超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
そろそろゴールデンウィーク、執筆に回せる時間が増えそうで嬉しいです。
それでは、 塗りつぶされる大地 はじまります


塗りつぶされる大地

「ナナ……ハ……」

 

「っ、ベール!?」

 

「っ、ベール様!?」

 

 ナナハが部屋を飛び出した後、ベールはその場で力なく膝をついてしまった。

 

 ナナハの背中に向かって伸ばしていた手は垂れさがり、項垂れてしまったベールにネプテューヌ達は慌てて近寄る。

 

「……わたくしのこと……ベールって……」

 

「ベール様、しっかりしてください!?」

 

「ベール姉さんじゃない……もうわたくしは……」

 

「ベール様!?」

 

 正面から顔を覗き込むように膝立ちになって5pb.とケイブが肩に手を乗せて声をかけるのだが、ベールはへたり込んだまま俯くだけである。

 

 床には零れ落ちた涙の染みがぽつぽつとでき始め、ベールは先ほどナナハに言われたことを反芻する。

 

 ベール姉さんからベールに戻ってしまった呼び方。

 

 事実上の絶縁を言い渡されたようなものであった。

 

 ギョウカイ墓場から救出されて以降、本当の家族になるために苦心していたベールにとって、その言葉は心に深い傷を負わせた。

 

 自分を心配する声も聞こえないくらいに深い悲しみに囚われるベールを離れた位置から見ていたネプギアは呆然と立ち尽くして口を開く。

 

「私が……私が場違いなことを言ったから……」

 

「ネプギア、それは違……」

 

「ネプギアっ!!」

 

「っ!?」

 

 後悔を滲ませた声色でつぶやくネプギアを、ネプテューヌが宥めようとするよりも早く動いた人物がいた。

 

 その人物はネプギアの頬を張ると、キッと睨みつける。

 

「アンタ、それ以上言うんじゃないわよ」

 

「……ユニ……ちゃん……」

 

 ネプギアは叩かれて赤くなった頬を押さえながら、自分を睨むユニを目を大きく開かせて見つめる。

 

「ナナハのことで責任を感じる必要はないわ。夢人の気持ちだって、こんな形じゃなくてもアンタが知る日が来るってことくらい覚悟してたんだから」

 

「でも……」

 

「いいから聞きなさい!! ……アタシも、本当なら、こんなの、嫌なのよ……っ」

 

 反論しようとするネプギアに対して、大声を出してしまったユニはもう感情の抑えができなくなってしまった。

 

 鋭く睨んでいたはずの目からは、ボロボロと涙が零れだし、声を詰まらせながらもネプギアから目をそらさずに言葉を続けていく。

 

「でも、そんなの、覚悟の内、だったのよ。アタシも、ナナハも、ロムや、ラムも……夢人が、アンタのことを、好きだって、わかっていても、好きになっちゃったのよ」

 

「ユニちゃん……」

 

「だから、アンタも、後悔するんじゃないわよ……ナナハのことを、言い訳にして、自分の気持ちを、否定するんじゃないわよ……アンタらも、言いたいこと、言っちゃいなさい」

 

「……ネプギアちゃん(ぎゅっ)」

 

「……ネプギア」

 

「ロムちゃん……ラムちゃん……」

 

 ユニは乱暴に目元を腕で拭うと、後ろで自分同様に何かを言いたいことがあるであろうロムとラムに声をかけ、ネプギアから一歩離れた。

 

 その際に、片手で抱いていたアカリをネプギアから引き離し、自分の胸に強く抱き寄せた。

 

 この部屋に来てからずっと怯えたように震えていたアカリは抵抗する素振りを見せず、むしろ自分からユニにしがみつくように胸に顔をうずめる。

 

 離れたユニとアカリに代わり、2人はネプギアに近づくと、ロムが下がっていた手を、ラムが頬に当てていた手を無理やり下ろして強く握りしめた。

 

「ネプギアちゃんは、わたしが前にラムちゃんと喧嘩しちゃった時に言ってくれたよね。知らなくても、何もしない言い訳にならないって……ネプギアちゃんは、夢人お兄ちゃんの気持ちを知って、嫌いになった?」

 

「……ううん」

 

 ネプギアはロムの質問に俯いてしまったが、首を振って小声で否定した。

 

 小声であっても傍にいたロムにはしっかり聞こえており、答えを聞いた彼女は嬉しそうに頬を緩めようとするのだが、その瞳には段々と涙が浮かび上がって来て唇が震えだす。

 

「よかった。わたしは知らなくて、ラムちゃんに酷いこと言ったけど、ネプギアちゃんは、夢人お兄ちゃんの気持ちが知れて……(うるうる)」

 

「もういいわよ、ロムちゃん。後は、わたしが言うから……わたし、本当はネプギアには夢人のことを好きにならないで欲しかったの」

 

 決壊寸前まで瞳に涙を溜めながらも笑みを浮かべて話そうとするロムを止め、ラムは俯いてしまったネプギアの顔を見上げて自分の心情を吐露していく。

 

「わたしの方が、絶対に先に夢人のことを好きになったのに、後から好きになったネプギアが、全部持っていっちゃう。わたしのこの気持ちを、なかったことにされちゃうって、思ってたの……でもね、それだけじゃないの。今はロムちゃんと、同じで、よかったっとも、思えるの」

 

「ラムちゃん(ぎゅっ)」

 

「ありがとう、ロムちゃん」

 

 ロムは嗚咽を漏らすラムの手を握り、ネプギアを含めた3人で輪のような形で向かい合う。

 

 服の二の腕辺りで顔を拭くと、ラムはネプギアに向き直り、鼻をすすってから再び口を開く。

 

「嫌なのに、よかったって……よくわかんないけど、夢人は、夢人だったって……わたしが、好きになった、夢人は、間違いじゃなかったんだって、わかって……だから……」

 

「泣きながら馬鹿なこと言おうとしなくてもいいのよ……って、何アンタまで泣いてるのよ?」

 

「あっ……」

 

 泣きじゃくりながらも自分の気持ちを伝えようとするラムを、後ろから3人を見ていたユニが止めた。

 

 涙はすでに止まっており、目元は赤いが、ユニはどことなくスッキリしたような顔で柔らかく笑みを浮かべている。

 

 そんなユニに指摘されたことで、ネプギアはようやく自分が涙を流していることに気付いた。

 

 自覚すると同時に、静かに流れていただけだった涙がとめどなく溢れて来てネプギアの顔を濡らし始める。

 

「私……皆の……気持ち……全然……知らなくて……自分の……ことばっかり……」

 

「言えるわけないでしょ。アンタと夢人が両思いだったなんて……気付いてない時だって、あんなにいちゃいちゃしてる姿を見せられて、どれだけアタシ達がやきもきしたと思ってんのよ……まあ、知ったところでアンタがすることなんてたかが知れてるけどね」

 

「……ふぇ?」

 

 涙を流しながら3人が今までどんな思いでいたのかを考えると、ネプギアは胸が張り裂けそうになってしまう。

 

 ユニとの決闘とナナハとの問答、仲違しそうになった問題の根幹は自分にあったのだと思ったからである。

 

 皮肉っぽく口を開くユニであったが、最後にはにやりと口角を上げて笑みを浮かべる。

 

 一瞬、何を言われたのかわからなかったネプギアはポカンと口を開けてユニを呆然と見つめる。

 

「どうせアンタのことだから、いろいろと理由を考えて、そんなことあるわけない! って、勝手に思い込んで自分から行動するわけないものね」

 

「そ、そんなこと……」

 

「あるわよ。アンタ、他人のことに関しては妙な行動力があるくせに、自分のことに関してはまるで駄目なんだから」

 

「だ、駄目って、それはいくらなんでも……」

 

「いいえ、駄目駄目よ。アタシと決闘した時、最後まで自分の気持ちを隠して逃げちゃったじゃない」

 

「うっ」

 

 勝ち誇ったように笑いながら紡がれるユニの言葉に、ネプギアはショックを受けて反論しようとするのだが、全てを言いきる前に潰されてしまい、うめくことしかできない。

 

 ネプギアのそんな表情に満足そうに頷きながら、ユニは視線をロムに向けて話を振る。

 

「ロムも何か心当たりがあるんじゃない?」

 

「……温泉の時、わたしと夢人お兄ちゃんが恋人同士だって勘違いして逃げちゃった……ラムちゃんは?」

 

「え、わたしも言うの? ……え、えっと、そうだ! わたし達が夢人に協力して風林火山の特訓をしてた時、ずっと1人で部屋に閉じこもってたこと……でいいんだよね?」

 

「ええ、そうよ……加えて、お姉ちゃん達をギョウカイ墓場から助けだした後も、夢人がいなくなったのは自分のせいだって決めつけて勝手に1人で落ち込んでたわよね」

 

「……う、ううぅぅぅ」

 

 話を振られたロムは少し考えるように俯いたが、すぐに顔を上げて迷うことなく答えると、ラムへと会話のバトンを渡した。

 

 ラムは自分に振られたことと急な話題に戸惑ってしまい、恐る恐るだがユニの本意に沿う答えを自分なりに考えて口にした。

 

 確認されたユニはラムを安心させるようにほほ笑みながら頷くと、ネプギアに向き直り、トドメと言わんばかりにさらに畳み掛けた。

 

 まるで3人から責められているように感じるネプギアは、シュンと俯いて何も言い返すことができない。

 

 3人が言っていたことは、実際に自分がしたことばかりなので、否定することができないのだ。

 

「アンタって、いっつも夢人に関することは受け身だったものね。両思いだってわかっても、自分から告白することなんてできなかったでしょ?」

 

「あうっ」

 

 困ったように笑いながらこぼされるユニの言葉に、ネプギアは心当たりがあった。

 

 温泉に誘う時やリゾートアイラン島で日焼け止めを塗ってもらうようにお願いするだけでもいっぱいいっぱいだったのだ。

 

 それが告白になってしまえば、いくら夢人の気持ちを知っていようとも、実行する前に頭の中が真っ白になってしまい、上手く言葉も発することができなくなってしまうのではないかと言う、嫌な予想図がネプギアには思い浮かんでいる。

 

「まあ、受け身ってことに関してはアタシ達も同じだけどね……でも、ナナハは違ったわ。アイツはただ1人、夢人に関して受け身にならず、積極的に攻めていったわ。だから、アタシ達の何倍もアンタがこんな形で夢人の気持ちを知ったことが認められなかったのよ」

 

『多分、それだけじゃないと思うぜ』

 

 顔を引き締めてネプギアを見つめながら、ナナハの気持ちを推察するユニの言葉に付け加えるように、シンが口をはさむ。

 

『あの子はきっと真っ直ぐ過ぎたんだよ。真っ直ぐだからこそ、俺達が計画したような未来があったってことを真に受けて、自分の存在意義に悩んじまったのさ。真面目で真っ直ぐな子ほど陥りやすい、思春期特有の青臭くて甘酸っぱいような感情だろうな』

 

「……諸悪の根源が何わかったような口を聞いてんのよ?」

 

『ふふん、俺もそんな時代があったからな。ほら、俺って真面目ってオーラがにじみ出ているだろ?』

 

「そんなの全然しないわよ! ふざけたことばっかり言ってるじゃない!」

 

『ガビーン!? よ、幼女には俺の紳士力がわからないって言うのか!?』

 

「幼女じゃない!!」

 

 ユニは会話に割り込んだだけでなく、何でもわかっているように話すシンを牽制するように睨むが、それはまったく効果がなかった。

 

 ラムも怒鳴りながら睨むのだが、逆効果になってしまい、シンはさらにふざけたことを言ってのける。

 

「……わたし、あなたのこと、嫌い(びしっ)」

 

『たはー、まさかのストレートなお言葉。まあ、俺もお前らに好かれようとは思ってないからいいんだけどさ』

 

「結局、アンタ達はアタシ達に何を望んでいるの? まさか、今更アンタ達の計画通りにアタシ達が動くとでも思っているわけ?」

 

『いいや、そんな都合のいいことなんて考えてないさ。1度回り始めた針は逆回転をすることはない。時間ってのは一方にしか進んじゃいけないのさ』

 

 ロムなりの最大限の罵倒もシンはまったく堪えた様子を見せることなく、額に手を当てるような仕草をして受け流した。

 

 だが、続けられたユニの疑問の声に、シンはふざけた雰囲気から一変し、自嘲的な響きを含む声を漏らす。

 

『俺達がお前達に望むことは何一つない。このままいけば形はどうあれ、フィーナはゲハバーンを使ってゲイムギョウ界を修復してくれる。かと言って、お前達がフィーナの救済を否定しても、俺達は別に構いやしない。代わりにお前達がゲイムギョウ界を救ってくれるのだろう?』

 

「そ、それはそうだけど……」

 

『だったら、俺としては何の問題もない。さて、俺もそろそろおねむの時間だから、ここらで……』

 

「ま、待ってください!」

 

 てっきり自分達の邪魔をするのかと思ったユニは、シンの言葉に拍子抜けしてしまった。

 

 フィーナにゲハバーンを渡したり、アカリを貶すようなことを言っていたので、自分達の味方じゃないってことはわかっていたが、まさかの何もしないと言うことに呆れもしてしまう。

 

 そして、また本当か嘘かもわからないふざけたことを言いながら背を向けようとするシンを、ネプギアは慌てたように呼び止めた。

 

「ゲハバーンでゲイムギョウ界を修復するってどう言うことですか? それに、初代勇者さまは何がしたいんですか?」

 

『……まあ、それぐらいならいいか。ゲハバーンは“カット”の力を強化する能力があるって言ったよな?』

 

「は、はい。その力で『転生者』から『特典』を抜き取るって」

 

『そう。だけど、実は『特典』って言う情報を抜き取ること以外にも、ゲハバーンには役割があるんだよ』

 

「それっていったい……」

 

「あなた達、悠長に話している暇がなくなったわ!!」

 

 ネプギアがさらに問おうとした時、慌てた様子でノワールが言葉を遮った。

 

 突然のことにきょとんとするネプギア達の視線が自分に集まったとわかったノワールは、険しい表情で事情を説明しだす。

 

「さっきケイ達教祖から連絡があったわ。ゲイムギョウ界の各地で、本来その大陸にいるはずのないモンスター達が暴れ回っているって情報が来たわ」

 

「それって、まさかアカリの欠片が!?」

 

「……十中八九そうでしょうね。とりあえず、マジェコンヌの力でプラネテューヌの教会に向かうことになったわ。理由はわからないけど、ケイ達も皆そこにいるらしいから、詳しい話を聞いて早く対策を立てないと」

 

 ノワールの言葉を聞き、ネプギア達は周りを見渡した。

 

 会話に夢中になって周りが見えていなかったが、ネプテューヌとブランがケイブと5pb.に肩を貸してもらって歩くベールに呼びかけながらすでに出口の方に向かっている。

 

 ベールはどうやらまだ調子を取り戻しておらず、顔を暗くしていた。

 

 それに続く形で、アイエフ達も連れ添って歩いているのを見て、自分達も続こうとするネプギア達にシンがぼそりとつぶやく。

 

『どうやらフィーナはゲイムギョウ界の修復を始めたようだな』

 

「……どう言う意味ですか?」

 

『はてさて、フィーナはどっちを選ぶんだろうな。調和のとれた1枚の絵画なのか、それとも1つの完璧な物体か……どちらをこのゲイムギョウ界で描こうとするんだろうな』

 

「意味がわからないわよ。こっちは時間がないんだから、もっと簡潔に言いなさいよ」

 

『詳しくはマジェコンヌや教祖達も知っているはずだ。そのための調査もしていたはずだからな』

 

「ケイ達が?」

 

 小さくつぶやかれた言葉であっても、近くにいたネプギア達には聞こえていたためシンに尋ねるのだが、抽象的な言葉しか返ってこなかった。

 

 ここに来てからいいことが1つもないことや、一刻も早くプラネテューヌの教会に向かわなければならないことで、苛立ちを感じていたノワールは低い声でシンに説明を要求するのだが、意外な人物達のことを出され眉をひそめてしまう。

 

『後、ギアラスちゃんが聞いてきた質問の答えなんだけどな、俺はただ準備を整えているだけさ』

 

「準備?」

 

『そう、準備だ……ゲームのな』

 

「ゲーム、って何を……いない?」

 

 またふざけたことを言いだしたシンを問い詰めようとしたのだが、すでにその姿は消えてしまっていた。

 

 元々、透明なシルエットだったシンの姿はすでにどこにも見えない。

 

 最後まで後味の悪い邂逅になってしまったシンやウラヌスとの出会いは、ネプギア達にとって謎を深めるだけの結果となってしまった。

 

 判明したことよりも、新しい謎が出てきたことの方がネプギア達の頭の中に強く印象に残っているからだ。

 

 浮かび上がった疑問に答えるものはすでに消えてしまったため、ネプギア達は後ろ髪引かれる思いをしながらも、教祖達が待っているプラネテューヌ教会に向かうべく動きだす。

 

 ……何ひとつ事態を解決する方法を知ることなく、さらなる問題に直面してしまったことに、焦りを感じながら。




という訳で、今回はここまで!
今話はもう少し盛れるかと思いましたが、半端なところで区切れそうだったので、最近に比べるとちょっと短めです。
それでは、 次回 「救世の魔剣」 をお楽しみに!

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