超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
ちょっと予定していたところまで入れられなかったので、急遽サブタイを変更させていただきます。
それでは、 迷走する者達 はじまります


迷走する者達

 ……気が付けば、目の前が真っ白になっていた。

 

 自分が立っているのか、座っているのか、浮いているのかわからない。

 

 手や足の感覚もなく、本当に自分がここにいるのかさえ分からない。

 

 だが、不思議なことに恐怖はまったく感じられない。

 

 どうしてか既視感を感じてしまっている自分がいる。

 

 俺は確か、話の途中でフィーナに額を突かれたら急に意識が遠のいて……駄目だ、それから先は思い出せない。

 

 俺はまた違う場所に移されたのか?

 

 逃げられないように麻酔かなにかを打たれたせいで体の感覚がなくなっているんじゃないか?

 

 ただ頭だけが働く現状では、何ひとつ自分の身に降りかかっている事態は理解できない。

 

 目の前も真っ白だし、何が何やら……っ!?

 

 そう思っていた瞬間、真っ白だった空間に突然眩しさを感じた。

 

 どうやら瞼は動くらしく、俺は思わず目を閉じてしまった。

 

 いったい何が……

 

「夢人さん」

 

 ふいに聞きなれた声が耳に響いてきた。

 

 その声は初めてゲイムギョウ界に来た時から、何度も俺を救ってくれた声。

 

「起きてください、夢人さん」

 

 先ほどまで感じることができなかった体の感覚が急によみがえり、俺は自分が揺すられていることを自覚した。

 

 体全体も何かに包まれて横たわっているんだと、自分の現状を無理やり理解させられた気分だ。

 

「もう、いつまで寝てるんですか!!」

 

「っ!? ……ネプ、ギア?」

 

 体を包む何かが剥ぎ取られたせいで寒さを感じて身震いした俺は、何が起こったのかを確かめるため閉じていた瞳を開かせた。

 

 多少重く感じた瞼を開いた俺の目には、毛布を持って眉を吊り上げているネプギアの姿が映った。

 

 突然の事態に呆けてしまった俺をよそに、ネプギアはぷんぷんと怒りながら頬を膨らませて拗ねたように口の端を尖らせる。

 

「まったく、まだ寝ぼけているんですか? それともまさか、私のことがわからないって言うんですか?」

 

「い、いや、そんなことはないって」

 

「そうですよね。よかった……さあ、早く着替えて来てくださいね。もう朝食の準備はできてるんですから」

 

「あ、ちょ……行っちゃった」

 

 俺の返事に安心したようにはにかんだネプギアは、呼び止める暇もなく上機嫌で部屋を後にした。

 

 ……あれ、俺はフィーナにギョウカイ墓場に連れてこられたんだよな?

 

 しかし、窓からは俺の考えを否定するように青空と白い雲が見える。

 

 ギョウカイ墓場は赤い空と黒い雲が漂うおどろおどろしい雰囲気のはずだし、俺はいつの間にかゲイムギョウ界に戻っていたのか?

 

 意識を失っている間にネプギア達に救出されたのか?

 

「……考えても仕方ないか」

 

 俺はベッドから起き上がり、パジャマから普段着に……って、あれ? ここはプラネテューヌの教会で借りてる俺の部屋じゃないのに、何で着替えがある場所がわかるんだ?

 

 自分が自然に着替えがある場所がわかったことに首を捻ってしまうけど、答えは出せそうにない。

 

 とりあえず、ここがどこかも含めてネプギアに聞かないと……

 

 

*     *     *

 

 

 普段着に着替え終えて部屋を出ると、俺はここがプラネテューヌの教会でないことを理解した。

 

 部屋を出て最初に目に映ったのは、自分がいた部屋とは違う部屋に繋がる2つの扉と下に降るための階段であった。

 

 まるで普通の一軒家だと思った。

 

 おそらく間取りは正面に見える扉は俺が先ほどまで眠っていた部屋とほぼ同じであり、もう1つの部屋はやや広めなんじゃないかな、なんて変な感想を抱きつつ、階段を降る。

 

 階段を降り切ると、自分でも不思議なくらいに迷いなく俺は左側に見えたガラス戸を開けて中に入った。

 

 その動作は着替えがある場所がわかった時と同じで、自然過ぎて逆に自分の行動に違和感しか感じない。

 

「あ、ようやく来たんですね。改めて、おはようございます、夢人さん」

 

「お、おはよう」

 

「それじゃ、冷めちゃわないうちに朝食を食べちゃいましょう」

 

「わ、わかった」

 

 部屋はリビングとキッチンが同居している部屋であったらしく、手前にはテーブルと4つの椅子、奥にはソファーとテレビがある。

 

 俺が来るまで洗い物をしていたのか、ネプギアはエプロンをつけて流し台の前に立っていた。

 

 そして、俺が部屋に入ったことを確認すると、柔らかく頬を緩めてエプロンを脱いで椅子に座るように勧めてきた。

 

 一瞬、エプロンを脱ぐ仕草にドキッとしてしまった俺は本当だったら聞かなければいけないことがあるのにもかかわらず、勧められるままに椅子に座ってしまった。

 

 ……いや、だってさ、女の子がエプロンとはいえ、目の前で着ている物を脱ぐのってすごく心臓に悪いって言うか、なんて言うか……とにかく、1度落ち着こう。

 

「いただきます」

 

「……いただきます」

 

 椅子に座った俺の対面にネプギアはにこにことしながら座り、胸の前で両手を合わせて挨拶をすると朝食を食べ始めた。

 

 俺も遅れて同じように挨拶をしてから、朝食を食べ始める。

 

 いろいろ聞かなきゃいけないことはあるけど、食事を終えてからでもいいかな、と思った俺はまず多分味噌汁だと思われるスープを啜ったのだが、一口含んだだけで目を見開いて驚いてしまった。

 

「……美味しい」

 

「あ、本当ですか。ちょっと味が濃くなっちゃったかもとか思ってたんですけど、お口にあったようでよかったです」

 

 確かに味は少し濃いけど、朝は逆にこれくらいの方が目が覚める……って、そうじゃない。

 

 舌が味を感じてるってことは、これは夢じゃないのか?

 

 だとしたら、ここはいったいどこで俺とネプギアは何で2人で朝食を食べているんだ?

 

 疑問を抑えきれなくなった俺は、食事中でマナーは悪いだろうけどネプギアに尋ねることを決めた。

 

「なあ、ネプギア。ここはいったいどこなんだ? それに、どうして俺達は2人だけで朝食を……」

 

「何を言ってるんですか? ここは私達夫婦の家で、2人しかいないのは当たり前じゃないですか」

 

「ああ、そっか……って、はあああああ!?」

 

 小首をかしげて不思議そうに言うネプギアの言葉に、一瞬納得しそうになったけど、よく思い返してみるととんでもない問題発言だった。

 

 俺とネプギアが夫婦!? それに、ここが俺達の家!?

 

 ああ、これ絶対夢だ!? それか俺の妄想が荒ぶっているんだよ!? もう経験則でわかるわ!? こんな俺にとって都合のいい現実が突然訪れるわけがない!?

 

 第一、まだナナハの告白に返事をしていないのに、俺がネプギアと恋人通り越して夫婦になるわけがない!?

 

 これが現実ではなく、目の前のネプギアが本物ではないとわかっていても、俺は叫ばずにはいられなかった。

 

 夢だとしても、俺達が夫婦ならいなければならない子が2人いるはずだ。

 

「なら、アカリはどこなんだよ!? それに、フィーナだって……」

 

「アカリ? それにフィーナって誰のことですか?」

 

「……な、何言ってんだよ。フィーナのことはわからないかもしれないけど、俺達のことをパパ、ママって慕ってくれる『再誕』の女神……いいや、娘のアカリを忘れたのか?」

 

「『再誕』の女神って何ですか? それに、私達に娘なんてまだいないですよ。だって、まだ……もう、朝から何を言わせるんですか!?」

 

 頬を上気させて恥ずかしがるネプギアとは対照的に、俺の背筋に冷たいものが走る。

 

 夢や妄想であっても、ネプギアがアカリのことをいない者としていることが信じられない。

 

 アカリとフィーナ……『再誕』の女神は俺とネプギア達を繋いでくれた大切な存在だ。

 

 女神の卵がなければ、俺はゲイムギョウ界に来ることもなく、ネプギア達とも出会えなかった。

 

 多分会ったことのないフィーナのことはわからなくても、ネプギアが自分のことをママって呼んで慕ってくれているアカリを忘れるなんてありえない。

 

 アカリのために俺と一緒のベッドに寝たり、温泉に行ったりもした程、可愛がっていたはずだ。

 

 それなのに、どうしてそんな風に平然としているんだよ。

 

 いくら夢や妄想だとしても、こんなこと絶対にあり得ない。

 

「もう、いつまでも寝ぼけてないでシャキッとしてくださいよ!? ごちそうさまでした!」

 

「ど、どこに行くんだよ?」

 

「どこって、着替えに行くに決まってるじゃないですか。だって、今日はこれからデートするんですから」

 

「デート……」

 

「どんな夢を見ていたのか知らないですけど、ちゃんと目を覚ましてくださいね」

 

 頬を赤らめたままネプギアは食器を流し台に持っていき水に浸すと、部屋を出ていこうとした。

 

 思わず呼び止めて尋ねると、やや不満そうに目を細めて俺を見つめてきた。

 

 俺が呆然とつぶやくと、今度は気遣わしげに言葉を投げかけ、ネプギアは部屋を出て行ってしまった。

 

 ……夢、何が夢で何が現実なんだ?

 

 さっきまでは夢の中にいるとはっきり自覚していたはずなのに、今では曖昧になってしまった。

 

 夢や妄想の中にいるんだと自分に言い聞かせる度に、それが間違いであるように感じてしまう。

 

 本当はネプギアの言う通り、俺達は夫婦でアカリやフィーナもいないんじゃないかって思ってしまう。

 

 ネプギア達と旅したことが、すべて夢だったんじゃないかって疑ってしまっている自分がいる。

 

 そんなわけないって理解しているのに、確信を持てない俺の認識は揺らぎ続けてしまう。

 

「っ!?」

 

 馬鹿なことを考える頭を叩いても、痛みを感じるだけだった。

 

 ……そう、痛みを感じたんだ。

 

 味噌汁を飲んだ時も味を感じた。

 

 だったら、これは本当に……

 

 これが現実だと認識したくない俺は椅子から立ち上がり、流し台で顔に思いっきり水をぶっかけた。

 

「冷たい……」

 

 だが、現実は無情にも俺の思惑を裏切り続ける。

 

 顔面に水の冷たさ、水滴が頬を伝い滴り落ちる感覚まではっきりとわかってしまう。

 

 目も冴えわたり、頭も働いているのに、この夢は終わってくれない。

 

 ……なんだよ、これ。

 

 まるで悪夢だ。

 

 今までのことすべてが夢であったと……俺がゲイムギョウ界で知ったことや感じたこと、体験したことがすべて嘘だったように思えてしまう。

 

 ネプギア達との出会い、旅、別れ、再会が頭の中で霞がかかったようにぼやけてしまってよく思い出せなくなってきている。

 

 それらが夢だったと言われているような錯覚を……本当に錯覚なのか?

 

 五感も正常に働き、頭も冷静とは言えないけど問題なく思考できる今が現実なんじゃないのか?

 

 今まで長い夢を見ていて、俺は夢の内容を引きずっているだけ……

 

「……あれ、多い?」

 

 考えに沈んでいた俺の目に違和感が飛び込んできた。

 

 水に浸されている食器の数が2つほど多い。

 

 俺の食器はまだテーブルの上にあるし、本当だったらネプギアの物だけのはず。

 

 それなのに、水に浸されている食器は3組ある。

 

 俺が来る前に洗い物をしていたから、その時に洗っていた食器なのか?

 

 それとも……

 

「夢人さーん、食べ終わり……って、まだ全然食べてないじゃないですか。それに顔もびしょびしょで」

 

「あ、ちょ、自分で拭くから!?」

 

「駄目です! 夢人さんは自分のことに関して無頓着なんですから!」

 

 おめかしして戻ってきたネプギアはまだ朝食を食べ終わってないことと顔が水浸しになっていることに怒りながら俺に近づくとタオルで強引に顔を拭き始めた。

 

 俺が抵抗しようとすると、ネプギアはぷりぷりと怒りだし、余計に力を入れ始める。

 

 その痛みが今を現実だと訴え、先ほどまで感じていた違和感を頭の隅へと追いやってしまう。

 

「まったく、本当にしょうがない人なんですから。待ってますから、ちゃんと味わって食べてくださいね」

 

「……ああ」

 

 困ったように笑いながら手を引くネプギアに、俺はされるがまま言われるがままに朝食の残りを食べ始める。

 

 考えれば考えるほど、今が現実なのか夢なのかが曖昧になっていく。

 

 だったらもう、いっそのこと今を肯定してしまえば……っ!?

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「……あ、いや、何でもない」

 

 今を現実だと認識しようとした時、頭の奥の方で鈍い痛みが走った。

 

 堪らず顔をしかめて手で頭を押さえるのだが、痛みは消えてくれない。

 

 それは今を肯定するなと、現実だと認めるなと言っているような気がする。

 

 ……だが、痛みはより今を現実だと認識させるための要因にしかならない。

 

 今を信じればいいのか、それともこの痛みを信じればいいのかわからない俺は、ただ心配そうに見つめてくるネプギアをいつまでも待たせるわけにはいかないので、安心させる意味合いも込めて朝食を食べ続ける。

 

 噛みしめる味の1つ1つがまた俺を苦しめるのだが、食べることも考えることもやめるわけにはいかない。

 

 頭に響く鈍痛と胸に突き刺さる言葉にできない何かが楽になることを許してくれないからだ。

 

「体調が悪いなら、今日のデートは……」

 

「いや、大丈夫だよ。デート、行こう」

 

「っ、はいっ!」

 

 シュンとしていたネプギアの顔がパッと明るくなるのを見て、胸がざわつくのを感じた。

 

 言葉にできない何かが形になろうとして、すぐに壊れてしまったような、そんな不思議な気分になった。

 

 だけど、1つだけわかるのはこのままじゃただ苦しいだけだと言うこと。

 

 何が真実で何が嘘なのか、どちらが現実でどちらが夢なのか、頭に引っかかる違和感と胸にある何かの正体はいったい何なんだろう。

 

 でも、俺は……

 

 

*     *     *

 

 

「こ、この!?」

 

 1人の青年が持っていた剣を強く握りしめ、モンスターに向かって駆け出す。

 

 彼は今現在ゲイムギョウ界の各地で暴れているモンスター達に対処するために行動を起こした冒険者の1人である。

 

 フィーナに連れ去られたイストワ―ルを除く教祖達からの要請を受けて、各国の防衛隊と共にこの地で暴れているモンスターを相手に有利に事を運んでいた。

 

 それは単純に彼の実力や経験、防衛隊との連携もあるが、純粋な数の差でもあった。

 

 女神の卵の欠片が発動したことにより、姿形が変わって暴れ出したモンスター達の数はさほど多くはない。

 

 理由は、欠片が内包していた情報がランダムであったからである。

 

 例えば、プラネテューヌの土地の情報が内包している欠片がラステイションで発動すれば、その近くにいたモンスター達は変態し暴れ出す。

 

 しかし、発動した場所がプラネテューヌだったら、モンスターには何の影響もないのである。

 

 あくまでモンスター達が暴れているのは、欠片が解放したシェアエナジーの影響で無理やり姿形や環境が変化してしまったせいである。

 

 言わば、興奮状態なのだ。

 

 ラステイションで直接的に何もしていなかったノワール達に、アイスフェンリル達が襲いかかったのも自分の体を変化させたシェアエナジーを持て余していたからである。

 

 無理やり注ぎ込まれるように染められてしまったモンスター達は、発散する方法がわからず暴れる以外の行動が取れない。

 

 だが、逆に自分の住んでいる大陸の情報が入った欠片が発動した場合、モンスター達は沈静化してしまう。

 

 多少風土は変化するが、むしろその場に満ちるシェアエナジーに安心感を覚えてしまうからである。

 

 それは人間で言うところの、親に抱かれているような温かさをモンスター達が感じてしまうからだ。

 

 そんなモンスター達は暴れることなく、その温かさに身を任せて眠りにつくものもいる。

 

 確率で言えば、欠片が発動しても4分の1の確率でモンスター達は暴れることはないのだ。

 

 しかも、仮に欠片が発動しても範囲内にモンスターがいなければ、その土地は変化していても平和を保っている。

 

 つまり、暴れているモンスター達は危険だが、そんなに脅威ではないのだ。

 

 大量に暴れているモンスター達がいる場所もあれば、まったくモンスター達が暴れていない場所もある。

 

 戦力差を見誤らなければ、そうそう危機に陥ることもない。

 

 むしろ、女神やモンスター達のようにシェアエナジーによる影響を受けない人間の彼らは有利であったはずだ。

 

 姿形が変わったとはいえ、既知のモンスターである。

 

 それなりに場数を踏んでいる冒険者に防衛隊ならば、冷静でないモンスターなど簡単に倒せるはずであった。

 

 ……そう、すべて過去系の話である。

 

 今この場に立っているのは、モンスターに駆けだした冒険者ただ1人。

 

 この地に来た他の者達はすでに地に伏せてしまっている。

 

〔……ジャマモノ……ハイジョ……スル……〕

 

「ぐっ、うわああああああ!?」

 

 モンスターに斬りかかろうとした刹那、青年は真横から来る攻撃に吹き飛ばされてしまった。

 

 彼1人を残して全滅してしまった理由、それこそ今の攻撃の主であるキラーマシンのせいである。

 

 この地で暴れていたモンスターは一匹だけであり、彼らはすぐに倒して他の地に応援に行くつもりであった。

 

 しかし、突如として欠片を吸収したモンスターを守るように現れた2体のキラーマシンによって、その願いは叶わぬものになってしまった。

 

 もちろん興奮状態のモンスターはキラーマシンにも噛みつく。

 

 だが、キラーマシンは何の反応も示すことなく、冒険者や防衛隊だけを狙い続けたのだ。

 

 今も斬りかかってきた青年から助けてもらったと言うのに、モンスターはキラーマシンへとその牙や爪を振るう。

 

 それでもキラーマシンは何の反応も示さない。

 

 キラーマシンはフィーナから与えられた命令の通り、ただモンスター達を守るだけである。

 

 これはこの地に限ったことではなく、他の場所でも同様のことが起こり、現地でモンスター達に対処していた冒険者や防衛隊は混乱した。

 

 モンスターよりも遥かに強いキラーマシンに勝てる者など数えるほどしかいない。

 

 例え、倒せる人物がいたとしても時間がかかってしまい、他の者達は全滅してしまう。

 

 それに、彼らの敵はキラーマシンではなく、本来は暴れているモンスターなのだ。

 

 キラーマシンを狙えばモンスター達に、モンスター達を狙えばキラーマシンに、彼らは3者の中で唯一孤立した軍勢なのである。

 

 2者は協力の意思は持っていなくても、共通の敵である彼らを狙ってくる。

 

 まさに四面楚歌の状態である。

 

 こうなってしまえば、いくら数を頼みにした所で簡単に蹂躙されてしまう。

 

 悲しきは、純粋な暴力の質。

 

 女神打倒の殺戮兵器として生み出されたキラーマシンに、興奮状態で暴れ回るモンスター、とてもではないが並み程度の実力しか持たない者では歯が立たない。

 

「ぐっ」

 

 それでも青年は剣を支えに立ち上がろうとする。

 

 この地を任された責任感、ゲイムギョウ界を守ろうとする正義感、冒険者としてのプライドなど、様々な思いが彼の胸中に渦巻き、諦めると言う選択肢を頭から捨て去る。

 

 だが、無情にもキラーマシンやモンスターはその心を汲んではくれず、彼にトドメを刺すためににじり寄ってくる。

 

(ここ、までか……)

 

 まるでスローモーションのようにゆっくりと近寄ってくるキラーマシンとモンスターを見て、青年は自分の死を幻視した。

 

「スピニングブラスト」

 

 すべてを諦め目を閉じて、最後の時を待つ彼の耳に凛とした声が響く。

 

 すると、風が渦巻く轟音と共に何かが砕け散る音が聞こえてきた。

 

 青年が恐る恐る目を開けると、そこには金髪の少女が薙刀を構えている後ろ姿が映り込んだ。

 

 よく見てみると、薙刀の先端には風が渦巻いており、その足元にはキラーマシンの残骸が転がっていた。

 

「邪魔」

 

「あ、ああ」

 

 顔だけを向けられて見下されながら少女の口からつぶやかれた言葉に、青年は慌てて後ろに下がった。

 

 単に命令されたように聞こえたからではなく、自身が少女にとって邪魔になるとわかったからである。

 

「ギャアアアアアア!!」

 

「うるさいよ」

 

「ガ……ギャ……」

 

 突然現れた少女にさらに興奮したモンスターは、我慢することなく襲い掛った。

 

 しかし、少女はゆっくりと振り返ると煩わしそうに薙刀を1度振るうだけである。

 

 ……それだけでモンスターは不可視の刃に全身を切り刻まれてしまった。

 

 うるさいほどの叫びを上げていたはずの口からは短くかすれた声しか漏らすことができず、モンスターはその場で粒子となって消えてしまった。

 

 そんな光景を見ても少女は何の感慨も示すことなく、残っているもう1体のキラーマシンへと足を進める。

 

〔……ジャマ……ユルサナイ……〕

 

「あ、危ない!?」

 

 キラーマシンがその手に持つ凶器を少女に向かって振り下ろそうとするのを見て、退避していた青年は慌てて叫び声をあげる。

 

 何故なら、少女があまりにも無防備に歩いているからだ。

 

 薙刀の切っ先は下げられており、どう見てもキラーマシンの攻撃に対処できるとは思えない。

 

 しかし、青年の叫びもむなしく、キラーマシンは無防備に歩く少女に向かってその凶器を振り下ろす。

 

 ……だが、振り下ろされた凶器は突如として少女を覆うように発生した眩しい光の壁に阻まれて砕け散ってしまう。

 

 その反動を受けて、キラーマシン自体も大きく後ろへと吹き飛ばされてしまう。

 

 光の眩しさに目を細めてしまった青年が薄目を開けると、そこには先ほどまで金髪をしていたはずの少女が緑色の髪をして立っている姿を目撃した。

 

 服装も白いレオタードのような物に代わり、アクセントとして入れられている緑色のラインを縁取る金色のラインが帯電しているように時折バチッと音を立てて火花を散らしていた。

 

「……女神……様……」

 

 青年は変わってしまった少女が女神であったことに気付き、呆然とつぶやく。

 

「壊れろ」

 

 少女はそんなつぶやきを意に介さず、ゆっくりと吹き飛ばされたキラーマシンへと近づくと、手に持つ薙刀を大きく横に振るった。

 

 ……瞬間、キラーマシンの体は音もなく真っ二つにされてしまった。

 

 おそらくキラーマシン自体もされたことを認識する間もなく、頭部で赤く光っていたカメラアイがぶつりと消えてしまった。

 

 キラーマシンが動かなくなったことを確認した少女は、粒子となって消えたモンスターが落とした欠片を拾うと青年に声をかけることもなく空へと飛び上がり、どこかへと飛んで行ってしまった。

 

 青年は嵐のように過ぎ去った少女の後ろ姿を呆けた顔で見送ることしかできず、しばらくその場でへたり込んでしまう。

 

 そのまま疲労に身を任せて背中から地面へと倒れ込み、青年は意識を手放してしまった。

 

 ただその瞼に自分達を助けてくれた少女の後ろ姿を強く焼きつかせて……




と言う訳で、今回はここまで!
実は予定していたサブタイの内容に行くまで、これ以上の文章量がかかってしまうことが途中でわかってしまいました。
本当に遅々として進まなくて申し訳ございません。
次回から本格的に戦闘開始です。
説明だけの前半よりもテンポ良く進めていきますね。
それでは、 次回 「その名の如く」 をお楽しみに!

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