシェアエナジーに変えるってことよね? だったら、何でその“リバース”についてを今教えるのよ? 相手も『再誕』の女神で、しかも犯罪神を吸収しているんだったら、当然“リバース”についても熟知して……」
「いや、そうではない。ブロックダンジョンで対峙した時、奴の体からは何故かマイナスのシェアエナジーしか感じ取れなかった」
「え、でも、それっておかしいよね? “リバース”していないマイナスのシェアエナジーってことは、あのフィーナって子は犯罪神に意識を乗っ取られているの?」
「そんなことはないぞ。第一奴が犯罪神様なら、わざわざ『再誕』の女神やフィーナと名乗る必要などなく、マジックや吾輩達も逆らうことはなかっただろう」
「じゃあ、どうして?」
「むー、難しいことばっかりでわかんないよ! もっと簡単に言ってよ!」
「そうだな……これは推測にすぎないが、フィーナが強い意志を持っているからではないかと考えている」
「強い意志? それっていったい何なんでしょうか?」
「そればかりは本人にしかわからないだろう。加えて、フィーナは犯罪神の全てを吸収したわけではない。奴が吸収したのは、漏れ出した一部に過ぎない。本来の封印を解くための鍵の欠片の1つはここにあるのだからな」
そう言って、マジェコンヌさんはリーンボックスでマジック・ザ・ハードから抜き出した光の球を見せてきた。
ちょっといろいろあり過ぎて混乱しそうだけど、“リバース”って力のこととフィーナ、ちゃんが今どんな状態なのかが少しだけわかった気がする。
あれ、だったらもしかして……
「フィーナとの戦いにおいて、最も重要になるのはゲハバーンをいかに早く無力化できるかだろう。現状、ゲハバーンに勝る武器がない以上、こちらは“リバース”の力を使って対処するしかない」
「つまり、ネプギア次第ってことね」
「そうだ。だから、“リバース”の力について……聞いているのか?」
「すいません。ちょっと気になったことがあったんで……アカリちゃん」
マジェコンヌさんが片眉を吊り上げて尋ねてくるけど、私にはどうしても気になることがある。
そのために、私にしがみつくように抱きついていたアカリちゃんに声をかける。
アカリちゃんは一瞬肩を震わせると、恐る恐る私を見上げてきた。
「もう1度だけ夢人さんの記憶を観せてもらってもいいかな?」
「アンタ、また観る気なの? いったい何が気になるって言うのよ?」
「……私の考えが合っているなら、“リバース”の使い方がわかるかもしれないんです」
私が言っていることは嘘じゃない。
だって、マジェコンヌさん達の話が本当なら、あの時夢人さんは間違いなく“リバース”を使っている。
私は確かにそれを感じ取っていたはず。
「後、アカリちゃん」
「……なに?」
「何をそんなに怖がっているのかわからないけど、私が傍にいるよ」
「ママ……」
私は元気のないアカリちゃんを安心させるようににっこりと笑みを浮かべた。
今までずっと一緒にいた夢人さんのようにはアカリちゃんのことを安心させることはできないかもしれないけど、私もママなんだよ。
怖がって怯えている娘を放ってはおけない。
私はアカリちゃんをギュッと強く抱きしめた。
「だから、教えて欲しいな。アカリちゃんが何を怖がっているのか。そうしたら、私も一緒に怖がれる。私もアカリちゃんを助けられる」
背中を優しくなでながら、私は目を閉じてアカリちゃんに優しく語りかける。
1人で怖がっていると、ずっと怖いままなんだよ。
でも、1人じゃなければ怖くない。
私も1人じゃないとわかったから怖くなくなった。
だから……
「教えて、アカリちゃんの今の気持ちを」
「……うん」
短い返事が聞こえると、目を閉じているはずの私の視界に光が流れ込んできた。
2度経験した夢人さんの記憶を観た時と同じ。
この先に“リバース”のことと、アカリちゃんが何を怖がっているのかの答えがきっとある。
そう信じた私の目に映り込んだのは……
* * *
……3度夢人の記憶を観終えたネプギアは、“リバース”の使い方とアカリが何を怖がっていたのかを知ることができ、グロリアスハーツを“再現”することができるようになったのである。
この名前はアカリが名づけた仮称であり、本当だったらまだ名もない剣であったのだ。
ネプギアはどうしてアカリがその名前を推すのか理解しておらず、ただそう言う名前の剣なんだとしか思っていない。
だが、名称はともかく、グロリアスハーツは“リバース”の力を体現しており、ゲハバーンと同じ『再誕』の剣として存在している。
「降参してフィーナちゃん。ゲハバーンを失った今、フィーナちゃんは……」
「うふ、うふふふふふふ」
ネプギアが降参するように勧めると、フィーナは顔を俯かせて体を震わせながら笑いだす。
その姿に恐怖を覚えたネプギアは言葉を途中で止めてしまい、思わず少しだけ足を下げてしまった。
「そう、そう言うことね。アイツ、そんなものを隠していたのね。だったら……」
ぶつぶつと呟いてから顔を上げたフィーナの表情は笑顔であった。
頬を大きく吊り上げた細い三日月を思わせる口元、細められた目はらんらんと輝いてネプギアを射抜いている。
そして、極めつけに握っているゲハバーンが柄の部分から光を発し、再び剣の形を取り戻してしまった。
「それもちょうだい!!」
「っ、な、何でゲハバーンが!?」
「うふふ、そんなに驚くことないでしょ? ゲハバーンはもう私の手足も同然、シェアエナジーがある限り何度でも再生することができるわ……さらに!!」
「っ!?」
強く言い放ったと同時に、フィーナの体を中心に光の柱が発生する。
光が収まると、そこには先ほどまでの黒ロリファッションを身に纏っていたフィーナの姿はなく、大きく姿を変えていた。
頭部には羽根のような形をした耳あてと額には角を思わせる突起が現れ、背中には金色の4つの翼、体全体を覆うのはネプギアのライラックmk2のような黒い衣装。
その手に握るゲハバーンも、先ほどよりも光を増して暗く怪しい光を放ち続けていた。
「ふぅ、『変身』完了ってところね」
「ど、どうして……」
「あら、そんなに驚かなくてもいいじゃない。これでようやく対等……いいえ、やっぱり私の方が上かしら」
フィーナは余裕の笑みを浮かべながら、ゲハバーンの切っ先を目を見開いて震えるネプギアに向けた。
ネプギアにとって、ゲハバーンの再生はもちろん、フィーナの『変身』も予想外の事態であったのだ。
(ど、どうしよう!? このままじゃ……)
「さて、私は何度でもゲハバーンを直せるけど、あなたはどうかしら? 今の状態でどれだけ耐えられるのか、確かめてあげる!!」
「くっ!?」
フィーナが4枚の翼によって増したスピードに乗せた一撃をネプギアへと振るう。
苦しそうに顔を歪めたネプギアはグロリアスハーツをゲハバーンに合わせて振り上げた。
そして、甲高い金属音を打ち鳴らしながら激突する2つの剣は無傷のまま、今度はお互いに折れずに火花を散らしたのであった。
* * *
「……嘘……どうして……」
ネプギアとフィーナがギョウカイ墓場で戦闘を行っている時、ラステイションに着いたユニは呆然と報告にあった新しい敵を見つめることしかできない。
その敵は、本当だったらもういないはずだからである。
仮に生きていたとしても、フィーナに従うわけがない。
何故なら、彼はその胸の誇りを貫き、最後まで真っ直ぐに生きていたのだから。
……そんな彼が今目の前で何の意味も感じられない破壊活動を行っている。
彼はその巨体を活かして建物をたやすく破壊していく。
その腕、その足、時にはその背中にある2つの巨大な砲身から繰り出される砲撃を使い分けていた。
ユニの周りには血だらけの冒険者や防衛隊の職員が倒れており、決してその傷は浅くはないだろう。
下手人は考えるまでもなく彼であり、ユニにはそんなことを彼がしていることが信じられず叫んでしまう。
「アンタは何やってんのよ!! 答えなさい!! ……ブレイブ・ザ・ハード!!」
ユニの叫びが聞こえたのか、建物を破壊していた巨大な機械の体を持つ敵……ブレイブ・ザ・ハードはゆっくりと振り返った。
……ここ、ラステイションでも戦いの火ぶたが切って落とされようとしていたのだ。
と言う訳で、今回はここまで!
昼間は暑すぎるのに、夜になると冷え込むなんて本当に最近は安定しませんよね。
今日に至っては夕立、雷、雹……皆さんも体調には十分注意してくださいね。
それでは、 次回 「不屈の心」 をお楽しみに!