超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

167 / 184
はい、皆さんこんばんわ!
ついに連休突入ですね。
この機会に一気にスパートをかけていきたいです。
それでは、 姉妹 はじまります


姉妹

「お前ら酷いっちゅ!? 何でおいらを置いていったっちゅか!?」

 

 プラネテューヌの教会についたネプギア達を出迎えたのは、涙目で詰め寄ってくる黄色いヘルメットを被ったワレチューであった。

 

 リーンボックスの教会までは同行していたのだが、マジェコンヌからとあることを頼まれて置いていかれていたのである。

 

 ただこの際に勘違いをしており、ギャザリング城に向かったネプギア達のようにプラネテューヌの教会まで送っていってもらえると思っていた。

 

 しかし、気が付けばネプギア達はいなくなっており、ワレチューは1人置いていかれてしまっていたのだ。

 

「それよりも頼んでいたことはできたのか?」

 

「無茶を言うなっちゅ。いくらなんでもそんなすぐにはできるわけないっちゅよ」

 

 マジェコンヌの問いに、ワレチューは呆れたように肩をすくめて答えた。

 

 何の事だかわからないネプギア達が2人に尋ねようとするよりも早く、部屋の奥からベールの様子を見てチカが焦った声を出しながら近づいてくる。

 

「べ、ベールお姉さま!? いったいどうしたんですか!?」

 

「……チカ……わたくし……」

 

「しっかりしてください!? それに、ナナハの姿が見えないのですが……」

 

「うっ、ナナハは……もう……」

 

「っ……いったい、どう言うことなんですの?」

 

 未だに1人で歩けないほどショックを受けているベールは、5pb.とケイブに肩を貸してもらってようやく歩くことができる状態であった。

 

 もう1人の妹であるチカに声を掛けられたベールはナナハのことを思い出し、顔を辛そうに歪ませて俯いてしまい、ぼそぼそとしかしゃべることができない。

 

 涙の痕が色濃く残っている顔に、再び涙が溢れだす。

 

 そんなベールの様子に、チカは最悪の想像をしてしまい、目を見開いてわずかに顔をのけぞらせてしまう。

 

 だが、すぐに奥歯を噛みしめて耐えるように目を細めてベールの両脇にいる2人に事の次第を説明するように要求した。

 

「……ナナハは、どこかに行ってしまったのよ」

 

「……自分はいなくなってもいいって言いながら、ベール様のことを呼び捨てにして」

 

「っ!? 嘘……」

 

 2人の言葉に、チカはもう冷静な態度を保つことができなくなってしまった。

 

 目は大きく見開かれ、唇を震わせながら二の句を継げられないでいる。

 

 いなくなったことはもちろんチカにとってもショックだが、それ以上にベールのことを呼び捨てにしたと言うことが信じられないでいた。

 

 チカはナナハがどれだけ自分達のことを姉と呼ぶことに、家族になることに苦悩していたのかを知っている。

 

 『転生者』であることを明かし、心の中の不安をさらけ出してくれた時の姿は、今でもチカの記憶に新しい。

 

 互いに涙を流しながら、本当の家族になるために歩き始めたスタートであったからである。

 

 だからこそ、ベールのことを再び呼び捨てにしていなくなってしまったことが信じられないのだ。

 

「悪いんだけど、こちらの案件も急を要するものなんだ。すまないが、話を進めても構わないかい?」

 

「正直これ以上の厄介事は勘弁してほしいんだけど、起きてしまったことは仕方ないわね。2人には悪いんだけど、ベールとチカのことをよろしくお願いするわ」

 

「は、はい」

 

「わかりました。まずは、ベール様を椅子に座らせてあげましょう。チカもついて来て」

 

「っ、わかったわ」

 

 部屋の奥で事の成り行きを静かに見ていたケイであったが、事態の根が思っていたよりも深いと判断し、呼び出しだした理由を話すべく一歩前に出て声をかけた。

 

 奥にいるミナも硬い表情をしているのを見て、ノワールは5pb.とケイブにベールとチカのことを任せると、ケイに続きを促すように視線を向けた。

 

 一方、2人は部屋の隅の方に移動して支えていたベールを椅子に座らせると、チカに詳しいことを説明し始めるのであった。

 

「さて、そちらも大変だったみたいだけど、こっちも大変な事態になっているんだ」

 

「皆さんがギャザリング城に行っている間に、ゲイムギョウ界に各地で様々なモンスター達が活発な活動を開始したんです」

 

「……それってやっぱり、アカリちゃんの欠片のせいなの?」

 

 状況を説明し始める2人に、ネプテューヌは眉を八の字にして尋ねた。

 

 ギャザリング城にいた時に聞いた話では、本来ならその大陸に生息していないはずのモンスター達が暴れているらしいことはわかっていた。

 

 ネプテューヌ達はよく似た事例に遭遇しており、その原因が女神の卵の欠片であることも知っていた。

 

 そうなれば、今回の事態も女神の卵の欠片が関係しているのかと疑っていたのである。

 

「ああ。僕達の調査では、極めて高い可能性で女神の卵の欠片が関係しているとわかっている」

 

「……随分とおかしな言い方ね。それじゃ、まるで最初から欠片が関係しているってことがわかっていたみたいじゃない」

 

「そうだね。まずは実際に観てもらおう。モニターの方を観て欲しい」

 

 眉をひそめるアイエフの質問に答えるため、ケイはモニターのとある映像を流し始めた。

 

 全員が固唾をのんでモニターに集中していると、そこには……

 

〔あなたはノワルンを誘き寄せるための餌よ。さあ、泣き喚いてノワルンを呼びなさい〕

 

〔た、助けて、ノワルン!?〕

 

〔……どうやら来ないみたいね。なら、あなたに用はないわ。ここで死……〕

 

〔待ちなさい!!〕

 

 ……尻もちをついている夢人に向かって刀剣の切っ先を向けている『変身』したネプテューヌと、『変身』して白くなった髪を2つに縛って全体的にピンク色の大きめのリボンが腰の辺りについているフリフリのワンピースを着たノワールがピンク色のキラキラ光るバトンをクルクルと回しながら決めポーズを取っている映像が流れだしたのであった。

 

「な、なななななな何を流しているのよ!?」

 

 ノワールは顔を真っ赤にさせて叫び出した。

 

 それも当然であろう。

 

 ケイ達の様子から、今回の事態に対する考えの根拠が映し出されるのだと思っていたのだが、実際に流れたのはワンダーが撮影していた魔法女神☆ノワルンであったのだから。

 

 予想外の映像にモニターを注目していたネプギア達は言葉も忘れて呆然としてしまう。

 

「プッ、アハハハハハハ! ちょ、ちょっとやめてよ! ノワルンを流すんだったら最初に言ってくれないと、腹筋に力を入れないといけないんだから!」

 

「こ、これは……ぷっ! な、何とも愉快……じゃなかった、面白いことをしてたのね」

 

「好きでやったわけじゃないわよ!? ってか、ネプテューヌは笑うな!? あなたが原因でしょ!?」

 

 大笑いするネプテューヌと頬を引きつらせてにやにやしながら自分を見つめてくるブランに、ノワールはさらに顔を赤くさせた。

 

 ノワールにとって、ノワルンになったことは不可抗力であり、すべての原因はネプテューヌが栄養剤と偽ってB.H.C.を飲ませたことである。

 

〔……わかったわ。私があなたを止めてみせる。できるじゃない!! やるんだ!! 私がゲイムギョウ界も、ネプちゃんも救ってみせる!!〕

 

「もうやめてえええ!? それ以上流さないで!?」

 

 止まることなく流れる映像に、ついにノワールの羞恥心は限界を迎えてしまい、その場で頭を抱えてうずくまってしまった。

 

 だが、ケイは映像を止める素振りを見せることなくモニターを眺め続けていた。

 

 その表情は硬いままであり、目を鋭く細めていた。

 

「ノワール、悪いんだけど、ちゃんと見ていて欲しい。もうすぐ例のシーンに……」

 

〔ねぷっ!? ど、どうして!?〕

 

〔え!? なんで『変身』が!?〕

 

「ここだ」

 

 ノワールに注意しながらも、モニターから視線を外さなかったケイがとあるシーンで映像を一時停止させた。

 

 そのシーンは、ネプテューヌとノワールの『変身』が突然解けてしまった場面であった。

 

「今から少しだけ巻き戻すから、画面の端に映っている植物に注目しておいて欲しい」

 

 そう言うと、ケイは映像を少しだけ巻き戻して2人の『変身』が解ける前のシーンで再び一時停止をかけた。

 

 そこからコマ送りのように映像を流していく。

 

 すると、注目するように言われていた植物に変化が訪れた。

 

「……あれ、映像が差し替わった?」

 

「いいや、僕は映像に一切加工を入れていない。事実として、この変化は起こったことなんだ」

 

「……嘘」

 

 ネプテューヌ達は自分の目を疑ってしまった。

 

 画面の端、注意していなければ気付かない変化だろうが、明らかに変化したことを目撃したからである。

 

 ……黄色い花びらを咲かせていた花が、赤い花に変わっていたのだ。

 

「……どう言うこと、これ?」

 

「観ての通りだよ。女神の卵の欠片が女神の『変身』に影響を与えるとわかった以上、どう言うメカニズムをしているのかを解明する必要があった。ちょうどよくネプテューヌさんがノワールの貴重な姿を収めた映像を提供してくれたことだし、映像証拠として何度も視聴させて貰っていたんだ。2人の『変身』が解けてしまったことに注意がいきそうだったけど、ちょっとした違和感を感じてね。何度も観ているうちに、違和感の正体がこの植物の変化だと気付くことができたんだ」

 

「よくそんなことを発見できたですの。こんな変化、普通わからないですの」

 

「疲れていたんだよ。見つけた時は何度も視聴を繰り返して目も疲れていたし、恥ずかしい話ではあるけど眠りそうになっていたからね」

 

 がすとの質問にケイは苦笑しながら答えた。

 

 事実、ケイが植物の変化に気付けたのは偶然であった。

 

 解析をするために何度も視聴していたため、集中力が切れかかり、ボーっと全体像を眺めた時に違和感を感じたのである。

 

 その引っかかりを覚えたケイは最初自分が寝ぼけていたせいかとも考えたが、少しでも手掛かりを探すためにスローでの視聴をした結果、植物が変化していることにようやく気付くことができたのである。

 

「植物の変化がわかった僕は調査隊を編成し、現地を調査させたんだ。だが、生憎と映像にある植物は、多分ノワール達の戦闘に巻き込まれて散ってしまっていた。だが、無駄骨に終わりそうだった調査で、新しいことが判明したんだ」

 

「新しいこと?」

 

「植物を探すために下に目を向けていたことが功を奏してくれた。とある地点を境目として、地面が若干だけど湿り気を持つ土に変わっていたんだよ」

 

「湿り気? 別にそれはおかしいことじゃないんじゃないの? あの後に雨だって降ってたし、たまたま湿っていただけなんじゃ……」

 

「いや、そうじゃないんだよ。乾き具合に歴然とした差が出ていたんだよ」

 

「……つまり、土の材質が変化した?」

 

「その通り。水の浸透に変化が現れるぐらいに、明らかな形で地面の土が変化していたんだよ」

 

 普通に考えれば、ケイの言葉は信じられるものではない。

 

 もし映像の場所が開発予定地など、整地される予定があった場所なら話は別だが、撮影した場所にはそんな予定などなかった。

 

 むしろ、B.H.C.を飲んだノワールの奇行を国民になるべく見せないようにするために、撮影した場所は普段なら誰も訪れることがない森林を選んでいた。

 

 移動するために衆目にさらされるのは仕方ないとして、さすがに演技風景まで見られてしまえば、国のシェアにも影響を与えてしまう可能性があったからである。

 

 ……実際、ユニ達が撮影だと誤魔化したため、シェアの低下には繋がっていないが、ネットの方では画像が何件かアップされていたりもする。

 

 普段の様子とはかけ離れていたせいで、コラージュ画像と言うのが大多数の認識であるが、一部の者達からは絶大な支持を受けており、シェアの回復に貢献していた。

 

「そこで同じように欠片が発動したルウィーやリーンボックスでも同様のことが起こっているのかを調査するよう、僕達教祖で協力して調査をしていたんだ」

 

「そこでケイさんの報告を受けて、以前ブランさんがおっしゃっていた温泉宿近くの崖を再度調査した結果、崖の近くの土と林の土の材質が異なることがわかったんです」

 

「わたしとネプギアちゃん、日本一さんが落ちた崖?」

 

 ケイの言葉を引き継ぐ形で、ミナが2度目に女神の卵の欠片が発動した時の報告を始めた。

 

 実際に崩れた崖は、ネプギア達3人が暴れたところで崩れるはずがなかったのである。

 

 成人男性ならともかく、正確な数字はわからないが3人の体重を合わせても100キログラムには届かないはずだ。

 

 最初の調査では、崖に亀裂などが入っていて脆くなっていたのではないかと言う結論であった。

 

 ネプギア達自身も夜だったせいで、何故崖が崩れたのかがわからなかったため、それ以上の調査を行ってはいなかったのである。

 

 しかし、ケイから連絡を受けたミナは再び調査を開始し、指摘されていた土の変化を見つけることができたのである。

 

「リゾートアイラン島の件で荒れ果てた砂浜が元に戻ったと言う話を聞いて、僕はとある仮説を立てることができた。『再誕』の女神がどうやってゲイムギョウ界の修復を行うのか……ずばり、情報の上書きをするようなものではないかとね」

 

「上書き……それって、“ペースト”のことよね?」

 

「“ペースト”、貼り付けか。言い得て妙かもね。ゲイムキャラ達の話では、『再誕』の女神はこのゲイムギョウ界のオリジナルに近い世界の情報を受け取り、バグによって歪んでしまった世界を修復する。その際に、そのバグによって歪んでしまった部分を上書きするように情報を貼り付けて、正常な形にする……はっきり言えば、力技以外の何でもない方法だね」

 

「実際には少し違う。『再誕』の女神は受け取った情報を最適化し、歪んでしまった部分だけを“カット”した後、違和感なくその部分に修正情報を“ペースト”する……これが本来の『再誕』の女神がゲイムギョウ界を修復するルーチンワークだった」

 

 皮肉っぽく口にするケイに、マジェコンヌは訂正を行う。

 

「欠片には、あくまで情報しか入っていなかったのだろう。砕け散った欠片はそれぞれ入っていた情報を再生することしかできなかった結果、おおざっぱな“ペースト”しかできなかったのだ」

 

「……なるほど。つまりは、情報を最適化するプログラムが欠如していたため、今のような状況になっているんだね」

 

「ああ。最適化するプログラムが2つに別れてしまったことすら、計画外の事態なんだ。欠片自体が何らかの衝撃を受けて発動してしまったのだろう」

 

 意味ありげにネプギアに抱かれているアカリの視線を向けながら、マジェコンヌはケイの言葉を肯定した。

 

 情報を最適化するプログラムとは、当然アカリとフィーナのことである。

 

 言わば、コンピューターなどの中枢演算処理装置、CPUである。

 

 その部分を介さない限り、情報は最適化されることはない。

 

 よって、散らばってしまった欠片は内包している情報を素の状態で提示することしかできない。

 

 その結果がケイやミナの調査で判明した、土地自体の上書きである。

 

「しっつもーん! どうしてそれで『変身』が解けちゃったの?」

 

「簡単な話、シェアエナジーが遮断されてしまったからだ。“ペースト”する際に、その土地のシェアだけの空間が出来上がったせいだろう」

 

 土地の上書きと言っても、すべての物が上書きされるわけではない。

 

 そんなことをしてしまえば、欠片が発動した際にその場にいた夢人達は消えてしまっていただろう。

 

 しかし、実際はそんなことは起こっておらず、ネプテューヌ達女神の『変身』が解けるだけであった。

 

 これは情報が“ペースト”される時、一種の閉鎖空間が発生するからである。

 

 “ペースト”される情報には、他の国の情報など一切含まれていないため、純度100パーセントのシェアが広がる空間が出来上がるのだ。

 

 そのため女神はもちろん、シェアエナジーに敏感であるモンスターにも影響が出てくる。

 

 マジェコンシェアによって汚染状態になるのと同じように、無理やり他の国のシェアによってその姿を変えられてしまうのである。

 

 これも一種の最適化とも言えるだろう。

 

 モンスターは生物であるために適応と言った方がいいのかもしれないが、その姿形全てが変化してしまうこの変化は昆虫の変態の方が近いのかもしれない。

 

 これが欠片が発動した際に、『変身』が解除される理由と本来いるはずのモンスターがいる理由である。

 

「さて、長々と説明してしまったが、本題はこれからさ……君達がギャザリング城に行っている間に、各地で本来は生息するはずがないモンスター達が暴れ出すと言う連絡が来たんだ。ただそれだけなら、防衛隊の職員達やギルドの冒険者達でも対処できたんだ。だが、厄介なことにモンスター達に加えてキラーマシンも暴れていると言う報告が来たんだ」

 

「キラーマシンが!? つまり、フィーナがこの事態を起こしたって言うの!?」

 

「断定はできないけど、少なくとも僕はこの事態は報告にあったもう1人の『再誕』の女神が関与していると考えている」

 

 眉間にしわを寄せながら話すケイの言葉を、ネプギア達は否定することができない。

 

 キラーマシンを従えているのはフィーナであり、暴れているモンスターは欠片の影響を受けたモンスターなのだ。

 

 むしろ、騒動を起こした張本人で間違いないと思っている。

 

「でも、どうしてキラーマシンも暴れてるんだろう?」

 

「自分がやってますってアピールしているようなものですの」

 

「アピール……まさか!?」

 

 キラーマシンをモンスター達と暴れさせている意味を考えていると、ノワールは何かを思いついたようで驚愕に目を見開かせた。

 

「フィーナの狙いは私達のシェアの低下よ!?」

 

「え、え、え、どう言うこと?」

 

「つまり、女神のシェアを低下させてマジェコンシェアを上昇させるのが狙いってわけね」

 

 戸惑うネプテューヌをよそに、ブランはノワールが言いたいことを理解し、眉をひそめた。

 

 モンスターが暴れるだけで国民は不安にかられ、女神へのシェアは低下してしまう原因に繋がってしまう。

 

 それに加え、キラーマシンが暴れることで被害は広がり、余計に不安を煽る事態に陥ってしまうだろう。

 

 不安は負の思念の集合体である犯罪神の力に代わり、必然的にフィーナの力にも変わる。

 

「だから、君達には暴れているキラーマシンとモンスター達の対処を……ん、ちょっと失礼」

 

「うん? 私の方にも……もしもし?」

 

 ケイが呼び出した大本の理由、キラーマシンとモンスター達の対処を頼もうとした時、2つの電子音が鳴り響いた。

 

 1つはケイの物で、もう1つはアイエフの物である。

 

 2人は次第に顔をしかめ始め、通信を切る時には眉間に深いしわが刻まれてしまった。

 

「……悪い知らせだ。ラステイションとリーンボックスにそれぞれキラーマシンじゃない機械の体をした敵が現れたらしい」

 

「機械の体の敵? あいちゃんの方は?」

 

「……こっちはリーンボックスの女神候補生、ナナハが鬼気迫る勢いでキラーマシンやモンスター達を倒しながらリーンボックス方面に向かっているって連絡が来たわ」

 

「ナナハが!?」

 

 アイエフの言葉に、部屋の隅の方で座っていたベールが驚いて勢いよく立ちあがった。

 

 アイエフは決して大きな声で言ったわけではないのに、ベールが聞こえた理由はそれだけナナハのことを考えていたためであろう。

 

「アイツ、何を考えてんのよ」

 

「ナナハちゃん……」

 

「はいはい、アンタらまで暗くなってんじゃないわよ……問題は山積みだけど、どれも解決しなくちゃいけないことなんだから」

 

 ユニとネプギアがナナハの行動に顔を辛そうに歪めて俯くと、アイエフが2人を励ますように明るく声をかけた。

 

 アイエフもナナハのことが心配でないわけがない。

 

 だが、現実的な問題として山積みになっている事態への対処を優先させなければいけないとも思っているのである。

 

「そうね。まず決まっているのは、リーンボックスにはベールが行くってことね」

 

「……え、わたくし、ですか?」

 

「何ボーっとしてんのよ。当たり前じゃない」

 

「そうそう、リーンボックスはベールの国なんだし、何よりベールはナナハちゃんのお姉ちゃんでしょ?」

 

「っ!?」

 

 ブランの決定事項だと言わんばかりの言葉に、ベールは目を瞬かせて呆然と立ち尽くしてしまった。

 

 そんな様子をノワールはジト目で、ネプテューヌはにこにこと笑いながらブランの意見に賛成していく。

 

「で、ですけど、わたくしは、もう……」

 

「逃げないでください、ベールお姉さま!!」

 

「っ、チカ……」

 

 弱気になりジワリと再び涙が浮かび始めたベールの両肩を、チカは強く掴んだ。

 

 その瞳は潤んでおり、ベール同様今にも泣きだしそうな顔である。

 

「ベールお姉さまはいつも凛々しくて頼もしい、アタクシとナナハの自慢の姉です!! それなのに、どうしてナナハが大変な時に動こうとしないんですか!!」

 

「だって、ナナハは、もうわたくしのことを、姉とは……」

 

「ベールお姉さまはそれでいいって言うのですか!? ナナハがアタクシ達の妹じゃなくなってもいいって言うのですか!? ……アタクシはそんなの嫌です!!」

 

 ボロボロと涙をこぼしながら訴えるチカは、ベールの両肩を掴んでいた手を離して涙を拭うと、決意を込めた瞳で睨むように宣言する。

 

「ベールお姉さまが行かないのなら、アタクシがナナハの所に向かいます!! アタクシだって、ナナハの姉で家族なんですから!!」

 

「待ちなさい、チカ。あなたが行ったところで何になるって言うの?」

 

「離しなさいよ!? アタクシだって少しは戦えるのよ!?」

 

「む、無茶言わないでくださいよ!?」

 

 宣言すると同時に部屋を飛び出そうとするチカをケイブは羽交い絞めして押さえた。

 

 それでも必死に暴れて拘束を解こうとするチカを、前から5pb.も押さえだす。

 

「やれやれ、君が行ったところでナナハさんの足手まといにしかならないだろうに」

 

「うるさいわね!! それでも行くのよ!! 今苦しんでいるナナハを放っておけるわけないでしょ!!」

 

「……チカ」

 

「行ってください、ベールさん!!」

 

 ケイは呆れたように暴れるチカを見つめるのだが、彼女は一向に大人しくなる気配を見せない。

 

 そんなチカを見ても一歩も動くことができず、立ち尽くしているだけのベールにユニは詰め寄った。

 

「前にラステイションに泊まった時、アイツすごく嬉しそうにベールさんとチカさんのことをアタシに話してくれたんです!!」

 

「……嘘、ですわ」

 

「嘘じゃありません!! 今のアイツはちょっと混乱して周りが見えなくなっているだけなんです!! 本当はベールさんやチカさんと姉妹でいたい、家族でいたいと思っているはずです!!」

 

「ユニちゃん……わたくし……わたくし……」

 

 ユニの言葉を聞き、ベールの目に浮かびあがっていた涙は静かに流れだした。

 

「もう、いつまでもめそめそしているなんてベールらしくないよ!!」

 

「あなたはいつもひょうひょうとして余裕そうにしていた方が似合ってるわ」

 

「いつまでもぐずぐず言ってないで、さっさと捕まえて確かめてきなさいよ」

 

「……ネプテューヌ、ブラン、ノワール」

 

「ナナハちゃん、きっと待ってる(にこっ)」

 

「ベールさんもナナハちゃんのことが好きなら、逃げないでちゃんと話さなきゃ」

 

「……ロムちゃん、ラムちゃんも」

 

 続けられる励ましの言葉に、ベールの瞳に光が灯り始める。

 

 泣いて濁っていた輝きから、普段の力強い輝きへと。

 

 そんな中、ネプギアはネプテューヌ達から一歩前に出ると、ベールを真っ直ぐに見つめて口を開き始める。

 

「私が変なことを言っちゃったのが原因だってわかってます。だから、私も一緒に行きます!!」

 

「……ネプギアちゃん」

 

「お願いします!! 私と一緒にナナハちゃんを助けるためにリーンボックスに行ってください!! お願いします!!」

 

 深く頭を下げて頼みこんでくるネプギアを見て、ベールは1度目を閉じて息を吐いた。

 

 そして、目を開けた時には瞳にいつも通りの輝きを宿し、口元に笑みを浮かべながらネプギアの肩に手を置いた。

 

「ありがとうございます。その気持ちだけで充分ですわ」

 

「でも……」

 

「ナナハのことは姉であるわたくしにお任せくださいまし。ネプギアちゃんとアカリちゃんには、他にやらなければいけないことがありますわ」

 

 悔しそうな表情で顔を上げるネプギアに、ベールはほほ笑みながら優しく諭すようにその頬に触れた。

 

 頬から手を離すと、ベールは感極まった表情で自分を見つめてくるチカに向き直り、ゆっくりと近づいていく。

 

「ごめんなさい、チカ。少々弱気になっていましたわ」

 

「いいえ、いいんです。ベールお姉さまが元に戻ってくれたのなら、アタクシはそれだけで充分なんです」

 

「もう、泣くのはナナハを連れて帰ってきてからですわ」

 

 涙を流すチカに、ベールは笑みを深めて言葉を返す。

 

 押さえていた5pb.とケイブも、晴れやかな顔になったベールに安堵し、自然と頬を緩める。

 

「それでは皆さん、わたくしは一足先に失礼させていただきますわ」

 

「行ってらっしゃい! お土産はナナハちゃんでよろしくね!」

 

「期待しているわ」

 

「ここまでされて失敗しました、なーんてことになったら許してあげないんだからね」

 

「ふふ、わかってますわ。それでは、行って参りますわ」

 

 穏やかにほほ笑みながら振り返るベールの背中を、冗談混じりのネプテューヌ達の言葉が後押しをする。

 

 その意味を理解しているベールはただ笑って返事をし、部屋を飛び出して行こうとする。

 

 ナナハが目指すリーンボックスに向かうために。

 

「ベールさん、ナナハちゃんのことよろしくお願いします」

 

「ええ、もちろんですわ。これからもナナハと友達でいてくださいね」

 

「はいっ!」

 

 ベールの後ろ姿に、ネプギアは頭を下げて頼みこんだ。

 

 無責任に思われてしまうが、ネプギアには頭を下げて頼みこむことしかできない。

 

 食い下がったところで自分を連れて行ってもらえないことがわかったからである。

 

 だから、ベールが無事にナナハを連れて帰ってくることを祈ってお願いしたのである。

 

 ベールは自分の言葉に力強く返事をしたネプギアに顔を綻ばせると、今度は立ち止まることなく部屋を飛び出して行った。

 

「じゃあ、次は……」

 

「その前に聞いておきたいことがある。覚悟は決まったか?」

 

「……はい」

 

 アイエフが次に誰が何をするかを決めようとした時、マジェコンヌが口をはさみ、ネプギアに声をかけた。

 

 ネプギアはベールが出て行った扉を見つめていたが、力強く頷いて返事をした。

 

「私は夢人さんといーすんさんを助けるために、パープルディスクの中身を観ます。この中に2人を助けるための何かがあるんですよね?」

 

「ああ、もちろんだ。私もウラヌスが何を伝えたかったのか知っている……だが、これだけは言っておく」

 

「何ですか?」

 

「……決して呑まれるな。貴様が知ろうとしている物は、毒にもなるものだ」

 

「……わかりました。アカリちゃん、もう1度お願い」

 

「……うん」

 

 真剣な顔でマジェコンヌが忠告してくるを見て、ネプギアは息をのんだ。

 

 だが、やめることはできない。

 

 ネプギアは夢人とイストワ―ルを助ける方法が見つかると信じている。

 

 不安を感じながらもネプギアはアカリの力を借りると、再びパープルディスクの中身を観るために目を閉じた。

 

 ウラヌスが、マジェコンヌが伝えようとしていたことを知るために……




と言う訳で、今回はここまで!
いやあ、ようやく次回から戦闘がはじまりそうですよ。
皆さんお待たせいたしました。
長々と会話やら何やらで動きが見せられなくてすいませんでした。
それでは、 次回 「その名の如く」 をお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。