超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
結局、ゴールデンウィークも通常と同じようにしか投稿ができませんでした。
……大型連休とはいったい何だったのでしょうか。
それでは、 その名の如く はじまります


その名の如く

 ギョウカイ墓場の一画、突如として空間に渦のような歪みが発生し、空中に穴が出来上がる。

 

 その穴から青いバイクに乗った2人組がギョウカイ墓場に降り立つと、歪んでいた空間は何事もなかったかのように元に戻った。

 

 バイクを運転していた人物は徐々に速度を落としていき、自身ともう1人の搭乗者、車体に余計な負荷をかけることなく停止させる。

 

「とうちゃーくっと、ありゃ? んだよ、随分と遠い場所に出ちまったな、おい」

 

〔それは仕方がないことだ。私の能力はあくまでギョウカイ墓場に突入するだけで、単純にワープのようなものではないのだ〕

 

 運転していた人物、リンダの不満そうな呟きにバイク、ワンダーは律儀に答える。

 

 ワンダーの能力はゲイムギョウ界とギョウカイ墓場と言う違う次元を行き交うことは可能だが、それは決して大幅な距離を一瞬で移動しているわけではない。

 

 内蔵されている小型シェアエナジー増幅装置によってシェアクリスタルを活性化させ、増幅させたシェアエナジーの力で無理やり2つの次元との間に道を作るのである。

 

 これはプラネテューヌの転送装置と同じ原理であり、ゲイムギョウ界とギョウカイ墓場、両方の座標が判明しているからこそ次元を越えられるのである。

 

 しかし、この移動方法は次元間を行き来するためのものであり、同じ次元の中で自由に移動することは不可能なのである。

 

 例えば、座標が正確にインプットされていたとしても、ワンダーではプラネテューヌからラステイションへ向かうのにこの移動方法は利用できない。

 

 シェアエナジーによって無理やり空間に入り口と出口を発生させると言っても、2つを繋ぐ道が真っ直ぐでなければバイクであるワンダーは走ることができないのである。

 

 これはこの移動方法がワンダーの加速も利用していることが原因である。

 

 次元を越える際に、ワンダーはシェアエナジー増幅装置からシェアエナジーを空間を繋げるためと、搭乗者を保護するために展開する。

 

 通常では車体を中心にドーム型に展開されるはずのシェアエナジーを、加速によって生じる空気抵抗を利用することで搭乗者と車体の前面を覆うように展開させるのだ。

 

 2つの次元を行き来する、言わば三次元的な移動をする搭乗者とワンダーを守る安全装置の役割だ。

 

 しかし、同じ次元上の移動、言わば二次元的な移動の場合はワンダーは加速ができない。

 

 理由は、この移動方法が一時的とはいえ、次元と次元の狭間を移動するからである。

 

 実際に体感でそんなことを感じることはないが、事実として空間に繋がる穴を通る際に、SF映画でワープする時のように体が一瞬で転送されるわけではなく、ワンダーは入り口と出口のどちらの座標でもない道を通る。

 

 これはこの移動方法が質量などを無視して行うことができないからである。

 

 このため、同じ次元上では座標間を結ぶ際に自然や建物などの多くの遮蔽物が邪魔になってくる。

 

 もし次元の狭間に出ることなく、無理やり直線で道を作ろうとすれば、ワンダーはそれらにぶつかってしまい移動することができない。

 

 だが、それらを避けて次元の狭間に道を形成したところで、道は曲線になってしまう。

 

 加速しているバイクがカーブを曲がりきれるだろうか? ……答えは否である。

 

 かと言って、減速をしてしまえば安全装置の役割を担っているシェアエナジーの幕が薄くなってしまう。

 

 つまり結論として、直線距離で結べる三次元的な移動は可能だが、曲線になってしまう二次元的な移動は不可能なのである。

 

「ふーん……ん? そうなると、帰る時もここまで来なきゃいけねぇってことかよ?」

 

〔その必要はない。帰りは私の中にインプットされているプラネテューヌの教会に直接戻ることができる……ただし、夢人とイストワ―ルが加わってしまうと来る時よりも転移するための時間がかかってしまうため、すぐには無理だろう〕

 

「結局は教祖どもの仕事次第ってことか……おい、さっきから何もしゃべってねーけど平気なのか?」

 

「……あ、はい、大丈夫です!」

 

 リンダは呆れながら自分の腰に手を回して乗っている同行者、ネプギアを振りかえり見た。

 

 ネプギアはギョウカイ墓場に到着してから、ずっと遠くに見える黒い塔を悲しそうに見つめていたのだ。

 

「オイオイしっかりしてくれよ。テメェにはフィーナを押さえといてもらわなきゃいけねぇンだからよ」

 

〔どこか体調に不具合でも生じたのか? 私の方では問題なく到着できたと判断していたのだが……〕

 

「そ、そうじゃないんです。ただ……」

 

 慌てて返事を返すネプギアだったが、すぐに目を伏せて口を開いた。

 

「どうやって向き合えばいいのかわからなくて、ちょっと怖いんです」

 

「ハッ、何を深刻そうにしてるのかと思ったら、んなくだらねぇこと考えてたのかよ」

 

「く、くだらなくなんてないですよ!? だって……」

 

「だってもくそもあるかっての。いいか、テメェがアイツを止めなきゃ誰が止めるってンだよ。何なら、今から引き返してお姉ちゃんにでも交代してもらうか?」

 

〔……うむ。通訳すると、ネプギアならできる、だからしっかりしろ、と発破をかけているのだな〕

 

「誰がそんなこと言ったんだよ!? いい加減なこと言ってんじゃねぇ!?」

 

 弱気な態度を見せるネプギアを鼻で笑ったリンダは、馬鹿にするようににやりと笑った。

 

 しかし、そんな態度もワンダーの言葉により一変し、リンダは耳まで赤くしながら怒鳴り上げた。

 

 そんな様子を見て、ネプギアは柔らかく目元と頬を緩めて口を開く。

 

「ありがとうございます。2人のおかげで、元気が出てきました」

 

「ふん、誰もテメェなんか心配してねぇンだよ。アタイが心配なのは……」

 

〔リンダ、それはツンデレと言うものだぞ〕

 

「だから、テメェは何ふざけたことを言ってやがりますか!? アタイのどこがツンデレだって言うんだよ!?」

 

「あ、それ私も思いました。少しユニちゃんっぽいなあって」

 

 リンダはワンダーの言葉で元々赤かった頬はさらに赤みをまし、さらにネプギアの追い打ちで体がわなわなと震えだしてしまう。

 

「ああもう、いい加減にしやがれテメェら!? ここをどこだと……」

 

〔ジ……ジ、ジ……シンニュウシャ……ハッケン……〕

 

〔ハイジョ……カイシ……〕

 

 自分を馬鹿にしたように話すワンダーとほほ笑むネプギアに、リンダが我慢できずに叫ぶのだが、その声は突然遮られてしまう。

 

 ゴミ山の陰からキラーマシンが姿を現したのである。

 

 キラーマシンはその凶悪そうに光るカメラアイの光を、ネプギア達を見つけた瞬間に一際怪しく輝かせると、ゆっくりとにじり寄ってくる。

 

〔リンダが騒ぐから見つかってしまったな〕

 

「アタイのせいじゃないだろ!? ったく、こうなったら一気に突っ切るぞ!! しっかり掴まってろよ!!」

 

「はい、お願いします!!」

 

 段々と数が増えていくキラーマシン達を前にして軽口を聞くワンダーに向かって叫ぶリンダだったが、すぐに顔を引き締めると被っていたヘルメットの調子を確かめてハンドルを強く握りしめる。

 

 そして、後ろに乗るネプギアに注意を促し、自身の腰に回された腕に力が込められたことを確認したリンダは、勢いよくワンダーを走らせた。

 

〔ニガ……サナイ……〕

 

「バーカ、テメェらなんかに構ってる暇なんてないんだよ!! あばよ!!」

 

 ワンダーはキラーマシン達の間をすり抜けるように黒い塔への道を進んで行く。

 

 小回りの利くワンダーに比べれば、キラーマシン達の動きは緩慢であった。

 

 振り返る動作でさえ、互いの体が邪魔をして上手くすることができない。

 

 傍から見たら間抜けなキラーマシン達の行動に、リンダは愉快そうに笑いながらさらにワンダーを加速させる。

 

 その腰にしがみ付きながら、ネプギアはリンダの肩越しに黒い塔を睨むように真っ直ぐ見つめ続ける。

 

(待っててくださいね、夢人さん、いーすんさん……それに、フィーナちゃん!)

 

 

*     *     *

 

 

「押し合わないでください!! 大丈夫ですから、慌てないでください!!」

 

 茶髪の青年がごった返している人の波に向かって声を張り上げていた。

 

 現在、リーンボックスの街は恐慌状態に陥っていた。

 

 人々は我先にと群れをなして教会へと避難していく。

 

 その顔は皆一様に恐怖と焦りに支配されていた。

 

 人々を誘導しているユピテルのメンバーの1人、シュンヤもまた焦りを感じている1人である。

 

(クソッ、何がどうなってんだよ!?)

 

 ユピテルはシュンヤだけでなく、他の2人も自主的に市民の誘導に協力していた。

 

 ベールにナナハ、加えて教祖であるチカまでもが不在のリーンボックスでは市民達を落ち着かせることができないでいたのだ。

 

 人々は突如として現れた存在から逃げるために、避難場所として利用もされる教会に向かって互いを押し退けながら走り続けていた。

 

 だが、全員がそんなことをすれば当然人の波は滞ってしまう。

 

 そんな状況を見かねたシュンヤ達は何とか市民達を落ち着かせるために声をかけ続けていたのだ。

 

 その甲斐もあって少しは教会に流れていく波が進み始めているのだが、それでも進みは遅い。

 

「わーん!! お父さ-ん!! お母さーん!! どこー!!」

 

 誘導するために大声を出していたシュンヤの耳に人々のざわめきの他に、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 

 慌てて周りを見回すと、ぬいぐるみを抱えた小さい女の子が泣きながらきょろきょろと周りを見ている姿が目に映った。

 

 その服についている汚れと、膝がすりむいたように赤くなっていることから、人の波から押し出されて転んでしまい、両親からはぐれてしまったのだろう。

 

 シュンヤは泣いている女の子に近寄ると、目線が合うように屈んで安心させるために笑いかけた。

 

「大丈夫。お兄さんと一緒にお父さんとお母さんのいる場所まで行こう」

 

「……本当? そこにお父さんとお母さんいるの?」

 

「ああ。だから、泣かないでお兄さんに……」

 

「あ、アイツが来た!?」

 

 瞳に溢れんばかりの涙を浮かべる女の子の手を引いて教会に向かおうとしたシュンヤであったが、避難している市民の1人の叫びを聞いて顔を上げた。

 

 そして、その目に映る黒い機械的な体を持つ死神を目撃し、表情を凍らせてしまう。

 

「この先か」

 

 黒い死神、ジャッジ・ザ・ハードは人々の向かっている先を確認するように見つめると、ゆっくりとその巨体を前へと進めていく。

 

 手に持っているポールアックスに加え、全体的に凶悪な印象を持つジャッジの登場に人々は再び落ち着きを失ってしまった。

 

 ジャッジから逃げるように人々は他人を押し退けようと暴れ出す。

 

 中には涙を浮かべて逃げようとする者までいた。

 

「これ以上は進ません!!」

 

「市民の安全を確保するんだ!!」

 

 ユピテルと共に人々を教会に誘導させていた防衛隊の職員達は、銃や魔法を使ってジャッジの進行を阻止しようとする。

 

 それら全てを喰らっても平気そうに進んでいたジャッジであったが、さすがに煩わしく感じたのかポールアックスを横に大きく薙いだ。

 

「うわああああ!?」

 

「ぐわああああ!?」

 

「きゃああああ!?」

 

 ポールアックスが振るわれた衝撃によって巻き起こった強烈な風によって、避難している人達を守るために前線に出ていた防衛隊の職員は吹き飛ばされてしまった。

 

 風の影響はそれだけにとどまらず、避難していた人々も足を止めてしまうほどであった。

 

「ぐっ、何とかここから逃げ……っ!?」

 

 女の子が吹き飛んでしまわないように強く抱き抱えていたシュンヤは薄目を開けてこの場から避難しようとした。

 

 しかし、自分達に向かって吹き飛んでくる車を見て驚きに目を見開かせてしまった。

 

(マズイ!? この子だけでも……)

 

 シュンヤが女の子だけでも車から逃がそうと、その場から放り投げようとしたその時である。

 

 突然、自分達に向かって飛んできた車が木っ端微塵になってしまった。

 

 何が起こったのかわからないシュンヤはただ目の前で起こったことに呆けていたのだが、女の子は腕の中から顔を出してぼそりとつぶやいた。

 

「……女神……様……」

 

 つぶやきを聞こえたシュンヤが女の子の視線を辿ると、そこには緑色の髪をサイドテールにして、白いレオタード服に似た服に機械的な翼が身に纏っている少女の後ろ姿が見えた。

 

「……ナナハ、様……っ!」

 

 その少女、ナナハのことを知っているシュンヤはパッと顔を明るくした。

 

 ナナハが自分達を助けに来てくれたのだと思ったのである。

 

 どうして1人なのかはわからないが、これで自分達は助かるとシュンヤは思った。

 

 逃げ惑い混乱していた市民達もナナハの登場に希望を見出し、救われたように表情を明るくさせていく。

 

 ……しかし、ナナハはそんな視線を受けても俯いたままで、撫子を持つ腕もだらりと下がっていた。

 

「ほう、やはり私の邪魔をしに来たな」

 

「……い」

 

「だが、フィーナ様のためにここを退くことはできん。さあ、この前の続きを……」

 

「うるさいっ!!」

 

「ぬおっ!?」

 

 ナナハの登場に、ジャッジは口角を上げてポールアックスの先端を彼女に向ける。

 

 だが、ナナハはジャッジがすべてを言い終える前に顔を上げると、憤怒の表情で撫子の刃で鎧を貫くように突撃を始めた。

 

 奇襲に驚くジャッジであったが、撫子の刃は鎧を貫通することはなかった。

 

 しかし、ジャッジはナナハの勢いに押され、そのまま押し出されるように街から離れていく。

 

「……ナナハ……様……?」

 

「お兄さん?」

 

「あ、何でもないよ。さあ、今のうちに教会に行こう」

 

 ナナハの姿に違和感を感じたシュンヤであったが、女の子に袖を引っ張られ我に返ることができた。

 

 そして、すでに見えなくなってしまったナナハとジャッジが消えた方向を心配そうに見つめると、女の子の手を握り教会へと向かっていく。

 

 

*     *     *

 

 

「ったく、うじゃうじゃと出てきやがって、テメェらは台所の黒い虫かっての」

 

〔愚痴をこぼすほど余裕があるわけではないぞ〕

 

「わーってんだよ……って、あっぶね!?」

 

 自分達の行方を阻むように次々と現れるキラーマシンに辟易しながらリンダはワンダーを走らせていく。

 

 途中、進行方向に剣を振り下ろされたりして、急にハンドルを切ることもあるが、ここまで無傷で来ることができた。

 

 このまま黒い塔までキラーマシンを振り切りながら向かうことができそうだと内心思っていたその時……

 

「M.P.B.L.ビームモード、シュート!」

 

〔ぐっ!?〕

 

「ぬおおおお!? ……ふぎゅっ!?」

 

「きゃあああ!?」

 

 ……突如、進行方向の地面に何かが直撃し、爆発を起こした。

 

 爆発の余波でワンダーは前輪が浮き上がってしまい、乗っていたネプギアとリンダは振り落とされてしまった。

 

 リンダは顔から、ネプギアは何とか受け身を取ることができ、額を手で押さえて顔を振りながら原因を確かめるために顔を上げる。

 

「いったい、何が……」

 

「ようこそ、待っていたわ……オリジナル」

 

「っ!? フィーナちゃん!?」

 

 視線の先で黒いM.P.B.L.を構えてほほ笑むフィーナがいたことに、ネプギアは目を大きく見開かせた。

 

「あなたが来てくれるか不安だったけど、ちゃんと来てくれて嬉しいわ」

 

「……フィーナちゃん、私……」

 

「でも、まさかアイツがそんな方法で生き残るなんて思わなかったわね。だから、今度こそ確実に殺してあ・げ・る」

 

「何でそんなこと言うの!? アカリちゃんはフィーナちゃんの……」

 

「黙れ!! あなたもアイツも、私にとって邪魔なのよ!!」

 

「っ!?」

 

 楽しそうに話していたフィーナだったが、ネプギアの言葉に反応すると目を鋭くさせて黒いM.P.B.L.で斬りかかる。

 

 ネプギアは慌ててビームソードで受け止めたのだが、その顔は辛そうに歪められていた。

 

 その表情と今のネプギアの状態に察しがついたフィーナは頬を吊り上げてにやついた。

 

「あらあら、随分と辛そうじゃないの? そんなお荷物を背負ってる状態で勝てると思ってるの?」

 

「っ、私はフィーナちゃんと戦うつもりは……」

 

「御託はいらないのよ! 私はあなたもアイツも殺すだけよ!」

 

「っ、そんなの駄目だよ!!」

 

 狂気をはらんだように笑うフィーナの言葉をネプギアは強く否定した。

 

 受け止めている黒いM.P.B.L.を弾くと、フィーナから距離を取るために後ろに軽く跳んだ。

 

 そして、胸に手を当てて深く瞬きをすると、ネプギアは眉をきりっとさせて宣言する。

 

「もう迷わない。私は……ううん、私達でフィーナちゃんを止める!」

 

「あなたにできると……っ!?」

 

 鼻で笑おうとしたフィーナであったが、次の瞬間にネプギアを中心に発生した光の柱に驚愕してしまう。

 

 それは女神の『変身』の光である。

 

 ただそれだけなら、フィーナは驚かなかっただろう。

 

 だが、今のネプギアの状態でそれを行うことはないと思っていたのだ。

 

「プロセッサユニット展開完了! 行くよ、フィーナちゃん!」

 

「チッ!」

 

 ライラックmk2に身を包んだネプギアは、フィーナの物とは対照的な色合いである白いM.P.B.L.を振りかぶり飛翔した。

 

 それを迎え撃つため、フィーナも黒いM.P.B.L.を振るうと、2つのM.P.B.L.は激しく火花を散らしてぶつかり合う。

 

 鍔迫り合いのような形で拮抗し合う両者であったが、フィーナは余裕そうににやりと笑う。

 

「うふふ、いいのかしら? このままだとあなた……」

 

「はああああ!!」

 

「っ!? くっ!?」

 

 笑いながら言葉を続けようとしたフィーナであったが、その余裕はすぐに崩れてしまった。

 

 言葉を遮るようにネプギアが黒いM.P.B.L.をフィーナの手から弾き飛ばしたのだ。

 

 自分の武器が弾き飛ばされたことにフィーナは呆然としたが、すぐに悔しそうに唇を噛むとネプギアから距離を取ろうとする。

 

 ……何故なら、すでにネプギアは次の攻撃の構えに移っていたのだ。

 

「ミラージュダンス!!」

 

 距離を取るために後ろに跳んだフィーナを追うようにネプギアは地面を強く蹴って跳んだ。

 

 そして、M.P.B.L.が無防備な姿をさらしているフィーナに向かって振り下ろされそうになると……

 

「調子に、乗るな!!」

 

 フィーナは険しい表情で再び黒いM.P.B.L.を出現させて、その一撃を防いだ。

 

 それはかつて、エヴァから夢人の情報を聞いた時にブレイブソードを生みだしたのと同じである。

 

 情報を基に実際の物体を“再現”させたのである。

 

 何かに“ペースト”しなければ“再現”することができなかった夢人とは違い、情報を統括する『再誕』の女神であることとネプギアをモデルにしているからこそ、即座に出現させることができたのである。

 

「……いいわ。そっちがその気なら、私も一瞬で終わらせてあげる!!」

 

 ネプギアの攻撃を中断させることに成功したフィーナは地に足をつけると、再構成した黒いM.P.B.L.を自ら放り投げた。

 

 すると、深い闇色に近い紫の刀身を持つ剣、ゲハバーンを構えて、すぐさまネプギアに向かって駆け出す。

 

(これで、お終いよ!! ……っ!?)

 

 フィーナはすでに自身の勝利が揺るぎないものであると確信していた。

 

 あのまま時間をつぶすように戦っていても自分の勝利は間違いなかったが、ゲハバーンを取りだした時点で確定したと考えていた。

 

 それだけの力がゲハバーンには備わっている。

 

 そして、それを防ぐ力がネプギアにはないことも理解していた。

 

 だからこそ、今目の前で起こっている光景が信じられず、目を見開かせてしまう。

 

「……嘘」

 

 それはゲハバーンがネプギアのM.P.B.L.に受け止められてしまったこと。

 

 ……正確にはM.P.B.L.を覆うように広がっている光にゲハバーンの刃が止められてしまったのだ。

 

 驚愕して思考を停止させてしまったフィーナの目の前で、M.P.B.L.を包んでいた光は輝きを増し、その姿が見えなくなってしまう。

 

 目に飛び込んできた眩しさのおかげで正気に戻ったフィーナは慌てて跳び退いた。

 

 何が起こるかわからない以上、近くにいては危険だと判断したからである。

 

「何なのよ、それ」

 

「これはアカリちゃんの……『再誕』の力の光だよ」

 

「……『再誕』の……光……?」

 

 いぶかしむようにフィーナが尋ねれば、ネプギアは光を放つM.P.B.L.に視線を向けて静かに告げる。

 

 フィーナもM.P.B.L.を包んでいた光の正体が『再誕』の力によるものであることは理解していた。

 

 しかし、例え何を“ペースト”したところでゲハバーンを受け止めることなどできるはずがないと思っていたのだ。

 

「この力はゲイムギョウ界を明るく照らす光……だから!!」

 

 ネプギアが光に包まれていたM.P.B.L.を頭上高く持ち上げて振り下ろすと光は弾け飛び、その姿を現した。

 

 その姿はM.P.B.L.ではなく、白く輝く刀身をした1本の剣であった。

 

 剣の柄を両手で持ち、ネプギアは切っ先をフィーナに向かって構える。

 

「私達は絶対に負けない!!」

 

 そう言って駆けだしたネプギアに反応が遅れてしまったフィーナは防御しか選択ができなかった。

 

 白い輝きを放つ剣を受けとめようとゲハバーンを振り上げたのだが、その手応えの無さと宙に舞った紫色に呆然としてしまう。

 

 そして、ゆっくりと握っているゲハバーンへと視線を向け、思わずつぶやいてしまった。

 

「……え」

 

 ……その目には刀身が斬り裂かれてしまい、長さが半分以下になってしまったゲハバーンだけが映り込んだ。




と言う訳で、今回はここまで!
ようやくこの章でまともな戦闘に入りました。
次回から他の場所での戦いも入ってきますのでお楽しみに。
それでは、 次回 「ただ望むままに」 をお楽しみに!

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