超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
連日、無理でした。
内容は盛りすぎたかもしれませんけど、今回でこの章の本編最終話です。
それでは、 血染めの雨 はじまります


血染めの雨

 シンの告白にも似た“愛してる”の言葉に、フィーナの思考は真っ白に染まってしまった。

 

 今この瞬間、シンに対して抱いていた恐怖や警戒、どうして自分が抱きしめられている感覚があるのかも全て吹き飛んでしまっていた。

 

(コイツ……何を……言って……)

 

『お前に何もしてやれない俺を許してくれとは言わない。ただ俺がお前の幸せを願っていることだけはわかって欲しい』

 

「っ、離せ!!」

 

 シンは情愛をこめて言葉を続けていくが、突如フィーナは弾かれたように腕をはねのけて距離を取った。

 

 その顔は怒りに歪んでおり、目を鋭くさせてシンを睨んでいた。

 

「私の幸せを願っている? そんな馬鹿なことを言うな!!」

 

『嘘じゃないさ。俺はお前に幸せに……』

 

「うるさいっ!! あなたにはそんなこと言われたくない!! あんなものを私に仕込んだくせに……何が幸せになれよ!!」

 

 シンは語気を荒げて叫ぶフィーナに姿を悲しそうな雰囲気を出しながら見つめ、再びゆっくりと歩み寄っていく。

 

 先ほどは恐怖心の影響で後ずさったフィーナであったが、今度は一歩も退かずに激しくシンを睨み続けている。

 

『……弁解はしない。俺は良かれと思って、お前にそれを望んだ。すべては俺のエゴだ』

 

「なら、お生憎さまね。あなたの思惑通りに生まれなくて……どうせ私のことを失敗作だと思ってるんでしょ? いい気味よ! 私はあなたのお人形さんじゃないわ!!」

 

『ああ、その通りだ。お前は人形じゃない。『再誕』の女神フィーナだ』

 

「っ、いい加減にして!! あなたにそんなことを言われる義理はないわ!! これ以上くだらないことを言うのなら……」

 

『慌てるな。これで最後だから』

 

 フィーナはシンの謝罪に皮肉気に口の端を上げながら強気で言い返すのだが、まったく堪えた様子を見せない態度に歯をむき出しにして怒りをあらわにした。

 

 それなのにもかかわらず、シンはフィーナの怒りを黙って受け続けた。

 

 態度を変えないシンに我慢の限界を迎えそうになったフィーナは、再びその両手に力を集め始めた。

 

 先ほど自分の力がシンに聞かなかったことなど、フィーナの頭の中にはすでにない。

 

 ただ不愉快なことを言い続けるシンを目の前から消すことだけを考えている。

 

 シンはそんなフィーナのことを悲しそうな雰囲気を醸し出しながらその右手首を両手で包み込むように握った。

 

「っ、また!?」

 

『これが今の俺にしてやれる最大限だ』

 

 右手首を握られた瞬間、集めていた力がすべて霧散してしまったことを苦々しく思いながら、フィーナはシンを鋭い目つきで見上げた。

 

 顔が見えれば困ったように眉を下げて、それでいて柔らかくほほ笑んでいそうな雰囲気を出しながら、シンが口を開くと、その両手に包まれていたフィーナの右手首が光だす。

 

 その光の正体を知っているフィーナは慌てて振りほどいたが、光はすでに右手首でとある物へと変化し始めていた。

 

「何……これ……」

 

 自分が予想していたこととは違っていたため、フィーナは目を大きく見開いて右手首に巻かれている物を呆然と見つめた。

 

 それはまるで数珠のように1本の紐を通して10個の透明な水晶が付けられているブレスレットである。

 

 右手首を圧迫するような巻かれ方はしておらず、手を握ればすぐにでも外せてしまえそうに見える。

 

 それをフィーナはすぐに引き千切ろうとした。

 

 しかし、いくら引っ張っても紐は千切れる様子を見せず、取り外そうとして見ても右手首の位置から動かない。

 

「くっ、いったいこれは何のつもりよ!?」

 

『それはただのプレゼントだ。色気はないが、アクセサリー代わりにして欲しい』

 

 その態度と言葉が、さらにフィーナの怒りに油を注ぎこむが、これまでのことで自分がシンに対して何もできないと悟っているため、睨むだけにとどまっている。

 

 シンはそんな態度を取るフィーナに苦笑するしかなかった。

 

『握ればわかると思うが、お前の望みはゲハバーンが叶えてくれる。お前の枷を必ず外してくれるだろう。後はお前の自由だ……愛してるよ、フィーナ』

 

「ま、待って……」

 

 一方的に言葉を告げて消えたシンを、フィーナは呼び止めようとして腕を伸ばした。

 

 しかし、その腕は空を切り、虚しく手が握られるだけに終わった。

 

 フィーナはどうして自分がシンを呼び止めようとしたのかわからない。

 

 ただ自分に向けられた言葉を頭の中で反芻させながら、伸ばした手を戻してゆっくりと手のひらを開いて見つめる。

 

 やがて、1つの感情を抱き、呆然とつぶやいた。

 

「……気持ち悪い……うぷっ」

 

 浮かび上がった気持ちを吐露すると、フィーナは猛烈な吐き気に襲われた。

 

 両手で口を押さえて嘔吐してしまわないようにするが、逆流してきた体液によって気分を悪くして膝から崩れ落ちてしまう。

 

 その顔は真っ青になり、瞳孔は焦点があわずにブレ続ける。

 

(何!? 何なの!? アイツは何を言ってるの!? 何でこんなに気持ち悪いのよ!?)

 

 フィーナはまとまらない思考のまま疑問を並べるが、そのせいで余計に頭の中を混乱させてしまう。

 

 答えが出ないことに思考が停止しかけたが、わずかに頭が上下した際に光るものを視界の端に捉えた。

 

 それは、フィーナがこの部屋に来てからずっと光を放ち続けているゲハバーンであった。

 

(そうだ……アレは私の剣……私を呼んでる……『再誕』の剣なんだっ!)

 

 まともに頭が働かないフィーナは、その情報が得たいのしれない存在であるシンからの物であったことなど忘れてしまっている。

 

 ただ自分を呼ぶように光っているゲハバーンを握れば、今の優れない気分が晴れると妙な確信を持って、フィーナはふらふらと立ち上がり、歩き始めた。

 

 その足取りは非常に不安定であり、今にも足をもつれさせて転んでしまいそうである。

 

 しかし、フィーナはそんな風に体を揺れ動かしながらも台座の前まで辿り着き、台座から飛び出している柄を凝視した。

 

 やがて、意を決したようにカッと目を見開くと、勢いよく腕を伸ばして柄を握り締めた。

 

 ……瞬間、台座は粉々に砕け散った。

 

「これが……ゲハバーン……私の剣……」

 

 フィーナは台座が砕けるとともに握っている柄も変化したことに気付いた。

 

 青錆で覆われていた柄は光沢を取り戻し、薄暗い紫色へと変化した。

 

 台座に隠れていた刀身は、柄よりも深い闇色に近い色をしており、怪しい光を放ちながら覗きこんでいるフィーナの顔を映していた。

 

「……アハッ」

 

 ゲハバーンを見入っていたフィーナは、突然口元を歪めて笑い声を上げ始めた。

 

「そう、そう言うことなのね!! アイツが言っていたことはこう言うことだったのね!!」

 

 先ほどまで不調だったとは思えないほど、フィーナは口の端を大きく吊り上げて笑い続ける。

 

 その口の端からは、先ほど喉元まで込み上げてきた体液が流れているのだが、フィーナはそれを拭うことすらしない。

 

「これがあれば私は……私はっ!!」

 

 歪んだ笑みを浮かべながらゲハバーンの刀身を見つめていたフィーナは、その切っ先を自分の胸に向けるように腕を伸ばして両手で握りしめると……

 

「きゃはっ」

 

 ……笑ったまま勢いよく自分の胸に突き刺した。

 

 

*     *     *

 

 

 観客達はざわざわと戸惑いの声を漏らしていた。

 

 それも当然であろう。

 

 自分達がクピートだと思っていた人物が、実は別人であったのだから。

 

 顔があらわになったレイヴィスはローブを脱ぎ捨てると、両手に持っていた剣の切っ先を夢人へと向けて構える。

 

「レイヴィス、お前がどうして……」

 

「うおおおおおおおお!!」

 

「っ、ぐっ!?」

 

 観客達同様に衝撃を受けていた夢人は何故このような真似をしているのかを尋ねようとするが、レイヴィスは聞く耳を持たないで斬りかかっていく。

 

 自分の質問に答えずに攻撃してくるレイヴィスに夢人は驚くが、その上段から振るわれた剣の一撃を錆びた剣で受け止めることに成功する。

 

「はあっ! せいっ! はあっ!」

 

「っ、話を、聞けよっ!」

 

 交互に振るわれるレイヴィスの2本の剣による上段、下段、中段と続けられる攻撃を捌くことで手いっぱいの夢人。

 

 苦しそうに顔を歪めて呼びかけるのだが、レイヴィスは緑色の瞳を鋭く細めて睨むだけで何も答えようとはしない。

 

「あ、あわわわわわわ!? どうしてレイヴィスが!? と、とりあえず、2人を止めないと……」

 

「待ってください!? 今2人の間に飛び込むのは危ないですよ!?」

 

「で、でも……」

 

 進行役の5pb.は突然の事態に混乱してしまったが、すぐに2人を止めるために舞台に上ろうとした。

 

 しかし、それは同じように舞台の近くにいたフェルによって止められた。

 

 レイヴィスが何の理由があって、わざわざ『勇者への道』に乗り込んでまで夢人を襲っているのかわからない以上、純粋に戦闘能力が低い5pb.では止められないとわかっているからだ。

 

 それに、もし今中断させてしまえば、今日行ったことはすべて台無しになってしまい、夢人の偽物疑惑を払拭することができなくなってしまう。

 

 それでも2人を止めようとする5pb.に、フェルは舞台を真剣に見つめながら自分の考えを告げる。

 

「今はお兄さんに任せましょう。もし危なくなったら、ギアお姉さん達も割って入るはずです」

 

「……そうだね。今は機会を伺いながら、夢人くんを信じよう」

 

「はい……もしもの時は、この大会を中止させてでも止めます」

 

 フェルの説得により、幾分か冷静さを取り戻した5pb.は舞台の上で火花を散らしながら剣を交えている2人を心配そうに見つめ始めた。

 

 その隣でフェルはいつでも舞台に上がり、レイヴィスを押さえられるように若干前傾姿勢になりながら事態の推移を傍観する。

 

 空は先ほどまでの快晴が嘘であったかのように、薄暗い雲で覆われており、2人の心に不安を募らせていく。

 

 そんなことが舞台の外で行われているのを夢人は確認する余裕もなく、続けざまに振るわれるレイヴィスの剣を防ぎながら突破口を模索する。

 

(チッ、何とか一旦距離を取らないと……っ!?)

 

「そこっ!!」

 

「させるか!!」

 

「ぐっ、まだっ!!」

 

 考え事に集中していた夢人の隙をついて、レイヴィスは胴体に向かって突きを放った。

 

 夢人はそれを錆びた剣で横に払うと、重心を後ろに下げたまま足の間から石柱を作り上げ、レイヴィスの視界を一時的に封じることに成功した。

 

 悔しそうな声を漏らすレイヴィスは石柱を斬り裂くが、すでに夢人は後ろに跳んでおり距離が遠のいてしまっていた。

 

 距離が開いたおかげで少しだけ余裕を取り戻した夢人は、攻められてばかりで駄目だと考え『再誕』の力を使うために集中し始める。

 

(まずはレイヴィスを落ち着かせてから話を聞きだす! だから、使わせてもらうぞ、ブレイブ! アカリ!)

 

 心の中で2人に許可を取るように念じながら、夢人は錆びた剣にブレイブソードを“再現”させていく。

 

 一瞬、眩しい光が放たれたせいでレイヴィスは腕で顔を隠すが、夢人のおおよその位置を把握していたためもう片方の腕に持っている剣を構えて斬りかかった。

 

「っ!?」

 

 しかし、夢人を斬りつけようとしたレイヴィスの剣は、逆に光から現れたブレイブソードによって防がれ砕けてしまった。

 

 夢人がブレイブソードを使ったこと、自分の剣が砕かれたことの両方に驚愕したレイヴィスは今度は自分から距離を取るために後ろへ大きく跳び退った。

 

 そして、レイヴィスが砕けた剣を投げ捨てると、次は夢人が驚愕に目を見開かせてしまう。

 

 ……砕けたはずの剣が再びレイヴィスの手に現れたのだ。

 

(今のは『再誕』の力!? どうしてレイヴィスが!?)

 

「はあああああああああ!!」

 

「っ、せいっ!!」

 

 まるで自分がブレイブソードを“再現”した時と同じように、レイヴィスが新しい剣を出現させたことに驚き固まってしまう夢人であったが、自分を襲ってくる剣の存在に気付き、すぐに正気に戻って迎え撃った。

 

 レイヴィスの剣とブレイブソードがぶつかるが、強度の違いにより、レイヴィスの剣だけが砕け散る。

 

 だが、レイヴィスはすぐに砕けた剣の柄を手放すと、再び剣を出現させて夢人を狙う。

 

(クソッ、どうなってるんだよ!?)

 

 夢人は内心焦りながらブレイブソードを振るっていく。

 

 レイヴィスの剣はぶつかるごとに砕け散るが、その度に新しい剣が出現する。

 

 そのため、レイヴィスは休みなく夢人を攻め続けられている。

 

 反面、夢人は何度も出てくる剣とレイヴィスの連続する斬撃に防戦一方だ。

 

 ブレイブソードは強力であるが、レイヴィスの剣のように素早く振るうことができないため、夢人は攻撃のチャンスを掴めないでいる。

 

(ここは多少強引でも、こっちから仕掛けて流れを掴むっ!)

 

 防戦一方で埒が明かない状況を打破するため、夢人は無茶をしてでも自分から打って出ることを決めた。

 

 ブレイブソードの硬度がレイヴィスの剣よりも上だとわかっているため、剣を破壊した後に一気に体ごとぶつかりに行く作戦である。

 

 その作戦は上手くいき、上段から振り下ろそうとした剣を砕いた後、夢人はレイヴィスの体に肩からぶつかっていった。

 

 思わぬ衝撃に襲われ体勢を崩すレイヴィスは、剣を出現させることができず、もう片方の手に握っていた剣も手放してしまった。

 

(今だ……っ!?)

 

 夢人はレイヴィスの動きを封じて話を聞くために、ブレイブソードを威嚇のために向けようとしたのだが、突然の悪寒を感じて思わず後ろに跳び退いてしまった。

 

 その判断はおそらく正解であったであろう。

 

 何故なら、夢人がブレイブソードを向けようとした位置に、レイヴィスはわざと体をずらして移動させていたのだ。

 

 もし夢人がそのままブレイブソードを向けていれば、レイヴィスの体はその刀身によって貫かれていただろう。

 

(なんだ今の動き……あれじゃ、まるで……)

 

「何で攻撃を止めた?」

 

 夢人がレイヴィスの動きに違和感を感じたが、その正体はすぐに知ることができた。

 

 ……そのレイヴィス本人の叫びによって。

 

「貴様は俺を救うって言ってくれただろ? ……なら、その剣を止めるな!! その剣で俺を今すぐ殺してくれ!!」

 

 そう叫んだレイヴィスの緑色の瞳は赤く濁り始めていた。

 

 

*     *     *

 

 

 ……あの日、ブロックダンジョンでフィーナに敗れた俺は、自分の右目を失うだけでは済まなかった。

 

 目を覚ませば、すでにフィーナの姿はなく、俺はブロックダンジョンに放置されていた。

 

 何故俺にとどめを刺さなかったのかと考えたが、その答えはすぐに理解することができた。

 

「ぐっ、ぐわああああああああああ!?」

 

 突然の頭痛に襲われた俺はその場でのたうち回った。

 

 失った右目の痛みではなく、誰かに脳を直接弄られているような感覚が襲ってきたのだ。

 

 痛みに歯を食いしばり、きつく目を閉じて耐えようとした俺の目に、とある映像が流れてきた。

 

 ……そこはとある村の入り口で、大勢の人達が手に鍬や鎌を持って威嚇するようにその刃をこちらに向けている。

 

 全員こちらを睨むような冷たい眼差しであり、一歩近づくだけで警戒するように後ずさりされてしまった。

 

 その人垣の中央にいる他の人達に比べれば身形の良い服装を着ている男性が、こちらに向かって激しい怒りを込めて叫び始めた。

 

【女神でもないのに、お前はあんな危険なモンスターを1人で退治したんだぞ!! そんな普通では考えられない力を持っているお前は化け物だ!! 返せ!! 私達の息子を返せ!!】

 

 ……その時、俺は全てを理解した。

 

 これは、俺の記憶だ。

 

 先ほど叫んだのは、普段は常に柔らかな笑みを浮かべていたはずの俺の父親。

 

 鍬や鎌を俺に向けているのは、この世界に生まれてからずっと一緒の村で過ごしていた人達。

 

 皆、俺が殺してしまった人達だ。

 

【この村を出てけ!! この化け物!!】

 

【近づかないで!! この化け物!!】

 

【返して!! 私達の息子を返して!!】

 

 父親の言葉が引き金になり、村人達は俺に向かって石を投げてくる。

 

 その中には、俺の母親の姿もあった。

 

 俺のことを愛していると言っていた母親や、仲のよかった同い年の友達、何度も畑仕事を手伝ったことのある大人達。

 

 レイヴィスとして生まれた俺にとってかけがえのない大切な人達が、俺を化け物だと罵りながら石を投げてくる。

 

 俺が村を救うためにモンスターを倒したと言うことだけで……

 

【う、うおおおおおおおおおお!!】

 

 気が付けば、俺の視界は真っ赤に染まり駆けだしていた。

 

 視界が赤い理由は、おそらく頭に石が当たった際に血が流れたのだろう。

 

 何故推測なのかと言えば、俺はこの時のことを覚えていないからだ。

 

 ……そう、ここからは俺が忘れようと無意識に思いださないようにしていたはずの記憶なんだ。

 

【きゃああああああ!?】

 

【ぐわああああああ!?】

 

 1人、また1人と俺の目の前で大切であった人達が倒れていく。

 

 その体に深い斬り傷と、恐怖に歪んだ表情を残して……

 

【やめろ、化け物!!】

 

【死ね!!】

 

 鍬や鎌を握っていた大人達は、俺を殺すためにその凶器を振り下ろしてくる。

 

【ぐぎゃあああああ!?】

 

【があああああああ!?】

 

 しかし、俺は逆に両手に作り上げていた剣で大人達を斬り裂いた。

 

 ……この剣は、俺の転生『特典』によって作られたもの。

 

 俺の『特典』は物を作り出す力、すなわち『創生』だ。

 

 この能力は、俺が見たり触ったりして、知ることができた物を文字通り作りだすことができる。

 

 作り出せる物は剣に限ることなく、銃や食器、石であろうとも作り出すことができる。

 

 ただし、欠点として俺が実際に作り出す物を知る必要がある。

 

 記憶の中で使っている剣だって、たまたま村を訪問した冒険家に見せてもらったから作れるのである。

 

 前世の知識にあったアニメや漫画の武器などは作り出すことができない。

 

 しかし、俺が生まれたのはよく知っているゲームの世界だ。

 

 原作に介入すれば、いくらでも強力な武器を作ることができるチャンスは手に入る。

 

 それに、いろんな武器を使い分けて戦うことに憧れを持っていたため、俺を転生させてくれた綺麗な女性にこの能力を求めた。

 

 ……そんな甘い考えがこの悲劇を生んだんだ。

 

【いやああああああ!?】

 

【うわああああああ!?】

 

 次々と倒れていく村人達。

 

 斬っていくごとに、俺の視界は真っ赤に染まる。

 

 ……そして、最後に残ったのは怯えた表情で尻もちをついている父親と母親だけ。

 

【ひいいい、来るな!?】

 

【やめて!? 殺さないで!?】

 

 必死に命乞いをする顔には、恐怖がありありと浮かんでおり、先ほどまでの激しい剣幕は失われてしまっていた。

 

 その瞳には息子である俺を映しているはずなのにも関わらず、まるで死神を見ているかのように救いを求めてくる。

 

 ……2人にとって、俺はもう息子でも何でもないんだな。

 

【はああああああ!!】

 

【あああああああ!?】

 

【きゃあああああ!?】

 

 悟った瞬間、俺は2人を同時に刺し貫いた。

 

 両耳に響いてくる両親の悲鳴をかき消すように叫び声を上げながら……

 

【ハア、ハア、ハア……】

 

 ……2人が動かなくなった後、俺は両手に持っていた剣を手放し、荒い息を整えながら空を見上げた。

 

 地面に転がる大切だった人達を見たくなかったからだ。

 

 しかし、生憎と天気は悪く、薄暗い雲が広がっていた。

 

 しばらく立ち尽くしていると、頬に付着していた血が乾いて嫌な冷たさを感じた。

 

 血の生温さが消えていくことで、俺はようやく自分が何をしたのかを理解し、空に向かって吠えた。

 

【う、うわああああああああああああ!!】

 

 認めたくない現実を否定するように叫び続ける俺の頬に冷たい水滴が落ちてきた。

 

 雨が降ってきたのだ。

 

 本降りになる雨に打たれながら、段々と冷えていく頭と体が嫌でも現実だと突き付けているように思えた。

 

 雨で顔が濡れているはずなのに視界は真っ赤に染まったままであり、血の匂いも消えてくれない。

 

 この手で大切だった人達を殺した事実は、いくら雨に打たれても流れ落ちてくれない。

 

 ……これは俺がゲイムギョウ界を壊すと決める前に起こしてしまった悲劇。

 

 好きだった世界が罅割れた瞬間であった。

 

「ハア、ハア、ハア……どうして今更……っ!?」

 

 記憶の映像が途切れるのを感じた俺は、ようやく目を開くことができた。

 

 映像が流れている間は開けることができなかった左目には、自分がいるブロックダンジョンの様子が映り込んできた。

 

 俺はどうして自分でも思いだせなかった記憶を思いだしたのかと考えようとしたが、その答えはすぐに自分の視界と嗅覚に現れた。

 

 ……視界は端から段々と真っ赤に染まり、血の匂いが匂ってきたのだ。

 

 まるで先ほど見た記憶と同じような状態になった俺は何かの間違いだと思い、再び固く目を閉じて指で鼻をつまんだ。

 

 しかし、それはさらなる悲劇を生んだ。

 

 瞼を閉じると、再び目の前には村の入り口に並ぶ大切だった人達の姿が見えてきた。

 

 そして……

 

【女神でもないのに、お前はあんな危険なモンスターを1人で退治したんだぞ!! そんな普通では考えられない力を持っているお前は化け物だ!! 返せ!! 私達の息子を返せ!!】

 

 再び俺の忌まわしい記憶が再生されていく。

 

 今度は目を開けることもできるが、その視界は赤く染まったまま。

 

 目を閉じる度に記憶は再生されていき、俺の耳に断末魔の叫びを残していく。

 

 記憶が再生され終わっても、また父親の叫びから始まってしまう。

 

 ……その日から、俺はずっと自分が作り出してしまった悪夢に囚われてしまった。

 

 唐突にフィーナが言った言葉が頭を過ぎる。

 

 変わることはできない……その通りだろう。

 

 俺はもう、この世界を純粋に愛することはできない。

 

 愛していたはずの人達を無残に殺してしまった俺には……

 

 

*     *     *

 

 

「はあああああああ!!」

 

「っ、ぐっ!? 何を言ってるんだよ!?」

 

 自分を殺してくれと叫んだレイヴィスは、再び夢人へと斬りかかった。

 

 1本ではブレイブソードに簡単に砕かれてしまうと悟ったレイヴィスは、2本の剣を鋏のように構えて夢人を襲う。

 

 予想外の発言に固まっていた夢人であったが、叫び声と共に向かってくるレイヴィスの姿を見て、慌ててブレイブソードを盾にして2本の剣による攻撃を防いだ。

 

 しかし、ブレイブソードを挟み込むように2本の剣で押さえられてしまい、先ほどまでのように壊すことができない。

 

 変則的な鍔迫り合いの中、夢人は押し返すように力を込めながらレイヴィスの真意を聞きだそうと叫んだ。

 

「殺してくれだって? ふざけんな!! どうしてそんなことしなくちゃいけないだよ!!」

 

「貴様が俺を救うと言ったからだ!! 貴様が本気で俺を救いたいのなら、今すぐ俺を殺してくれ!!」

 

「意味がわからないぞ!! どうしてお前が死ぬ必要が……」

 

「それがあるから言っているんだ!!」

 

「っ!?」

 

 押し返そうとした夢人であったが、逆にレイヴィスによって後ろへと下がらされてしまった。

 

 ブレイブソードが2本の剣によって弾かれた衝撃で後ろへ軽く吹き飛ばされた夢人に向かって、レイヴィスは鋭く目を細めながら交互に両手の剣を振るっていく。

 

「貴様は俺に生きろと、再びこの世界を愛せるようになると言った!! だが、現実は違う!! 俺はもうこの世界を愛する資格なんてなかったんだ!!」

 

 ブレイブソードに防がれる度に剣は砕け散っていくが、レイヴィスは何度も剣を『創生』の力で作り出して振るっていく。

 

「俺の手はすでに愛した人達の血で染まっている!! こんな手じゃ、この世界を愛することも守ることもできやしない!! 結局、俺にできることはこの世界を壊すことだけだ!!」

 

 苛烈さを増していくレイヴィスの斬撃に、夢人は防戦一方になりながらもその叫びにその顔を苦痛に歪ませる。

 

「バグでなくなったとしても、俺はこの世界のイレギュラーだ!! 何かの拍子で再びこの世界を憎み、破壊しようとしてしまうかもしれない!! だからっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 言葉を区切り、レイヴィスはブレイブソードを蹴り込むことで、一旦距離を取る。

 

 体勢を崩しかける夢人に、レイヴィスは剣の切っ先を向けて目を見開いて吠えた。

 

「俺を殺せ!! 貴様が俺を……ゲイムギョウ界を救いたいと願うなら、魔王である俺を殺してくれ!! それが俺の救いであり、この世界のためだ!!」

 

 ……レイヴィスは夢人に殺してもらうためにこの場に立ったのである。

 

 自分をバグではなくし、少しの間だけでもゲイムギョウ界を愛する心を取り戻すことができたのは夢人のおかげであると思っているレイヴィスは、その恩に報いるために無理やり乱入したのである。

 

 都合よく演劇の内容が勇者が魔王を殺す話であったため、夢人の偽物疑惑を払拭すると同時に、自分を殺すことでゲイムギョウ界を救うことができると考えたレイヴィスは、控室で休憩していたラステイション代表のクピートを気絶させて、自分が代わりにこの舞台に立っているのだ。

 

「貴様が勇者なら迷うことはないはずだ!! ゲイムギョウ界のために、俺を殺してみせろ!!」

 

 剣を夢人へと突き刺すように構えてレイヴィスは駆けだす。

 

 自分が攻撃していれば、いずれは夢人が痺れを切らしてブレイブソードを振るう時がある。

 

 その時、わざと自分から斬られに行けば、自分の望みも夢人の望みも叶えることができる。

 

 だからこそ、レイヴィスは攻撃することをやめない。

 

 自分が夢人に殺されるまで……

 

(……勇者なら殺せ、か)

 

 一方、夢人はレイヴィスが自分に向かってくるのを険しい表情で見つめながら、その言葉を考えていた。

 

 夢人にはレイヴィスが泣いているように見えている。

 

 実際に涙を流しているのではなく、心の中で必死に助けを求めながら泣き叫んでいるように感じていた。

 

(迷う必要はない。確かにその通りだ……俺はっ!)

 

 心の中で決意を固めた夢人はブレイブソードを正眼に構えて、レイヴィスを待ち構えた。

 

 夢人がブレイブソードを構える姿を見て、レイヴィスは安堵するように微かに口の端を緩めた。

 

(そうだ。それでいい貴様は俺を救ってくれた……だからっ!)

 

 レイヴィスは片足で勢いよく踏み切って夢人へと跳んだ。

 

 夢人が自分の首めがけて構えていたブレイブソードの切っ先に跳び込んだのである。

 

 こうすれば、余程のことがない限り、夢人は自分に向かってくる剣を払うために横に振るうだろう。

 

 しかし、その切っ先は変わることなく真っ直ぐになっているはずだ。

 

 もしも、切っ先を横に倒したのなら、もう1本の剣で再度突きを放てばいい。

 

 夢人はそれに対処するために、ブレイブソードを横に大きく振るうしかない。

 

 そうなれば、今度は自分の体をその剣が動く範囲に滑り込ませれば自然と自分を斬ってくれる。

 

 だから、レイヴィスはブレイブソードを構えてくれた夢人に感謝の念を抱く。

 

(ありがとう……この世界を頼む!!)

 

 自分ができないことを悔しく思いながらも、夢人に自分の思いを託すように突きを放つ。

 

 その突きは正眼に構えられたブレイブソードによって払われてしまい、剣は砕け散ってしまった。

 

 払った勢いでブレイブソードが横に倒れたのを見て、レイヴィスは2度目の突きを放つ。

 

(これで、終われ……っ!?)

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

「ぶっ!?」

 

 しかし、2度目の突きを放とうとした腕が伸びきる前に、夢人はレイヴィスとの距離を詰めてその顎を殴り上げた。

 

 最初の突きを払った際に、夢人はブレイブソードを握っていた両手の片方を離していたのである。

 

 まさか2度目の突きを放つ前に、距離を詰めてくるなんて思いもしなかったレイヴィスは、夢人の拳に反応することができなかった。

 

 そのまま仰け反りながら宙に浮くが、途中で飛びかけていた意識が戻ると、よろけながらも両足で着地することができた。

 

「これが俺の返答だ……俺はお前を殺さない」

 

 着地すると同時に自分を睨んでくるレイヴィスに、夢人は静かに宣言する。

 

「お前がまた世界を壊そうとするのなら、俺が全力でお前を止める。お前はイレギュラーなんかじゃない。この世界を愛している1人の人間だ」

 

「っ、だから、言ってるだろう!! 俺はこの世界を愛することなんてできないんだよ!! 俺の手は愛した人達を殺してしまった、人殺しの手だ!! この手で世界を愛せると思うのか!! 守れると思うのか!!」

 

「だったら、生きろよ!! 殺した罪を感じているのなら、精一杯生きてその人達の分まで愛して守ってみせろ!!」

 

「簡単に言うな!!」

 

 弾かれたようにレイヴィスは夢人へと斬りかかっていく。

 

 そして、再び2本の剣がブレイブソードを挟み込むような形の変則的な鍔迫り合いが始まり、2人は互いの額がぶつかるのではないかと思うくらいに前のめりになって激しく睨み合った。

 

「貴様は他人事だから綺麗事を言えるんだ!! 愛した人達を自分の手で殺してしまった俺の気持ちがわかるものか!!」

 

「わからねえよ!! ……だけど、俺だって大切にしようと思った奴を泣かせて傷つけてばかりだ。いつだって俺はこの世界はおろか、あの子1人すら守れていないんだよ!!」

 

「だったら、まずは世界のために俺を殺せ!! そうすれば、貴様はこの世界を救う勇者になれるだろ!! 何を躊躇ってるんだ!!」

 

「ふざけんな!! そんなこと、誰1人望んでないんだよ!!」

 

 夢人は鍔迫り合いの均衡状態をレイヴィスを蹴ることで中断させると、ブレイブソードを両手で強く握りしめて、脇をしめてその刀身を立てるように構えた。

 

「俺はお前を殺して勇者になんてなりたくねえよ……目の前で苦しんでる奴1人救えないで、何が勇者なんだよ!!」

 

「俺の救いは死ぬことだけだ!! 貴様が俺の救済を本気で望んでいるのなら、ひと思いに殺してくれ!!」

 

「いい加減にしろ!! 死ぬだの殺してくれだの、全部あの時と一緒じゃないか!! ……だったら、俺は何が何でもお前を殺さずに救う。お前がまたこの世界を愛せるように、守れるようにするために」

 

 夢人は、今のレイヴィスがギョウカイ墓場で戦った時と同じだと思っている。

 

 愛しているからこそ、それを壊してしまう自分が憎い。

 

 日本一と戦う前までの夢人も似た思いを抱いていた。

 

 だからこそ、レイヴィスの望みを叶えてはいけないと強く感じている。

 

 その結果を夢人はもうすでに知っているからである。

 

「お前が自分の本当の気持ちを隠して死のうとするのなら、俺がその殻を壊して本音を引き出してやる!! お前のこの世界への愛を絶対に嘘になんてさせない!!」

 

「うるさい!! そんなことできるわけが……」

 

「やってみせる!! 俺はお前を救う!! この世界のために、お前のために……そして何よりっ!!」

 

 夢人は叫びながらレイヴィスに向かって駆け出した。

 

 一瞬遅れて、レイヴィスも地面を蹴って走り出す。

 

 互いに武器を強く握りしめて……

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「はああああああああああ!!」

 

 叫びながら互いの武器を相手に向けて振るった瞬間、薄暗い雲に覆われていた空から突然雷光が走った。

 

 会場全体を突如として襲う強烈な光により、5pb.やフェル、観客達だけでなく、観覧席に居たネプギア達や放送で中継を見ていた人達の視界が真っ白に染まる。

 

 やがて、視界が正常に働きだす頃には、すでに2人は交差し終えた後であり、互いに背を向けて武器を構えていた。

 

 だが、夢人のブレイブソードはいつの間にか錆びた剣に戻っていた。

 

 観客達は夢人の負けかとざわつこうとした瞬間、2人に動きが発生した。

 

「ぐふっ」

 

 ……レイヴィスが体をふらつかせて仰向けに倒れたのだ。

 

 両手に持っていた剣の刀身は粉々に砕け散り、誰の目から見てもレイヴィスの負けは確定だ。

 

 だが、2人の戦いを見ていた者たちの関心は勝敗ではない。

 

 本当にレイヴィスが死んでしまったのかどうかである。

 

「レイヴィス……」

 

 夢人は振り返ると、握っていた錆びた剣を手放してゆっくりとレイヴィスへと近づいた。

 

 そして、上半身を抱き上げて優しく呼びかける。

 

「……はは、何だったんだ、今のは……確かに、斬られたと思ったのに、何で俺は生きているんだ?」

 

「俺が斬ったのは、この世界を壊す魔王なお前だ。だから、これからは魔王じゃないレイヴィスで生きていけよ」

 

「だ、だが、俺が父さんや母さん、村の皆を殺したことは事実だ……そんな俺が生きていいわけ……」

 

「それを決めるのは誰でもない、お前自身だろ。お前がその人達のことを忘れずに、その人達の分までこの世界を愛して守ってみせろよ……それがお前の罪の数え方だろ?」

 

「……はっ、はは、罪の数え方、か……俺、変われるかな?」

 

「変われるさ。少しずつでもいい。生きて変わろうとしていけばいいんだよ」

 

「……そうか……ありがとう、夢人」

 

『……わ、わあああああああああああああ!!』

 

 夢人に抱かれているレイヴィスは淡くほほ笑みながら、ゆっくりとその目を閉じた。

 

 その体に斬られた後はなく、規則正しく呼吸を繰り返している。

 

 ただ眠っているだけのようである。

 

 そのことでレイヴィスが死んでないとわかると、観客達は大歓声を上げた。

 

「俺の方こそ、ありがとうレイヴィス……お前のおかげでようやくわかったような気がする……俺が何をするべきなのかが……」

 

 夢人は眠ってしまったレイヴィスに柔らかく頬を緩めながら礼を言った。

 

 その胸に1つの答えを手に入れて……

 

 

*     *     *

 

 

「はあ、結局中止になっちまったな」

 

 夢人はプラネテューヌの教会にある自室の窓から外を眺めながらつぶやいた。

 

 あの後、『勇者への道』は途中中断を余儀なくされた。

 

 それはレイヴィスのせいではなく、天候の悪化のためである。

 

 レイヴィスが眠った後、すぐに雨が降り出してきたため、舞台上での競技ができなくなってしまったのだ。

 

 会場がドーム型であれば続行もできたのだが、舞台の上が吹き抜けになっていたため、第4競技は延期と言うことになったのである。

 

(それにしても、最後のアレはいったい何だったんだろうな)

 

 いつまでも雨が降っている外を眺めていても仕方ないと感じた夢人は、レイヴィスを斬った時のことを思い出していた。

 

 あの時、夢人はブレイブソードの腹で腹部を殴打して気絶させようとしたのだ。

 

 だが、突然の雷によって自分の視界を封じられてしまった夢人は刀身を返すことができずに、そのまま斬りつけてしまったはずである。

 

 しかし、実際にはレイヴィスの体には傷1つなく、むしろ薄目で確認し辛かったが、赤く濁っていた緑色の瞳が綺麗になっていたのを夢人は見た。

 

 夢人自身も斬った感触が感じられずに戸惑ったが、刀身に血が付いていないことからレイヴィスが無事だと信じて呼びかけたのだ。

 

 ……だが、同時に何かを斬ったような妙な感覚を覚えていた。

 

 それが何かはわからないが、レイヴィスを苦しめていた何かであると夢人は向けられた笑みから察することができたのである。

 

(ブレイブソードであんなことはできないし……後でマジェコンヌさんに相談するしかないな……んっ?)

 

 自分のまだ教わっていない『再誕』の力の一部なのかと夢人は考え、詳しく知っているであろうマジェコンヌへと尋ねることを決めた。

 

 その時、扉がノックされる音が聞こえ始めた。

 

 誰かが自分を呼んでいるのだと思い、夢人は警戒することなくその扉を開けた。

 

 ……そして、目の前に飛び込んできた人物の姿に目を見開いて驚いてしまう。

 

「お久しぶりですね、御波さん……いえ、父様」

 

「フィー、ナ」

 

 にこやかに笑う黒ロリファッションの少女、フィーナがいたのだ。

 

 犯罪組織を支配しているはずのフィーナが教会に乗り込んできていることに、夢人は驚き固まってしまった。

 

「すいませんが、手短に用事を済まさせてもらいますわ」

 

「何を……」

 

『パパ、危ない!?』

 

「……えっ?」

 

 頭の中でアカリの悲痛な叫びが聞こえた時には、すでに全てが終わっていた。

 

 ……夢人の胸にゲハバーンの闇色に近い紫色の刃が突き刺さっていたのだ。

 

 フィーナはそれを見て、嬉しそうにはにかみながら口を開く。

 

「うふふ、今日はお迎えにあがりましたわ」

 

「あっ……」

 

「さあ、一緒に行きましょう……私と、ね」

 

 ゲハバーンに貫かれた夢人は霞む意識の中、最後に雷の光に照らされたフィーナの顔を見た。

 

 その顔は、目を細めて大きな三日月の形に口を広げた笑みを浮かべていた。

 

 そして、遠くで雷の音が聞こえたのを最後に、夢人の意識は完全に失われてしまった。




という訳で、今回は以上!
ようやくこの章も無事本編を終えることができました。
いやあ、分割しようかと思いましたけど、これ以上一章の話数を増やすわけにもいかないし、いい区切りも見つからなかったので、ちょっと駆け足気味かもしれません。
後はネプテューヌ視点のこの章の裏話と後日譚を少々、それが終わればついにmk2編の最終章です!
それでは、 次回 「きりひらけ! 女神通信(ネプテューヌ編)」 をお楽しみに!

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