超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
最近暑かったり寒かったりして頭が痛いです。
それでは、 存在理由 はじまります
私達はブランさんの質問に答えた人……多分、レイヴィスが言っていた初代勇者さまの思念体が口にした言葉に耳を疑ってしまった。
それが事実だとしたら、いい意味でも悪い意味でも私達の認識そのものがひっくり返ってしまう。
「あ、あの! 私も聞いてもいいですか?」
『おっ、今度はギアラスちゃんかい?』
「何で知ってるんですか!? ……って、そうじゃなくて、あなたは夢人さんの前の、初代勇者さまなんですよね?」
『おおっと、そう言えば自己紹介がまだだったな……俺の名前はシン。今代が2代目だから、初代勇者で間違いないぜ』
私の予想は外れてはいなかった。
やはり、目の前の透明な人型のシルエットは初代勇者さまで間違いないみたい。
……でも、何でギアラスのことを知っているの!?
あの事を知っているのは、あの時にリーンボックスにいた人達だけのはずなのに!?
「なら、どうして犯罪神なんかを作りだそうとしたのよ!!」
「それに犯罪神ってそこにいるマジェコンヌさんのことでしょ? それなのに同士とか作り出すとか意味がわからないわよ!!」
私が話題から逸れた疑問に頭を悩ませていると、ユニちゃんとラムちゃんが我慢しきれなかったみたいで強い口調で初代勇者さまに尋ねた。
2人の叫ぶような大きな声で冷静に戻ることができた私は、改めて初代勇者さまの言葉の意味を考えだした。
……多分、嘘は言ってないと思う。
私達に嘘をついたところで、初代勇者さまには何ひとつメリットがない。
だからこそ、その言葉が真実なんだろうと仮定してもその真意を量ることができない。
……勇者が犯罪神を作り出す計画を立てていた。
どうして勇者が女神の敵である犯罪神を作りだそうとしていたの?
勇者は女神の味方ではなかったの?
それに、マジェコンヌさんが犯罪神のはずなのに、どうして同士などと呼んでいるの?
挙げればきりがない疑問が、私達の間に流れる空気を重くする。
ここに来るまでは、夢人さんといーすんさんを助けるための方法が見つかるかもしれないと希望を感じていたはずなのに、今ではそれもなくなってしまった。
「それについては私の方から説明しよう」
「マジェコンヌさん?」
初代勇者さまに説明を求めていると、横からマジェコンヌさんがため息をつきながら割り込んできた。
「コイツに任せておくと、碌なことを話しそうにないからな」
『ひっどいなー、俺は真実しか語らないのに』
「そのふざけた態度が問題なんだ……では、話を戻そう。犯罪神とは何かだったな?」
「マジェコンヌさん、じゃないの?」
「自分で犯罪神だって名乗ってましたよね?」
不満を漏らす初代勇者さまを尻目に、マジェコンヌさんは私達に確認するように尋ねてきた。
確かにマジェコンヌさん本人が犯罪神を名乗っていたので、他の誰よりも詳しいと言うことはわかる。
古の魔女と名乗ったり、夢人さんのことを助けたりと謎が多かったマジェコンヌさんの秘密が明らかになると思うと、自分の胸がドキドキしてくる。
それは私だけじゃないみたいで、周りに緊張した雰囲気が流れだす。
「犯罪神とは負の情念の集合体……言わば、実体を持たない怨念の塊だ。そして、私はそれを管理するための役割を担っていた1人だ」
「え、それじゃマジェコンヌって何者なの?」
「最初に言ったはずだ。私は古の魔女だと……だが、同時に犯罪神のコアでもあった。内部からコントロールするためのな」
コア? それに、内部からコントロールするってどう言う意味なんだろう?
言葉の意味がわからずに戸惑っていると、マジェコンヌさんは自嘲的な笑みを浮かべて話を続けていく。
「少し昔話をしよう。かつて、古の女神達が活躍していた時代、とある1人の魔女がゲイムギョウ界に混沌と言う名の福音をもたらすために、1つの偶像を具現化させた……その名は魔王ユニミテス」
その言葉を聞いて、私達は一斉にレイヴィスを視線を集めた。
急に見つめられたレイヴィスはギョッと目を開かせて、首を左右に振りながら顔の前で手首を激しく振る。
……いや、何となく魔王と聞いたらつい体が動いちゃって。
そんなやり取りをしていたせいで、マジェコンヌさんは呆れたようため息をついてしまう。
「はあ、一応言っておくが、その男とは無関係だぞ……魔王ユニミテスとは、当時の女神信仰に対抗するために作られた想像上の神のことだ」
……嫌な予感がする。
偶像とか想像上の存在と言う言葉に、私はそれに当てはめられた人物のことを考えた。
「女神の支配が気に入らない魔女は、その力の元であるシェアを低下させるために各国に魔王を信仰する魔王信者を増やしていき、最終的にその溜まったシェアエナジーを使ってユニミテスを降臨させた」
「それって、魔王信者をマジェコンユーザーに変えれば、犯罪組織のやっていることとまったく同じじゃない!?」
「ああ、その通りだ。犯罪組織マジェコンヌは、マジェコンをゲイムギョウ界中に普及させることで犯罪神へのシェアエナジーを蓄え、誕生させることを目的として設立された組織だからな」
マジェコンヌさんの話に出てくる魔女がどんな手段を使って魔王信者を増やしたのかはわからないけど、その方法は私達の知っている犯罪組織のやり方と同じだ。
マジェコンと言う目に見える形で犯罪神を信仰するための道具をゲイムギョウ界中に広めることで女神のシェアを低下させる。
その低下したシェアはマジェコンシェアへと代わり、犯罪神を誕生させる力へと変化する。
……恐ろしいまでに状況が酷似している。
犯罪神を魔王に入れ替えただけで、魔女がしたことは犯罪組織と変わらない。
「気になったんだけど、その魔女はどうやってユミニテスを降臨させたの?」
「……ネプ子、アンタはちゃんと話を聞いてたの?」
「えっとですね、魔王信者さん達が女神さん達を信仰するのと同じように……」
「そうじゃなくてさ、結局は想像上の存在なんでしょ? シェアエナジーが溜まったから降臨! ってなったら、わたし達の他にも女神がいることにならない?」
「……確かにそうよね。そんなことが起こってたら、頻繁に新しい女神が生まれてくるはずよ……後、ユミニテスじゃなくてユニミテスだからね」
名前の言い間違いはともかく、その魔王がどうやって溜まったシェアエナジーを使って具現化したのかが問題だ。
シェアエナジーが溜まったから誕生した、となってしまうとノワールさんの言う通り、私達以外にも女神が新しく生まれてきてもおかしくはない。
今でこそマジェコンシェアと言う女神のシェアとは別のものがあるけど、それ以前は女神のシェアしかなく、1国が他の国よりも圧倒的なシェアを確保した時期もあった。
それにシェアエナジーで想像上の存在が誕生してしまうのなら、私達だってそれを知っていてもおかしくない。
それこそ女神のシェアがほとんどなくなってしまい、過剰なシェアエナジーを魔王が得ていたのなら別なのかもしれないけど……多分それはない。
マジェコンヌさんは昔話だって言ってたし、そんなことがあったのならゲイムギョウ界からはとっくに女神がいなくなっているはずだ。
その魔王を古の女神達が倒したから、私達は今ここにいることができているんだと思う。
「その魔女が魔法で生み出したんじゃないの?」
「魔女なら錬金術の類かもしれないですの」
「ライブみたいに、大勢の魔王信者達が集まって一斉に呼び出す儀式をしたとか?」
「うーん、呼び出すために生贄を用意したとかかな?」
「もしかしたら魔女じゃなくて、魔王信者の方に特別な力を持つ者がいたのじゃないかしら? その協力者の力を使って魔王を誕生させた……考え出したらきりがないわね」
いろいろと憶測が飛び出していくけど、どれもはっきりした根拠がないため真実だとは思えない。
……でも、私は先ほど感じた嫌な予感が強まったのを感じてしまう。
1つだけ、そんなことができる力に心当たりがある。
でも、その力は……
「……それで、その話に出てる魔女であるあなたはどうやって魔王を降臨させたのよ?」
「ほう、貴様はその魔女が私だと思っているのか?」
「話の流れから考えて、他に考えられないわ」
「自分で自分のことを魔女とおっしゃっていましたからね……それで、どんな手段を使ったんですの?」
ノワールさん達に追及されたマジェコンヌさんは、浮かべていた自嘲的な笑みを消し、顔を引き締めた。
「その魔女……いや、当時の私は集めてシェアエナジーをとある力を使って、1つの機械に注ぎ込んだんだ。すると、機械はシェアエナジーの影響を受けて見る見るうちに姿を変え、魔王ユニミテスとなった」
「……ちょっと待って。その力って、もしかして……」
「そうだ。貴様らも知っている『再誕』の力だ」
『っ!?』
私達の間に衝撃が走りだす。
私の予想が最悪の形で当たってしまった。
魔女、マジェコンヌさんは『再誕』の力を使って魔王を降臨させた!?
つまり、マジェコンヌさんはアカリちゃんやフィーナ、ちゃんのように『再誕』の力が使えるの!?
私は思わず抱きしめていたアカリちゃんに視線を落とす。
アカリちゃんは部屋に入った時から、ずっと私の腕にしがみついたままだった。
その体は小刻みに震えており、どうやらまだ何かを怖がっているみたいだ。
「私は相手の力をコピーする力を持っている。当時の私は『再誕』の力を持つ者からその力をコピーして自分の物にしていた」
「力をコピー、ってなによそれ。反則みたいな力じゃない」
「当時の私はこの力に絶対の自信を持っていた。それこそ、女神の力をコピーして国を乗っ取ろうとした時もあったほどだ……さて、話を戻そう。私はコピーした『再誕』の力を使って、溜まったシェアエナジーを利用して魔王ユニミテスの情報を“再現”するために機械に貼り付けたのだ」
「夢人がブレイブソードを錆びた剣に“再現”させたのと同じなんだよね?」
「ああ、それこそ『再誕』の力が持つ特徴の1つである“ペースト”、つまりは情報を貼り付け変化させる力だ」
“ペースト”、IT用語で貼りつけと言う意味で、『再誕』の力の特徴の1つ。
夢人さんが錆びた剣にブレイブソードを“再現”できていたのは、この“ペースト”と言う力を使っていたからなんだ。
「だが、この“ペースト”にも欠点があってな、情報に綻びがあった場合、いともたやすく崩壊してしまう危険性を孕んでいる」
「あれ、だったら誕生させてもすぐに消えちゃうんじゃないの?」
「そのために利用したのが、魔王信者達から送られる大量のシェアエナジーだ。私はユニミテスを存在させ続けるために、無理やりシェアエナジーを注ぎ込み続けた。その結果、ユニミテスはシェアエナジーがある限り何度でも再生する存在となった」
「はあああ!? そんなのどうやって倒したって言うのよ!?」
「ゲームの中なら無限再生のスキルを封じる何か特殊なアイテムを使ったとも考えられますが……」
「それか主人公の覚醒イベントね。眠っていた力が強敵を前にして発動する的な」
……え、えっと、ベールさんとブランさんは真面目に考えているんですよね?
まあ、私もどうやって倒したのかわかりませんけど……
「……単純に女神達がシェアエナジーを取り戻したからじゃないですか?」
「はあ、その通りだ。私は女神のシェアをさらに落とすために、わざと大衆の前で戦いを挑んだのだが、それが裏目に出てしまい、ユニミテスに送られていたシェアエナジーはすべて女神に奪い返されてしまった。シェアエナジーの供給がストップしたユニミテスは、その存在を維持することができず女神に敗れて消滅してしまったのだ」
ベールさんとブランさんを呆れたように見つめていたマジェコンヌさんは、フェル君の指摘にため息をついて肩を落とした。
……でも、普通に考えたらその通りだよね。
だって、マジェコンヌさんもシェアエナジーがある限りって言ってたし。
「だが、そのユニミテスと犯罪神がどう関係しているんだ? 話を聞く限り類似点はあるようだが、所詮は別物なんだろう?」
「そうだな。ユニミテスは犯罪神のプロトタイプ……いや、ユニミテスを劣化させた存在が犯罪神なんだ」
「え、それっておかしくない? ユニミテスは昔に生まれた奴で、犯罪神は今の時代で誕生させようとした奴なんでしょ?」
「順番が逆?」
通常なら、昔にいた存在を改良した存在を生みだそうとするだろう。
ましてや、ユニミテスも犯罪神もマジェコンヌさんが生み出そうとした存在だ。
それなのに、何でわざわざ劣化させたのだろう?
「おかしくも順番が逆でもない。私は犯罪神を誕生させる過程の中で、シェアエナジーを集める作業だけで充分だったのだ」
「それじゃ、犯罪神を生みだすことなんてできないじゃない? ユニミテスのように“ペースト”するわけでもないのに、シェアエナジーの塊が実体を持つなんて……っ!?」
言葉の途中でノワールさんは慌てて振りかえり私を……私の抱いているアカリちゃんを驚いた表情で見つめた。
……いた。
ユニミテスと犯罪神によく似ている存在が、ここにいるんだ。
アカリちゃんはシェアエナジーがなければ存在を維持できない情報の塊である『再誕』の女神。
つまり、ユニミテスも犯罪神も『再誕』の女神も根っこの部分は皆同じだったんだ。
「気付いたようだな。私達の計画通りに進んでいれば、女神の卵から覚醒した『再誕』の女神は犯罪神と言う名の集められたシェアエナジーを吸収することで、バグによって歪められたゲイムギョウ界の修復を行うはずであったのだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? それじゃ、犯罪組織っていったい何だったんですか!? 犯罪神っていったい何なんですか!?」
「それはだな……」
『はい、ストーップ! こっからは俺が説明しよう!』
下っ端さんが焦った顔でマジェコンヌさんに詰め寄った。
無理もないと思う。
犯罪神が『再誕』の女神のために用意されたのなら、犯罪組織で活動していた人達は女神の敵にならない。
言い辛そうに眉間にしわを寄せたマジェコンヌさんが口を開こうとすると、今まで黙っていた初代勇者さまが割り込んできた。
『ぶっちゃければ、犯罪組織って言うのは俺達がゲイムギョウ界を救うために設立した組織だ。その活動内容は、犯罪神への信仰に繋がるマジェコンをゲイムギョウ界中に広め、大量のシェアエナジーを確保すること。つまりは、『再誕』の女神の中身を担当するのが、マジェコンヌの役割だったと言うわけ』
「中身、だと?」
『イエス! 逆に器を担当するのが女神側の役割だった……けどまあ、その結果が女神側の不手際による計画の失敗ってことになったんだけどな』
「意味わかんねぇよ!! それが本当なら、マジック様は何のためにフィーナの奴に操られたってンだよ!! アイツもそこのガキンチョと同じで『再誕』の女神って奴なんだろ!!」
「うむ、それは吾輩も聞いておきたい。吾輩達は犯罪神様復活のために今まで活動してきたのだ。決して、女神のためなどではない。ちゃんと説明してもらうぞ」
下っ端さんに続いて、ずっと私達の後ろに控えていたトリックさんが前に出てきた。
下っ端さんのように表立って怒ってないように見えるけど、その目は鋭く細められている。
言葉もロムちゃん達に対するものではなく、敵としてであった時の声色で、トリックさんも静かに怒っているのだとわかった。
『オーケーオーケー。お怒りもごもっともだが、これには海よりも深く山よりも高い理由があるんだよ』
「ふざけたこと言ってねぇで、さっさと答えやがれ!! 返答次第じゃ、テメェを……」
『おお、怖い怖い……言ってしまえば、お前さん方は俺達にとってまったくの認知外の存在なのよ』
「……つまり、吾輩達はただの捨て駒だったと言うわけか」
『いいや、捨て駒なんてもんじゃないさ。捨て駒って言うのは必要だから捨てる駒のことだろ? 俺達は別にお前達がシェアエナジーさえ集めてくれれば、何をしてようが別に構わなかったんだよ』
「もっと性質が悪いじゃねぇかよ!! アタイらは……マジック様はテメェらのそのふざけた計画に利用されたってのかよ!!」
『ふざけた計画だと? 何を馬鹿なことを言っている。この計画こそ、ゲイムギョウ界を救う唯一の計画であった』
下っ端さんとトリックさんの非難する眼差しを受け流して、初代勇者さまは平然と言ってのける。
……正直、私もショックを受けている。
今の話を聞くと、私達女神も初代勇者さまにとってはアカリちゃんを誕生させるためだけの存在だと言っているように思える。
私達がしてきたことの全てが初代勇者さまとマジェコンヌさんの手のひらの上だったと言われたような気分だ。
『だが、今代の勇者によって俺達の計画は壊されてしまい、そこにいる『再誕』の女神はその役割を放棄してしまった……だから、俺はもう1人の『再誕』の女神であるフィーナにゲハバーンを託した』
「っ、そうだ! 貴様は何でゲハバーンをフィーナに渡した!! あれには担い手がいると言っていたが、まさか……」
『おお、今度は大正解! ゲハバーンは『再誕』の女神専用の剣であり、今はフィーナのためだけ剣だぜ!』
「どうしてですか!?」
私は思わず初代勇者さまに向かって叫んでいた。
ゲハバーンがどんな剣なのかはわからないし、どうしてフィーナ、ちゃんに託したのかもわからない。
けど……
「『再誕』の女神の剣なら、アカリちゃんのための剣でもあるはずですよね!? それなのにどうして……」
『だって、その子は役目を放棄したじゃないか』
「っ!?」
「え、役目って……ゲイムギョウ界を修復することですか?」
『ノンノン! もっと根本的な役目だよ』
憮然とした様子で初代勇者さまが言うと、アカリちゃんはビクッと体を震わせた。
役目、ゲイムギョウ界を修復する以外に『再誕』の女神にはしなくてはいけないことがあるって言うの?
『そいつはな……』
* * *
「……う、うん? ここは……」
意識が回復した夢人は、自分が何か柔らかいものの上に横になっているのだと理解した。
寝起きのせいなのか、体にだるさを感じながら上半身を起こすと、自分が見知らぬ部屋のベッドの上に横になっていたことがわかった。
(どうして俺はここに……確か俺は……っ、そうだ!? 俺フィーナに刺されて……)
夢人はぼやける視界を正常にするために目頭に付着する目ヤニを払いながら、自分がどうしてこんなところにいるのかを考えた。
そして、自分がフィーナに腹を刺されたことを思い出し、慌てて自分の腹を両手で触りだす。
「あ、あれ? 何ともない?」
しかし、夢人の腹には刺されたような痕はまったく残っていなかった。
上着をまくって覗きこむが、傷痕1つ存在していないことに、夢人は不思議そうに首をかしげてしまう。
(確かに、あの時刺されたはずなのに……)
「あら、もう起きてたのですか、父様?」
「っ、フィーナ!?」
夢人が考えこんでいると、部屋の扉が開き嬉しそうにほほ笑むフィーナが入室してきた。
フィーナの登場で、自分が刺されたことが夢ではなかったとわかった夢人は距離を取るためにベッドから立ち上がろうとした。
しかし、フィーナはそんな夢人の行動を見ると、笑みを和らげて口を開いた。
「うふふ、私は父様の敵じゃありませんよ……むしろ、唯一の味方です」
「味方? それって、いったい……」
「まあまあ、まずはベッドに戻って体を休めてください。まだ少し体がだるいのでしょう?」
フィーナは笑みを浮かべたまま警戒して目を細める夢人に近づくと、ベッドから立ち上がろうとした際に捲れてしまった掛け布団を無理やり掛けようとする。
「ほら、布団が掛けられないじゃないですか。早く横になってください」
「お、おい、ちょっと待ってくれ!? さっきの味方ってどう言う……」
「ちゃんと説明しますから、大人しく横になってくださいね」
フィーナはにこにこと笑いながら、戸惑う夢人を横にして肩まで掛け布団を掛けた。
その後、部屋の中にあった椅子をベッドの横に置くと自身も座りだした。
一方、夢人はどうしてフィーナにこんな態度を取られるのかわからないため眉をひそめてしまう。
「なあ、フィーナはどうして俺のことを父様だなんて呼ぶんだ?」
「そんなの父様が父様だからですよ。私は父様の娘、『再誕』の女神フィーナですもの」
(……やっぱり、フィーナはアカリと同じ『再誕』の女神だったのか)
トリックやジャッジ、マジェコンヌの話を聞いて、半ばフィーナが『再誕』の女神だと確信していたにも関わらず、夢人は少なからずその事実に衝撃を受けてしまう。
心の片隅では、どうか当たって欲しくない予想であった。
何故なら、フィーナはマジック達を苦しめた張本人だからである。
夢人の中では善の存在である女神が、悪の存在である犯罪組織のボスとして君臨している現実。
ブレイブのような者もいた以上、犯罪組織が完全な悪ではないとわかっていても、ゲイムギョウ界を混乱させたのは間違いではない。
だが、何で女神側ではなく、わざわざ犯罪組織に身を寄せたのかがわからない。
「うふふ、何を考えているんですか、父様?」
「……俺をいったいどうするつもりなんだ?」
「何もしませんよ。ただずっと一緒に生きていくだけです」
「生きていく?」
夢人は笑いながら話すフィーナの言葉に引っかかりを感じた。
その言葉の意味を考えていると、フィーナは柔らかく頬を緩めて口を開く。
「だって、父様と私は運命共同体なんですもの」
という訳で、今回はここまで!
早く動きのあるシーンを書きたいのに、説明が長引いてしまう。
多分、次回も動きはあんまりないかも……
アンケートの方、協力ありがとうございます。
まだまだ募集をしていますけど……皆さんノワルンがそんなに読みたいんですか?
もうほぼ決着がついているように思えますけど、お暇な方はどうぞ活動報告の方に足を運んでいただけると嬉しいです。
それでは、 次回 「パープルディスク」 をお楽しみに!