超次元ゲイムネプテューヌ 夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
昨日はラブライブだけを見るつもりだったのに、気がつけば時計の針が2週ぐらいしていました。
これが妖怪時間ドロボー娘の悪戯なのか!?
……はい、昨日はただ単にアニメの新番組観てました。
それでは、 力を引き出せ はじまります
コロシアムのような会場の中心に設置されている石の舞台、その上に今3人の人物の姿がある。
1人は、今回の催しである『勇者への道』の司会進行役を務める5pb.。
彼女は目の前で相対している2人の人物を見て、思わず頬が引きつってしまった。
司会進行役として公平な立場にいなければいけない彼女だが、心の内では勝ってもらいたい方は決まっている。
……だが、その人物が顔を青くして、震えながら相手を見上げている気持ちも5pb.にもよくわかってしまう。
(夢人くん、本当に勝てるのかな?)
最初の対戦相手、『覇王』の異名を持つリーンボックスのSランク冒険者、ケン・オーが腕組みをして冷たく夢人を見下ろしている。
その場に立っているだけで、自分にもものすごい威圧感を与えてくるケン・オーの存在感に、5pb.は夢人の勝利する確率が限りなく0に近いと直感できた。
「返事もできぬのか?」
「ひっ、何でしょうか!?」
「うぬが噂の変態かと尋ねたのだ。答えてみせい」
「ち、ちちちちち違います!?」
ケン・オーの登場で完全に委縮してしまっていた夢人は怯えながら直立の姿勢になって慌てて尋ね返してしまった。
そんな態度が癪に障ったのか、ケン・オーは元から鋭かった目でぎろりと夢人を睨みだした。
その凄味を増した迫力に、夢人はもはや戦う前から負けている気分に陥ってしまう。
2人が並んで立っている姿は、まさに大人と子供。
会場の誰もがケン・オーの勝利を疑っていなかった。
「そ、それでは、競技の説明に移らせていただきます!? ……こほん、今回、すべての競技は各国の女神様達が考えてくれました。勇者は女神様達と並び立つ存在。つまり、これは言わば女神様達からの試練なのです。それを公平を期して今から抽選で決めたいと思います」
(そ、そうだ!? まだ直接戦うと決まったわけじゃない!? ……頼む。何でもいいから、直接対決以外の競技になってくれ!?)
夢人と同様に、ケン・オーの威圧で硬直していた5pb.であったが、今の自分の立場を思い出し慌てて口を開いた。
説明していくうちに冷静になったようで、5pb.は意味ありげに夢人に視線を送りながら頷いた。
その合図を受け、夢人はケン・オーとの勝負に光を見出した。
『勇者への道』で行われる競技は、ネプテューヌ達女神達が考えてくれたものである。
イストワ―ルも言っていたように、戦うことだけが勇者のすべてではない以上、競技次第では夢人にも勝ち目があるのだ。
「それでは、アシスタントのフェル君、競技内容を決めるボックスを持ってきて」
「はーい」
5pb.に呼ばれると、舞台に繋がる入口から四角い箱を持ったフェルが舞台へと近づいてきた。
「このボックスの中には、女神様達が今日のために考えてくれた競技の内容を書いた紙が入っています。それを今から、ボクが引いて競技を決めたいと思います……では」
5pb.はフェルが持ってきたボックスについて簡単に説明すると、そのボックスに開けられている穴に自分の手を突っ込んだ。
その顔は緊張しているのか、どことなく硬い表情をしている。
(夢人くんが勝てるかどうかはボクの引きにかかってる……お願い! どうか2人が直接戦うような競技は出ないで!)
祈るように固く目を閉じた5pb.は、やがて1枚の紙をボックスから引き抜き、会場に集まった観客達にも見えるように頭上高く掴み上げた。
「最初の競技は……っ、“お絵描き”です!!」
『……はあああああああああ!?』
恐る恐る目を開けた5pb.は紙に書いてあった文字を見ると、顔を綻ばせながら声高らかに最初の競技を読み上げた。
その予想外の競技内容に、観客達だけでなく夢人も目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「では、この競技について女神様自身からご説明していただきましょう。中継のファルコムさん! よろしくお願いします!」
* * *
「はーい! こちら女神様達専用の観覧席から、あたしファルコムが中継します」
あたしはアイエフが持っているカメラに向かって、柔和な笑みを浮かべて、舞台の方にいる5pb.の声に応対した。
アイエフが撮っている映像は、そのまま会場の方に設置されているモニターに映し出されている。
……本当は、ケイブのように会場周辺の警備に回りたかったんだけど、人手が足りないからこんな柄でもないことを頼まれてしまった。
上手く笑えているかな?
……あたしも女の子だからカメラ映りとかは結構気になるんだよね。
でも、お仕事はきっちりとしないといけないよね。
「それでは最初の競技、“お絵描き”を提案したルウィーの女神候補生、ロム様にお話を伺いたいと思います。では、ロム様よろしくお願いします」
「は、はい(てれてれ)」
あたしは持っていたマイクをロムの口元に近づけた。
ロムはカメラに向かって話すことが恥ずかしいようで、頬をほんのりと赤く染めている。
あたしも普段はもっと砕けた口調で話すのだけど、今はいろいろな人達がこの中継を見ているので、敬語でしっかりと尋ねた。
あまりにも馴れ馴れしすぎると、『勇者への道』がやらせの八百長だと思われてしまう。
何故なら、進行役であるあたしや5pb.が女神様達と仲良くし過ぎると、女神推薦枠で挑戦している夢人君にも疑いの目が集まってしまう。
企画の主催と女神様達が共同でいるとわかってしまえば、国民達の間で暴動が起きてしまう可能性がある。
だから、あたし達と女神様達は関係ありませんよとアピールすることが、結果的に夢人君のためになると言うわけ。
「えっと、勇者は一緒にいて安心する人がいいと思ったから」
「それが“お絵描き”の理由ですか?」
「うん、絵を見れば、その人のことがよくわかるから、“お絵描き”に決めました(ぴしっ)」
あらかじめ考えていたのだろう言葉を言えたロムは満足そうに口元を緩めてカメラに向かって指をさした。
……うん、これはもう反対意見は出ないね。
この言葉と仕草を考えたのがラムなのか、それともブランなのかが気になるけど、この映像を見た観客達は誰も“お絵描き”に文句をつけることはないだろう。
でも、ロムって夢人とお絵描きをしたいって言う願望があるんだね。
それに、一緒にいて安心するか……これは夢人君にも負けられない理由が増えたね。
相手のケン・オーって人のことを考えると、かなりの好条件で対戦できるし、後は夢人君次第だ。
……あれ? でも、夢人君って絵心あるのかな?
『ありがとうございます。では、モデルの方なのですが、ケン・オーさんがリーンボックスのギルドからの選抜だと言うことで、ここはベール様にお願いしたいと思います。よろしいでしょうか?』
「ええ、構いませんわ。すぐにそちらに向かいますわね」
『お2人もよろしいでしょうか?』
『問題ない』
『だ、大丈夫さ』
この観覧席からでも、堂々とするケン・オーと震えている夢人君が窓からだけでなく、部屋にあるモニターからよく見える。
緊張と言うより、自信がないように見える夢人君だけど、まさか本当に絵が下手なのかも……
* * *
(直接ケン・オー様とは戦わずにすんだけど……俺、絵にも自信がない!?)
夢人は目の前で椅子に座っているベールを観察しながら、ペンを握っている手が汗ばんできているのを感じた。
自分がケン・オーに敬称をつけていることすら考えている余裕がない程、夢人は追い詰められていた。
モデルになっているベールは椅子に座ったまま動かず、隣でケン・オーが自分と同じように絵を描いている音しか聞こえない。
しかし、その音はペンが動く音ではなく……
「ぬんっ」
(何でこの御方は筆で描いていらっしゃるんですか!?)
隣で夢人と同じようにベールのことを描いているケン・オーが手に持っているのは筆であった。
元々表情筋が固いのか、ケン・オーは舞台に上がって来てから、ずっと表情を崩しておらず、仏頂面であった。
しかし、その顔が今はどことなく嬉しそうに口の端がわずかに上がっているのを、夢人は目撃してしまった。
それが自信なのか、それとも純粋に絵を描ける喜びによるものなのかがわからず、夢人はケン・オーが余計に怖くなってしまった。
(あなたはお絵描きで喜ぶような人じゃないでしょ!? それとも何か!? ベールが近くにいて嬉しいって思っているのか!?)
夢人はケン・オーが見た目に似合わずシャイな一面を持つのかもしれないと考えてしまった。
『勇者への道』に出場している以上、ケン・オーが女神を信仰しているのは当然であり、リーンボックスギルドの推薦枠と言うことはベールに会えて嬉しいと思うのも仕方ないと思う。
それでも、その見た目でにやりと笑う横顔は、むっつりと言うよりもあくどい笑みを浮かべているように見えてしまう。
(くっ、やっぱり使うしかないのかよ……)
夢人は悔しそうに顔を歪めながら、この催しが開催される前までに行ったマジェコンヌの指導を思い出していた。
* * *
「さて、先ほどは途中になってしまったが、これから貴様にしてもらうことを説明する」
まさかのブレイブソード禁止令が出た後、俺とネプテューヌ、マジェコンヌさんはネプギア達と別れて元いた部屋へと戻っていた。
俺は再び冷たい床の上で座禅を組み直して、目の前に浮かんでいるマジェコンヌさんの説明を待った。
「情報を統括する『再誕』の力の中で、最も基礎的な能力である、情報を“再現”することを自力で行えるようになってもらう」
「“再現”? それって、『再誕』って意味とあんまり変わらないような気がするんだけど……」
「言葉尻なら確かにそうだが、厳密には異なる。“再現”とは、情報をそのまま具現化することだ」
俺の疑問に、マジェコンヌさんは頷きながら答えてくれた。
でも、情報の具現化って、何だかすごく難しいような気がする。
「それって、結構難しくない? 情報の具現化とか意味がわからないし、普通もっと簡単なことから始めるんじゃないの?」
「いいや。『再誕』の力をコントロールする上で、情報の“再現”は避けては通れない道だ。それに、勇者はすでに何度も“再現”を経験している」
「え? そうなの、ゆっくん?」
「お、俺だって知らないよ」
マジェコンヌさんが言うような“再現”の経験があるかどうかをネプテューヌが聞いてくるのだが、俺にも心当たりはない。
だいたい、自分の意思で『再誕』の力を引き出したことなんて1度もないんだぞ?
その俺が“再現”の経験があるなんて……
「何を言っているんだ? 貴様はB.H.C.と言う薬を使って何度も“再現”を経験しているじゃないか」
「どうしてそれを!? ……ってか、アレが“再現”!?」
しれっと呆れたようにマジェコンヌさんがつぶやいた内容も気になるけど、俺の黒歴史が“再現”の結果なのか!?
「情報を“再現”すると言うことは、頭の中に入っている情報を具現化することだ。つまり、貴様はB.H.C.と言う薬を使うことで、黒歴史と言う情報を自分の体で“再現”していたと言うわけだ」
な、なるほど。
そうなると、B.H.C.によって呼び起された黒歴史と言う名の情報を、『再誕』の力によって“再現”した結果が黒歴史モードと言うわけだ。
ただ単に、『再誕』の力が強力だったから、黒歴史モードが強かったわけじゃないんだな。
「これから貴様には、薬に頼ることなく情報を“再現”することを覚えてもらう」
「わかり……ん?」
マジェコンヌさんの言葉に応えようとしたのだが、俺は何かが引っ掛かる気がして首を傾げてしまった。
B.H.C.に頼ることなく情報を“再現”すると言う修行内容は問題ない。
でも、それなら何を“再現”すればいいんだ?
「ねえねえ、それってゆっくんにB.H.C.を使わないで黒歴史を発動させろってことだよね?」
「何を言って……」
「その通りだ。勇者にはこれから何度も黒歴史を“再現”してもらう」
「って、嘘!?」
俺はネプテューヌが口にした内容を認めたくなかったが、無情にもマジェコンヌさんはそれを肯定してしまった。
黒歴史を“再現”することが修行内容!?
しかも、何度もだって!?
「ちょっと待ってください!? 何で黒歴史じゃないといけないんですか!?」
「だから言っているだろ? “再現”するためには、その情報が頭の中にインプットされていなければいけないんだ。他で代用できるわけがないだろう」
「で、でも……そうだ! ブレイブソード!」
俺は黒歴史を繰り返すのが嫌なので、何かないかと考えていたが、ちょうどいいものを見つけることができた。
ブレイブソード……元々は錆びた剣だが、俺が『再誕』の力を使うことで姿を変えることができた剣だ。
あれも情報を“再現”すると言うことになるんじゃないのか?
「ブレイブソードでは駄目なんですか!?」
「確かに、貴様は錆びた剣にブレイブソードを“再現”していたな」
「だったら……」
「だが、駄目だ。貴様には黒歴史を“再現”してもらう」
一瞬、希望が見えた気がしたけど、それは幻想だったようだ。
マジェコンヌさんはすぐに俺の提案を否定してきた。
「えー、意地悪しないでブレイブソードでもいいんじゃないの? どっちも“再現”になるんでしょ?」
「私は意地悪をしているわけではない。ブレイブソードでは駄目な理由があるのだ」
ブレイブソードが駄目な理由?
それって、さっき聞いたブレイブソード禁止令と関係しているのだろうか?
「何度も言うが、“再現”するためには“再現”するために必要な情報量が必要だ。だが、勇者にはブレイブソードを“再現”するための情報が不足しているのだ」
「でも、実際にゆっくんはブレイブソードを“再現”できたよね? それでも不足しているの?」
「本当に“再現”するために必要な情報量があるのなら、あの錆びた剣は2度と元に戻ることなくブレイブソードの姿を維持しているだろう。しかし、実際には錆びた剣に戻ってしまっている。その理由がわかるか?」
「え? 情報が不足していて、完全に“再現”できていないからじゃないの?」
「それもあるが、1番の問題点はイメージで情報を補完していることだ」
そこまで話すと、マジェコンヌさんはネプテューヌの質問に答えるために向けていた視線を俺に戻した。
そして、真っ直ぐに俺の瞳を見つめて尋ね出した。
「貴様はブレイブソードを使った時、完全にその姿を思い浮かべていたか?」
「い、いや、何となく、こうかなってぐらいで使ってます」
俺は今までのマジェコンヌさんの言葉を否定することができないので、視線をやや下に落として答えた。
実際に、俺はブレイブソードについて何も知らない。
何でできているのか、どの程度の斬れ味があるのか、どれぐらいの重さがあるのかすらわからない。
“再現”する時は、ブレイブソードを使うブレイブの姿を強く思い浮かべているだけなんだ。
それをイメージで補完していると言うのなら、その通りなんだろう。
「情報が不足している部分をイメージで補完することは悪いことではない。しかし、それは“再現”する姿を歪ませる原因になってしまう」
俺は気になる発言を聞いたことで視線を上げると、マジェコンヌさんは顔を引き締めて言葉を続けた。
「貴様たちも知っているだろう? このゲイムギョウ界にいた『転生者』と言う3つの『歪み』のことを。元々完成された世界に発生したバグによって、今も尚ゲイムギョウ界は崩壊の危機にある……勇者が使うブレイブソードにも同じことが言える。ブレイブソードと言う完成された1本の剣を“再現”する上で、勇者のイメージと言う不純物が生じてしまう。それがどう言う意味を持つのかは、言わなくてもわかるな?」
「……俺のイメージで、ブレイブソードの情報にバグが発生するってことですよね」
「そうだ。だからこそ、貴様はブレイブソードを完璧に“再現”することができず、その状態を維持することができない」
俺が“再現”で作るブレイブソードは、今のゲイムギョウ界の状況を縮図した物なんだ。
俺のイメージと言うバグが、ブレイブソードと言う情報を壊してしまう。
マジェコンヌさんが言いたいことは、多分そう言うことだと思う。
「ブレイブソードが消えた時、貴様は激しい頭痛に見舞われただろう? あれはブレイブソードに“再現”された情報が貴様の頭に逆流した結果だ。イメージで補完されたあやふやな情報の塊が膨れ上がり、形を保てなくなって雪崩のように押し寄せたようなものだ」
「……じゃあ、俺は2度とブレイブソードを使うことができないってことですか?」
「そうは言わない。使おうと思えば、今からでも使えるはずだ……しかし、その度に情報はイメージによって崩壊していき、“再現”する時間も短くなるだろう」
俺がブレイブソードを使えば使う程、その情報は劣化していくと言うことか。
例えば、俺がブレイブソードはもっとすごい斬れ味を秘めているとイメージしてしまえば、本来の斬れ味の情報は失われてしまう。
情報が失われた分だけ、ブレイブソードは不完全な形になり、“再現”することが難しくなってしまう。
やがて、全ての情報が失われてしまった時、俺はブレイブソードを“再現”することができなくなってしまうだろう。
だからこそ、マジェコンヌさんは俺にブレイブソードを使うことを禁止させたんだ。
これ以上、俺の頭の中に残っているブレイブソードの情報を劣化させないように。
しかし、それならば情報を再び手に入れれば解決するのではないかと思ったのだが、実際には無理だ。
本物のブレイブソードは、ミッドカンパニーでブレイブと一緒に消えてしまった。
2度と手に入らないブレイブソードの情報、これから俺が戦って行く上で大切にしていかなくちゃいけないものだからこそ、マジェコンヌさんは黒歴史の方を“再現”させようとしているのか。
「どうしてブレイブソードを禁止したのかは理解できたようだな。ならば、早速修業を始めるぞ……強く思い浮かべろ。貴様の中に眠る黒歴史を」
「……俺の黒歴史」
俺はマジェコンヌさんに言われた通り、目を閉じて強く黒歴史のことを思い浮かべた。
B.H.C.を使った時の感覚を思い出しながら、集中し始めたんだ。
「貴様が考えることは1つだけ……ただ自分が黒歴史を発動している姿を強く思い浮かべるんだ」
「……俺の……黒歴史を発動している姿……」
進んで思い出そうとは思わない記憶だけど、俺は強く思い浮かべる。
初めてB.H.C.を使ったブロックダンジョンでのこと、ルウィーの教会でのこと、アンダーインヴァースでのこと、ルウィーの街中でのこと、ミッドカンパニーでのことを……
そのどれもが違う姿をしている俺の黒歴史達の中から1つを選び出し、強く思い浮かべる。
……心がする減っていくような気がするけど、これも『再誕』の力をコントロールするために必要なことなんだ。
必ずものにしてみせる!!
* * *
(できれば使いたくなかったけど、背に腹は代えられないっ!)
できれば大観衆の前で黒歴史を披露することは避けたかった夢人であったが、このままではケン・オーに負けてしまうと判断したため、瞳を閉じて集中し始めた。
(“お絵描き”……つまり、芸術に秀でている黒歴史を発動しなければ……ぎりぎりミッドカンパニーの奴が当てはまるな)
夢人は該当する黒歴史、ミッドカンパニーで発動させたアーティストタイプの黒歴史を発動した姿を強く思い浮かべ始めた。
その時はエアギターをしていたが、他に頼れそうな黒歴史がない夢人は芸術方面に優れている黒歴史だと期待するしかないのだ。
(よし、あともう少し……)
「うむっ、おっぱいの形に納得が……」
(そう、おっぱい……ん? おっぱい?)
隣でうめくようにつぶやいたケン・オーの声が夢人の耳に入ると、頭の中で思い浮かべていた姿が変化していった。
夢人にとって不幸だったのは、ケン・オーの圧倒的なまでの存在感であっただろう。
独り言のようにつぶやかれた言葉すら、夢人にはしっかり聞こえてしまったのだ。
(あ、やば……)
まずいと思った時には、すでに夢人の意識は遠のいていった。
そして、頭の中で鎖がちぎれるような音が聞こえると同時に、夢人は完全に意識を手放してしまった。
* * *
不気味な光源が照らす通路を歩いている1人の少女がいた。
眉をひそめていぶかしりながら歩いている少女だったが、通路の先にある広い空間の前まで辿り着くと、さらにその顔を歪めて足を止めた。
「……なんなの、ここは」
少女、フィーナは明らかに不快そうに顔を歪めて見える範囲で部屋全体を見渡した。
その空間にも通路と同じような光源が灯っており、暗すぎず、しかし明るすぎない程度の光で照らされていた。
部屋の中央には台座があり、突起物のように何かが刺さっているのがわかると、フィーナは顔をしかめたまま部屋に足を踏み入れた。
『ようやく来たか』
「っ、誰!?」
自分が部屋に入った瞬間、誰もいないはずだった空間に声が響いたことに驚きながら、フィーナは辺りを警戒しだした。
『おいおい、そんな警戒するなよ。俺はお前には何もできねえよ』
「……だったら、今すぐ姿を現しなさい。さもないと……」
『待った待った待った!? ああもう!? 最近の若いのはすぐに暴力に走るんだから!? すぐに出るから待ってちょ!?』
フィーナの今にも力づくで引っ張りだすと言わんばかりの剣呑な雰囲気に触発され、声の主は慌てて姿を現した。
その姿は、かつてレイヴィスがここに来た時に現れた人物とまったく同じ、人型のシルエットだけの存在であるシンと名乗った初代勇者であった。
「あなたはいったい……」
『ようこそ、デルフィナス……いや、フィーナ』
「っ、何で私の名前を!?」
正体のわからない半透明なシンを睨んでいたフィーナであったが、聞こえてきた自分の名前に目を見開き驚いて固まってしまった。
(コイツも、犯罪神やエヴァと同じ……いや、それよりも……)
『自己紹介しとくぜ。俺の名前はシン。初代勇者であり、ここであるものを守っていた番人だ』
驚愕のあまり固まってしまっているフィーナをよそに、シンは明るく口を開いた。
顔が見えないためわからないが、声は弾んでおり、どことなく嬉しそうな響きをしていた。
『お前がここに来た目的は知ってる……取りに来たんだろ、ゲハバーンを』
「ゲハ、バーン?」
『なんだ? アイツから聞いてないのか? ……まあ、そんなことはどうでもいいか』
いまだ動くことすらままならないフィーナの様子に、シンは苦笑したように自分の疑問を放棄した。
自分の疑問よりも大事なことが、シンにはある。
顔が見えていれば、きっと柔らかくほほ笑んでいるだろうと思われるようなトーンの声で、シンは優しくフィーナにささやきだした。
『受け取れ。あの『再誕』の魔剣ゲハバーンを……あれこそ、ゲイムギョウ界を救う『再誕』の女神のための剣。お前の剣だ、フィーナ』
呆然と立ち尽くすフィーナに見えるよう、シンは体をずらして中央の台座を指さした。
すると、台座に突き刺さるように固まっていた剣の柄が光ったように反応しだした。
……まるで、自らの担い手がやってきたことを喜ぶかのように。
という訳で、今回はここまで!
皆さんは今期のアニメで何に期待してますか?
私はラブライブと劣等性、まんアシは必ず観ようと思ってます。
今回は説明があったりしましたのであまり進んでいませんが、次回はもっと進む予定です。
それでは、 次回 「突撃の黒歴史」 をお楽しみに!